GAMERA-ガメラ-/シンフォギアの守護者~The Guardian of Symphogear~   作:フォレス・ノースウッド

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我ながら、鬼だと突っ込みたくなる構成な回です。

原作では隠し事がクッションとなったひびみくのすれ違いですが、こちらではかなりストレートな表現に(汗


#29 - もつれ、交わる糸

 日が完全に暮れて間もない、まだ空も淡い紺色な時間帯にて、未来は特機二課のエージェントに送ってもらう形で、リディアンの学生寮に帰宅する。

 国家最重要機密事項たるシンフォギア、それを扱うことのできる適合者――装者の存在と、戦闘を目にしたのはこれで二度目であったので、長い長い説明も、口外しないと言う約束に同意する書類へのサイン記入と言ったまどろっこしい手続きが省かれた分、以前より早めに帰ることができた。

 ただし、寮内の廊下を進み、エレベーターに乗り、自室へと向かう未来の表情は、深夜の夜天よりも遥かに暗みのある影が、差し込んでしまっており、足取りはほとんど体による無意識のものと等しい。

 気が付けば部屋の中、手が勝手に電灯のスイッチをオンにしていた。

 室内は明るさに彩られるも、それが返って未来の貌の〝影〟をより濃くさせる。

 

〝ごめん……〟

 

 歌を奏でて、シンフォギアを纏い、自分と父親と逸れた兄妹たちを助けてくれた時の親友の〝背中〟が、瞳に張り付いたまま一向に離れてくれず。

 

 それどころか、頭の中で、過去(むかし)が――

 

 盛岡の親戚の家のテレビで、破壊されたライブ会場をバックにレポートするレポーターの映像を突きつけられたあの時。

 

 ガラス越しに、集中治療室の中で意識が彷徨ったままだった響の姿。

 

 必死に、思うように動かない足を奮い立たせて、リハビリに励んでいた響の姿。

 

 教室の机の上に埋め尽くされた中傷の手紙の前に立ち尽くす響を目の当たりにして、心無い視線を感じながら悪意の文面たちをゴミ箱に捨てる自分。

 

〝お、お父さんが………お父さんが……ね………〟

 

 お昼の場所となっていた予備の音楽室の中で、涙ながらに愛する家族がいなくなったことを響が打ち明け、せめてその悲しみを和らげようと分け合おうとする未来。

 

 ―――それらの記憶が勝手に流れて、親友のあの〝姿〟は未来の〝罪〟だともばかり、未来の意識を埋め尽くそうとして、抗うように物置となっていた二段ベッドの下段目を、本来の役割に戻してしまう。

 

〝必ず戻る――響も連れてだ〟

 

 前言通り、恩人(きゅうゆう)は〝響も連れて戻る〟と、約束を果たしてくれたと言うのに、ここで待っていれば、響は必ず帰ってくると………分かっていると言うのに。

 

 煤で汚れた制服から部屋着に着替えて、冷蔵庫の中を見る。

 昨日買っておいたコンビニ弁当が二人分、残っていた。

 初見の第一印象では料理ができると思われることの多い未来だが、実はからっきしである。時々自前の弁当で昼食を取る日もあるが、おかずは全品レンジで温めるだけの冷凍食品の組み合わせ、本格的な料理経験は小学生の頃の母親の調理のお手伝いをしたくらい、それも途中で母から〝邪魔だ〟と追い払われてしまい、それっきりでほとんど調理器具に触れたこともない。

 進学校クラスなリディアンの厳しい授業内容もあり、中々料理の勉強する機会も作れずにいた、家庭科の調理実習も、まだ当分先の予定。

 他の級友のように、自足できる級友が羨ましいと思う時は何度かある。

 その一人である朱音なんて、四月の時、ちょっとした料理に関するトークが切っ掛けで、自分たちのこの寮部屋でご馳走を振る舞ってくれたことがあった。

 羊肉とジャガイモメインなアイリッシュ・シチュー(ハリウッド俳優の祖父がアイルランド系のハーフにちなんで)と、サーモンのムニエル、ふんわりと口の中に広がる旨さは絶品だった。

 響なんて大盛りで三杯分おかわりしていたし、未来も響くらいの胃袋の持ち主だったらそれぐらいは平らげていたくらいだし、夏休みに宿題を早急に終わらせ次第本格的にやってみようと思い立たされた。

 

 もし、この寮部屋のルームメイトが朱音で、今日までシンフォギアを使える戦士になることなく、響がその装者として〝人助け〟をしていると知ってしまったとしても、料理を作って待ってくれているのだろうか?

