東方太陽録   作:仙儒

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58話

仏には 桜の花を奉れ 我が後の世を 人弔わば

 

確か幽々子の父親の読んだ詩の一つだ。

急に思いだした。

そのままもうひと眠りする予定だったんだがどうしても眠る事が出来なかった。

先程の詩が頭を離れなかった。

リポジトリ・オブ・ヒロカワ。幽々子のスペルカードだ。

これは直訳すれば墓が弘川にあると言う意味だ。

確かそんな感じの名前の寺か何かに葬られている。

これも運命なのかね? そんなに私を呼ぶのなら行ってやろうじゃないか。

庭に咲いている桜の枝と枝垂れ桜の枝を折り、手に持って外の世界に転移する。

他にも蓮台野で葬ってくださいだの桜の下で死にたいだの優柔不断な所は私そっくりだ。

結局桜の下にて命を落とした訳だが。

真夜中に外の世界の家の外に出るのは不味いんじゃないかと思ったが、大阪だが隣の府だし直ぐに済ませれば大丈夫だろう。

外の世界に出た。空気の不味さで外に出た事を実感する。

そのまま連続で能力を使い弘川寺の墓地に向かう。

この時間なら墓荒らし以外誰もいないだろう。

まぁ、このご時世墓荒らしする馬鹿何て居ないだろうけど。

景色が変わり寺についたのが解る。

生前の私なら怖がってこれなかっただろう。しかし、幽々子に妖夢に出会ってから幽霊=怖いの定義が崩れ去った。

何かあってもジョワイユスあるし。夜の幻想郷を散歩する方がよほど勇気がいる。

幽霊どころか妖怪が襲ってくるもんな。

墓を歩いて西行法師の墓を探す。

多分四角い墓石では無く石碑か何かだと思うのでそれらしいものを探す。

あった。多分ここだ。ボロボロになった石碑を見つけた。

雨風にさらされてボロボロに成って居るせいか月明かりが暗いせいか何かが掘られた痕跡があると言う事だけが解った。

線香は生憎持って来ていないのでな。変わりに桜の枝で勘弁してくれ。

ちゃんと桜の花びらが付いている物持って来てやったから。

さて、これで用事はすんだな。

早々に立ち去るか。また月の使者に捕まるのは簡便だからな。

 

「これ、そこな人。お待ちくだされ」

 

急に声をかけられて振り返ってみる。

そこには時代を間違えたのではないだろうかと思える恰好の僧侶がいた。

おいおい、これほど情動に駆られたんだ。何かあるとは思っていたがまさか本当に出て来るとはな。

西行法師。

 

「来ましたか、西行法師。私に何か用ですか?」

 

「まずは備えてくれた桜の礼を。さぞや高名なお方とお見受けいたしますが?」

 

高名? 確かにガウェインは高名だな。イギリスのだけど。

 

「何、桜の花を見て居たら貴校の詩を思い出してこうして花を持ってきた訳だ。貴校こそ私に何か用か」

 

自分の事ながら今日はやけに上から物を言うな。

ガウェイン補正かかって無いのか?

 

「私には生前一人の娘がいました。厚かましい事だとは存じますがその娘にこれを渡してはもらえないでしょうか?」

 

出されたのは一つの扇だった。その扇は満開の桜が描かれていた。

これを幽々子に渡せと言う事か。

 

「その娘と縁を切ったのは貴校ではないか。今更娘に贈り物とはどういった案件か?」

 

確かその娘を蹴飛ばして家を後にした奴だ。

そのくせ旅の途中で寂しくなって反魂の術を使ったりとめちゃくちゃな人だ。

成程、今解った。私は彼にイラついているのだ。

だからやたら上から物を言うし挑発的な事を言ってたのか。

 

「確かに縁を切りはしましたが、我が娘には変わりありません。それに西行妖の件で娘を傷つけてしまった。ああなる筈では無かった。私はただ純粋に桜の下にて終わりを迎えたかったのです。私のこよなく愛した桜の下で」

 

それは懺悔だった。

僧侶としての顔では無く親の顔をしていた。

そうか、

 

