GAMERA-ガメラ-/シンフォギアの守護者~The Guardian of Symphogear~   作:フォレス・ノースウッド

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まさか……ガメラのクロスオーバーを書き始めた矢先、本家復活の朗報が入っちまうなんて………なんて偶然なんでしょうか(驚

しかもパイロットフィルムとは言え、こっちの特撮魂を震え上がらせるとんでもねえもんが出てきやがった。

今回はある意味自虐なメタ風ネタがございます(汗
こんぐらいしないと、アクの強い金子キャラを前にしたら埋没してしまうもんですから。

なお朱音の祖父は勿論、スティーブン・セガールがモデルでございます。

さらに小さい頃の朱音のモデルは、小さい頃のたっくんこと半田健人がモチーフです(監督目当てに映画を見てた恐ろしい子だったとのこと)

※挿絵付けてみました。


#5 - 告白 ※2023/11/24挿絵追加

 草凪朱音と立花響が、経緯は微妙に異なれど、シンフォギアの〝担い手〟となった、

またはなってしまってから、一日分の時間が経過した。

 

 街にはノイズたちによる被害の爪痕がまだ残るものの、十年以上奴らの猛威に晒されている人間たちも中々の図太さの持ち主で、一夜明けると〝日常〟の空気感が街の中に漂わせていた。

 その中を、今日も早起きな朱音はリディアン高等科へ通学中なのだが、その前に彼女は行きつけのレンタルソフト店〝TATSUYA〟に向かっていた。

 

 

 

 

 

 

 そのTATSUYAの、洋画、邦画、国内と海外ドラマ、アニメのソフトたちがびっしり棚に敷き詰められた店内では、映画マニアで常連客である風鳴弦十郎が、アクション系の洋画の棚の前で、今日借りる作品の選別をしていた。

 パッケージを手に取り、内容を確認しているその目は、いつもなら喜怒哀楽の内〝楽〟に相当するものであるのだが、今日の朝の彼は重々しい様子であった。

 

 本日借りる映画を選びながらその実、弦十郎の意識は、一昨日の、シンフォギアを纏った〝友〟――草凪朱音の姿とその〝戦い振り〟……そしてその時見せた〝瞳〟を、半ば無意識に投影していた。

 

「おはよう、弦さん」

「おっ……」

 

 左手側から発せられてきた挨拶で、考え込んでいた弦十郎を我に返らせたのは、何の因果か、かの朱音その人であった。

 彼女は至って〝いつもの様子〟で、弦十郎と接してきている、彼としてもその方が喜ばしい。一昨日二課本部で顔を合わせた時も、内心ぐるぐると巡っていた疑念を抑制させ、友人としての〝いつもの調子〟で彼女と接していた。

 

 

 

「おはよう、朱音君」

「どうしたの? 弦さんが〝好物〟を目の前にしてぼーとしてるなんて珍しい」

 

 

 ここで言う〝好物〟とは、勿論無数の映画たちのことである。

 

 

「いや、別に……気まぐれで瞑想の練習をしていただけだ」

「にしては、雑念だらけに見えたけど」

 

 

 首を傾げて百九十センチを超す背丈な弦十郎の顔を見上げて微笑んでくる百七十近い朱音の、ただでさえ端正で、よく見ればまだあどけなさを残しつつも大人びている彼女の美貌をさらに引き立てさせる潤いと艶に満ちた翡翠色の瞳には、冷や汗の流れる弦十郎の顔が映っていた。

 まだ数え年くらいの小さな頃から、本当に彼女はまだ十代の半分の齢だと言うのに、麗しい女性へと様変わりした………見事な八頭身と、適度な筋肉で引き締まりつつも性的肉感に恵まれた体躯、透明感と温かさを併せ持つ柔肌、隠れ巨乳と表する他ない密かに膨らんでいる胸。

 

 それらが組み合わさった姿は時に、いい歳かつ、外見通りな豪放磊落さの一方で堅実さと実直さをも有する〝大人〟な弦十郎でさえ、時にどきっとさせてしまう〝魔性〟さを秘め、そのくせ年相応の少女らしい明るさ、快活さも併せ持っている。

 現に、本人は全く自覚していないが、その仕草は大抵の異性を〝殺す〟だけの破壊力を秘めている。

 

 

