東方太陽録   作:仙儒

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やっと完成? しました。
所々解りにくい点等があるかもしれませんが、ゆっくり何度か読み返せば理解いただけると思います。
ではノシ


月の兎への許し

これはちょっと前のお話。

そうだな、私が月から帰還して数日位の時の事。

真紅の瞳の兎。珍しい物事を指す言葉で、「瑞祥」、「稀な吉祥」と言う花言葉の罪の物語でございます。

 

 

 

 

私が月から帰還してから数日が経過していた。

その中で大小の違いはあれども穏やかな日々を送っていた。

そんな中、感づいた小さな違和感。その違和感の正体は優曇華だった。

何時も通りに接しているがどこか距離を置くような、私を避けて居るような気がする。

そりゃ、私みたいなボンクラが家主では確かに距離を置きたくもなるだろう。

それでも永琳がいるからしょうがなく家で私に顔を嫌々合わせて居るのかと思って心配したがどうも違うらしい。

夜な夜なこそこそと家を抜け出しては何処かに行っているようだ。

この間たまたま真夜中に見つけた。

それも決まって月が綺麗に見える時だ。

そこまで思って思い出した。優曇華は月に負い目があった。

優曇華は地上から人間が攻めて来ると思ってその恐怖から逃げだして来た軍人。

それが今、永琳や輝夜に仕えて居るのは軍属としての忠義心ではなく、”月を裏切った”事に対する償いでは無いのだろうか? 生前の記憶から責任感が強い娘だと言うのは解っていた。

そんな責任感が強い娘だ。いっそのこと狂ってしまいたいと思った事が具現化した能力(願い)が狂気を操る程度の能力なのではないのだろうか?

元々月は狂気の象徴としてもしばしば物語に出てくるしな。

それがこの間の事件をきっかけに優曇華を追い詰めてしまっているのではなかろうか?

優曇華は結局は月に来はしなかった。

綿月姉妹に合わせる顔が無いのだろう。苦しみから逃れたいと願った先にあったのは自分以外しか狂わせられない。なんと皮肉な物だろうか。

CCCのアンデルセンが聞いたら喜んで物語を描きはじめそうな位だ。

まぁ、偉人とは何処か人から飛び抜けた狂気が背景にあったりする物だ。

おっと、話がそれたな。

とかく、事の発端は全て私が悪いのである。

謝りに行かなければならない。そんな思いから優曇華の後をついて行った。

竹林の少し開けた所に優曇華は降り立った。

私は飛んで行く優曇華の真下を走って行く。この時に上を向かずに影だけを追って走って行く所は流石は英国紳士の騎士だな~と感心する。生前の私なら間違いなく上を、特に優曇華の短いスカートの中を覗いて居た自信がある。変態だと思った奴、男が変態でなければ人間繁栄はしていない。

降り立った優曇華は地べたに座り込み、月を見上げて涙を流していた。

 

「依姫様、豊姫様・・・・・申し訳ございません」

 

やはりか。

 

「っ、セイバー様!」

 

出て行った私に驚いて逃げようとした所を言霊で動きを止めさせた。

優曇華の瞳は深く冷たい闇のような真紅の瞳。

私は黙ったまま強張った優曇華の涙を持っていたハンカチで優しく拭う。

拭う時に優曇華の顔が恐怖に歪んだが涙を拭かれた事に驚いて居た。

 

「少し話をしませんか? とても大切なこと。いつも思っている事を伝えたい」

 

そう言うと優曇華は諦めたように力を抜いたので言霊を解く。

 

「怒っては居ないんですか?」

 

怒る? 私が? 普段の礼を言いこそすれ、怒る理由などどこにもない。

 

「怒ってなど居ません。怒る要素が見当たりません」

 

そう言って座って話をしようと思い優曇華に座るように指示する。

ビクリと大きく震えたが大きく深呼吸を一回してから決意を秘めた目で座った。

私は優曇華の側に座り、饅頭の積んである台を出し優曇華にはホットミルクを渡した。

私もホットミルクを能力で出す。ホットミルクは神経を落ち着かせてくれる作用がある。まぁ、それはハーブティーのそれには及ばないだろうが体を温める飲み物で、かつ、好き嫌いが無いだろうと思って出した物だ。

一口口にして呟く。

 

「月が綺麗ですね」

 

その言葉に肩を大きく振るわせる鈴仙。

ここまで過剰に反応するとなると軽々しく月と口にできないな。

両手で持ったホットミルクの入ったカップを両手で包み込むように持ち、俯いたまま口を開こうとはしなかった。

暫く気まずい空気が支配する。

 

