真剣で私に恋しなさい! ~Junk Student~   作:りせっと

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IFストーリー
番外編「もしもくによしあかりがくきじゅうしゃぶたいだったらー」


 祖父が死んだ…………ジイさんが死んだ…………国吉日向が死んだ…………

 

 国吉灯はとても信じられなかった。信じたくはなかった。だが事実だ。自分を育ててくれた祖父はこの世を去っていった。

 

 病室で弱った祖父を見た時、何かの冗談だと思ったのは覚えている。

 

 

 

――――何に似合わない顔をしているんだ小僧

 

 

 

 そう言われてベットに伏しながらも力強い笑みを浮かべた日向に対して(この糞ジジィが……ッ!)と思いながらも、心底安心したのも記憶に新しい。

 

 

 

 

 

 だが灯が望んだ結果は訪れなかった。結局祖父は病に負け、二度とベットから起き上がることはなかったのだ。

 

 

 

――――祖父に一度も勝てなかった……勝ち逃げされた……

 

 

 

 病室で騒いで医者や看護師に止められたことなど覚えていない。今あるのは喪失感だけ。

 

 日向が死んでから一週間たつが、何をする気も起きなかった。毎日続けていた鍛錬をする気が起きない。祖父に勝つために鍛え続けたのだが、目標が消えた。目標が無くなればそれを超える為に続けていたトレーニングはする気は起きない。

 

 

 

 

 

 とにかく頭を整理しようと、外へ向かう。病院にずっといては永遠と湿っぽい考えをしてしまうと考えた。らしくないと自分でも思うがやはり肉親の死は堪える。

 

 病院の近くにある河を橋の上から見ながら、今後どうしていけばいいか? 何をしていけばいいか? そんなことをボーッと、うつろな目をしながら考えていると見知らぬ人に話しかけられた。

 

 

 

「何を呆けているんだ? 赤子よ」

 

 

 

 突然聞こえてきた声に反応し、その正体を確認しようと河から視線を外す。

 

 そこに立っていたのは見たことがない男性だった。特徴としてはがっちりとした体に似合っている執事服だろうか? 他にも本当に人間かと疑うぐらい鋭い目つき、まるでタカのようだ。というかまず日本人ではない。顔立ちはヨーロッパ系、よく映画とかに出てきそうな金髪の老人。

 

 この一週間で様々な祖父の知り合いと話したが初めて見る人物。

 

 

 

「…………アンタ誰だよ?」

 

 

「ヒューム・ヘルシング。気軽にヒュームさんと呼ぶがいい」

 

 

 

 何とか絞り出した声に律儀に答えてくれる。聞いたことがない名前だ。ただこの男から発する異常なまでの威圧感。灯は体を動かしてもいないのに汗が出てくるのを感じた。本能でこの男を警戒すると同時に戦ってはいけないと、危険信号がなっているのが分かる。自分の腕に自信はあるが、現状この男と挑んでも一瞬で負けてしまう。そう思わせるには充分な覇気を保っている。高圧的な態度に見合った力を所持しているのだ。

 

 

 

「んで、ヒューム……さん。俺に何か用か?」

 

 

「ライバルだった男の孫がいつまでも下を向いているのが見るに耐えなくてなぁ」

 

 

「…………ジイさんを知ってるのか?」

 

 

「あぁ、よーく知っている……惜しい男が亡くなったもんだ……」

 

 

 

 出会った時よりも若干ではあるが、威圧感が薄れる……表情こそ何も変わらないがヒュームなりに悲しんでいる。きっと祖父と仲が良かったのだろう。勝手な想像ではあるが、決して悪い人ではない、灯はそう感じられた。だがそう思った矢先に――――

 

 

 

「国吉灯」

 

 

 

 灯はヒュームに名乗った記憶はない。何故この男が自分の名前を知っているのだろうか? それよりも何故急に話しかけてきたのだろうか? 色々と疑問は尽きない。だがこの次の一言でそれらの疑問は一気に吹き飛ぶことになる。

 

 

 

「お前九鬼に来い」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――3年後

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 神奈川県川神市、九鬼極東本部。

 極東本部と名が着くだけあって東半球では最も設備が整っている九鬼のビルが盛大に揺れた。ビルの中にいる全ての者が「今揺れたな!」と感じ取れるほど。だがそれにびっくりしたり、慌てる者はいない。それは何故か?

