GAMERA-ガメラ-/シンフォギアの守護者~The Guardian of Symphogear~   作:フォレス・ノースウッド

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お待たせしました(汗
前回に続き翼主役回。

翼がカディンギルを破壊する、プロットを徹底して端的に要約するとこれだけの展開に大分時間が掛かっちゃいました。
あ~でもないこ~でもない、だが絶対にXVルートには行かせない、絶対天羽々斬の絶唱技使いたいと変なとこで拘り&納得できる流れが思いつくまで右往左往。
なぜ『防人たち』なのかは読んでのお楽しみに。


#60 - 防人たちの協奏 ◆

 ガングニールの破壊衝動に呑まれ暴走する響を《影縫い》で動きを封じ、内に秘めていた想いを打ち明けた翼は、右手に刀(アームドギア)を携えた……構えを取らぬ構え〝無形の位〟の体勢で、ネフシュタンと融合した賜物で多数に分裂(ぶんしん)したフィーネへ、剣の刃の如き鋭い眼光を突きつけながら、悠然を歩む。

 

「甲斐無い三文芝居はもうお開きか? もっと私の用意した舞台上で、無様に演じ続けておれば良いものを」

 

 多数にその身を分け増やした〝終わりの巫女〟の内の一人が、翼と響の間で起きた一幕(ドラマ)を愚劣だと薄情に皮肉を突きたて、相も変わらず嘲笑(わらい)立ててきた。

 

 

 

 

 

「生憎、歌い踊るには種も仕掛けも演出も、張り合いも足りなさ過ぎる舞台だったものでな」

 

 もう私は、フィーネのこちらの気をいちいち逆立たせて来る悪辣な言葉どもを敏感に反応する気はない。下手に激情に駆られて、逐一この〝亡霊〟の言霊に反応していては奴の思うつぼ………ならば、と我が朱音(せんゆう)のユーモアセンスを参考にし、意識して不敵に微笑み返した。

 

「では……どこまでも〝剣〟で在り続ける気か? 人の世界はそんなもの、受け入れる余地などありはしないぞ」

 

 そのフィーネより、私の皮肉からさらなる皮肉を投げ返されてきた。

 

「確かに、その点は今私も同感だ」

「何?」

 

 幼き頃にて何も知らずに〝天羽々斬〟の眠りを大好きな歌で覚まし、父より突き放され………特異災害が蔓延る戦場にて、防人として〝歌い戦う〟十字架(しゅくめい)を背負ってより………ひたすら追い求め。

 

〝ここでアタシが消えても………アタシの歌は―――〟

 

〝かなでぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーーー!!!〟

 

 その上……大切な奏(パートナー)を失って片翼となってからは、さらに固執する様になってしまった――。

 

〝剣(つるぎ)〟

 

 言葉にすればたった一文字、だがそれこそ………長年私を縛り付けていた……フィーネが月に存在すると言う人類から統一言語とやらを奪った存在を揶揄した際に用いた……〝呪詛〟そのもの。

 

「事実私はかつて、剣と言う名の兵器であろうと執着していた」

 

 そして〝剣〟と言い表せば聞こえはいいものの………その実態はと言うと………はっきり表すと私は、愛する歌が招いた戦う宿命に対する悲観と、それを使命感で無理やりねじ伏せて〝戦い意義〟を見い出せず、この身を――〝兵器〟にさせようとしていたのだ。

 奏と出会って、二人で両翼(ツヴァイウイング)となってからも、奏に甘え、依存し過ぎた為に、奏は見い出していた意義を探すことから向き合えないまま………奏を失って、この二年間は一層……〝戦うだけの修羅(へいき)〟となろうとする執着へ拍車を掛けただけでなく。

 

