GAMERA-ガメラ-/シンフォギアの守護者~The Guardian of Symphogear~ 作:フォレス・ノースウッド
活動報告でも申してた通り、朱音と翼さんのオリジナルデュエットソングの歌詞書きながら二人の戦闘パート入れたり、どうしても司令の出番を入れたかったり、朱音とクリスちゃんのやり取り云々でギリギリ五月に出せなかった最新話です。
特に歌詞、小説の地の文は足し算方式で書いてしまう癖が災いして、引き算の方式で言葉を厳選して詞と言う形にする作業が前に朱音の戦闘歌を書いた時以上に自分で自分を追い込ませてました(苦笑
いざ詞が閃いて書いても、何か足りない気がする、もっと文亮多くした方が良い気がする、どこで区切ればいい? でもどうしてもここはオリジナルでと我がままを捨てられず。
とりあえずオリジナル戦闘歌のイメージを端的に言うと→sawanohiroyuki[nzk];nana&mica
一度は奈々さんと澤野さんのコラボ曲聞いてみたい。
感想もお待ちしてます。
声が、聞こえた。
どうしようもない理不尽な現実を突きつけられ、行き場のない濁流な哀しみに打ちひしがれ、その命が危機に陥っている生ける者の――〝嘆き〟を。
空の海の中で、飛行型を中心にノイズを殲滅している最中、彼女の〝声〟を耳にした私は、推進器(スラスター)の出力を上げて、声が発せられた方へと急行する。
ギアの恩恵で、強化された私の視界は、眼下にてノイズに取り囲まれながら、遠間からでも悲愴な覚悟で奴らと対峙する雪音クリスの姿を捉えた。
スラスターを、荒馬をけしかけるが如く吹かさせ、さらに加速。
この身は〝速きこと――風の如く〟。
中国の兵法書の一文を脳裏に浮かべつつ、胸の勾玉より流れるコーラスとともに前奏を奏で、地上からはほとんど垂直で、最早飛ぶと言うより落ちていく速度で降下。
眼下の状況を注視し、読み取る。
先陣の大半はホーミングプラズマで掃討できるが………あの融合した人型の大きさと速度、クリスとの相対距離を見て、ロッド形態では間に合わない。
飛び道具で仕留めようにも、あの巨体を一撃で殲滅させられる威力の火球(ハイプラズマ)では、発射までにロスタイムが生じてしまう上に………下手に放って撃ち込めば………私の炎が起こす爆発で、彼女までも巻き添えとなってしまう。
融合体の攻撃の間合いを超えた、強力無比な近接武器による――〝必殺の一撃〟で以て、叩くしかない。
でも、前に翼の大技(アームドギア)を両断したあの〝技〟ではダメだ。
あの時より装者としての戦闘経験を積んだ分、装者としては駆け出しだった頃よりエネルギーを効率よく扱えるようになっている今でも、あのプラズマの大剣は編み上げるだけで消耗が激しく、戦闘が長引く恐れもある状況ではとても使えない。
ならば―――。
〝我は戦士~~――♪〟
胸(こころ)より自然と浮かぶ超古代文明語の歌詞を唱え、ギアの出力を上げ、脳内が描いたビジョンを元に、右手のプラズマ噴射口から放出した炎(プラズマ)を、新たな武器(アームドギア)へと固形化させていく。
脳が想像(イメージ)した通りに、私の背丈より長く、紅緋色な長柄と、切っ先に槍、そして、三日月に似た曲線が描かれた大振りで両刃な戦斧の刃を携えた斧槍――ハルバードへと炎は姿を変えた。
〝――絶望に飛び込む者~~♪〟
女性の細腕どころか、屈強な大男でもなければ持ち上げられそうにない大きなこの長柄武器。
けれど、シンフォギアの特性、即ち歌――意志と感情による出力増幅(ブースト)の恩恵で、私の腕は難なくハルバードを手に収め、軽々と頭上へ振り上げた。
光沢を発する黒い三日月の刃を、プラズマの炎で赤熱化。
本来物体がここまで熱せられると、固体を維持することはできなくなるのだが、ギアにも受け継がれた私(ガメラ)の能力ならば、プラズマを形にすることさえ可能にしてしまう。
刃に炎熱を纏ったハルバードを振り下ろし、虚空を裂く。
生じた勢いで、縦に一回転して円を描き。
〝決して打ち消せない――この熱く眩い鼓動~~♪〟
クリスを串刺しにしようとした融合型の頭部に、落下の上に遠心力も相乗された上段からの唐竹の一刃を叩き込んだ。
綺麗に真っ二つと焼き切られ、融合型は炎熱を帯びた断面から一瞬で全身が炭素化して砕け散る。
「Get down‼」
すかさず私は背後にいるクリスに、〝伏せろ〟と警告する。