〝おじちゃん、そこのジ○ームズ・キ○メロンのア○ス取って〟

 

 だが、人工の証明さえ煌びやかに反射する艶に溢れた細く柔らかな黒髪と、吸い込まれてしまいそうな美麗さを醸し出す翡翠色の瞳だけは、初めて会った時から全く変わっていない。

 

 

「そんなにびっくりした? 〝一昨日の私〟って」

 

 

 朱音のことで考え込んでいた最中に当の本人がご登場した状況に、何とか誤魔化そうとする彼だったが、余りに咄嗟に浮かんだ言い訳が、お世辞にも出来が良くないものでなかったのもあり、あっさりと本人から看破されていた。

 

「白状すると……そうなるな」

 

 

 あの日の時点では、立花響と言う少女が、姪の翼とは戦友であり、同じ舞台で歌うパートナーであった〝奏君〟の愛機も同然だった三番目のシンフォギア――ガングニールを装着した事実の方が勝っていたが、今は正体不明なシンフォギアの装者となった彼女に対する驚愕の方が、一日分間を隔てた今となっても大きく尾を引いていた。

 

 

 

 

 

 

 時間は昨日に遡る。

 その日の特機二課地下本部司令室では、ノイズドローンが撮影していた――新たにシンフォギアと適合した少女たちの映像から、分析が行われていた。

 

「改めて見ても………初めてギアを使ったとは思えない戦い振りですね、〝アームドギア〟もいきなり具現化させるなんて」

 

 少々暗めの黄土色がかって跳ね気味な髪型をした二十代の青年――二課所属のオペレーターの一人である藤尭朔也は、朱音の苛烈かつ洗練された様相な初めて離れしている〝初戦〟をこう評した。

 

 

「まるで……久方振りに武器を手に取って戦線に加わったけど、腕に衰えはないって印象です、ノイズドローンに補足されたのを逆に利用したりと、機転も利いていますし」

 

 彼と同じ普段はオペレーター業をこなし、朱音たちに〝あったかいもの〟を提供してくれたあの友里あおいも、ほぼ同じ印象を述べている。

 

「私の与り知らぬシンフォギアって時点で色々興味深いけど、彼女の操る炎も中々よね」

 

 同じくこの場にいて、蛍光しているキーボードを操作している櫻井了子は、朱音が銃型のアームドギアの銃口から〝火球〟を迸らせた瞬間で映像を停めた。

 

「どういうことだ? 了子君」

「この炎、通常の火よりも〝プラズマ〟の量も密度も桁違いな超放電現象なの」

 

 プラズマを可能な限り簡易的に説明すると、ようは気体となった物体は一定以上の熱を与えられたことで、その気体が構成しているパーツ――原子がバラバラかつ高速で動き回る状態になってしまう現象のことである。

 科学にさほど詳しくなくても分かる身近な例を上げると、雷と言った大気中を猛進する電流、蛍光灯の光、マッチやライターが灯す火などだ。

 朱音が見せた〝火炎〟の数々は、通常の燃焼現象とは比較にならない膨大なプラズマを帯びていた。

 

 

「恐らく、ギアが生成したプラズマエネルギーを火炎に変換させて放射しているようね、直撃すれば通常は燃焼困難な物体でも一瞬で消滅させてしまう、無論装者のフォニックゲインで位相固着されたノイズをも燃やし尽す威力を有する業火………戦闘面では門外漢な私でも、これだけの高濃度なプラズマの火を巧みに御している彼女が―――只者じゃないってことは分かるわ」

「綺麗な見た目に似合わずあの子、おっかないものを取り扱ってますね、バ○ターライフルまで発射するし………いくらあの〝ケイシー・スティーブンソン〟のお孫さんとは言え」

 

 

 二課の面子の中では、比較的〝常識人〟の部類に入る藤尭は、少々身震いしながらそう呟いた。

 

 

「突拍子もない質問だけど、朱音ちゃんが海外で従軍していた経験なんて――」

「あるわけがない、幼い頃から祖父より武術の指南を受け、私も及ばずながら入学前に彼女たっての希望で修行を課してはいたが………」

 

 

 

 

 

 

 そして現在、朝のTATSUYA店内に戻る。

 こうして調べれば調べるほど、考えれば考えるほど、朱音の扱うシンフォギアと、彼女自身の〝特異性〟は、ガングニールの適合者の〝二代目〟となった立花響がなまじ〝突然強大な力を手にしてしまった素人〟らしい素人だったのも相まって、より際立っていくばかりであった。

