真剣で私に恋しなさい! ~Junk Student~   作:りせっと

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8話 ~国吉灯、働く~

 ――ガラッ

 

 

 

 岳人は教室のドアが開く音が耳に入った、ふと目を向けるとクラスメートである灯が何とも気だるそうな表情をしながら教室に入ってくる姿が瞳の中に写る。

 

 

 

「おぅ灯、重役出勤じゃないか」

 

 

「おぅ脳筋、お前が重役出勤なんて言葉知ってるのが驚きだ」

 

 

「思いっきり遅刻しておいて態度でかいなお前!」

 

 

 

 どれだけ自分を馬鹿にされているのだと、岳人が訴えてもそれはいつものこと。灯は既に岳人から目線を外し自分の席へと向かっている。周りの友人たちも岳人のフォローはしない。岳人=馬鹿は2年F組では周知の事実だ。流石2年F組テスト低点数取得ランキングベスト3と言ったところだろうか。

 

 

 

 

 

 ただ岳人が言った重役出勤、その言葉は間違ってはいない。灯が登校した時間は午後12時ちょい過ぎ。川神学園の登校完了時刻は午前8時半であり、現時刻と比べると大幅に過ぎている。遅刻扱いどころか欠席扱いになってもおかしくない。

 

 しかし遅刻したことなんか灯は一切気にしていない。1年生の時から何度も遅刻しているし、この時間に登校したのも初めてではない。教師陣もまたか、と思う程度で諦めの境地に達している。

 

 

 

 堂々と遅刻した灯は自分の席に着席し、昼食にと買ってきた梅屋の牛丼を食べようと割り箸を割る。この男はどこまでもマイペースな人間だ、自分勝手とも言うが。

 

 

 

 

 

 遅刻してきた灯の前にある女子生徒が現れる。

 

 

 

「灯! 最近遅刻が多いんじゃないか?」

 

 

 

 クリスだ。真面目な性格で曲がったことが大嫌い、そんな彼女は灯の風紀を乱すような行動に毎回文句を言っている。教師陣は諦めても彼女は諦めてない。しかし文句を言って灯の遅刻癖が治る訳が無い、いつも逆に言い負かされてクリスが涙を飲む結果になる。

 

 

 

「朝は中々起きられないんだって、お嬢も起きられないことだってあるだろ?」

 

 

「自分に限ってそれはないな」

 

 

「毎朝起こしてもらっているもんねー」

 

 

「ナイスだ椎名。それだけ自信満々言って起こしてもらってるとか……お嬢は可愛いなー」

 

 

 

 自信満々に胸を張って自分は起きれる! と宣言したが京が目ざとく突っ込んでくる。

 

 クリスは非常に朝が弱く毎朝マルギッテか父親のモーニングコールで起こしてもらっている。その事実を知っている京、大和は何とも優しそうな顔をしてクリスを見る。彼らはきっとこう思っているだろう。朝起きれるなんてクリスはえらいなー。

 

 

 

「ごほんっ」

 

 

 

 クリスは自分をニヤニヤした顔で見てくる灯に若干苛立つも、咳払いをし強引に話しを切り替える。咳払いには自らの痴態がバレたのを誤魔化す意味も含まれている。

 

 

 

「大体その制服の着方もだ! だらしないにも程があるぞ」

 

 

 

 キチンと決められている制服を着こなしているクリスに取って、灯の着こなしはとても無視できるものではない。

 

 Yシャツのボタンは3つまで外しており、中に半袖の黒のVネックシャツを着ていなければ胸が見えているだろう。半袖のYシャツではなく長袖を捲り5分丈程にしている。中でも1番クリスが気に入らないのは裾が全て出ているという事だ。

 

 そしてだらし無いのは上半身だけではない。ズボンも通常より低い位置で穿いている、俗に言う腰穿きだ。下着が見えるほど低い位置で履いてはいないが、だらしなく見えるのには変わりない。

 

 

 

「授業中も寝てばかりで、少しは真面目に過ごそうという気持ちはないのか?」

 

 

 

 私生活、制服の着こなし、どちらもだらし無い男が授業中真面目にしている訳がない。6つ授業があるうち、起きているのは体育を除けば2つほど。4つは教師に気づかれないように寝ているか、漫画読んでいるかのどちらか。分かっていたことだが勉強する気ゼロである。

 

 

 

「って聞いているのか灯!!」

 

 

 

