GAMERA-ガメラ-/シンフォギアの守護者~The Guardian of Symphogear~第一楽章 作:フォレス・ノースウッド
クリスのお買い物①
・ルナアタックから数週間後①(リディアンチャイム)~~♪
七月後半、夏休みにも入って、本格的な夏シーズン真っ盛りに相応しい青みが濃く澄み切った蒼穹の空(うみ)と、そこに泳ぎ行く入道雲が実に絵になる晴れの日。
私こと草凪朱音と言えば、晴天に恵まれた横浜市街の中にて、シンフォギア装者に振り込まれる給与で買ったクルーザーバイク《ワルキューレウイングF6D》を走らせていた。
これはバイク乗りでないとピンと来ないだろうけど、真夏でもバイクが駆け抜ける風の中、結構厄介な世界だ。
走行風と自然風が組み合わさって押し寄せる大気の圧に抗う程、身体に疲労が溜まっていくし、夏場でも風の温度は冷え気味、その癖青空の中心を陣取る光球(たいよう)の陽の強さも加われば、とても肌の露出が多い服装はお勧めできない。
現に私も乗っている間は、日差しから肌を守りつつ、防寒性と通気性を両立させたベージュカラーのライダージャケットを羽織っている―――っていけない、バイクでツーリングについて話し出すと長々と高説垂れてキリが無くなるな。
まあ掻い摘んで言えば、人が移動用の乗り物として使うには色々と制約も短所も癖も多いオートバイを愛好する人間がなんで多いかと言うと、私の場合に限定するならばその理由は、まるで空を飛んでいる様な感覚を味わえて、それがたまらなく心地よく、感性(こころ)を掴んで離さないからだ。
前世(ガメラ)の時は海の底で休息の時以外は常に災厄(かいじゅう)たちとの戦いに明け暮れる日々だったので、空を飛ぶことはできても、飛ぶことそのものを堪能する暇など皆無だった。
シンフォギア装者の今でもおいそれと飛べるわけではないので、青空の中を泳ぎ駆け行く快感を疑似でも体験できるバイクは、私にとって格好の娯楽(しゅみ)の一つだった。
さて、私の趣味嗜好に関する話はこの辺にして、今日はクリスから、具体的な用件の内容は伏せられたまま〝買い物に付き合ってほしい〟と頼まれたのである。
ただ待ち合わせの時間まで余裕があったので、その間バイクのツーリングを楽しんでいたと言うわけ。
おっと、メーターの時計の時刻を見て、待ち合わせ時間が迫っていると気づき、私はツーリングをお開きにしてバイクを停められる場所へと向かう。
横浜駅周辺の駐輪場に愛車を置いた私は、ライダースーツを脱いで、バケットハットとサングラスを付けて徒歩で真夏の陽光が注がれる横浜市街地を徒歩で進む。
待ち合わせ場所は横浜中華街の北門――通称玄武門、ガメラな身からすればクリスも中々粋なチョイスをしてくれるな~~と思い返しつつ、門が見えるところまで着くと。
「あら?」
夏の横浜の喧噪(ひとどおり)の中でも、陽の光を眩しく弾く銀髪なのも相まって、既にクリスが門の柱にもたれて待っている様が目に入った。
「よお朱音!こっちだこっち!」
クリスも私が来たのを気づいて、その場からぴょんぴょんと跳びながら手を挙げて速く来~いと催促してきた。
「早いねクリス、いつから待ってたのかな?」
スマホで時間を確認すると、まだ待ち合わせ時間まで約十五分は空いている。
「あ、あっ……あたしもお前が来るほんのちょいぐらいだよ!」
「ふ~ん、そ~」
あからさまな狼狽具合に、こっちは思わず〝う~そである〟とナレーションしたくなる。
さっきの〝早く来いよ全く……〟と言いたげな様子から、低めに見積もっても三十分以上は……もしかしたら気が早過ぎて一時間以上は待っていた可能性も無きにしも非ずと見て取れた。
しかもクラゲ風にウェーブがかった二本結びされた後ろ髪が、クリスの顔つきと同等以上に彼女の感情(ないしん)とリンクしてる形であわあわと動いている………一応一歳分年上なのに、面白可愛い。
「またなんだよそのニヤケ顔は!」
「おや?理由を言ってもいいのかな?」
「い、いややっぱやめとく……だから何も言うな!」
「Sure thing(うんいいよ)~」
本人がそう言う以上言及しないでおくが、私の顔はクリスのリアクションを前に口元が綻ばずにはいられない中―――。
「早いな二人とも、まだ待ち合わせまで十分ほど残ってるぞ」
「あ、弦さん」
同じく言い出しっぺのクリスの〝買い物〟に頼まれてきた弦十郎(ゲンさん)も合流してきた。
「私たちもついさっき着いたばっかりだよ、ねえクリス?」
「お、おう……役者は揃ったんならさっさと行くぞ!」
クリスに先導される形で、私と弦さんも横並びで歩き出した。
・ルナアタックから数週間後②~~♪
「クリスくんが何を買うか朱音くんも聞いていないのか?」
「全然」
「俺まで呼ばれた理由も?」
「右に同じ、私も聞いてるのは翼と響じゃダメだってことぐらい」
私は弦さんからの質問に応じつつ、買い物に付き合ってほしいと頼まれた時、翼と響のことも引き合いに出したのだが、クリス本人曰く〝あの二人じゃダメなんだよ〟だそう。
「傑作アクション映画でも探しているのだろうか?」
「それは絶対ないない」
その可能性は一番低いので、即違うと訂正しておく。
「朱音くん……そんな食い気味に否と答えずとも良いじゃないか……」
なんだか本人は不服そうだけど、弦さん式アクション映画特訓を〝バカの満願全席〟と表したクリスが弦さんの好む映画を自分から探すとは思えない。
「とにかくクリスが何をお求めかは、どの道もうすぐ分かるんだし」
「まあ、それもそうか」
わざわざ変に勘繰ることでもないし、もうすぐクリスの目的(かいもの)の内容は明らかになることだし、私と弦さんは成り行きに身を任せることにした。
それからクリスの背中を追って歩くこと数分。
「っ………」
とは言え、目的地に着いた私も、想像の斜め上を行く具合に少し開いた口が塞がらなくなったまま、見上げている。
「ぶ、〝仏具店〟だとッ!?」
私以上に驚愕でお口が開かれた弦さんが、その目的地の〝名称〟を、色鮮やかに澄み渡る真夏の蒼穹にめがけて叫ぶのであった。
その②に続く。