GAMERA-ガメラ-/シンフォギアの守護者~The Guardian of Symphogear~   作:フォレス・ノースウッド

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AbemaTVでのシンフォギア無印放送からほぼ間を置かず今度はGXまで一挙放送、Abemaさん気前良すぎでしょ。

でも三日間ほぼぶっ通し、先の放送で適合者になったばかりの新規ファンの皆さんの体力持つかなあ(汗


#28 - 終わりの名

 上空からこちらに急速降下する物体の存在を感づいた朱音は、〝ソロモンの杖〟に操作されたノイズと判断し、地面に突き刺していたロッドを引き寄せつつ、歌唱して後退。

 案の定、らせん状の突撃形態となった飛行型ノイズが複数迫り、朱音は火炎を纏わせたロッドを振るい、その豪火で打ち払った。

 

 朱音が迎撃を続ける中、地上に降り注ぐノイズらは、彼女だけでなく、クリスのアームドギアたる回転式機関銃(ガトリングガン)を破壊した。

 

 ノイズたちの――正確にはソロモンの杖を使い、影に潜んで特異災害を操る者の行為に、自らがあれほど憎悪していた〝争い〟を生み出す側にいた事実――荒廃の大地を目にしていたクリスの貌は、居た堪れない驚愕が形作られる。

 

〝彼女を〝トレッドストーン〟に………外道が!〟

 

 ノイズの〝操者〟の意図――言葉巧みにクリスを、少女の純粋な筈の想いや願いと言う物を利用してきた挙句――〝捨石(トレッドストーン)〟――にする気であると見抜いた朱音は駆け出す。

 分かってはいた………どんな理由であれ、やり方であれ、〝背水の陣〟で三度現れた雪音クリスを打破すれば、どんな形でも目的を阻止すれば、体よく切り捨てられると言うことを、勝っても負けても、必ず苦みを味あわされ、背負うものがあるというのが〝戦い〟だと言うことを………それでも――。

 

〝我が炎~~汝を守る~~盾となれ♪〟

 

 足のスラスターを吹かして、超古代文明語の詩を唄う朱音はクリスの下へ再び躍り出ると、ロッドを一旦プラズマ火炎に戻し、ガメラの甲羅を模したシールドへ再構成し空へ向け、奏でる歌声を源に直径5メートルもののドーム型なプラズマエネルギーの盾――《バーニングフィールド》を張る。

 表面自体が超放電現象を起こしている為、降下してフィールドと衝突したノイズは〝飛んで火にいる夏の虫〟に、次々と灰も残らず燃焼されていく。

 

「っ………」

 

 力なく地上に座り込んだまま、先程まで戦っていた筈の自身の〝盾〟となっている朱音の背中を、微かな声も出ずに放心とした様子で見上げていた。

 

 クリスに迫る不条理に対する〝盾〟となりながら、朱音は敵の次なる出方を窺う。

 自分と同年代の少女の純粋な想いをも冷徹に利用する輩である………この程度で攻撃の手を引いてくれるとは思えない。

 

〝次は、どう来る?〟

 

 地上からか? それとも地中から?

 

 だが違った。

 上空を見回した朱音は………次なる来襲も、また空から来ると知る。

 

 多数の飛行型が次々と寄り集まって肉体を融合させ、大型化、そのまま突撃形態となり斜線を描いて降下。

 

〝前のよりも、ずっと大きい〟

 

 以前未来を守る為に装者の姿を見せた時にも目にした現象であったが、融合後の個体の大きさは、それよりも遥かに凌駕しており、朱音の目測で確認できる限りでは、全長は、およそ四〇メートルはある。

 前回の一点集中で撃ち込んだピンホールショットでは、撃破できそうにない。

 しかもあの質量と巨体相手では………このまま盾を手にしていないと生成も維持もできない《バーニングフィールド》で、突進を地上で受け止めたら、周辺被害が拡大する………最大の理解者でサポーターでパトロンであった広木防衛大臣亡き今、〝突起物〟扱いされる二課の良いとは言えない風聞を広げるわけにもいかない。

