GAMERA-ガメラ-/シンフォギアの守護者~The Guardian of Symphogear~   作:フォレス・ノースウッド

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本当は土曜日に更新する予定だったのですが、ツイッターのフォロワーの一人の方が開いたツイキャスラジオの特撮談義(主に平成ライダー)につい聞き入ってしまい……予定より遅れてしまいました。

あ、あと劇中某貞子さんお手製n呪いのビデオに呪い殺される様を比喩表現に使いましたが、間違ってもうっかりググらないように………絶対トラウマになります。
イリスに血を吸われたミイラと貞子さんに呪殺された方の断末魔は今でも直視できない(震


#10 - 追奏曲

 弦さんから連絡を受けた私は今、リディアン地下の特機二課本部司令室にいる。

 このフロアの中央は談話室にもなっており、私と、同じく弦さんに呼ばれた響はソファーの一角に腰を下ろしていた。一応リディアンの敷地内にある施設なので、私も彼女も制服姿。

 向かいには弦さんと櫻井博士が腰かけている。

 風鳴翼は今ここにはいない。今日は所属するレコード会社、クイーンレコードでニューアルバムの打ち合わせ中だと、弦さんからは聞いた。

 

「どうぞ」

「ありがとうございます」

「あ……どうもです」

 

 友里さんが〝あったかいもの〟を、今日も提供してくれた。先日は程よく砂糖の入ったコーヒーだったが、今回は湯呑みに注げられたほうじ茶である。

 湯呑みを両手で持って一服すると口の中で苦味を抑えたさっぱりとした風味と、ぬるくはないけど熱すぎない加減な熱が広がる。

 先日のホットココアと言い、今日のほうじ茶といい、友里さんはオペレーターの能力だけでなく一服のさせ方の卓越していた。

 この一杯だけで、淹れた女性の温かな人となりが伝わってくると感じながら、隣にいる響を見やる。

 いつもの響なら晴れやかでさんさんとし、先生からの大目玉をくらったり、難度の高い宿題の提出を求められたりした時も、〝呪われてるかも〟とぼやくことはあっても陽気さと言うか、からっとしている印象なのだが………少しずつほうじ茶を飲む今の彼女は〝浮かない顔〟を浮かばせていた。

 あれからまだ一晩くらいしか経っていないのだから、まだ強く尾も引かれよう。

 

〝なら―――同じ装者同士、戦いましょうか?〟

 

 何せ、恩人である〝ツヴァイウイング〟の一人の風鳴翼から、ああも剥き出しの拒絶と敵意を突きつけられ、殺気すら秘めた攻撃まで受けかけ。

 

〝泣いてなんかいません! 涙なんか………流してはいません〟

 

 相棒の死を今でも引きずり、ノイズに対抗できる現状ただ一人の装者としての終わりの見えない戦いに心身は疲弊され、情緒も不安定に陥り、今にもぽっきり折れそうな危うい彼女の姿を、目にしてしまったのだから。

 ひと月分の級友としての付き合いで、風鳴翼ひいてはツヴァイウイングへの憧憬の想いの強さは汲み取れている。

 デュエット時代からソロとなった現在まで、あの子がシングルにアルバム含めたCD全てを買い揃えていることは学生寮の二人の部屋に遊びに来た時に知った。

 何度も彼女たちの類まれな歌唱力に備わる、躍動感と繊細さが同居し、それこそ大空へと羽ばたかんとする高揚感に溢れた〝歌〟の数々に夢中になっていたのも想像できる。

 その上二年前に助けられて以降、人助けに囚われ………人助けを〝生きがい〟とするようになった響にとって、人知れずノイズから人々を救い、または救ってきた彼女らは、〝ヒーロー〟も同然だっただろう。

 私からは〝危うい鞘無き抜き身の刀〟に見えた翼の現在の戦い振りも、あの子からはさぞ勇壮で、ヒロイックに映され、既に強かった憧憬の気持ちを、さらに高ぶらせてしまう〝興奮剤〟の役目を果たしていたのは想像に難くない。

