GAMERA-ガメラ-/シンフォギアの守護者~The Guardian of Symphogear~第一楽章   作:フォレス・ノースウッド

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どうも、2019年一発目のガメフォギア本編最新話です。
朱音視点主軸になった途端こうも一気に筆のノリが良くなるとは……複雑だ、もっと原作の装者たちと創作を通じた対話にも注力含めた精進しないと(汗

一方で創作の参考資料に宗教関連の書籍やパトレイバー、勿論平成ガメラも見ておいて助かった、カディンギル――バベルの塔にまつわる聖書のエピソードが比較的頭にすらっと入ってこれたので、やはり日頃色んな創作物著作に触れておくものだね。


#52 - 嵐は迫りくる

 首謀者たる終わりの名を持つ者――フィーネの屋敷(アジト)での探索を終えた弦十郎ら二課メンバーを乗せた車両たちは、山中の道路を下って、リディアン地下本部への帰路についている最中。

 内一台の後部座席には、朱音と………そしてクリスの、二人シンフォギア装者が同乗している。

 クリスはと言うと、少々ばつが悪そう面持ちで、窓の外の流れゆく山々の景色を眺めていた。

 上空はまだ晴れ模様ではあるが、朝と比べると、灰色がかった雲たちが少しずつ、忍び寄って来ていた。

 

 

 

 

 

 何と言うか………おかげさまって言うか、今日は、色々と憑き物が落ちてくれたんだけど、さすがに特機部二のやつらに保護してもらう、つまり厚意ってのを受け取るのを、素直に受け取れるだけの準備が、まだ胸ん中でできずにいた。

 自分でも無駄に意地張ってる上に性根が捻ってるくらい、分かってるさ。

 だから、恩人たちにはちゃんと詫び、自分も招いたこの〝争い〟を終わらせるのに重要な手がかりの筈なフィーネが言ったを〝あの言葉〟を伝えつつ一人で、去ろうなんて思ってたんだが。

 

〝山道を降りるまでは送ってあげられる、後は二課でどうにか落とし前は付けるから、貴方は今後の身の振り方をゆっくり考えるといい、まだホテル暮らしができる余裕はあるだろう?〟

 

 隣に座っている朱音(こいつ)にはアタシの考えていることなど完全に筒抜けだったらしく、先に向こうからこっちの気持ちを尊重させてもらいながらもああ切り出され。

 ギアの力が無いと一人であの山の中を下るのはアタシには無理だったのもあって………一応この恩(かし)を貰い受けることにした。わざとギアの出力を抑える芸当は、結構体力使わされただけに、ありがたくはある。

 でもやっぱ………居心地の悪さと言うか………素直にここに居ていいのか? 自分に他人からの厚意を受け取る資格があるのか……って感じが、もやもやとアタシの胸の中で漂う。

 フィーネの野郎に体よく騙され、都合よく利用されていたとは言え、アタシはあのおっさんら特機部二とは〝敵〟だった身だし、おっさんたちが守ろうとしているものを壊していた側の悪党の身でもあったのは変えられない事実だから、気まずい気分にならない方が難しかった。せめてもの気晴らしに外の景色を眺めてたけど、段々飽きが入ってきやがる。

 だけど、途中の途中で、降りたくはなかった。

 どうにか、車から降りるその時までに………〝恩人たち〟にはちゃんと、言ってはおきたいことがあったから。

 

〝~~~♪〟

 

 運転している二課の人間がカーラジオから、音楽が、歌が……流れ出してきた。

 

「~~~♪」

 

 しかも隣に座ってるあいつが、あろうことかその歌を景気よく歌い始めた。

 思わず………〝とんだ歌バカだよな、お前〟なんて言いそうになったけど。

 

〝ありがとう、最高の褒め言葉だ〟

 

 とか返球してきそうな感じを、何となく覚えたので、出かけた言葉を飲み込んだ。

 この歌は、アタシも一応知ってる。

 確か東ヨーロッパのどっかの国のわらべ歌で、タイトルはAppleだったよな。

 昔、ママがちっせえアタシを寝かしつけようと、日本語で訳したのを子守歌にしてよく歌ってくれていたので、歌詞もメロディも、体と心の底の奥底まで今でもはっきり沁み付いて覚えていた。