 こちらも飛翔して迎え撃つべきなのだが………他の飛行型たちの攻撃も続いている中、フィールドを解いて地上を離れれば、狙われているクリスは格好の的だ。

 通常の大きさの飛行型でさえ、操作次第ではアームドギアを破壊できるのである。

 さっきの戦いで自分が〝戦意〟を奪ってしまった以上、歌う気力も残ってはいなさそうな彼女に迫る〝火の粉〟は、何としても払いのけると決めている朱音であったが、攻めあぐねている中………フィールド越しに、自分らの真上を跳び越える〝影〟を目の当たりにする。

 

〝響ッ!?〟

 

 その影とは――暴走を除き、今まで使われていなかった腰部の一対で円形のバーニアを勢いよく点火させて、融合体へと跳び上がる響の勇姿であった。

 

 

 

 

 

 たった今自らの意志で使えるようになった腰のスラスターの噴射力を、歌により最大の全力で吹かして飛び上がる響であったが。

 

〝朱音ちゃんのように、飛べない………このままじゃ………〟

 

 響自身が飛び慣れていない上、以前よりも上昇した響のレベルに合わせてアップグレードされた現在のガングニールの性能(スペック)でも、長時間飛行できるまでに機能が向上されていない為、跳躍とスラスターの勢いは、どんどん弱まっていく。

 このままでは――融合体にまで届く前に、落ちる。

 

〝もっと………もっと………もっと高く………高く!〟

 

 高まる歌声と響自身の想いで、フォニックゲインの出力は急上昇し、そのエネルギーで両脚部のアーマーから、片足の外側と内側に二つずつ、赤と黒のカラーリングなパワージャッキが展開。

 

〝朱音ちゃんのように上手くできなくても………エネルギーはあるんだ―――だったらそれを―――ぶつける!〟

 

 計八つのジャッキは、響の進行方向へと向かって自らを強く牽引させ、右の拳も大きく振り上げる。

 

〝雷(いかづち)を―――握りつぶすようにッ!〟

 

 師である弦十郎の修練を受けた際、直観力を試される彼からの教えを反芻し、右手に本来アームドギアの形成実体化に使うエネルギーを集中、右腕のアームドギアの一部となるべき籠手のハンマーパーツが、オートマチックの銃身よろしくスライド。

 

〝最速で――最短で――真っ直ぐに――一直線にッ!〟

 

 引き絞られたハンマージャッキが解かれ、生じた反発力――衝撃波は、彼女の後方の空気を〝蹴り上げ〟た、。

 慣性の恩恵が消えかけていた響の体は、大気を踏み台にし、同時にバーニアを再噴射させて再跳躍。

 戦闘歌の詩も伴奏も、サビのパートへと移行。

 

〝飛べえぇぇぇぇぇぇッーーーーーー!!!〟

 

 まさしく電光石火な猛加速で、真っ向から融合体へと押し迫り。

 

〝ッ―――――♪〟

 

 サビの締めを、絶叫の如き声量で響き放つとともに、渾身のストレートパンチを、融合体の螺旋の先端に、ぶち込み。

 

「うぉぉぉぉぉぉーーーーー!!!」

 

 スライドしていた籠手の撃鉄(パーツ)が起こされ、拳と螺旋との衝突面を通じて、さらなる大量のエネルギーを惜しみなくパイルバンカーさながらに、ゼロ距離から豪快に叩き入れた。

 

 螺旋の先端は、クレーター状に深く抉られるほどにまで陥没。

 

 そのまま杭(エネルギー)は巨体を打ち貫き、陥没部からの亀裂が全身へと回ると、一気に炭素化し、爆発四散した。

 

 

 

 

 

 なんて威力だ………私は戦闘中であること失念しないよう留意しながらも、響が繰り出し、あの巨大な融合体を一撃で炭素へと帰した全力全開の正拳を前に、驚かずに済ますのは無理な話だった。