 笑顔で、迎えてくれるのだろうか?

 

 きっと、そうだろう。

 

〝今はいない………父も母も、小さい時………特異災害から私を守ろうとして……〟

 

 ご馳走してくれたあの日、うっかり家族のことを話題に上げてしまった中、両親が特異災害で亡くなったことを打ち明けた時に見せた、朱音の乾いた笑み。

 

 おまじないを歌って、自分と子どもたちの痛みを和らげようと柔らかく包み込んだ抱擁。

 

 響が装者になってしまってから程ない日でもあった、夕焼けの綺麗な日の、泣きじゃくる響を優しく抱き止める、遠間からでも感じ取れるくらい、同い年とは思えないと思ってしまうあの包容力の強さが、示してきた。

 

 なら自分はと言うと、今の自分では………たとえ料理の腕前があって、冷蔵庫の食材が恵まれていたとしても、とてもキッチンの前に立って作る気になれそうに………ない。

 ましてや………もうじき帰ってくる響を――

 

 

 

 

 

 未来は気晴らしにと、リビングフロアのテーブルの前に座り、毎月読んでいるティーン向けの女性誌の今月号を読み始めた。

 

 いくら記事文を読み進めても、写真を拝んでも、まともに頭に入らないまま、ただ淡々とページを進めていった中、部屋の扉が開く音が鳴った。

 

 細々とした足音が、緩慢に、不規則に、こちら側に近づいてくる。

 

「ねえ……未来……」

 

 その足音を鳴らしていた当人の響が、バツの悪そうな顔をひょっこり見せた。

 

「なんて言うか………その……」

「おかえり……」

 

 上手く言葉を整えられていない響に、未来は〝おかえり〟と掛けるものの、視線は碌に活字を読み進めていない雑誌の文面から微々たりとも動かず、声音も堅苦しい。

 

「あ……うん、ただいま………あの、入っても、いいかな?」

「入れば……貴方の部屋でもあるのだから……」

 

 いつもは必ず〝響〟と名前で呼んでいる口から、余りに自然と、他人行儀に〝貴方〟などと一単語を使っていた。

 

「っ………あ、あのね……」

「なに?」

 

 ぎこちなくリビングに入ってきて、何か言いたげで、どうにか言葉にしようと努力する親友を。

 

「もう大体のことは、前に朱音が助けてくれた時に特機二課の人たちから聞いたわ………今さら貴方の口から聞いておくことなんて、ないと思うけど」

 

 遮る形で、突き放した言葉を突きつけてしまっていた。

 

〝私………なんて、こと……〟

 

 内心、直ぐに自分のしでかしたことを後悔するも、その気持ちを顔に出して響に見せる気力すらない。

 

「未来………」

 

 それどころか、冷たい態度を取る飼い主に縋りつく子犬を思わせる親友の顔を目にした瞬間、気持ちが後悔に沈みかけていると言うのに――

 

「見たんでしょ!」

 

 ――部屋一杯に広がる叫び声を上げ、響を萎縮させる。実際の背丈は未来より僅かばかり上なのに、小さく、細々と、未来の瞳(レンズ)と脳(カメラ)が映した中。

 

「見てたんでしょ!? あの日ノイズに殺された人たちを見て――ノイズと戦っている人たちがいて――目の前でその一人の奏さんが死んでいくのを―――残された翼さんがそれをずっと引きずって歌って戦っていたことを―――大怪我をした体中血だらけな朱音を―――ノイズと戦うことがどれだけ苦しくて、哀しくて、辛いってこと………全部分かった上で、それでも選んだんでしょ!? シンフォギアで、命がけで、人助けをしたいって――しようって――」

 

 呼吸も、響からの返しに必要な間も、碌に挟まずに、畳みかける勢いでぶちまけてしまっていた。

 全力疾走をしたばかりにも見える、荒々しく吐かれる未来の吐息、中学の陸上部にして、走ることへの情熱を燃え上がらせていた頃でも、ここまで荒んだものになったことはない。

 

「なら………もっと堂々としなさいよ! はっきりと〝人助け〟をしてるんだって言ってよ!」

 

 親友がどんな表情をしているか、直視も想像もできない状態な未来は、物置から本来の役割に戻っていた二段ベッドの一段目に入り込み、一気にカーテンを強く、固く締めきってしまった。