 けど詞の内容は、昔の頃でも、そんで今日本語の訳詞を思い返してみても、てんで意味が分からない。

 その癖………一度メロディを耳にすると―――。

 

 

 

 

 

 

 

「あっ、すみません………また癖で」

「お気になさらず、今日も冴えた生歌、ありがとうございます」

「いえ……」

 

 いけないいけない………私はまたいつもの悪癖が働いてしまったのに気がついて、運転手のエージェントにお詫びをした。うっかり彼に居眠り運転をさせて大事故の大惨事、にまでは至らず、安堵する。

 

「思わず自分も口ずさみたくなりましたよ、歌詞はさっぱりでしたけど」

 

 流れていたのは、あとあるわらべ歌――Apple。それも詞が発祥の地の国の言葉で奏でられているバージョンだ。

 

「なんて意味なんですか?」

「まず出だしの歌詞は、万有引力の法則ですね」

「え? つまり……リンゴが木から地面に落ちた」

「はい、でも中々に研究者を悩ます解釈の難しい詞でしてね」

 

 このシンプルな音色とミステリアスな歌詞でできたこの歌は、考古兼歴史学者の父が、出自を探っていた研究対象でもあり、母が子守歌によく聞かせてくれた思い出の曲でもあり。

 私の……〝歌バカ〟な自分の原点の一つでもある、と断言できる歌だった。

 それにしても―――。

 

「歌は大嫌いじゃなかったのか?」

「え?」

 

 意外だったのは、クリスまでこの歌を鼻唄で口ずさんでいたことだった。

 彼女も私に訊かれるまで無自覚の無意識に歌っていたようで、目じり吊り上がっていながら丸みがあって私のより大きい瞳を、より大きく開かせ驚いた顔をこっちに向けてくる。

 

「なんで……」

 

 クリスのこの一言には、二つ疑問(いみ)が込められている。

 一つは、どうして自分が無意識に、この童歌を歌っていたか。

 もう一つは、なぜ自分が〝歌を嫌っている〟と、私が知っているかだ。

 

「実際に〝大っ嫌い〟だって、あの時弾丸とミサイルをまき散らしながら歌ってただろう?」

 

 言うなれば、目は口よりならぬ、歌は言葉よりものを言う、かな。

 私は二つの疑問の内、後者の方を返答に選び、クリスは目線を窓の方に逸らし直した。

 イチイバルがクリスの心象内の風景を読み取って作曲したメロディと、同時に作詞した詩とそれを荒々しい獣の如く歌い上げる彼女の歌声には、〝歌〟そのものに対する否定的かつ、両親と同様に愛憎が混在した感情が、これでもかとあからさまに表現されていたし。

 

〝歌わせたなぁ………アタシに歌を―――歌わせたなぁぁぁぁぁーーーー!!!〟

 

 それ以前に、イチイバルを纏った姿を私たちに初めて見せた時のクリスの口から、ああもはっきり歌への複雑な思いを激昂に乗せて見せつけていたしね。

 

「ああ………大嫌いだよ………特に自分(アタシ)が歌う歌はな」

 

 動かぬ証拠を突きつけられたクリスは、窓の方に目を向け直して答える、首に掛けたイチイバルの待機形態(ペンダント)へ、片方の手が触れて。

 

「このイチイバルを歌で起こすのも苦労させられたし、アームドギアを出せるようになるまでもっと時間が掛かった………だってのにさ」

 

 北欧神話の神――ウルが使っていた弓矢の欠片であるイチイバル。

 本来なら、アームドギアは伝承通り〝弓〟である筈だったのだが。

 

「アタシが最初に出したアームドギアは、元の持ち主の神様が使ってた弓矢じゃなくて……リボルバーのピストルだった………」

 

 もう片方の……初めて自身のアームドギアを握ったと思われる手を握り拳にし、苦々しく、忌々しく、クリスはアームドギアを初めて実体化した時のことを語る。

 無理もない………苦労も混じった努力の果てに、自分の歌――潜在意識が生み出したのは同じ〝射るもの〟ではあるが弓ではなく、自身を苦しめ、人生を狂わせた憎き〝戦争〟の象徴の一つたる銃火器の数々、現代兵器たちだったのだから。

 

「それからミサイルにガトリングと来て………イチイバルからはっきり言われちまったんだよ、アタシの歌は………血と硝煙で汚れちまって、〝壊すこと〟しかできない代物なんだって」

