牙狼〈GARO〉 ~東方魔戒録~   作:響く黒雲

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今回は和真のお話。

和真にある転機が訪れます。


贄 ~Sacrifice~

「平和だなぁ~」

 

「平和だねぇ~」

 

守矢神社の縁側で日向ぼっこしているのは、ご存知バカップルの雨宮和真と東風谷早苗の夫婦である。

 

「こう、ホラーが出ない日が続くと魔戒騎士としては暇になるなぁ~」

 

「いいんじゃない? カズ君達が暇って事はそれだけ平和って事なんだよ」

 

ここ最近ホラーによる異変や事件は起きていないので和真達魔戒騎士はエレメント封印位しか仕事が無く、修行以外では、こうして日向ぼっこしていることが多くなった。

 

〈そもそも、こんなホラーが次々出てくる事自体が可笑しいんだからな? これが本来の平常なんだよ〉

 

「そういえば… もうすぐ陰我消滅の夜だな」

 

「陰我消滅の夜?」

 

「ああ、そっか。早苗は魔戒法師になったばっかだから、陰我消滅の夜の事を知らないんだな」

 

陰我消滅の夜……

それは、二十年に一度ホラーが現れない夜の事を言う。

この日だけは、魔戒騎士と魔戒法師が唯一普通の人間らしく暮らせる日であり、それぞれが思い思いの過ごし方をしている。

 

「そっか… それじゃあその日は一日中一緒に居られるね♪」

 

「ああ、そうだな」

 

「それに…… ちょっと恥ずかしい事も……」

 

口にするだけでも恥ずかしいのか、早苗は顔を真っ赤にする。

 

「早苗……」

 

「カズ君……」

 

お互いの名を呼び合い、いい雰囲気になり、二人の顔が徐々に近づいていき、後数センチで唇が当たりそうになったその時…

 

「和真さーん!!!!」

 

「「!?」」

 

第三者の呼び声によりその行為は終わりを告げた。

 

「何だよ…… 椛かよ……」

 

「ええっと…… もしかしてお邪魔でした?」

 

和真は第三者に苛立ちながら出ていくと、其処に居たのは、銀髪に狼の耳を生やした白狼天狗の犬走椛だった。

 

「ああ、まあな」

 

「それは… すみませんでした」

 

「はぁ… もういい。それで?なんか用か」

 

「あ、いえ。用があるのは私じゃなくて……」

 

すると椛が後ろを振り返る。

和真も釣られて、椛の後ろを覗き込むと……

 

「…………」

 

和真を見つめる十代前半位の少年がいた。

 

「? お前誰だ」

 

「あれ? 知り合いなんじゃ……」

 

「俺には幻想郷に住んでいる知り合いなんて居ないんだけどな」

 

「じゃあ、この子は……」

 

すると、少年が和真の前に来て深々と土下座してきた。

 

「はぁ!? おい、行きなりどうした!?」

 

「お願いします! 僕を弟子にしてください!!」

 

「へ?」

 

その言葉を聞いた和真は、もう早苗とイチャイチャしていたのを邪魔された事など綺麗サッパリ忘れていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はい、どうぞ」

 

「あ、ありがとうございます」

 

「どういたしまして」

 

話を聞くために少年を神社の中に招き入れた和真は、早苗が入れたお茶を少年と共に啜っていた。

 

「おかわりいる?カズ君」

 

「ん、頼むわ」

 

和真から空の湯飲みを受け取った早苗は、嬉々としてお茶を淹れていた。

 

「で、お前は誰なんだ? 少なくとも誰かに俺の事を聞いた訳じゃ無いんだろ?」

 

「僕…… この前和真さんに助けてもらったんです」

 

「助けた? ……… あっ! お前あの時の!」

 

それは、二週間程遡る……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「キシャァァァ!!!!」

 

「ば、化け物だぁ~!!!!」

 

ある村で、人に憑依したホラーが現れていた。

村は、人里や博麗神社からは遠く離れた場所にあった為、砕牙や和真達は到着に時間がかかっていたのだ。

 

「母さん!! 父さん!!」

 

「止めろ!もうあいつらはお前の母さんと父さんじゃねえ!!」

 

「ネェ、ナンデニゲルノ?」

 

「オマエモイッショニ、コロソウゼ」

 

