俺は日奈子さんに穂乃果たちを見に行くように言われ、今音ノ木坂学院の校舎の中を一人で歩いている。
そう…一人でだ!
ん?もう一回言おうか?
一人でだ!!
何を言いたいのかというと俺は今絶賛迷子中なのである。
さっきは斑鳩さんが道を知っていたためまっすぐ来れたが、今は一人ということで道をわからないでいる。
こんなとき誰か知り合いでもいてくれればなぁ…
なんて考えていると後ろから声がかかった。
「あれ翔人君やん。こんなとこでどーしたん?」
希さんだった。
のぞみさーん!
やっぱりあなたは頼りになる先輩だ!
俺が助けを求めているところに颯爽と駆けつけてくれるなんて…
惚れちゃいそうだ…
っと、返事を返さないとな。
「希さんじゃないですか。こんにちは。」
「もうっ。相変わらず他人行儀なのは変わらんなぁ~。」
「ははっ、まぁこういうのは慣れですからね。希さんと話す機会が多くなれば自然と普通の言葉遣いになると思いますよ。」
「ほな、期待しとくねっ。…そういえばやっぱり来てくれたんやね。」
そういえば希さんに穂乃果たちを見に行ってやってくれなんて言われたこともあったな…。
決して忘れていたわけではない。
「ええ、まぁ。そのために色々迷惑かけてる人がいたりして色々大変でしたけどね。」
ライブを見に行くために何度斑鳩さんに文句を言われたことか…。
思い出しただけで嫌になる。
まぁ絢瀬さんみたいなきれいな人とも知り合いになれたしイーブンってとこかな?
「まぁそんな小さいこときにしなくていいやんっ。穂乃果ちゃんたちも喜んでたやろ?」
「喜んでいたというよりはびっくりしていた、と言ったほうが正しいかもしれませんけどね。」
「ふふっ。確かにそうかもしれんね。…で今は何してるん?校内探索でもしてるの?」
ギクッ。
やっぱ希さんはエスパーなのだろうか。
校内探索なんて言いながらも顔は俺を見て笑っているように見える。
迷子になってるの絶対ばれてるだろ…。
「いえ、…ちょっとこの学校広くて迷子になっていたところです。」
この年で迷子って言うのも恥ずかしいので最後のほうは声が小さくなってしまった。
よく迷子になる癖直さなきゃな…。
「そうだったん?ほな、うちが案内してあげる♪どこに行きたいん?」
「えっと穂乃果たちのいる準備室に行きたいんですけど…。」
「穂乃果ちゃんたちのとこ?一回会ったんやなかったの?」
「一回あったんですけどそのあと理事長に挨拶に行ったんですよ。でも自分のマネージャーが理事長と話しっきりで自分がいてもすることなかったんで穂乃果たちにでも会いに行こうかなと。」
「マネージャー?翔人君ってもしかして有名人?」
あっ。
そういえば希さんは俺がアイドルやってること話してなかったんだっけ。
うーん、どうせ今度ライブやるときにばれるんだろうし、ここで話しちゃってもいいんだけど一応まだ秘密にしておいた方がいいかな。
「まぁその話は置いといて早く穂乃果たちの場所に案内してください。」
そう言って俺はわかりもしない道を少し早めに歩き始める。
「え?まだ話は終わっとらんよ~。」
やっぱりこういうときは強行突破だ。
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あの後、話の通り道を案内してもらった俺は今穂乃果たちの控室の前にいる。
そういえば、一瞬希さんにはばれるかも!と思ったが、なんとかばれなかったようだ。
最後、「次あったときは絶対教えてもらうからねー!」と言っていたので次にはばれてしまうと思うが…。
ともあれ俺は今ようやく穂乃果たちのいる部屋の前までやってきた。
コンコンッ。
着替えでもしてる最中に入ったら最悪だからな。
しっかりノックはしておく。
「どうぞ~。」
中からことりの声がしたので俺は部屋に入る。
「よっ!さっきぶりだな。」
「ひろ君!」
「ひー君!」
「翔人君!」
俺が部屋に入ると、3人が笑顔で出迎えてくれた。
「ひー君、お母さんとの話は終わったの?」
「あぁ終わったぞ。とは言っても話があったのは俺じゃなくて斑鳩さんの方なんだけどな。」
実際俺日奈子さんに何にも用なくて静かにしてたくらいだし…
「ひろ君!ことりちゃんのお母さんと何を話してたの?」
「それは私も気になっていました。翔人君のマネージャーさんが一体何の用事なのですか?」
今度は穂乃果と海未が聞いてくる。
まぁライブをやることを言ってもいいんだけど、こいつらのライブの前にそれを言うのも気が引けるな…。
とりあえずここはやり過ごすか!
