GAMERA-ガメラ-/シンフォギアの守護者~The Guardian of Symphogear~   作:フォレス・ノースウッド

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当初はカラオケの下りまで行くつもりでしたが、UFOキャッチャーの下りで翼の中の人ネタを思いついて書いたら膨れ上がっちゃった回です(汗
てかまた公式(正確にはXDUのメモリア短編)とネタ被ってしまった。


#44 - 装者達の休日 一幕目

 瑞ヶ丘公園の太鼓橋の近場にあるベンチに、私と朱音は今腰かけている。

 

「またはしたない姿を見せてしまったな」

「気にしないで」

 

 朱音が買って来てくれた飲料缶のお茶で水分を取りつつ、先程の一件を詫びる。

 

「まさか日頃から己が容姿に悩んでいる朱音が、おめかしをして可愛らしさをあざとくアピールしてくるとは思わなかったものでな、よほど私と娯楽に興じたかったと見える」

「あ、これ……」

 

 同時に、この前の立花たちからのお誘いに関する、朱音のアメリカンジョークに振り回された一件で、ちょっとしたお返しをお見舞いする。

 

「そう? 翼にはそう見える? そっか、うふふ」

 

 会心の一閃(ひとふり)のつもりで言い放ったつもりだったが……逆に空振りしてしまったと、両の頬に両手をぴったり貼り付けて、その回に「やったやった♪」隠し切れぬ喜びを、はにかんで見せる朱音を目にして、気づく。

 じまった、何やっているのだ?

 この大ボカが! つい先まで自信満々に大きく振り上げ、振り下ろした自分を恥じたくなった………両手で顔を覆い隠したい。

 年齢相応に見られない大人びた美貌(本格的に化粧をされると、ますます私より年下の現一五歳に見えなくなる)に悩まされている朱音に〝可愛い〟なんて、褒め言葉にしかならぬではないか!

 生兵法は怪我の元、とはこのことか………ユーモアも一筋縄ではいかぬものだな。

 その代わり、怪我の功名で年頃の乙女な朱音を間近にできたので、次こそは一本取る為の足掛かりにもしつつ、今回良しとしよう。

 

「楽しみにはしてたんだけど、お出かけ中に翼の正体がバレない様にってのもあってね」

「あっ……」

 

 なるほど………朱音の服装の意図の一つを、私は察する。

 芸能人とは高嶺の花、名を上げれば上げるほど、ある意味では人にして人ならざる身となる、言わば〝偶像〟を背負う存在であり、私も、自分で言うのは何だが高名な方だ。

 そんな自分が、リディアンならまだしも、学び舎の外の白昼にて出歩いている姿を見られでもしたら、それだけで騒動となってしまう。

 しかも、ライブが迫っている上に、今春にてメディアでも大々的に報道された、海外大手レコード会社――『メトロミュージック』からの移籍のスカウトに対して、まだ公式の返答も公表していない。

 こう言った事情もあり、朱音に背中を押してもらうまでは、立花たちからの折角のお誘いに乗るべきか、渋っていたのだ。

 その為に朱音は、私の存在を道中の行客たちに気取られにくくする為の措置として、敢えて自分に衆目からの視線を一心に寄せるような身なりに着飾る手を取ったわけである。

 効果はあるようで、通りがかった行客たちから、何度か視線を受けるが、いずれも朱音に釘づけとなって私の正体に気づかぬまま過ぎ去っていく。

 叔父様が鑑賞するのも納得な全編ほぼアクションなかの英国名探偵とその相棒によるアクション映画劇中の言葉だが――目立ち過ぎると逆に目立たない、なんと逆説的か。

 持前の美貌が引き立つ朱音のこの姿の理由の一つが今述べあげたことではあるが、先程のリアクションを見れば、どうも私と休日出かけることに、満更ではなかったらしい。

 私の方も………満更ではないだけに、少しばかり、こそばゆい。

 黙っていてはこの気色が強まりそうなので、立花と小日向が来るまでの間、雑談で気を紛らわすとしよう。

 

 

 

 

 

「和服に関しては、歌と同等に幼い頃よりの付き合いであったから、それなりに審美眼は鍛えられているのだが」

「じゃあ、この着物の値段(プライス)は分かる?」

 

 スマートフォンで、インターネットの画像検索から割り出した、通販サイトに掲載されているものと思われるモデル写真を朱音は見せて、値打ちはいくらか問うてきた。

 

「消費税を除けば……三五〇〇○円ほどだな、これは」

「あ、合ってる」

「見くびってもらっては困るぞ」

「じゃあこっちのは?」

 

