GAMERA-ガメラ-/シンフォギアの守護者~The Guardian of Symphogear~   作:フォレス・ノースウッド

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ちょっと間が空きましたが、更新です。

シンフォギアシリーズでは、結構ディスられた扱いなかの自由の国。
公式HPの用語集見ていると、かなりやらかしているのが分かります(汗

ちなみに劇中朱音が歌った青空繋がりの歌。

いわずもがな、特撮界の名曲。
かの泣きゲーの挿入歌。
貞子さんの原作者の著作なホラー小説の映画版の主題歌。
日本語で青い心たちなロックバンドの曲。


#20 - 潜む陰謀

 日本の関東地方、首都圏よりさほど離れていない山間部の森の中を鎮座し、あのネフシュタンの少女が二課の捜査網からどうにか逃げ、辿り着いた〝隠れ家〟であるルネサンス様式風の巨大な屋敷。

 邸内の吊りさがるシャンデリアが見下ろす広間は、〝混在〟とも呼べる異様な光景であった。

 中央に細長く、席が両端に二つしかない長方形上な食事用のテーブル。

 窓際や壁際には、拷問器具と思わしき物体が幾つも置かれ。

 広間の奥には、大型のモニターがいくつも飾られた操作卓(コンソール)まである。

 いかにもな異様さのあるこの広間では、屋敷の主らしき妙齢の女性が、テーブルに置かれたアンティーク系のダイヤル式固定電話の受話器を当てて、誰かと通話していた。

 空間が異様なら、腰より先まで伸び、全ての毛先を切り揃えた淡い金髪で、〝イタリアの宝石〟と称された女優に勝るとも劣らぬ、ふくよかで肉感的な肢体の持つ美女のいでたちも異様。

 なぜかと言えば、首のアクセサリー、黒のロンググローブ、同色のストッキングとヒール以外は何も着ず、付けず、全く恥じらう様子も見せず、その濃艶な肉体を惜しげもなく晒しているのだ。

 

「我々が君に貸与した完全聖遺物、起動実験の経過はどうかね?」

 

 例えるなら〝蛇〟と言える妖しい艶な声の主な女性の電話相手は、〝米国英語〟を口にする、〝傲岸〟な匂いが声音にこびりついた男。

 

「前にも報告したけど、完全聖遺物の起動には、相応のフォニックゲインが必要なのよ」

 

 女性も完璧なイントネーションな英語で、応じている。

 

「簡単に〝お目覚め〟とはいかないわ」

 

 と、答えた女性は、嘘をついている。

 彼女の左手には、あのネフシュタンの少女が使っていた杖、それこそ男が話題に上げ、曰く電話相手の女性に〝貸与〟の形で提供した〝完全聖遺物〟。

 あろうことか女性は、呼吸するように嘘をつきながら、杖の発光部から光線を放って、ノイズを広間に召喚し、すぐさま呼び出した個体たちを消失させた。

 

「分かっているさ、だが失われた先史文明の技術、是非とも我々の占有物としたいのだよ」

「ギブ&テイクってやつね、あなたの祖国からの支援には感謝しているわ、今日の〝鴨狩〟も、首尾よく頼むわね」

 

 女性は長いテーブルの端の椅子に腰かけ、肉惑的な両脚を交差させて机上に乗せた。

 マナー的に良いとは言えないが、そのグラマラスな肢体と風体で、非情に扇情的な趣きを醸し出している。

 

「あくまでこちらを便利に扱う腹か、ならばそれに見合うだけの働きも見せてほしいものだ」

「もちろん理解しているわ、従順な飼い犬ほど、長生きすると言うしね」

 

 表向きは比較的友好に、しかし実態は腹の探り合いの化かし合いな、ある意味で国家間同士のいかに相手の弱みを握って優位に立つ為の〝外交〟の縮図とも言える両者のやり取りはそこでお開きとなり、通話が途切れた。

 

「全く………野卑で下劣だこと………生まれた国の品格そのもので辟易するわね」

 