再び振り上げたハルバードを回しつつ、振り向きざまに、袈裟切りと右薙の中間の軌道で、こちらの警告通りしゃがみ込んだクリスを後ろから不意打ちしようとしていたノイズどもを薙ぎ払う。
当然奴らは私の歌でこちらの次元にねじ込まれている為、直撃を受けた個体は切り裂かれ、免れた個体も今の一閃で生じた衝撃波の鉄槌(ブレス)で打ち砕かれた。
「あれが………………」
座した体勢で、災いを迎え撃つ私を見上げているクリスは。
「……ガメラ」
前世(かつて)の私の〝名〟を、口にする。
でも今は彼女の言葉の意図を気にしてはいられない。
口に苦味を広がらせる取りこぼされた炭素(いのち)も散らばる周囲には、クリスをその一人に陥れようとするノイズがうようよといて、今にも人間(わたしたち)を襲おうと手ぐすねを引いている。
直ぐ様、右手に持つアームドギアの結合を一時解き、斧矛(ハルバード)から小銃(ライフル)へと形態変化させた瞬間。
『朱音君ッ!』
正規のギアと同様に、通信機能も追加された両耳に接着しているヘッドフォン型のパーツから、私の名を呼ぶ野太い彼の声を、聴覚が捉えた。
意味合いを理解しつつ、腰だめに構えた小銃のトリガーを引き、銃口からプラズマ製の散弾(リードショット)を、ホーミングプラズマを放つとともに連射。
「ハァァァァーーー!」
と、同時に、私の歌声と、我ながらけたたましい伴奏にもかき消されないくらいに轟く、裂帛の気迫の籠った発声を上げて、風鳴司令が、比喩でも何でもなく、本当にいわゆる〝生身〟のまま、飛び降りてきて、逞しいその剛腕を、傷だらけの道路(アスファルト)に叩き込んだ。
広範囲に飛び散る無数の散弾――リードショットプラズマは、ホーミングプラズマの迎撃を逃れて突撃してきたノイズどもの肉体に食い込んで蜂の巣にし。
司令が大地に打ち込んだ拳は、アスファルトの一部を、畳返しよろしく隆起させ、即席で形成された盾(かべ)を前に阻まれ、攻撃を阻まれた個体らは突き破れず衝突。
「デェア!」
すかさず司令は壁を廻し蹴りで打ち砕き、弾丸並の速さで飛ぶ破片となったアスファルトは、位相差障壁を無効化されていたノイズらを吹き飛ばし。
なんと、聖遺物など持ち合わせてもいない、己が肉体一つで、人類の天敵も同然な特異災害を撃破して見せた。
「っ………」
司令が披露した神業に、クリスは驚きで呆気に取られた表情を浮かべ、顔にはくっきり〝信じられない〟と書かれていた。
災いに立ち向かう戦士の身でなかったなら、私も同じ貌と心境に至っていただろう。
そんな司令と、装者たる私の応戦で、周辺にいるノイズは一掃されていた。
だがこれも一時的、少しすればまた新手が物量を以て押しかけてくるのは容易に予測できる。
せめて少しでも、市内に現界している群体からは距離を取った方がいい。
「おっ――おい!?」
尻餅を付いたままのクリスの小柄ながら豊満な身体を左腕で抱え上げ、肩に担がせた消防夫搬送(ファイヤーマンズキャリー)の体勢でスラスターを噴射して飛び上がる。
「お前……」
「舌を噛みたくなければ口は閉じていろ」
何か言いたげな彼女を一旦制し、市民の避難が完了して現状空間歪曲の反応も見られない市内西端のビルの屋上に着地。
その直後に、司令も降り立つ、その筋肉流々な体躯ゆえに、着地点の床が少々陥没した。
どうやって彼がここまで来たかと言えば、飛翔地点から最もの近場のビルに跳び上がって、そこからさらに自力でビルの頂から頂へと飛び乗って〝八艘飛び〟してきたのである。
特に〝常識〟に囚われ過ぎている人ほど信じがたいかもしれないが、司令(げんさん)にかかれば生身でこれくらいの芸当、造作ないこと。
彼の鍛え抜かれ過ぎた戦闘能力を踏まえれば、本当に〝朝飯前〟なのだ。
「大丈夫か?」
「あっ…………うん」
てっきり表面の攻撃的な気質柄、粗暴な口調で突っぱねてくるのも見越して無事を尋ねると、クリスは思いの外、素直に応じた。
「友里さん、新手のノイズは?」
『今のところ位相歪曲の反応は見られないわ、これ以上ソロモンの杖を使えばこちらに補足されるのを見越されているみたい』
シンフォギアに限らず、あらゆる聖遺物は、目覚めている状態の際には特有の〝波〟を発しており、長年の研究で二課にはその波形を捉えられる技術や設備を有している。
さすがに………あの堕天使めいた〝終わりの名を持つ者〟も、市内を巡回する二課のドローンに聖遺物の反応をキャッチされるほど、特異災害をある程度統べられる《ソロモンの杖》の力を濫用して易々と居場所を教えるほど迂闊ではなかった。