〝貴方の太刀筋は、鋭く激しくも脆い………私には、鋼鉄のみで鍛えられてしまった、鞘にすら入っていない抜き身の刀にしか見えません……貴方をそんな刀にしてしまった根源は、代え難い相棒をあの日死なせてしまった罪悪感………それに苛まれる余り、天ノ羽々斬の本来の用途を無視した戦い方をし、感情(こころ)を押し殺そうとしてまで、天羽奏〟と言う名の剣になろうとしている、違いますか?〟

 

 あの時の朱音から図星の言葉を突かれた通り……その二年〝抜き身の刃〟そのものだった私は……奏になろうとしていた。

 

「そして……復讐者だった頃の奏となって、一人戦場を歌い、一人で戦い……天羽奏と言う名を冠しただけの兵器となりて……自死を求めていたのだ」

 

 上辺だけ〝天羽奏〟の生き様を真似、表層だけは奏の様に戦い………奏の最後の瞬間と同じ〝死に場所〟を求め……奏のいる、今は曇天に覆われた空の向こうへと――〝死にたかった〟――のだ。

 明瞭なる事実(こんきょ)ならば、ある。

 

〝この身を一振りの剣に鍛え抜いてきた筈だと言うのに………あの日、無様にも生き残ってしまった………出来損ないの兵器(つるぎ)として………生き恥を晒し続けてきた〟

 

 朱音が深手を負ってまで止めてくれたお陰で過ちを犯さずに済んだが………ネフシュタンを纏った雪音と相争った時、アームドギアを介さぬ禁忌のさらに禁忌を重ねた絶唱で………本気で私は、奏の後を追おうと、この世から去ろうとした。

 ほんと、今思い返せば……どこまでも虚しく、愚かしく、哀しき愚行だったか。

 

「以前(かつて)の……風鳴翼(わたし)は……」

 

 内心、ほんの少し前の己を自虐して嗤っているこの私は、立花の過剰な自己犠牲の精神を〝前向きな自殺衝動〟だと表したが………何よりこの我が身、己の心が最も……〝自殺願望〟を抱え、この命を切り捨てようとしていたのだと………言葉にして、声に出して、相対する相手以上に自分自身へ、改めて語り掛け、終わりを齎す巫女(ぼうれい)と対峙し、見据え。

 

「ならば………〝剣〟ではなく、如何様な在り方で、新霊長(わたし)を止めようと言うのか?」

 

 歪にして邪なる巫女(フィーネ)からの、蛇の全身と舌の動きを想起させるねっとりとした調子(こわね)と嘲笑を見せつけ傲岸と私へ、問いかけてくる。

 かつての私が固執していた……鞘のない〝抜き身の剣〟では………誰一人守れないどころか、自分も他人も破滅に誘わせる呪いだった。

 では、どんな〝信条〟、そして〝信念〟を以て人を、人々が織り成す〝世界〟の数々を、守るのか……… 実のところ、私にはまだ………〝剣〟でなない、自分が守護者(さきもり)としての在り方を、見つけられていない。

 朱音は無論のこと、きっと立花も、雪音さえ、各々らしいそれを胸の奥に抱いている筈なのに、まだ自分だけの答えを見い出せず、行き先も分からぬ彷徨っている〝片翼〟のまま。

 渡り鳥は帰巣本能で、どれ程離れた目的地でも正確に飛べると言うのに………真逆で、迷走の繰り返しでようやく振り出しに立てた有様の自分自身に、自嘲もしたくなる。

 だが、こんな己でも、確かにはっきりしている事実(ものたち)がある。

 

「たとえどれ程……道を見失わせようとする苦難が迫る今日に手折られそうになっても、私は―――生きて明日(あす)へと〝人〟として歌う!」

 

 死に場所を求める、抜き身の剣であろうとし、長年戦いに身を投じながら、そんな不条理に散らされる命をずっと見向きもしなかった愚かな自分でも、この〝広くて綺麗な世界〟と、そこで生きる今日を終えて明日を迎えられる多く生命(いのち)を守ってきたのだと、歌を愛する朱音(とも)は言ってくれた。

