東方太陽録   作:仙儒

105 / 111
天才は束の間の夢を見る

私は絶望の淵に立たされていた。

異型が私達の集落を襲ったのだ。

父母がどこにいるのか解らないがもう生きてはいないだろうという事を悟っていた。

異型が隠れて居た私を見つけた。

目線が合った。

終わった。そう思った。私はここで死ぬんだ。

ゆっくりゆっくりと近づいてくる異型。

異型が近づくごとに増してゆく恐怖。

私はただ目を瞑って待つだけしかできなかった。

しかし、不思議と終わりは訪れない。

何かが倒れる音がして目を開けてみると大人の男が見たことも無い銀に輝く何かを着、立っていた。

彼は膝を地面につき、私を抱きしめてくれた。

冷たいその何かに体が当たり、冷たいと一瞬思ったが不思議と温かかった。

私は救われた事で今まで我慢していた恐怖が一気に出て来た。

大声を出して泣き叫んだ。

彼は優しく撫でながら他の私に語りかけている。

今なら解るが当時の私の集落では音の高い低いで合図ややりとりをしていたため、彼の流れるように発する言葉を私には理解できなかった。

 

「・・・・・・・・・!」

 

「・・・、・・・・・・」

 

「・・・・・・・・!・」

 

何かをしゃべっているが理解できない。

私はそのまま気を失ってしまった。

 

次に目を覚ました時に目に映ったのは見たことも無い天井だった。

着せられている物も見たことが無い。

そこにニコニコ笑いながら此方を見守る様に彼は居た。

毎晩異型の襲撃を夢見て飛び起きた時も彼が優しく抱きしめてくれた。

彼は私の辛い時に何時も側にいて優しく抱きしめてくれた。

気が付けば悪夢を見なく成って居た。

毎日彼は私に会いに来てくれた。

彼は必ず会いに来るたびに玩具やお菓子、フルーツなどを持って来てくれた。

お菓子やフルーツは彼が先に口に入れて食べて居る所を見せて食べる物だと認識した。

彼の持ってくる食べ物はどれもおいしかった。

そんな中、彼は来るたびに言葉を教えてくれた。

そして少しずつではあるが言葉を覚えて行った。

覚えた時に彼が褒めながら撫でてくれるのが嬉しかった。

だから必死で覚えた。彼が居ない間も彼の置いて行ったあいうえお帳を見て練習した。

覚えれば彼が褒めてくれる。それが嬉しくて嬉しくてたまらなかった。

そうして言葉をマスターした。

そうしたら彼は御伽噺をしてくれるようになった。

悲しいもの、嬉しいもの、色々だ。

それを聞いて色々な感情や何故? と言う疑問を持った。

それには苦笑いしながら自分自身でその答えを見つけなければならないと言った。

そんな毎日を続けて居たらいつの間にか退院に成った。

その日、彼がやって来て私に名前をくれた。「永琳」と。

私はこの名前をもらえた事に嬉しく成り、永琳、永琳と何度も自分の中で繰り返した。

自分に言い聞かせるように。

彼から貰ったこの名前が誇らしかった。

彼に手を引かれながら外を歩く。

やはり見慣れない建物ばかりだ。

やがて一軒の家についた。八意家と表札があった。

私はその家に養子として引き取られた。

最初こそ戸惑ったりしたものの、八意家の両親は本当の子供のように接してくれた。

彼も毎日ではなく成ったが来てくれた。

私は彼から色々な物を学んだ。

彼の言う事は大抵の人は理解できなかった。

私も最初は理解できなかったが理解できるように努力した。

理解できると「凄いじゃないか」と少し大袈裟に褒め、優しく撫でてくれるのが嬉しかった。

それに私だけが彼の言ってる事を理解できるという陶酔感に酔って居た。

彼は最初は薬草の調合などを教えてくれた。

それを応用した薬を作ったら褒めてくれた。しかし、彼はもう既にその薬の作り方を知って居た。

彼の家に行った時に彼の部屋の本棚で見つけた。

彼の字で調合量や効果、副作用まで細かく書かれていた。

私は全てを暗記した。

薬の他に物づくりの基礎やなんかも勉強した。

彼は変わらず凄いと褒めてくれたが彼はこれも知って居た、のだと思う。

何時しか私は周りから天才と言われるように成って居た。

周りから奇異の目で見られたが彼と家族は変わらずに接してくれたので決して孤独では無かった。

それに違う、私は彼の事を真似て居るだけだ。

彼は全てを知って居た。

知った上で何も言わなかったのだ。

何故それを誇らない? 自分で行わない?