 クリスの言葉に頷きながらも目を合わせず。牛丼を食べ続けてる灯に思わず大きな声を出してしまう。

 

 

 

「おぅ聞いてる聞いてる、ケーキ食べ過ぎて太ったんだって?」

 

 

 

 返ってきた答えはクリスが望んでいるものではなく、女子の心をナイフで抉るような発言だった。当然のようにクリスの話しは聞いていない。

 

 

 

「うっ」

 

 

 

 その言葉にクリスは思わずどもってしまう。自分が少々太ってしまったということを知っているのは姉代わりのマルギッテだけのはず、なぜ目の前の男が知っているんだ? どこで自分が太った事実が漏れたのか、必死になって考えてる。灯がただ単に当てずっぽうで適当なことを言ってるだけなのだが……それには気づかない。

 

 

 

「ダメだぜ騎士様、体の管理はしっかりとしないと。それに肉を増やすなら出来れば胸に増やしてくれ。そうすればお嬢は巨乳になるし、何より俺好みになるから是非頑張って欲しいところ……ん?」

 

 

 

 灯は目の前の彼女がプルプルと震えていることに気づく。周りのクラスメートは少し前に震えていた事に気づいていたがそれを灯に伝えたりはしない。それはなぜか?

 

 

 

「くーにーよーしーあーかーりー!!!!」

 

 

 

 クリスが怒る一歩手前だったからだ。顔が真っ赤になっており、灯の名前を叫んだ後でもまだ手が若干震えている。

 

 思わず灯の胸元に手が伸び捕まえようとするが、灯は素早く椅子から立ち上がることで伸びた手に捕まることはなかった。だがクリスも次の動きが早い、憎きこの男を追いかける体制へと移行し意地でも捕まえようとする。それに捕まるわけには行かないと灯は教室の外へと逃げた。鬼ごっこが始まった瞬間である。

 

 

 

「今日という今日は絶対に許さん!! その腐った性格を叩き直してやる!!」

 

 

「フハハハハハ! やれるもんならやってみるがいい!」

 

 

 

 クリスはこの不真面目なクラスメートを粛清するために、灯はどこぞの騎士団の総帥のような高らかな笑い声を上げながら、共に廊下を激走していく。

 

 その様子を見て2年F組の生徒たちは思う。今日も騒がしいなぁ、と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 5分程の鬼ごっこの末、灯は金髪の騎士様から逃走することに成功した。だが今教室に戻るとまた追い掛け回される可能性が残っているので、だらけ部の部室へと移動することにする。

 

 だらけ部の前に立つと中から話し声が聞こえる。少し耳を済ませてみるとどちらとも聞いたことのある声だ。これなら変に遠慮することはない、灯は麩の把手を掴むと音を立てながら思いっきり開ける。

 

 

 

「よぉヒゲ先生、それに源(げん)がここにいるのは珍しいな」

 

 

 

 中で話していたのはだらけ部の部員兼顧問の宇佐美。もう1人はクラスメートである源忠勝。2人は急に麩が開いたことに驚くも灯が開けたと知ると「何だ、国吉か」と口を揃えて言う。

 

 

 

「……親父」

 

 

「今回の仕事にピッタリな奴が現れたな」

 

 

 

 そして何やら納得したような表情をした。その表情を見て灯は2人が言おうとしてることをなんとなく理解した。

 

 

 

「国吉、今晩暇なら代行業引き受けてくれないか?」

 

 

「内容によってはだな。とりあえず話せよ」

 

 

 

 灯は畳の上に胡座をかき、気楽な体制で話を聞こうとする。宇佐美と源も灯に合わせて畳に座る。

 

 

 

「今回の仕事、ちょっとアウトローていうか危険なことが絡むかもいれないんだよね。いつもなら武闘派担当の社員が引き受けるとこなんだが、ちょっと他の代行業で怪我してしまってな。他にこの仕事出来そうな奴がいないのよ」

 

 

 

 宇佐美が若干困った顔をしながら説明に入る。

 

 

 

「ある程度の暴力に対応出来て、仕事も出来る奴なんてそんなにいやしない。国吉、引き受けてくれないか?」

 

 

 

 源が宇佐美の後を押すように言葉を付け加える。

 

 源は灯のことをそこそこ信用している。理由は灯が何度か代行業をこなし、代行を依頼した人たちから好評を頂いたからだ。

 