 続けて、別の着物姿のモデルの画像を見せてくる。

 偶然の産物などと思われぬ為にも、応えねば。

 

「五万九千……六〇〇円」

「ならこのプライスとサイズと、あと布の生地は?」

「十二万、七五〇〇円の……Mサイズ………生地は………○×を使っているな」

 

 朱音はスマートフォンを操作した、私の解答を照らし合わせる。

 もしかすると、今までで最も緊張させられた瞬間となるやもしれない。

 

「凄い……全部合ってた……」

「どうだ、私の昔取った杵柄は!」

 

 えっへん! と、昔奏から教わった言葉の一つないわゆるドヤ顔とした得意満面でスタンディングポーズで示す私だったが、内心を体調に表すと、危機的状況を潜り抜けてきたが如く、肩で息をするほど荒れて収縮を繰り返す胸に手を当てるくらいに、ほっとしていた。

 実物はともかく、狭い端末画面のデジタル画像越しだと判別が難しく、さらにここ数年、特にこの二年は着物に直に触れる機会もほとんど無かったからである。

 ほんと良かった………己の和服を〝見る目〟が錆びておらず健在であって。

 

「だが洋服となると、まるっきし……ダメな門外漢で」

 

 先程の体たらくも、コーディネイトを全て自分で行える朱音の女子力にまた打ちのめされたに他ならない。

 

「このコーデも、目立ち過ぎず、かつ今日の場に相応しい塩梅を見い出せずに、結局緒川さんに仕立ててもらったの……」

 

 ファッションに関する勉強も、奏と死に別れてからの、自堕落の極みな(緒川さんらのフォローが無ければより悪化していたのは容易に想像できる)この二年は全く手を出していなかったが、最近再開させて、時間の合間にその手の雑誌、本を読み耽たりしている。

 専用のアプリを用いれば電子書籍でも読めるそうだが、私としては紙の本の方が、内容を読み取り易くて性に合っていた。

 

「じゃあ、ライブの衣装とかほとんどスタイリストさん任せってこと?」

「うん、その上奏なんて私以上に衣服には無頓着だったわ、夏にもなると『感触がうっとおしい』からなどと言って、朱音が着ているの以上に両肩とへそが剥き出しのトップスとショートパンツのジーンズな、圧倒的に布地の少ない組み合わせで済ましてたし」

「それって、ギアを纏ってる方がまだ露出控えめになってない?」

「そうそう、そうなのよ~~もう水着とほとんど大差なくて、見てるこっちが冷えそうなくらいだった」

 

 不思議だ。この二年……奏との思い出は、辛いものばかりしかろくに思い出せなかったと言うのに。

 今では、色んな記憶の頁が、明瞭に思い起こせるようになっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 そうして、私と翼は、雑談で時間を潰しながら、今日の〝デート〟の企画者である響と未来の二人が来るのを待ってたんだけど。

 集合時間から、五分経過。

 

「休みの日はいつもこんな感じなの?」

「こんな感じ、むしろ学業休日ひっくるめて、響が遅刻をしなかった日を数える方が早いくらい」

「毎回遅刻魔の面倒に回る小日向も大変だ」

 

 実際思い返して、遅刻しなかった数えて見ると、今日までの時点では片手の指に納まる回数だった。

 十分経過。

 連絡してみようと思ったら、丁度未来からメールが来た。

 

「『もうちょっと掛かりそう』だって」

「………」

 

 翼は黙ったまま、片方の瞼と眉が若干ピクっと引きつった。

 さらに、二十分経過。

 

「つ……翼?」

「何ッ!?」

 

 本人は私が来た時は自分もさっき来たばかりと言ってたけど、前日緒川さんから聞いた話を思えば、かなり前から待っていたのは明白だった。

 その翼は、今や鋭利で眉間に皺寄せた三白眼に膨れ面といかにもな仏頂面で、両腕を強めに組んで、左手の人差し指と右足を、小刻みにバタバタと貧乏ゆすりさせていた。

 

「怒ってる?」

「怒ってなどおらん! ただ機嫌が芳しくないだけだッ! 全く……肝心の言い出しっぺが遅刻で待たせるとは何事かッ!」

 

 いや………翼先輩、それを〝怒ってる〟と言うんじゃないでしょうか?