「ひっ!?」

 

少年は変わり果てた両親の姿に只怯える事しか出来なかった。

 

どんどんと人を食らっていくホラー達、ついには少年にも、その牙を剥けてきた。

 

「オマエモウマソウダ!!」

 

「クワセロ!!!!」

 

「うわぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

ホラーが少年を掴み、その魂を食らおうとしたその時だった……

 

「だぁぁっ!!!!」

 

「グキャ!!?」

 

「グギィ!?」

 

間一髪、和真が村に到着し、ホラー達を少年から引き剥がした。

 

「くそっ!? ディルバ!! こいつ以外に人は!」

 

〈駄目だ和真。人っ子一人残っちゃ居ねえ!もう生き残りはそいつだけだ!〉

 

「チクショウ!!!! この外道共がぁぁぁぁ!!!!」

 

和真は叫びながら、ホラーに向かっていき、魔戒剣を降り下ろした。

 

「だぁっ!!」

 

「ギィッ!!」

 

しかし、ホラーは腕を槍の様にして魔戒剣を受け止めた。

 

「むうぅぅぅぅ!!!!」

 

「ゲッヒッヒ…」

 

和真は、叩き割るつもりで魔戒剣に力を入れるが、対するホラーは、余裕綽々の笑みを溢す。

 

「何余裕ぶっこいてやがる……」

 

「ゲッヒッヒ…」

 

和真の問いに、ホラーは答えなかったが、変わりにホラーの目線が答えていた。

 

「うわぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

「!? しまった!?」

 

その目線の先には、先程の少年と、もう一体のホラーが少年に向かっていた。

 

「やらせるかぁぁぁ!!!!」

 

和真は、ホラーの槍を叩き割るの止め、弾いてがら空きになった胴体に蹴り込み、吹っ飛ばした。

 

そして、魔戒盾を少年に向かうホラーに投げつけて怯ませた。

 

「グキャァ!!?」

 

「おおおおおっ!!!!」

 

 

ザシュッ!!

 

 

「ギャァァァァッ!!!!」

 

更に、怯ませた所を足払いで宙に浮かせ、魔戒剣を無防備な腹に突き立てた。

そして少年を抱えて、後退する。

 

「大丈夫か?」

 

「は、はい…」

 

「ごめんな。もう少し早ければ村の人達を死なせずにすんだのに…… 本当にごめん」

 

少年を木の影に隠し、再びホラーの前に出る和真。

 

「せめて…… お前が安心して眠れる様にする……」

 

和真は、魔戒剣と魔戒盾を真上に掲げ、盾を剣で擦り付ける。

 

すると、火花と共に、銅色の光を放つ円が表れ、それを魔戒剣で砕いた。

砕いた空間から更に強い光が溢れ、和真を包み込み、それと同時に、和真の赤銅の鎧が召喚された。

 

召喚された鎧は和真の身に纏われ、和真は義狼へと変わった。

 

「ギィッ!? マカイキシ!?」

 

「マカイキシ、ウマソウ!」

 

『貴様らの陰我…… 俺が打ち砕く!!!!』

 

義狼は、銅狼剣で衝撃波を放った。

 

『ハッ!!』

 

「ヴゴェ!?」

 

「ゴハァァァッ!!?」

 

吹き飛ばされたホラーが、体制を立て直す前に義狼はホラーに向かい、盾と剣の変則二刀流でホラーを斬り裂いた。

 

『ダァァァッ!!!!』

 

「グギャァァァァッ!!!!」

 

ホラーは義狼の一撃で、塵になって消え去った。

 

『残るは貴様だけだ!』

 

義狼は、残ったホラーに銅狼剣を突きつけた。

 

「ギッ、ギィィィィィィィィッ!!?」

 

『逃さん!!』

 

義狼は銅狼剣と義狼盾を合体させ、義狼斬斧にし、逃げるホラーに向かって投げつけた。

 

『ハァァァ…… アア!!!!』

 

義狼斬斧は、まるで丸鋸の様に回転しながらホラーに向かっていき、ホラーは紙屑の様に真っ二つになって消滅した。

 

斬斧が回転しながら戻ってきて、義狼の足元に突き刺さる。

それを抜き取って、義狼は鎧を解除し、和真に戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの時は本当にすまなかった……」

 