 そんな憧れの存在の………〝偶像〟と言うフィルターによって隠されてしまっていた〝一面(こころ)〟に、戸惑いを覚えるとともに心痛めていると、自分の目はその横顔から読み取っていた。

 

「あの………翼さんは?」

 

 響は俯いていた顔を上げて、あどけなさがまだ残るまるまるとした瞳を弦さんたちに向け、翼の現状を彼らに問う。

 

「ひと月は、戦線に出すことを禁じることになった」

 

 対ノイズ戦の主戦力たる彼女にこのような処遇が下ったのは、無論昨日の〝私闘〟の一件だ。

 

「シンフォギアシステムは、日本政府が所有している〝兵器〟でもある………あんなことになっちまった以上、何のお咎めもなし、と言うわけにはいかないもんでな」

「喩えるなら、昨日の翼ちゃんの行為は、いわば兵士たちが公共の場で銃の撃ち合いをしてしまったようなものよ」

 

 櫻井博士は、あの陽気であっけらかんとした物腰を潜めて、弦さんの発言の補足を加えた。

 当然ながら、昨夜、彼女と私が引き起こした戦闘は………〝問題行動〟そのものである。

 今弦さんも口にしたが、櫻井博士が中心となって開発されたシンフォギアシステムは、極秘となっているとは言え日本政府――国が所有している兵器。

 理由や経緯はどうあれ、翼はその一つである〝天ノ羽々斬〟を、完全なる個人的感情、もっと言うなら人間相手――響に八つ当たりで使ってしまったのだ………問題にならないわけがない。

 政府の官僚たちからはそれはもう、〝はやく解散してくれないかな?〟なんて感じで、某呪われたライダーギアの適合者ばりにネチネチと文句は受けたと、どうもぼやき癖のある藤尭さんの愚痴から想像できた。

 実際二課は、正式名称の単語の一部を抜き取って〝特機部二(とっきぶつ)〟と揶揄されているらしい………権力の密を堪能している人種らしいねじ曲がったユーモアだ。

 つまり、特機部二→突起物→はみ出し者と言うわけだ。頻繁に〝解散だ!〟とまでは言われてはいないだろうが、実際東京湾内に基地を構える防衛チームのM○Tばりに厳しい立ち位置にあるのが特機二課と言えよう。

 現職の防衛大臣であり、昨夜弦さんの口からも出ていた広木威椎(ひろき・ひろつぐ)大臣からも、さすがに厳しく釘を刺されただろう。

 メディア越しに見る限り、聡明で冷静沈着、自らが背負う権限を驕ることなく責任と常に向き合う人格者で、非常に好感の持てる人柄ってイメージを、私はあの政治家に対して持っている。

 そんな人物から見ても、国の所有物で行われた私たちの〝私闘〟には、眉をひそめざるを得ない〝問題〟だ。

 

 彼女が繰り出した最初の跳躍からの上段の一閃からして………響に半ば本気で斬りつける気だったと、自分の得物と衝突した時の感覚で分かった。

 対ノイズ戦はともかく、あの〝私闘〟で生じた損害を、いわゆる〝コラテラルダメージ――やむを得ない犠牲〟とするには無理がある………私もそんな逃げの理論武装をするつもりはない。

 博士の比喩した通り、日常の場の真っただ中で実弾の入った銃を使って兵士たちが銃撃戦を行ってしまったようなものだ。

 ギャオスたちとの終わりの見えない戦いで荒んでいた頃の自分と〝写し鏡〟なだけあって………思うところや、理解も示せる点はあるのだけれど、生憎と感傷一辺倒になるほど甘くもなれない。

 昨夜の翼の行為は……最後まで〝人を守る戦士〟であり続けた天羽奏の復讐から転じた〝信念〟を足蹴にするようなものだし………あの時〝抜き身の刃〟を止めてやられければ、もっと酷い事態になっていた。

 それこそ今以上に精神が疲弊し、渋谷を壊滅させた時の私(ガメラ)のように、守ることよりも倒すことを優先してしまったが為に、民間人を犠牲にしてしまうなんて事態に陥ってしまうのも、あり得ない話ではなかったのである。