 さっき雑談してた時は素の口調だったのに、今は防人モードに戻っちゃってるし。

 けどそれはつまり――

 

「よっぽど今日を楽しみにしていたみたいだね」

「なっ! ち――違うわよ、わ……私はただ! 折角の時間を僅かでも無駄にしたくないだけ! か、勘違いしないでよね」

 

 かと思えば、私から図星刺された翼は、途端元の素に戻り直して、赤くなった顔から、アニメマニアの弓美から確実に『アニメじゃないんだから』と突っ込みが入りそうな絵に描いた〝ツンデレ〟の常套句を口にした。

 実際友達として交流して分かったことだけど、この先輩――分かりやすい。

 

「何よそんなニヤケ顔をして……」

「折角の日に不機嫌な顔をしているよりはいいでしょ?」

「それは、そうだけど……」

 

 さらに十分くらい過ぎて、待ち合わせ時間から三〇分近くロストしてしまった最中。

 

「ご、ごめん朱音ちゃん、翼さん!」

 

 ようやく言い出しっぺの響と未来が、待ち合わせ場所にご到着。

 ここまで大急ぎで走ってきたので、全力疾走したスプリンターばりに二人とも盛大に息が大荒れで、両手を膝に乗せてぜえぜえとしていた。

 ちなみに二人の服装。

 響の方は、真っ白なショートブラウスに、淡いピンクのベビードールワンピ、横髪に左右対称で付けられている髪留めは、いつものジグザグ状のではなくお花だ。

 未来はと言えば、響のと好対照に黒のブラウスの上に水色のキャミソールに、スカートとレギンスの組み合わせである。

 

「遅いッ!」

「申し訳ありません………お二人ともお察しのこととは思いますが、この大遅刻はいつもの寝坊助な響の寝坊が原因でしてぇ………え?」

 

 休日、二人が待ち合わせに遅れるのはしょっちゅうなんだけど、原因は未来の言った通り、響の寝坊癖でもあり、翼の話を聞くに奏さんとどっこいどっこいで自分の着る衣服への頓着のない響のコーディネイトに苦労する未来、なのも少なからずあったりする。

 

「お~~朱音ちゃん、今日もクールなビューティに決まってるね~~」

「あはは、これはどうも」

 

 大分呼吸が落ち着いて私を見た響が開口一番こう言った。

 せっかくの賛辞なので、ありがたく頂戴したが、内心複雑だ………せめて化粧はと、ナチュラル童顔系メイクでおめかししたつもりだったので。

 だからさっき翼から〝可愛い〟呼ばわりされた時は、たとえ本人が私から一本取ろうとブラックジョークの意味合いも込みで言っていたとしても嬉しかった。

 それはそれとして、響君って時々、リアクションが何だかおじさんっぽくなるよね―――って。

 

「「未来!?」」

 

 彼女のその姿に、私と響の声がシンクロする。

 

「負けた……一五歳……一五歳であの姿………私たちと同い年………」

 

 物悲しいメロディで奏でられるバイオリンの一重奏が響く中、暗転した舞台に丸いスポットライトが当てられそうな、さっきの翼の再現とばかりに横座りで橋の柱にしがみ付き、哀愁漂わせて崩れ落ちる未来がいた。

 前にも……最初の体育の授業前の着替えの時にも、見たことがある光景。

 未来がこうして落ち込んでいる理由は、聞かないでおこう。

 しかし、私からしてみれば発育の飛び級なんて、いいものじゃないんだけどな。

 結構奮発したこのコーデも、今の自分の容姿に見合う様に妥協してチョイスしたものでもある(なのでせめてリディアンの冬服の上着は、なけなしの意地で野暮ったいセータータイプにしている)

 まだ実際に着たことないけど、レディーススーツなんて着衣でもした自分を想像したら………どう見ても、オフィス街のジャパニーズOLにしか見えない自分がいた。

 まだ私………一五歳の女子高生なのに………今日の響みたいなファンシーな格好を着こなせる可愛らしい同年代の子たちが羨ましい。

 あんな服装、私なんかしたら絶対〝無理すんな〟と揶揄されるに決まっている。

 oh……God(ああ……神よ)。

 もし実在しているのならば、『なぜ私にこのような苦難をお与えになったのですか?』と訴えたくなる。

 あわや未来とおんなじどんよりとした状態(オーラ)に陥りかけて、踏ん張ろうとした時。

 

「小日向、気持ちはよく分かるぞ」

「翼さん……」

「私も、時折女子として至らな過ぎる我が身に打ちのめされることは幾度となくある、だが諦めてはならない!」

 

 未来を支える翼は、青空へと真っ直ぐ指さした。

 その先には―――天海に漂う月が見える。

 

「己を磨かんとする意志、それこそが栄光と言う名の月へと指し示す指標(ゆび)となる、お互い女子力を高める道を、励もうではないか!」

「はい!」

 

 かのジー○ンドーの創始者であるアクション俳優が、生前残してそうなお言葉だった。

 

