ISU ~Infinite Stratos Unite~   作:北斗七星

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色眼鏡をぶっ壊す

全身装甲(フルスキン)ですか。珍しいですね、十星くんの専用機は」

 

 リアルタイムモニターに映った一途の姿に真耶は率直な感想を零していた。第二世代型のISが最も配備されている今のご時勢、一途のように全身に装甲を纏うタイプのISは非常に珍しかった。そもそも、ISには操縦者を守るシールドエネルギーや絶対防御などの機能が備えられている。わざわざ、全身を装甲で守る必要などないのだ。

 

 

「あれがエックス、か」

 

 ISとなったエックスを見て箒は頼りなさそうという印象を覚える。大半のISは鎧や甲冑といった印象を見る者に与えるものだ。現にセシリアのIS、ブルー・ティアーズは王国騎士のような気高さを箒に感じさせていた。対してエックスの外観は非常に人間のものに近い。全体的にシュッとした見た目、人の双眸を模したセンサーアイがその印象を際立たせている。

 

「……」

 

「か、格好いい……」

 

 無言の千冬。その隣に立つ一夏は少年のように目を輝かせ、エックスを装備した一途に羨望の眼差しを向けていた。血が繋がっているにも拘らず、対極的な反応を見せる姉弟だった。

 

『中々、よろしいのではなくて? サーカスの見世物としては上等ですわ』

 

 モニターの中、セシリアは小馬鹿にしたような笑みを一途へと向けていた。セシリアの挑発に答えず、一途は大腿部と背部、それぞれ二基のスラスターを噴かしてゆっくりと浮かび上がる。スラスターの噴出口から溢れる青い粒子が言葉に出来ぬ美しさを演出していた。

 

「綺麗……織斑先生、あれは何なんですか?」

 

「ザナディウム粒子。エックスの攻撃手段であり防御手段、そして移動手段だ」

 

 エックスのスペックや一途の戦闘データは千冬などのごく一部の教師にしか明かされていない。なので、真耶は一夏と箒同様、一途とエックスについてほとんど何も知らなかった。この場で知っているのは千冬ただ一人だけだ。

 

「遠距離武器として撃つもよし。圧縮し、剣に見立てたり打撃の威力を高めるもよし。盾にすることは勿論、高速機動にも使える……出鱈目としか言い様がないな」

 

 その原理は開発者である束や一途はおろか、エックス本人も分かっていない。束曰く、一途とエックスがユナイトするからこそ使えるのかもしれないとのこと。

 

『束さんの手で束さんに分からないものを作っちゃうなんて、新手の哲学か何かなのかな? あぁ、周囲に悪影響を与えることはないからそこは安心していいよ』

 

 ザナディウム粒子の安全性に関しては束が全力全開で調べたので、それは完全に保証できた。今のところ、ザナディウム粒子について分かっていることは二つ。余程の奇跡が起こらない限り再現は不可能だということ。ザナディウム粒子を持つエックスを使えるのはこの世で一途だけなので、一途意外には使えないということ。

 

「つまり、エックスって本当の意味でイチズの専用機なんだな」

 

「そういうことになるな。完全に一個人しか使えない兵器など、欠陥もいいところだが」

 

 一応、採取されたデータはIS委員会を通して信用できる研究機関に送られるそうだが、果たして『天災』が匙を投げたものを解明することが出来るのかどうか。

 

「む、始まるようだな」

 

 

 

 

 

「最後のチャンスをあげますわ」

 

 ビシッ、と十メートルほどの距離を空けて自分と同じ高度に浮かぶ一途にセシリアは人差し指を突きつける。余裕を見せつけているのか、左手に携えている大型のレーザーライフル『スターライトmkⅢ』は銃口を下に向けたままだ。

 

「チャンス?」

 

「えぇ。このまま戦えば、貴方がわたくしになす術もなく負けるのは自明の理。惨めな敗北を皆さんに見せたくないというなら、先日の不敬を謝りなさい。そうすれば、許してあげないこともなくってよ」

 

 相変わらずの上から目線。小さく笑みを浮かべるセシリアに一途はセンサーアイ越しに見詰めていた。

 

「……で、お返事は?」

 