「ウドンゲ、私は何も知りませんし、知るつもりもありませんただ・・・・いい加減その痛ましい悪夢(ゆめ)から目覚めなさい」

 

「っ!! でも、私は!」

 

声を張り上げて立ちあがる優曇華。

両手でスカートの裾を強く下に引っ張って力み震えていた。

そんな優曇華の額を優しく突く。

 

「っへ!?」

 

奇妙な悲鳴にも似た声を出す優曇華。

 

「先ほども言った筈ですよ。私は何も知らないし、知るつもりも無い。ただ、月に思いをはせて自分を責めるのはやめなさい」

 

私は知っているがそれを言葉にすれば何故あなたがそれを知っているのか。と言う事に成るので回りくどい言い回ししか出せない自分が恨めしい。

って言うか今のセリフってもしかしてアウトだった?

まぁ、勢いに任せて次のセリフを言って濁そう。

それに知ってほしい。立ち向かうだけが人生では無いと。時には逃げてもいい事を。正しそれは一度でも壁に立ち向かった者だけが許される事だ。

優曇華は、否鈴仙は十分に立ち向かって来た。それは罪悪感と言う壁に今でも必死に超えようとしている。その余りにも大きすぎる壁を全力で登っているのだ。時には立ち向かわずに迂回する事を覚えなければならない。鈴仙は十分に罪に立ち向かった。

もう十分だ。お前は頑張り過ぎなんだよ。もう疲れ果てて足元さえも見えないような状況で尚走ろうと、登ろうとしているのだ。

笑顔でそのまま頭を優しく、でも少し力を入れて髪型が崩れる程度に撫でる。これで少しでも気がまぎれればいいんだがな。

これ以上話していてはぼろが出かねん。それに鈴仙の心が私の言葉如きで癒える筈もない。

私が出来るのは此処までだ。そう思いその場を後にする。

明日位休ませてやるか。許可が取れるかは解らんが永琳に頼めば大丈夫だろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

セイバー様が月に囚われて居た時、私は助けに行けなかった。

(そら)が怖くなって。

普段は上辺は平穏な暮らしをしているが本心は脅えたままだった。

それを幻想郷は結界で閉鎖された空間である事を知ってからもう脅える必要はないと思っていた。そう、セイバー様が月に囚われたと言う報告があるまでは。

月から逃げだした私は当然の事、月にセイバー様を助けに行く事が出来なかった。

それに恐ろしかったのだ。帰って来たセイバー様が私の事を裏切り者と呼ばれる事に。

月の伝説の大英雄綿月ガウェイン。

その雄姿は何度も映画化され、ドラマ化もされた。

それは月に住む者ならば誰もが尊敬する偉人。綿月ガウェインが誇り高き戦死した日とされる日には必ず月全土で黙祷を捧げて、そのドラマや映画の再放送等が必ず放送されていた位だ。

無論私も綿月ガウェインの熱烈なファンの一人だった。

新作のドラマが出れば必ず録画して見たし、映画も新作が出る都度に映画館へ足を運んだ。

綿月ガウェインの武勇伝は数知れず、格好いいし気は優しくて紳士的。

しかし、戦場では猛々しい姿が描かれて居てそのギャップがまた魅力的で世の女性の心を掴んで離さない。

そんな彼に憧れて兵士に成る男性も多い。私はとある理由で表の月から裏の月へと向かい、力尽きた所を綿月家に拾われた。

以来私は綿月家に忠誠を誓った。裏の月は治安が良く滅多な事が無いと出動はしないので新兵達がさぼっている中、私は必死に鍛練を重ねた。全ては私を拾ってくれた綿月家の皆様の為に。そして何よりも憧れた英雄に近づきたいがために。

だけど私は地上の人間が月に攻めて来ると聞いて急に怖くなったのだ。

軍人の敵前逃亡は重罪。それは守るべき人達が後ろに居るからだ。

それは綿月ガウェイン様も口を酸っぱくして言っていた事だ。

軍人は市民を守る盾であり剣であると。けれど決してそれを誇らず、守れた笑顔の数を誇るべし。しかし、私は逃げ出した。

そして何の因果か尊敬する綿月ガウェイン様本人に救われた。

その救われた場所に今日も来て、月を見上げては後悔が私の胸を締め付ける。

不意に懐かしい仲間の姿が出て来る。しかし、体はあれど顔は無いそれらは確かに私を囲み、怨嗟の声を叩きつける。その声に強く耳をふさいだままうずくまり、脅えて居たら凛とした声で「裏切り者目が!」とひときわ大きな声が塞いだ耳を通り抜けて届く。

