「貴方達、番犬所に行くわよ」
全ては、この八雲紫の不機嫌な一言から始まった。
「どうしたのよ?紫」
「番犬所?外の世界に行くんですか?でも今、幻想郷から出られませんよね」
「今朝早くにメメが私のところに来てね、これを渡してきたのよ」
紫は黒い封筒を砕牙に手渡す。
砕牙は黒い封筒を訝しげに見ながら魔導火を着けた。
「『幻想郷に所在している全ての魔戒騎士、及び魔戒法師に命ずる。
この度、度重なるホラーの出現に危機感を覚えた我ら元老院は幻想郷に新たな番犬所を設立する事に決定した。
そこで、諸君には新たな番犬所に出頭して貰いたい』…… 成程、新しい番犬所か」
「あの神官共! 遂に我が物顔で幻想郷にまで手を出してきたか!だから番犬所は嫌なのよ…… 余計なことしかしないし」
どうやら紫は、最後まで幻想郷に番犬所を設立することを拒否していたらしく、それを無理に押し通された為に、不機嫌になっていた様だ。
「まあまあ紫さん。取り合えず指令なんだし、行かない事には始まらないでしょ?」
「…… そうね。幸い、此方の神官は適任が居たから完全に元老院の手元ってわけでもないし…… それでよかった事にしましょ」
不機嫌ではあったものの、何とか怒りを抑えた紫は、砕牙と霊夢を引き連れて新しい番犬所へと向かった。
「フッ…… 漸く幻想郷に番犬所を置いたか。愚鈍すぎるぞ、元老院」
幻想郷に番犬所が設立される事は勿論この男、バルドの元にも届いていた。
バルドは元老院の遅い対応を嘲笑いながら、次の計画の準備を進めていた。
「あの……」
「む?」
すると、後ろからバルドの右腕、アリシアがやって来るが、その表情は戸惑いの色があった。
「今は、
「フッ…… 私は私だ。それ以外に何がある」
「! 失礼しましたバルド様。 私も見分けられる様になれれば良いのですが……」
「いい、気にするなアリシア」
「ありがとうございます」
バルドからの言葉を得たアリシアは、顔を綻ばせ、喜びに満ち溢れながら下がった。
そんなバルドに、自分自身とよく似た声が頭に響く。
〈今度は何をするつもりだ……!〉
「フン、知れた事。勿論、邪魔な魔戒騎士のガキ共に退場してもらうのだよ」
〈そんな事、これ以上僕の身体でさせるものか!!〉
「黙れ!暗黒騎士となった今、身体の主導権がこの私にあることを忘れたか!! 啓示!!」
〈くっ……!〉
声の主、本物の博麗啓示は恨んだ。
暗黒騎士になるしか救いが無かった事を。
そして、それにより生まれた邪悪な人格に心奪われた事を……
〈(すまない、砕牙君、霊夢。不出来な僕を許してくれ…… 今では、僕が表でいられる時間の方が短い…!そんな中で睦月君に逢えたのは幸運だった。彼なら、きっと僕の意思を継いでくれる筈だ……!)〉
啓示は、自分で行動出来ないもどかしさを感じながらも、後輩の魔戒騎士達の無事を祈るのだった。
「ここよ」
紫達は、新しい番犬所の前に来ていた。
しかし番犬所が建てられた場所は、驚きの場所だった。
「紫…… 何で依りによって地獄なのよ!?」
そう、それは死者の国である地獄だった。
「仕方ないじゃない。一般人が出入り出来ないように、尚且つ元老院でも簡単に手出しが出来ない場所が地獄しかなかったのよ」
「まさか生きたまま地獄に来る日が来るなんてな」
〈俺様も長く生きているが、初めての経験だぜ〉
霊夢が番犬所の場所にツッコミを入れ、砕牙とザルバは、何故か初めて来る地獄に目を輝かせていた。
そんな事をしながら入ると、広間には既に砕牙達以外の魔戒騎士と魔戒法師達が待機していた。
「よう、砕牙」
「玲司、それに和真も」
「俺達だけじゃねぜ、見ろよ」