「あ、あれ? なんで未来と翼さん、こんな急に意気投合して仲良くなっちゃってるの?」

 

 響の頭の周りは?だらけだ。

 

「beats me」

「へ? 今なんて?」

「『さあね』と言ったんだ」

 

 女心も、それゆえの年頃の悩みも、多種多様で千差万別だと締めておこう。

 無理くりなのは承知。

 

「ともあれ時間が勿体ない、さあ行くぞ!」

 

 翼はご機嫌な蝶ばりに、ずんずんなんて音が聞こえそうな意気揚々さで先陣を切る。

 

「何だか翼さん、すんごく楽しみにしてた人みたいだ」

 

 その後ろ姿に、確信を突いた発言を響が呟き。

 

「どこぞの誰かが遅刻した分を取り戻したいだけだッ!」

 

 図星を指された翼は、一度足を止めると、これはまた絵に描いたツンデレ風の赤味で怒り気味な表情で怒鳴り返してきた。

 翼耳はなんとやら、だな。

 

 そんなこんなで、私たち四人の今日の〝デート〟はやっと、始まりを告げた。

 

 

 

 

 

 

 四人によるデート(ある意味朱音のジョークの通りダブル)であるが、その流れを大まかに述べていくと。

 市内の超大型ショッピングモールにて。

 アイスやらクレープやらと、スイーツ片手にモールの回廊を歩き。

 なぜか奇天烈な怪獣の人形も置いている雑貨店で、商品を見て回り。

 その店舗で販売されているオシャレな伊達眼鏡たちを掛け合った。

 特に生き残った魔法使いの子が使ってそうな丸眼鏡を掛けた響には、一同に大爆笑を齎した。

 続いてレディース向け洋服店にでも、衣服を物色、商品(もの)によっては試着も試みた。洋服は門外漢だと称していた翼も、ノリノリで朱音たちのお勧めを着て、ポーズまで取っていた。

 朱音のおめかしの効力もあり、途中で翼の正体がバレそうになるアクシデントにも見舞われることなく、四人は休日を満喫する。

 

「翼さんご所望のぬいぐるみは、必ずやこの立花響が手に入れてみましょうッ!」

 

 次に寄ったのはゲームセンター。

 主君に忠実な家臣じみた芝居掛かっている口上で、気合いもたっぷりに、響はUFOキャッチャーに臨む。

 ガラスを隔てたケースの中には、正直お世辞にも可愛いと言い難い微妙に不細工で、微妙にクリーチャー然として造形で需要あるのか怪しい人形ばかりだったが、その中で、オレンジ掛かった体毛、つぶらな水色の瞳に額には縦向きな楕円状の宝石とキュートな八重歯が特徴的な狼の子どもの人形がいた。

 この子こそ、翼がご所望で、響が狙うお人形さんである。

 

「期待はしているが、少々お遊戯につぎ込み過ぎではないか?」

 

 ただ響の気合いは、入れ過ぎている感があり、ボタンを拳で、押すのではなく思いっきり叩き込む。

 傍からは機械が壊れないか心配になる荒っぽさ。

 

「キィエェェェェェェーーー!」

「「大声で喚かない!」」

 

 さらに響は怪鳥ばりの奇声を上げて、両手で両耳を騒音からガードする騒音朱音と未来から同時に突っ込みが入った。

 

「そんな……」

 

 だが無駄に力の入った響の気迫に、機械のキャッチャーが応えられる機能など持っている筈もなく、アームは虚しく狼っ子の人形を掠めるだけで終わった。

 

「このUFOキャッチャー壊れてるゥゥゥゥーーーーー!」

 

 悔しくなるのは無理ないが、何とも理不尽で無茶苦茶な少女の絶叫(さけび)。

 一回程度、小銭一・二枚程度でプレイヤーが求める人形を提供してくれるほどマシンは甘くない。

 加えて、身も蓋も無い話をすれば、厳しめの難易度でなければ、商売として成り立たないので、マシンが甘さを持たないのは必然なのだ。

 

「私って呪われてるかも………もうどうせ壊れているならこれ以上壊しても問題ないですよね?」

 

 問題、大有り、色々と。

 下手をすればクレームものである。

 

「こうなったらシンフォギアでぇぇ!」

 

 しかもさらりと最上級国家機密を口に出してしまっている始末。

 

「待て待て立花! 速まるな!」

「そこは平和的に解決しよう響」

「この怒りに身を任せた拳を叩き込んでえぇぇぇぇぇーーー!」

 

 翼と未来の制止も届かず、あわや弦十郎の手ほどきを受けた響の鉄拳をマシンが叩き込まれる寸前。

 