 はっきり言うと………見合うだけの威力を有してはいたけれど、響の今の力の使い方は無理筋、効率は度外視、燃費は最悪、傍からでも体力の消耗が非常に激しい拳撃だ。

 一方自分の感覚が知覚できただけでも、翼がアームドギアを介さずに歌った絶唱の際に生み出された分の数倍もののエネルギーが、一瞬で融合体の全身を駆け巡ったのが分かった。

 

 起動したてのデュランダルを掴んだ時に起きた暴走で生じた爆発的エネルギーといい………これが、聖遺物と人の肉体が合わさった、イレギュラーな〝適合者〟が為せる現象なのか?

 自分も。そのイラギュラーな身であると言うのに。

 

 額から、嫌な汗が一筋、滴り流れる。

 

 どうして………今まで思い至らかった………のか?

 

 これほどの爆発的なエネルギーを、元の聖遺物の欠片から作られたシンフォギア――ガングニールの、さらにアームドギアの一部から産み落とされているとしたら………その〝欠片〟を体内に宿す響の体は………どうなる?

 プラズマの熱を内包するギアを着衣されている全身に、初めて響の〝歪さ〟に直面した時のと、同じ悪寒が走る。

 ガングニールの鎧を纏った姿の響を目の当たりにして、大粒の涙を流して崩れ落ちた……さっきの未来の姿が、頭に流れてくる。

 

「はっ……」

 

 ギアの恩恵で鋭敏化した感覚が、融合体ノイズの体内から全方面に広がろうとする運動エネルギーを捉えた。

 不味い………大地に足を踏みしめない空中からの拳打には、ある〝落とし穴〟がある。

 壁に投げつけられたボールが、ぶつかった壁面から大きく跳ね飛ばされるのと同じく、踏ん張りの利かない状態でパンチを打つと、自分の発したパンチ力に突き飛ばされてしまう。

 フィクションでは度々見かける宙からの拳は、傍目以上に難儀な技術が必要とされるのだ。

 

「ノイズから離れろッ!」

 

 響に警告を発したが、声が空気に響くと同時に融合体は木っ端微塵となって四散し、ほぼ同じタイミングで響の拳が発した運動エネルギーが、ノイズの爆圧と一緒に襲いかかり、消耗している彼女の体が地上へ吹き飛ばされた。

 

「響ッ!」

 

 地に激突する前に受け止めようとしたところへ、自分より不時着地点に近かった雪音クリスはへたり込む体勢から立ち上がって走り出し、抱き留める形で落下してきた響をキャッチした。

 私の側からは後ろ姿しか見えないのだが、そこからでも、体が無意識に行った行動で、当人が戸惑っている様子が窺え。

 

「お前――どうして」

 

 そんな雪音クリスは、自身の腕の中で、自力で立つのさえ困難なほどに疲労困憊な響に問いを投げる。

 

 なぜ、助けたのか?――を。

 

「朱音ちゃんとくりすちゃんが危なかったから―――」

 

 か細い声で、当然の響きで、響は全力でノイズの猛威から助けたクリスに、そうお俺の旨を応答し、伝える。

 

〝人助けを為すのは、己自身の強い気持ちーー意志なんだ〟

 

 私と弦さんとの特訓で戦えるようになり始めた矢先に体験した、デュランダルとガングニールとの共鳴に巻き込まれあわや戦略兵器並みの被害を出すところだった〝暴走〟の一件で、相談に来てくれた時に、善悪を持たない〝力〟に呑み込まれない為に私が伝えた〝アドバイス〟。

 その通りになった。

 ガングニールは間違いなく………響の〝人助け〟をしたい想い、それを為そうとする意志に応えてくれた。

 けど………この先、響が血肉と繋がったガングニールを目覚めさせるたびに、より使いこなせるようになるたびに、ガングニールがあれ程の力を響に齎せてくれる度に………果たして、ただ人助けを為し得るだけに、止まってくれるのだろうか?