 

 ペンダントを握りしめ、吐き捨てる調子でクリスは、複雑に絡んで入り混じった己の歌に対する〝感情〟を明かしてくれた。

 そんなことはないと、今の私には言えない………今言ったら逆に無責任な行為だ。

 彼女も、響と翼くらい頑ななところがあるし、下手なことを口にすれば、またその心に意固地さの壁が塗り固められかねない。

 人は誰しも、私も入れて胸中に抱える〝感情〟が強ければ強いほど、意識的にしろ無意識にしろ表向きは――口では否定的な表現を使って秘めてしまう生き物である。

 何より私は………戦闘以外のクリスの〝歌〟を、まだちゃんと聞いたことがない、せいぜい……さっきの鼻唄程度だ。

 今は、聞き役として、本人も意図せず胸中を零しているクリスの心に溜め込まれているものを少しでも、それとなく口にさせ、今まで溜め込まれてばかりだった心の重しを、少しでも軽くさせてあげる。

 そうすれば、クリスのその心の奥の、よりまた深い奥底にある………彼女自身の表層意識がまだ気づいていない、自覚し切れていない、肉親と、そして歌に対する〝想い〟が見えてくる筈だが……。

 

「朱音さん」

「っ……どうしました?」

 

 それを聞き出すのは、後回しをせざるを得ないことになった。

 ドライバーのエージェントが、先程とは一転は真剣な顔つきで私に呼びかけてきた。

 私も目つきが自然と鋭利になり眉を潜め、何ごとかと尋ねる。

 

「ようやくサボタージュしていた櫻井博士と、通信が繋がりました」

「お……おい……」

 

 私は立てた人差し指を口の中央に添え、静かにとクリスに伝える。

 車内(ここ)に彼女も乗車していることは、できるだけ通信相手に知らせない方がいい。

 

「音声出します」

「お願いします」

 

 今日の櫻井博士は、未だに二課本部に出勤していない。私が知る限りでは……広木大臣が暗殺された日と今日を除けば、博士が遅刻をしたことはない。

 本部でもこちらでも、朝から何度も連絡を試みていたが、音信不通の状態が続き、今やっと通信が繋がったのである。

 

『ごめんね、出勤どころか連絡まで大遅刻しちゃって♪』

 

 博士のその声を聞いたクリスの顔が、眉間を歪ませ、苦々しく歯ぎしりをした。

 

『良い歳して盛大に寝坊しちゃった上に通信機の調子が良くなくて、できる女と日々豪語しておいてこのザマ………面目ないわね』

 

 相手の声音によく耳を澄ませつつ、私はスマートウォッチの立体画面を立ち上げ、本部にいる友里さんの携帯端末にこっそり。

 

〝博士からの通信に映像は?〟

 

 メールを送ると、ほどなく。

 

〝いいえ、音声だけです〟

 

 と、返信のメールが即座に送り返された。

 今頃本部司令室に投影された大型立体モニターの中央には、『SOUND ONLY』と表示されていることだろう。

 

『無事か了子君? そっちに何も問題はないか?』

 

 別車両にいる司令が、博士に〝探り〟を入れる。

 

『まあある意味で問題はあったわね、寝坊した上にいつもより髪は乱れてるし、溜まってたゴミを出し損ねちゃったし、早く仕事したいのに女子のお手入れにてんやわんやだし』

 

 声だけを表層的に聞く限りでは、いつもの能天気の陽気でマイペースな博士ではあるが………私の聴覚は、違和感を覚えざるを得ないでいた。

〝女子のお手入れでてんやわんや〟にしては、やけに物音が少なくて静かすぎる。

 何より私の聴覚と、直感は……無理に〝いつもの櫻井博士〟で見せようとする声色に感じられた。

 それにほんの微かだが、聴覚が捉えた………ヒールと金属質な物体との、接触音を。

 まだ自宅にいるってのは、真っ赤な嘘だな。

 

『なら良い、それより準備に忙しいところすまないが、聞きたいことがある』

『せっかちね~~なにかしら?』

 

 司令はさらに、一歩踏み込んだ質問を博士に送りつける。

 

『さっき仕入れたばかりの情報だ―――〝カディンギル〟』

 