「謝って済む問題では無いのは解っています。ですが娘には、幽々子にはあんな思いをさせるつもりじゃなかった。どこから狂ってしまったんでしょう。私は」

 

フム。そうか。死して尚娘の事で苦しむか。

どうやら勘違いしていたらしい。

 

「どうやら貴校の事を履き違えていたみたいだ、許して欲しい。それとこの件、承知つかまつった。そなたはその思いを1000年もの間抱え続けて居たのだな」

 

1000年も娘を思って成仏しないで苦しみ続けて居たのだな。

差し出された扇を相手の手ごと包み込むように取り「確かに」と告げた。

 

「ありがとうございます。これで肩の荷が下りた思いです」

 

そう言い、深く頭を下げて来た。

ジョワイユスを出す。

 

「その罪、私が引き継ぎましょう。最後に何か言い残す事はありますか?」

 

「娘の事をよろしくお願いします。セイバー様」

 

迷うことなくそう告げた。

? 私は名乗っただろうか?

それよりもやばい、涙出そうになって来た。

ジョワイユスに魔力を通す。

ジョワイユスが温かな光で包まれる。

 

「そうですか、ではあなたの行く旅路を微笑み逝けるよう」

 

そう告げてジョワイユスを構える

 

あふれ出る喜びの楽園(ジョワイユス)

 

振り切る。

斬られた西行法師は安らかな顔で「ありがとう」と言いジョワイユスから放たれる光に飲み込まれて行った。

誰もが何時かは旅立つのだ。その序だ。ここに居る幽霊共もまとめてあの世に行け。

そう思いながら剣を高くかざす。

光が墓地全体を包み込む。

その優しく温かい光が墓地を越え天高く舞い上がって行くの光の柱が数多く目撃されており、京都七不思議の一つに数えられたのはまた別の話。

 

掲げられた剣から完全に光が消えるとその場を後にする。

 

願わくば、旅立った者達の旅路を笑い逝けるように願いを込めて。

 

 

っとまぁ、格好ずけて帰って来た訳だが、どうしよう。

良く良く考えたら墓場でピカッとか不味いだろう。

そう思いながら能力で幻想郷に戻る。

 

空気が美味い。帰って来てホッと胸を撫で下ろす。

セーフ、セーフだよね?

何か感情が高ぶって余計なことしたけど大丈夫だよね?

ああ、私は何時もやった後に行動を後悔するんだよな。後悔は先には立たないと初めに言い出した人にとても凄いで賞を与えたい位だ。

 

まぁ、やってしまった事は仕方ないので取り敢えず受け取った扇を広げる。

外の世界とは違い月明かりで照明が要らない位明るい蒼銀の中で広げられた扇には夜桜を思わせるインパクトがあった。

月下の下で見て居るせいかもしれないが。てか、良く描けたな。1000年前にこんな塗料無いだろうとかそんな突っ込みを忘れるほど見事な物だった。

裏返して見ると白い面に何か書いてある。

和歌だろうか?

 

・・・・・うん、読めない。何か漢文ばっかでさ。

中国人じゃ無いっての。

恐らく娘を思っての何かが書かれている事だけは間違いないんだけどさ。

古事記を漢文のままやってる気分だよ、頭が痛い。

問題はこれが読めない事じゃない。

これを幽々子に渡しても大丈夫かどうかだ。

幽々子は他とは違う理由で複雑な経緯をして生まれた亡霊だ。

これを読んで生前を思い出してしまう可能性も無きにしも有らずだ。

もし生前の事を思いだしたら消滅してしまうか、自害してしまうかもしれない。

でも西行法師直々に幽々子に渡すように言って来たから渡す以外の選択肢が無いんだよな。

はぁ、溜息をはく。

気が付けば西行妖の前に立っていた。

可笑しい。さっきまで家の縁側に居た筈だぞ?

能力を無意識に使ったのか?