 切れた音が鳴る受話器を本体に置いた女性は、仮にも自身を〝支援〟している通話相手、と言うよりバックにある国そのものに対し、心底忌々しく吐き捨てる。

 

〝あんな国から、どうして地球(ほし)の姫巫女のような子が……育つのか〟

 

 内心女性は、自身とっての〝最大の脅威〟に対して、そう零す。

 あの少女が〝巫女〟――抑止力(カウンターガーディアン)に選ばれたのは、単にかつて〝生態系の守護者〟だっただけではない………でなければ、地球が与えるわけがない。

 

「そんな連中に、ソロモンの杖はとっくに目覚めていると、教える義理はないわよね?」

 

 脚をテーブルの上より下ろし、ヒールの靴音を鳴らしながら艶めかしい足取りで、一際大きな拷問器具の方へ足を運ばせ。

 

「クリス」

 

 その器具にて〝磔〟にされている身となっているあの銀髪の少女に呼びかけた。

 一五〇前半と小柄ながらも発育のいいトランジスタグラマーな彼女の身体に黒のボンテージが纏われているのも、ラテン語の〝キリスト教徒〟が語源な〝クリスチャン〟から派生したその名よろしく磔にされているのも、女体を晒す女性の差し金であり、中々の趣味をしていると皮肉れる。

 

「………」

 

 長いことこの状態で拘束され、足下に水たまりができるほど汗も多く流れ、疲労に苛まれてぜえぜえと息を吐く〝クリス〟と言う名の少女には、まともに女性の言葉を応じられるだけの力は余りない。

 女性は汗で濡れ切ったクリスの頬のラインを、指でなぞり、下顎を掴んだ。

 

「苦しい? 可哀想なクリス」

 

 などと言ってはいるが、何を隠そうこの女性は少女にこんな苦痛を与えている張本人であり。

 

「けどこうなっているのも貴方がぐずぐずと戸惑っているからよ……〝誘い出されたあの子〟を捕えて、ここまで連れてくるだけでよかったのに………」

 

 ネフシュタンの鎧と、〝ソロモンの杖〟と称されたノイズを操作できる完全聖遺物をクリスに持たせ、立花響を捕えてくるよう命じた、先日の事態の発端を作った張本人でもある。

 

「手間取ったどころか………〝空手〟で戻ってくるなんてね………この間見せてくれた意気はどうしたのかしら?」

 

 張本人は、その〝命〟を果たせぬままのこのこと戻ってきたクリスを、嘲りも含まれた笑みで咎めたてた。

 失敗だったのは否めない。

 完全聖遺物を二つも有し、相手の装者が一人は経験不足な響、もう一人の翼は精神面で難ありの状態で、確実に追い込んでいたにも拘わらず、翼の〝搦め手〟で逆に追い込まれる失態を犯したからだ。

 もし翼が、逸り過ぎる余り絶唱を歌わなければ、足止め役のノイズの群体を殲滅して駆けつけた朱音の助勢も加わり、さらに弦十郎まで現場に急行できていれば、クリスはそのまま特機二課に拘束されていた。

 

「分かってる……さ……」

 

 唇も満足に、碌に動かせない中、クリスは現状肉体に辛うじて残っている体力を集め、搾り。

 

「アタシの……望みを叶える……には、あんたの……望みを叶えなきゃならねえんだからな」

 

 容貌に反した男子的口調で、女性に返答をし。

 

「そうよ、だから貴方は私の全てを受け入れなさい………でないと嫌いになっちゃうわよ?」

 

 女性は器具に備えられていたレバー型スイッチを下ろして、拷問器具を起動。

 大広間にて、荒れ狂う電流の稲妻の閃光が迸り、その轟音と雷光でもかき消されない、少女クリスの悲鳴が響き渡る。

 電圧は人体に耐えられる許容範囲内に設定はされていたが、疲労に蝕まれた少女の身体を襲う〝電流地獄〟は、傷口に塩にも等しかった。

 

「可愛いわよクリス………私だけが貴方を愛してあげる」

 

