GAMERA-ガメラ-/シンフォギアの守護者~The Guardian of Symphogear~   作:フォレス・ノースウッド

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未来が出るのは超久々になってしまった回(汗

勿論原作視聴済みな適合者には予想がついていますが、ビッキー最大の危機たる修羅場はもうすぐそこまで迫っております。


#25 - 鞄の中に押し込めて

 朱音が翼と連絡を取り合っていた中かかってきたインターフォン、面会を希望する〝方々〟がお越しになったと言うものだった。

 

 病院内に敷かれている、市民公園並に広々とした中庭のベンチの一角にて。

 

「「「朱音お姉ちゃん!退院(たぁ~いん)おめでとう!」」」

「ありがとうみんな」

 

 その見舞客たちと言うのが、朱音が時々ボランティアの形で歌の先生(おねえさん)をやっている音楽教室に通う子どもたちだった。

 もう暫く病院通い続くものの、明日には退院、明後日の月曜にはリディアン高等科に復学を許されるほど、絶唱の代償で全身に負った(表向きは車に引かれるところだった子どもを助けようとして、で通している)傷は大分、癒えていた。

 担当医師の、もう後何週間は入院が必要との当初の見立てを凌駕する彼女の生命力が為し得たものである。

 朱音は歌の教え子である子どもたちが持ってきた退院祝い品な明るく花々が彩るブリザードフラワーを心から喜んで受け取る。

 それ以上に子ども好きな彼女にとって、子どもたちの笑顔こそ、一番のお祝い品でもあり、お花たちにすら勝る晴れ晴れとした彼女の笑みは、何より彼女の喜びを表していた。

 

「じゃあお礼に朱音お姉ちゃん、一曲歌いま~す♪ みんなリクエストはあるかな? はい手を挙げて!」

「「「「は~いっ!」」」」

 

 一斉に各々のリクエストを胸に、子どもたちはあふれ出る元気を漲らせて挙手。

 この幼い命たちのエネルギッシュさは、朱音―ガメラが子どもを愛する点の一つだ。

 

 熾烈な競争の果てに、朱音が選び取ったのは、スーパーヒーローに憧れる年代真っただ中な男の子からのリクエストで、三〇〇〇万年前の古代文明の時代に、かつて人類を守護し、現代に復活した光の巨人の活躍を描いた巨大ヒーローシリーズのエポックとなった作品の主題歌であった。

 朱音にとっても、彼女の戦闘歌のメロディに、ギアが曲調(テイスト)に組み込まれるくらいお気に入りの一曲だ。

 

〝~~~~っ♪〟

 

 朱音は、持前の高校生離れした歌声と歌唱力を発揮し、その曲をバラード調にアレンジして歌い上げていく。

 子どもたちは、久しぶりに生で聞く情感の豊かな朱音の音色に、最初はじっくりと聞き入っていた。

 けれど、段々と彼らは一緒に歌いたいと言う衝動が込み上がり始めていた。

 生来の子ども好きゆえに、その気持ちを汲み取った朱音は、歌いながら器用に懐に持っていたスマホのミュージックプレイヤーを起動し、二代目のサビを歌い終えるタイミングで、クラシカルさとロックさが共存し高め合う間奏からスタートさせ、ウインクして見せ、粋のある朱音の計らいに、子どもたちは〝やったー!〟と喜びを表情で表現してみせた。

 エア指揮棒を持った朱音の指揮を頼りに、子どもたちはリズムの川の流れに乗り。

 

〝――――ッ♪〟

 

 途中、元の歌い手たるアイドルグループがライブで奏でる際のアレンジを経て、全員で、最後のサビを一気に締めまで――〝もっともっと高く〟――と歌い上げ、歌い切ったのだった。

 

 

 

 

 

 ロビーにて、見舞いを終えて帰路につく子どもたちへ手を振って見送った朱音は――

 

「ごめん、また待たせてしまったな、響」

「へ?」

 

 背後にいる次の見舞い客であり、朱音のソロパートから院内に来ていたのだが、気を遣う余り中々呼びかけられずにいた響に呼びかけた。

 