気づけば私は色々あって面倒だが政界の実質上のトップに成った。

彼は軍部のトップだ。

彼の方が政界に入った方が良いが彼は「自分は一介の軍人にすぎない」と謙遜して政界に干渉はしなかった。

私が思い悩んだとき、彼は斬新かつ画期的なアイディアを直ぐに出してくれた。

それを実行したら見事に旨く行った。

皆は流石は天才だなっと言ったが私の考えたものでは無い。

彼の考えた物だ。

しかし、彼はそれを誇らずに私の手柄にした。

何故そこまで謙遜するのだろうか?

理解できなかった。

だから、私は何かのプロジェクトをするときは必ず彼を入れて行った。

政界の者は彼を天才のお気に入りと言って非難した。

しかし、彼の言う事は的確であり、合理的だったのでプロジェクトチームは天才二人のおかげだなと口にした。

実質、プロジェクトの殆どは彼と私の話し合いだけで決まり、回りの者はそれにあやかるだけだった。

それに彼は元々人望だけは厚かった。

武に優れ、知も兼ね備えて人望もある。

天は二つを与えずと言うが彼は全てを兼ねそろえて居た。

それを知りもしない政界は天才のお零れに付けて良いもんだと彼を罵った。

それに怒りを覚え、叫ぼうとしたら彼に肩を掴まれた。振り向くと彼は首を左右に振って居た。「私なら気にしない」そう言って私を押しとどめた。

彼らも本当は知っているのだ。彼も天才である事を。それに人望も厚い事を知って居てそれに妬んでいるだけなのだ。

しかし、解って居ても我慢ならなかった。

彼は私よりも凄い。彼こそ真の天才だ。

だから私は彼に正式に弟子入りした。

その事はマスコミによりたちまちに広がった。

それからは私は彼のプロジェクトにだけ参加した。

政界の奴らが政策に協力するように言って来ても無視した。

彼は宇宙へと目を向けて居た。

そのプロジェクトの初めは月の探索だった。

そのころ、いつの間にか摩天楼のビルが所狭しと並んでる都にいた時間の流れをゆっくりにする能力者が死んだ。

彼は人が死ぬのは穢れのせいだと口にした。

穢れとは妖怪や何かが発している気による物だと彼は言った。

それを私が実証し、月には穢れが存在しないことが確認できたと言った矢先、政界人がそろって月に移住プロジェクトを立ち上げてくれと言いだした。

正直呆れて物が言えなかった。

彼の事を罵った癖に命の危機となると彼のプロジェクトに賛同するなんて。

プロジェクトに追加でじゃんじゃんお金が政策に割り振られた。

それをきっかけに彼はリーダーとして月の都作りにロケット作りにマスコミの会見にテレビのバラエティ番組にと引っ張りだこだった。

多忙であったが彼との一緒の作業は楽しかった。

そんな中、月に贈られたたくさんの無人建設ロボが月の都を完成させた。

いよいよ月行きが現実味を帯びて来た。

そしてロケットが完成した。

都の者全員を乗せる事の出来る量のロケットを作るのに大分手間取ってしまった。

気が付けば24年と言う月日が過ぎて居た。

そしてロケット一号が発車の時を迎えた。政界の幹部が乗ったロケットだ。

二番目のロケットに綿月家と八意家が乗っている。

この意味に政界の者は疑問に思わなかったのだろうか?

我先にと月へ逃げて行く連中には気がつく訳が無いか。

彼は政界の幹部の黒い部分をこの機会に消す事を考えて居た。

私もウザい屑どもを消すのには賛成だった。

一号目は宇宙空間で爆発するように仕込んでおいた。

それこそ塵一つ残らない様にだ。

 

そうしてどんどんロケットが発射する中、どこで情報を得たかは知らないが妖怪の軍団が攻めて来た。

彼は妖怪の軍団に突っ込んでいく。

彼の後ろに軍の精鋭隊が突撃する。

彼は爆弾や拳銃と言った近代兵器よりも剣一本で戦う前時代的戦闘を好む。

彼にあこがれて軍に入った者は剣を持って戦っているが。

かくいう私もその一人だ。

私は弓を構え破魔の弓を射る。この弓を使う理由は彼が気持ちを落ちつけたり集中したい時にしていたのを真似ていたらいつの間にか拳銃や何かよりも手に馴染むように成って居た。