 いくら待っても返事をしない一途にイライラしながらセシリアは返答を促す。そこで漸く一途は口を開いた。

 

「そういや、まだ具体的なハンデが決まってなかったな、オルコット」

 

 まさか、今ここでハンデの話を蒸し返されるとは思ってなかったようで、セシリアははぁ? と目尻を釣り上げる。怪訝な顔をするセシリアに見せつけるように一途は左手を持ち上げた。

 

「俺はこの試合、左手を一切使わない。攻撃にも防御にもな。いいだろ、エックス?」

 

『あぁ、私は構わない』

 

 相棒の答えを受け、一途は何時でも始めろと言わんばかりに小さな前傾姿勢をとる。謝るどころか、ハンデまで出してきた一途に堪忍袋の緒が切れたセシリアは口角を引き攣らせながらライフルのセーフティを解除した。

 

「このセシリア・オルコットの温情をその様に踏み躙るのですか……もう、泣いて謝っても絶対に許しませんわ!!」

 

 耳をつんざく独特な砲音。左腕目がけて放たれた閃光を一途は半身になってかわし、右手から蒼い光弾を撃ち出して応じる。自分の射撃を避けた上に反撃までしてくることを予想していなかったセシリアはもろに光弾を左腕に受けた。装甲と一緒にシールドエネルギーが削り取られる。

 

「くっ、ブルー・ティアーズ!」

 

 セシリアの声に応じ、背後に控えていた四枚のフィン・アーマーが飛び出す。さながら主の命令を受けた猟犬のようだ。

 

『イチズ、分かっているな?』

 

「勿論」

 

 スターライトmkⅢの砲撃に合わせ、レーザーを放ってくる四基のフィン・アーマー、もといビットから注意を逸らさずに一途は迫る幾つもの閃光を回避していった。これぞブルー・ティアーズの特殊兵装『ブルー・ティアーズ』である。特殊(BT)レーザーの銃口を取り付けられた自立機動兵器だ。

 

『しかし、武装に機体と同じ名前を付けてややこしくないのか?』

 

「製作者に言えよっと!」

 

 急上昇し、多角的な機動で追いかけてくるビットから逃れる。かなりの速さで動いてるにも拘らず、ビットは追い立てるように一途に向けてレーザーを撃つ。回避した先への予測射撃、死角からの一撃など、見事な動きを見せていた。高速で動く四基ものビットをこれだけ的確に操れる技量を持ったセシリアは流石代表候補生と言えた。

 

 同時にビットの攻撃を悉く避け、防ぐ一途の技量もまた凄まじいものがあった。

 

「ふふ、無様に逃げ回る姿、中々お似合いですわよ!」

 

 最初の銃撃で負けこそしたが、逃げに徹する一途の姿にセシリアは調子を取り戻す。セシリアが右腕を一振りすると、全ビットがそれぞれ別方向から同時に攻撃してきた。

 

「『ソードX!』」

 

 しかし、どこを狙っているかは丸分かりだったため、一途は右手首から現れた光剣でレーザーをあっさりと切り払う。レーザーが霧散していく中、二人はセシリアのある弱点に気付いた。

 

「エックス」

 

『分かっている、突っ込むぞ!』

 

 今までスラスターから放たれる粒子で蒼いオーロラを描くかのように飛んでいた一途が突然、セシリアに向けて一直線に突っ込んでいく。

 

「なっ!?」

 

「はぁっ!!」

 

 今まで『線』の動きをしていた一途の機動がいきなり『点』の動きになり、反応が遅れたセシリアはどうにかライフルを盾にして振り下ろされる光剣を防いだ。一途の攻撃は止まらず、返す光剣でライフルを弾き上げる。同時にエックスの左脚装甲が蒼く輝き始めた。

 

『せぁっ!!』

 

 無防備になったセシリアの腹部に中段蹴りを叩き込む。更にインパクトの瞬間にザナディウム粒子を炸裂させ、セシリアを大きく吹き飛ばした。

 

「きゃぁ!!」

 

 体勢を崩すセシリアに追撃の光弾。続けざまの直撃にブルー・ティアーズのシールドエネルギーは大きく削られた。

 

