ISU ~Infinite Stratos Unite~   作:北斗七星

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 この小説でのアタッカーエックスはこんな感じになりました。


友として

「さてと」

 

 ピットへと戻っていったセシリアの後ろ姿を見送った一途はゆっくりと回れ右する。そこには専用機であろう白いISを纏った一夏がホバリングしていた。まだ一次移行(ファースト・シフト)を済ませてないのか、その姿はどこかちぐはぐに見えた。

 

「それがお前の専用機か?」

 

「あぁ。白式って名前だ」

 

 答える一夏の右手から光の粒子が溢れ出す。高周波音と共に光の粒子が形を成し、近接ブレードとなって一夏の右手に収まった。それ以外の武器を出そうとする素振りを見せないので、事前に仕入れた情報通り武器はそれだか無いようだ。

 

 だというのに、一夏の目には闘志が満ち満ちていた。どうやら一途とセシリアの試合に当てられたようだ。

 

初期化(フォーマット)最適化(フィッティング)が終わるまで待っていた方が良かったんじゃないか?』

 

「アリーナの使用時間は限られてるんだ。そんな悠長なこと言ってられるかよ」

 

 それに、と一夏はブレードを鋭く斜めに振り下ろす。

 

「あんな試合を見せられて待ってるなんて出来ないしな」

 

 代表候補生という強敵相手に互角どころか、それ以上の戦いをしてみせた親友。その強さはISに触れて間もない一夏が敵うものではない。だからこそ、心が滾った。こんなにも近くに目標とすべき相手がいることを一夏は純粋に喜んだ。

 

 今の自分が勝てるとは思えない。だからといって負けていいとも思っていない。今はただ、心に宿った高鳴りのままに出せる全てをぶつけよう。少しでも目の前の男に届くように、少しでも目の前の男に追いつけるように。

 

「じゃ、行くぜ」

 

「あぁ!」

 

 IS学園二人だけの男子生徒の試合は真っ向正面からのぶつかり合いから始まった。一夏の上段からの振り下ろしを一途は右ストレートで迎え撃つ。刃と拳がぶつかり合い、派手な火花が宙に舞った。

 

「らぁっ!!」

 

 強引に振り抜かれた一途の拳が一夏を吹き飛ばす。咄嗟に姿勢制御をして観客席に突っ込むのを避けるが、息つく暇もなく飛んできた光弾までは回避できなかった。

 

「ぐっ!」

 

 胸部に走る衝撃に息が詰まり、一夏は一度だけ瞬きする。瞼が持ち上がると、さっきまでは十数メートル離れたところで拳を振り切った姿勢だった一途が眼前に迫っていた。驚くことすら出来ない一夏の頭部を鷲掴みにし、一途はくるりと逆さまの姿勢になって地面に向けて急降下する。地面に激突する寸前、一途は一夏を地面へと叩き付けた。

 

 衝撃が地面を叩き割り、砂煙が柱のように立ち上がる。濛々と立ち込める砂煙で何も見ない中、金属と金属が激突したかのような打撃音が数回アリーナに響いた。

 

「がぁ……!!」

 

 弾き飛ばされたかのように砂煙から吐き出される一夏。ごろごろと地面を勢いよく転がっていくのをブレードを地面に突き立ててどうにかブレーキをかける。ブレードを支えに立ち上がり、いまだに晴れない砂煙の中から現れた一途へと視線を飛ばす。ISのシールドエネルギーで守られているエックスの装甲には汚れ一つ無かった。

 

「何だよ、さっきのあれ。まるで瞬間移動じゃないか」

 

瞬間加速(イグニッション・ブースト)ってぇ技術だ。その内、教えてやるよ」

 

「そりゃどうも!!」

 

 両肩の後ろ部分に浮いている推進翼(スラスター)の出力を上げ、限界まで加速する。飛矢の如く飛んだ一夏は加速の勢いを全てブレードに乗せ、横薙ぎに一途に叩き付けた。瞬時に左腕を上げて一夏の斬撃を防ぐが、踏ん張り切れずに一途は地面に跡を残しながら横へと滑っていく。

 

「おぉぉっ!!」

 

 攻勢を緩めてはならないと一夏は即座に追撃するが、蒼く輝く光剣にブレードを受け止められた。光剣ごと押し切ろうとするが、それよりも早く光剣が輝きを強くしながら巨大化していく。ザナディウム粒子を大量に注ぎ込まれた光剣は大幅に威力を増し、容易く一夏をブレードごと振り払った。

 