「あぁ、今回俺が無理を言ってライブを見たいって頼んだからな。その謝罪みたいなもんだ。」
嘘は言っていない。
実際斑鳩さん最初日奈子さんに謝ってたし。
「なぜ翔人君がしたことをマネージャーさんが謝るんです?確かに迷惑をかけたかもしれませんが、マネージャーさん、もっと言うなら翔人君の事務所には関係ないのではないですか?…まさかとは思いますが先ほどのようなことがあったのに私たちに隠し事をしているのではないですよね?そういえば先ほどのマネージャーさんがいませんね。マネージャーさんは理事長になにか用事があってきたのではないのですか?」
ちょっと怖いよ海未さん…。
というか、察しが良すぎるよ海未さん…。
確かに隠し事はしてるけどさっきと違って今回は3人のことを思って言ってるんだ。
ライブ前にあんまり色々と考えさせたくないからな。
「さっきみたいなことがあって隠し事するわけないだろ…。俺はMじゃないから海未に殴られるのは一回で十分だ。あと斑鳩さんだが今は理事長と気が合ったとかで話し込んでる。俺がいても2人の話に入れないし、暇でしょうがないからここにきたんだ。…わかってくれたか海未?」
まぁ俺のライブの件は今度また言えばいいだろ。
今は3人のライブが大切だ。
「はい。わかりました。…ですが先ほどの言い方だとまるで私が殴るのが好きみたいな言い方じゃないですか!悪いのは翔人君なのですよ!」
そっち!?
そこを突っ込まれるとは思っていなかったぞ…。
まぁ海未も女性なんだし色々あるんだろ。
ここで言い争うのも時間の無駄だし謝っておくか。
「あぁ、すまん。別にそういう意味でいったんじゃないんだが…。不快な気持ちにさせたんなら謝るよ。ごめんな。」
そう言って頭を下げる俺。
やっぱここは素直であることをアピールしないとな。
「あ、頭を上げてください。別に謝ってもらいたかったわけではないですし。」
そう言っておどおどする海未。
「まぁまぁ2人ともそのくらいにしようよ。これからライブなんだしさっ。」
俺たちの姿をみて穂乃果が声をかけてきた。
こういうとき穂乃果はいいこと言うよな…。
「そうだな。それでもう準備はいいのか?」
「もっちろん!私たちはいつでもライブできるよ!…っていうかひろ君何か言うことないの?」
言うこと?
ここまでの話で穂乃果に言うことなんてあったか?
………わからん。
一体何なんだ?
と、考えているとことりが、
「ひー君!…その…私たちの衣装どうかな?私が作ったんだけど変なところないかな…?」
!