 

 飛行一本取っても、本来は地に足付けた生物であり、飛ぶにしてもそれを可能とする物体に乗らなければならない人間でありながら、自身そのものを〝飛行物体〟にし、それもジェット噴射と言う自然界では絶対見られない方法で自在に飛び回っていた。しかも子どもを抱えたままと言った微細さも要求されるフライトすら難なくこなしていた。

 

 戦闘面しても、幼少期より俳優兼武術家であり、老齢な現在でも精力的にアクション映画にも出演しているケイシー・F(フレデリック)・スティーブンソンからあらゆる武道、武術を学び、身体能力は高くても………弦十郎の記憶では、〝悲劇〟を体験したことがあっても……〝実戦〟を経験したことなど一度たりともない。

 

 だからこそ、ギアを纏った時の朱音の翡翠色の瞳が、弦十郎の頭から離れずにこびりついて離れない。

 同時に、〝公安〟に勤めていた頃より磨かれた弦十郎の〝直感〟は彼自身にこう告げていた。

 朱音のあの〝目〟は、幾多の〝死戦と死線〟を潜り抜けてきた〝猛者〟の域にある戦士(もののふ)の眼差しであると。

 それらを乗り越えて鍛え上げられた〝戦う意志〟を有していたからこそ、初戦でアームドギアを実体化させられたのだろう。

 本来あれは、正規の〝適合者〟でも、相応の鍛錬を積み重ねなければ具現化できぬ代物なのだ。

 

 一体………あれ程の〝眼光〟を得るまでに………どれ程の修羅場を潜ってきたのか?

 

「失礼する」

「っ!」

 

 また意識が思案の泉に沈みそうになるところへ、弦十郎の右手に来る感触、見れば朱音が、彼の右手に透明ケースに収納されたメモリーカードを乗せていた。

 

 

「これは?」

「弦さんたちが知りたいことは、そのメモリの中にレポート形式で纏めておいた」

「ああ……そいつはわざわざ、済まないな」

「弦さんも仰天するくらい派手に立ち回ってしまったからな、説明責任は果たさないと」

 

 どうやら開いた一日の間を活用して、朱音は予め弦十郎らが持つ〝疑問〟に対する解答を纏めてくれていたらしい。

 

「じゃあ放課後」

 

 

 いつもなら、時間の許す限り映画等の雑談を交わす流れなのだが、今日はそのメモリーカードを渡す為にTATSUYAに来たらしく、それを済ませた朱音はすぐさまリディアン高等科に向かおうとした。

 

「朱音君!」

「ん………何?」

 

 背を向けた朱音に、思わず弦十郎は呼びかけ、彼女は彼に振り向く。

 

「どこで、使い方を習った?」

 

 脳内に漂う謎の答えがこのメモリーに入っていることは分かっている………それでも急速に流れてくる疑問を抑えきれず、図らずもあるアクション映画での吹替えの台詞と同一の単語で構成された問いを、朱音に投げかけてしまっていた。

 ほんの数瞬置いて、弦十郎はその〝偶然〟を自覚。

 

〝全く……何をやってるんだ?〟

 

 幸い表現は抽象的で機密漏洩に繋がるミスまで犯してはいないものの、ここから、どう対処していいか困ってしまう。

 

〝いかん………雑念に相当やられているな……まだまだ俺も修練が足りん〟

 

 己の未熟さを恥じる中、対して朱音は、助け船を出すようにこう答えた――

 

「I read the instructions(説明書を読んだの)」

 

 ――彼女も映画の台詞と類似している偶然性を察したらしく、わざわざ原語版の英語でその台詞に対する返しを発し、そのままこの場を後にしてリディアンに向かっていく、帰国子女なだけあり、発音はネイティヴそのものだ。

 

「こいつは一本、取られちまったな」

 

 朱音のユーモアな返しに、弦十郎は後頭部を掻いた。

 

 

 

 

 

 

 

 よっぽどガメラ――私のシンフォギアと、それを使いこなしていた自分が気になっていたらしい。弦さん自身でも思いもよらず、警察の護送車からロケランで助けられた時のシュ○ルツネッガーと同じ言葉を口走っていたくらいだ。