彼は先頭に出て前線を引き上げる。

彼の剣に火が灯る。

 

「ガラティーン!!」

 

浄化の炎の剣戟が妖怪たちを次々に飲み込んでゆく。

それでも一向に減った気がしない。

それ程の軍勢だった。

彼は空のロケットに向かって行った妖怪がいれば空を飛んでこれを討ち、地上で軍が危なく成っているのを見て地に降りて妖怪を討っていた。

正に縦横無尽である。

 

「我こそは綿月ガウェイン! 死にたく無くば道を開けよ!」

 

怒号が戦場に木霊する。

 

「その生き様、綿月の剣が見届けた!!」

 

敵でしかも妖怪である彼らにも敬意を払う彼に軍の士気が上がる。

そこでロケットが全部上がった事を知らせる報が届いた。

後は私達が行くだけである。

 

「全軍、撤退せよ! これは厳命である!!」

 

撤退の合図が彼の口から言われる。

しかし、この妖怪の軍勢ではロケットが大気圏を出る前に妖怪の餌食に成ってしまう。

それに彼の言い回しが気に成る。

 

「殿は私が務めます。何、大丈夫。皆が宙に上るまでの時間くらいは稼いで見せます」

 

全員が息をのむ。

彼はここで死ぬ気なのだ。

 

「何をおっしゃいますか! 私達だって戦えます!」

 

「厳命と言った筈です・・・・月の都を頼みます」

 

敵前逃亡は重罪である。

それは何故か。その後ろには守るべき民が居るからだ。

彼らを残して逃亡する事は許されない。

それに人間一人が守れるのは二人だけだ。

何故なら腕が二つしかないからだ。

しかし、一人が二人を守り、その二人が別々の人を守る。

これを繰り返したらたくさんの物が守れる。

上に立つ者は全員の命を預かっているのだ。

故に上の者の命令は絶対である。

 

これが彼が軍で兵隊たちに叩き込んだ事であった。

 

「だめですお師匠様、全員で月に行きましょう!」

 

私は叫んだ。

 

「これは私の騎士としての意地なのです。それに軍の上に立つ者として、その責務を果たさせて下さい」

 

この言葉に軍は全員が唇を噛み、涙をこらえながら撤退していく。

私は何としても彼を止めてみせる。

 

「騎士としての意地は立ちました、私たちなら妖怪の軍団に勝利する事がきっとできます! だからどうか!!」

 

一緒に戦いましょう。そう言いたかった。

涙交じりで叫ぶ。

彼女を連れて行けと言う言葉が掛けられて軍は私を連れていこうとするが私は兵に引っ張られながらも、一生懸命抗い、叫び続ける。

 

「私を止めてくれたのが永琳で良かった、どうぞお健やかに・・・・永琳」

 

そう言って彼は敵陣に一人で突っ込んでいく。

 

「お師匠様! おししょうさまーーーーーー!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

「おししょうさまーーーーーー!!!!!!!」

 

目を覚ます。

片手を虚空へと伸ばして涙を流していた。

起きあがり周りを見回す。

お師匠様の家だ。

安堵のため息が出る。

あの時の夢か。

正に悪夢であった。

自分で自分を許せなかったあの出来事。

この事で彼の事は月で皆を救った大英雄として月に祀られた。

人生最大の私の汚点。

私はせめて、最後に彼が願った月の事を守ろうと必死で努力した。

彼の代わりに綿月家も私が守るのだと努力した。

しかし、彼は生きて居てくれた。

月の戦争のとき彼が力を貸してくれたのを私の弟子であり彼の妹が教えてくれた。

クーデターの時も助けてくれた。

急に不安になり彼の部屋に行く。

彼は安らかに寝息を立てて居た。

良かった。また急に居なく成られでもしたら私は私ではいられなくなってしまうかも知れない。

彼の布団の中に潜り込む。

彼に抱きつく。

彼のにおいがした。安心できるにおいだ。

今度こそ離さないと心に誓う。

彼の温もりを感じた事で安心したのか眠くなった。

そのまま意識を手放した。

でも今度こそ決して離さないように彼をしっかり抱きしめて。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。