「くっ、調子に乗って!」

 

 更なる追撃をかけようとする一途にビットの砲撃が襲い掛かる。咄嗟に後ろへと下がり、網目のようなレーザーを潜り抜けた。

 

「こ、幸運な方ですね。最初の一撃だけでなく、二回も奇跡が続くなんて」

 

 腹部に走った衝撃と痛みに顔を歪めながらも、セシリアは余裕を見せるような笑顔を浮かべる。だが、その顔は誰が見ても分かるほど驚愕と苛立ちで引き攣っていた。

 

「今ので勝負を決められなかったのがあなたの敗因。このようなマグレ、もう二度と起こりませんわ!」

 

『いや、起こるさ。君にその弱点がある限り』

 

 間髪入れずに告げられるエックスの言葉はセシリアの表情を完全に凍り付かせた。

 

『セシリア・オルコット、君のブルー・ティアーズの操作技術は見事の一言に尽きる。四つもの自立機動兵器をあれだけ自在に操るには相応の集中力が必要だ』

 

 ブルー・ティアーズを動かす凄まじいまでの集中力。それこそが彼女の武器であり、そして弱点だった。

 

『君は操作に集中する余り、ブルー・ティアーズの操作中はそれ以外の攻撃が出来ない。防御や回避などに移る時も若干のラグが生じる』

 

 セシリアの不幸はその弱点を突ける相手が国家代表など、極一部を除いていなかったことだ。彼女が戦ってきた相手の中で、彼女の弱点を攻めるだけの技量を持った者がいなかった。だから、彼女はその弱点の克服を後回しにしてしまった。そして今、彼女が相手にしている男はその弱点に付け込むだけの実力を有している。

 

「認めない……」

 

 ライフルを握る手を震わせ、セシリアは絞り出すように呟いた。

 

「わたくしに弱点があるなど、まして男なんかに負けるなんて絶対に認めませんわ!」

 

 自分に言い聞かせるように叫び、セシリアはスターライトmkⅢの銃口を一途に向ける。その銃口が微かに震えているのをエックスのハイパーセンサーと一途は見逃さなかった。

 

 

 

 

 試合開始から十分が経過した今、試合内容は酷く一方的なものになっていた。ビット操作中の弱点を的確に突かれ、満身創痍となったセシリア。ブルー・ティアーズのシールドエネルギーは既に三桁を切っている。一方の一途は一発の被弾も無い上に左手を使わないというハンデを今だに貫いてた。

 

「何で……」

 

 スターライトmkⅢから放たれる砲撃は豪雨となって一途へと降り注ぐ。その一撃一撃を一途は最小限の無駄のない、すり抜けるような動きで避けていった。

 

「何で……」

 

 四基のビットの同時攻撃も、幽霊のように動く一途を捉えることが出来ない。逆に反撃の光弾でビットの一つを撃ち落される結果になってしまった。

 

「何で、わたくしの攻撃が当たりませんの……?」

 

 掠れた、風が吹けば消えてしまいそうな囁きをエックスは聞き逃さなかった。

 

『それは君自身が君とブルー・ティアーズを貶めているからだ、セシリア・オルコット』

 

 最早、口を開くことも出来ないセシリア。動きの止まったビットに警戒しつつ、エックスは言葉を続ける。

 

『君の専用機は自立機動兵器であるブルー・ティアーズと操縦者による全方位からのオールレンジ攻撃が強みだ。君はその強みを自分自身の手で完全に潰している』

 

「そんな、こと」

 

『事実だ。現実に君は我々の左手のみに攻撃を集中していた』

 

 完全な図星だった。左手を使わないという一途のハンデ。それがどうしても許せずにセシリアは意地でも一途に左手を使わせようと、攻撃目標を左手に絞っていた。

 

『だからこそ、我々は容易に君の攻撃をしのぐことが出来た。例え死角から撃たれようとも、狙われている場所が分かっていれば対処することは容易い……君には聞こえないのか? 彼女(ブルー・ティアーズ)の声が?』

 

ー違う、そうじゃない。そうやって使うんじゃないー

 

ー何でそんな風に使うんだ? 何でちゃんと使ってくれないー

 