和真に指された方向を見ると、そこには妖夜が目を閉じて柱にもたれ掛かっていた。
「来てたんだな。妖夜」
「フン… 気安くするな。幽々子様が出席なさるのに従者である僕が出席しない訳には行かないから来ているだけだ」
しかし、妖夜は砕牙に相変わらず厳しく、刺々しい物言いをして、関わるなと言う雰囲気を醸し出していた。
「ったく、愛想の無い奴だぜ」
「今はあれでいいさ。和真、睦月はどうした?」
「ちゃんと連れてきている。彼奴も魔戒騎士の端くれだからな」
「あの…… 砕牙さん」
「どうした?睦月」
すると、妙に神妙な顔つきをした睦月が砕牙に呼び掛ける。
「あの… 実は、修行をつけて貰いたくて……」
「修行? それは師匠の和真に…… あっ」
睦月は砕牙に修行をつけてほしいと頼み込んだが、睦月は既に和真という師匠がいる身、故に断ろうとしたが、あることに気がついた。
「確かに俺は師匠だし、ある程度は教えられるんだが……」
「そうか、救済騎士は黄金騎士に属する称号だったな」
「はい。だから、黄金騎士の剣技を必然的に身に付けてなくてはならなくて」
救済騎士 狼望は、牙狼と同じく黄金の鎧を纏う騎士なのだ。
だから黄金騎士の剣技を学ぶ必要がある。
しかし和真は黄金騎士に属する魔戒騎士ではないので黄金騎士の剣技は教えられない。
故に、砕牙はお鉢が回ってきたと言う事だ。
「話は分かった。そう言う事なら喜んで引き受けるよ」
「ありがとうございます!!」
そう言う事なら和真に遠慮する必要は無いと思った砕牙は、暫くの間、睦月に黄金騎士の剣技を教えることにした。
「相手が欲しくなった時は何時でも言ってくれよ? 組み手相手にぐらいはなってやるからさ」
「ありがとうございます! 玲司さん!」
そうしていると、広間の先にある神官の間へ通じる扉が開き、そこから神々しい雰囲気が漂う。
『こちらへ』
その声を聞いた一同は、神官の間へと足を踏み入れたのだ。
神官の間には、緑色の髪をした少女が鎮座していた。
ただそこに座っているだけだったが、彼女が放つ強い気と、手にしていた杓が更に存在感を増していた。
「ようこそ番犬所へ。私はここの神官に任命された四季映姫・ヤマザナドゥです」
彼女の名は四季映姫・ヤマザナドゥ。
幻想郷の地獄の閻魔大王で、この新しい番犬所の神官に任命された人だ。
「お初にお目にかかります映姫様。黄金騎士 牙狼 道外砕牙」
「同じく、銀牙騎士 絶狼 凉邑玲司」
「同じく、剣闘騎士 義狼 雨宮和真」
「同じく、幽玄騎士 魄狼 魂魄妖夜」
「そして、幻想郷全ての魔戒法師、指令の通りに全て集いました」
砕牙はこの言葉で締めくくり、片膝を突くと、それに倣って三人も膝を突き、霊夢達魔戒法師も膝を突いた。
「面を上げて下さい」
映姫の一言で、全員が元の姿勢に戻る。
そこで、映姫による説明が始まった。
「何で映姫が神官なの?」
「ちょっ!? 霊夢!! 神官だぞ!?」
「良いのです道外砕牙、彼女達とは縁が深いので何時もの感じでいてもらわないとこちらが困ります」
「でも確かに知りたいわねぇ~ 何故貴方が神官なの?」
幻想郷の住人にとっては幽々子と霊夢の質問は至極当然のものだった。
少なくとも、彼女達の知る映姫は受けるとは思わない。
「それは八雲紫に懇願されたからですね」
「そうなんですか?」
「ええ。
「でも、閻魔の仕事は……」
「それなら問題ありません。人数を他の地獄から補充してくれるそうなので」
実は映姫が神官になっているのは紫が頼み込んだからだそう。
過去の出来事から番犬所を余り信用していない彼女は閻魔大王である映姫を神官にすることで、元老院からの過度な干渉を防ぐつもりなのだ。