 

 

 

「いい加減真面目に動かんか赤子ぉ!!」

 

 

「いい加減くたばりやがれこんのォ老害ジジィ!!」

 

 

 

 ヒュームVS灯。この2人のド付き合いが日常風景であるからだ。

 

 

 

――――あぁまた始まったのか……

 

 

 

 灯と同じ職場に勤務しておりかつ上司である忍足あずみ、李静初、ステイシー・コナーは同時にため息をつく。

 

 

 

「毎度毎度よく飽きないよな―」

 

 

「といいますか、ヒューム卿の相手がよく勤まりますね」

 

 

「あいつは戦闘力だけが取り柄だからな」

 

 

 

 時間はまだ朝の7時を回ったところ、そろそろ目が覚めて通勤や登校の準備をしようかと起きる人もいれば、もう外に出て通勤等をしている人が現れる時間帯。

 

 さわやかに目覚めて「今日も頑張ろう!」と思ってる人もいるかもしれない。そんな朝から灯とヒュームの2人は喧嘩している。決してさわやかでもないし、美しくもない。2人を知らない第三者がこの光景を見れば完全に孫と祖父が喧嘩しているのだと、取られてもおかしくはない。

 

 

 

「今回の蹴られた理由はなんだと思う?」

 

 

「寝坊ってとこだろうよ」

 

 

「灯は朝弱いですから」

 

 

「……と、もうこんな時間か。おい、アタイは英雄様の準備があるからそろそろ行くわ。後処理は頼んだぞ」

 

 

「へーい」

 

 

 

 そう言うと、あずみは自らの主である九鬼英雄の元へと走る。

 

 九鬼従者部隊1位兼英雄の専属従者である彼女は一般の従者部隊の者よりもやることが多い。それでもこなせるのはひとえにあずみが優秀であるからだろう。

 

 

 

 そんな優秀な彼女の右腕を務める李とステイシー。若手の成長株である彼女たちもやることはたくさんある。だがある1人のせいで朝の仕事が1つ増えている。忙しいのにも関わらず。

 

 そして次の瞬間、朝一の仕事を始めろ! という合図が大きく鳴り響いた。

 

 

 

「ジェノサイド! チェーンソー!!」

 

 

 

 今までとは違った揺れが九鬼のビルを襲う。原因は大方予想出来る。ヒュームの必殺技が炸裂し、灯が悲鳴を上げる余裕もなく壁端へ叩きつけられたのだろう。これで終戦。

 

 ヒュームのジェノサイドチェーンソーは相手の体力を10割削る大技だ。そんな一撃を受けてまだ戦闘が続くわけがない。それが如何に戦闘特化従者である灯でもだ。

 

 あずみに言われた通り回収に向かわなければ、灯は約1時間は床に伏したままになるだろう。それは可哀想でもあるし、他の従者たちの邪魔にもなる。

 

 ステイシーはため息をつきながら、李は特に表情も変えずに淡々と物音がしたほうに足を運ぶ。彼女たちの朝一のお仕事は気絶した灯を部屋に運んで目覚めさせることである。

 

 

 

 

 

 

「何故毎朝登校前にこんな疲れなきゃいかんのだ」

 

 

 

 2人の肩を借りて自室へと戻った灯。どこから取り出したのかは分からないが、ステイシーが水圧を強化している水鉄砲で強引に目覚めさせられた後、李からタオルを借りて顔を拭きながら愚痴をこぼす。

 

 完全に自分のせいでこの様な出来事が起きてるとは思っていない……いや、思っているだろうが完全に棚の上に放り投げている。

 

 

 

「灯が起きないのが原因です」

 

 

「寝坊でヒュームに蹴られるの何百回目だ?」

 

 

「数えたくもねェ」

 

 

 

 わざわざ痛い思いをした回数を律儀に数えている奴などいない。顔を拭き終わり、タオルを備え付きの椅子にかける。

 

 

 

 九鬼の従者には活動拠点に1人1人個室の部屋が与えられる。九鬼と言うだけあって、その設備は人一人が暮らすには充分過ぎるものだ。

 

 

 

「あのクソジジィいい加減ぶちのめさないと」

 

 

 

