そうかこれがモチベーションって奴なのか
第7寝室を出て、廊下を歩く。
足で歩くとせっかくのアバターが汚れてしまうので、髪の触手を1束で2cmくらいになるように束ね、クモのように触手を床に降ろし、本体を器用に浮かしながら進んでいった。
数ある部屋をつなぐものなのだからこの廊下は特に力をいれてる。ここを眺めるだけで1時間はつぶせるわ。イオニア式を模した柱に豪華なアーチが垂れ下がり、赤色の絨毯、大理石の壁と私なりに贅をとことん凝らしたものになっている。柱の間には縦に3m、横に1mの上方が半円のステンドグラスがついているが、今は夜なのか全てカーテンで締め切られていた。まあ、また今度ゆっくり見ましょう。きっと窓の先には真っ赤なマグマがあるはずだわ。
42の寝室のうちのいくつかを通り過ぎ、階段を下がれば食卓はもうすぐ。ホールを抜け、いざ食堂に入ろうとすると後ろから声が聞こえた。
「あ、お母様おはよー」
「おはようございます、お母様」
振り向くと私の娘、ロマネとロココが立って手を振っていた。
伝統的なピンクのプリンセスドレスに身を包み。髪は金髪の縦巻ロール。明るくはきはき素直な子。ロマネ。
動きやすい過度な装飾のピンクのフォーマルドレスに身を包み。髪は白のロング。静かでしっかりもの。ロココ。
私が警戒していたのが嘘みたいに普通に接しているわね。
と、思っていると二人がこちらに来ようとしているのがわかった。
最初は普通に足で歩いていこうと思ったみたいだけど、私の姿を見て考えを変えたみたい。
二人は縦巻ロールとロングの髪を地面にたらし、触手を使ってややおぼつかない足取りで歩き始めた。
特にロマネは2本の触手だと上手く動けないみたいであたふたと転びそうになりながら来ている。
か…かわいい!
でもここで助けちゃだめよね。ちゃんと自分の力でやらないと身につかないわ。
ようやく来た二人の髪を優しくなでてあげる。カシャカシャと硬い音がした。
「ふぁ」とロココが声をあげるとそのまま抱きついてくる。双子の妹を意識してかロマネのほうも反対側から抱きついてきた。
よし、持って行きましょう。
二人を触手で包むとそのまま余った触手で食卓へ向かった。
もうこのまま刺されても安らかに眠れるわ。
________________________________________________________
食卓は家の顔。という自論のもとゴッズクラスやレジェンドクラスの食器やシャンデリアを使っている。最悪皿を投げれば何とかなるのだ。1500人が攻めてきたときなんて入ってきた数人の侵入者は全方向皿照射だけで撃退できたんだから。
食卓はいくつかのテーブルと正面のステージで構成されており、真ん中の小さなテーブルの上に3つのセーブル焼の器とその端に小さな鏡が乗せられていた。ステージの真正面を中心に三角形になるように配置されており、親子で気軽に話しかけられるようにという、執事のこと細やかな配慮が見え隠れした。
娘たちをテーブルに座らせた後、手鏡を手にして呟く。
「着いたわ、夕食の用意をしなさい」
するとテーブルの隅にあった鏡から執事…シフォン・カロザースが瞬時に出てきた。光り輝くモーションはない。
彼は私が考えた最高の執事として創っている。ミラーオブデーモンを主軸にアサシン、マスターアサシン、ニンジャ、トウリョウと隠密系特化で構成した、レベル90の高レベルNPCだ。
ちなみに娘たちはギルドのNPC製作システムを使ったわけではないのだけど、そこはまた今度にしましょう。
「お待たせいたしました、それでは今夜の夕食でございます。」
鏡から大きな鍋が載せられている台車を引っ張り出す。失礼しますと断った後、私の前にあるセーブル焼の器を持ち上げ鍋の中にある何かを注いだ。
えー、ここにあるのは水とスプーン、それにナプキンだけ。一体何が来るの。
「第七階層で採れた最高級の…マグマでございます」
そう来たか…
セーブル焼の豪華な装飾を凝らした素晴らしい青色の磁器の中に入ったマグマ。
これを飲めというの?
確かに私と子供たちは種族、竜血樹によって火に対する完全吸収体質を持っている。マグマに含まれる豊富な栄養素を考えれば合理的なのね。よく見るとマグマの中に赤く溶けた鉄も入っている。そう、鉄分も豊富に含まれているのね…健康食品なのね…
「それでは私は舞台の準備をしてまいります。ごゆっくりお楽しみください」
そういうとまた瞬時に消えてしまった。
これを飲めというの?