「朱音ちゃん、気づいてたの?」

「響君のような独特の癖っ毛の持ち主は、そう他にいるものではないよ」

「そりゃ一本の漏れもなくさらさらヘアな朱音ちゃんと違って、癖があるけど、そんなに私の髪の毛って、か、変わってる?」

「変わっているかどうかは別にして、私から見たら現状〝唯一無二〟と言ってもいい」

「またまた朱音ちゃんってばご冗談を、大げさだって、あはは」

 

 朱音のユーモアある発言で、響の顔は綻んではいたが………それが却って、彼女の心を落とす〝影〟の存在を、際立たせてもいた。

 

 

 

 

 

「いつからあの子たちに歌を教えているの?」

「入学初日から、三日目だったかな――」

 

 担当看護師に子どもたちからの見舞い品を預けた朱音と響は、雑談を交わしながら病院の屋上へと向かう。

 今日も緑豊かで、太陽の光を色鮮やかに反射する園内の、ベンチの一つへ先に座った朱音は、腰かける板をそっと叩いて座るよう響に促した。

 少々へりくだった物腰で、響は朱音の隣に腰を下ろす。

 

「ただ私とお喋りをする為だけに、来たわけではないだろう?」

「あはは………やっぱり、お見通しされちゃってたね……」

 

 響は一時、後頭部の癖っ毛を手でかきながら、あの〝愛想笑い〟を浮かべるも、ほどなく彼女の心に差し込んでいた〝影〟が、あどけなさの残る表情(かお)より、現れ始める。

 

「じゃあやっぱり、この間の………〝戦い〟?」

 

 かのデュランダル移送計画中での〝戦い〟にて起きてしまった、響を巻き込んだ〝聖遺物たち〟の暴走。

 朱音がその問いを投げてから、おおよそ一〇秒ほどの間を沈黙に使いつつも、響は黙して頷き返した。

 

 

 

 

 

 音楽学校ゆえ、音楽関連の書物が充実しているが、それだけでなく市立図書館に匹敵する蔵書数と施設の規模を誇るマンモス学校でもあるリディアン高等科の図書室。

 授業が休みの土曜な今日でも、自習目当てにこの静寂なる秩序が保証された空間に足を運ぶ生徒は、本日として少なからずいた。

 未来もその一人で、自習室の机の前で、次の課題(レポート)を書き終えるべくシャーペンを進ませている。

 まだ提出期限日まで余裕はあるものの、親友兼ルームメイトがギリギリまで悪戦苦闘することになるのは目に見えている為、サポートできるよう未来としては早い内に書き上げたかった。

 

「もう……」

 

 しかし、その気持ちに反して、今の未来の脳内は絶えず〝雑念〟に妨害され、思うように纏められずにいる。

 シャーペンの芯は頻繁に折れ、消しゴムを使う頻度もいつもより多く、机上は響の勉強中並みに消し滓が多く散らばっていた。

 

「はぁ……」

 

 目の前の課題に集中し切れない己の口から零れる溜息は、静かな空気の中にいるせいで、と息は一際大きく聞こえてくる。

 仕方なく筆(シャーペン)を一度手放し、課題を中断させた未来は、両腕を組んで机に置き、自身の顔を腕枕に乗せた。

 

 

 

 

 

 響と一緒に流れ星を見る……約束だった。

 

〝ごめん、未来〟

 

 でも、〝急な用事〟で約束が果たせず、何か背負い込んでいる様子だった響に責めるなんてできるわけもなく、行き場のない気持ちを〝鞄〟に押し込めたけど、寮の部屋に一人でいる気になれず、でも約束していた律唱(ここ)で一番星がはっきり見える場所まで一人で行く気にもなれず、寮からそう遠くない音原公園へ行った矢先、いきなり現れたノイズが、自分に襲いかかってきて――

 

〝Don’t hurt my friend!!〟

 

 自分より先に公園に来ていたらしくて、いつも大事そうに首に掛けている勾玉を握りしめて切迫した顔をしていた朱音が………鎧を纏って、歌いながら、自然消滅するのを待つしかないと言われていたノイズと戦って倒して、私を助けてくれた。