 クリスが教えてくれた………この一連の事件を収束させる上で、間違いなく最も重要な手がかりだと言える――Keyword。

 

『この言葉が意味するものは何だ?』

 

 

 この単語を〝一応〟日本のリサーチサイトで検索掛けてみたが、まともにヒットするのはRPG系のテレビゲームに関連する攻略サイトばかりだった。

 そのゲームの劇中では―――〝天にそびえ立つ塔〟だと言い、ある意味で〝原典〟に忠実と言えた。

 

『カディンギルとは、古代シュメール語で〝高みの存在〟……転じて、〝天を仰ぐほどの塔〟を意味しているわね』

 

 そして研究者としての声色となった博士の口からも、ほとんど同様の意味が発せられる。

 

『仮に何者かが、その塔を建造していたとして……俺たちがなぜ今までそれを見過ごしてきたのかはさておき、ようやく敵の尻尾を掴めたんだ、このままさらに情報を集めれば、敵の隙を突いてこちら側の勝利を掴めるだろう、最終決戦、仕掛けるからに仕損じるなよ』

『『了解です(!)』』

 

別の場所で、同じく一連の通信のやり取りを聞いていた響と翼の応じる声が車内のスピーカーに響き。

 

『ちょっと野暮用を済ませてから、私もそっちに向かうわ、それじゃあ』

 

 私の耳からは明らかに曰くありげな言い回しで、博士も通信を切った。

 裏で利害の一致から結託していた米国との関係が決裂した今、フィーネは実質〝一人〟である。

 確かに事件を収束させるには、今が絶好の機会では………あるけど。

 博士との通信が切れる直前、私は〝念の為〟―――本部の友里さんたちにもう一つメッセージを送った。

 万が一の、これから先に待っている未来の中で最も〝最悪の事態〟を考慮して。

 

「わりいな……」

 

 博士との通信が切れた直後、隣のクリスがまたいきなり詫びてきた。

 

「なぜ貴方が謝る?」

「アタシはそのカディンギルとやらと、もうそれが完成してる………ってことぐらいしか知らなかったからさ」

 

 クリスによれば―――〝完成している〟なんて言葉も込みで、冥土への土産代わりにフィーネ本人から教えられたと言う。

 

「気に病む必要はない、貴方が生きて逃げ切れたお陰で、充分に手がかりは貰ったさ」

「はあ? どういうこったよ」

 

 フィーネのアジトから採取したデータに奴の企てとしての〝カディンギル〟の詳細は記されているだろうけど、案の定ウイルス付きで幾重にかつ厳重にプロテクトが掛かっており、そう直ぐには開けられそうにない。

 けど、この単語一つで推理を進めることはできる。

 そもそもシュメール語とは、日本の世界史の教科書にも記載されている、現代の歴史学が存在を立証できている人類史の上で最古の、幾つも存在する文明の総称――メソポタミア文明の中で初期の、シュメール文明の人々が使っていたとされる言語。

 

「博士は塔と言ったが、シュメール語で『カ』は門、『ディンギル』は神、つまり『神の門』と言う意味もある、そのシュメール語を用いた民族たちの――」

 

 かの文明の主たちであるシュメール人は、現在でもルーツが謎に包まれた民族だ。

 メソポタミアの文明はシュメール以前から、既にウハイド文化と言う先史文化が存在したが、このどこで発祥し、どのような経緯でメソポタミアの地に来訪したのか不明だが、そのシュメール人たちが齎した恩恵によって、人類史最古の文明は急速な発展を遂げた。

 それから時は経ち、現代では古バビロニア時代と呼ばれる時期のメソポタミアは、バビロン第一王朝と言う王国が栄華を誇っていた。

 

「その王国の首都バビロンをシュメール語に訳したのが―――《カ・ディンギル》、わざわざそう名付けるくらいだから、フィーネの真の目的を解くヒントは、この時代に隠されているとも言ってもいい」

 

 念の為と、今エージェントとクリスに説明した内容を、司令の端末と本部にもメールで送った。

 私はアメリカ暮らしが長く、亡き父と母の職業柄、まだガメラとしての前世の記憶(じぶん)が封印されていた幼い頃もあって、両親が蔵書していた考古学・歴史学に関する文献書物を絵本の代わりに育ったので、この手の知識は、それなりに人並み以上は持っている。

 

