「メリー、これを見て、この炎が天に昇って行ってるこれ」
ボーイッシュな女の子が声を荒げて言って来た。
私は相変わらずの彼女のそれに振り回されている。
まぁ、そんな彼女の姿を見るのが案外好きだったりする。ここにガウェインがいれば完璧なのに。
そう言っていつもの如く写真を見る。
それは10年くらい前に話題に成った諏訪のミステリーサークルの場所だった。
蓮子は胸を張りながらドヤ顔で自信満々ですぐに行くよと言いながら強引に手を引っ張られて付いて行くのだった。
京都から車で諏訪まで行き、蓮子の”目”を使って目的の場所に向かう。
10年前にスーツ姿の男が剣を振り回していたと通報があった所だ。
不思議な事にその斬られた跡はその部分の草だけ成長していない事からこの手の趣味の方達は必ず一回は訪れると言う所で有名だ。
しかし、今日に限って誰もいない。時刻も間もなくその男が出たと通報があった黄昏時だ。
そうすると光が集まり、人型に成ると、そのまま奥の方に進んで行ってしまう。
どうやらビンゴだったようだ。光っていて良く分からなかったが私の”目”だけは誤魔化せない。
間違いなくガウェインのそれだ。
少し薄気味悪いが我慢して進む事にした、と言っても連子にリードされながら、だが。
光はコンクリートで出来た廃駅後の所でうろうろした後、また奥に進んでいく。
「メリーどうやら私たちを誘ってるみたいよ、どうする?」
ニヤニヤしながら意地悪そうな顔をして告げて来る。
そんなの決まっている。
「行くわよ連子、なんせ彼への数少ない手がかりだもの」
夜は怖いが、怖がっていては進めないし、彼にも会えない。
それだけは絶対に認めない。まだ伝えて無い事があるのだ。この責任を彼にはきっちり取って貰わないといけない。
そうすると大きなトンネルの前に出た。光は少し躊躇した後に吸い込まれるようにして消えて行った。
蓮子は何か思う事があるのか写真と空とを交互に見ている。
「メリー、この先にある旧八坂村後みたいだよ、行こう。彼への手がかりはこの先だ」
強引に手を引かれてる。正直今回だけはその強引さがありがたかったりする。
走って、走って、走り抜いてようやく出口に付いた。
ここから先に、まるで此処だけ切り取られたように境界線が敷き詰められている。
その事を連子に言うと、何時に無く蓮子が興奮した様子で駆け出す。
「ちょっ、痛いわよ蓮子」
「おっとごめん、つい興奮しちゃって」
とは言え全く悪びれも無い様子から、はぁ~。と深いため息が出てしまう。
完璧に別のスイッチも入ってしまったらしい。
そのまま境界線を越えると何とも言えない感覚に襲われる。
草の道はここから山の方に伸びている。
間違いない、連子は気づいて無いが境界線が少しづつ変わっている。
いったい何が起こっているのだろうか?
そんな疑問を思いつつ連子に引っ張られていく。
そうしたらいつの間にか小さな社に着いた。ここの境界線だけは先程よりもさらに強い違和感を感じる。
この違和感が何なのかは解らないが、少なくとも余りこのんでお近づきには成りたくないレベルだ。
突然強い光が迸る。目を開いてられない位だ。
次に目を開けたら全く違う場所に居た。今までいた所の境界も無い。
一体何が起こったんだ?連子を見たが、彼女も同じらしい。
「おや、珍しいお客さんですね」
その声のする方を見る。
聞き覚えのある声だ。ずっとずっと聞きたかった愛しい愛しい声だ。
振り返ると幻想的な湖があり、その水の上に立っていた。
「「ガウェイン!!」」
やっと会えたのだ。そう、やっと・・・・・。
しかし、彼はあくまで冷静でそして冷徹にこう告げた。
「ガウェイン・・・・ですか、また随分と懐かしい呼び方をされますね。お嬢さん方」
「ガ、ガウェイン、何の冗談?全然笑えないわよ」
そう言うが、彼は少し俯きながら首を左右に小さく振った。
「私の名はセイバー。ガウェインでは無いのですよ」
信じられない。しゃべり方も顔も声も何もかもが同じなのに彼は違うと否定した。
私の”目”で・・・・・え?私の”目”でも彼の境界線が見えない・・・。
嘘嘘嘘嘘何で?何で見えないの?
曇り空で粉雪が舞っている幻想的な場所で彼はただただ私たちを見つめていた。
考えが追い付かない。
「・・・・・・そうですか。戻りなさい、貴方達は人の子だ。これ以上こちらに歩みを進めれば取り返しの着かない事になる。私は後悔した。だから貴方達には同じ苦しみを味わってほしくない」
っ!!
やっぱりガウェインだ。間違いない。
声をかけようとしたらいつの間にか彼は消えていた。彼の立っていた所まで行く。服が濡れるが構っている余裕はない。
二人揃ってそこに行くと光の玉のような物が空から降って来た。
私がそれを受け取ったらまた閃光が走る。
次に目にしたのは先程来た小さな社の前だった。光の玉は徐々に光を失い一本の棒が出て来た。
その棒の上の辺りに「当たり」とかかれた棒だ。
何よ、やっぱりガウェインだったんじゃない。
自然と涙が溢れ出て来る。それは蓮子も一緒だったらしい。
あの夢の中で食べたアイスの当たり棒だった。
服も、二人ともびちょびちょに濡れている事から夢では無かったのだと確信する。
来るなと言われたがそうは問屋が卸さない。たとえ人をやめたとしても絶対に会いに行く。
何故なら、私は、私達はガウェイン(彼)を好きに成って、否、愛しているのだ。
彼の為ならそれこそ死んだって、人間やめたって良い。それに値する人物なのだから・・・・。
「良かったのですか?
「ええ、これで良いのです。諦めてくれるでしょう」
二人を木の上から見下ろしながら会話する”ガウェイン”そっくりな騎士と狐耳にしっぽがある巫女服のような物を着たピンク髪の少女がいいあう。
「あんな事したら余計にマスターに夢中になっちゃうじゃないですか・・・・ボソッ」
「何か言いましたか?」
「いえ、マスターには私と言う者が居ながらこれはどう言った見解かと・・・・」
少女からどす黒い何かが発せられる。
それに身震いしながら
「いえ、人じゃなく成る恐怖はお互いに痛い程身に染みているでしょう?」
そう言うと
「そうですね・・・・」
と小さな声で告げた。
そう、その苦しみを背負うのは私たちだけで十分だ。
人が人じゃ無く成る時、そこには無限の牢獄に縛られる。
最初こそ良かれ、後は自ずとわかろう。
そして後悔する。
何故、あの時踏みとどまる事が出来なかったのかと。
答えの出ない、どうか許して欲しいと懇願しようとも戻れぬ境地。
そこは・・・・・・
絶望と悲しみ、後悔に満ちた。まさに、地獄の景色だろう。
終りがあるからこそ、目的が出来、行動出来る事が多々あろう。
そう、私達は、その終わりより解放されてしまった末の無残な姿なのだ。
だから・・・・・、
もうこれ以上こちらに来ないでくれ、メリー、蓮子。最愛の友人だからこそ来ないで欲しい。
現を疑い、目を凝らすことで、夢への入り口が見つかるかも知れない。
しかし、今一度考えて欲しい。
それだけの価値があるのかを・・・・・・