GAMERA-ガメラ-/シンフォギアの守護者~The Guardian of Symphogear~第一楽章 作:フォレス・ノースウッド
・ルナアタックから数週間後③(リディアンチャイム)~~♪
「ぶ、仏具店だと!?」
夏の澄み渡った蒼穹へ向かって、弦さんこと風鳴弦十郎の驚愕のリアクションが立ち上り、私も想像の斜め上に全力疾走したクリスの〝買い物〟の目的地を前にしてしばし開いた口が塞がらなかった。
「一番カッコいい仏具を買いに来たぜ!」
「意外と言うかなんと言うか……随分と渋い趣味をお持ちのようで」
いやいや弦さん、渋いと表するにはまだまだ突っ込みを入れたいことあるよ。
だって仏壇に限らず祭壇って……〝カッコいい〟を基準に選ぶものだっけ?
と言うか……そもそもの話。
「〝クリス〟なのに、仏教なんだ?」
「うっ……しょうがねえだろ! 昔思い返してもうちのパパは仏さんを拝んでたし、嫁入りしたママはパパの家に合わせてたし……」
その割によく娘にキリスト教が語源な〝クリス〟と名付ける辺り、プライベートでは相当フリーダムな夫婦だったみたいだな……雪音夫妻。
だって仏教の開祖たるお釈迦様は元は人間であり、人でありながら神も同然な超常的存在となったお方。
対してキリスト教は一神教、文字通りこの世で唯一の神を信仰する宗教。
ご覧の通りこの二大宗教は水と油で相いれないのだが………まあそれを言ったら日本(このくに)自体、民族宗教の神道と仏教とキリスト教が色んな意味で併存してるので、クリスの名前含めた雪音ファミリーの宗教事情など何を今さらと言う話だった。
さて、仏壇を買うとして、クリスに先に確認しておきたいことがある。
「クリス、両親はどの宗派だったか確認は取れているのか?」
「あっ……」
そのリアクションが如実に語る。
「そんなこまけえこと気にしなくてもさ……」
「いや朱音くんの言う通り重要だ、実際祀られる仏様も、飾り方もそれぞれ違ってくるぞ」
弦さんからも援護射撃が来た。
「まあ雪音家の宗派の件なら調べは付いてるさ、浄土真宗大谷派だったな」
「っておい……」
「クリス?」
なにやら苦言を呈したい様子なクリス、まあ理由は見当ついてるけど一応聞いてみるとしよう。
「いや特機部二ってほんと自由もプライバシーもへったくれも無いなと思ってさ……あのバカ響たちの〝合鍵事件〟も込みでよ」
あ、やはりそのことか~~と納得しつつ、ブツブツと愚痴を零しながら店に入ったクリスに続いて私も弦さんも店に入った。
・ルナアタックから数日後~~♪(リディアンチャイム)
一体なにがあったかと言えば、時を遡って二課仮説本部内での出来事。
特機二課の恒例行事を一つ挙げよ――と問われたら、私は間違いなく、弦さん主催で行われる〝歓迎会〟と答える。
大体、私と響がかつての二課本部へ連れてこられたときと同じようなノリが、ここでは平常運転だ。
あのときとの違いといえば、今回の歓迎会に用意された料理のほとんどを私が調理したことと――。
「んん~~っ! 朱音ちゃん、この唐揚げもすっごく美味しいよ!」
「も~響ってば………朱音が作ってくれた料理は逃げないし、まだまだあるんだから、ちゃんと噛んで食べてよね」
「まったくだ……ん、美味しい……さすがの技前」
前回と違って遠慮なく料理を胃の中へ放り込んでいる、相変わらず食いしん坊な響と、親友の食い意地に苦言を呈する未来――なシチュでがあること、翼が未来の突っ込みに同意しつつも、私の料理の味込みで歓迎会の場に堪能する余裕ができていること等だ。
「というわけで、改めて紹介しよう! 我ら二課の心強い新たな仲間――雪音クリスくんだ!」
「ど、どうも……改めまして、よろしく」
司会役を務める弦さんのテンションとは正反対に、クリスはなんとも居心地が悪そうだった。
普段のハキハキとした声量はどこへやら。今にも料理の湯気へ紛れて消えてしまいそうな、か細い声で応じている。
「改めてよろしくね、クリスちゃん!」
「だからぁ~ちゃん付けはよせ!」
「えへへ~いつものクリスちゃんだ~♪」
「確認するためのちゃん呼びか!?」
かと思ったら響の一言で一転、緊張が解けたのかクリスの声が普段の調子へ戻り、キレのあるツッコミを披露した。。
その様子に未来は微笑み、翼と私もお互いに目元と口元を和らげる姿を見合った。
「そして、クリスくんには今回の歓迎会の他にもプレゼントがいくつかある、君のリディアン音楽院への転入手続きが、正式に完了した!」
「えっ……」
境遇を踏まえれば、小学校低学年以来の学校生活が送れると言う弦さんからの〝プレゼント〟のことは、初耳だったらしく、クリスの目は点となる。
「本当に、いいのか?」
「もちろんだ! 制服や教材についても心配はいらん。学業に遅れが出ないよう、必要なら家庭教師の手配をするぞ」
「そこまでせんでいいって!」
「でも、学校へ通えること自体は嬉しいんだろう?」
「そ、そいつは……まあ……」
クリスは照れ隠しをするように、頬を指で掻きながらぷいっと顔を背けるも、すっかり嬉しさで緩んでいる口元までは隠しきれていない。