そこには尊敬し、憧れの神である綿月ガウェイン、否、セイバー様が立っていた。

その顔は何時もの穏やかな顔とは打って変わって、獣のように此方を睨みつけて居る。

今にも鉄槌を下されそうなピリピリとした感覚。一番知られたくない人物に知られてしまう感覚。今までの暮らしが崩れてしまう恐怖。それらが絡み合い、絶望へと叩き落とす。

愕然とした。

ただそれだけだった。

それから謝りながら目を強く瞑り泣き叫んでいた。

 

「優曇華殿」

 

肩を掴まれて我に帰った私が見たのは今、一番会いたく無い人物だった。

しられたら嫌われてしまう。

今までの日常が崩れる。

心配そうに此方を覗き込んでいる。

 

―――話をしましょう。とても大事なこと、何時も思っている事を伝えたい。

 

その言葉に心臓を鷲頭上されたような感覚に陥る。

心音が速くなる。冷や汗が止まらない。

速くこの場から逃げ出したい一心で逃げようとしたがセイバー様の言霊によって動きが出来なく成る。自分の体なのに自分の体では無いような感覚。

―――腹をくくって話して見る。

一番聞きたく無いのに口から出てしまう言葉。

 

”怒ってはいないのか”―――と。

返って来た言葉は何て事無い。普通に怒ってなど居ない。

体に自由が戻る。言霊を解いてくれたようだ。

ホットミルクの入ったカップを此方に渡して来た。

如何したら良いのか解らなくて取り敢えず成り行きで受け取ってセイバー様と同じように座りこむ。

セイバー様はそれを見て自分のカップに入っているホットミルクを一口口にする。

そのまま月を見上げて月が綺麗ですねと告げた。

二回目の心臓を鷲頭上された感覚がする。顔は血の気が引き、頭の中は真っ白に成る。

もしかして記憶が戻られたのか!?

ではばれてしまう。私は裏切り者だと、臆病者だと、何よりもセイバー様に嫌われるのだけは嫌だった。

・・・・それも今日でおしまいだ。築いた関係も報われず。そう憧れに触れて確かめて憧れは恋へと変わった。それもおしまい。

そう構えて居たら帰って来た言葉は何も知りはしないと、痛ましい悪夢から覚めなさいと全てを見透かしたような顔で言って来た。

それに対して立ち上がり「でもっ!」と叫んでしまう。

立ちあがり服を強く握りしめ涙を流す。何よりも憧れの人物の家を裏切ったのだ。

何度も言うが敵前逃亡は重罪。銃殺される程だ。

それが解らぬセイバー様ではない。何しろそれを作った側の人間なのだ。

死は怖いけどせめて、セイバー様、嫌、憧れの綿月ガウェインの怒りの刃にて死にたかった。

しかし、来る筈の衝撃は来ず、額に軽く衝撃が来ただけだった。

その後優しい笑顔で少し強めに頭を撫でられながらセイバー様は小さい子に言い聞かせるように優しく穏やかな声で告げてくれた。

時には逃げる事も大切だと。お前は十分に立ち向かった、だから―――もう”自分を許してあげなさい”と。

そう告げた後に撫でて居た手を離し、柔和な顔でほほ笑んだ後、帰って行った。

私はその場に力無く座り込んでしまった。

そして理解して次は違う意味で涙が零れた。

私は許されぬ罪を犯してしまった。それは私が一生をかけて償っても償いきれない物を。

セイバー様の言葉が心に染み込む。神様、これは許されたと思って良いのでしょうか?

明日もここにきて月を見上げて許しを請う筈の哀れな兎を許してくれたのだろうか。

私が一緒に居る明日(こと)を許してくれてありがとうございます。

今度こそ逃げずにどんな事があっても皆を守ると誓います。

セイバー様のくれたホットミルクを飲む。もう冷めてホットとは言えないけれど、とても温かく少ししょっぱく感じた。

 

 

 

 

その後、決意を新たにするも、周りに流され、結局のところ、今までと変わらない日々を過ごしたと言う事です。

それと同時に、憧れが恋に変わったのは彼女の胸の内にそっとしまい込んだとさ。

今宵の兎の話はここまでにございます。




優曇華がセイバーに惚れた原因、つまり語られなかった裏方とでも言ったところでしょうか?
そんなお話しに成っています。
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