 地獄を与える主は、悪魔と女神、その二つが混在する恍惚とした声音と面様で、苦しむクリスを見つめる。

 少女をいたぶる行為に反して、様相から〝愛している〟と言う言葉に偽りはないらしい。

 電撃で痛めつける〝十字架〟を停止させる。

 

「覚えておくのよ、クリス」

 

 絡みつく蛇の如くな仕草で、女性は艶やかな肢体をクリスのと密着させ、頬に手を添え、相手の心の奥底にまで刻みつけるとばかりに、こう言った。

 

「〝痛み〟だけが、人の心を結び繋げる唯一の〝絆〟………世界の真実だと言うことを……」

 

 振る舞いと違わない、蛇を思わす悪魔的な女性の響きと微笑みには、どこか〝諦観〟と〝悲哀〟が入り混じっていた。

 

 

 

 

 

 さてさて、特機二課司令官にして、〝日本国憲法〟に抵触しかねない域にまでの達人な武術家でもある風鳴弦十郎の指導を受けることになった響。

 言うなれば、〝弟子入り〟だとも表せられる。

 響の〝師〟となった弦十郎が、一体どんな特訓や鍛錬で彼女を鍛えているのか………おそらく常識度の高い人間ほど、仰天ものなのだが、それでも………驚かないで、聞いて、見てほしい。

 

 初日。

 ジャージ姿の弦十郎と体操着姿の響の二人が行うは、まずオーソドックスな準備運動による体のならし運転。

 次が、腕立て、腹筋、スクワット等々、基礎的な基礎トレーニング。

 

 そしてその次が――三二歳の若さで急逝した伝説の武道家兼アクションスター主演映画の4Kリマスター版が再生されている大型テレビ画面の前で、劇中そのスター演じる〝怪鳥音〟を鳴らす主人公と同じ構えを取り、そのスターが劇中披露する自身が考案、創設した格闘技――ジークンドーの体技を実践する、と言うもの。

 

 あ……あれ?

 これは………夢? 幻?

 目どころか、脳の認識能力まで疑わしくなる光景だが、大真面目に弦十郎は構え、響もド真面目に倣って構えている。

 二人とも、わざわざジャージと体操着からスターが劇中着ている黄色に黒のラインが入った衣装に着替えてさえいた。

 常識向きな感性の持ち主な人らから見れば、大半はこう突っ込みたくなるだろう。

 おい、鍛錬しろよ――と。

 しかしこの程度で驚くのはまだ早く、序の口で。

 弦十郎の特訓の主たる一部を並べていくと。

 

 夜の道路をランニングする響と、竹刀を肩に掛けて自転車で並走する弦十郎。

 

 細長い三角形上に配置された直系の細い三つの丸太に、両手と両脚を乗せた状態で腕立て伏せ。

 

 足の甲を鉄棒に引っかけた逆さ吊りの状態で腹筋。

 

 同じく逆さ吊りの状態で両手に持ったお猪口で水の入った壺から水を掬い、起き上がらないといけない位置にある樽へこぼさずに移し。

 

 水入りのお猪口を両腕、両肩、頭に置かれたまま、一定の体勢をキープ。

 

 かのフィラデルフィアの三流からスターに上り詰めたボクサーを彷彿とさせる、朝陽、または夕陽が照らされた海岸での全力疾走に、高速縄跳びに、スパーリング。

 

 精肉工場の冷凍庫で氷結されている肉塊をサンドバックに打ち込み。

 

 アメリカでは衝撃の光景だった生卵の一気飲み。

 

 演武や組手の際は、わざわざ九〇年代末にして二十世紀末に大ヒットした、仮想空間を舞台としたSFアクション映画の一作目に出てきた、洋画特有のなんちゃって日本風な道場内にて、弦十郎は貫録を感じさせる黒の道着、響は初々しさのある白い道着を着用して行われた。

 