「いただきまーす」「いただきます…」
二人はそういうと私のほうを向く。待ってくれているのね。
「いただきます」
覚悟を決めてスプーンをマグマに入れる。ジュワっとスプーン表面の水分が音を立てて蒸発する。掬い取ってみるとマグマが気泡を含んで弾けているのが見て取れた。完璧な作法にのっとり口に流し込んでみる。あ、おいしい。飲んだことの無い味だけど、こういうのを珍味っていうのかしら。適度にあったかい粘り気のあるスープで、それでいて飲みやすい。お金は持ってるのに珍味は絶滅してるからこういうの食べたこと無かったわ。
「ねぇお母様」ロマネがかわいらしい顔をこっちに向けて話しかけてきた。
「睡眠時間がたったの一年て短すぎない?」
ああ、ドライアード的に一年はそういう時間なのね。私が寝てたと思っているみたいだから話は合わせておきましょう
「ええ、なにやらおかしなことが起こっているみたいだから、つい起きてしまったわ」
何か心当たりある?と聞いてみるとロココが口を開いた。
「そういえばモモンガ様が守護者を第六階層の闘技場に集めているって紅蓮が言ってたわ」
なるほど、モモンガがいるのね。あとで行ってみましょう。そういえば二人を運んでいるときにメッセージのようなものが届いていたわね。
「少し待っていなさい」行儀は悪いけど背に腹は代えられない。
『モモンガ?聞こえてる?』
『あ!ニンフルサグさん!』
『何か大変なことが起こっているわね。ゲームがまるで現実になったみたい。私は今第七階層の豪邸で娘たちと夕食をとっているけれど、モモンガはなにしてる?』
『ええ…俺は闘技場で魔法の実験をしています。守護者全員集めてるんで顔合わせが終わったら情報交換しましょう。たぶん後20分くらいで集まると思います』
『わかったわ。間に合うかどうかは分からないけど、行くわ。それと私は一年間眠ってたということで話を通すわ』
『了解しました。じゃあ、またあとで!』
プツンと回線が切れるような感覚がした。とってもうれしそうだったわね。ちょっとそっけなかったところは後で謝っておきましょう。
「終わったわ。食べ終わったら闘技場に行くことになったけど二人は行く?」
「いくいく!」「行くわ」
「よかったわ。それじゃあまだ20分あるみたいだから軽く談笑でもしましょ」
そこから娘たちとおしゃべりをした。それはとても他愛の無い話、けれど、ドライアード初心者の私には重要な話。
ドライアードにとって時間の感覚は日が変わること位しかないことがわかった、そこで砂時計を出してあとどれくらい時間があるかわかるようにしたわ。これなら細かすぎる針よりも分かりやすくていいわね。月光でも日光でも栄養が補えること、土に立っても養分を取れること。動物も取り込んで食べれること。食べすぎると太ってしまうことも分かった。
10分くらい過ぎただろうか。もう器の中のマグマも飲み干して水分補給をしていると、舞台の上から執事のシフォンが登場した。
「お待たせしました。本日の演目は『物質主義』でございます。お手数ではございますが、幻術を使う場面があるため精神支配耐性の装備はあらかじめ外して置くようにお願いいたします」
何が始まるのかしら、と内心わくわくしつつ指輪を外す、娘たちもそれぞれの指輪を外し、テーブルの上に置いた。
「たのしみだわ、本当に、本当に楽しみだわ」ロココはどこか焦点のあっていない目をしながら言った。
食卓が暗転し、舞台にスポットライトが当たる。
________________________________________________________
そこには一人の男が立っていた。人間だ。娯楽用に配置したのをすっかり忘れていた。
「主よ!」男は叫ぶ。
「わたしがあなたと論じ争うとき、あなたは、常に正しい。」
「しかしなお、わたしは、あなたの前に、さばきのことを論じてみたい。」
「悪人の道がさかえ、不信実な者が、みな繁栄するのは、なにゆえですか」
すると黒い羽衣のような一枚布しか着ていない、背中に黒い羽を生やした銀の髪の女性が出てきた。
「あなたって本当にばぁかねぇ」ととてもけだるげな口調で喋っていく。