 

 さっきの、未来のあの涙が、また流れてしまうようなことに………ならないのだろうか?

 

「このバカッ!」

 

 また――〝前向きな自殺衝動〟を背負う響への懸念と不安がぶり返してきた中、雪音クリスの大声が、耳が入ってきて、俯く顔を上げる。

 

「アタシはお前らの敵だ! 余計なお節介なんだよッ!」

 

 文字にして抜き出せば、響の行為を切り捨てるような言葉。

 でも、私の耳――音感は拾い上げていた。

 その粗暴な調子の言葉に帯びている気持ちから、明白に響の、たとえ立場上敵対していたとしても、その相手に危機が迫っているなら助けようとする〝ひたむき〟さに、心揺れ動いてると。

 

 両親がご健在だった幼少の頃から激変してしまった……攻撃的な言葉遣い、佇まい、そして〝歌〟に隠れている現在の雪音クリスの〝根っこ〟を垣間見た中、彼女が何かに反応して、いきなり空を見上げた。

 まるで、何者かの存在に気づいた素振り。

 

 彼女に〝汚れ役〟を押し付け、ノイズで始末しようとしていた親元が、テレパシーを送っているのか?

 

「フィーネ……」

 

 どうやら当たりらしく、クリスは空にそう口にした。

 

 FINE(フィーネ)………元はイタリア語、音楽用語で、音楽の〝終わり〟を意味する言葉。

 

〝終焉〟と言うその名に、引っかかりを覚えた私の額の眉が顰められた直後。

 

「くっ………」

 

 クリスは抱き止めていた響をこちらに放り込んできて、私は受け止めた。

 一見した限りでは、疲労以外に響の体からは〝異常〟は見当たらない。

 辺りを見れば、先の攻撃を仕掛けている間に回収されたのか、バラバラに脱着(キャストオフ)されたネフシュタンの鎧の破片は、一切が消え失せていた。

 

「こんな奴らがいなくたって――」

 

 そうして、どこかからテレパシーでクリスの脳に語りかけているそのフィーネとやらに向かって、クリスは差し迫った声色な大声を荒げさせた。

 

「――戦争の火種くらいアタシが全部消してやる! そうすればあんたの言う通り人は〝呪い〟から解放されて、バラバラになった世界は元に戻るんだろ!?」

 

〝呪い〟―――〝バラバラになった世界〟?

 

 訴えの中に混じっていた〝単語〟の一部は、私の疑念をより大きくさせる。

 

 クリスの〝根っこ〟を上手く利用し、誑かす為の悪魔の虚言、戯言だと言われればそれまでなんだけど………とてもそうとは断じれないと、直感が断言してくる。

 

 沈黙が………私たちの周り、戦禍の跡地となった公園に広がり。

 

「何だよそれッ!?」

 

 破るように響くクリスの声。

 

 先に始末しようとしておいて、わざわざ〝用済み〟であることを彼女の頭めがけて言い放ったらしい。

 恐らくは――

 

〝もう用はない〟

 

 とでも、ほざいたのであろう。

 

「フィーネとやら、聞こえているだろう?」

 

 返答など端から期待していないが、正直黙って模様を見ている気になれなくなった私も、空へ――どこかにいる、私(ガメラ)が最も毛嫌いする類な匂いもする〝悪魔〟の名を、終わりの名を呼ぶ。

 

「こんな失楽園の蛇――ルシファーの真似事をして、何が目的だ? 人間(ヒト)の誘惑と堕落か?」

 

 咄嗟に浮かび上がったフィーネへの印象を、はっきり当人に投げ込んだ。

 

 言葉が返ってくる代わりに、旋回形態な飛行型が新たに出現し、私らに襲撃。

 響を左腕で抱きかかえたまま、ロッドで飛行型を打ち払う。

 

「フィーネッ!」

 

 夕陽に染まる東京湾の方へ、クリスは走り出した。

 

「待てッ!」

 

 誑かして切り捨てた挙句殺そうともした相手に追い縋ろうとするクリスを止めようとするが、響を抱える私を取り囲む形で、さらなるノイズの群体が召喚された。

 中には、首を石火矢で吹き飛ばされたデイダラボッチもどきな見てくれの大型もいる。

 

 下手に雪音クリスを追いかければ………こいつらを操作して街に放つ魂胆か!?