 そう、弦十郎の特訓とは―――主に古今東西のアクション映画の劇中で登場した特訓を、そのまんま実行すると言う代物でもあったわけだ。

 リディアン入学直前に同様のを受けていた朱音曰く〝色んな意味で上級者向け過ぎる特訓〟だったと独白したのも納得である。

 そう言う彼女も、〝突っ込んでくれと言わんばかりの突っ込みどころ満載〟なのを分かっている上で彼の特訓メニューにノリノリで乗っていたわけなのだが、それぐらいの適応力がなければ、初陣から歌いながら戦えたりはしない。

 さらに補足しておくと、朱音の指導時の訓練メニュー(ボイトレやダンス等々)も盛り込んだ上、一連のアクション映画が元な特訓が行われている。

 

 そんな特訓も七日目。

 本日は朝早くから行われている。

 弦十郎の邸宅の庭にて、響はサンドバックを相手に、拳打を連続で叩き付けていた。

 幼少期から武道武術を嗜んできた朱音から〝素人らしい素人〟と揶揄された面影は、すっかり見られない。

 一見すると、今回のは偉く手堅い印象を与えるが――

 

「じゃあ次は、稲妻を喰らい、雷を握りつぶすように打ってみろ」

 

 まさに――〝Don't Think.Feel!〟だ。

 弦十郎の教え方は、絶対に理屈で捉えられる代物じゃない。

 大抵の人間は、意味が分からないと絶句するだろう。

 

「言ってること全然分かりませんッ!」

 

 対して響は、はっきり分からないと言いながらも。

 

「でも、やってみます!」

 

 と、気迫たっぷりにそう意気込んだ。

 特訓初日から、響はこんな調子で励んでいる。

 基本的に余り深く考えすぎない彼女の性分が、功を奏していたどころか、弦十郎の指導方と上手く噛み合う相乗効果を生んでいた。

 かのアクションスターの生前の言葉に、〝形にとらわれるな〟と言うものがある。

 ある意味で、この師弟は彼の思想を体現していると言えよう。

 

「………」

 

 構えを取り、相手を見据える響は、深呼吸して意識の集中を高め。

 

〝バニシングゥゥゥゥゥーーーーフィストォォォォォォーーーー!〟

 

 響にとって弦十郎の言葉を最も連想させる、初めてギアを纏った日に朱音が見せた〝紅蓮の拳〟のイメージを頼りに、彼女の覇気の籠った意志の〝指揮〟の下、全身を動員した演奏――渾身の拳を打ち放った。

 庭の木の枝に結ばれていた紐は破れ、サンドバック本体も響の一打で大きくふっ飛ばされた。

 

「よし、今度は俺に打ち込んでこい!」

「はい!」

 

 次はミットを嵌めた弦十郎へのスパーリング。

 

 常識的な人間ほど疑わしく映る、映画からインスパイアを受けた弦十郎流の鍛錬の数々。

 しかしそれは、弦十郎に歴代アクションスターが演じた超人たちを凌ぐまでの戦闘能力を持つまでに至らせ、約ひと月前までは〝素人〟そのものだった響を、確実に鍛えさせて〝脱皮〟させてもいたのだった。

 

 

 

 水分補給含めた小休止を挟めながらも、朝からの破天荒で厳しい特訓は昼近くにまで続き。

 

「はぁ……」

 

 響は二課司令室内のソファーにて、ぐったり猫みたくうつ伏せで横になっていた。

 

「はい、ごくろうさま」

「あ、ありがとうございます」

 

 そこへ良いタイミングで友里が清涼飲料水の入ったストローボトルを差し入れ、響は疲れが溜まる体内に水分を供給させる。

 

「あれ? そう言えば了子さんは?」

 

 と、ここで櫻井博士がいないことに気づく。

 

「了子君は今永田町で、政府のお偉いさん相手に本部(ここ)の安全性と防衛システムに関する説明に行っている最中だ」

「えーと……広木大臣にですか?」

「そうだ」

 

 ノイズの出現頻度が急増し、政府官僚の多くからは〝突起物〟と揶揄されている通り半ば問題児扱いされている二課が保有する〝聖遺物〟を狙う何者かが存在している以上、説明義務が生じるのは避けられない。