 

「では、私の処遇はどうなります? 正規のギアではないとは言え、私もその〝公共の場で撃ち合い〟をした一人なのですが?」

「しいて言うなら、翼が空いた分も背負うのが、朱音君に課せられたペナルティだ、君には二課の主戦力として、次にノイズが出現した場合、前線に出てもらうことになるが……」

「構いません、戦士としての覚悟は、とうにできています」

 

 二課のバックアップを受け、自衛隊の方々とも連携を取ることになるから〝独り〟ではないが、装者としては、当分一人で戦わなければならない。

 生憎、その程度の〝責務〟で居竦まるほど、柔な身ではない。

 もしこの瞬間にもノイズが現れたなら――〝戦士〟として、〝守護者〟として真っ先に戦場へ駆け込んでいこう。

 

「そして響ちゃんはまず、ガングニールを少しでも使いこなせるようになるのが目下の課題、だから当分実戦に出すのはお預けになるけど、そこのところ、よろしいかしら?」

「はい……」

 

 一方で響はと言えば、やはり現状〝シンフォギアを纏えるだけの素人〟であることは否めないので、当分は前線には出ず、ギアを使いこなせるようになるまで訓練に励む日々となるとのこと。

 私の個人的な――立花響を戦わせたくはない――気持ちを抜きにすれば、弦さんたちの下した判断は妥当……辛辣に評すると、今の響では一度の戦闘でノイズを倒すことはおろか、〝生き残る〟ことができるかすら怪しい。

 いや………響のことを思うならば、むしろ厳しくならないと………戦場が持つ呪いと内なる恐怖の感情との付き合い方も知らない今のままであの世界に飛び込んでしまえば………確実にこの子は〝命を落とし〟、奏(あのひと)の命を燃やして奏でた〝歌〟をも無碍にしてしまう。

 そうなれば今度こそ、響のご家族と親友の未来は………〝線香〟を上げなければならなくなってしまう。

 

〝もう逢えないなんて………そんなの………嫌だよ………響………ッ!〟

 

 自分の知性は、降りしきる豪雨の中、傘も持たずに、死の真相を知ることもなく響の亡骸が眠る墓の前で、泣き崩れる未来の姿を思わず想像してしまい、口の中に苦味が広がる。

 私も――そんな〝未来〟は、御免だ。

 

「ごめんなさい………私も………人を助けられるんだって、調子乗ったばっかりに」

「昨日も言ったが、謝るべきは俺たちだ………翼も装者だの戦士だの以前に、一人の女の子だ、その女の子を戦場に出しておきながら、大人(おれたち)は果たすべき責務を怠り、あのような事態を招いてしまった………力を貸してほしいなどと言っておきながら………すまない」

 

 彼女なりに、昨夜の一件に関して責任を感じていた響は詫びを入れ、弦さんの方の持前の責任感の強さから、改めて詫びを返した。

 朝の入浴を終えようとしたところで来た呼び出しの時点で感づいてはいたけど、弦さんは翼本人に代わって、彼女の釈明も兼ねて私たちを呼びつけていたのだ。

 あの夜の件で、響は憧れの人であった存在に対して、失望することもできず、かと言って以前のように憧憬の眼差しを向けることもできず、風鳴翼と言う人間をどう〝見て〟いいのか分からずに揺れ動いているから………丁度いい機会である。

 かく言う私も、ガングニールの装者となってしまった立花響と言う女の子を、どうしたいのか分からず………腰(きもち)が落ち着かずにいた。

 自分は父と母への負い目を感じながらも戦うことを選んでおいて、あの子には戦ってほしくはない、戦わせたくないエゴイスティックな想いも抱え、今のままでは他者どころか自分の命すら守れず死ぬことになると〝確信〟もしている。

 だけど、響の〝歪さ〟は、自分の願望(エゴ)などでは到底止められない……なんて〝確証〟もあった………苦々しいことに。

 

〝あさぎ〟………どうしたらいいかな? 