なるほど。衣装か。
そういえばことりが衣装を作るって話は聞いていたが実際に見たことはなかったな。
と思い、ことりの衣装をじっくり観察してみる。
…かわいい衣装だ。正直衣装に関しては素人な俺だから詳しいことはわからないが、すごい出来だと思う。
高校生の段階でここまでできるなら本当に衣装づくりのプロになれるかもしれない。
将来俺がアイドルを続けていたらことりに衣装を作ってもらおう。
うん、そうしよう。
なんてしばらく黙っていたのがことりには別の意味でとらえたのか、
「やっぱ変だよね…。」
なんて言ってきた。
「ちょ、ちょっと待てことり!変だから黙ってたんじゃなくて、見とれてたから黙ってたんだ。あまりにも可愛くてなんて言ったらいいか悩んでただけなんだ。将来俺がアイドル続けてたらことりに衣装お願いしたいなぁとか…」
「本当!?」
「あぁ本当だ。今までにことりに嘘ついたことあったか?」
「うん!わかってるよ。ひー君は嘘言わないもんね♪そっか~将来のひー君のための可愛い衣装か~。考えておかないとだね!」
元気になってくれたのはうれしいのだが可愛い衣装って…。
一応俺男だぞ…。
「ことり…、できれば可愛い衣装じゃなくてかっこいい衣装にしてくれ…。」
「え~。ひー君なら可愛い衣装でも似合うと思うのに~。…でもひー君がそういうならかっこいい衣装考えとくね♪」
是非そうしてください…。
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そんな感じで3人と話していたらそろそろライブの時間が近づいてきた。
「そろそろいい時間だな。…一つ俺から3人に伝えたいことがあるんだ。」
そう言って俺は真剣な顔で3人を見渡す。
「どーしたの?改まって。」
「穂乃果、ここは翔人君の話を聞きましょう。」
「ひー君が真剣な顔するときは大事な話のときだもんね。」
「そうだね!それで伝えたい事って何?」
3人が納得したところで俺は話始める。
「初めてのライブをする今だからこそ伝えたいことなんだが…。穂乃果、俺の初ライブのときを覚えてるか?」
「…うん、覚えてるよ。私とことりちゃんと海未ちゃんの3人だけだったよね。」
そう、俺の初ライブのときの観客は穂乃果たち3人だけだったのだ。
それほど珍しいことではない。
誰しも初ライブなんてものは観客が少ないはずだ。
その初ライブを乗り越えてさらに努力をするか、そこで諦めて挫折してしまうか大きな分かれ目でもある。
俺はそこで諦めず頑張ったから今の俺があると思っている。
そしてそこで諦めなかったのは穂乃果たち3人の影響が大きいと思っている。
もしあの場に3人がいなかったら俺は今アイドルをやっていなかったかもしれない。
それほどあの時の3人は俺に力を与えてくれたのだ。
だから今回は俺が3人に力を与える番だ。
「その通り、今となっては笑い話にできるかもしれないが、当時の俺にとっては結構辛かったんだ。あんなに頑張ったのに観客が3人だけだったんだからな。…でも3人いたんだ。俺があのときお前たち3人にどれほどの力をもらったかわかるか?それは言葉では表せないほどとてつもなく大きな力だったんだ。…俺は救われたんだ、あの時の3人に。」
「「「…。」」」
「だから今ここで言わせてくれ。…ありがとう!」
思い出してみれば俺は初ライブを見に来てくれた穂乃果たちにしっかりとお礼を言っていなかった。
我ながら恥ずかしい話だ。あんなに助けられたというのに…。
「ひろ君、私たちこそひろ君にありがとうを言いたいんだよ?メールでも言ったけど、もしひろ君が手伝ってくれなかったら今私たちはここにいられなかったと思う。だからありがとう!」
「「ありがとう(ございます)!」」
穂乃果がそういうとことりと海未も俺にお礼を言ってくる。
…全く、俺はお礼を言われる立場じゃないってのに。
でもここは素直にお礼を受け取っておくべきだろう。
「あぁ。」
たった一言ではあるが俺の気持ちは伝わったと思う。
きっと3人に。
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「じゃあ俺はそろそろ行くな。」
まだまだ話したい事はたくさんあるが、流石にライブ時間ぎりぎりまで穂乃果たちと話しているわけにもいかないのでそう提案する俺。
「分かった!私たちのライブ楽しみにしててね!」
「おう!」
そう言って俺は講堂へと足を進めるのであった。
次回第17話
「First Live:前」
お楽しみに~!