BoB予選の一週間前、キリトは射撃場にいた。
シノンに無理矢理返された銃――ファイブセブンを構え人型の的を狙って撃つ。
放たれた銃弾のほとんどが的の端に当たり、中央付近には一発も当たっていない。
「…はぁ、全然当たらん」
ファイブセブンは他の銃と比べると反動も少なく、マズルライズ――発砲時の銃口の跳ね上がりもかなり抑制されていると聞いているだけに、キリトの気分は沈む。
だが、いつまでもそうしているわけにもいかないので溜息を吐いた後、再び銃を構えて別の的が出てくるのを、どうすれば上手く撃てるようになるのかを考えながら待つ。
――この二週間、街の外に出る事なくずっとこんな簡単な練習を続けているのにはそれなりの理由がある。
せっかくGGOに来たのだから光剣だけに頼らず、しっかりと当てられるようにしたいから。
この辺りの地形も、練習に適したモンスターの出現場所も知らないから。
実弾銃の射撃訓練は大量の予備弾倉を必要とし、かなりのお金がかかるが、この射撃場に限って言えばそれが無料で支給されるから。
など他にもあるが、たぶん誰かに聞けば一発で解決できそうな問題も多いだろう。
しかし、今の時期は聞いた人がBoBの参加者だったとかになりやすい。
彼らにも準備しなくてならない事がたくさんあるだろうに、敵に塩を送るような真似はさせたくない。
「一番手っ取り早いのは攻略サイトを見る事なんだろうけど、それはそれでしたくないしな」
それに、こういう分からない事を自力でなんとかするのもゲームの醍醐味だろう。
そういう事にして、キリトは人気のない射撃場で無駄玉を量産していく。
「距離もあんま無いはずなんだけど――うーん、おっかしいなぁ」
――構えか?構えが悪いのか?それとも銃自体が俺に合ってないとか。
仕切りによって、誤って弾が横の人に当たらないようになっている四つほど向こうの区画から、くくっ、という思わず漏れてしまった風な笑い声が聞こてきた。
「…………」
独り言を聞かれた事で恥ずかしくなったキリトは急きょ本日の訓練を切り上げ、都市散策に繰り出す事にする。
――うん、やっぱり今いる都市の店の位置の把握は必要な事だよな。
射撃場を出た後メニューを開き、時間を確認すると午後6時。
晩御飯まで後一時間半くらいだけど小腹が空いてきたから、適当にカフェ的なところにでも入るか――と、その時。
キリトの脳内にピロリン、というメッセージの届く音が響く。
訓練切り上げてちょうど良かったな――と思いながら開くと相手はレンからだった。
『こんばんは!今時間空いてますか?もし暇なら会って話がしたいので連絡下さい』
「………?」
わざわざ会って話すような用事でもあるのだろうか。
メッセージに内容を記さないということはそれなりに重要又は長い話なのだろうが。
こういう時アニメの中とかでよく見る、いわゆる念話みたいなものが使えると楽でいいなと思う。
が、どうやらそれが使えると無線機の存在が無駄になってしまうらしい。
それでもせめて街中だけでいいので実装されないかなと願いながらホロキーボードで返事のメッセージを打ち込む。
『わかった。場所はこの前一緒に入った店で、時間は今から10分後で問題ないな?』
するとすぐに、
『OK』
――と返事がくる。
10分後、というのは遅くとも、という意味でもある。
おそらくたった今ログインしてきたのだろうレンが街の外に居るわけがない。
そう思っての時間指定だが、呼んだキリトが遅いというのは相手に失礼だろう。
気持ち早めの足取りで、3分くらいで店に着いた。
席の指定はしていなかったので、店の前で待つ事2分。予想通りすぐにレンはやってきた。
「こんばんは!」
「こ、こんばんは」
相変わらず小さいレンと軽い挨拶を交わして店の中に入る。
どうやら、今回はピトは呼んでいないらしくレンは一人のようだった。
「とりあえず、何か食べながら話そっか!」
――というレンの提案に乗り、サソリ料理なるものに手を付けながらまずは近況報告をする流れに。
「――って事は、レンはブロックが違うのか」
「勝負は本戦までお預けだね!」
レンの話だと、レンはBブロック、ピトはCブロックに振り分けられたらしい。
ピトと同じCブロックになったキリトは喜んでいいのか分からず、苦い顔をしている。
出来れば本戦で思いっきり闘ってみたかったからだ。
「レンは自信満々だけど、もしかして何度もBoB本戦に参加してたりなんか…」
「――しないよ?ピトさんに勧められて、今回が初参加」
の、割には予選で当たる相手の事など歯牙にもかけていない様子なのは何故だろう。
ちなみに、未だにGGOでのアバターを見た事のないアスナはGブロック、シノンも同じくGブロックらしい。
これまた両方が本戦に出てくる可能性は残念ながら低いだろうと思うが、もしかしたらアスナが奇跡を起こすかもしれない。(シノンはどうせ勝ち上がってくるだろうから心配していない)
こっちも全力で本戦まで勝ち抜けば、二人と戦う未来もあるのだろうか。
「――で、そのピトさんの事なんだけど…」
レンはキリトにこれまであった事のほとんどを話した。
それを聞いてキリトは――――