 

〝でも分かっています、ガメラは戦うつもりです――最後まで――一人になっても〟

 

 どうしたら君みたいに………戦いに臨む大事な人を、想いながらも、案じながらも、ああも強く信じて見送れるのか………答えを返してくれるわけもないのに、母と瓜二つな記憶の中の彼女に、つい問いかけてしまう。

 

「いつ頃から、翼先輩は天ノ羽々斬の装者となったのですか?」

 

 自身の〝揺れ〟への対処法を見つけられずにながらも、私は〝本題〟を円滑に進ませた。

 まずは、響の翼に対する〝揺らぎ〟をどうにかしないと。

 

「そうね………もう十二年も前になるわね、翼ちゃんが最初にシンフォギアを起動させたのは――」

 

 櫻井博士は司令室の天井を、正確には〝過去〟を見据えながら、話し始める。

 

 風鳴翼と言う、少女が背負ってしまった〝運命〟と言うものと、そして――

 

 

 

 

 十二年前………それは即ち、風鳴翼は当時七歳とまだ両手で数えられる歳に、シンフォギアの装者なる運命を背負ってしまったと言える。

 その頃の時点で、櫻井博士は一番目のシンフォギアである第一号聖遺物――天ノ羽々斬を開発していたのだが、起動するには適合者に相当する人間の歌声――フォニックゲインが必要と言うネックが、当然ながらあった。

 ギアの存在が最重要レベルの国家機密な以上、大っぴらに適合者候補を集めることもできない中、白羽の矢が立ったのは当時の翼。

 その頃から彼女は、実の両親の下を離れ、弦さんが保護者の代わりをしていたと言う。

 当時を語る弦さんの顔から、何とも言い難い苦々しいものを感じ取った私は、翼のその時期のと境遇風鳴家の〝家庭事情〟ってやつには、踏み込まないようにした。

 直感で、下手に触れると〝火傷〟する代物だと感づいたからである。

 それは、響の心情も踏まえてだった………弦さんの口から〝父親〟と言う単語が出た瞬間、彼女の顔から、少なくとも入学式の日に友達になってから、この瞬間まで見たことのなかった〝黒い影〟が、彼女の顔を覆っていたのを目にしたから。

 

「藁にも縋る想いで、俺たちは翼を天ノ羽々斬の起動実験に参加させ……」

 

 弦さんにとって、その実験は成功してほしい気持ちと、失敗してほしい気持ちで板挟みになり複雑だったことだろう。

 

「………翼の歌は、シンフォギアの眠りを覚まさせてしまった」

 

 だって、失敗してしまえばノイズに対抗する光明は遠のいたまま、一方成功してしまえば、その瞬間から………血を分けた兄弟の子でもある姪が、〝人類の希望〟と言う過酷な運命を背負い込むことになるのだから、素直に喜べるわけがない。

 そして実験は、翼の歌が〝天ノ羽々斬〟の眠りを覚まさせたことで、成功と言う結果となった………なってしまった。

 

 

 

 真面目な性分の持ち主の彼女のことだから、幼いながらも自分に課せられた〝使命〟を理解し、享受し、全うしようとしただろう。

 

「あの頃の翼は、今とはまた違った影を差していたし………いつも俺の後ろにいてばかりだった」

 

 でも幼いなりに、自分が背負ってしまったものに、自身に敷かれてしまった境遇と呼ぶレールに、どこか悲観な気持ちも抱え、それは歳を重ねて物心が育まれていくごとに大きくなり、そんな本音を〝使命感と責任感〟で、半ば無理やりにでも塗りつぶし続けてきたであろう。

 シンフォギアを目覚めさせ、扱える〝才〟は、間違いなく風鳴翼って〝子〟にとって……〝呪い〟であった筈だ。

 下手をすると………自分の〝歌の才〟も、愛してやまなかった〝歌〟そのものすらも、嫌悪し、憎みかけていたかもしれない。

 

「引っ込み思案だったあの頃の翼ちゃんを良い意味で変えてくれたのが………奏ちゃんだったわね」

 

 いずれにしても、一人子どもには重すぎる〝使命〟を負った彼女に訪れた………〝一度目〟の転機こそ―――天羽奏―――その人であった。

 