 ちょっと困っている弦さんが可愛かった余り、悪戯心が働いてしまって、わざわざ原語で返してしまった。あの人日頃から〝大人〟を自称するだけあって、人格者な大人ではあるんだけど、良い意味で感性は〝子ども〟らしい柔軟さを持ち合わせているし、大好きな映画に対する純真さ溢れる愛にはリスペクトと同時に、時たま私も〝可愛い〟と思ってしまう。

 それだけ三度の飯より映画を愛する弦さんに、眼前の映画(たから)の山そっちのけで、シンフォギアの担い手としての自分のことで考え込ませてしまったのには、ちょっとばかり罪悪感も覚えた。

 

 

 大体の疑問は、私が渡したメモリーの文書データが解決してくれるだろうけど。

 

 

 あれには学業の合間にて、レポート方式で書き纏めた自身の諸々が保存されている。口頭だけでは不足あると思っての措置だ。

 弦さんたちに、どこまで〝ガメラ〟としての自分を話すかは、結構迷わされた。

 自分と〝災いの影〟との因縁に止めるか……それとも〝宇宙からの侵略者たち〟と、災いの影から転じた〝邪神〟との戦いも織り込むか。

 落としどころに悩み、考え抜いた末、弦さんら二課と響にが、前世の記憶は全て覚えているわけではない(実際、超古代人としての記憶は一億五千万年分の眠りで摩耗している)ことにし、ガメラの特性と生み出されるに至った大まかな経緯に止めておくことにした。

 

 全て説明するのに相当な分量と時間が必要だからってのもあるけど………私が〝人間〟であることを捨てたことと、〝ガメラ〟となってからの激闘、特に〝最後の決戦〟で私が下した〝決断〟と結末は、とても響と風鳴翼の二人に話せる代物ではない。

 響は、きっと心を痛める余り、あの太陽の光の如き笑顔を消して曇らせてしまうだろうし、風鳴翼にとっても相棒を失ったあの日のトラウマを再燃させてしまうかもしれないからだ。

 私の――ガメラとしての〝戦い〟は、優しさを持っている少女たちには、残酷できつすぎる。

 

 弦さんに対してもそう。

 彼の人柄と、彼独特の〝大人〟に対する持論と責任感と矜持を思えば、とても〝超古代文明人〟であった自分が〝異形〟になったとは言えそうにない。

 私は今でも後悔はしていないけど、〝あさぎ〟くらいの歳の少女が下した決断に、あの人も嘆いてしまうだろうから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 他の学校の学生たちや、サラリーマンら社会人たちが行きかう通学ルートを進んでいくと、リディアン高等科の校門に到着。

 

「アーヤ!」

 

 して間もなく、私を呼びかける声が一つ。

 

「おはよう」

 

 呼びかけてた子も含めた三人の女の子に、挨拶を返し、雑談しながら校舎へと歩いて行く。

 彼女らは、響に未来と同じく、リディアンに編入してからできた級友(クラスメイト)たちである。

 最初に私を『アーヤ』とあだ名で呼んだ黒鉄色のショートカットで、三人の中では一番背の高い(私にとっては丁度いい高さな)ボーイッシュ風の子は安藤創世(あんどうくりよ)、下の名は『そうせい』と書いて『くりよ』と呼ぶ。

 自身変わった名の持ち主な為か、親しい間柄な相手にあだ名を付ける癖があり、響は『ビッキー』、未来は苗字の小日向から抜き取って『ヒナ』と呼んでいる。

 

 

「草凪さん、今日の放課後、立花さんたちとも一緒にふらわーに行きませんか?」

 

 前髪が切り揃えられた淡い金色の長髪で、おっとりとした雰囲気と、それに違わない柔らかな口調の女の子がこう尋ねてくる。

 彼女は寺島詩織(てらしましおり)、苗字は『てらじま』ではなく『てらしま』だ。

 趣味はグルメ巡りと言う一面もあり、編入してからと言うもの、休日は彼女の誘いを受けて街を周りながら食べ歩くことが多くなった。運動はしている方なので、いわゆる〝女の子の悩み〟とは今のところ無縁である。

 

「ごめん……今日ちょっと用事が入ってて、来れそうにないんだ」

「そうですか、残念です」

 

