「――ねえ、今日集めた素材を換金したらちょっと銃見に行っていい?」
無事にグロッケンまでついた後、ピトはそうレンに提案する。
そろそろお昼になろうかという時間ではあったが、一食くらい抜いても生活に支障は出ないので問題はないだろう――と考えたところで、「うわぁ、レンもだいぶ重症だなぁ」と声を上げる友人の姿が頭に浮かぶが無視する。
「んー、良いけど…ピトさんが欲しがりそうな銃なんてあったっけ、この近くの店で」
「最近また新しくアップデートされたでしょ?」
ああ、そういうことかと声を上げレンは納得した。
GGOは現実には存在しない光学銃という種類の武器の他に実銃も扱うため、そのためのライセンスを銃を作っている会社などからもらっているのだ。
現時点では全ての銃をゲーム内に用意する事はもちろん出来ていない。
なので、定期的にアップデートを行い新たに銃を産み出す必要があるのだ。
「だったら個人経営のお店じゃなくて、初心者から玄人まで通う公式のデカい店行った方が良いかも」
「元よりそのつもり。それじゃ、行こっかー」
そう言い店へと向かう二人だが、人が多くて思うように前へ進めない。
おそらくBoBが近くなり、プレイヤーのin率も上がっているのだろう。
休日にしても異常と思えるほど街全体がざわざわという喧騒に包まれていた。
「うーん…やっぱ混んでるね」
「まぁ、武器のメンテとか、後はBoB参加登録したついでに暇つぶしに寄る人もいるのかもねー……およ?」
広大なフロアが幾つも重なる多層構造のこの都市は無駄に多くの抜け道などが存在されている。
その中で出来るだけ回り道しない迂回路を選び通り、なんとか目的の店へと到着した。
そしていざ武器売り場へ行こうとした所で妙な人だかりを発見したピト。
それも、どんどん集まってきている。
「なんだろ。何かやってるのかな」
「イベントとかやる店じゃ無かったと思うけど?」
「ちょっと気になるし見てみよっか。すいませーん、通してくださーい」
かなりの迷惑行為だということは理解しつつも好奇心を理由に無理やり人混みをかき分け、確か記憶の通りならミニゲーム的なモノが置いてある場所を覗くレン。
そこには―――
「――――ッ!!」
腰まで届くほどに長い黒髪をなびかせ、やけに大きい拳銃を持つ如何にも西部劇等で出てきそうな見た目のガンマンへ無手で挑む美少女がいた。
※ ※ ※
コンバートしたてでお金の無いキリトは見栄やプライドその他にてシノンに頼るという選択肢を排除した結果、ただの貧乏な初心者プレイヤーとなっていた。
そんなキリトだが、次善の策として考えたのがこのミニゲーム《
シンプルなルールの弾避けゲームだが、昔の勘を取り戻す目的とお金を稼ぐ目的の両方を満たす事ができると我ながら良いアイデアだと絶賛し、あの懐かしのヒゲ親父の所へ向かったのだった。
ちなみに、ヒゲ親父とは勝手にキリトがそう呼んでるだけで本当の名称は知らないのだが、簡単にそのヒゲ親父のところで出来るゲームについて説明する。
西部劇に出てくるような建物の目の前に巨大な拳銃を構えたNPC――ヒゲ親父が仁王立ちしている。
そこから20メートル程離れた位置にスタートラインがあり、ゲーム開始の合図の後策に囲われた道をヒゲ親父の銃撃をかわしつつ進んでいきヒゲ親父の体のどこかをタッチすればゲームクリア。
逆に、一発でも撃たれればゲームオーバーという単純なものだ。
補足説明すると、縦幅は先ほど述べたように20メートルだが横幅は3メートル弱とだいぶ狭く、こちらから銃や何かでヒゲ親父を攻撃するのは禁止で、完全に丸腰で挑む必要があるという難易度の高いゲームだ。
10メートル突破で1000、15メートルで2000クレジットの賞品で、もしもガンマンに触れれば今までプレイヤーがつぎ込んだお金が全額懐に入るのだが、実際はせいぜい10メートル程までしか進めないというのが多くのプレイヤーの共通の認識だ。
それゆえに不人気のゲームだったという情報をキリトは思い出す。
そして、キリトはそこで意外なモノを見た。
「やれやれ!今回はイケるぞジョン」
「おうよ、任しとけって!」
以前はほぼ誰もいなかったスペースに、溢れんばかりのプレイヤーが列を成していたのだ。
これは、今までクリアした者がいないと言われていたこのゲームをあのキリトがクリアしたのだという情報が流れてから、腕試にプレイする者が後を絶たなくなっていたらしい――という話をのちにシノンから聞くがそれはまた別の話。
そんな事とはつゆ知らず近づいたキリトだが当然―――
「あれ、キリトちゃん」
「って本物じゃん!!」
「うおおおお!帰ってきたんだね、おかえり!」
―――一瞬で正体がバレ、熱烈な歓迎を受ける事となったのだった。
それからしばらく質問責めや握手など色々な事がありすぎてなされるがまま時間は過ぎていったが、なんとか当初の目的を再確認することに成功。
折をみて周りに群がっていた男たちに断りを入れてから列に並ぼうとした所で、先に並んでいた者たちが声をかけてきた。
「あ、キリトちゃんもやる?じゃあ前良いよ」
「え?それは悪いですよ」
「いいよいいよ、生キリトちゃんが見れただけでもう満足したしさっ」
などと真顔で言われ全身に鳥肌が立ったキリトだが、遠慮するのも悪いと思うようにして先にやらせてもらう事にする。
「お前と会うのも久しぶりだな…悪いが、今回もそのお金は譲ってもらうぜ」
相変わらず客が来るまでの挑発的なポーズとセリフでイラつかせてくれるが、キリトはそれを無視し、看板のところに表示されているプール金額を見やり、ニヤリと笑う。
約21万クレジット…前回キリトがクリアしてから他にクリアした人が現れたのかは知らないが、それでも結構な額が溜まっているようで大変よろしい。
気分は獲物を見つけた山賊のそれだった。
一度クリアしたのだから意外と余裕なんじゃないかというのがキリトの見立てだ。
ゲートに入ってタッチバネルを操作し、現在の所持金である1000クレジットの半分となる500クレジットを支払うとゲームが起動する。
ピストルを持ったヒゲ親父が英語で何かをまくし立てているのが聞こえる。
将来海外へ行く事を視野に入れているキリトが今現在持てる英語力の限りを尽くして翻訳すると、『テメェの顔は忘れてねぇぞ、今度こそブッ飛ばしてやる』と言っているのがわかり驚かされた。
「あれ…いつもとセリフが違う?」
「へー、一度クリアした奴が来るとパターンが違うんだな」
どうやら周りの反応からすると他の者もこのセリフのパターンは初めてのようだ。
ミニゲーム一つ取っても結構作り込まれてるんだなぁと場違いな事を考えるキリトだったが、一瞬で気を引き締める。
ゲーム開始のカウントダウンが始まったのだ。
「5……4……3……」
視界に映る数字を自らも小声で数えながら利き足でない左足を後ろに引き、腰を落として全身に力を込める。
この時既に周りの存在は意識から消えていた。
「―――2……1……」
キリトは、開始の合図に備えて更に意識を集中させる。
この数秒の間にすっかり変わってしまったキリトの雰囲気に置いていかれないようにと男たちもまた息を潜めてじっと待つ。
「0」
次の瞬間、弾道予測線の見えないレーザーがキリトに襲いかかった。