 

 

 

 

 現代の音楽史にその名を轟かせ、刻むこととなるツヴァイウイングの〝翼たち〟の出会いの前に―――今から五年前、翼が十三歳の年に起きた〝皆神山(みなかみやま)の悲劇〟を先に記しておかなければならない。

 皆神山とは、長野県長野市松代町にそびえ立つ、凝固した溶岩が積もりに積もってできた標高659メートルの山の名であり、不可思議な伝承に事欠かない地である。

 五年前、聖遺物発掘の為にかの山に訪れ、調査をしていたチームは、突如現れたノイズたちの襲撃を受け………たった一人を残し、ほとんど死亡してしまった。

 

 そのただ一人の〝生存者〟こそ………当時一四歳だった天羽奏。

 

 発掘チームの主任であった両親に連れられて山中に来ていた彼女は………八年前の自分と同じく、目の前で家族がノイズに殺される惨劇を直に突きつけられてしまい………生き残ってしまった。

 

「家族を失ったばかりの奏君は………〝狂犬〟と表現する他ないくらいに、荒んでいたものさ………哀しみに暮れるどころか、愛する肉親たちの命を奪ったノイズへの憎しみに駆られていた」

 

 弦さんの追憶の言葉と、地球から齎された装者としての彼女の映像を元に、私はイメージを思い浮かばせた。

 

 

 

〝離せぇ! 離せよッ! アタシを自由にしろッ!〟

 

 特異災害対策機動部に保護された彼女は、特機部が〝ノイズと戦う組織〟でもあると理解した途端、対ノイズ兵器を要求し、それこそ弦さんが比喩していたように〝狂犬〟の如き凄まじさで、拘束具を付ける措置を取らざるを得ないほど、暴れ回っていたとのことだ。

 

〝お前ら……ノイズと戦ってんだろ!? 奴らと戦える武器も持ってんだろ!? だったら私にソイツを寄越せッ! 奴らをぶっ殺させてくれッ!〟

 

 手足の自由を奪われても尚、天羽奏の〝復讐の念〟でできた炎は、彼女の胸の内で燃え滾り、拘束具を強引に壊さんとする勢いで暴れ狂いかけていた。

 

〝辛い記憶を思い出させるだろうが………ノイズに襲われた時のことを、詳しく話してはくれないか? 俺たちが――君の家族の仇を取ってやる〟

 

〝眠てえことほざいてんじゃねえぞおっさん! つべこべ言わずアタシにノイズをぶち殺させろッ!アタシの家族の仇討ちができるのは―――自分(アタシ)しかいねえんだッ!〟

 

 どうにか激情を鎮め、宥めようと静かに諭す弦さんの言葉にも、全く耳を聞き入れなかったらしい。

 

〝それは………君が地獄に落ちることとなってもか?〟

 

 弦さんのこの警告に対しても、彼女がこう答えたと言う。

 

〝奴らをこの手で皆殺せるんだったら―――アタシは望んで地獄に落ちてやるさッ!〟

 

 まさか………家族との死別だけでなく、そう言うところまで、自分と〝似ていた〟とわな。

 あの頃の私も、それこそ地獄に落ちても構わないと思うまでに、ギャオスどもを〝イッピキノコサズ〟皆殺しにしようと憎悪の業火で怒り狂っていた。

 

 

 

 

 家族の喪失によって生まれた〝怨念〟を、ノイズたちにぶつけるべく、ノイズに対抗できる武器――シンフォギアをものにしようとしていた天羽奏であったが、その道のりは険しいどころではない域で、過酷を極めた。

 

「ただ………奏ちゃんは翼ちゃんと違って、シンフォギアに適合できる資質に恵まれていたわけじゃなかった……」

 

 シンフォギアの眠りを覚まし、その力を鎧にして纏い、武器にして手に取れる歌声の主は、決して多くなく、彼女もまた、本来はギアを適合できる人間ではなかった。

 無論………シンフォギアを適合できる体質じゃない〝事実〟にぶちあたった程度で鎮火されるほど、天羽奏の復讐の炎は柔なものではなかった。

 