 ふらわーともなれば、いつもなら行かない手はないのだが……生憎今日は〝二課本部〟に行かなければならない用事があり、一昨日と同様に夜遅くまで帰れないかもしれないので、とても誘いに乗るわけにはいかない。

 当たり前だが、本当のことを話すわけにもいかないので、それらしい断りの理由を述べておく。

 内容は、最近知り合った地元の幼児向け音楽教室の先生から助っ人に呼ばれたってことで、実際何度か本当にあったことだし、疑われることはないだろう。

 

「どこまでアニメキャラ的属性秘めてんのあんた?」

「そんなもの持っている覚えはないのだが?」

「自覚がないだけで、アニオタなアタシからすれば、見てくれだけでも黒髪ロング、高身長、隠れ巨乳及び中学卒業したての高一離れしたスタイルに黒ニーソの絶対領域、中性的口調にアメリカ人のクォーターに帰国子女に抜群の歌唱力と、ク○イマックスフォーム並みにてんこもりなのよ」

 

 ビシビシっとした感じもある、アニメ(一部特撮込み)を比喩表現に使った少しキレのある言い回しが特徴的な、茶色がかった長髪をツインテールで纏めている少女は、板場弓美(いたばゆみ)。

 ご覧のとおり、筋金入りのアニメ、アニメソングマニアであり、カラオケに行けば歌うのは全曲アニソン、リディアンに入ったのもアニソンを修められると思ったからが理由。

 残念なことに………そんなピンポイントな学科も授業もリディアンにはなく、それを知った当時の彼女は相当ショックを受けていたのだが、それでもめげずに〝アニソン同好会〟を開くのが、今の彼女の学生生活における目標となっている。

 

 

「藍おばさんにもよろしく伝えておいてくれ」

「分かった、じゃあまた今度ってことで」

「ああ」

 

 三人及び響と未来は三者三様、異なる容姿、性格、個性の持ち主なのだが、それでも年相応な見た目をしており、私はそれが羨ましくもあり、コンプレックスでもある。

 弓美の言う通り、高校一年生離れしたこの容姿のせいで、彼女らと同い年に見られることはほとんどない………休日一緒に街を出歩けば大抵〝先輩〟と間違わられてしまい、そのパターンは高校生活ひと月目ですっかり定着してしまっており、それに出くわす度私は、『私も高校一年生です!』と思いっきり叫びたくなってしまうのだった。

 男女含め、他者からは〝恵み〟かもしれないが、現在の私にとっては〝呪い〟である。

 いくら周りから〝綺麗〟と讃えられても、可愛げのないの私の見てくれは〝可愛い〟とは程遠いものなのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 放課後、そろそろ五月に入る目前な春の夕陽が律唱市を照らす時間帯。

 

「はぁ………」

 

 教科書にノート、学習用具一式を鞄に入れながら、響は一人ごちた。

 せっかく創世たちがふらわーに行かないかと誘ってくれたのに……いつもなら喜んで乗り、遠慮なくおばさんに大盛りのお好み焼きを頼んでいたのだが………今日二課の本部にまた行かなければならない用事の都合上、申し訳なさを押し込めて断らざるを得なかった。

 

 

「私、呪われてるかも……」

 

〝また先生からの呼び出し〟と解釈してくれたので納得してくれたけど、親友兼同居人の未来にはどう説明するべきか、響にとって一番骨の折れる試練であった。

 

「はぁ………って、朱音ちゃん」

 

 盛大に二度目の溜息を吐いて教室から出てきた響は、廊下の壁に背を預けていた朱音の存在に気づいた。

 どうも、響を待っていた様子………窓から見える夕焼けに負けず劣らず、その佇まいは響の主観から見ても、美術の教科書で見る絵画のようで綺麗だった。

 本人は気にしてるから口には出せないけど、やっぱり時々、彼女が自分や未来たち同い年であることを忘れてしまう。

 

 

【挿絵表示】

 

 

「また先生から呼び出しを受けたのかな? 〝響君〟」

 

 朱音が翡翠色の目を猫っぽく細め、〝君付け〟して微笑む時は、からかおうとしているサインだ。

 

「そうじゃないってこと知ってるくせに、いじわる」

「うふふ、ごめん」

「でも、ありがとう」

 