「主、とかいうよく分からない存在よりまず自分に問いかけなさい」
「思案は己をまどわせるぅ、あれもなーいこれもなーいて考えるうちにぃ」
「問題は実体をもって襲ってくるの」
男はうろたえ、セルキーを指差して叫ぶ。どうも演技じゃ無くて精神系の魔法で操っているみたいね。
「な、何者だお前は、我が主の前ではお前など無力なり、早急に立ち去るがいい」
キャハハとセルキーは腹を抱えて笑い出した。
「キャーこわいわぁ、でも帰らなーい。それで主の裁きとやらは来るのぉ」
「来る訳が無いわよねぇ。だってそれが自然だもん」
「違う!」
男はセルキーに向って殴りかかる、しかし殴られたセルキーは徐々に実体を消していき意地の悪い笑みと共に消えてしまった。
「何かを否定するってことは、その何かの存在を肯定しているってことなの」
男の背中に猫背で寄っ掛るように現れたセルキーは右手で口紅をつけながらそう言った。
「ただ言うだけじゃ、問題は力を増す、なら動くしかない」
セルキーは口紅をしまうとヘッドバンキングの要領で男に頭突きを食らわせた。
「あぐ」鈍い音と共に男が倒れこむと、セルキーはすかさず足で背中を押さえつけた。
さらに左手で男の髪を引っ張り、耳を口元までむりやり持っていった。
「私は主の裁きとやらが怖い。ならあなたを殺してそれを克服するとしましょう」
男の髪を手放すと背中を押さえつけたまま、自分の背筋を整え左手を翳す、すると彼女の身長ほどはある大きな鎌が現れた。
右手で男の右手を持ち、逆手で鎌を持ちながら男の脇に入れる。ちょうど上に上げればそのまますっぱりと切断できる位置だ。
「宴会を愉快にするためには血を流さなければならない」
グシャ
余りにもあっさり起こった行為に不思議と愉悦のようなものを感じた。けれどそんなことはお構いなしに変化が訪れた。
切り取られた腕が黄金へと変わった。滴り落ちる血は金貨へと変わり地面に転がった。
「あ!俺の血!俺の金貨が!」
「さあ!それではこの腕を食べたいという方はございませんか!」
「はいはいはーい!」
ロマネが勢いよく手をあげた。かわいい。ロココにはまた今度食べさせてあげましょう。
「太らないようにね」と声をかけると「うっ」というばつの悪そうな返事が返ってきた。
ロマネは一度舞台に上がりセルキーに腕をもらう。すると瞬間、黄金の腕は普通の腕にもどった。
「くすくす」
ロマネは男の前でこれ見よがしに腕にかじりついた。くちゃくちゃとわざとらしく音を立てながら。横顔しか見えなかったけどその顔はとてもご満悦だった。うんいい顔ね。でもそのまま食レポすればもっと良くなるわ。
ロマネが戻った後、セルキーは盛大に鎌を振り回し、何度も何度も男に突き立てた。
「ぐ…がっ」
そこから数分
その血しぶきも全て金貨に変わりやがて全身が金塊になるまで続いた。悲鳴はサイレンスの魔法で聞こえなかった。
「あなたの考えは正しいわぁ。なんていったってこんなにお金持ちになったのですもの」
最後にセルキーは手一杯の金貨を掲げ、そのまま撒き散らした
舞台は終わったみたいね
舞台が暗くなり、3人の拍手の中で幕が降りた。
なかなか楽しい劇だったわね。それに私たちが倫理の外にいるということも分かった。罪を犯してないのは自慢だったんだけど、まあ、しかたないわね。血だらけになっていたロマネの顔を拭いてやり、服もアイテムで綺麗にした。
少しすると、シフォンが鏡から出て、ゆっくりとお辞儀をする。
「それでは皆様楽しんでいただけましたでしょうか。そろそろお時間でございます。」
砂時計を見るともうほとんど砂が落ちきっていた。
そうね。そろそろ時間ね。指輪を付け直してから娘たちに声をかけた。
「ええ、それじゃあ行きましょ」
「はーい」二人とも素直に応えた。
さて守護者たちはどんな子達なのかしら?
とりあえず娘たちの地位を確立しないといけないわね
二人の手をしっかり握り指輪の力を起動した。
ダイナミック規制金貨
デミえもん「セルキー君私の部下にならないか?」
ちなみにセルキーは50lvのシモベであの家に20体ほどいます
セルキー本人は台本に沿っているだけで賢いわけではありません