 

 市民への被害を防ぐにはここで応戦するしかない状況の最中、上空から、半透明の水色なエネルギーの直剣の雨が、聞き覚えのある音色とともに振ってきた。

 

 翼か!?

 

《千ノ落涙》が地上の小型の個体らを、一度に串刺しにし。

 

〝Yoh――――――――!!♪〟

 

 戦闘歌のサビの締めを奏でての、大剣形態なアームドギアによる上段の一閃が、大型を縦状に両断する。

 翼の斬撃で真っ二つに分かれた大型も、他の個体も、炭素分解されて崩れ落ちていった。

 

『イチイバルの反応ロスト、これ以上の追跡は不可能です』

 

 そのままクリスの追跡を試みようとしたが、戦闘エリアの外に出た彼女の足取りはそこで途絶えてしまった。

 シンフォギアの機密保持の関係上、いくら私のギアが飛行できても、特機による民間人の避難誘導が完了したエリア内でないと自由に動けない以上、多くの人々にこの姿を晒してまで飛び回って探すわけにはいかなかった。

 たとえそれで見つけて確保できたとしても、代償が大きすぎる………ここはこらえろと、飛び立ちそうになる己に言い聞かせる。

 

「二人とも、無事か?」

 

 助太刀に駆け付けた翼は、私らに駆け寄り無事を確認してくる。

 

「ああ、響も疲れで眠っているだけ、特に外傷はない」

「なら何より……とは言いたいが、明日で退院する身で、無茶をする」

 

 と、確かに退院目前の身で出撃した私に翼は注意をかけてきた。

 

「でも翼だって、似た状況だったなら同じことをしたと思うけど?」

 

 半ば〝状況終了〟した途端に悪戯心が姿を見せてきて、私はそれに乗っかる形で言い返す。

 自他ともに認める不器用で不屈の警察官ばりに不器用な舌の持ち主な先輩は、擬音にして〝ぐぬぬ〟と口を結ばれてしまう。

 

「ぐぬ……否定はしないが………そこは素直に先輩からの心配の気持ちであると受け取ってほしいものだ……」

「うふっ、ごめん、先輩風吹かせる翼が、ちょっと面白くて」

「またそうやってカラかって………朱音も意地悪だ」

 

 なんて膨れ面で拗ねて見せるけども、こちらからしたら〝カワイイ〟としか映らないので、良い方面で〝やぶ蛇〟である。

 

「拗ねても逆効果ですよ、先輩」

「今さら先輩呼ばわりしても遅いわよ、後輩、だがそれだけ元気なら、入院が引き伸ばされる心配はなさそうね」

 

 時代がかった男性的武士口調から、女の子らしい響き返してくる。

 緒川さんが作った歌姫の休息の日でのお見舞い以来、すっかり私と翼は〝戦い〟の外では、こんなやり取りを交わすまでになっていた。

 奏さんを失ってからは誰一人として見せることなかった〝女の子〟としての顔を覗かせる翼に、一時ながら私は………心が温まって微笑んだ。

 

 

 

 

 

 そう、この戦闘によって誘発される形で、この後に待っている〝波紋〟と、悲劇(トラジティー)を踏まえれば………本当に………〝一時〟だったのだ。

 

 

 

 

 

 本部司令室も〝状況終了〟によって、緊張の糸が解け、職員たちの一息が零れ出る。

 