 力押しは無理だと判断し、一夏は咄嗟に上空へと逃げる。急速に小さくなっていく一夏を見上げながら一途は背部のスラスター二基で二連続の瞬間加速を発動させた。ノートに消しゴムを走らせたかのように一途の姿が消える。後に残ったのは瞬間加速の名残であるザナディウム粒子が描く円だけだ。

 

「なぁ!?」

 

 一瞬で追いつかれたことに驚く一夏を次の瞬間加速で追い越す。バブルリングのように広がるザナディウム粒子の輪を通る一夏の前に飛び出し、光を纏った拳を叩きつけた。地面へと逆戻りする一夏。姿勢制御と推進翼の全力噴射で地面すれすれで浮かび上がる。

 

「くそ……」

 

 体勢を安定させながら敵を見上げる。自分との実力差を突きつけるかのように高みから一夏を見下ろしていた。分かってはいたが、こうまで手も足も出ないと笑えてくる。口元に苦笑を浮かべる一夏。既にシールドエネルギーは半分を切っていた。

 

「だからって、諦められないよなぁ!!」

 

 

 

 

「織斑先生、これ以上の試合は無理です。すぐに終わらせましょう!」

 

 先の一途とセシリアのものよりも一方的な試合に思わず真耶は叫んでいた。白式の一次移行が終わってないことを踏まえても、一途と一夏には絶望的と言っていいほどの差があった。これでは試合ではない、ただの痛めつけだ。

 

「……」

 

「織斑先生!」

 

 何も言わずにモニターを見る千冬に焦れた様子で真耶が呼びかける。

 

「昔からあぁなんだ、あいつ等は」

 

「え?」

 

「互いが互いに驚くほどの競争心を持っていてな。一夏があることを出来るようになるとイチズは悔しがって同じことが出来るように練習していた」

 

 逆もまた然り、と千冬はどこか懐かしむように呟いた。

 

「イチズがまた別のことを出来るようになると一夏もむきになって練習していた。お互い、対等でいたいんだろうな」

 

 そんな二人が三年ぶりの再会を果たし、初めてやった競い合いがこのISの試合だ。中途半端な結果で終わらせれば必ず禍根を残す。でも、と真耶が納得できないと表情で語っていると、黙っていた箒がゆっくりと口を開いた。

 

「実力に差があることなんて最初から分かり切ってました。一方的な試合になることをを承知で一夏はイチズに挑んだんです……最後までやらせてやって下さい」

 

「だ、そうだ。ここは私と篠ノ之に免じて我慢してくれ、山田先生……そろそろイチズが決めに行くようだな」

 

 

 

 

 

『イチズ、本当にいいのか? これではただ、我々が一夏を甚振ってるだけではないか!』

 

 友人である一夏を一方的に攻撃していることをエックスが抗議してくるも、一途は一夏への攻撃の手を緩めなかった。

 

「だったら手加減してやるか? そっちの方が一夏のためにならないし、何より失礼だ」

 

『しかし!』

 

「分かってくれ、エックス。こいつは俺と一夏の友情なんだ。もし仮にあいつと俺が逆の立場になったとしても、あいつは今の俺と同じことをするさ」

 

 それに、と一旦一途は攻撃を止めた。

 

「どうした、イチズ? まさか、攻撃のし過ぎでエネルギー切れでも起こしたのか?」

 

 ボロボロになりながらも一夏は軽口を叩いて見せた。一途を真正面に見据える双眸に諦めの色は微塵も無かった。

 

「あれが諦めてる奴の目に見えるか?」

 

 最後の瞬間まで一夏は勝つことを止めないだろう。ならば、全力を以て答えることこそが親友である自分の礼儀。

 

『……分かった。納得は出来ないが、これ以上私は何も言わない』

 

 相棒がこう言っているのだから最後まで付き合うしかない。ありがとよ、と言葉短く囁く一途に一夏が迫る。振るわれるブレードを光剣で受けた。そのまま鍔迫り合いをする二人の間に眩いほどの火花が飛び散る。

 

「はぁ!!」

 

 競り勝ったのは一途だった。一夏の手からブレードを弾き飛ばし、光剣を消した右手で一撃、流れるように左の拳を一夏に叩き込む。一夏も両腕を胸の前に寄せて右と左の連撃を防御するが、抉るようなアッパーで鳩尾を穿たれる。

 

「ぐぅ、こんのぉ!!」

 

 打ち上げられながら一夏は一途を捕まえようと手を伸ばした。掴みかかってくる手を紙一重でかわし、一途は一夏の上へと飛び上がる。

 

「『しゃぁっ!!』」

 