「いえ、大丈夫です…… もう、僕なりに気持ちの整理は着けましたから」

 

「そっか… それで? 何で俺の弟子になりたいんだ?」

 

和真は少年に本題を切り出した。

そもそも、和真は魔戒騎士としてはまだまだベテランとは言えない。

魔導馬でさえ、この前の少年を助けた戦闘で、漸く資格を手に入れたばかりなのだ。

故に和真に弟子を取るつもりは無かった。

 

だが、少年の瞳の奥に宿るものが気になり、話を聞いたのだ。

 

「それは……」

 

「復讐か…」

 

「ッ!? …… はい」

 

和真は、当てずっぽうで言った事が当たった。

 

復讐…… 考えてみれば当たり前の事だった。

少年はホラーに両親が憑依され、更に住んでいた村でさえ壊滅してしまったのだ。

 

こんな仕打ちを受ければ、復讐を志すのも無理は無い。

 

「敵は和真さんが討ってくれました。でも、またあんな化け物が人を襲うかもしれないでしょう? 僕はそれを止めたいんです!!」

 

和真は迷った。

動機は復讐だが、少年が志す物は間違いなく守りし者の心だ。

 

和真は少しだけ考えを改め始めていた。

 

「そうか… ならこいつを持ってみろ」

 

和真は、魔戒剣を少年に差し出す。

 

「こいつを持つことが出来たら、お前を弟子にしよう」

 

少年は、ゴクリと喉を鳴らして魔戒剣を手に取る。

そして、和真が魔戒剣を放すと……

 

「うわぁっ!?」

 

 

ドン!

 

 

魔戒剣は重量を変え、少年の手から落ちた。

 

「決まりだな。お前は魔戒騎士には成れない」

 

「どうして… ですか…」

 

「魔戒剣はソウルメタルで出来ている。ソウルメタルは持ち主の心の在り方によって重量を変える… 重くなったって事は、さっきの言葉が出任せだったって事だ」

 

「出任せなんかじゃ…!」

 

「復讐が目的なんだろ? それはソウルメタルを扱う上で一番危険な感情だ。お前が魔戒剣を使えるようになったって、鎧に食われるのがオチだ、ホラーの事は忘れて、普通に生きな」

 

「………くっ」

 

「それにな、魔戒騎士になるって事はこう言うデメリットを背負う事になるんだぞ?」

 

そう言って和真は、左目に着いているディルバを外した。

 

「……! それは!?」

 

「カズ君その目…!?」

 

ディルバの下にあるはずの和真の左目は、ぽっかりと空洞が空いていた。

 

「ディルバとの契約でな、左目か若しくは右目を代償に魔導輪ディルバの力を借りたんだ」

 

「どうしてそんな事を…!? カズ君!!」

 

「剣闘騎士の宿命だよ。父さんもディルバと契約していたし……」

 

和真はディルバを左目に戻し、少年の方を向いた。

 

「魔戒騎士になるって事は、日々地獄の様な試練をさ迷う事になるんだ。今のお前にそんな覚悟があるようには見えない、もう少しよく考えるんだな」

 

「………」

 

そして少年はとぼとぼと帰って行った。

 

「良かったのカズ君?」

 

「ああ、あいつは砕牙や玲司みたいに復讐を糧に生きそうだからな… 特定の相手がいるなら未だしも、あいつの敵は俺が倒しちまった…… どうしたものか」

 

〈弟子に位してやりゃあ良いのによぉ〉

 

「そうも行かないさ、どうせなるなら守りし者になって貰いたいしな」

 

そう言って和真は神社の中に戻っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんで…… なんで僕は駄目なんだ…」

 

少年は和真に断られてから、何故自分じゃ駄目なのかをずっと考えながら歩いていた。

 

「僕は…」

 

幾ら考えても答えは出ない。

そして考え事をしていれば、自然と視界が狭くなるもの。

 

「わっ!?」

 

「おっと」

 

少年は、一人のボロボロのローブを纏った男にぶつかった。

 

「す、すいません!! 前を見ていなかったから」

 

「いや、気にしなくていい。僕に怪我は無いからね」

 

「あ、ありがとうございます……」

 

少年はぶつかった男に謝罪をするが、男は人柄のいい人間だった様で、気にしないと言って少年を許した。

 