ーちゃんと使ってくれれば、撃ち抜けないものなんて無いのにー

 

 そんな叫びが今さらになって聞こえた気がした。

 

 じわりとセシリアの視界が滲む。彼女は自分が酷くちっぽけで情けない、滑稽な存在に思えてならなかった。自分自身の手で己の価値と誇りに泥を塗りたくる哀れな女。自分よりも格下だと思っていた『男』に手も足も出ず、一矢報いることも出来ない惨めな道化。

 

『どういう経緯でそうなったかは知らないが、君は男というものを無条件に自分よりも劣っていると思い込む節があるようだ。なら、私は断言しよう。その色眼鏡を外さない限り、君は永遠に我々と一夏に勝つことは出来ない』

 

 エックスの言葉が事実だということもあり、セシリアは反論する気すら起こらなかった。

 

 エックスの言う通り、セシリアは『男』という存在が自分よりも劣っているものだと決めつけていた。彼女を取り巻く環境がそうさせたのだ。彼女の父は母の顔色を常に窺っていた。名家に婿入りしたということを踏まえても、それはいき過ぎたものだった。対して彼女の母は女傑と呼ぶに相応しい風格と力を持っていた。

 

 そんな二人の関係を幼少から見ていたセシリアが男とは情けないものだという価値観を持つのは当然のことと言えた。その価値観は両親の死後、遺産目当てでハイエナのようにすり寄って来た男たちと出会うことで加速度的に大きくなっていく。

 

 故にセシリアは気に入らなかった。男でありながら自分の価値観内に収まらない十星一途と織斑一夏という存在が。現実を教えてやろうと決闘を申し込んだが、その結果がこれだ。

 

「……喋り過ぎだ、エックス」

 

 不意に黙っていた一途が口を開いた。

 

「俺たちは戦ってるんだ。口上での問答なんて無粋だろ」

 

『……確かに、そうだな』

 

 一途の思うところを察し、エックスは素直に引っ込んだ。代わりに一途が顔面を覆う装甲を開き、隠していた素顔を露わにする。黒い双眸が真っ直ぐにセシリアを見据えた。

 

「オルコット。お前が俺や一夏を、世の中の男をどう思ってるかなんて知ったこっちゃないし知るつもりもない」

 

 伝えることがあるとすればただ一つ。

 

「俺はお前に勝つ。だから、全力で来い」

 

 虚勢などではない。必ず勝つという絶対の意志を湛えた瞳がセシリアを射抜く。そこに媚びた劣等感はなく、まして下卑た下心など微塵も無い。それはセシリアが理想の中に描いた男性像と驚くほどに酷似していた。

 

「……」

 

 セシリアは無言で涙を拭う。ゆっくりと開かれたブルーの目に侮りや嘲りはなく、対等な相手に向ける敬意と闘志を秘めていた。

 

『もう、我々にハンデを付ける余裕はなさそうだな』

 

「だとしても、勝つのは俺たちだ」

 

 再び向けられるスターライトmkⅢの銃口が震えることはもう無かった。

 

 

 

 

『試合終了。勝者、十星一途』

 

 それから更に五分後、試合が決した。一途が振り下ろした光剣がライフルごとブルー・ティアーズのシールドエネルギーを切り裂いたのだ。数秒後、静まり返っていたギャラリーが一斉に立ち上がり、両者に拍手を送る。そこに勝者と敗者、そして男と女という区分はなく、皆が二人に惜しみない賞賛を送っていた。

 

「……出来ることなら、もっと早く貴方のような方と出会いたかったですわ」

 

 自分の手に残った、両断されたスターライトmkⅢの残骸を見ていたセシリアが小さく呟いた。一途は小さく肩を竦めて応える。

 

「そんなこと言ったって過去は変わらない。でも、俺たちは今こうやって出会ったんだ。大切なのはこれから先の未来だろ」

 

「……はい!」

 

 微かに頬を赤く染めながらセシリアは嬉しそうに頷いた。




 ザナディウム粒子。イメージはガンダムOOのGN粒子が蒼くなった感じです。

 しっかし短い。やっぱ、戦闘描写は難しいのね。
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