しかも西行妖の前とか悪意しか感じない。

この桜が全ての元凶。拳を握りしめ思いっきり叩く。

鈍い音と共に振動が伝わってくる。

巨大すぎる西行妖はなんのその。

まるであざ笑うかのように健在である。

 

「セイバー様」

 

透き通るような凛とした声が私に届く。

振り返ると幽々子がゆっくりと私のそばに降りて来るところだった。

 

「起こしてしまいましたか?」

 

そう告げると幽々子は首を左右に振り、とん、と小さな足音を立てて私の前に降りた。

 

「中々寝付けなくて、夜桜を眺めて居たら大きな音がしたので来てみただけですわ」

 

夜這いかしらとか言いながらモジモジし始めた幽々子。

そう言えば、そう言う世代の人でしたね。

夜に旦那さんが妻、又は愛人の所に遊びに来る風習がある時代の人間である事を忘れて居たよ。

しかし、生憎和歌何て出来ない私では早速御呼びでは無いだろう。

確か和歌で告白とかするんだろう?

そう言ったら「和歌何か対して関係ないわ、私とセイバー様の仲ですもの」と返って来た。

友としてだから和歌は必要ないと言う事だろう。

ゴホンと咳払いをして幽々子に扇を渡す。

幽々子はまるで玩具を貰った子供のようにはしゃいでいる。

 

「殿方からの初めてのプレゼントですもの」

 

心を読んだかの様な一言に内心苦笑いしつつ、思う。

まさかバカ正直にお前の親父さんからと言う訳にはいかないのでそのまま見守る事にする。

受け取った扇を開こうとしては止まる幽々子に不思議に思いながら聞いて見る。

「開けてよろしいのかしら?」と告げる声に遠慮していたのかと思い苦笑い。この幻想郷、変な所で常識が出て来るのだ。

そのまま首を縦に振る。

それを見て幽々子は扇をゆっくりと開いた。

 

「きれい・・・・・」

 

そう言いながら見入っていた。

それについては同意できる。

事実最初に広げた時に息をのんだ程だ。

ここまでは大丈夫そうだ。

幽々子の様子を見て居て思う。次に幽々子は扇をひっくり返した。

異変はそこで起きた。

幽々子の頬に一筋の涙が流れる。

私は驚いたが頬を伝う涙を拭う。

幽々子は最初は? と首を傾げて居た。

次に自分で触って確かめる。

 

「え、え? 何で止まらないの?」

 

とめどなく流れる涙に戸惑う幽々子。

私は優しく抱きしめる。

そのままゆっくりと頭を撫でると幽々子から声を上げて泣き出した。

まぁ無理もねーな、親父さんが娘に向けて書いた詩だもんな。

言う訳にはいかないが思いが通じたのだろう。

良かったな、西行法師。娘にはしっかり伝わったぞ。

1000年の呪縛から解放するためジョワイユスで強制的に成仏させたが天で見守って居るだろう。ここあの世だが。

しかし、絆とは凄いものだな。

何も覚えて居ない筈の幽々子に通じる思い。

親子の絆の深さをしみじみと思う。

現代社会では薄れて居る大事な繋がりだ。

そのまま、幽々子が泣きやむまで待つ。

 

 

 

暫くして泣きやんだは良いが着物の袖を掴まれて離してくれない。

お約束って奴か。厄介だ。

取り敢えず白玉楼に向かう。

途中で妖夢と出会い理由を説明して白玉楼に泊まる事に成った。

流石に一緒の部屋に泊まる訳にはいかないので両手を離そうとするが全然離してくれない。

この細い腕の何処にこんな力が隠されてるんだ。

しょうがないので掴まれている部分を剣で切り取ろうとしたが、起きているのではないかと思うほど掴む位置を変えてくる。

妖夢にどうしようか苦笑いで話した所、「しばしお待ちを」と言われ部屋を出て行った。

 

暫くして帰って来たら此方ですと言われて案内された部屋には川の字なる様に布団が三枚敷かれていた。

 

「ヨウム殿、これはどう言った用件で?」

 

思わず聞いてしまった私は悪くは無いと思う。

しかも三枚とも隙間なくきっちりと敷かれている。

おい何の冗談だ? あれか、ドッキリか。カメラ、カメラは何処にある。

そんな私の心境を無視して妖夢が告げる。

 

「幽々子様がそうなってしまった以上仕方が有りません。一緒に寝て下さい。もしもの間違いが無いように私が見張らせてもらいます」

 

もしもの事があれば解りますね? と後ろで刀をちょっと抜くのをやめて頂けないだろうか?