「それにしても…… 前が見えない程何を悩んでいたんだい?」

 

「え? いやでも…」

 

「いいから、話してごらんよ」

 

「…… じゃあ、お言葉に甘えて」

 

少年は、男に魔戒騎士の事を伏せて今までの事を話した。

 

「成程ね… 詰まりは、能力が足りなくて弟子入りを断られたと」

 

「はい…」

 

「それで? 君は諦めきれるのかな?」

 

「そんなわけ…… 無いじゃないですか!!」

 

「だろう? ならやることは一つ、自分を鍛えるしかない」

 

「自分を?」

 

「そう。試したらどうだい? 自分の力を」

 

「でも、どうやって…」

 

少年には、どうやって自分を和真に認めさせるか方法が分からない。

すると男が、それを打開する方法を授けた。

 

「人里の奥にある古い祠の御神体は、狼の鎧だそうだ。その鎧に認められれば、その人も君を認めるかもね」

 

「それが本当なら…… ありがとうございます!! 早速行ってみます!!」

 

少年は、天啓を得たとばかりに喜び、その祠に向けて駆けていく。

 

「ああっと! 君! 名前は!!」

 

「僕は神山睦月(かみやまむつき)! 貴方は!?」

 

「僕は、バルドだ!」

 

「ありがとうございました!! バルドさん!!」

 

少年、睦月は男に礼を言って、今度こそ目的の祠に駆けていった。

 

「フフフ… さて、餌は蒔かれた… どうする? 剣闘騎士」

 

そう言って男は、ローブのフードを取り払った。

その顔には、×印の傷痕がくっきりと痛々しく残っている。

 

バルドこと博麗啓示は睦月をみて、不敵に笑うのだった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここがバルドさんの言っていた祠か……」

 

睦月は、バルドの言っていた祠にたどり着いた。

 

「でも…… これじゃ祠っていうよりお寺かな?」

 

そこは、小さいが確かに鳥居があり、住職が住んでいそうな場があった。

 

「何かご用ですか?」

 

何時までも突っ立っていた睦月に気がついたのか、巫女と思われる女性が、赤ん坊を抱いてやって来た。

 

「あっ、すいません。ここにあると聞いた狼の鎧を探しているのですが……」

 

「狼の鎧? さぁ… 家にそんなものは無かったと思いますが…」

 

「そんな…… やっと…… 力が手に入ると思ったのに…」

 

期待した結果が得られず、崩れる睦月。

そんな睦月に巫女は言う。

 

「あの… 何があったかは知りませんが、もうすぐ夜になります。 危険ですし今日はここに泊まりませんか?」

 

睦月は巫女に言われて空を見ると、辺りは既に暗くなっていた。

 

「いいんですか? いきなり押し掛けたのに…」

 

「大丈夫ですよ。 家の人達は気がいい人ばかりですから」

 

そう言われ、睦月はその言葉に甘える事にした。

 

「(今日は人に助けて貰ってばかりだ…… その好意を無駄にしないためにも、明日こそ和真さんに認めて貰うぞ)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その夜、睦月は客間ですやすやと眠っていた。

丁度丑三つ時になった頃、事件は起こった。

 

 

きゃぁぁぁぁぁっ!!!!

 

 

「!?」

 

睦月は、巫女の上げた悲鳴で目を覚ました。

 

「どうしました!?」

 

「ほ、祠から……」

 

巫女は、信じられない様子で恐怖に顔を歪めて指を指した。

睦月は、指を指した方向をみるとそこには……

 

「シュァァァァ……」

 

無数の触手を生やした、獣型のホラーが、祠から這い出ていた。

 

「なっ!? 何でここにホラーが!?」

 

睦月の驚きを他所に、ホラーは触手を伸ばして寺の修行僧達を貪り食った。

 

「う、うわぁぁぁぁぁっ!!!! 助けてくれぇぇぇ!!!??」

 

修行僧達の血肉を口の端から溢しながら、ホラーは次に巫女と赤ん坊に狙いを付けた。

 

「きゃぁぁぁぁぁっ!?」

 

「危ない!!」

 

何とか睦月が間に合い、巫女と赤ん坊は触手に捕らわれずにすんだ。

 

しかし。

 

「あぁ、あぁ!! うわぁぁぁぁぁっ!!?」

 