 あの後、真っ黒なスーツを着た男の人たちに保護されて、情報漏えい防止の為って言う〝同意書〟のサインを求められて、朱音のあの姿に関したことも含めた説明を受けた。

 分からないことだらけではあったけど………大体のことは、どうにか納得できた。

 

〝シンフォギア〟………それが朱音の纏った、ノイズに対抗する為に秘密裏に作られたと言う鎧、武器の名前で、あの時彼女が知らない言葉で歌っていた〝歌〟は、ノイズの能力を無効化するってことも、でもそれを扱える人間はとても少なくて、朱音と、奏さんと翼さん――ツヴァイウイングは、その数少ない中の一人であり、特異災害に立ち向かう〝戦士〟だってことも、どうにか呑み込めた。

 

 そんな〝国家最重要機密事項〟と言うらしい秘密を知ってしまって以来、私は気になって気になってたまらない〝不安の種〟が、心に寄生してしまっていた。

 

 もし、もしも………ひ――ひっ………ダメ、ダメだ………心の中でそれを言葉で形にすることさえ、怖くなってしまってる。

 

 なら確かめればいい、朱音に訊ねてみればいい………と思っても、切り出せない。

 思いきって切り出す勇気と、もし本当だった時それを受け止められるだけの決心がつかないのも、あるんだけど。

 

〝私の友達に手を出すな!〟

 

 あの時朱音は、英語でもニュアンスで理解できるくらい、そうはっきり啖呵を切って、助けてくれた。

 

 こう言うと、何だかヒーローに憧れる小さな男の子みたくはあるんだけど、朱音のあの戦う姿と、その普段のお姉さん風なとは一転して勇ましくて凛とした眼差しに、見とれてしまうくらい、カッコいいと思った。

 

 今まで友達を庇って、〝友達だ〟と言い切って助けてきたことはあっても、逆に助けられるなんて経験は、本当に久しぶりだし、友達だと言い切ってくれたことなど、響を除けば、初めてだった。

 

 そんな……恩人で、友達で、人知れず、私たちにも秘密にしたまま、みんなの為に命がけでノイズと戦ってきて、あの後大怪我も負った朱音に、そんなことを聞くのは、不躾だと、彼女の〝人助け〟に水を差す行為だと考えてしまい、とてもじゃないけど………訊けなくて、尋ねる気になれなくて、安藤さんたちと一緒にお見舞いにすら行けず、何日も何週間も経ってしまっていた。

 

 このまま机で寝そべっていても、気分が余計に悪くなりそうで、私は本でも読んで気分転換しようと、丁度いい本を探しに広い図書室の中を周ることにした。

 ずらりと陳列した本の背表紙の題名を、一冊ずつ見ていく。

 

「これ、かな」

 

 その中から一冊、手に取った。

 

 題名――《素直になって、自分》、著者――《金城彰史》。

 

 これに決めた。

 明日には朱音は退院すると聞いている。

 せめて明日か明後日の月曜の学校で、お見舞いに行かなかったことは、ちゃんと謝っておかないといけない。

 選んだこの本には、その勇気をくれると、妙な確信があった。

 

 これを借りようと、ロビーに行こうとした、矢先、私は――

 

「あっ……」

 

 

 

 

 

 

 

 この図書室も含めた校舎の一角は、市民病院と隣接している場所に立っている。

 気分転換の読書に使う本を決め、ふと窓の方に目を向けた未来は………見てしまった。

 なまじ視力が良いだけに、明瞭(くっきり)と目にしてしまった。

 

 病院の屋上庭園のベンチに座る、響と朱音の後ろ姿を――

 

「………」

 

 ――窓の向こうの光景からカーペットが敷かれた室内の床へ、目を落とした未来は、本の表紙をじっと眺めると、そのまま表紙すら開きもせず、棚に戻した。

 

 

 

 

 

 私からの問いに頷いて応えてから、また響は暫く沈黙し。

 

「あの時……あれを………デュランダルを………手にした時……」

 

 そこまで言い繋いで、また黙り込む。

 

「なんか………胸の奥から、真っ暗で……ねっとりとしたのが……広がって」

 