 体を壁の方に向けた形で、枕に頭を乗せ、ダウンケットを被る。

 カーテン越しに、響の気配を感じた。

 

「ごめん……」

 

 ただ一言、消え入りそうな小さい声で、ギアを纏った姿を見せた時のと同じ言葉を伝える。

 はっきり耳は受け取りながらも、未来は一切応じなかった。

 その日の二人のやり取りは、そこで終わった。

 

 現在の彼女らとは正反対に、部屋に飾られた小学校の頃に撮られた記念写真の中の、当時の二人は、変わらず晴れやかな笑みを浮かび合わせていた。

 

 

 

 

 

 日曜日、六月に入ったばかりだが、梅雨の月であると忘れさせられるくらい、今日は陽がさんさんと降り注ぐ快晴日。

 お昼時。

 純白のスクールシャツに黒色系のベストな組み合わせの中間服な制服を着衣している私は、リディアン高等科校舎の屋上の一角に置かれているオープンテラスの円形型テーブルの前に座している。

 向かいには私のとは異なるボタン付きニットベストな朱音がいる。

 リディアンの制服の内、冬期の上着はブレザーとカーディガン、中間期のベストも通常のとニット型と、種類があり、どれを着るかは各生徒が自由に選択できる。

 私は冬期の際はブレザーを着ているのだが、なまじ芸能人の身なせいか、自分と同じのを着るのを恐れ入る学生が多いようで、朱音や立花も含めた大半がカーディガンを着用していた。

 この極端な制服の使用率の差は、恐らく私が卒業するまで続くだろう。

 

 リディアンの制服事情はさておいて、なぜ私が朱音とこうしているのかは、昨日にて彼女に『付き合わないか?』と誘ったからである。

 退院祝いと、色々と恩を貰い受けてばかりな身ゆえのせめてもの恩返し、のつもりでもあったが………急に思い立った事情等もあり、上手い施しが思いつかず、予め使用申請していたリディアンの個人練習室の一つにて、日課の一つである歌唱とダンスの鍛錬に付き合わせることにし、牛刻の昼食までは二人で踊り歌っていたわけである。

 

 朱音はテーブルに布地で包まれた立方体を置き、結び目を解くと、二段重ねのバスケットなお弁当箱が現れた。

 

「おお……」

 

 蓋が開けられると、私は思わず声を上げて心服させられた。

 

 一段目には長方形状のサンドイッチがずらりと。

 二段目には見事に乾燥させられたドライフルーツらがびっしりと盛り付けられていた。

 

「全部手作りか、このチキンサンドのソースも、ドライフルーツも」

「Sure(もちろん♪)」

 

 付属していた使い捨ておしぼりで手を拭きながら訊ねると、朱音は英語で『もちろん』と応えた。

 料理ができることは彼女当人との女子談(ガールズトーク)を通じて知ってはいたが、その技量は私の予想を超えていた。

 サンドイッチはチリソースが付いたチキンサンド、コーンと黒のすりごまをマヨネーズと混ぜ合わせたシーチキンサンド、トマトレタス胡瓜ら生きの良い野菜が挟まれたハムサンド、ふんわりと焼き上がった弾力のあるシンプルな卵焼きサンドの四種。

 それらの食した後のデザートとして、オレンジ、パイン、バナナ、キウイ、レーズンらが入り交ざったドライフルーツ。

 朱音の話では病院を出たのは八時、今日待ち合わせた時間は十時、しかも五分前には着いていたと言うことは、二時間も満たない時間帯の間に、ラインナップを決め、食材を買い集め、住まいの台所で調理をして、お弁当箱に丁寧に詰めて、リディアンに向かい、指定した時間より前に待ち合わせ場所にしていたことになる。

 歌女と防人と学生の三重生活を送る身から見ても、驚くべき手際の良さ。

 これが高い〝女子力〟とやらの為せる技か……。

 

「知らない? ドライフルーツを家で作れる専用の器具もあるんだよ」

「はぁ………そうなのか?」

 

 最近、最新のドライフルーツ調理器具が発売されたと平日お昼のバラエティでも取り上げられたそうだが、生憎その時間帯にテレビを見る機会はまずないので、専用器具の存在自体初めて知った、

 

「寝耳に水だ…………文明の利器はここまで進んでいるのか?」

「どこの時代のサムライ?」

「無論、〝現代に生きる防人〟だ(ドヤ」

 

