始まりはただ、ほんの小さな約束だった。
幼い紫の幼女が白銀の少年に、初めての恋をした事がきっかけの本当に小さな約束。
何処にでもあるような、有り触れた物語の始まり。
「大きくなったら、お兄ちゃんのおよめさんになる」。
紫の幼女は無邪気な笑顔で少年に言った。
少年は微笑んで頷く。
「君がその時まで俺のことを覚えていたら、きっと、迎えに行くよ」
そう言った少年から、幼女はロケットペンダントを渡された。
少年はこの時は別に、幼女の言った言葉を本気にはしていなかったが、自分に懐いてくれている事だけは解っていたので、せめての思い出として、ロケットペンダントを幼女に譲ったのだ。
幼女はそれを大事そうに小さな両手で包み込むと、「ありがとう」と笑う。
それが、最後に交わした、幼女と少年の何処にでもあるような約束。
その約束は、紆余曲折の末に遠い未來で果たされる事になる。
長い長い旅の終着点にあるのは──。
第1話
月が南の空に高く昇って、町中が寝静まった夜中の英国の町の外れに二つの影が走る。
一人は、まるで何かを嘲笑っているかの様な怪人の様に不気味な笑みを湛えた白い仮面を付けている人物。
もう一方は、黒猫の仮面を付けた、白い仮面の人物よりも少し背が低めの人物だ。
何れも長髪で、その色は闇に融けている。
「・・・・・・
声からして、少年であろうか。
白い仮面を付けている人物は誰かを追っている様で、隣を走る、璃王、と呼んだ人物に短く命じた。
彼は、その静かな声を聞き漏らす事もなく頷くと、少年の隣から融ける様に左手の小道へと消えて行った。
それを見届けて、少年は仮面の下の口元に笑みを浮かべる。
バーカ、と小さく声が漏れた。
その声は、追い掛けている
夜の路地裏に少年の軽やかな足音が不気味かつ不吉に響いて、消え失せた。
*L
黒猫の仮面を着けた人物は、左側から
壁を一つ挟んだ隣には、恐らく
この辺りの地理は全て把握している。 次の角を曲がれば、
彼は、視界に見えてきた十字路を右に曲がって、
狭い路地裏で、前も後ろも囲まれた
「い・・・・・・行き止まり!?」
突然、目の前に壁が立ち塞がり、
そう、逃げ回っていたと思っていたが、
静かな足音を立て、二人の
「
全く。 お前の可愛い可愛い駄犬共は諦めてお縄に掛かってくれたってのに、お前だけは逃げようとするんだからな。
質が
逃げ切れない事が解った黒い仮面の人物は、ゆっくりと
その事を軽く非難する、黒い仮面の人物。
「さぁ、吐け。 貴様らの悪事を全て」
仮面越しに彼は
その殺気に
まるで、蛇に睨まれた蛙の様に恐怖し、身動きが取れない。
遥か数千億光年の宇宙の彼方に投げ出されたかの様な恐怖が体を支配した。
――これが、
噂に聞いていた目の前の死宣告者は、噂以上に恐ろしい、と生唾を呑み込んだ。
「別の事を考えているとは・・・・・・そんな余裕があるなら、自分の命の事を考えるんだな。
オレは、その脂肪の詰まった腹に大きめのピアスホールを開けて欲しいのか、と訊いている」
冷たく低い声と共に、
張り裂けそうなスーツ越しにでも、
この状況で心を読まれて、恐怖を感じない筈がない。
「まず、イーストエンドでの事件だが・・・・・・あの夜、貴様はアリバイがない」
「・・・・・・」
「・・・・・・なら、ホワイトチャペルでの変死事件。
狙われているのはどれも、20前後の女だ。
この事件の当夜も貴様のアリバイはない。 それに関する関係は?」
「・・・・・・」
質問する度に
痛みは感じている様で、その醜い顔を歪めて、苦痛に耐えている様だ。
いつまでも答えない
諦めてくれたのだと思って、
その次の瞬間だった。
「いっ!?」
一瞬の間で何が起きたのか解らない
何が起きたのかは解らないが、ただあった事をそのまま説明するなら、目の前を風が横切って、その次の瞬間に耳に激痛が走ったのだ。
それは、紛れもなく自分の血液だった。
それを見た
「次は脳天行くからな」
「ひっ! わっ! 解った!
話す! 話せば良いんだろう!」
血の付いた
低い声が死の宣告の様に聞こえたのだ。
叫ぶ様な
「お・・・・・・俺達は・・・・・・ただのヒキニートのコレクターだった・・・・・・。
19にもなってロクに仕事も就かず、趣味に没頭していたら親から追い出され、シェアハウスで仲間と暮らしてた・・・・・・」
やっと観念した
その仮面の下の表情は、呆気に取られたような拍子抜けしたような顔をしていて、二人は互いが同じ様な表情を浮かべているであろう事が手に取るように解った。
それもそうだ。 二人は今まで、
その顔で19? 年齢詐欺も良い所だろうが。
二人は同じ事を思ったが、何も言わず話の続きを聞いていた。
どうせ、下らない理由だろうが、話は聞かないといけない。 聞きたくもない話だろうが、関係なしに。
「そんな時、多額のアルバイトで麻薬の密売の広告を見つけて、それから
俺達がやっていたのは、麻薬の密売と人身売買の仲介役だけで・・・・・・っ!
どうせ、お前らも同じなんだろ? だから、裏社会に燻ってんだろ!?」
「最期に母さんのフィッシュアンドチップスが食べたかった・・・・・・!」と
その顔は青ざめて、顔には汗を大量に浮かべている。
最後の言葉を聞いた
自分よりも年上の青年がマザコン発言したのだ、当然と言えば当然であろう。
それまで黙っていた少年は、「そうか」と呟いて、バイオリンを取り出して、弾き始めた。
狭い路地裏に、バイオリンの音色が響く。
「月は諸行無常 常に移ろい
輪廻転生の星 幾千の夜を生まれ変わり
終わらない夜を幾度と繰り返す――」
少年の歌声がバイオリンのメロディーと共に流れる。 少年の声に
気絶した事を確認すると少年は狼煙を上げて、壁に大きく文字を書いた。
そして、二人の死宣告者は闇に紛れてその場を離れた。
@使用した歌詞
夜空詩(よぞらうた)
3月29日(水)
内容を少し変更。