「ま、と言っても指令がこうして届いているわけなのですが…」
「うそぉ!?」
「さて、ここからが本題です。魔戒騎士四名、前へ」
「「「「はっ」」」」
砕牙達が映姫の前に来ると、映姫から黒い封筒がそれぞれに手渡される。
「また黒い封筒……」
〈幻想郷に来てからは本当に数が増えたな〉
「元老院からの直々の指令です。内容は……
『幻想郷に所在する魔戒騎士に命ずる。
真魔界にて無数のホラーが生まれ出でている。
本来ならば後、数百年の間が生じる筈だが、真魔界にて百体のホラーが人間界に解き放たれようとしている。
急ぎ、魔導馬にて魔界に突入し、ホラーを討滅せよ。』と、その指令書には記されています。」
「了解しました」
砕牙達は、指令の内容を映姫から聞き取ると、準備をするために一度戻ろうとしたが……
「それと、今回の指令は魔戒法師に宛てられた物では無いので、魔戒法師達は参加できません」
映姫によって、魔戒法師達の不参加が告げられた。
「そんな!?」
「何故ですか!?」
当然そんな事は聞けないと霊夢達は反発するが……
「魔界に無事に突入する為には魔導馬が必須です。魔導馬はホラーを百体狩り、内なる影に勝った者に与えられる力です。この四人は魔導馬を召喚できます。それに魔戒法師は生身の人間です。生身の人間には魔界の力に耐えられません」
映姫の正論により封殺されてしまう。
ここに来て、魔戒法師と魔戒騎士の違いが出てしまったことに、霊夢達は悔しさを隠せなかった。
「大丈夫だよ」
そんな中、砕牙は笑顔だった。
「俺達、絶対に死ぬつもりは無いから」
そんな砕牙の笑顔は、皆を安心させるのには、充分だった。
博麗神社にて……
「これで…… よし」
砕牙は諸々の準備を終えて、集合場所へと向かおうとしていた。
何時もの様に黒い魔法衣を身に纏い、魔戒剣を抜いて刃こぼれや歪みを確かめて戻す。
一連の動作を終えた砕牙は、ザルバを指に填めて博麗神社を出発しようとした。
「まって、砕牙」
鳥居を潜ろうとした時、霊夢が砕牙を呼び止めた。
「やっぱり…… 行くのね…」
「ああ。行かなきゃ、沢山の人が犠牲になる。それだけは絶対に防がないと」
「そう…… だよね。そうじゃなきゃ、最強の魔戒騎士 牙狼は勤まらないもんね」
本当なら霊夢はここで止めたい。
しかし、それは出来ない。
砕牙には背負っているものがあるから。
遥かな古から受け継いだ…… 戦士としての、騎士としての使命があるから。
「ホントはね? 砕牙の事… 行かせたくない。でも、砕牙は優しいから…… 誰に頼まれなくても、憎まれても人々を救う。それが貴方だから…… だから……」
霊夢は、少し高めの位置にある砕牙の顔に少し背伸びをして自分の顔を近づける。
そして静かに、優しく砕牙の唇に自分の唇を重ねた。
数十秒と満たない僅かな時間だったが、それでも霊夢は、それでもいいと思っていた。
「だから、必ず戻ってきて。まだ伝えたい事、いっぱいあるから!」
泣き顔とも笑顔ともとれるその顔は、砕牙に、強く優しい決意をさせた。
自分の中で渦巻いていた疑問が漸く解かれた感覚がした砕牙は、穏やかな顔つきで霊夢を見つめる。
「ああ…… そうか…… そう言う事だったんだ……」
「砕牙?」
「必ず、戻ってくる。俺も、霊夢に伝えたい事があるから」
「……… うん!」
そうして砕牙は博麗神社から旅立つ。
だが、今の砕牙は敗北すると言う感覚を全くといっていい程感じていなかった。
〈いいのか砕牙? まだ時間はあるぞ〉
「ありがとうザルバ。でもいい。戻ってちゃんと伝えるよ」
集合場所には既に玲司、和真、妖夜の三人は着いていた。
「おっ! 来たな」
「ったく、待ちくたびれたぜ」