 私たちの過ちの落とし子にして〝前向きな自殺衝動〟を心の深層に抱えていながら、立花(かのじょ)はそれでも、半ば惰性に流されるまま片翼(ひとり)で奏で続けていた私の独奏(ソロ)に希望を、生きる力を貰ったと言ってくれた。

 何より立花だけでなく、たくさんの人々が私の唄う歌を愛してくれて、待ってくれていると教えてくれた。

 お陰で私自身、ずっと忘れていた歌への理屈を超えた〝愛〟を思い出させてくれて………〝夢〟と言う名の蒼穹(あおぞら)へ飛び立ち、駆けまわりたい勇気を貰った。

 フィーネの何千年にも渡って子孫の魂を塗りつぶし続けてまで月を穿とうとする理由に、思うとところが無いわけではない。

 しかし、それでも………今や亡霊も同然な奴の妄執が齎す犠牲を、絶対に許すわけにはいかない。

 こんな私にも――〝守りたいもの〟――があるッ!

 

「風鳴翼が歌う舞台は、断じて戦火(せんじょう)だけではないと知れッ!」

 

 終焉へと誘おうとする哀しき巫女へ、私は我が意志を、宣言した。

 

 

 

 

 

「では何か? お前が常日頃から散々口にしていた〝剣(つるぎ)〟ではなく――」

 

 多数に分裂し群体と化したフィーネたちの内の一体に続き。

 

「――ましてやお前の〝真の父〟がほざく〝護国の鬼〟でもなく――」

 

 さらにもう一体、また一体と、全ての個体が蛇の如き邪悪な笑いを浮かべ、言葉を紡ぎ。

 

「――一介の〝人〟として………新霊長(このわたし)に挑むと言うのか? 」

 

 翼が……友にも仲間にも、片翼(パートナー)にさえ打ち明けたことの無かった己が業深き〝出生〟を突かれ、一瞬よりも僅か刹那、彼女の眼(まなこ)と眉間に憂いを発したが、決然とした〝防人(しゅごしゃ)〟へと面持ちを締め直した。

 

「〝どちらとも〟――図星か」

 

 が、その〝刹那〟を見逃さなかった終わりの巫女たちの、全て嘲笑を浮かべている中の一体の口元が、一層歪んで口角を上げる。

 

「ただ〝独り〟、それも〝人の身〟のままで、私の悲願に至る道筋を阻めるとでも?」

 

 翼は応えぬまま刀(アームドギア)を手に、フィーネどもを見据え歩、否………その沈黙が、佇まいこそが彼女の〝返答〟だった。

 

「最早どれだけ悪あがきしようが止められぬ! いかな毅然に徹しようとも風鳴翼、お前に残されているのは〝守れない〟痛み、苦しみ――そして絶望だけだッ!」

 

 その一体の通告から端を発し、分裂した終わりの巫女たちはほぼ一斉に禍々しく嘲りに満ちみちた破願を、天へを仰ぎ発し、毒蛇の猛毒に等しき毒々しい笑い声な………〝雑音〟を、塔の周辺に響かせていく。

 同時に、朱音とクリスの絶唱の砲撃との撃ち合いで想定以上に熱せられていた巨塔(カ・ディンギル)内部の炉心が冷え切ったことで、再度デュランダルを源とした膨大なエネルギーが党内部中を駆け巡ることを示す〝災禍の光〟が、再び塔全体を輝かせ出した。

 

 

(もうすぐ………もうすぐです………今一度、私は………〝貴方〟に………)

 

 何千年、何世代にも渡って自らの〝遺伝子〟を受け継ぐ子孫の心身を食い潰し続け、歴史の転換点に介入し続けながら叶えようとした〝切願〟が………もうじき………果たされようとしている。

 

〝~~~♪〟

 

 その歓喜が彼女の心を酔わす酒となり、絶えず〝雷鳴〟響き……〝暁色の雷光〟が煌めく曇天の向こうにある今度こそ穿とうとする月を、そして宇宙を見上げているが余り………自ら〝盲点〟を彼女は、思いがけず生み出してしまった。