「そしてこの《カ・ディンギル》と言う言葉はね、後に〝ある言葉〟の語源になったんだ」

「さっきバビロンって言ってましたけど………もしかして、聖書ですか?」

「当たりです、日本では〝旧約聖書〟と言った方が分かり易いでしょう、ユダヤ民族にとって〝古い契約〟扱いは不服でしょうけどね」

「ああ………そう言えば元々、ユダヤ人限定の宗教でしたもんね」

 

 エージェントが、アンサーの一角を言い当てた。

 旧約聖書、またはヘブライ語聖書とも現在では称され、正確には人類史で最初に現れた一神教であるユダヤ教の唯一にして絶対の神、YHWH――エホバまたはヤハウェ(意味は同じだが前者は誤読で、発音としては後者が正しい呼び方)から預言者に伝えられ言葉の数々、創造主――The Creatorとの聖なる契約の数々が記された聖典――Testament。

 

「バビロンはバビロニアの言語アッカド語で『バーフ・イリ』と呼ばれていたのですが、『混乱』を意味するヘブライ語の言葉――『バラル』と文字通りに混同されて、旧約聖書ではこう呼ばれるようになったんです――」

 

 その言葉とは、旧約もといヘブライ語聖書の初めの書たる、神が天地を創造する七日間から、最初の人類が禁断の果実を食したことで起きた失楽園、その息子たちである兄弟が起こした最初の殺人、神より正しき者を認められた人が作り、家族と動物たちとともに、全ての生命を滅ぼさんとする大洪水からの脱出、等々を描いた『創世記』の最後を締める第一一章の題名でありキーパーソンとなっている。

 

「――『バベル』と」

 

 かつて人々は、同じ一つの言語を話していた。

 大洪水から箱舟で逃れた人々は、移り住んだ東の地にて、神が作った石と漆喰の代わりに、レンガやアスファルトを作る技術を生み出し、自分たちが不和や衝突を起こさぬようにと願いを込め、お互いの団結力を高める為にその技術を以て都市を、そして創造神のいる天へ至る門たる階段、即ち〝塔〟を建てようとした。

 

「っ―――! 『バベルの塔』ですか!?」

「はい」

 

 エージェントが、《カ・ディンギル》――天を仰ぐ程の塔の別名を口にした瞬間………車内にノイズ発生を知らせる、シンフォギア装者となってから何度も耳にした緊急警報(エマージェンシー)が鳴り響いた。

 

 

 

 

 

 

 二課本部司令室でも、同様の警報がけたたましく鳴り響く中。

 

「東京上空にタイプG空母型ノイズが五体、いえ――六体出現!」

 

 藤尭は現況を収集し、報告。

 立体モニターにも、ノイズであることを示す首都の俯瞰図に、大型の円形が点滅する赤い光点が表示されていた。

 

 

 

 

 

 

 窓越しに、東京上空を我が物顔で飛行する空母型を私の肉眼は捉えた。

 このタイミングから踏まえて明らかに、まだどこかの場所で隠れ潜み、《ソロモンの杖》を手中に納めているであろうフィーネからの差し金と見て良い。

 

『現在、空母型が小型ノイズを投下する様子は見られません』

 

 車内にいる私達にも、出現したノイズに関する情報が、随時本部より送られてくる。

 既に翼は複数所有している自前のバイクで、響は特機部のヘリで現場に向かっているとのこと。

 今回は、翼のライダーとしての〝ジンクス〟が働かなければいいけど。

 

『第四一区域は墨田区第二九区域へ、第一七、十八区域も同様の方角へ進行中』

『いずれの個体も、進行経路の先に、東京スカイタワーがあります』

 

 東京スカイタワー、二〇一二年より開業された現在の東京の顔とも言える、高さ六四〇メートルを誇る巨大な電波塔。

 首都の観光地のメインを担うこのタワーは、一方で特機部活動時の映像、通信等の電波情報を統括制御し、集積している一般市民には知らていない裏の〝役目〟も担っていた。

 

『《カ・ディンギル》が塔を意味するのであれば、スカイタワーはまさに、そのものではないでしょうか?』

 

 地上には大量の獲物たる人々が急ぎ避難していると言うのに、襲う素振りを現状見せてこないノイズの動きから、藤尭さんは《カ・ディンギル》との関連性を提言する。

 