 彼女のちょっとした冗談のお蔭で、教室を出るまでは溜息だらけだった響の現在の気分も少し快方に向かった。

 

「じゃあ行こうか」

「う、うん」

 

 ガラスから降り注ぐ夕陽の薄明光線に照らされた廊下を、朱音に先導される形で響は歩を進めていく。

 一年のフロアを抜けると、朱音が急に立ち止まった。

 

「どうしたの……あ……」

 

 前方より、正面から向かい合う形で来ていたであろう風鳴翼が、二人を見据えていた。

 少し驚いた表情(かおつき)を浮かべているところから、二人を二課に連れていくべく教室に向かっている途中で鉢合わせたらしい。

 

「………ついて来て」

 

 直ぐに素っ気ない無表情に戻った翼は、背中を向けて中央棟の方面へと歩き出し、続く形で響たちも横並びで歩き出す。

 三人の足音以外は、ほとんど無音な廊下………心なしか、さっきより廊下の空気が重くなったような気が響に押し寄せる。

 一昨日も味わった味わったあの〝沈黙〟………やっぱり苦手だと再認識させられた。

 

〝あ……朱音ちゃん?〟

 

 かと言ってこの沈黙を破れるだけの勇気も出せない中、響のまるまるとした瞳は、隣にいる朱音の横顔に釘づけになる。

 

 翼を見つめているらしい朱音の翡翠色の目は、眩しい外の暁と、それに負けないさっきの微笑みと正反対に――〝悲しく曇って〟――いた。

 

 しかし〝この時〟の響は、全くと言っていいほど、朱音のその横顔の意味を理解できてはいなかった。

 

「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーー!」

 

 

 おまけに、朱音に気を取られるが余り、すっかり例のエレベーターの加速の猛威を忘れていた彼女は、不意撃ち同然に二度目の洗礼を受けて、淀み気味だった心情を吹き飛ばす勢いで絶叫を響かせてしまったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 フリーウォールの如く超高速な二課本部行きのエレベーターを、これが二度目な響の悲鳴を聞きながら地下本部に着いた私たちは、次にメディカルルームらしい部屋に連れていかれた。

 

「それでは、お二人のメディカルチェックの結果発表~~♪」

 

 弦さんと、あの〝あったかいもの〟をどうぞしてくれたオペレーターの友里さんと、

彼女と同じ業務をこなす藤尭さんも同席している中、初対面の時と寸分違わぬテンションな櫻井了子博士が、一昨日の身体検査の結果を私たちに報告し始める。

 

「お二人とも、身体にはほぼ異常は見られず正常値でした~~~でも朱音ちゃんはともかく、響ちゃんが知りたいのはこういうことじゃないわよね」

「はい……あのシンフォギアって力のこと、もっと詳しく教えてください」

 

 響は一昨日の時点から聞きたくて仕方のなかった質問を、改めてぶつけた。

 

「その前に、まずは聖遺物の説明をしなければならない」

「せい……いぶつ?」

「聖なるの聖に、遺物と書いて聖遺物、要は世界各地の伝承に登場する、現代の科学力では再現できないオーバーテクノロジーの塊で、多くは遺跡から発掘されるんだけど、大抵は経年劣化が激しくて完全な形で残っているのはごく希でね」

 

 弦さんと風鳴翼がアイコンタクトを取ると、彼女は小型の集音マイクに似た多角系状の細長く水色なペンダントと私たちに見せる。

 それが〝正規のシンフォギア〟の非戦闘待機形態と言うわけか。

 

「翼の使うシンフォギア、第一号聖遺物――天羽々斬(あまのはばきり)も、元は砕けた刃のごく一部の欠片に過ぎない」

 

 そして風鳴翼のシンフォギアである《天羽々斬》は、スサノオノミコトがヤマタノオロチを退治した際に使ったと伝わる、神代三剣の内の一振りである。

 

「その欠片に残された力を増幅して解放させる唯一の鍵が、特定振幅の波動なの」

「とくていしんぷくの……はどう?」

「その鍵こそ〝歌〟、と言うわけですね?」

「そうだ、普段眠っている状態な聖遺物は、歌が持つ力――俺達は〝フォニックゲイン〟とも呼んでるんだが、そいつで呼び起こされる」

「そして、フォニックゲインで活性化された聖遺物のエネルギーを鎧の形で再構成したものが、アンチノイズプロテクター――シンフォギアなの」

 