 と、はっきり堂々と応じたら、またもや笑いのツボを刺激されたようで品の良い含み笑いを見せてきた。

 まだ私は、どう自分を見て朱音が〝面白い〟と印象付けたのか……さっぱり分からずにいる。

 当然本人に聞いても、巧みにはぐらかされてしまうし、その度に微笑ましくも魔性な眼差しを向けられてしまう。

 こうなると私の生来の〝負けず嫌い〟が刺激されるので、何が何でも自力で答えを導き出して、朱音に看破してみせると決意を胸に秘めながら。

 

「いただきます」

 

 合いの手をして、朱音特性のサンドイッチを食してみた。

 

「どう?」

 

 感想を朱音から求められる。

 なぜか、妙にそわそわと期待と不安が混在した面持ちをしていた。

 そこまで気を張らずともよいのに。

 

「美味しい」

 

 一口目を頬張った時点で、とうに答えは決まっている。

 旨味の作用でできた笑みと一緒に、称賛の感想を返した。

 

「むしろなぜそう不安げに味を聞く? 剣客に喩えれば凄腕の中でも抜きんでた達人の域だぞ」

 

 今の私ではこれが手一杯。

 もしかしたら歌でなら、柔らかく焼き上がった鶏胸肉と出だしほんのり甘味も混じった辛さからのピリッとくる後味なチリソースなチキンサンド、ゴマとシーチキンの風味にコーンのアクセントが利いたツナサンド、野菜そのものの味と歯ごたえが味わえるトマトハムサンド、外側からは想像もしなかった中の半熟卵がとろとろな卵焼きサンドらの美味を、もっと手の込んだ表現で伝えられるかもしれないが………少々気恥ずかしいので、やめておこう。

 それにここは変に凝らさず直球で伝えた方が良いと思うし、先の評価の表現は、誰がどう言おうが覆す気は毛頭ない。

 本当に美味しい。

 実際、サンドの美味で食欲が促進され、食が進むに進む。

 

「よかった」

 

 肩の荷が下りたようで、奏並みに大きな胸を撫で下ろしながら、歳相応の少女らしさのある喜ばしい笑顔となる。

 

「ヘルシーだけど味の薄い病院食ばっかり食べて、味覚が落ちていたらどうしようかと不安だったものだから」

 

 アメリカ人でもある朱音だから、確かに患者向けに味付けが控えめそうな病院食は物足りないかも……ん? 私は朱音が漏らしてきた言葉に引っかかりを覚えた。

 

「ま、待て………それではまるで、私は毒見役を担われた風に……聞こえるんだけど?」

「じゃあそういうことで♪」

「〝そういうこと〟って何ッ~~~!?」

 

 言下に打ち返してきた朱音のやけにウキウキとしたキレのある返答に、私は我ながら珍妙な反応……またの名を、リアクション(これも奏から習った言葉)を見せてしまっていた。

 

 勿論、今のリアクションが朱音の笑いのツボに強く作用されたのは言うまでもなく、凛として大人びた鋭利な美貌が笑い一色となって、腹をも抱えて盛大に破顔して、大笑いをしていた。

 

 いつもの私なら、真面目な性分で『無礼な奴だなッ!?』と反応してしまうところだったが、朱音のまだ一五歳、もうすぐ一六歳相応の可愛らしい喜色満面を見ていると、こっちももらい泣きならぬ〝もらい笑い〟をしてしまっていた。

 

 やはり恐ろしいくらい、しかし多面的な魅力のある〝魔性〟な女子(おなご)だ、朱音は。

 こう言うのを………〝ギャップ萌え〟と呼ぶのかもしれない。

 今日一本抜き取って見てもだ――。

 

 健康的で引き締まりながらも色香に恵まれた体躯で、先日まで入院生活していたことを忘れかけるほど機敏で流麗な体捌きで、プロでも難儀で体力を非常に消費させて泣かせる、踊りながらの歌唱(ちなみに私と奏は――踊って生歌を奏でられる――を売りにしていた)を見せられた。