 両手と両腕、背中を中心に体が震える中、言葉を発しては、口をつぐみ、開いてはつぐむ。

 この二つが、交互で、庭園に吹く微風よりもゆったりと、繰り返される。

 

「全部、何もかも………吹き飛べって、壊してしまえって………」

 

 せっかちな人間からすれば、苛立ちが押し寄せるのも否めない間延び加減であったけど、私はじっくりと、響を決して急かさずに、聞き手の役を全うしていた。

 

「気が付いたら…………あれを人に、あの〝女の子〟に、向けて………」

 

 櫻井博士の書いたレポートによれば、体内の聖遺物(ガングニール)の欠片を宿している体質によってより効率よく生み出された響の歌のフォニックゲインによって、デュランダルは起動し、さらに柄を手にした響の手を通じて、聖遺物同士が共鳴、共振を起こしたことにより、彼女の意識に干渉して乗っ取るほどの爆発的エネルギーを生成させた………らしい。

 現代の科学では未だ解けない未知数な点が多く残る先史文明のオーバーテクロノジーの凄まじさが窺える話だ。

 

「朱音ちゃんと翼さんの歌声が聞こえなかったら………私……」

 

 この子の性格上、あのライブの以前から、陽光に喩えられるその優しさの持ち主ゆえに、悩みを抱えても他者を気遣う余り、打ち明けられないことは、あった筈。

 きっと………あのどうしようもなく愚かしい迫害を受けた二年間も、父親が一人〝蒸発〟してしまった時でさえ、残された家族にも、親友で居続けてくれた未来にさえも、心配かけまいと、させまいと〝笑顔〟を被ってなんとでもない様に、振る舞い続けていただろう。

 その響が、胸の内に押し込むことなく、不器用で途切れ途切れな表現(いいまわし)でも、こうして自分に打ち明けてきてくれた。

 この子の重すぎる境遇を思えば、喜ばしいことだ。

 けど同時に、哀しくもなる………自分でさえ、父と母の死と引き換えに蘇った前世(ガメラ)の記憶を、打ち明けられた相手がいたと言うのに。

 

「朱音ちゃんはさ………〝怖い〟って、思ったこと、ある?」

「何を?」

「その………上手く、言えないんだけどね………自分の持ってる力とか、それで………誰かを………」

「怖いさ」

 

 一段とたどたどしく歯切れの悪くなった響の口から出た〝問い〟に、私は即答で返し、勾玉を乗せた自分の手を見つめる。

 

「そりゃ怖いさ、この〝力〟そのものにも………これを手にして、自在に扱えてしまう〝自分自身〟にも………」

 

 と、言い返して隣の響に目を向けると。

 

「っ……………どうしだ? そんな顔して」

 

 なぜか、物凄く意外そうな表情をして私を見つめる響がいた。

 

「いや~~~………そりゃ、朱音ちゃんだって人間だから、戦いそのものは怖いものだったり、その命がけの戦いに臨むことには怖がってたりはしてると思ってたんだけど、あれだけシンフォギアをもう〝達人〟ってなくらいに使いこなす朱音ちゃんが、そう言うとは………思わなくて」

 

 どうも装者としての自分の口から、シンフォギアの力と自分自身にまで〝恐れ〟を抱いていると言われるとは、予想だにしていなかったらしい。

 何だか……心外、歳を間違われるくらいショックだ………私だって一介の女の子だもんと、大人げなく拗ねそうになる。

 まあ………同じ日に装者となったのに、初陣からアームドギアを手にして、そこから間も置かずしてベテランな翼の巨大剣(アームドギア)を叩き切ったところを見てしまえば、そう印象づけられるのも、無理ないと言い切れなくもない。

 

「なら言わせてもらうけど、この〝怖い〟気持ちは、戦い続ける上で絶対に捨ててはならないと私は思っている、だって私たち〝人間〟は………〝猛獣を飼っている猛獣使い〟でもあるのだから」

「あれ? その言葉………どこかで聞いたような………」

「〝山月記〟ってお話は、聞いたことないか?」

「あっ……ああ………うん、中学の時、国語の授業で……」

 