これ以上増援が来ないのは、被害を少しでも食い止めたいこちらからはありがたくもあるが………。
『ッ―――反応検知、タイプG空母型出現しました』
相手は、置き土産を残すくらいにも、抜かりない。
「朱音君、後はこちらで何とかする、君は翼たちの援護に向かってくれ」
予め司令の指示で、私たちはノイズの発生領域(エリア)を、俯瞰から見て三角形を描けられる形で配置されていた。
そうして点と点で結ばれできた三角形の大きさを小さくさせるように、複数のハンターが獲物を袋小路に追い詰めるように、災害の規模を縮小させて内側に奴らを追い込んでいく体を取っていたのである。
この攻め方で特異災害の範囲は狭まっていたが、その分エリア内のノイズの密度は増しているので、当然ながら装者一人が応対しなければならない数も増える。
私も戦線に戻らなければならない。
たとえ時間が経てば消滅する災いの影どもだとしても、存在している限り奴らは、人間(せいめい)と惨たらしく心中するのを止めはしないからだ。
それに空には厄介な〝超大型〟が陣取っている。自力で飛行できない翼たちには難敵がだ。
「了解、彼女を頼みます」
クリスの身柄を司令に委ねた私は、二人に背を向け、何歩か距離を取り、戦場(せんじょう)へと飛翔しようとした。
今まさに、推進器からジェットを放出し、この場から飛び立とうとしていた朱音を。
「ま――待てよ」
クリスは呼び止めた。
掛けられた朱音は、熱と煙が発した推進器を一旦止める。
「――………」
後ろ姿と、艶やかに伸びた長い黒髪を向けたまま、自分を呼び止めて何かを言わんとしていた彼女へ。
「〝こうなったのは火種をばら撒いた自分のせい、だから自分一人でこの地獄を引き受ける〟――とでも言うつもりか?」
「っ!?」
まさに……今クリスが言おうとしていたこと、今彼女自身が思っていることを先んじる形で、朱音が言葉に固めて、声に出して問いかけた。
無論、代弁されたクリスは、驚愕と戸惑いが入り混じった表情(かお)を浮き上がらせた。
単に看破されただけではない。
そこまで自身の旨の内を汲み取っていながら、なぜわざわざ〝疑問形〟で言い表して、問い投げたのかと。
分かっていながら………なぜ、救いの手を差し伸べてきたのかと。
クリスからして見れば、朱音の言い表し方も、自分を助けに現れた上に、みすみす特異災害から遠ざけようとしている行動そのものも、理解に苦しむものだった。
どう言い繕っても、この地獄を生み出してしまったのは………〝自分(アタシ)〟に他ならないって言うのに。
自分が、まんまとあの悪魔の囁きに誘惑されて、乗らなければ。
自分が、心の底から憎んでたやり方で………争いと、そいつを生み出している大人(やつら)をぶっ潰そうなんて考えを起こさなければ、それが一番合理的で現実的なんだって思い込まなければ。
どんな結果を生んでしまうか、碌に考えないを通り越して、思考停止(かんがえなし)に、悪魔から言われるがままに、平和に暮らしている人達が過ごす日常(せかい)に、火薬にガソリンにダイナマイトをばら撒いたくらいに、大量の火種を………まき散らしてしまった。
そうして撒かれた火種は、戦火になって、こうしてノイズの蹂躙による特異災害として、憎くて憎たらしくて憎悪していた〝争い〟を招いて………〝パパとママ〟のような、惨たらしく死なされた人間たちによる死屍累々でできた地獄絵図で、日常を………レイプして犯す同然に………侵し尽してしまった。
〝これが、恐るべき破壊の力を持つ私たちが引き起こした、君が心から憎悪する―――争いの、惨状だ〟
あの時、自分の馬鹿さ加減を見せてくれただって、それを分かっている筈なのに。
「だったら………なんで………」
だからこれは、〝アタシの手〟でケリを付かなければならない。
罪を犯した。
ドブ臭く汚れちまった。
何かを破壊することしかできない……嫌いな歌の中で、特に〝大っ嫌いな歌〟を持った。
この―――自分(アタシ)が、一人で……引き受けなければならないんだ。
自分だけが、特異災害(あいつら)の相手さえすれば、地獄の鉄火場(いくさば)に飛び込みさえすれば………自分とは違う、守護者なシンフォギア装者たちだって、巻き込まれた人々をもっと助けられるんだ。
ドブを喰らうは自分だけ、その方が……良いに決まっている。
心の中で凝固しかけている強迫観念に侵食されている最中なクリスは、朱音へぶつけようとしていた。
どうしてだ?