「フン、黄金騎士が最後とは、いい身分だな」
〈妖夜、過度に突っかかるのは、騎士としての品格を下げますわよ〉
着いて早々嫌味を飛ばす妖夜をカルヴァが嗜めるが、妖夜は全く悪びれた様子は無く、平然としていた。
〈まぁまぁ、いいじゃ無いの〉
〈ああ、こいつらの問題だ。こいつらでなんとかするさカルヴァ〉
〈さて、これで全員集まったわね〉
シルヴァの一言で、四人は顔を引き締める。
先程のリラックスした顔から一転、そこに普段の少年達は存在せず、戦士の顔がそこにはあった。
四人は黒い指令書を重ね合わせ、そこに魔導火を着けて、今一度内容を確認する。
「『今回の指令は、互いの魔導輪を交換して当たるべし』だそうだ」
「魔導輪を? 一体何の為に?」
「知らん。だが、指令である以上実行するしかないだろう」
そう言うと、四人は一斉に魔導輪を外し、各々に渡した。
「よろしくね。カルヴァ」
〈はい。此方こそ、よろしくお願いいたしますわ〉
砕牙にはカルヴァが。
〈今日は、私が貴方の目よ。和真〉
「ああ、頼むぜシルヴァ!」
和真にはシルヴァが。
「よろしくな。ディルバ」
〈おうよ! 任しときな!玲司!〉
玲司にはディルバが。
「…… お前の力、僕に見せてみろ。ザルバ!」
〈ああ、お前さんもな、妖夜〉
そして妖夜にはザルバが渡された。
「いいか? 召喚すると同時に魔導馬を召喚、一気に最高速度で魔界に突入し、ホラーを殲滅する」
砕牙の手順の確認に、三人はコクリと頷いた。
「よし…… 行くぞ!」
それを確認した砕牙は、魔戒剣を抜き放って天に掲げる。
それと同時に三人も、鎧を召喚する体制に入り、四人は同時に円を描いた。
四つの光の円が砕け、そこから眩いばかりの光が辺り一面を照らした。
そしてその光が収まった瞬間……
「「「「ヒヒィィィィィィィン!!!!」」」」
『『『『ハアッ!!!!』』』』
力強い鳴き声と共に、狼の鎧を纏った騎士達が、自身の騎馬に乗って颯爽と現れた。
金色の体を持ち、赤い鬣を靡かせながら疾走する魔導馬は、牙狼の轟天。
白銀の体に青い鬣を靡かせ、額の一本角を輝かせる魔導馬は、絶狼の銀牙。
赤銅の体に二本角、肩に銛の様な武装を施し、茶色い鬣を靡かせて豪快に走り抜けるのは、義狼の剣山。
深緑の体に若草の鬣を靡かせ、霧を纏って、まるで幽霊の様に軽快に走り抜ける魔導馬は、魄狼の霊魂。
四人の騎士と、四匹の騎馬達は、どんどん速度を早めながら、闇夜を駆け抜ける。
〈そろそろ魔界のゲートだ! 気を引き締めろよ!!!!〉
『承知!』
ザルバ達魔導輪がゲートの存在を報せるのと同時に、ゲートから、無数の素体ホラーが出現する。
『こいつら!! 僕達に気づいて!?』
〈来るぞぉ!!!!〉
近づくホラー達を、次々と切り伏せていく騎士達。
『ハアッ!!』
『ウオォォッ!!!!』
〈もうすぐゲートよ!!〉
〈頑張って下さいまし!!〉
そしてホラーを切り伏せながら、着々とゲートへ近づく騎士達。
『『『『オオオォォォォオオオッ!!』』』』
力を振り絞って、ホラー達の追撃を躱し、真魔界へ突入した。
ゲートを潜り抜けると、そこは魔界の空。
辺り一面曇りに覆われた空と、無数の岩場と果てなき荒野。
四人の騎士達は、高々とそびえ立つ岩場の一角に降り立った。
『『『『なっ!?』』』』
そこで見た物は……
『バカな!? 何だこのホラーの数は!?』
『指令書には百体と書いてあった筈だろ!?』
『どう見てもこれは百体以上いるだろ……』
果てなき荒野にひしめく、無数のホラー達。
その数は、目算でも軽く千体は越えていた。
『どうする砕牙。この数は…』
絶狼は、この事を報せに戻るか躊躇した。