『翼、響君、東京スカイタワーに急行だ!』

『了解!』

『了解です!』

 

 私もスマートウォッチの機能で周辺地区の交通状況を確認。

 

「ここで降ろして下さい、直接現場に急行します」

「分かりました」

 

 幸い、人知れず変身するのに丁度いい、広く閑静な公園が近くにある。

 そこからギアを纏って直接、スカイタワーに飛んで向かった方が早い。

 

「この近くにシェルターもある、貴方はそこへ!」

「おい!」

 

 クリスにそう伝えた私は停車した車両から飛び出るように降車し、小型通信機を耳に付け、園内を疾走しつつ。

 

「司令」

『分かっている、タワーに集まったノイズが装者たちをおびき寄せる為の〝罠〟であることぐらいはな』

 

 二課本部へと急ぐ司令と、通信を交わした。

 私も司令も、先程藤尭さんが言っていたような、《カ・ディンギル》とスカイタワーの間には直接的な関連性はないと見ている

 その上今回のノイズの出現は特機部の主戦力な虎の子たる私達シンフォギア装者を招いて足止めにし、二課本部ひいては司令たちから遠ざける為のフィーネが仕掛けた陽動(トラップ)であることを把握していた。

 できれば一人は本部の防衛に回しておきたい、私含め装者全員がスカイタワーに参じてしまえば、向こうの思うつぼではあるのだが……あのタワーもまた二課にとって重要な拠点の一つ。

 もし最悪倒壊でもされれば、周囲の物理被害のみならず通信網も断絶され、こうして連絡もまともに取り合えなくなり、二課本部は情報ネットワークを断たれたことで〝地下の孤島〟と化してしまう。

 その間に首謀者のフィーネに逃げられては、或いは万が一《カ・ディンギル》の使用を許してしまったら………元も子もない。

 正体が何であれ、その《カ・ディンギル》が何らかの兵器であり、フィーネにとっては《ネフシュタンの鎧》に《ソロモンの杖》ら完全聖遺物以上に重要な切札(ジョーカー)であるに違いないのは確かだ。

 

『だがだとしても、被害を大きくしない為には君たちを行かせるしかない、タワーの防衛、頼んだぞ』

「了解!」

 

 けれども……どの道、私もスカイタワー防衛に向かうしかない。

 長時間の飛行能力を持たない上に白兵戦主体の翼と、彼女以上に徒手空拳主体のインファイターでアームドギアを未だ実体化できていない響では、二人の攻撃の有効範囲外な上空にいる空母型には碌に対処できず、ほぼ無尽蔵に大量投下される群体に応対するだけで精一杯だ。

 二課所属のシンフォギア装者の中で唯一の航空戦力である自分もいなければ、特異災害の被害拡大を食い止めるのも抑えるのもままならず、それを見こしてフィーネも空母型を寄越してきたのは明白……全く悪辣だな、二課の〝身内の人間〟だっただけはある。

 

「そちらも重々気を付けて下さい、手負いの獣ほど、何をするか分かりませんし――」

 

 手負いの獣とは当然フィーネ………〝彼女〟のこと、エージェントたちの現場検証から傭兵部隊の襲撃で致命傷程ではないが深手を負ったと分かっている。

 さらにもう一つ司令へ、念には念を入れて。

 

「――くどいのは承知の上で、くれぐれも奴から〝アキレス腱〟を突かれないよう気をつけて下さい」

 

 現場に残されていた血文字によるメッセージ―――〝I Love you SAYONARA〟

 

「あれは司令たちに宛てた、奴なりの〝決別のメッセージ〟で間違いありません」

『ああ……だろうな………忠告はありがたく受け取っておく、どうにか肝に銘じておくさ』

 

 フィーネのアジトへ潜入直前に伝えた先の忠告を、私はもう一押ししておき、通信を切る。

 まだ空母型は悠然と空を泳ぐだけで、戦端はまだ開かれていない。

 今の内にと、ノイズを見据えたまま首に掛けた勾玉を握り、胸の奥の聖詠(うた)を引き出そうとした矢先。

 

「待ってくれよッ!」

 

 

 振り返れば、避難をするようにと伝えた筈のクリスがいた。

 上空に漂う灰色の雲は、さっきよりも数と密度が増え、蒼穹を覆い隠さんとしていた。

 

つづく。

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