「だから彼女がギアを纏うには、私が開発途上だった人間と聖遺物を繋ぐ制御薬――Linker(リンカー)で、あの子の体を人為的に適合者へ作り替えなければならなかったの」

 

 適合者でないのなら―――適合者になればいい。

 薬物投与で、無理やり自分自身の体を、適合者に〝改造〟させる………彼女は躊躇せず、その選択肢を選び取った。

 

「………」

 

 響の顔が………〝絶句〟で固まってしまっていた。

 憧れの人が選んだ過酷な〝道〟を踏まえれば、詮無きことである。

 いくら本人が望んでいたからって………やっていることは人体実験そのもの、良心が育まれていればいるほど、怒り、嘆かずにはいられない………〝非人道的〟と糾弾されても致し方ない行為だ。

 まあ………かく言う私も、そんな非人道的行為に自らの意志で踏み込んだ性質ではあるのだけれど。

 

「俺たちは奏君を適合者にする為に、それはもう………痛めつけてきた…………たとえ本人が強く希望してきたとしても、その事実はくつがえらない」

 

 事実、人並み以上の良心の持ち主な人格者である弦さんにとって、今でも罪悪感の〝疼き〟に苛まれるほど、天羽奏を適合者にさせる実験は、困難かつ壮絶なものであった。

 

 体の中に異物が流し込まれるのだ……肉体の主がいくら望んではいても、肉体がその異物に侵食される事態を許すわけもない。

 体内に侵入した〝異物〟を排除しようとするあまり、免疫作用が過剰に働き過ぎて逆に自らの生命を危険に陥れ、処置が遅れれば最悪死に至らしめる〝アナフィラキシーショック〟と言う症状があるのだが………そのLinkerと名付けられた薬物を投与された彼女の肉体は、スズメバチやフグの毒、中毒性の高い薬物とは比較にならない強すぎる拒絶反応を示した。

 

 喩えとしてはいかがなものではあるけど、弦さんたちの話から想像するに、見てから一週間後に死ぬ〝ウイルス〟を入れ込まれる〝呪いのビデオ〟に殺された人間の断末魔の瞬間に匹敵するほど………天羽奏の顔が苦痛で歪みに歪み、のたうち回ったに違いない。

 それを見ていることしかできずにいたあの時の弦さんも、唇と拳を、噛みしめ過ぎる余り、握りしめすぎる余り、血を流してしまっていたのだと窺えられた。

 だがそうまでしても、肉体はシンフォギアと〝適合〟できず。

 

〝ここまでなんてつれねえこと言うなよ……〟

 

 実験を中止させようとした弦さんたちの制止を振り切り、既に許容量ギリギリまで投与されていたにも拘わらず。

 

〝パーティー再開と行こうぜ……〟

 

 彼女はジョークまで呟きながら、Linkerの入ったトリガー式の注射器を自らの首に突き刺して、注入させた。

 とうに侵入してくる異物――Linkerの排除で疲労困憊だった彼女の体は、さらなる流入に強烈なアナフィラキシーショックを引き起こし、吐血、実験室の床に少女の赤い血による水たまりができあがった。

 

〝適合係数が上昇してる? 第一、第二……第三段階も突破……〟

 

 その常軌を逸していると思われかねない執念が実を結んだのか、第三号聖遺物――ガングニールが休眠状態から脱し、天羽奏の意志と共鳴し。

 

〝Croitzal ronzell gungnir zizzl〟

 

 奏でられた〝聖詠〟で、ガングニールは完全覚醒し、口元と両手を中心に血まみれとなった彼女の全身に、アンチノイズプロテクターが装着され、装者へと〝変身〟した。

 

〝これで奴らと戦える……ガングニール………アタシのシンフォギアッ!〟

 

 今より五年分幼かった翼も、その瞬間を目の当たりにしていた。

 

〝覚悟も持たず、のこのこと遊び半分に戦場(いくさば)へしゃしゃり出てくる貴方は―――奏の、奏の何を受け継いでいると言うのッ!?〟

 