 歌、武術だけでなく、舞踊歴も相当積んでいるらしい。

 喩えるならば、真性の巫女の舞とでも言うか。

 額から流れる汗すらも美に昇華させるあの美しい舞を一人で拝めていることにありがたみすら感じたし………しかと目に焼き付けられるくらい、揺れていたな、朱音の端整な恵まれた丸みが実った二つの〝盛り上がり〟が………その後のシャワーなど、同じ女子で裸の付き合いに何の問題もないと言うのに、自分のを見せられて、朱音のを(特に胸の辺りを)見てしまうのが無性に恥ずかしくなって、一緒に浴びるのを控えたくらいだ。

 実はこれが初めてではなく、以前にも奏相手にこんな経験をしたことがある。

 理由(わけ)も碌に話さず顔を赤くして〝終わったらメールで連絡してくれ〟と逃げ去った際にチラリと見た彼女の首を傾げたキョトン顔、奏のとはまた違った不思議な味わいがあったな。

 

 この昼食時にしても、少女相応にコロコロと表情を豊かに変えていったと思いきや、やけに品と色気を兼ね備えた仕草で、サンドイッチを頬ぼってもいた。

 

 本物の翡翠に勝る麗しい翡翠色の瞳など、女性の身ながらも、こうどきりと来てしまう。

 

 サンドの味を隅々まで味わいながら、海鳥が翼を広げて飛び回っていそうな海の如く澄み渡る青空を見上げる。

 

 一体この先、後どれほど、様々な朱音の魅力(かお)を目にするのだろうか?

 

 楽しみではあるし、もっと見てみたい欲求すらもあった。

 

「ありがとう……翼」

 

 しばらく空とゆったり泳ぐ雲を鑑賞していた中、急に朱音から感謝の言葉を貰った。

 何事かと、朱音に目を向け直す。

 

「………」

 

 切なさと、今にもそよ風で消え去ってしまいそうな、どこか儚さも漂わせて伏し目となった朱音の微笑と、声と言う音色。

 

 普通なら、何事かと尋ねるところではあるが………聞くまでもない。

 昨日の戦闘の後、二課のエージェントに送られる形で帰路についた級友を見送ったあの時の、後ろ姿を思い出させられたからだ。

 今日のお付き合いの約束も、その姿を見た時に勢いで取り付けてしまった産物。

 

「今日翼に誘ってもらわなかったら………ずっと一日中、どうしてもっと早く言えなかったのかって………悔やんでたと、思うから」

 

 朱音の〝悔やみ〟とは、級友で、立花の幼馴染である――小日向未来。

 

 私の絶唱のバックファイアを請け負って朱音が重傷を負った同じ日、特異災害に巻き込まれた小日向を救う為に、彼女が級友の目の前でシンフォギアを纏った。

 一方で、立花も装者の一人である事実に関しては、伏せてもらうように叔父様らに進言したそうなのだ。

 

「確か、立花に私達(ツヴァイウイング)を紹介したのは……」

「未来で………あのライブに誘ったのも、彼女だったんだ……」

 

 しかし小日向はその日、家族とともに怪我をしたと言う地方の親類のお見舞いに行く急用ができてしまい………地獄絵図と化すことになる会場にはいなかった。

 この因果と、立花が生き延びた先に受けた迫害、肉親の一人が蒸発してしまった事実を踏まえれば、なぜ秘匿したか、その理由は読み取れる。

 あの二年間、立花の〝親友〟で居続けることが、どれだけ辛苦であったかも。

 

 朱音もその二年間を想像し、小日向の心情を案じて、彼女を守ろうと躊躇わず装者としての自分を見せた一方で、親友も装者の一人であることは秘めていたのだが、同じ寮の部屋で同居している環境と、ただの親友とは言い難いものになっている現在の二人の関係性からずっと隠し通しておくのは不可能でもあると悟っていたようで、昨日にて小日向に〝事実〟を打ち明ける気でいたと言う。

 その前に、次こそはと立花を浚いに現れた雪音クリスの襲撃に巻き込まれ………直に装者としての立花を目の当たりにしてしまう形で、知ってしまったのだが。

 

「分かってた筈なのに………何の準備も心構えもできず、いきなり〝真実〟を突きつけられることが………どれだけ痛くて、苦しくて、無情だってこと……」

 

 物憂げな潤いに覆われた――翡翠色の瞳。

 過去を追想していると、その言葉と双眸が、私に教えてくる。

 

 愛する両親をノイズに殺され、同時に、かつて生きとし生けるものを守護する獣であった前世――ガメラの記憶が、人の身な今の自身に蘇ってしまった悲劇を。

 

 まだ……私には、朱音の〝過去〟を踏み入れる勇気がない。

 

