倒れろと指示がでたが、正直その真意を掴みかねる。
いきなりばたんと倒れたらお爺さんとお婆さんが心配するだろうし、豪族が陰陽師を連れてきてポイント稼ぎと、うっとおしいだろう。
それでもガウェイン様はずーっと同じリズムで指を床に突き続けている。
どうしようと考えあぐねていたら、指のリズムが少しだけ変わる。
カ・ル・ク? 軽くでいいと言うことだろうか?
取り合えず指示通りに片方の袖で目元を覆いながら半ば倒れ掛かり、それをもう片方の手で体を支えるポーズをとる。
流石に無理があるかと思ったが、豪族どもはたじろぎ、大騒ぎをし始めた。
その中でどさくさに紛れて私に近づこうとした瞬間
「お待ちください」
大きな声ではないのに凛と響く声。
その声には邪念を一切孕まず、静かに、しかし確実に皆に伝わる。
あれだけ騒いでいたのが嘘のように静まり返る。
「姫は少しお疲れの様子。姫のためにも一度、姫にはお大事をとって貰うのが最優かと」
そうするとどこの豪族も陰陽師をつけてポイントを稼ごうと騒ぎ出した中、藤原氏だけが胸を張り、堂々と言ってのけた。
「ならば”正刃殿”に任せよう。彼は陰陽師でありながら南蛮の秘術使いでもある」
正刃の名が出た瞬間に誰もが口を閉ざした。
正刃と言えば陰陽道では阿倍氏に並び、その名を知らぬ者はいない。いい意味でも悪い意味でも。
また、金平糖職人でも有り、彼の作った金平糖は帝やそれらに近いごく一部の限られた者しか口に出来ない代物となっている。
「姫を別室へとお連れください。そこで診察をします」
他の豪族や連れられてきた陰陽師達はやれこうだのぶつくさ言っているが、藤原氏は帝の血も混じった名門中の名門。加えて帝お抱えの金平糖職人にしてあの阿倍氏と肩を並べ、阿部氏とも繋がりが深い彼を表立って止めることはできない。
恨めしそうな視線を送ってくる奴らの視線を無視しながら立ち上がり、移動を始める。
彼のこの後のことを考えればどんなことが起こるか心配だったが、彼はこちらに向かって苦笑いしながらウインクしてきた。
とくん、と心臓がなる。顔が熱くなるのがわかる。
そんなわけで使いの者に連れられて別室へと連れて行かれる。
布団に寝かされて天井を見る。
月の世界では余程のマニアでなければお目にかかれない木で出来た床に天井。なんとなく木の温もりというものがわかるような気がする。
そういえば綿月家は木で出来た古風の家造りだったな。
等と、思っていると布施の向こうにガウェイン様が入ってきた。
ガウェイン様は一応使いの者に顔色は悪くないか、とか医師としての質問をし、使いの者がそれに答える形で進んだ。
最後の質問を終えると、使いの者に寝不足と気苦労だと伝え、薬を渡してほしいと、使いの者に渡した。
使いの者が渡された物を躊躇いがちに私に渡してきた。
無理もない。それには見たこともない地上ではお目にかかれないマグカップに、薄茶色をした飲み物だった。
これも地上ではお目にかかれない物。ミルクココアだ。
私は使いの者に大丈夫だからとマグカップを受け取り、一口口にする。
久しぶりの過ぎたせいもあってか、はたまたガウェイン様がブレンドして出したのかはわからないが、自然と美味しいと口にしていた。
ガウェイン様は穏やかな笑顔でそれはよかったと呟いた。
「時に姫」
次の瞬間には凛とした顔になり視線がこちらを捕らえる。
そのギャップ差に胸がまた高鳴った。
そしてもしかして彼からの求婚か! っと鼓動が早くなり顔も熱くなる。
「アレらは元気でしたか」
そう問いかけがかかる。
冷静になって考えれば彼が月の大英雄、”綿月ガウェイン”なら当然の問いかけとも言える。何よりも絆と家族を愛した心優しき太陽の騎士。
それと同時にショックだった。わかっていても私とて女なのだ。憧れの、しかも自分の思い人が並み居る求婚者達のの中に現れたのだ。
彼も私について求婚をしに来たと夢を見ても良いだろう。
しかし、現実はそう優しくは無かった。
私って魅力ないのかな? そう考えつつも彼の問いかけに答えるべく口を開く。
「ええ、私が追放された時は元気でした」
今現在も元気かはわかりかねますが、と付け足す。
するとガウェイン様はそうですかと、満足げな顔でにっこりと笑う。そのまま使いの者に5日間は大事をとる様に伝えると出て行ってしまった。
久しぶりです。五度もデータが吹き飛んで心が折れていました。
次回からはもこたんINする予定です。修羅場になるかはわかりませんが、ラブコメの予感。以前妹紅が金平糖を食べて泣いたことの真実が明らかになるのか!?