 その山月記とは、唐の時代の中国を舞台に、役人エリートコースを走りながら詩人として大成しようとして挫折し、都落ちして発狂した挙句〝虎〟に変貌してしまった主人公と、彼の行方を追って再会した友人との約束と別離を描いた変身譚だ。

 祖父の書斎で初めて読んだ時から、同じ詩――歌を愛する者として、主人公の李徴の境遇に対して人ごととは思えない気持ちを抱かされた物語だった。

 

「虎になってしまった李徴も言っていたように、人は知性を得たと引き換えに、心の中に感情って〝猛獣〟を飼わなければならなくなってしまった、それは私も、響も、そして翼先輩も決して例外じゃないし、現に翼(せんぱい)の中の感情(もうじゅう)が荒れ狂う様を、実際に目にしただろう?」

 

 この〝猛獣〟云々の言葉で、響がかつての級友たちたちから受けた〝魔女狩り〟を思い浮かべてしまう懸念があったので、翼本人には申し訳ないけど、抜き身の剣だった頃の彼女を挙げることで、響のトラウマへの刺激を、少しでも緩和させる。

 

「うん」

 

 今は和解しているとは言え、一度は意図せず失言で逆鱗に触れかけてしまったのもあり、響は刃を突きつけられたあの時を思い出している様子で、同意を示した。

 

「その上、シンフォギアと言ったこの力………と言うよりも、人が知性で作り上げてきた道具は、人の作ったものなのに、いわゆる……人の価値観である善悪の概念と言うものを持ってなくて、使い手の想いにそのまま染まってしまう」

「え……ごめん、よく……分かんないんだけど……」

「もし、私の中の感情(もうじゅう)が、何もかも壊してやると暴れ出したら、このシンフォギアも猛獣………怪獣となって、万物を焼き尽くす破壊者となってしまう…………そんな内なる猛獣と、力が結託することが、どれ程恐ろしいか…………」

 

 あの夜に、渋谷を火の海してしまった〝罪〟こそ、正に私(ガメラ)を蝕んでいたギャオスども対するどす黒い〝憎悪――内なる猛獣〟と力が悪しき方向で共謀してしまったことで起きた惨劇に他ならなかった。

 今でもあの惨劇は、過ちは、再び守護者となる茨の道を選んだ私にとって、絶対に忘れてはならない〝戒め〟として………背負う〝十字架〟だ。

 だが、もし今の響があの時デュランダルのあの光で破壊と言う地獄を生み出してしまったら………戒めにすることすらできずに、絶望の奈落に堕ちて、二度と這い上がれなかった筈だ。

 

「だからこそ、私のこの言葉を胸の奥に刻んでおいてほしい、力と、それを使える自分への〝怖い〟って気持ちも………自分次第だって、ことを」

 

 私は〝十字架〟を背負う先覚者として、響の目を見据え。

 

「じぶん……しだい?」

「そう、どんな道具でも、どれ程強い力をも持っていようとも、最終的に人助けを為すのは、己自身の強い気持ち――〝意志〟なんだ」

 

 自分の胸、意志の源たる〝心〟に手を当てて、響に伝える。

 

「それらを忘れなければ、一度はデュランダルと結託して、響を暴走に至らせたガングニールも、たとえ〝悪魔が蔓延る戦場〟の中でも――君の〝人助け〟に、全力で力を貸してくれる」

 

 あの暴走の原因は、聖遺物同士の共振も一つではある。

 けれど………やっぱり最大の原因は、響の自覚し切れていない………過剰な自己否定に支配されている〝潜在意識〟。

 それが、最も密接に結びついていると………勾玉を通じて、マナが、地球(ほし)が教えてくれたのだ。

 本当なら、その潜在意識のことを直に教えてやりたいが………響の自己否定の強さは、それすらも否定して受け入れようとしれくれない。

 一朝一夕でいかないのは承知、果ての見えない戦いの果てに、響が自分で自分を破滅(ころ)させない為にも、じっくりと語り掛け続ける。

 

〝よろしくね、朱音ちゃん〟

 