〝あのバカ〟といい、この〝守護者(ガメラ)〟といい………なんで――
「アタシを―――」
〝なぜ、助けたんだ!?〟
心の奥より急速に立ち昇ってきた、その言葉は――
「甘ったれるなッ!」
――せき止められた。
クリスの口から雪崩れ込まれる前に、風を切り裂かんとまでに髪をなびかせて振り返った朱音の口から、突風じみた声音で放たれた叱咤によって。
彼女の全身から発せられる、まだあどけない齢な少女であることを忘れさせる覇気と迫力に、クリスは圧倒されていた。
足腰に力が入らなくなり、その場に落ちかけたところで、彼女の胸中を察して憂いと苦虫の溜まった面持ちをしている弦十郎の剛腕に支えられる。
しかしクリスの瞳は、正面から見据えてくる朱音の澄んだ透明感に満ちながら、鋭利で凛然とした眼光を宿す翡翠色の瞳から離れずに、まるで吸い込まれるように目と目を合わせていた。
「私たちは、一人でも多くの命を助ける」
その、ガメラであった頃から変わらぬ翡翠の瞳を、朱音は一度閉じ。
「貴方も―――その〝一人〟だ」
開かせると、一転して眼差しと声色(ねいろ)を、柔らかな水のせせらぎが思い浮かばされるものへと変え。
根底にある〝優しさ〟ゆえに、自ら破滅の一歩手前の瀬戸際に立って堕ちかけているクリスへ、ゆったりと、一言一句、少しずつしみ込ませるように、そう伝える。
「その命、無用に捨て鉢にしてくれるなよ、雪音クリス」
再び瞳と声を〝戦士〟のものへと変えると、背を向け直すと同時に両足の推進器を点火。
スラスターから発せられ、形を変えながら巨大化していく白磁の煙(スモーク)は、朱音の勇姿(せなか)を覆うベールとなった。
吹き荒れ、迫るベールに、クリスは双眸を瞼と交差させた両腕で庇う。
ほんの少し、目を開けた。
白煙のベールを突き抜け、青空へと昇って天翔けていく朱音の姿が、瞳の鏡面に、投映された。
人々が営まれる気配が一切消え、戦場と言う名の舞台と化したビル群の中。
我がギア――天羽々斬のマイクより流れる、災いを断ち切る〝絶刀〟の伴奏に乗って歌いながら、剣(アームドギア)の一刀で、ノイズを数体、一度に切り伏せた。
戦いの狼煙が上がってから、かれこれ百体以上は、己の剣の錆としてやった。
まだ戦場(いくさば)の舞台で、戦(うた)い続けられる余力が残ってはいるが………戦況はこちらに傾いているとは言い難かった。
不運にも、アクセルを全開にここまで付き合ってくれたバイクのタイヤに、敵の攻撃が命中してしまいパンクを起こした。
すまない………バランスが崩れ、転倒する前に私は、全速力を維持させたまま座席より跳躍。乗り手を失った鉄の馬は、位相固定されたノイズの群れへと猛進し、激突と同時に爆発して敵を諸とも巻き込ませた。
また……供養しなければならないな。何度目かもしれぬジンクスに自嘲しながらも、アームドギアを大剣へと変化させ。
《蒼ノ一閃》
空へ目がけ、袈裟掛けに振り下ろした刀身から、仇討ちの刃を放った。
三日月状な水色の刃は飛行型を幾つか切り裂いたが、本命に届くことなく中途で宙に霧散する。
頭上を取られているだけで………こうまで立ち回り難くなるとは………。
新たに現れたのは、タイプB《飛行型》を巨大化させたような見てくれで、翼を大きく広げ、地上に大規模の影を差し込んでいる――タイプG《空母型》だった。
あの個体は、自ら攻撃することはほとんどない代わりに、体内に多数の小型ノイズを格納し、腹部から爆撃よろしく大量に投下させて人間を襲う特性を持った個体だった。
その空母型は、私と天羽々斬の間合いの遥か外な上空に陣取っており、先のようなこちらからの攻撃は奴には届かずにいる。
〝あの日〟から、必死に奏の技を換骨奪胎し編み出した多数の敵を滅する飛び道具たる《千ノ落涙》では、あの巨体相手には火力不足。
私の技の中で、奴を仕留められるのは《天ノ逆鱗》ではあるが………あれは重力の助力を得て宙から地上の敵を貫く技であるがゆえ、その重力に真っ向から逆らえるほどの推進力は、現状のギアの〝段階〟では……持たない。
近接戦を主体とし、空と言う舞台に踊り出られぬ私と、私の剣に突きつけられる限界。
〝飛びたい………〟
鳴り渡る私自身の声に、私は音源たる……鼓動が強まってくる胸に、手を当てた。