 立体モニターからの視覚情報も交えながら、弦さんと櫻井博士の〝変身の原理とメカニズム〟の説明は、大方地球から教えられたものとほとんど変わりないものだったけど、おさらいと言うことで私も一言一句逃さず耳を傾けていた。

 知る、学ぶ上で〝予習と復習〟は絶対に欠かせない基本要素である。

 

「だからとて――」

 

 そんな中、弦さんたちの説明に割って入り込む形で。

 

「――どんな歌にも、誰の歌声にも、聖遺物を起動させる力が備わっているわけではない!」

 

 沈黙の姿勢でいた風鳴翼は、いきなり語気を強めに、意固地さも抱えた声色でそう言い放った。

 けど、彼女の発言も事実。

 

 

「翼の言う通り、誰もが聖遺物を起動させる歌声を持っているわけではなく、その数少ない歌声の主を、我々は〝適合者〟と呼んでいる」

 

 これは自分の推測だが、シンフォギアの開発は最低でも十三年前、ノイズの存在が国連から表明される前後辺りから始まっていた筈、にも拘わらず、特機二課に所属するシンフォギアの担い手は現在〝一人〟だけ、それだけギア――聖遺物の眠りを呼び覚ませる人間の数は極端に少ないと言うことだ。

 

「で、どう? あなたたちに目覚めた力について、少しはご理解いただけたかしら? 質問は大歓迎よ」

 

 私は感覚面でも、知識面でも大体は把握できているので遠慮しておく。

 ただ………私みたいに〝理解できている〟方がむしろ異常なのでもあり。

 

「あの――」

「はい♪ 響ちゃん!」

「――全然……分かりません」

 

 苦笑いながら正直にきっぱり〝分からなかった〟と正直に打ち明ける響の方が、普通なのである。

 

「でしょうね」

「だろうな」

「ごめんなさい……いきなりは難し過ぎた話だったわね」

 

 同席していた友里さんと藤尭さんも、同意を示す。

 

 

「つまり、現代科学を凌駕する力を秘めている聖遺物の武具の一部から作られたシンフォギアは、歌声でスイッチを入れることで鎧と武器に変換され、鎧はノイズの攻撃を防ぐ〝盾〟になり、武器はノイズを倒す〝矛〟になる―――と言うことですね」

 

 せめてものサポートで、私は博士たちの説明を要約して纏めておいた。

 

「そういうこと♪ そして聖遺物からシンフォギアを作り出す唯一の技術――〝櫻井理論〟の提唱者がこの私であることも覚えておいてね」

「はぁ……」

 

 やっぱり理解し切れてなさそうな雰囲気で、響は相槌を打つ、当然と言えば当然の反応、分からないと自覚できているだけでもありがたいことだ。

 

「響君、君に目覚めたシンフォギアについて話す前に、朱音君のギアの出自についてのことから、入っても構わないか?」

「はい、どうぞ」

 

 

 さて、前置きは終わって、いよいよ私にとっての本題が回ってくる。

 

「朱音君……君が今朝渡してくれた〝レポート〟を読ませてもらった上で、改めて聞く」

 

 一昨日のパーティー様式の歓迎よりは鳴りを潜めてはいるが、それでも日常で見る気さくな調子だった弦さんの態度から、一気に真剣味が強まった。

 同時に、宙から〝私が描いた絵〟が表示される。

 

「本当なのか? 君が前世では、異世界の地球の先史文明が生み出した〝生物兵器〟だったことは」

 

 その絵とは――私の前世の姿、即ちガメラの全身像。

 

「え?……えぇ?」

 

 モニターに移された絵と、思いもしなかった弦さんの質問と、その中に入っていた〝兵器〟の一単語によって、響は軽い混乱状態に陥ってしまっていた。

 

「はい、確かに私は、超古代文明が生み出したバイオキメラ――災いの影ギャオスに対抗する為に作られた………生物兵器(バイオウェポン)――〝ガメラ〟でした」

 

 

 私が……ガメラとしての自分を告白するのは、〝祖父〟に続いてこれが二度目である。

 

つづく。

 




原作ではギアの待機モードは共通デザインでしたが、それではちと味気ないと思って、ギアごとに色が違う設定(天ノ羽々斬は水色)になっております。

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