巫女の後ろにいた修行僧が捕まり、ホラーに無惨にも食われてしまった。

 

睦月はその間、泣き叫ぶ赤ん坊と巫女にその光景を見せまいと、咀嚼音の響く境内で身を呈して二人を守っていた。

 

「ごめんなさい…… ごめんなさい……」

 

やがて咀嚼音は止み、睦月は怒りの眼差しでホラーを睨む。

 

「どうして… どうしてそんな残酷に人を殺せるんだ、この化け物がぁ!!」

 

睦月は、近くにあった斧を手に取り、ホラーの触手を叫びながら滅多打ちにした。

 

「化け物が! 化け物が!化け物が!化け物が!化け物が!化け物が!化け物が!化け物がぁぁぁぁぁっ!!!!」

 

しかし、ホラーにとってソウルメタルで出来ていない武器など、痛くも痒くも無い。

まるで蝿を叩くかの様に、ホラーは睦月を吹き飛ばした。

 

「ぐはぁっ!?」

 

「きゃぁぁぁぁぁっ!!!!」

 

「コァァァァァ……」

 

「く、そがぁぁぁぁ!!!!」

 

今度は丸太を掴んで打ち付けるが、呆気なく砕かれ、再び睦月を吹き飛ばした。

 

「ごはぁっ!!」

 

そして今度は睦月を食らおうと、ホラーはその触手をどんどん睦月に近づけていく。

 

「くそぉ……」

 

情けない事に悔しくて涙が溢れてくる。

憎いホラーを一体も倒せなかった事じゃない。

 

自分の後ろにいた、巫女とまだ生まれたばかりの小さな命を守れないことが、堪らなく悔しかった。

 

「チクショウ……!!」

 

睦月に向かって、遂に牙を剥いたホラーの触手が睦月に向かって襲い来る。

 

睦月が襲い来る恐怖に目を瞑ったその時。

 

 

ズバン!!!!

 

 

「ゴアァァァァァァ!?!?!?」

 

ホラーの触手は、一振りの剣によって斬り裂かれた。

その剣を握っていたのは……

 

「和真さん……」

 

「俺が来るまでよく耐えていてくれた。お陰で間に合ったぞ」

 

茶色のコートを身に纏い、左目に魔導輪ディルバを付けた和真だった。

 

「後は俺に任せろ」

 

和真は、睦月の服についた埃を払うと、未だ痛みにのた打ち回っているホラーに向けて足を向けた。

 

〈和真、奴は原罪ホラー エンリル。十年程前に盗み出されたホラーの短剣に封印されていたホラーだ。 そんなホラーが何故幻想郷に……〉

 

「そんなのは後でいい…… 今は、目の前にある命を守り、ホラーを討滅するのが先だ」

 

和真は、魔戒盾に魔戒剣を擦り付け、光の円を放ち、魔戒剣を突きつけて内側を砕いた。

 

砕かれた空間から、赤銅の鎧が召喚され、和真は義狼へと変身した。

 

『剣闘騎士 義狼〈 G I R O 〉…… 行くぜ』

 

漸く痛みから立ち直ったエンリルは、一斉にその触手を義狼の元へと殺到させる。

 

『そんなもの…… ッ!!』

 

しかし義狼は、持ち前のパワーを生かし、エンリルの触手を全て掴み取り、その巨体を投げ飛ばした。

 

『デェェヤァァァッ!!!!』

 

「ゴアァッ!?」

 

 

ドォォォォォン!!!!

 

 

その巨体が地面に激突すると、地面を揺らし、亀裂が走る。

 

義狼は、義狼盾と銅狼剣を合体させ、義狼斬斧にする。

 

『オオオオオオッ!!!!!!』

 

義狼は、その巨斧に魔導火を着け烈火炎装を施す。

オレンジ色の魔導火に彩られた義狼斬斧を振り上げ、エンリルに向かって振り下ろした。

 

『ダァァァァァァァッ!!!!!!』

 

地面に叩きつけられた、巨斧は地面に更なる亀裂を作り、その亀裂を走って魔導火がエンリルに襲い掛かる。

 

「ゴガァァァァァァァッ!?!?!?」

 

煉獄火葬…

烈火炎装を扱える魔戒騎士の奥義中の奥義。

下手をすれば自分すらも焼きかねないが、今回はエンリルが作った亀裂が道筋となり、スムーズに技が決まった。

 