 

〝――Gatrandis babel ziggurat edenal~~♪〟

 

 翼が絶唱の詩を歌っている隙を。

 

〝Emustolronzen fine el~baral~ zizzl~~……♪〟

 

 翼が絶唱の音色を奏でていることに気づくまで、大きく後れを取ってしまった己が油断(ミス)を。

 

「っ――絶唱ッ!?」

 

 フィーネがシンフォギアの〝決戦機能〟の名を轟かせた瞬間、ネフシュタンの力で分裂した数体の分身の肉体が瞬く間に切り刻まれ、骨ごと断ち切られた血肉が、大量の鮮血とともに飛び散った。

 一度にフィーネの分身数体を屠ったのは、ネフシュタンを纏う奴でさえ視界に捉えるのが困難かつ、残像さえ引き起こされるほどの駿足で斬りかかる―――翼。

 これこそが翼と天羽々斬の、真なる〝絶唱〟が切り出す諸刃の剣にして………〝切札〟。

 かの唄で生み出された強大なエネルギーを十全に練り上げ、アームドギアと己自身に宿し、対象に百裂させる――〝高機動の連撃(やいば)〟。

 

「それを知らぬお前ではなかろう!? 櫻井了子(フィーネ)ッ!」

 

 フィーネたちは蛇腹鞭で自分らの周囲を駆け走る翼を捉えようとするも、裂かれるのは残像ばかり、次にどこから、どの個体が斬られるか微塵も把握できぬまま、一体、また二体、さらに三体、またさらに数体と小間切れにされていく。

 

(これでは再生が間に合わん……)

 

 一体一体、同一にして独立したフィーネの自我を宿せるネフシュタンによる担い手の分身能力。

 しかし分身した分だけ、一体ごとの肉体再生能力が落ちてしまう弱点を抱えていた。

 そこへ現状の再生能力を超えた翼の連撃を前に、治癒が追いつかない。

 

(再結合せねば!)

 

 フィーネ本体は急ぎ、分身たちを我が身へと掻き集め、悲鳴(ちしぶき)を上げる状態のまま肉体を〝再統合〟しようとする。

 

〝ふっ……〟

 

 一度無駄に分かれ過ぎ、慌てて一つに戻ろうとするフィーネに対し、多数の残像を起こす疾駆に紛れて、翼は不敵にほくそ笑んだ。

 

 

 

 

 

 一度分身して散らばったフィーネが再び一つになる、その瞬間を私は待っていた。

 先の奴が残像に惑わされる程の駿足による高速斬撃は陽動(フェイント)にして、我が絶唱の剣技の前奏でしかない。

 私は足を止めずに左手からフォニックゲインを鞘に固形化し、右手の剣を素早く収め。

 

〝そこだッ!〟

 

「しまっ――」

 

 分身の血肉が全て本体に集束されながらも、まだ完全に再生し切っていない状態のフィーネめがけ、居合腰のまま奴の視界にすら映らぬ神速で一気に肉薄し――抜刀。

 

《絶唱・天羽々斬――真打》

 

 我が絶唱の剣技の〝真打(サビ)〟たる苛烈にして百裂なる〝神速の連続斬撃〟を、フィーネへと叩き込み、なます切りとした。

 数百分の我が剣の軌跡を受け、フィーネの肉体は散り散りの肉片と化す。

 

「がっ……」

 

 抜刀術の勢いでカ・ディンギルの至近まで着いた同時に、足の力が落ちて膝が地に着いたが私の胸部内から圧迫感が押し寄せ、吐き気が押し寄せた瞬間、口内から血が迸って眼前の地上に落ちた。

 言うまでもなく、この身が受けた絶唱の代償(バックファイア)による負傷だ。

 

「今一歩……至らなかったな」

 

 背後から、絶唱の剣撃を全て貰い受けたフィーネの声が響く。

 