 博士は二課の代表として、その義務を果たしに行っている………筈だったのだが。

 

 

 

 

 同時刻、国会議事堂、防衛大臣執務室。

 定時はとっくに過ぎて、説明も中盤に差し掛からなければならないと言うのに、櫻井博士はまだこの場にいない。

 政界と言う戦場、ある歌人兼劇作家曰く〝血を流さない戦争〟を潜り抜けてきた証とも言える髪の白さも顔の皺も含めて風格のある広木防衛大臣は、微笑みを絶やさず涼しい顔で待っているものの、灰皿の上にて半分が燃え滓になり崩れ落ちて煙を登らす葉巻と、平静を装いながらも顔から微かに苛立ちの気が零れている眼鏡を掛けた若年な秘書官が、不味い状況であることを語っている。

 櫻井博士、完全に大も付けるしかない〝大遅刻〟をやらかしていた。

 

 

 

 そんで、現内閣の閣僚でもある政治家に待ちぼうけをさせている大物な博士本人はと言えば――

 

「だれかが私の噂でもしているのかな?」

 

 山間部にて淡いピンクの乗用車を運転し、妖艶かつ知的な美貌を一瞬台無しにさせるくしゃみを吐いていた。

 

「今日はいい天気ね、何だかラッキーなことが起こりそうな予感♪」

 

 呑気なものだ。

 確かに本日は晴天なり、青空に流れる雲も小振りなすじ雲程度で、快晴そのものな天気。

 この世で最も面倒な人種相手にでかいヘマを今まさにやらかしている事情に目を瞑れば、ピクニックにでも行くような能天気な様子で、しかし周囲に他の車がないのを良いことに、荒々しくも巧みなカーアクション映画ばりのドライビングテクでカーブだらけな山道のアスファルトの上を派手に走らせていた。

 

 

 

〝風鳴翼を一人ぼっちにさせない〟

 

 どうにかこうにか、津山さんとの約束を果たし、アーティストとしての〝風鳴翼〟では絶対に見られない〝おもしろい〟一面も目にできて、何だかほっこりとさせられもした私は、今日も、市民病院屋上庭園にいて、青空を見上げている。

 別に、病室のベットの上で横になっているのが窮屈と言うわけではない。

 ただ、せっかく緑彩る山々とほど近いのに、私の病室の窓からは向かいのリディアンの校舎と中庭ぐらいしか拝めない。

 それにせっかく、学業からも、守護者としての使命からも、一時的に解放されている身なので、入院患者な立場ゆえの〝暇(いとま)〟を、ただ寝ているだけで費やしてしまうのは勿体ないと思ったからだ。

 だからこうして、病院の頂の上で、こうして世界が演奏している音楽を聞きながら、私も負けじと歌っていた。

 

〝―――♪〟

 

 ここ数日は晴れ模様が続き、今日は特に澄み渡る青空なので、青空にちなんだ曲縛りで。

 人々の笑顔を守る為に戦ったヒーローのED、泣きゲーの金字塔と言われた恋愛ゲームの主題歌、ホラー映画の主題歌でもあったサングラスがトレードマークのシンガーソングライターの一曲――

 

「あっ……」

 

 歌から歌へリレーして、急に止めてしまった。

 いや……止めるしかなかった。

 今歌っていた………日本ロックバンドの曲は、確かに題名は〝あおいそら〟だけど、歌詞が、かなり痛烈に響くもので、このゆったりとした空気には似つかわしくないものだった。

 

「はぁ……」

 

 自分から皮肉ごと水を差した自分に、溜息が零れる。

 よっぽど自分は、気になってしょうがないらしい………自分も少なからず関わっている人の〝性〟と言うものに。

 人間としての私は、シンフォギアの装者以前に、一介の高校生である。

 こう言うことは、弦さんら二課の仕事であり、自分がどうこう思案、推察したところでどうしようもないと言うのに。

 仕方ない………このまま空と反比例して頭の中の疑問(もやもや)が大きくなるくらいなら……と、反芻することにした。

 考えごとをする癖で、ベンチの上で体育座りになる。

 

