一回戦での失敗を教訓にし、キリトは予選を次々と勝ち進んでいく。
基本的に隠れながら戦うGGOのPvPは長期戦になる事が多い。
そんな中、近接型有利の狭いステージでセオリーを無視して特攻してくるキリトに対応できる者はいなかった。
しかし相性の問題もあるが、あっという間に敵を斬り伏せてほぼ無傷で勝ち上がれたのはキリト用の対策を取る時間や情報が足りなかったからだ。
待機場にはモニターがあるが、そこに映されているのは全てブロック別となっている。
それは、誰がどんな武器を使うか、どんな戦法を取るか。
そういった情報が本選までに他のブロックに漏れないようにするためだ。
もちろん有名なプレイヤーはほとんどのプレイヤーが研究済みで意味のない事なのだろうが、キリトにとってはその限りではない。
自己分析したところ、キリトの戦術には欠点が多い。
例えば一回戦で使われた
近づかなければ何も出来ないキリトは敵の罠にも飛び込まなければならない。
その穴をどれだけ埋められるかが今後の課題になるだろう。
「ま、その前に目の前の予選か」
待機場にて次の相手が決まるまで待っていたキリトの視界にパッと文字が映る。
『次の対戦者:ピトフーイ 試合開始まで残り59秒』
その後、何度目かになる浮遊感と共に身体を光が包み込み、景色が切り替わる。
※ ※ ※
今回は砂漠の中の小さな町が舞台らしい。
風に乗った砂が鼻や口に入るのが微妙に鬱陶しく思う。
西部劇で出てきそうな感じの木製の建物は全てきっちりとドアが閉まっていて中は見れないが、看板に書いてあるマークや店の前に置いてある大きな樽などで何処がなんの目的の店なのかはなんとなく分かる。
マップを見ると大きな十字路を中心に円形に広がった町らしい。
その外は砂漠だが、予選で使われるフィールドの範囲外なのかマップ上では黒く塗りつぶされている。
キリトは試合開始と共に定石通りまずは建物の影などに身を隠しながら慎重にピトを探していた。
たぶんそんな事はないと思うが、ずっと手に持っていると砂が入って故障しそうなのでファイブセブンはいつでも抜ける状態で腰のポーチに入れたままにしてある。
「――にしても、ピトが相手か…」
一週間前、レンから聞いた話を思い出す。
たしか、簡単にまとめると。
ピトフーイはSAOの元βテスターで、SAOの正式サービスの日に私用でSAOをプレイ出来なかったことを後悔していた。
元から現実逃避気味なピトフーイはSAO事件をニュースで見て余計に仮想現実への憧れを強め、デスゲームに執着を抱いている。
それからリアルで暴れたり、GGOで前に開かれた
その時はレンが全力で止め、しばらくは安定した日々が続いていたが、この間キリトを見たあたりからまた様子がおかしくなってきた――という話だったはずだ。
レンの語り口のせいかあまり深刻な話に聞こえなかったのだが、過去にやった事はかなり危ないものだ。
つくづく、SAOの残した爪痕は大きいなとキリトは思う。
「はっ、まさかこれも茅場の意図した通りの展開なのか!?」
そう、意味もなく茅場に全てをなすりつけた事は置いておいて。
助勢を請われたキリトは真面目な顔をしてレンにこう答えた。
『悪いけど、SAOのβテストの頃にピトフーイっていう名前のプレイヤーに覚えはない……と思う。たぶん名前も変えてるだろうし、会ってたんだとしてもそれは分からない』
『SAOの事で悩んでたって話だけど、正直それを聞いたところで何をすれば良いか、それも分からない』
『――だから、俺はそういう事情は一切省いてGGOのキリトとしてピトフーイにぶつかってみるよ。んで、SAOの事を忘れられるくらいこっちで楽しんでもらおう』
具体的な案は何も浮かばなく、とりあえず本選でどうにかしようくらいに考えていたのだがまさか予選で当たる事になるとは。
だが、こうなってしまった以上後は戦う事しか出来ない。
言葉通り全力でぶつかるだけだ。
ピトを探して十字路に差し掛かろうとしたところで、遠くから声が聞こえてきた。
「ヤッホー! キリトくんいるかなー? 探すの面倒臭いからいるなら出てきてくれるー」
ビクッとして声の発せられた元を建物の影から伺うと、いた。
ピトだ。
十字路の中心で腕を組み仁王立ちしている。
手には何も持っていない、完全に無防備な状態だ。
思わず、頭を引っ込めて息を止めてしまう。
『あ…っいつ、何やってんだ!』と叫びそうになったが、ぐっと堪えて速やかにファイブセブンの射程までコソコソと隠れながら近づこうと考えた。
別に、向こうに合わせる必要は全くない。
ちょっと卑怯な気もするが『ファーストアタックは重要だよな!』と自らを納得させる。
そして行動に移そうとしたところで―――、
「――――はいそこ」
腰から瞬時にピストルを抜き、
光剣を構えていない状態――防御手段が無い状態での不意打ちに心底ビビる。
仮想世界とはいえ、かなりリアルに作られた音や匂い、雰囲気に心臓がばくばく鼓動する。
いや、そんなことより――ピトは今、俺を殺せたんじゃないのか?
どうやったか検討も付かないが敵の位置を把握するすべと早撃ちの精度など圧倒的な技術、そしてあの余裕。
キリトはGGOにおいてピトの足元にも及ばない。
それが今のではっきり分かった。
「こりゃ、レンから頼まれた事は無理そうだな…」
小声で呟く。
だが、弱音を吐く事はあっても勝負を最初から捨てる事はしない。
自分にできる事をできるだけやるだけだ。
「命が惜しかったら出てきなさーい」
「っ…。はいはい、今行きますよーっと」
言われるままに出てきて、そのままピトの目の前のまで歩く。
「で、どうしてこんなまどろっこしい事を?」
「そりゃあ、普通にやってもつまらないから」
「……はい?」
「せっかく目の前にあのキリトがいるんだし――」
ピトは手に持ったピストルを無造作に投げ捨てる。
それだけではなく、他の武装も次々と足元に転がし――最後に胸のポーチから銀色に輝く見慣れた包を取り出し、言う。
「これで――剣で、勝負しない?」
ブォンという独特の音を奏で、光剣が抜かれた。