「空蝉さえ統合すればネフシュタンの再生力は絶唱の攻撃すら凌駕するッ!」

 

 わざわざフィーネの言葉を聞くまでも、まして振り返るまでもない、肉体が再統合されたことでネフシュタンの再生能力が全開となり、多大なる切傷を与えながらも、ネフシュタンは奴の意識を維持させていた。

 

「さあ――間もなく――」

 

 第二射、または〝今度こそ私の勝ちだ!〟とでも言うつもりだったのだろうが。

 

「それはどうかな?」

 

 と、どんな表現にせよ、私は奴の続けざま発しようとした言葉を発し。

 

「今、私は――」

 

 私とカ・ディンギルの間を、分け隔ていた……――。

 

「お前と言う〝障害(かべ)〟を、跳び越えたぞッ!」

 

 また不敵に笑みを浮かべ、フィーネへと叩き付ける声量でそう宣言し、バックファイアで満身創痍な身体を奮い立たせて私は、第二射の準備で輝く巨塔が伸び行く空へと………飛び上がった。

 いざ――推して参るッ!

 

 

 

 

 

〝慟哭に吠え立つ修羅~~いっそ徒然と雫を拭って~~思い出も誇りも~一振りの雷鳴へと~~~♪〟

 

 口元と目元から、絶唱の代償を受けた証である血を流し、ここまでの激戦で消耗した自身の肉体に鞭を打って、両足のスラスターを出力全開に点火し飛翔した翼は、その勢いのままカ・ディンギルの外壁を足場にホバリング移動で上昇。

 

「先の剣戟すら牽制(おとり)だったとッ!?」

 

 シンフォギアシステムの禁じ手――絶唱を用いた二段構えの囮(フェイント)に出し抜かれたフィーネが驚愕に囚われている隙を突き、翼は塔を駆け昇っていきながら歌い。

 

〝去りなさい!無想に猛る炎~~~神楽の風に~滅し散華(さんげ)せよ~~♪〟

 

 自身のアームドギアを、基本形態と言える一振りの日本刀型から、二振りの直剣へと変形、柄同士を連結させて高速回転し、両端の諸刃は二振り共々、刀身全体に朱音(ガメラ)のものと負けず劣らずに激しい炎が纏われ、回る両端の刃は火の輪を描き出した。

 

「やらせんッ!」

 

 フィーネは蛇腹鞭を昇る翼めがけ投げ振るい、彼女を撃ち落とそうとする………が、天羽々斬本来の絶唱の秘技たる剣劇すら終わりの巫女を欺く策(フェイント)だった事実に、少なからず以上にかなり呆けてしまい……この時生じた〝隙〟を突かれる形で、奴からは〝突如〟も同然に自分の周囲四方八方が爆炎と爆音を上げ、その炎に呑まれ巻き込まれた。

 

「こしゃくな!」

 

 空から降って地上で炎を上げ、尚且つフィーネの四肢を重点的に狙ってくる攻撃は続き、ネフシュタンも再生に手一杯となり翼を撃墜する暇すら与えられず、毒づく。

 爆発の正体は、曇天と地上の狭間を飛ぶ空自のステルス戦闘機――F-35から投下される空爆、駐屯地から放たれる陸自の多目的ロケット弾と、東京湾に鎮座する海自の護衛艦隊から発射される長距離ミサイルによる、正確無比にして強烈な爆撃だった。

 これまで奴が引き起こしてきた特異災害に防戦と後手に回り、時に守るべき国民すら助けられず殉職者を出した自衛隊からの、空を飛ぶ暇すら与えぬ上空から繰り出される猛攻(はんげき)にフィーネが気を取られている間。

 

『今です翼さん!』

 

 通信越しの緒川からの言葉を皮切りに。

 

《風輪火斬》

 