 

 

 

〝マイクだ、歌うのならば使うといい〟

〝ありがとうございます! お父様!〟

 

 何せ私にも……あるのだ。

 

〝引っ越し……それはお父様も一緒に、ですよね?〟

〝いや、お前だけだ、今後私とともに暮らすことはないだろう〟

〝そんな………どうして………どうしてお父様と一緒に暮らしてはいけないのですか!〟

〝お父様お父様とよく言ったものだ………〟

〝お……お父様?〟

 

 

 

 

〝お前が娘であるものかッ! どこまでも穢れた風鳴の道具にすぎん!〟

 

 

 

 

 簡単には他者に、打ち明けられぬ過去を。

 

 

 

 

〝翼さんは父である貴方に歌を聴かせることが好きだと言ったッ! その父親の貴方がそれでは――〟

〝私は翼の父親ではない!〟

〝えっ?〟

 

 

 

 

〝血が繋がってはおらんのだ………あの子は―――私の妻が、私の■、■■に孕まされ、産み落とされた………我ら風鳴の業の―――〟

 

 

 

 

 この身に背負う――因果を。

 

 

 

 

 今朱音の過去と因果に、これ以上深く踏み込んでしまえば、私の――風鳴の因果、闇に巻き込んでしまいそうで、たとえ朱音に覚悟できていたとしても、立ち入らせるには、まだ忍びない。

 なので、まだ当分は、踏み止まったままだ。

 

 それでも、現在(いま)の朱音から、分かることがある。

 

 奏を失った私と、家族を失った奏………その時の私達より遥かに幼い時に、愛する人を失いだけではなく、幼子には余りに無情な〝因果〟を背負った、背負わされてしまったと言うのに。

 下手をすれば、私やあの雪音クリス以上に、自らの境遇に悲観し、荒み切ってしまってもおかしくないと言うのに。

 

 災い、不条理、困難に毅然と立ち向かう強さを。

 

 他者を心から想い、慈しみ、愛しむ優しさを。

 

 その両方を、今でも失わずに今日を生きているのだ………人間(ひと)として。

 

 

 

 

 

「う、歌おう!」

 

 そんな朱音への敬意と、憧憬と、愛しさゆえに、気が付けばその場から立ち上がると同時にこんな言葉(こと)を口走っていた。

 

「は、はい?」

 

 当然ながら、朱音は不思議な味わい深さのあるキョトン顔で私を見上げ、翡翠色の瞳に、自分から言い出しておいて困惑している私を映し出している。

 こんな時、奏だったらどう言葉にして伝えるのだろうか?

 

 奏や朱音のように人を励ますのは………難しいな。

 

「い、いや………さっき歌ったばかりだと言うのに、また急に朱音と歌いたくなってな……あはは」

 

 見え透いた低次元の言い訳と、下手くそな愛想笑いで、茶を濁してしまう。

 

 本当、どうして私の口と舌はこうも不器用なのか?

 立花には、ああも拒絶の旨をすらすらと滑らかに、刃の先とともに突きつけておいて………全く。

 

「with joy♪」

「え?」

 

 自分の口下手さ加減にまた嘆いていた中。

 

「喜んで」

 

 と応えてくれた朱音は見せてくれた―――麗らかな笑顔を。

 

 

 

 

 

 その日の六月の陽光が照らす午後の刻にて、二人がスマホの音楽プレーヤーから流れる伴奏をバックにツインボーカルで歌い上げた歌の一部を上げると。

 

 戦国御伽草子な少年漫画原作のアニメ四番目のOP曲でもある、九〇年代より人気を博した音楽グループの一曲。

 

 以前、翼の心を解きほぐしてくれた、不死蝶の歌い手と呼ばれたアーティストのデビュー曲。

 

 さらに、かのツヴァイウイングの代表曲――《逆光のフリューゲル》のフルコーラスを、本人らも意識せずして、MVやライブにて披露したダンスも込みで、歌いきっていたのであった。

 

 

 

 

 これがある反響を起こすことになるのだが、それはまだ先のこと。

 

 

 

 

 

 そしてこの二人の歌女が、縁の糸が揺らぎかけていた少女たちを救うことになるのが、直ぐ先のことだ。

 

つづく。

 




今回の台詞の一部には、mototennさんってpixivユーザーが描いた同人誌『かざなりさんちのつばさちゃん』の一部が使われております。
motoさんありがとうございます!

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