3月29日(水)
手直し完了。
第1話
「―――は? 今、何と?」
「スミマセン、公爵。
どうやらオレの耳は今日、日曜日の様デス」
朝になって目が覚めたらまず、2人は執務室に行き、ボスであるグレア・ファブレットに会って、本日の任務についての話を聞く。 2人の一日は、そこから始まる。
今日も同じように、デスク越しに向かい合った白銀の髪にインディゴの瞳の男性――グレア・ファブレットに本日の任務の内容を聞きに来たのだが、グレアから放たれた任務の内容に、璃王と弥王は目を点にするのであった。
「――聞こえなかったのか?
今夜の任務は、ウルド・グランツの暗殺だ」
グレアは、話を聞き返した2人の少年に眉根を少し寄せて、先に言った任務の内容を伝える。
しかし、2人が聞き返したのは、そこじゃない。 その後の内容だ。
「いや、内容は解っている。
問題はその後だ。 何と言った?」
「? 「その際、神南と神谷には女装で夜会に潜入してもらう」と言ったが?」
デスクに身を乗り出し、問い詰めるかの様にグレアに詰め寄った璃王に、グレアは眉一つ動かさない涼しげな顔で、しれっととんでもない発言をした。
グレアの言葉を聞いた弥王と璃王の顔面が蒼白になる。
それもそうだ。 何だって、自分たちが女装なんてして夜会に潜り込まなきゃならないんだ。
「夜会」と言うだけでもイヤなのに。
「嫌だっ!」
弥王と璃王は、タイミングを合わせたかの様な綺麗な動作で机を叩き、声を揃えた。
任務を拒否された事よりも、その揃っていた言葉と行動にグレアは感心する。 お前らは一卵性の双子なのか、と。
一卵性の双子は、無意識の内に行動がシンクロするらしい。 当然、弥王と璃王は双子所か、兄弟ですらないのだが。
「女装任務なら、公爵がして逝け」
璃王は、険悪な表情を浮かべて、グレアに言った。
中性的で童顔なグレアは、「女です」と言われても全く違和感はない。 自分よりも、公爵が女装すれば良いじゃないか。
だが、璃王の反論など聞いていないかの様に、グレアは悠然とティーカップに口を付けた。
「神谷」
「何だよ?」
「お前・・・・・・」
不意に名前を呼ばれ、狼狽しながらも璃王は返事をする。
声の低さから、グレアを怒らせただろうか。 グレアを怒らせれば面倒くさい事になる事は、璃王と弥王は把握済みだ。
狼狽える璃王を尻目にグレアは立ち上がって、璃王に歩み寄ると、手を伸ばす。
璃王は一歩、後退った。
不意にそんな言葉が浮かんできた。
「丁度良いぐらいにチビだな。 しかも、女顔だし」
グレアの手が璃王の頭にポン、と乗せられた。 「チビ」と言われた璃王は、不快な顔を露わにする。
自分の頭を撫でるグレアからすれば、確かに璃王はチビだろう。
璃王の目線は、見上げないとグレアの顔が見えないのだから。
グレアと璃王のやり取りを横目に弥王は顔を背けてククク、と声を押し殺して笑いを堪えている。
そんな弥王の肩を掴んで、グレアは弥王を振り向かせると、弥王の頬に手を添えた。
「神南は・・・・・・」
「へ?」
突然のグレアの行動に弥王は呆気に取られて、グレアを見上げながらポカン、と呆然とした表情を浮かべる。
何気に顔が近い気がするが、この際は黙っておこう。
「本当に女みたいだからな。
髪上げて、ドレス着て笑っていれば、完璧だな」
近くで見る弥王の顔は、確かに女顔だ。 むしろ、これで男だと言われると、性同一性障害でも疑ってしまう。
それ程までに、弥王は女に近い顔をしていた。
グレアの言葉を聞いた弥王はたっぷり5秒は固まった。
ピシッ、と何かに亀裂が入る音が聞こえた気がする。
「絶っっっっ対に嫌だぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああっ!」
亀裂が入った次の瞬間には、弥王の口からはけたたましい絶叫が迸って、
*
あれから、8時間が経過した。
結局、弥王と璃王は説き伏せられて・・・・・・と言うか、報酬を値上げしてもらう事で渋々、承諾した。
流石に、14歳の少年達に「何か好きなモノを買ってやろう」と言うのは効かず、報酬で釣るしかなかったというのは、自分でも呆れてしまいそうになった。
そんな訳でグレアは今、弥王と璃王の準備が終わるのを待っていた。
扉が開けられるのを背後に感じて、その後で「公爵」と、短く呼ばれた。
「準備出来たのか、神な――っ!?」
掛けてきた声が誰のモノなのか、振り向かなくても解るグレアは、振り向き様に言葉を投げかけて、息を呑んだ。