 ザナディウム粒子で強化された蹴りが一夏を地面へと落とした。背中から地面に落ちて息を詰まらせるも、一夏は唯一の武器を取り戻そうと痛む体に鞭打って地面に突き刺さっているブレードの元へと飛んでいった。

 

「『アタッカー……』」

 

 宙に浮きながら一途は拳を胸の前で合わせる。胸部装甲のエックスコアがバチバチと音を立てながら一際強い光を放ち始めた。その光は球となって一途の胸の前に浮かび上がる。

 

「『エックス!!』」

 

 両手で受け止めた光球を腰だめに構えてから放つ。一途の手元を離れた光球は地面からブレードを引き抜く一夏へと向かっていった。

 

『警告。超高密度エネルギー反応接近』

 

 白式からのアラートに一夏は顔を上げる。既に光球は避け切れないところにまで来ていた。

 

「うおぉぉぉっっ!!!」

 

 かわすのは無理だと瞬時に判断し、一夏は渾身の力を込めてブレードを振り下ろす。光球を真っ二つに切り裂こうとするが、逆に光球にブレードの刀身が削られていった。

 

「嘘、だろ!?」

 

 その光景に愕然とする一夏。己の判断が間違っていたのかという疑念が脳裏をよぎった刹那、光球の光量が爆発的に増加する。目を開けてられないほどの光が一夏を包んだ。

 

 

 

 

「一夏!」

 

「織斑くん!」

 

 Xを描くかのように生まれた蒼い爆炎と煙が一夏を飲み込む。思わず声を上げる箒と真耶。蒼煙で見えなくなったモニターを千冬は無言で眺めていたが、やがて小さく鼻を鳴らした。

 

「機体に救われたな、馬鹿者が」

 

 

 

 

「エックス、今の」

 

『あぁ、確かに見た』

 

 地面が見えなくなるほどの蒼煙が薄れていく中、一途は一切の油断をせずに一夏がいた場所を見下ろしていた。確かに見たのだ。アタッカーエックスが炸裂するその直前、一夏が光り輝く刀で爆発を切り裂いたのを。

 

『あれが白式の本当の力か』

 

 その呟きに応えるように蒼煙の一部が弾け飛ぶ。蒼煙の中から飛び出してきた一夏を前に一途は思わず感嘆の口笛を吹いた。

 

「このタイミングでか。小説の主人公か何かか、お前?」

 

「あぁ、俺も驚いてる。まさか、あんなピンチの場面で一次移行が終わるなんてな」

 

 さっきまでとは打って変わって洗練されたフォルムになった白式に身を包んだ一夏。その手には近接ブレードとは微妙に形状が異なる刀が握られていた。武装情報がエックスを通して一途へと伝わる。

 

「雪片……あれでアタッカーエックスを切ったのか」

 

『ただの刀でないことは間違いないな』

 

 警戒する二人の前で一夏は感覚を確かめるように動いたり、雪片を軽く振ったりしていた。さっきまで蓄積していた実体ダメージは綺麗さっぱり消えている。

 

『振り出しに戻った訳か。いや、若干以上の消耗をしている我々の方が不利』

 

「いや。一夏の奴、次で決めるみたいだぞ」

 

 何? と疑問の声を上げるも、一夏を見てエックスはすぐに納得した。雪片を正眼に構えた一夏の表情がそのことを雄弁に物語っていた。

 

「勝負だ、イチズ!」

 

 一夏の言葉と共に雪片の刀身が展開し、光の刃が現れた。本来の刀身よりも一回り大きいそれを一途の本能は危険なものだと警告している。

 

『アタッカーエックスを切り裂くほどの威力だ。真っ向からの勝負は危険すぎるぞ』

 

 エックスも同様の意見を一途にしていた。分かってる、と口にしながら一途は逃げる素振りを全く見せなかった。

 

「でもよ、ここで逃げたら格好付かないだろ!!」

 

 ザナディウム粒子で両腕に盾を作る。自分の警告を無視して正面から受け止める気でいる相棒に呆れるも、エックスはザナディウム粒子の供給量を最大にまで上げた。

 

「イチズぅぅっっ!!!」

 

「一夏ぁぁっっ!!!」

 

 光り輝く白と蒼が交錯した。

 

 

 

 

「何故、避けれる攻撃を馬鹿正直に受けた?」

 

「いや、あそこで逃げちゃダメかなと思いまして」

 

 バシン!!