「シュァァァァ……」

 

エンリルは魔導火に焼かれながら、か細い断末魔を上げて消滅した。

 

義狼もそれを見届けて、鎧を解除し、和真へと戻った。

 

和真は睦月の元へ歩いていくと、睦月はその場で泣き崩れた。

 

「どうした」

 

「僕は… 何も守れませんでした……!! もう二度! 僕と同じ様な人間を、出したく無かったのに……」

 

「…… 俺達魔戒騎士だって神様じゃねえ。どんなに頑張ったって、守れない物だってある。でもな、大切なのは、失った事を悔やむ事じゃなくて、また同じ事が起こらねぇ様に考える事なんじゃないか?」

 

不意に睦月が振り向くとそこには、生き残った修行僧と抱き合っている巫女と抱かれて眠っている赤ん坊がいた。

 

その姿をみた睦月は意を決して和真に再度頼み込んだ。

 

「お願いします!!!! 僕に、ホラーと戦う術を教えてください!!!! どんな苦しみも、どんな試練にも耐えてみせます!!!! だからどうか……」

 

「顔を上げろ」

 

睦月は和真に言われて、涙に濡れたその顔を上げる。

 

「お前、名は?」

 

「…… 神山睦月です……」

 

「わかった。睦月、お前を立派な魔戒騎士に育て上げてやる。泣き言は聞かないから覚悟しろ」

 

「はい、師匠!!」

 

和真は睦月へ手を伸ばし、睦月はその手を掴んだ。

此処に、新たな魔戒騎士の卵が誕生したのだった。

 

「そういえば睦月、お前何で此処に居たんだ?」

 

「えっと…… 僕が此処に居たのは…」

 

睦月は、此処に来るまでの経緯を逐一漏らさず話した。

すると和真は、バルドの名を出した所で表情を険しくした。

 

「バルドだと!?」

 

「バルドさんを知っているんですか?」

 

「知っているも何も…… 奴は最低最悪最凶の魔戒騎士、暗黒騎士 狼暴〈 R O B O 〉だ。俺の仲間の親を殺した奴を知らない訳が無い」

 

〈これで繋がったぜ、エンリルを幻想郷に連れてきたのはバルドだ〉

 

「睦月、バルドは確かに鎧が祠にあると言ったんだな?」

 

「はい、確かに」

 

和真がエンリルの這い出てきた祠の中に入ると、そこには黄色い鞘と柄、そして天使の羽がデフォルトされた紋章が刻まれた魔戒剣があった。

 

「これは!? 救済騎士の魔戒剣!? 」

 

「救済騎士?」

 

「狼暴が暗黒騎士になる前の…… 救済騎士 狼望 だった時の魔戒剣だ… それがどうして… ディルバ、こいつはデスメタルか?」

 

〈いいや違うなぁ… 正真正銘ソウルメタルだ〉

 

和真は狼望の魔戒剣をディルバに調べて貰ったが、暗黒騎士の鎧や魔戒剣に使われているデスメタルでは無く、反転する前のソウルメタルだった。

 

「反転した筈の魔戒剣が何故ここに… 兎に角、この事を砕牙達に話さないとな」

 

今分からない事を考えても仕方がないと考えた和真は、魔戒剣を回収して祠を出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「フフフ…… 見つけたか……」

 

バルドこと啓示は、狼望の魔戒剣を見つけた和真と睦月を遠くから眺めていた。

 

「バルド様… 何かいい事でもありましたか?」

 

すると背後に、黒いドレスの様な魔法衣を着た女性が現れた。

 

「何でも無いよアリシア…… まだパーティの準備は終わっていない。早くアンザスを、この幻想郷に降臨させねば…… アッハッハッハ!!!!」

 

魔法衣の女性、アリシアに何も無い事を伝えると、啓示は高笑いをして、アリシア共々闇の中に消えていった。

 

暗黒騎士 狼暴〈 R O B O 〉博麗啓示………

彼の真意を知るのは…… まだ先の事の様だ……




友よ、覚えているか?

お前達と共に戦った日々が、まるで昨日のようだぜ

お前達の息子は、立派に成長したぞ


次回 流牙


悲しい原点が、明かされる…
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