今戻れば千体を越えるホラー達が一斉に幻想郷を覆い尽くし、そこから人間界へと侵攻するのは目に見えていた。
絶狼は恐れたのだ、この無数のホラーの大群衆に向かっていく事を。
しかし、そうしてしまえば自身が愛した者を守ることが出来ない。
使命と恐怖、この二つの葛藤が、彼の剣を鈍らせていた。
そしてそれは…… 義狼と魄狼も同じだった。
だが、牙狼 ―――― 砕牙だけは違っていた。
この大群衆を前にしても、何時もの堂々とした態度を崩さず、ただ静かに…… ホラー達を見据えていた。
『俺は……』
そして三人に諭す様に、牙狼は語る。
『遥かなる古の時代から、俺達はホラーを狩ってきた…… そこにホラーがいるのなら、俺達が戦わない理由は無い筈だ』
そして牙狼は、轟天をホラーの大群衆に向ける。
『俺に続け! 俺達は…… 魔戒騎士だ!!!!』
牙狼はそう叫ぶと、轟天と共にホラーの元へと岩場から駆け降りて行く。
『ああ…… そうだったな…… 俺達も行くぞ!』
『へっ! 一瞬でも躊躇った自分が馬鹿みてえだぜ!』
『フン……』
その姿に触発されたのか、絶狼、義狼、魄狼は後を追うように駆け降りて行った。
『ハアァァァァァァアアッ!!!!』
牙狼は、轟天でホラーのど真ん中を突っ切りながら全力で牙狼剣を振り回す。
その衝撃で、一度に五、六体のホラーを倒し、更に先へと進んでいく。
『ウオォォッ!!!!』
絶狼は銀牙と共にアクロバティックにホラーの間を駆け抜けながら銀狼剣で切り裂き、銀牙の角でホラーを数体串刺しにする。
『ドオォォリャァァァァアア!!!!』
義狼は剣山で撥ね飛ばされたホラーを銅狼剣で真っ二つにし、剣山の肩に装備されている銛を使って巧みにホラーの数を減らしていく。
『ズアァァァァァッ!!!!』
魄狼は霊魂の固有能力、透明化でホラーの攻撃を掻い潜っていた。
しかし、魄狼剣と狼観剣は実体化させたままにしていたが故に、ホラー達は魄狼と霊魂が通る度に消滅していった。
ある程度殲滅して、再び岩場に登った四人が振り返ると……
『そんなバカな!?』
倒した筈のホラーが、地面から這いずり出てくる。
『どうなってるんだ……?』
〈あれだ! あれがホラーを発生させているオブジェだ!〉
ザルバの示す場所を見ると、そこには周りの岩場など比べ物にならない程巨大な塔がそびえ立っていた。
塔から荒野へ雷が落とされると、そこからホラーが出現する。
『どうすんだ!? さっきより数が増えちまったぞ!?』
『烈火炎装を使う。それを魔導馬にも施して一気にあのオブジェに突っ込む…… お前達、烈火炎装は使えるよな』
牙狼の言葉に三人の騎士はコクリと頷き、それぞれの剣を構えて烈火炎装を使う。
絶狼は蒼色の炎を、義狼は橙色の炎を、魄狼は桃色の炎をそれぞれ、鎧と魔導馬に纏う。
それを見た牙狼は、自身も牙狼剣に緑色の魔導火を纏わせてそこから鎧、轟天と魔導火が包み込んでいく。
そして炎に包まれた騎士と騎馬達は、一気にオブジェに向かって、ホラーの大群衆の中に飛び込んでいった。
『『『『ウオォォォォォォオオッ!!!!』』』』
炎に包まれた騎士と騎馬達の前に、ホラー達は為す術なく撥ね飛ばされ、踏み砕かれ、魔導火によって燃やし尽くされた。
『『『『ハアァァァァァァアアッ!!!!!!』』』』
気合いの籠った叫びと共に、四人と四匹は巨大にそびえ立つオブジェに突っ込んだ。
烈火炎装状態の四人の魔戒騎士と四匹の魔導馬に突撃されたオブジェは数秒、何事も無かったかのように鎮座していたが、徐々に各部からひび割れが起こり、そのひび割れから、四色の魔導火が吹き出して……
ドゴオォォォォォォォォォン!!!!!!
