ソードアート・オンライン 〜再びのBoB〜   作:大路京太郎

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UntouchableⅡ

スタートの瞬間、ヒゲ親父の奇妙な視線に悪寒がして、バッと頭を下げるキリト。

 

チラリと頭上を見れば、そこには既に消えかかっているレーザーの軌跡が在った。

 

「は?」

 

素の声が漏れる。

 

二重の意味でありえないその光景に意識と肉体を同時にフリーズさせてしまう。

 

周りも唖然としている事から、これがイレギュラーなものであることを確信する。

 

というか、開幕初っ端から弾道予測線の見えない、しかも銃弾ですらないものが飛来してくる弾避けゲームなぞプレイした覚えはない。

 

そう、弾道予測線――自分へ向けて飛んでくると認識した弾の軌道のみを視界に映してくれるアシストシステム。

 

これがあるからこそ弾避けゲームは成立するはずにも関わらず、それが何らかの理由で無くなったとしたなら、それは本格的に無理ゲーとなってしまった事を意味する。

 

――と、弾道予測線が見えていなければならないのに見えていないキリトと元からそれが見えない観客とで驚愕の度合いは大きく異なってはいるが、皆同様にこの状況に対し無理解を示していた。

 

空白のコンマ7秒。

 

その間隙を突くように銃弾が3発、殺到する。

 

(今度は視えた…?)

 

突然視界に映し出される赤い弾道予測線に安堵と同時に疑問も覚えるが、それは身体を右に思い切り傾ける事で冷静にやり過ごす。

 

そして今更ながらに、自分が一歩も進んでいない事に気付く。

 

「――――ッ!!」

 

全力の踏み込み。

 

しかし体重の軽いこのアバターでは「トッッ!」という軽やかな音しか鳴らない事に微妙に不満を感じるのは、普段重い武器ばかり好んで使っているからだろう。

 

何となく心許ないのだ。

 

コンバートにより性能的には全く同じでも、身長や手足の長さなどの変化にまだ慣れていないから。

 

とはいえ、華麗な体捌きで立て続けに迫る3発の弾丸を避けきるのは流石といったところだろうか。

 

これでヒゲ親父は6発、回転式弾倉(シリンダー)内の弾を撃ち尽くしたはずだ。

 

さっきの踏み込みである程度の距離は稼げた上に奴はリロードの必要がある。

 

一気に10メートルラインを越えてしまおうと油断したところに、二本目のレーザーが飛んでくる。

 

またしても、レーザーからは弾道予測線が見えなかった。

 

直感で右足を10センチ上げると、そこに吸い込まれるようにレーザーが通り抜ける。

 

「っぶねぇ…!」

 

こっちが怯んだコンマ5秒の間にリロードを超高速で終えるヒゲ親父。

 

顔を見れば、心なしか余裕の表情に見えたのはもはやこちらの妄想が生み出した幻覚だろうか。

 

第1waveを乗り越え、なんとか8メートルラインを越えたがそれでもまだ途方も無い距離感をキリトは感じていた。

 

しかし、悪い事だけではなかった。

 

以前ここを訪れた頃よりも身体が軽く感じるのだ。

 

それがなぜかは考えるより先に理解していた。

 

あれからALO(アルヴヘイム・オンライン)で様々な経験をして、アバター自体のレベルが上がっているというのもある。

 

だがそれ以上にキリト自身の魂がアミュスフィア…いや、VR環境に馴染んでいるのだ。

 

つまり脳とアミュスフィアとの交信の速度がより滑らかに、そして強く行われているという事だ。

 

――再び、3発分の弾道予測線が視界を埋める。

 

頭と左肩と胸の三ヶ所に予測線が突き刺さっているのを見て、瞬時に上体を傾けスライディングの格好になる。

 

すると、それを読んでいたかのように時差をつけて逃げ道となる奥の床にも1発分の弾道予測線が貫く。

 

絶体絶命の危機にスローモーションになってゆくキリトの意識は放たれた4発の弾丸が弾道予測線上をなぞるようにはしるのを正確に視認した。

 

そして――

 

高速スライディングのポーズのまま3発の弾丸をやり過ごしたキリトは両腕を地面に当てて速度を一瞬殺す。

 

4発目も手前で空振ったところで地面についた両腕をバネに起き上がり、速度を戻して疾走。

 

「おおっ!」

 

その妙技にギャラリーが湧くが、キリトの意識には映らない。

 

14メートルラインの辺りで2発の弾丸がキリトを狙うが、それも軽くジャンプして躱す。

 

計6発、再び回転式弾倉が空になる――と同時に、キリトが内心予想していた通り、単発のレーザーが、やはり弾道予測線を纏わずに接近する。

 

単発ならもう怖くないキリトは、余裕を持ってそれを回避する。

 

――これで16メートル。

 

第2waveをも乗り越え、ヒゲ親父の茶色いヒゲの中に数本だけ混ざる白いヒゲすら見えるほどの位置にまで接近する事に成功したキリト。

 

――おそらく次が最後の関門だろう。

 

キリトのその判断に狂いはなく、マシンガン並みの速さでほぼ同時に生まれた6本の弾道予測線が前方へ隙間なく行方を遮る。

 

ヒゲ親父はここで止めなければまずいと思った――プログラムされた――のか全弾をバラ撒くことにしたようだ。

 

もはや拳銃の形をした何かは酷使された回転式弾倉から火花を散らせていた。

 

が、それすらも何となく予想していたキリトは慌てず腰を落とし、全力で跳躍。

 

6発全てを避け、空中でバタフライツイストの様な技を決めて残りの3メートルの距離を詰める。

 

そして、キリトはヒゲ親父の眼前に着地。

 

弾を撃ち尽くしたに後の銃口がチカッと光っているのを間近で見て、4発目となるレーザーが発射される直前なのだということを確信したキリトはヒゲ親父へ向かい思いっきり手を伸ばす。

 

「届け―――!!」

 

最後は、運が勝敗を分けた。

 

致死のレーザーがキリトを貫く寸前に、キリトは敵の向けている銃の持ち手を叩く様に抑える。

 

「……………ふぅ」

 

動きを止め、絶叫するヒゲ親父と流れる勝利のファンファーレの音が終わったのだと強くキリトに印象付ける。

 

ゲーム開始前から静まっていたギャラリーたちだったが次の瞬間、ヒゲ親父の絶叫を覆い尽くすほどの歓声が湧いたのだった。

 

 

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