また、願ってしまった。
求めてし、まった。
己自身が、私自身に訴えかけてくる………強い想い。
〝あの大空へと、高く、もっと高く――羽ばたきたい〟
またしても……自身が生を受けた時に貰い受けた〝名前〟と、奏と二人よる〝ツヴァイウイング〟の名に反して、空を飛ぶことのできぬ自分へのもどかしさと。
彼女の……今や恩人であり、戦友となって、このどこまでも広がる澄んだ蒼穹を海の中を、泳ぐが如く飛べる〝守護者〟のように、飛びたい。
これは己の心情の比喩でもあったのだが、同時に、本当に鳥のように………〝翼〟を羽ばたかせて、空を自由に駆け回りたい。
戦場(いくさば)の渦中に置く身だと言うのに……歌を生み出す源たる、胸の内にある心の深層から湧き上がってくる、切望。
朱音の表現(ことば)を借りるのならば、それこそ―――〝EGO〟呼べるものだ。
それが、感情を捨てた剣に縋る余り、抑圧してきた心の中に以前から存在していたものなのか。
それとも、救い手となった戦友の勇姿を、直に眼(まなこ)へと焼き付けられた影響で、芽生えたものなのか。
一体この〝EGO〟の正体がどちらであるのか、まだ、判別がてんでつかない。
ただ、抜き身で堅いだけの脆き剣だった、かつての自分であったなら、目を逸らし、切り払って否定しようとしただろう。
だが今は……むしろ受け止めていたい、向き合い続けたい、この想いをはっきりと感じ続けていたい意気すら、あった。
飛べぬ私を、空に居座って見下ろす空母型の腹部から、魑魅魍魎らが地上へと落ちてきた。
だが………だからとて、この胸に抱える〝願望〟に、流されるまま溺れ、今こうして荒波の如く呑み込もうと、迫りつけ、突きつける〝現実〟に臆するわけには行かない。
防人としての使命を、今自分が、何を為さねばならぬのかを――忘れてはならない。
戦場の最前線に立つ私たち〝防人〟が、眼前の災いと脅威から後ずされば、その分だけ戦線は後退してしまう。
即ちそれは、一度は特異災害の猛威から逃れられた人々を、また危機に放り込み、命を危険に陥れてしまうと言うこと。
一歩たりとも、この足を引く気はない。
それに―――今の私は知っている。
奏と二人で両翼だった頃も、奏を失って、迷走と墜落を繰り返していた頃も、そして今も。
私は、たった独りで、戦っていたわけではないと――そして、一人で戦っているのではないと。
地上を災いで侵食しようと降下してくるノイズたちは、虚空を震撼させ、燃え上がらせ貫く、橙色な〝熱線〟の奔流で、大半が薙ぎ払われ、火花が多数上がった。
言うなれば、かの戦友が戦場に舞い降りたと知らしめる、狼煙。
おっとり刀で、来て――くれたか。
災いそのものを、跡形も残さず滅する豪火。
身体の芯にまで迫る、弦楽器と打楽器を主体とする、荘厳で、幾多の層をなすほどの、音圧の厚みを宿した伴奏。
それを背景に、水のせせらぎの如き艶やかさ、抒情さと、躍動する大地の如き伸びやかさと力強さ。
喩えるならそう………〝自然〟、そのものを体現したかのような、多面的な歌声。
それらが相成す、朱音の歌が、戦場に響き渡る。
段々と大きくなる歌声の鳴る方角へと目を向ければ、今まさに私が求めてやまずにいる切望そのものな、天空を翔け行く朱音の姿を見た。
ギアによる効能で、強化された五感の一角たる視覚は、彼女の一層凛とした翡翠の双眸を明確に捉える。
朱音は、泳ぐ海豚を想像するほどの軽やかさでくるりと宙を周り、空を遮る空母型の巨体へ身を向けると。
〝――――♪〟
構えた長銃身(アームドギア)の銃口から、火球を放った。
焔の弾丸は、巨体の腹部――格納庫に直撃し、内部にいた小型ノイズを呑み込んで爆発する。
しかし、敵もそう易々と殲滅されてはくれない。空母型は腹部に黒煙を散らせながらも健在だ。
今の一発で仕留められなかったのは、朱音のギア――ガメラが抱える泣き所が因だ。
強力過ぎるのだ。朱音がかつて、生命を守護する玄武であった頃からの付き合いと窺えるプラズマの炎は、そのあらゆる万物を燃やす大火なゆえに、使い方を誤れば多大な被害を生み出す危険をはらんでいる。
あの巨体を一気に屠るだけ火力を無作為にぶつければ、二次被害も相当なもの。