目の前に居る人物にグレアは目を見開く。
目の前に居るのは、確かに弥王の筈だ。 声を聞き間違える筈がない。
一瞬感じた既視感に、グレアは目を見開いた。
体のラインにピッタリと密着している淡い紫色のマーメイドドレスを着ている弥王は、何処から見ても女だった。
それ自体は全く問題はないのだが、問題は、その弥王が「あの少女」に似ている、という事だ。
一瞬でも、弥王が「あの時の少女」に見えてしまって、グレアは目を閉じた。
いや、そんな筈はない。 ただの他人の空似だろう。
グレアは言い聞かせると、弥王に歩み寄った。
「お前、その格好・・・・・・」
女装しているのだから、何処からどう見ても女に見えるのは当然だが、それにしても違和感がなさ過ぎる。
グレアは、弥王に問うた。
「あぁ、
初めは、メロンパンでも詰めようと思ったんだけどな」
不思議そうに自分を見てくるグレアに苦笑しながら、弥王は「シリコンだよ」と肩を竦めた。
弥王曰く、「ダメダメ! 体の曲線美を晒さないと、グランツ誘惑できなくってよ!?」と仕立屋であるレイナ・バートンに捲し立てられたらしい。
その説明にグレアは納得した。
「待たせたな」
弥王とグレアが話している所に、やっと準備が終わったらしい、璃王が執務室に入ってきた。
執務室に入ってきた璃王は、白いモスリンを沢山あしらった、青いプリンセスドレスを着用していて、髪は右側で結われ、巻き上げられている。
「クソ・・・・・・っ!
余程遊ばれたらしく、ご立腹の璃王は、そんな事を毒づきながら、弥王の隣に立った。
ルカちゃん人形とは、昔から小さい子供に親しまれている着せ替え人形の事である。
少し前までは風化の一途を辿っていたが、最近ではカラーバリエーションや機能が増え、またその人気を急上昇させつつある商品だ。
ルカちゃんはともかく、璃王は屈辱的な姿を強制された羞恥から、顔を真っ赤にしてグレアを睨み上げた。
「――で? オレ達にこんな格好させたの、ちゃんと理由はあるんだろうな?」
「大した理由もないなら、殺すからな」グレアを睨み上げている璃王の目が、そう呟いていた。
「理由?そんなの・・・・・・」と言いかけて、グレアは停止した。
あれ、そう言えば何で女装させたんだっけ?
今思えば、夜会に潜入させるんじゃなくても、屋敷に侵入させて暗殺させても良いワケで。 それでは、弥王と璃王に女装させる意味が無くなってしまう。
まさか今更、「やっぱ変装しなくて良いや」などと言えば、二人から殺されてしまいそうだ。
そんな事を考えているグレアを余所に、弥王と璃王が「そんなの?」と声を揃える。
グレアは口を閉ざして、口実を探した。
「そんなの、アレだ。 グランツは守備範囲バリ広の女好きだからな。 お前らが女装して奴に近付けば警戒しないだろうし、寧ろ、奴の懐に容易く入り込めるだろうから、殺るには打って付けじゃないだろうか。
寝室に忍び込むよりはリスクも少なくて済むし、何より、無防備の所を奇襲できるだろ、だから・・・・・・」
一瞬黙った後で、言い訳の様につらつらと口実を並べ始めるグレアに、弥王と璃王は「今考えたな、コイツ・・・・・・」と同じ事を思った。
今すぐにコイツをエベレストで命綱無しのバンジージャンプさせたい、とも思った。
と言うか、こんなボスで大丈夫か?
【挿絵表示】
年齢:13歳(現時点)
誕生日:12月24日
星座:山羊座
血液型:O型
身長:175cm
体重:57kg
出身国:イタリア
趣味:歌う、バイオリン、読書、射撃、銃の手入れ・コレクション
特技:中・遠距離戦
好きなモノ:野菜、甘味、ココア、銃、子供、可愛い子
嫌いなモノ:肉、脂っこいモノ、雷
異名:
武器:メイン→バイオリン(滅多に使わない)
サブ→銃
英国女王直属特殊警察「
最強の死宣告者で、その実力は百戦錬磨の将軍10人分に匹敵する程、らしい。
彼の姿を見た者は99%の確率で死に、運良く生き残ったとしても、魅せられる悪夢に苛まれる為、死んだ方がマシだとか。
神谷璃王とは幼馴染みで、2人で「風神(ウィンディ・ゴッド)」と呼ばれる事も。
自他共に認める菜食主義者で、野菜と果物と穀類と菓子類以外は人間の食べ物じゃない、と豪語している。
「女子にゲロ甘い女尊野郎」とは、彼の事だ。
女誑しの度合いは、自分の上司であるグレア・ファブレットと匹敵するかも知れない。
剣技は最悪の腕前だが、銃を持てば殆ど最強。