 いつか………響が、自分自身にも、あの太陽の如き眩しい笑顔を、向けてほしいと、願ってもいるから――

 

 

 

 

 

「あ……」

 

 私からの忠告と、私なりのエールを受けた響に。

 

「ありがと………朱音ちゃん」

 

 笑顔が浮かぶ。

 

「実はね、色々朱音ちゃんには世話になり過ぎてるから………相談するの、ちょっと迷ってたんだ………でも、良かった」

 

 相手を気遣い過ぎる余りの〝愛想笑い〟ではなく、入学初日の日、私とこの子を〝友達〟にしてくれた、戦場に潜む悪魔によって、失われてほしくないと願わずにはいられなかったあの笑顔。

 私は、久々に見ることができたそのキラキラとした笑みに、もらい泣きならぬ、もらい笑みになりかけたところへ。

 

「あっーーーッ!」

 

 へ?………いきなり大声を上げた響に、きょとんとさせられた。

 

「そう言えば私、お見舞い品の何も持ってきてない!」

 

 なんだ………何かと思えばそんなことか。

 

「いや、私は別に気には――」

「でも悩みを聞いてくれたどころかアドバイスもしてくれたのに、何のお礼もしないわけにはいかないよ…………どうしよう………何がいいかな?」

「あっ………あの……」

「そうだ、フラワーのおばちゃんのお好み焼き! 私――今から買ってくる!」

「ちょっと、響!」

 

 思い立ったら一直線。

 頭にその単語が一瞬で浮き上がる勢いで、響は走り出した。

 

「ここは病院なんだから、廊下は走ったらダメだよ!」

 

 咄嗟に院内の医師、看護師、患者、見舞客のみなさんに迷惑が掛からないよう、注意をしながらも、その元気一杯な様子に、私の胸は温かみを増して、笑みが零れた。

 

 

 

 

 

 

 今なら、彼女にも伝えられると―――ようやく踏ん切りも、この時ついた。

 

 

 

 

 

 朱音は、患者服のポケットに入れていたスマホを取り出し、メール文を打ち込み始める。

 

「………」

 

 も、途中で思い直し、文の作成を中断させると、電話帳に登録していた未来のスマホの電話番号を発信させる。

 

『もしもし?』

 

 呼出音(リングバックトーン)が四回分鳴ると、未来の声が響く。

 

「もしもし未来、今時間あるかな?」

『ごめん、今男の子と女の子の兄妹と、はぐれちゃったお父さんを探しているの』

「じゃあその子たちの父(ダディ)が見つかってからでいいから、病院に来てくれないか? 大事な話があるんだ」

 

 大事な話とは、未来の心情に気を回し過ぎて………ずっと先送りしてしまっていた〝響の人助け〟だ。

 

『うん、分かった』

「未来?」

『なに?』

「いや、とても機嫌よさそうだなと思って」

 

 声音だけでも、未来が妙にウキウキとした感じなのが汲み取れるのが気になって、訊いてみる。

 

『多分、フラワーのお好み焼きを食べたお陰かな』

 

 なるほど、藍おばさんのお好み焼きの美味なら、そこまで上機嫌になるな――と、思った直後。

 

『あ、響―――!』

 

 響を呼ぶ未来の声が聞こえ―――未来のも含めた〝悲鳴〟と、アスファルトか何かが砕け散る轟音が、電話口から私の耳へと、鳴り響いた。

 

「未来……未来ッ!」

 

 呼びかけるも、応答が返ってこない。

 悲鳴の直前、微かに聞こえたのは―――〝お前はァァァァーーーッ!〟

 

 

 

 

 

 級友と子どもたちの悲鳴で〝戦士の目〟となった朱音は点滴針を外し、電光石火の勢いで、電話の向こうの戦場へと急ぎ飛び出していった。

 

つづく。

 

 




ニコ動でのガイアの一挙放送見ながら書いてたけど、やっぱり本作の一話の下りガンガンガイアのBGMをバックに描いてたのがバレバレだと自覚させられた。



今回の話の冒頭部は、単にガメラである朱音の子ども好きを改めて表現しただけではないのですが、その意図は次以降の話で。

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