 ただ今まで受けた仕打ちは忘れたわけではない。悔しさと怒りがこみ上げてくるのか、灯の眉間にしわが出来る。

 

 

 

「そんな発想が出てくるのがロックだぜ」

 

 

「普通ヒューム卿に挑もうとする人はいません」

 

 

「そろそろアイツは引退させないと俺に完全な自由が訪れない……ッ」

 

 

「やっぱお前ロックじゃないわ」

 

 

 

 灯はヒュームにやられた数々の出来事を思い出す。

 

 九鬼帝に様付けせずにジェノサイドチェーンソー。ボディガードを頼まれていたが遅刻してしまったのでジェノサイドチェーンソー。勝手にヒュームの酒を飲んでジェノサイドチェーンソー。依頼人の女性が美人で口説いている最中に突如割り込んできてジェノサイドチェーンソー。

 

 記憶を掘り返してみると全てが自業自得な物である気がするが、自分のせいだと思う奴ではない。

 

 

 

「クソ……ん? ステイシーちゃんおっぱい大きくなった?」

 

 

「ファック」

 

 

 

 この2人のセクハラ混じりのやり取りも日常だったり。ステイシーは忘れられないだろう。初めて灯と出会ったときの一言が「おっぱい触らせてください」と言われたことを。

 

 

 

「灯、遊んでいる時間はありませんよ」

 

 

 

 李の言葉に反応し時計を見てみる。既に8時になろうとしている。今すぐに出てダッシュで学園に向かわないと間に合わない時間になっている。だがここで塵屑は急ぐという選択肢は出てこない。

 

 

 

「…………サボるワンチャン……」

 

 

「ダメです。ホラ、準備は出来ていますよ」

 

 

 

 そんな怠慢な考えは李に一蹴されてしまう。そして彼女の言葉通り、既に李の手の中には通学用のバックが握られており灯に手渡そうとしている。

 

 

 

「李ちゃんの頼みなら仕方ない。行くかァ……」

 

 

 

 そう言って李が持っているバックに手を伸ばす……前についさっきまで灯の隣に座っていたステイシーの胸に手を伸ばす。大きくなったかどうか確認しなければ気が済まなかったのだろう。

 

 

 

「わぁ!?」

 

 

「お、やっぱ大きくなってんじゃん」

 

 

「ファーッッック!!!!」

 

 

 

 ステイシーが若干顔を赤くしながら灯を殴ろうとしたが、さらっと躱されてしまう。ヒョイっとステイシーの拳を避け、彼女の胸がまだ成長していることに満足しながら今度こそバックを手に取る。

 

 李に軽く礼を言った後、灯は扉をあけて登校し始める。急ぐようすは見られないが、間違いなく学園には行くだろうと李は思った。

 

 

 

「行ってらっしゃい。急ぐんですよ」

 

 

「帰ってきたら覚えていろよ……ッ!」

 

 

 

 金髪と黒髪のメイド、性格も両極端な2人に迎えられながら灯は自らの部屋を後にする。

 

 

 

 

 

 国吉灯。突然ヒュームにスカウトされ、その後九鬼従者部隊に半強制的に入らされる。

 

 はっきりと言えば執事としては失格。朝は寝坊する、礼儀作法等も全く向いていない。同じ職場の女性従者に向かってセクハラをする。何より主である九鬼家の人たちに様付けをしない。同じ学友である英雄、年下の紋白に限っては普通にため口だ。

 

 しかしそんな所を逆に気に行ったのか、帝はそのまま採用し続けている。だがこればかりは理解出来ない、早く矯正させるべきだという従者も多い。

 

 

 

 しかしそのマイナス要素を打ち消す程に、最も評価されているのが ”戦闘力” だ。30歳以下の若手で序列永久欠番0位のヒューム、そして序列4位のゾズマとやりあえるのは灯しかいない。ある意味若手の星であったりする。

 

 序列21位。これは彼がありえたかも知れない物語の1つである。

 




 どうも、こんばんわ。りせっとです。
 A-3やりました。妄想が捗ったんでこんなの投稿してしまいました。軽ーい感じで読んでいただけたらとおもいます。

 感想、評価、誤字脱字報告、もっとこのようにしたほうが良いなどの意見等をいただければ幸いです。

 それではよろしくお願いします。

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