「ほえっ」

 

 パコン。

 響の後頭部に、朱音からの絶妙な匙加減による突っ込みの手刀(チョップ)が命中し、マシンとゲーセンの経営に携わる人たちにとっての最悪の事態は、避けられた。

 

「響く~ん♪」

 

 あわや怒りに呑まれかけた響の凶行を止めた、朱音の顔は、それはもう晴れ渡る眩しい笑顔。

 

「それ以上タガを外しでもしたら―――少し、頭冷やそうか♪」

 

 なのだが………今にも万物を焼き尽くす火球を放つ寸前の前世の彼女が浮かぶほどの、強烈かつ背筋が底冷えするプレッシャーを放っていた。

 子どもを心から愛するだけあり、駄々っ子を相手する際の対処は、厳格を超える。

 

「は……はい」

 

 朱音の、笑顔で巧みに表現された鬼神の〝怒れる様〟を前に、間近で突きつけられる三人は、sanity(正気度)が急降下して震え、戦慄で静かにするしかない。

 

「面目ありません………翼さん」

「気に病むな立花」

 

 当然こうなっては響にリトライ権が回るわけもなく、バトンタッチした朱音と未来がそれぞれ数回トライするも。

 

「あっ……また落ちた……」

 

 悉く、取れずじまいに終わる。

 さすが〝貯金箱〟とも喩えられるクレーンゲーム、容易くは自らの箱庭にいる景品たちをプレイヤーに取らせてはくれない。

 

「よし、ならば私自身で勝ち取って見せよう!」

「翼先輩、今までUFOキャッチャーと言うか、そもそもクレーンゲーム自体をやった経験は?」

「ないッ!」

「なのにその自信はどこから来るんですか……」

 

 苦笑する未来の発言もご尤も。

 クレーンゲームに限らず、ゲームセンターでのゲーム完全に未経験のビギナーだと言うのに、翼の全身からは有無を言わせぬ堂々とした確固たる自信が漲っていた。

 

「草凪、百円玉を!」

「はい」

 

 翼の掌の上に、朱音は百円玉を乗せて渡す。

 今は〝二人きり〟ではないので、朱音と翼のお互いの呼び方は、『翼先輩』と『草凪』呼びだ。

 

「いざ――」

 

 刀身煌めく名刀の如き鋭い眼光で、翼はマシンと対峙する。

 今の翼にとって、この場、この状況は一種の戦場(いくさば)も同然と化していた。

 マシンを目当ての狼っ子の頭上で止め。

 

「――推して参る!」

 

 先程の怪鳥奇声まで上げていた響よりはまだ慎ましかったが、翼の闘気を乗せた右手は手刀の形で、一閃するように降下ボタンを押し込む。

 一度押した以上、この先はどうすることもできない。

 結末は、その瞬間が訪れるまで、神のみぞ知る。

 アームが開いたキャッチャーは………ゆっくりと降りる。

 

「………」

 

 一同、特に挑戦者(プレイヤー)の翼が、固唾を呑む中。

 偶然か?

 ビギナーズラックか?

 それとも、運命の巡り合わせか?

 アームは見事、狼っ子の胴体を抱え上げて上昇。

 さらに幸運にも景品は、キャッチャーから離れ落ちることなく、開口部まで運ばれ、箱庭の出口へと誘われた。

 一時、集中の余り黙していた翼は、求めていた狼っ子を手にした瞬間。

 

「やったぁぁぁーーーー!」

 

 歓喜を一気に解放。

 瞳を煌めかせ、満面のはにかんだ笑顔を見せて、狼っ子を優しくぎゅっと抱きしめながら、ミュージカルの舞台の如く、その場をくるりくるりとつま先一本で舞い、踊り回った。

 勿論、今まで見たことのない翼のこの一面(すがた)に、響と未来は呆気に取られている。日頃鍛えているだけあり、その体捌きには一ミリたりともブレがない。

 

「ところで先輩、どうしてその子を選んだのですか?」

「う~ん…………しいて言えば………運命、かな♪」

 

 翼は、とあるアニメの、ある魔法少女と、姉妹同然の仲なパートナーでもある狼っ子と頬を密着させながら、いつもよりさらに一際高い声色で、翼は答えたのだった。

 

「なら、その子を〝ダストルーム〟に埋もれない様にしなきゃいけませんね」

「う、うん………朱音(くさなぎ)の言う通りだ、そこは努力しなければな」

 

 その後も、昼食を取ることになるまで、四人はゲームセンターを堪能する。

 装者たちのデート、もとい休日の一日は、まだまだ続く。

 

つづく。

 

 


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