無論放っておけば自然消滅するまで絶えず小型を大量に投下する為、まず格納庫の破壊を優先し、それを果たした朱音は、私の立つ地上まで降りてきた。
左手に銃を持ったまま、右手と右膝と左足を三点で結んだ体勢で、地を轟かせて着地した。
全く、またこうも絶妙な頃合いで馳せ参じてくれるとは。
そう言えば―――ある意味でこれが初めてだ……朱音と。
「翼、戦闘中(こんなとき)に何にやけているの?」
「へぇ?」
颯爽と駆けつけたその朱音が顔をかしげ、麗しい瞳から、腑に落ちなさそうな目線を向けられた私は、戦場の渦中にも拘わらず、またけったいな反応をしてしまう。
理由は直ぐ判明した。気がつけば私の口元は、勝手に笑みを浮かばせいたのだ………自覚した途端に、急に覚えてきた気恥ずかしさで、顔が熱気で紅潮していた。
口にできるわけがない。
シンフォギア装者としてはこちらが先輩でも、〝守り手〟としてはまだまだ朱音には至らぬ身な自分が、こうして同じ舞台並び立っている状況に高鳴っているなどとは、とても。
「あ、これは―――」
〝思い出し笑いだッ!〟
早いところ戦闘再開せねばと咄嗟に見苦しい言い訳を、無理やり押し通しそうになったが。
「「ッ!」」
お互いに〝察した〟容貌が、一瞬で〝防人〟の顔つきへと引き締まり。
刀身にエネルギーを着衣させた、私の右切上の一閃―――と、―――横合いに振るわれた朱音のロッドの先端から放出された炎。
挟み撃ちによる奇襲を試みようとしたノイズに、一弾指に後の先で繰り出された各々の攻撃で、返り討ちにした。
すかさず、私と朱音は背中を合わせ。
《千ノ落涙》
《ホーミングプラズマ》
私達の一対多数用の技たる剣と火球が四方へ、取り囲もうとしていたノイズをも撃破させる。
後は、小型の投下以外に攻撃手段を持たない空母型だけ―――とはいかず。
まだあれ程、残っていたとは。
先の熱線を放った朱音に注目が集まったのか、それとも〝ソロモンの杖〟からの指示か、天楼らがそびえ立つ道路上を、あまたの特異災害が陣取り、こちらとの相対距離をじわじわと詰めていた。
敵陣に対し、互いの背を合わせたまま、私は八相の構えで、朱音は中段之構を取って対峙。
戦場には風が吹き込まれ、灰色の風塵が舞い上がる。
「準備は?」
「whenever(いつでも)」
目を合わせあい、そう応じ合う。
その時だ。
戦意に応え合うように、天羽々斬の集音器と、朱音の勾玉(マイク)から、突如新たな伴奏が、流れ始めた。
私の〝和〟を取り込んだ派手めのシンセサイザーと、朱音の重々しく躍動的なギターら弦楽器とドラム、そのお互いの戦闘歌の特色が掛け合わされたような曲調。
まさかの〝新曲〟に、私達の顔は驚嘆と成る。
何年も防人の歌女(うため)を続けてきたが………初めてのことだ。
シンフォギアが生み出し、奏でる戦闘歌もまた、蓄積された装者の戦闘経験と技量向上に合わせて、封じ手たる鍵が解除されていくとともに、歌詞も音色も曲調も変化、つまりはアップグレードしていくものだ。
奏も、復讐者であった頃の歌は、ノイズへの敵意と憎悪、家族を失った無念と喪失に彩られた、荒々しくも物悲しいものだったが。
〝アタシらは一人でも多くの命を助ける!〟
守り手として、奏だけの己が〝信念〟を見い出してからは、ガングニールも歌の形で、応えていたのだ。
けれども、そんな奏をずっと間近で見てきた筈だったのに、最初の装者でもある私は、アームドギアを具現化できるようになってからも、奏とともに戦い、ともに歌い合うようになってからも、そして………奏と今生の別れから、この瞬間に至るまで、ずっと天羽々斬から流れる〝防人の歌〟は、たった一曲のみだった。
ようやく朱音と戦場に立った、この時が、訪れるまで。
最初はさすがに驚きを隠せなかったが、直ぐに私は、シンフォギアたちの気の利いた施しを享受できるようにない。
《天羽々斬》と、そして《ガメラ》、二つのギアが、今この瞬間の私と朱音の心象(おもい)を元に、今奏でるべき歌はこれなのだと、即興でわざわざ二重奏を作詞作曲してくれたのだ。
改めて目線を交わせ合った私達は、微笑み合い、頷き合った。
なら担い手の自分達は、この音色(ながれ)に―――身も心も、委ねるのみッ!