オブジェは、魔導火の大爆発と共に崩れ去り、崩壊していった。
周りにいたホラー達も、魔導火の大爆発に巻き込まれ、このオブジェから生まれたホラーは全て魔導火に焼かれ消滅していった。
牙狼達は、オブジェ後部を突き破り、大爆発が起こったと同時に、ゲートで真魔界から幻想郷へと帰還した。
「ぐはっ!?」
「うぐっ!?」
「ごふっ!?」
「ぐっ… !?」
ゲートを突破し、幻想郷へと帰還するのと同時に砕牙達は、鎧を解き、魔導馬を返還した。
真魔界にいたこといより、普段よりも鎧を長く使っていた事と、烈火炎装を使った事により、彼らは疲れはて、その場に倒れてしまった。
「はぁ……! はぁ…… ! やったな!!」
和真が眼帯からシルヴァを外して玲司に渡す。
「ああ…… かなり疲れた……」
和真からシルヴァを受け取った玲司はグローブからディルバを外して和真に返し、和真はディルバを元の眼帯に着け直す。
「………」
「おっと! ……… はい」
「………」
妖夜はザルバを砕牙に投げ渡し、砕牙はザルバを受け取って指に嵌めると、カルヴァを首から外して妖夜に返し、妖夜はそれを無言で受け取った。
そしてそのまま立ち上がり、砕牙を見据える。
「僕はお前を認めない…… だが… 考えは改める。すまなかった…… 危うく足手まといになる所だった」
〈それではまた。ごきげんよう〉
それだけ言うと、妖夜は砕牙に一礼をして、その場を去っていった。
恐らく白玉楼に帰るのだろう。
「さてと…… 俺も紅魔館に帰るかな」
〈ええ、咲夜達心配してるわよきっと〉
玲司も、シルヴァと談笑しながら紅魔館へと帰り……
「早く、こっちーやの奴を安心させてやらねえとな♪」
〈きっとまたおおっぴらに泣くんだろうな…… 早苗の嬢ちゃん……〉
「…… その事を忘れてた……」
和真は、守矢神社に帰る為に歩き出すが、包まれたディルバの一言で、早苗をどう慰めるか考えながら帰っていった。
そしてその場に残ったのは砕牙だけとなった。
「…… 生き残ったんだよな……」
〈ああ。お前の御先祖の冴島鋼牙にも負けず劣らずの戦いぶりだったぞ〉
「あの伝説の黄金騎士の?」
〈ああ。彼奴にも今回と似たような状況があったからな……〉
ザルバは昔を懐かしむ様に目を細めた。
「そっか…… なんか嬉しいな、ザルバから冴島鋼牙に負けてないって言われるのは」
〈フッ…… 俺様もたまには褒めるさ。それよりいいのか? 愛しの巫女様が待っているんじゃ無いのか?〉
「そうだ…… 霊夢!」
ザルバの一言で思い出した砕牙は、一目散に博麗神社に向かって、自分のもてる最高の速度で走った。
神社へと続く道を駆け抜け、長く続く階段も一気に駆け上がり、鳥居を潜って砕牙は叫んだ。
「霊夢!!!!」
すると、神社から恐る恐るといった感じで霊夢は顔を出した。
「砕牙……?」
一瞬、目を点にして驚いていたが、直ぐに顔を綻ばせ、目に涙を浮かべながら、砕牙に走りよる。
「砕牙ぁ!!!!」
砕牙も、霊夢が来るのを待てないようで、霊夢に向かって走りよっていった。
そして霊夢は砕牙の腕に飛び込み、砕牙は霊夢を受け止め、くるくると回転て衝撃を逃がし、霊夢を抱き締めた。
「…… ただいま、霊夢」
「おかえりなさい………!砕牙!」
固く抱き締め合う二人、数秒抱き締め合うと、少し体を離してみつめあう。
「霊夢…… いきなりだけど、俺の話を聞いてくれる?」
「……… うん」
「前に言ったし、霊夢にも聞いたよね? 俺にとって霊夢がどういう存在なのか…… それが漸く分かったんだ」
「うん…」
「最初はパートナーだと思った…… でも違ったんだ。それを必死になって考えて…… そして見つけた」
「うん…… 私は、砕牙にとってどんな存在なの?」
砕牙は少し深呼吸をして、呼吸を整えた。
体に胸を預ける霊夢の女の子特有の肌や胸の柔らかさや直接伝わる心臓の鼓動にドキドキして緊張していたからだ。
そして…… 砕牙は意を結して霊夢に告げた。
「俺にとって君は、守るべき愛する人だ。突然こんなこと言うのは変だと思うけど…… 俺と…… 結婚を前提に付き合ってくれないか?」
突然の告白に霊夢は息を飲むが、直ぐに顔を赤くして、目に涙を溜める。
「ううん…! 可笑しくないよ…! だって…… 私も砕牙に同じ事言おうとしてたもん!」
「えっ… じゃあ…!」
「うん! 私も愛してる!! 砕牙ぁ!!」
再び霊夢は砕牙の首に腕を回して飛び込み、砕牙はそれを受け止める。
「これから…… ずっと一緒だよ…… 砕牙」
「ああ… ありがとう。そして…… 愛してる霊夢」
二人は同時に顔をお互いに近づけ、互いの愛を確かめる様に、深く口づけを交わした……
己の心と信念にズレを感じる霊狼
その葛藤が、彼の行く道を崩して行く…
次回 心 ~Heart~
その刀が斬るのは、迷いか陰我か、それとも自分か