怖くてしょうがないのだが。

溜息をはき布団に入り眠る事にする。幽々子にもちゃんと布団がかかる様にしてっと。女性の象徴が私の理性をガリガリ削る。

彼女は私を何だと思っているのだろうか? 私とて男なのだ。こんな状況で相棒が反応しない訳が無い。

深呼吸を繰り返して何とか平静を保つ。

ええい、早く寝てしまおう。

このままでは無理なので能力を使い意思気を飛ばす。

強制的に意識がブラックアウトしていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夜。普段は何ともないのに何故か今日は寝付けなかった。

縁側に座り咲き誇る桜を眺めて居た。

そんな矢先だった。

西行妖の方から何かを思いっきりぶつような音と少し遅れて振動がやって来た。

何があったのだろうか?

気に成り西行妖に飛んで行って見たらセイバー様が拳を西行妖に向かって付けて立っているのが見えた。

何故彼がここに居るのか解らない。もしかしたら私に会いに来てくれたのかも知れないと思い声をかける。夜に来たのだ。求婚しに来たのだろうか? だったらいいな~と思ったが残念ながらそうでは無いらしい。

暫く世間話した後彼から一つの扇を渡された。

許しが出たので広げてみる。

美しい桜が満開に咲き誇って居る絵だった。

それは見事の一言につき、思わず息をのんでいた。

暫く鑑賞した後裏返す。

そこには和歌が書かれていた。

誰かを思って書かれた詩だと言う事が強く伝わってくる。

気が付けば泣いていた。

何故だか理由は解らない。彼が私の涙を拭ってくれた事で初めて気がついた。

優しく抱きしめられて遠い昔これに似た温もりに触れた事があると不思議と思えた。

そのまま彼の胸に顔を押し付けて泣いた。

我慢できなかった。

 

暫くして落ち着いた瞬間今更だが、抱きしめられている事に気がつき顔が熱く成るのが解った。

取り敢えず彼の顔をまともに見れない。

如何したら良いか分からずに寝たふりをしてしまった。

そんな私は抱きかかえられたまま、白玉楼に向かって行った。

途中妖夢が出て来てそこで屋敷に入り彼は私を引き剥がそうとしたが、私は無理やり抱きしめる事で阻止する。

理由は二つある。

一つはこの真っ赤な顔を見られたくない事。

二つ目は彼の温もりに包まれて幸せが心から溢れて居るからだ。

しばらくすると妖夢が寝床の準備が整いましたとの報がきてその部屋に移動する。

私はお姫様抱っこされて移動だ。外の世界では恋仲の者がする行為だと言われているが、確かに恥ずかしいが嬉しい。

川の字に敷かれた布団の真ん中に彼が入り、私が自分の布団からはみ出して彼の布団の中に体が入る様に布団に入る。

暫くして彼が寝息を立て始めるとともに起き上がる。

 

「妖夢起きてるんでしょ?」

 

そう言うと彼女も

 

「幽々子様こそやっぱり起きておられましたか」

 

短いやりとり。妖夢が彼の反対側に眠るのは嫉妬心からだ。

最初はただの憧れだったのがいつの間にか恋心に変わってしまったのだろう。

幽々子はそれとはお構いなしに

 

「これ絶対赤ちゃん出来ちゃうわよね!」

 

良い意味でも箱入り娘の純粋な彼女は一緒に寝れば赤ちゃんが出来ると本気で思っているのだ。

そう言いながら彼の胸に顔を押し付ける。

一定リズムで聞こえて来る鼓動がする度幸せが溢れて来る。

 

「妖夢もやって見たら? 安心できるわよ~」

 

言われた妖夢は顔を真っ赤にしながらぎこちなく彼に抱きつく。

 

「はい、その、えっと、あの、あ、安心します」

 

そう言う妖夢。私は彼に妾が何人いても構わないと思っている。

元々そう言う時代の人なのだ。

正妻の座は譲る気はないが。

そう考えて居るうちに妖夢が寝息を立ては始めた。

私も寝よう。出来ればこんな幸せな毎日が続きますように。

そう言えば子どもの名前何にしようかしら?

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