「Let us(さあ)――」
「――いざ、行こう!」
朱音と翼は、伴奏を構成するコーラス隊とともに前奏を詠いながら、自身の得物(アームドギア)を下段から切り上げ、大地を強く摩擦させた。
地表から、濃い灰色のスモークが舞い上がり、二人の姿を隠すベールとなる
対してノイズたちは、そのような小細工が何だ? 伴奏で位置は諸バレだとばかり、先陣に立つ個体らから、突撃の準備を始める。
ベールの中では、SIG SAUEL P226モデルの拳銃(アームドギア)を構え、一発の〝プラズマ〟を忍ばせる朱音が、トリガーを引き、銃声が三度、響いた。
先陣の群れが、風塵が飛び交う中、今にも跳び掛かろうとしたところへ、彼らを横切る、ゴルフボールほどの――火の玉。
朱音のハンドガンの銃口から、三連続で迸った弾丸は、その火の玉、正体は高密度に圧縮され朱音の操作下にあるプラズマ火球に、命中。
刹那、火球は盛大に爆発を引き起こして焔のカーテンに。
一度突進を始めれば、標的か障害物と衝突するまで止まれないノイズらは、まんまと装者たちの〝策〟に嵌り、夏の虫の如く豪火のカーテンに飛び込み、焼かれて消失した。
〝聞こえる~生命(ともしび)の悲鳴~♪〟
スモークのベールが薄まり、装者の勇姿が少しずつ現れていく中、朱音は歌い出しを担う。
〝無情に~かき消すNOISE~♪〟
朱音の歌声をバックに、彼女に並び立つ形で、刀(アームドギア)を左手が持つ鞘に納刀し、居合腰の構えで瞑目する翼。
瞳が、カッと見開かれる。
次の瞬間、構えたまま電光石火の如く、疾駆、前方の炎のベール目がけ進む。
いかなシンフォギアの鎧でも、ただでは済まぬ万物を灰燼に帰す豪火であるが、かの炎は朱音――ガメラの制御下にある。
〝儚く塵と化し~指からこぼれ落ちて~♪〟
その証拠に、地上付近のベールに、丁度人間一人が通り抜けられるトンネルが開かれた。
〝虚しく~どよめく哀哭~♪〟
銃口から昇る煙をカウボーイよろしく吹いた朱音の作ったゲートを通り抜け、ノイズの群れに踊り出た翼は――
〝断ち切れぬ~情動の雫~♪〟
歌唱を朱音から継ぐ形で歌う同時に、鞘から剣を抜刀し、斬り込む。
〝暮れる暇(いとま)もな~く~♪〟
ギアにより身体能力は強化されているとは言え、常人の動体視力では、いつ抜いたか、いつ斬ったか捉えられぬほどの神がかった早業の太刀筋で、一閃振るうごとに四・五体一度に両断せしめ。
〝影は閉ざしていく~~♪〟
アームドギアのエネルギー結合を刀身のみ解き、柄を大腿部のアーマーに収めると、〝両手両腕〟で逆立ち、回転。
《逆羅刹》
以前より遥かに速度も安定性も切れ味も増した、両足の刃による剣舞で、人間を補足すれば我先に走る特性で密集していた地上の敵を、次々と切り刻んでいった。
飛行できる個体は、眼下で味方を両断する翼を空から狙いを定めるが。
「やらせるかッ!」
朱音の、炎を纏ったロッドの猛撃と、カーテンを再利用して生成したホーミングプラズマを前に、彼らも矢継ぎ早に撃ち落とされた。
逆に地上から朱音を狙う敵も、逆立ちで舞う体勢のまま正確に投擲された朱音の短刀に突き刺され、炭素と散る。
それぞれの持ち味を生かし、応戦する対象を分けつつフォローし合うことで、着実に物量差をものともせず着実に敵の数を減らしていた。
淡泊な思考でも不味いと判断したのか、ノイズらは二人の歌姫を見据えたまま後退するも、彼らの性質ゆえ、直ぐに〝心中〟を図ろうと再び突撃する。
「お見通しだ!」
しかし、長年の経験で連中の性質を肌で覚えている翼は、目線で自分の後ろに来るように朱音に伝えると。
《千ノ落涙》
青白い直剣たちを、前方に扇状に広げた円を描きながら展開し、乱れ飛んでくる相手の突撃は盾となった剣に衝突し阻まれ、自らの運動エネルギーで自滅し四散する。
「穿てッ!」
翼が敵の攻撃を凌いでいる間、ライフルにプラズマエネルギーをチャージしていた朱音は、その場から跳び上がり発射。
《ハイプラズマ》
高濃度に集束された火球は、射線上にいた敵を呑み込み、掠めただけでもプラズマの紫電が個体の肉体を破壊。
たった一発で十体以上を巻き込んだ《ハイプラズマ》は、首のない人型の徘徊タイプに直撃し、胴体は盛大に風穴を開けられ、そのまま崩れ落ちた。