 二課本部周辺で起きるノイズの局地的異常発生。

 何万回にも渡る、機密情報の抜き取りを目的とした二課本部へのクラッキング、

 体内に聖遺物を宿した特異な適合者であると知っている上で、響を捕えようとし、完全聖遺物を二つも持っていた、あの〝銀髪の少女〟。

 

 明らかに、人の意志、作為……もっと辛辣に言えば、禍々しくどす黒く歪んだ〝エゴ〟が潜んでいるこの状勢。

 

〝短絡的に米国政府の仕業だと断定はできないが……〟

 

 とは、弦さん――風鳴司令の言葉。

 明確な証拠が出ていない以上、司令の言う通り断定は危険だ。

 世界規模で特異災害が起きている以上、どの国もノイズに対抗できる〝兵器〟は喉から手が出るほど欲しいし、鍵でもある聖遺物――先史文明技術の研究は行われているは明白であり、公表されてないだけで日本が実質〝先進国〟であることを疎ましく思っているだろう。

 ロシアも然り、中国も然り、他の国々も。

 だからこの状勢に、私の二つの祖国の一つ――アメリカが関わっている可能性はあるが、まだ無きにしもあらずの程度でしかない……が、言い換えれば……日本の国防の一部を負っているのに、その日本が裏でこそこそと〝異端技術〟の研究を進めているどころか、対ノイズ兵器を保有するに至っている実状を快く思わない合衆国政府が、暗躍している可能性も、捨てきれない。

 私は日本人とアメリカ人、両方の国籍と血を継ぐ自身の在り方を享受しているし、どちらの祖国に対しても敬意を持っている。

 一方で私には、どちらにも盲信する気はない、どちらの国にも正負、清濁、功罪の両側面があることから目を逸らす気もない。

 一七七六年にかの大英帝国から独立を勝ち取って以来、南北戦争、世界大戦、冷戦にベトナム、湾岸にアフガンにイラクと、戦争に明け暮れてばかりだった自由と平等を謳った多民族国家は、今や〝世界の警察〟だと称されたかつて面影など見る影もなく、ほとんど世界での信用は失墜している。

 だから、異端技術の研究の最先端に上り詰めることで、かつての〝威光〟を取り戻そうと画策していたとしても、おかしな話ではなかった。

 憲法上では軍を持つことは許されず、国防の一部を代行している同盟国な日本(このくに)が、自由の国が目指そうとしている〝域〟に立ち、対ノイズ兵器――シンフォギアを曲がりなりにも実用化しているのに、こそこそとそれを隠し持っている現状が面白くないと考えていることも、虎の子であるデュランダルの引き渡しを何度も要求している件からも窺える。

 シンフォギアを秘匿しなければいけない事情は、理解しているけど………正直、アメリカ含めた他の国々からずっと隠し通しておけるとも思っていない。

 外交手段としての〝戦争〟を一切しない、武力も持たないと憲法で明記されていながら、どう言い繕ってもその武力を有した軍――自衛隊(英語で『Self-Defense Forces』、Forcesとは軍隊の意だ)が存在しているダブルスタンダードだけでも、自分で自国の首を絞める縄なのに、その上櫻井博士と言う人材の恩恵もあって他国より数歩どころか何万歩も飛躍している聖遺物研究と、その結晶たるシンフォギアは、それ以上に日本にとって〝諸刃の剣〟であり、〝爆弾〟だ。

 九条改正派の一人でもある広木防衛大臣は、自衛隊を正式な軍すると同時に、最重要機密な特機二課とシンフォギアを〝公の武力〟としたいとする姿勢(他国からすっぱ抜かれる前に自分からカミングアウトすること)には、実を言うと私も賛同している。