響や未来、翼たちと同じ学び舎で学び、バルベルデの地でかつて奪われてしまった日常が帰ってきてくれる事実が嬉しくて、仕方がないのがくっきり見て取れた。
「さらに、生活拠点としてリディアン新校舎からほど近いマンションの一部屋もクリスくん用に手配した、家具と最低限の生活用品も搬入済みだ、今日からでもそこで一人暮らしすることは可能だぞ、これが見取り図だ」
「マジか?」
その言葉を聞いた瞬間、クリスの満更でもない瞳の輝きがさらに増して、受け取った部屋の資料をまざまざと読む。
自分だけの部屋、誰の許可もなく帰ることができ、誰かに追い出される心配もなく暮らせる場所、それは長年安心して暮らせる家すらも無かったクリスにとって、単なる住居以上の意味を持つ。
「でも……家賃とかは、どうすんだよ?」
「未成年の協力者に必要な生活環境を提供するのも二課ひいては俺達大人の責任だ、金銭面込みでクリスくんが心配する必要はないし、装者としての任務遂行以外の自由やプライバシーは保障されているから、安心したまえ」
「そっか……」
小さく呟いたクリスは、俯いて前髪で表情を隠しすも、全身は微かに震えている……弦さんら、かつては憎まずにいられなかった大人たちの粋な計らいに、喜ぶ勢いでうれし涙が出ているのを悟られまいと必死らしい。
「よかったな、雪音」
「な、なんだよ、急に」
「嬉しいなら、素直に喜んでもいいんだよクリス?」
「べ、別に、そこまで喜んでねえって!」
翼と未来からの言葉に、これはまたまあツンデレのお手本そのものな返しをするクリス。
「でも、さっきからマンションの間取り図をずっと見てるよ?」
「そりゃ見るだろ! アタシが住む部屋なんだぞ!」
「その様子じゃ追加で買う家具も、それをどう部屋に置くかも考えてたみたいだね」
「朱音(おまえ)まで便乗すんな!」
私と響からの援護射撃(からかい)に、頬を赤くして怒鳴りながらも、クリスは資料を大切そうに胸へ抱えている。
さすがこれ以上弄るのは野暮だし、そろそろ渡しておくかと、私は懐に忍ばせていた小さな封筒を一つ、クリスへ差し出した。
「はい、この中に部屋の鍵が入ってるから」
「……アタシの鍵」
「そう、君だけのこの一本だけだから」
「ああ?なんだよその言い方、まるでこれ以外にもあるみてえじゃねえか」
「あっ……」
クリスの眉が訝しげにぴくりと動いて、私は思わず口を手で覆い隠し、己の言葉選びが少々迂闊だったのを実感する。
「おいなんでおまえら、急にそんな目を逸らした?」
響と未来も揃って明後日の方向へ気まずそうに目を逸らし、翼もゴホンとワザとらしく咳払いして沈黙を貫く。
私たちの一連の異変(はんのう)を、クリスが見逃すはずもなかった。
「そ、そんなことないよ?」
「うん、何もやましいことなんてないよ」
「お前ら共々棒読みじゃねえか! 何を企んでたかこの際全部白状しやがれっ!」
「仕方あるまい……」
言い逃れはできないと翼は判断したらしく、彼女の方からその白状をし始めた。
「実は雪音、万一の事態に備えて合鍵を作る予定だったのだ、それさえあればいつでも遊びに行けたのだが……」
「はあ!?」
翼からカミングアウトされた爆弾発言に、クリスはごもっともなリアクションをし、クラゲの足を連想させる二本結いされた後ろ髪が、主の驚愕に合わせてピンと天井に向けて立っていた。
「だって、クリスちゃんが朝寝坊したときに起こしに行けるし」
「もし雪音が体調を崩して応答できない場合、迅速に踏み込める」
「なんでお前ら、最初から人の部屋に勝手に入る前提なんだよ! 」
クリスの訴えは実に正当性しかない。
「――てか響(おまえら)の分込みで何人分作る気だったんだ合鍵!?」
「なんと翼さんと私と、未来と朱音ちゃんの分もだったんだけど」
「私が未然に阻止したんだ」
「朱音(おまえ)がか?」
と、クリスの視線が私へと向いてきたので、合鍵問題が実際どうなったかを説明する。
「本人の承諾を得ずに合鍵を複製するのは明らかに不法侵入の類だからね、業者へ申請を確認して、これは響たちの仕業だと確信した私が手を打っておいた、間に合ってよかったよ、ほんと……」
なにかとプライバシーにうるさい方なアメリカ暮らしが長かった身としては、たとえ良かれと思ってのことだとしても、住まい主になんの許しも断りもなく合鍵を作ろうとする友たちの魂胆を見過ごせなかったので、溜息混じりにクリスへ報告した。
「そいつは……ありがとな、あ、朱音、ほんとに助かった……」
「どういたしまして」
ひとまず私にはわざわざ名前を呼んでくれた上で素直に礼を述べたクリスだったけど、すぐにとある事実へ改めて思い至ったらしく、響と未来と翼、プライバシーの侵害しかけた当人らと、それを許しかけたにも拘わらず、特に悪びれた様子もなく、自分達のやり取りを微笑ましく眺める弦さん、の順で目線を移し替えてからの、自分の部屋の鍵を両手でしっかりと握りしめたまま――。
「つまりお前らのせいであわやアタシには自由もプライバシーもへったくれも無かったってことじゃねえか~ッ~!!」
未遂に終わったとしてもぶちまけずにはいられないクリスの絶叫が、二課仮説本部いっぱいに響き渡ったのだった。