 焔の円陣を描く諸刃(アームドギア)による斬撃を、翼はカ・ディンギル外壁に切りつけ、深く大きく抉らせながら、螺旋状に回って塔に刻ませていく。

 と、同時に翼の斬撃で傷だらけとなりゆく巨塔の先端の砲塔近くへ、一際大きなミサイルが突撃、着弾し、塔内部で爆発が起きた。

 F-35の内一機が搭載していた切札(とっておき)、その名の通り大地を貫き内部で炸裂させる地中貫通型爆弾、通称バンカーバスター。

 今の一撃が致命打となって第二射のチャージ中だった巨塔は緊急停止され、着弾部からは黒煙が上がり、風穴ができていた。

 

〝そこだッ!〟

 

 翼は張り付いて焼き切っていたカ・ディンギル壁面を足場に塔から飛び退いて、一体距離を取り、柄を連結させていた諸刃(アームドギア)を空自のファインプレーで開けられた風穴めがけ投擲。

 アームドギアは推進する巨大な大剣となり、翼はスラスターを全開にして柄頭に蹴りを打ち込む。

 

《天ノ逆鱗》

 

「やめろぉぉぉぉぉぉーーーーッ!」

 

 地上からは、フィーネの悲愴なる悲鳴が響き渡るも。

 

〝四の五の言わずに~~否~~世の飛沫と果てよォォォォ~~ッ♪〟

 

 翼は自らの歌声で払いのけ、歌う歌詞の通りのダメ押しに、稲妻迸る光(エネルギー)が刀身に帯びた巨大剣を風穴へと、豪快の盛大に刺し貫いた―――次の瞬間、塔の頂の砲口から一際大きく、周囲の灰色の雲を一時払うほどの大爆発が起きて………月を穿つ為、現代に蘇った〝バベルの塔〟は、創造者から課せられた役目を果たせぬまま破壊され、機能を………停止し……没した。

 

「馬鹿な……」

 

 自衛隊渾身の反撃が止んだ頃、フィーネは数千年を費やしてまで実現させようとした己が〝切願〟が、水泡に帰したと………最早見る影もない巨塔(バベル)の死した姿を見上げさせられる形で、思い知らされた。

 

「またなのか………またしても………」

 

〝バラルの呪詛〟を携える月のある方角へ、力なく、しかし震える手を伸ばし……フィーネは悲観の言葉を零し、額から一筋、涙を落とした。

 

 

 

 

 

 内閣府庁舎内に置かれている内閣情報調査室――CIRO(サイロ)のオフィスの一角では、ドローンがリアルタイムで撮影している映像越しにフィーネが起こした事態を、緊張感たっぷりに張り詰めた厳格なる眼差しで、眼鏡越しに見つめる現内閣情報官が一人。

 弦十郎の兄にして翼の〝父〟、そして先の自衛隊の反撃を〝演出〟した張本人と言える風鳴八紘であった。

 

『デュランダルから供給されていた高エネルギー反応消滅、カ・ディンギル、完全に沈黙しました、天羽々斬の反応も健在』

 

 二課シェルターと通信を繋げたままの机上に置かれた端末スピーカーから、櫻井了子――フィーネの月破壊計画とそれが齎す人類史上類を見ない大災厄を阻止できたことを知らされた八紘は、六角形状の眼鏡を一度取って眉間を抑えた。

 

『長官、〝鎌倉〟からの通信要請が入っているのですが……』

「事態が収束し次第、直に出向き詳細を報告すると返してくれ、まだ予断は許されない状況だ」

『分かりました』

 

 調査室職員からの通信を対応し終えた八紘は眼鏡をかけ直すと、両腕の肘を机に立て、まるで祈る様に両手を握り合わせ、額に付けると。

 

「翼……」

 

 自らその名前を与えた己が〝娘〟の名を、オフィス内で一人、零す。

 天を仰ぐ巨塔は破壊できた………あれ程の巨大兵器となればカ・ディンギルの他に月に存在すると言う先史文明の神が残したらしい〝バラルの呪詛〟の効果を発し、持続させる何らかの施設を月ごと〝穿つ〟為の手段を、フィーネは最早持ってはいないだろう。

 だが一方で、絶唱を歌い、さらに肉体に負担のかかる大技を連続で使用した翼の肉体は満身創痍で、まともに戦える状態ではない。

 そうなると見越して、予め自衛隊と一課には援護要請をしてはおいたが………間に合うか?