 言っておくが、公式に軍を設けることに賛成だからって、私に好き好んで戦争をする趣味はない、平和を尊ぶ想いだってある。

 特に、〝神の名の下〟になどといった大義やお題目など大っ嫌いだし、過剰な〝イデオロギー〟のぶつけ合いで起きる流血なんて………実際にそれで世界が滅ぶのを目にしてしまっただけに、反吐が出る。

 だが………〝祈り〟だけでは悲劇を避けられない、〝和〟を保ち続けることなどできやしないと、超古代文明の顛末と、ガメラとしての戦いの日々で、散々思い知らされてきたからだ。

 平和であることと、ただ戦わないことは違う。

 平和を維持する為の努力も尽力も、武器を取らない〝戦い〟なのである。

 なんて思想家ぶって巡らせてはみたけれど、結局、まだ選挙権すら持たない女子高生である自分が、現在の世界情勢を考察したところで、どうにもならないんだけど。

 

 ただ、これだけは言える。

 

 私は〝聖遺物〟に絡みつき、裏に潜む陰謀も、その根源である………私にとってはギャオスと同類なノイズどころか、ティーンエイジャーの女の子までも利用する歪み切った黒いエゴも――許さない。

 

 私――ガメラと、ギャオスどもとの戦いと、同じだ。

 小山と作った両脚を巻く腕の力が、強くなる。

 あの戦いは、一見すれば異形の怪獣同士の戦い。

 だけど、その実態は結局、人間のバイオテクロノジーで生まれた者同士による、人間同士のイデオロギーの〝代理戦争〟でしかなかった。

 そして今回………表では人間とノイズの戦いも、その実、その裏は、人間のエゴとエゴとのぶつけ合いが〝本性〟だ。

 

 私は響に、戦場には〝魔物〟が潜んでいると言った。

 けれども、戦場の外にも、現実って名の〝悪魔〟がいた。

 歪んだ形で人を愛で………〝善意〟など人の本性を隠すだけの醜い〝仮面〟しかないと謳う、悪魔。

 

 私自身は、上等だ、受けて立ってやると意気込めるけど………響のことを知れば知る程……その悪魔が、あの子に憑りつこうしているように思えて、不安と憂いが先走ってしまう。

 

 その上、親友の未来は……シンフォギアの存在を知ってしまった。

 あの時、目の前で〝変身〟したことに後悔は今でも一片たりともない………が、聡明な未来のことだから、薄々、響もギアを纏って戦う装者(せんし)となっている事実を、感づいているかもしれない。

 なら、波紋が起きる前に、前もって………事実を伝えておくべきなんだろうけど、踏ん切りがつかずにいた。

 思い浮かばないのだ………未来に、どうにか納得させる言葉が。

 そのくせ………知ってしまった未来がどう思うかは、はっきり浮かんでしまうのが、歯がゆい。

 だからって………このまま引き延ばしたままで、良いわけが、ないのに。

 

 ~~~♪

 

 ふと、チャイムのメロディが聞こえた。

 午後五時だと知らせる、街に響く、日本の童謡の音色。

 空もすっかり、夕空へと様変わりし、太陽も海面へと降りている最中だ。

 とりあえず、時間も時間なので、病室に戻ることにした。

 

 

 

 

 しかし、あの銀色の髪の女の子……どういう目的でノイズまでも利用する連中に加担しているのはさておき……やっぱり、そう遠くない昔に、どこかで見た気がする。

 多分、雑誌か新聞に載っていた写真で目にしたと思うんだけど………そこまでしか思い出せずにいながら、廊下を歩いていると、通りがかった談話室の方から、何やら不穏な気配を感じた。

 そこに入ってみると、他の患者さんたちが設置されているテレビを、凝視している。

 何事かと、私も画面に映る夕刻時のニュース番組を覗いて。

 

「………」

 

 絶句した。

 報道ヘリが中継で撮影している映像には、夥しい弾痕がこびり付いてボロボロな車両。

 

 私は、この瞬間、思い知った。

 

 私の祖国の片割れ――自由の国が、新たに犯した………〝罪〟を。

 

つづく。

 


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