その上に翼は、盾にしていた諸刃たちを射出し、ダメ押しにもう十体以上を打ち貫く。
〝これ以上~消させはしない~幾多の輝き♪〟
二重奏で歌う二人。
朱音は左手の噴射口から放出した炎で、甲羅状の盾を生成。
翼は両脚の大腿部のアーマーから二振りの柄を取り出し、切っ先の峰にスラスターを携えた直刀片刃の剣にして、柄同士を連結。
二人は同時に、アームドギアを投擲した。
ヘッドフォンに酷似する頭部と耳に装着されたヘッドセットから送信される装者の脳波に従い、推進部を吹かして高速回転し、盾と直刀は変幻自在の軌道から敵を裂いていく。
〝恐れも怒りも~嘆きさえ~抱き寄せて~♪〟
舞踏する飛び道具たちがノイズの気を引かせている間、二人は集中力を高め、歌唱で発生したエネルギー――フォニックゲインが、朱音は右足に、翼は左足に集める。
それぞれの足が、暁色、水色のエネルギー波を纏わせて。
〝今こそ集おう~旋律を重ねて――〟
朱音は、力強く踏み込んだ助走を経てほぼ垂直に――翼は、倒立技の一つであるロンダートで華麗に一回転を経て両脚をバネに――同時に跳び上がった。
空中にて。
朱音は体を丸めて前転。
翼は宙返りから体を捻りこみ。
〝立ち上がれッ!〟
エネルギーを纏う足を敵に狙い付け、スラスターを出力一杯に点火し、加速。
〝Rising fire 昂る我が鼓動よ―――地を照らす剣(つるぎ)となれッ!〟
歌詞がサビに入ったことで、フォニックゲインの出力がさらに増大。
《ツインフリューゲルストライク》
朱音と翼による、シンクロする〝歌声〟で高められ、繰り出された急降下キックは、二人の意志に応じ。
〝果てなき勇気で 明日を切り開く――〟
災いを打ち払う流星となって、さらなる数のノイズを撃破せしめていった。
〝そう―――我らは『最後の希望』〟
スライディングして蹴りの勢いを削いで、降り立った。
今や大地に散乱する漆黒の炭素は、ほとんどが〝人間一人も心中できず〟装者に倒されたノイズのものばかりだ。
だが、たとえノイズにとって天敵たるシンフォギアを纏いし歌女の戦士であっても、彼女らは人間。
そして人間がいる限り、奴らは自然に消滅する時を甘んじて受け止めはしない。
現に残された個体らは、一糸でも報いようとしているのか、種別問わず一体に融合を初めていく。
「アンコールまで付き合ってくれるか?」
「勿論、締めまで」
――が、そんな奴らの最後の足掻きすら、不敵に微笑む彼女らの前には通用しない。
朱音はハルバート、翼は大剣の形態に変形させたアームドギアを手に取り。
〝Fly together~奏でるこの詩よ~闇を貫く刃となれ!〟
デュエットによる歌唱を再開。
武骨ながらも流麗な矛斧と大剣の刃が、膨大なフォニックゲインで輝き始めた。
翼は右足を引き、大剣の切っ先を後方に下げ右脇に添えた脇構えを取り。
朱音は身の丈を超すハルバードを頭上にて廻し、円月を描いた。
〝託された想い胸に~見果てぬ地平へ~♪〟
巨大化していく融合体と、未だ消滅できず空を泳ぐ以外に術のない空母型を見据え、歌い続けながら、その〝好機〟を待つ。
〝さら――ともに羽ばたこう〟
そして、好機が訪れたと確信した二人は。
〝Dual――Hearts!!〟
振り上げ、振り下ろしたアームドギアからフォニックゲインを一気に解放。
二つのエネルギー波は、一つに絡まり、束ねられ、暁色の炎と水色の稲妻を帯びた、苛烈に螺旋を描く竜巻の〝槍〟となりて、激しく邁進する。
《双刃ノ炎雷》
〝槍〟は、融合をし終えたばかりの巨体を容赦なく突き入れ、宙に打ち上げられ、瞬く間に貫かれた、
そして竜巻の勢いは止まらず、残っていた空母型ごと青天高くまで豪快に吹き飛ばされ、流れる雲よりも高い上空にて、爆発し、散っていった。
つづく。
実は翼さんの、奏さんとも、マリアさんとも違う朱音との関係性も模索していたのですが、そんな中行き着いたのが―――お互いリスペクトし合って敬意を表しているからこそ、負けられないぞと競い合い、お互いを高めていくような、真っ直ぐな『ライバル』の間柄でしだ。
それを表現できているかは別としてですが(コラ