 

(風鳴の血の呪縛(のろい)は……逃れられないのか………)

 

 脳裏に自身の父にして、日本(このくに)を影より操りしフィクサーの姿が過り、歯ぎしりをする八紘。

 

(私一人では……我が子が見つけた〝夢〟すら守れぬのか?)

 

 悔しさに嘆きにも苛まれそうになる中――。

 

〝――――ッ!〟

 

「今のは……」

 

 脳内に、怪獣のものらしき咆哮が響く。

 幻聴かと八紘は思いかけたが、その咆哮と同時に、ある怪獣の勇姿のビジョンも……確かに見えた。

 

「まさか……」

 

 さすが……〝最後の希望〟と言うべきか。

 希望はまだ――潰えてなどいない。

 

「頼むぞ」

 

 

 

 

 

 カ・ディンギルに止めを刺した翼は、重力に引きずられるまま地上へと落下していた。

 八紘の懸念通り、絶唱のバックファイアで既に傷だらけの身で巨塔を落とすだけのフォニックゲインを用いた技の使用を二連続の畳みかけで断行したが為に、以前アームドギアを介さぬ絶唱による自殺行為から自分を助けてくれた朱音ほどではないにせよ、青系のカラーが彩るアーマーとインナースーツには、ところどころ血の真紅が滲み、染みついていた。

 このまま地上に激突すれば、最悪致命傷も受けかねない。

 

(間に合えッ!)

 

〝我が装束よ~~我が身を守りたまえ~~♪〟

 

 咄嗟に翼は、朱音がよく使っていた〝即興歌唱〟を実行、両足のスラスターがどうにか再点火され、落下速度を抑えつつ体勢を整え―――大地と衝突した瞬間、受け身を取り、砂塵を舞い上がらせて横転し続けながら衝撃を緩和して………どうにか地上への落下で受けるダメージを最小限に抑えたが。

 

「ぐぅ……」

 

 肉体がボロボロであることに変わりなく、口がさらに吐血し、口周りは滴り流れた血に塗れていた。

 

「でぇいッ!」

 

 そこへ二重苦とばかり、フィーネの蹴りを鳩尾に受け、息が一瞬止まって呻きも上げられぬまま、翼は打ち飛ばされる。

 

「うっ……」

 

 全身の激痛が止まぬ中。

 

「つ……ばさ………さん」

 

 間近から、自分を呼ぶ声がして、痛みで閉ざされていた瞳を開けると。

 

「立……花……」

 

 ガングニールのアーマーが解除され、力なく横たわり、眼からは生気の感じられない響が目の前にいた。

 思わず翼は、響に手を伸ばそうとしたが……その右手を、フィーネは無慈悲に踏みつけ。

 

「あっぁぁぁぁぁーーー!」

 

 血だらけの翼の口から、悲鳴が響いた。

 

「誰も彼も――どこまでも――忌々しいッ!」

 

 カ・ディンギルを完全破壊され、激情の乱れで激高するフィーネは、舌打ちと鍵尻を繰り返しながら翼の脚を掴み、宙へ放り投げ。

 

「月の破壊は、バラルの呪詛を解くとともに重力崩壊を引き起こさせる、その惑星規模の天変地異に、人類は恐怖し、絶望し――」

 

 鞭で縛り付けてそのまま地へと叩き付け。

 

「――新霊長となったこの私に祈願する筈だったッ!」

 

 今度は完全に戦意喪失している響の背中を何度も踏みつけ。 

 

「〝痛み〟だけが……人同士を繋げられる縁(きずな)……それを――」

 