 あのような光景を目にしていれば………覚悟が足りぬまま中途半端に戦場に入ってきてしまった響を断じてしまうのも………ガングニールの装者となってしまった事実を受け入れられなかったのも分かる。

 翼の相棒は、文字通り血反吐に塗れてシンフォギアの〝力〟を手にしたのだ。

 たとえそれが〝憎悪〟と〝復讐心〟に塗れたものだとしても………敬意を抱かずにはいられなかっただろう。

 逆に、相棒が辿った苦難の道を通ることなくシンフォギアを扱えてしまう自分自身に、コンプレックスを抱かせてしまうことにもなっただろう。

 

 その気持ちが昨夜の暴走の〝一因〟となってしまったのは、疑いようがない。

 

 

 

 そうして風鳴翼と天羽奏は、ノイズを討つ装者(せんし)として、不条理が蔓延る戦場に身を投じた。

 その模様は、地球の記憶から教えられたことで、私も一応知っている。

 後に〝一心同体〟と言う表現が相応しいくらい、戦闘でもライブでもパートナーシップを発揮していた二人も、最初は決して足並みは揃ってはいなかった………むしろ〝二重奏〟からほど遠いくらい、揃わなかった。

 当初奏は強すぎる復讐心のまま、独断専行して飛び込むことなどしょっちゅう起こしていたし、決して押しの強い方ではない翼は、彼女の猛進を止められず苦虫を嚙んでばかりだった。

 それでも二人は、死線を潜る度に、少しずつ歩み寄り、心を通わせ合い、唯一無二のパートナーとして縁を深め合い………復讐を戦う理由にしていた奏自身の心にも、ある決定的な〝転機〟が訪れた。

 ある日の戦闘の後、戦友とも言える自衛隊員たちの救出作業を手伝っていた二人は、瓦礫の山の中で埋もれていた隊員たちを助けた際、彼らから感謝の言葉とともにこう言われたのだ。

 

〝もう、ダメかと思いましたが………貴方たちの歌声を聞いていたら、こんなとことで諦めてたまるかと踏ん張れて、どうにか生き残れました……感謝します〟

 

 隊員たちからのその言葉と自身の歌が人を勇気づけ、力を与えた〝事実〟は、〝復讐鬼〟であった天羽奏を〝守護者〟に変えるきっかけとなり、そしてツヴァイウイングを結成させるきっかけにもなった。

 

 

 

 

 ツヴァイウイングの二人の存在を知り、歌を聞いて以来、ずっと、私は知りたかった。

 自分と同じ、目の前で家族を殺される境遇を味あわされた筈なのに、憎しみの炎で自らを焼き尽くしてもおかしくはなかったと言うのに……どうして天羽奏は………あそこまで真っ直ぐで、眩くて、生気が溢れながらも包み込むような温かさも持った〝歌〟を奏でられるのか?

 どうして……あそこまで、その歌声が多くの人々に今でも〝希望〟を与え続けているのか?

 私が、彼女たちの歌声に魅入られたのも、それが理由の一つ。

 

 マナで生まれたシンフォギア――ガメラを手にしたあの日と、今日弦さんたちが話してくれた〝過去〟によって、ようやく〝答え〟を得られた。

 

〝諦めるな!〟

 

 瀕死の響に投げかけた――あの言葉に込められた〝おもい〟も。

 

 今となってはどうしようもないのだけれど、叶わぬ願いと知りながら、願ってしまう。

 

 あの人と、直に会ってみたかったと………そして願わくは、一緒に歌い合い、奏で合い、互いの歌声を響き合わせてみたかった。

 

 でも、万が一の確率で来るかどうかも怪しいその機会はもう、永遠に来ることはない。

 

 二年前のあの日に起き、立花響と風鳴翼ら、少女たちの〝生〟も大きく狂わせた〝災厄〟によって、喪われたのだから。

 

つづく。




しかしマリアさんが某不愛想系猫舌ライダーがフレンドリーになるくらいの猫舌とはwwwやっぱりクリスちゃんと並んでシンフォギア一の萌えっ子なお姉さんっすね(2828

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