「エージェント各員は雪音クリスの捜索を続けろ、ただし彼女は〝バル・べルデ〟での境遇で〝大人〟に対し極度の不信を持っている、見つけたとしても慎重に保護するように」

『『了解』』

 

 弦十郎も通信でエージェントにそう命じ終えると、椅子に座り込んだ。

 しかし体はリラックスで和らげることはできても、彼の頭は一連の事態の流れに対する疑念で、動かし続けざるにはいられない状態となっていた。

 

 一〇年前に失われた第二号聖遺物――イチイバル。

 

 二年前に、ツヴァイウイングのライブの裏で行われた起動実験の失敗と、大規模特災害の最中に紛失してしまったネフシュタンの鎧。

 

 そして同時期に、『バル・ベルデ共和国』にて保護されながら、日本への帰国の際失踪してしまった………翼に続く正適合者候補であった少女――雪音クリス。

 

 あの子が、イチイバルの装者となり、ネフシュタンの鎧を纏い、奏の置き土産たるガングニールの破片でイレギュラーの装者となった響、その事実は特に念入りに情報が漏れるように留意されていたと言うのに。彼女の特異性を知っての上で、狙いに現れた。

 しかも………朱音の機転で〝ソロモンの杖〟であるとはっきり判明した、特異災害のコントロールを可能とする完全聖遺物をも、引っ提げて。

 

 どう考えても、これらを偶然と片付けられない、片付けられるわけがない。

 

 確実に―――今、この瞬間にも進行し続けている事態は、少なくとも一〇年以上前から〝繋がっている〟。

 

 元凶の真の狙いが何であれ、一連の点と点を結んでいる〝糸〟を、何としても見つけ出さなければならない。

 

 その上――弦十郎は眼前の操作卓(コンソール)を入力し、3Dモニターを投影させる。

 

 モニターには、バル・ベルデでの内戦に巻き込まれ行方不明になる以前の、愛らしい笑顔を見せる当時のクリスの写真と、新聞記事のデータが。

 二年前に失踪した際に、当時の新聞に記載された記事である。

 

 今年で一六歳となる今の彼女と、当時の彼女を照らし合わせた弦十郎。

 

〝俺たち〝大人〟が、あの子をここまで………変えてしまった〟

 

 クリスは、内戦地で両親と悲惨な死別をして以来、ずっと大人たちに振り回されて続けてきた………否、今も尚、翻弄されていると言ってもいい。

 

 そして………大人(じぶんら)の情況に、また巻き込ませてしまった少女が、もう一人。

 

 次にモニターが表示したのは、二課のデータバンクに保管されている小日向未来のデータであった。

 

 響とは幼い頃から現在も縁が続く〝親友〟の間柄。

 

 しかし………二年前の大規模特異災害と、この二年の間に起きてしまった〝生存者狩り〟のことを踏まえると、今の響と未来の関係性を、単なる〝幼馴染の親友〟とは片付けられないだろう。

 

〝司令、響も戦っていることは、未来に話さないでもらえますか、まだ……〟

 

 朱音もそれを察していたからこそ、級友である彼女を守るべく目の前でギアを纏い助けながらも、響も〝装者〟である事実は伏せてほしいと進言していたのだ。

 

 が―――とうとう小日向未来は、人知れず〝人助け〟の為に、ノイズと戦う戦士としての親友の隠された〝顔〟を、知ってしまった。

 

 朱音から聞いた話では、響が翼を――そしてツヴァイウイングのファンになった切っ掛けと作ったのが、未来であると言うのだ。

 

 もしそうだとすれば………未来は友が背負っているものに対して、こう感じてしまっているかもしれない。

 

〝残酷〟………だと。

 

つづく。




翼の口調は、普段はSAKIMORI風だけど朱音の前では女の子寄りに戻ってしまうバランスとなりました。

ちなみにトレッドストーンとは、最新作が今年10月に日本公開されるマット・デイモン主演のボーンシリーズに登場する劇中のCIAの『暗殺者育成運用プログラム』が元です。

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