 続いて髪を掴み上げると、翼が倒れている近くへを投げつけた。

 瓦礫の破片と塵に覆われた大地に、力なく倒れる翼と響。

 今の二人には戦える〝力〟どころか、まともに立つこともままならない。

 だが悲願を砕かれたフィーネの哀哭と憎悪と憤怒は、留まることを知らず………奴は浮遊すると。

 

「それを……それをお前は!」

 

 蛇腹鞭たちの先から、数にして六発の重力球を生成し。

 

「お前たちはぁぁぁぁぁぁーーーーッ!」

 

 眼下の地上で伏せている翼たちへ、自らの激情ごと一斉に投げつけ、重力球と大地の衝突は鮮やかな炎が迸る爆発を引き起こした。

 

「はぁ………はぁ……なぜ誰も……〝真理〟を悟ろうとしない……」

 

 息を荒らすフィーネが、どう毒づいた最中………まだ膨張を続ける炎の内より、拘束で飛び上がった〝プラズマの火〟を纏う物体が三つ。

 

「何が?――なあぁぁぁーーー!」

 

 自らが引き起こした爆炎がカモフラージュとなって、自身に突撃してくる物体らの存在に気づくのが遅れ、障壁(バリア)も張る間も許されず、三つの内の二つ――プラズマの三日月刃がフィーネの両腕は両断させ、続いて三つ目の大火より――。

 

 

〝Re~cei~~~vi―――ngッ!(受ゥゥゥけェェェ取ォォォれェェェェーーーッ!)〟

 

 歌唱法の一つ、スクリーモをたっぷり轟かす怪獣の雄叫びの如き歌声に乗り、炎(プラズマ)の輝きを帯びた〝拳――バニシングフィスト〟から繰り出される強打(ロシアンフック)が、フィーネの横顔に炸裂。

 炎も加えられた回避も防御も、ましてやカウンターも困難な打撃に、フィーネはほぼ一瞬で地上へと撃ち落とされ、衝撃はクレーターを作り上げ轟音を打ち鳴らせた。

 フィーネを撃墜させた火球は、ゆっくりと真下の地上へと降りていく………それと同時に、重力球が起こした炎が、天を駆ける龍の如き動きで、火球に吸い取られて行き、爆心地からは翼と響が、一応は無事な姿でそこにいた。

 されど翼がここまでの戦闘で負った傷の数々は、まだ完全とまで行かずとも、かなり治癒さえされており、彼女は微笑みを浮かべて火球を見上げている。

 一方でクレーターより這い上がって来たフィーネの顔の半分は、表皮が完全に焼き尽くされ、内部の肉と破と眼球が剥き出しとなっていた。

 

「馬鹿な……まさか……」

 

 喉も火傷を負ったらしく、鈍く掠れて濁った声で、火球の正体を悟り、驚愕する。

 

「前に言った筈だ……」

 

 火球の内より……〝彼女〟の声が響く。

 

「私の〝友達〟に――」

 

〝Don't hit―――my friends〟

 

「――〝手を出すな〟、とな、救世主の皮を被った独裁者にして、〝堕天使(あくま)〟よ」

 

〝ガアァァァァァーーーオッォォォォーーーッ!〟

 

 炎は彼女の前世(かつて)の姿を形作り、咆哮を上げると集束し、手を横合いに払うと―――朱音、またの名を《最後の希望――ガメラ》が、その凛々しくも勇ましい姿を露わにし、翡翠色の眼光をフィーネへと放ち。

 

「Now――(さて――)」

 

 朱音は伸ばした右手を銃状に構え、フィーネへ指先を突きつけ。

 

「Are you Ready?――Fine(覚悟はいいか? フィーネ)」

 

 最早生きた災厄と化した終焉を齎す巫女へ、朱音は言い放った。

 これよりガメラによる、自身の友や仲間たち含めた、生きとし生けるものを守る為に戦う――反撃(AVENGE)――が、始まる。

 

つづく。

 




クリスちゃんがどうなったかはもう少しお待ちを(;^ω^)

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