 

「男の意地を貫くのは大変結構だが、それなら意地でも勝て。負けては本末転倒もいいところだ」

 

 はい、と頷きながら一途は千冬にぶっ叩かれた頭を撫でる。一夏の斬撃を真っ向から受けた結果、盾諸共ぶった切られて一途は見事に敗北した。バリアー無効化攻撃という特殊能力を持った雪片を相手にしたのだからある意味、当然と言えた。

 

「しかし、拡張領域(バススロット)全部使ってるだけのことはあるな。バリアー無効化を差し引いても凄い威力だ」

 

『反面、自分のシールドエネルギーを消費するという無視できない代償がある訳だが……どちらにしろ素人に扱わせる機体、武器ではないだろう』

 

 同感、と一途が頷いていると千冬が一夏の頭に拳骨を落としていた。

 

「勝ったからと言って浮かれるな、馬鹿その一。貴様が勝てたのはあそこにいる馬鹿その二が貴様に戦い方を合わせていたからだ。もし、馬鹿その二が遠距離からの攻撃に徹していたら、相手がオルコットだったら貴様はなす術もなく負けていたぞ。そのことを自覚しろ」

 

「で、でも千冬n」

 

 ドゴン!!

 

「織斑先生だ。覚えるまで殴られたいか?」

 

「い、いえ、大丈夫です、織斑先生……」

 

 余程痛かったのか、一夏は頭を抱えながら蹲った。

 

(学習能力の無い、いや、今までただの姉だったのがいきなり教師になったんだから無理もないか)

 

 呆れ半分、同情半分の視線を一夏に向けていると、どさどさ、と音を立てて何かが一途の横に置かれた。電話帳の厚さほどのある紙束だ。表紙にはIS起動におけるルールブックという文字。

 

「十星くんは改めて言われなくても分かると思いますが、ISは今待機状態になっています。二人が呼び出せばすぐに展開することが出来ます。でも、規則があるのでちゃんと守ってくださいね」

 

 はいこれ、と真耶は同じものを一夏の前に置く。

 

「織斑先生、これって」

 

「いい機会だ。お前も覚えておけ、十星。お前が無暗にエックスを使うとは思ってないが、万が一ということもあるからな」

 

 分かりました、と言いつつ、一途は両手に持ったルールブックの重さに戦慄を禁じ得なかった。

 

「何ページあんだこれ?」

 

『少なくとも、二、三日で読み切れるものではないだろうな』

 

 ただ、深々と一途は息を吐いた。

 

 

 

 

「という訳で、一年一組のクラス代表は織斑くんに決まりました。一繋がりでいい感じですね!」

 

 翌日の朝のSHR。真耶は嬉々としてそう言った。クラスの女子たちもきゃいきゃいと盛り上がる中、一人暗い顔の一夏が手を上げる。

 

「あの、質問よろしいでしょうか、山田先生」

 

「はい、何でしょう?」

 

「何で、俺がクラス代表になってるんですか?」

 

「それはですね~、十星くんとオルコットさんがクラス代表を辞退したからです」

 

「おい、どういうことだイチズ?」

 

 凄い単純な話だ、と一途は前置いた。

 

「昨日の試合でお前だけ二勝してるんだよ。俺はお前に負けたし、セシリアは俺に負けた上に予備の武装が無かったからお前との試合も不戦敗。だから、一番勝ちの多いお前がクラス代表になったわけ」

 

「そういうことですわ!」

 

 一途の台詞に便乗するようにセシリアが立ち上がる。相変わらず腰に手を当てたポーズが様になっていた。

 

「わたくしとイチズさん、そしてエックスとで話し合った結果、クラス代表を一夏さんに譲ることにしましたの」

 

「クラス代表になりゃ、そんだけ試合とかも増えるしな。お前に一番必要なのはIS操作の経験だ」

 

 何だか面倒な役回りを押し付けられた感じがしなくもないが、とりあえず二人の説明に一夏は納得する。今はそれよりも、胸中に浮かび上がった疑問を氷解させるのが先だ。

 

「なぁ、イチズ。何で、オルコットがお前のことその名前で呼んでるんだ? それにお前も名前呼びだし」

 

「昨日、試合が終わった後、セシリアが俺の部屋に来て誠心誠意謝ってくれたからな。だから、仲直りした」

 

「そのことなのですが、一夏さん。後で、お時間いただけますでしょうか? わたくし、貴方にも謝らなければいけません」

 

「お、おう。分かった……」

 

 先日のセシリアと今のセシリア。本当に同一人物なのかと疑いたくなるほどの変わりっぷりに一夏は目を白黒させるしかなかった。




 エックスの掛け声って文章にするとどんな感じになるのかしら?

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