 灯が代行業をやることになった切っ掛けは宇佐美に「良い単発のバイトねぇ?」と聞いて「なら代行業手伝え」と言われたことから。最初源は何一般人引き入れているんだよ、と思ったが灯は意外なことにキチンと仕事をこなした。勿論宇佐美が灯に合う代行業を見繕ったのもあるが、その甲斐あって充分な働きをこなした。それ以降何回か代行センターの仕事をこなしているが、どれも成果を上げている。

 

 今では代行業の内容が灯向きならば源は文句を言わない。今回のように源から頼むことだってあるぐらいだ。

 

 

 

「何か危ない内容っぽいな、時給は?」

 

 

「2000円だ」

 

 

「任せろ、どんな暴力が降りかかってきても問題ねぇ」

 

 

 

 先日九鬼のアルバイトでお金は稼いだが、お金はいくらあってもいいもの。今回の仕事も苦学生にとっては充分に美味しい。仕事内容を詳しく聞いてはいないが灯は即断即決した。変な仕事が多い代行業だが、2人から紹介された仕事なら問題なくこなす自信はある。

 

 

 

「それは助かる。今度オジさんが奢ってやるよ」

 

 

「これか?」

 

 

 

 灯はコップを持つように手の形を作った後、口のそばに作った手を持っていき手首をクイッと動かす。その動きで宇佐美は求めていることを理解し呆れながらも軽く頷く。何回か飲みに行っているが、教師にこんなこと要求するのは灯ぐらいな者だろう。

 

 

 

「よし! これで今晩も乗り切れそうだな」

 

 

「代行業忙しいのか?」

 

 

「川神に色々な人物が入ってきたからそれに伴ってな」

 

 

「オジさんそろそろ疲れてきたよ」

 

 

 

 ここ最近代行センターは嬉しい悲鳴を上げている。川神市の人口が増えれば問題も出てくる、それに比例して代行を依頼する人も増える。稼ぎ時とはいえやはり疲れるもので人も足りない。2人はナイスタイミングで現れた灯に心の中で感謝した。

 

 

 

「まぁともかく頼むぞ国吉。場所とか時間は放課後説明する」

 

 

 

 話が一先ず終わったところで予鈴がなる。仕事の内容は分からないが良いバイトだろう、気分良く灯は源と共に教室に戻っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 日は沈み外が真っ暗になる。宇佐美から頼まれた代行業をこなすために川神市の中で最も危険な地域である親不孝通りに灯はいた。正確に言うと親不孝通りにあるビルの一室だ。

 

 

 

(アウトローな仕事とは言っていたが)

 

 

 

 ふと周りを見渡す。そこで行われているのはポーカーやバカラ、ブラックジャックにルーレット、スロットを打っている奴もいる。俗に言うカジノだ。

 

 

 

(カジノの従業員をやることになるとは思わなかったなぁ)

 

 

 

 今回の依頼はカジノの従業員、今の灯の服装は支給されたディーラー服を着ている。そこでカジノで遊んでるお客さんにお酒を渡したり、ゲームを行っている正規のディーラーの手伝いをすればいいと支配人らしき人から説明された。勿論依頼人が灯に求めていることはそれ以外にもあるが今は割愛しておこう。

 

 この隠れカジノには様々な人間がいた。やけに高そうなスーツを着ているオジサン、宝石を沢山身につけて煌びやかなドレスを身にまとっている30代程の女性、紫のスーツを着崩したヤクザっぽい人もいる。中には遊びに来ているだけの奴だっているだろうが、皆が一攫千金とは言えないが大金を手に入れようと真剣に勝負している。

 

 

 

(しかしまだこんな場所が残っているとは)

 

 

 

 義経たちがこの川神に住む前に、九鬼従者部隊が危ない場所や人物を一掃しているはずだ。だのになぜこのような国で認められていないカジノが残っているのか? 

 

 理由は九鬼が管理しやすい体制を作り出すため。ある程度非合法な場所を残すことでそこを重点的に監視していれば何か問題が起きた時すぐに対応出来る。何よりそこまで大きく問題を起こしていないカジノ等ならば態々九鬼が手を出すこともない、そういう判断で現在でもこのカジノは生き残っている。

 

 

 

(まぁいいか、あるならば今度は客として来よう)

 

 

 

 心の中でカジノがあることを教えてくれた宇佐美に感謝しつつ、配る分のお酒が無くなったので1度お酒を作るカウンターに戻る。そこである人物が目に入った。

 

 

 

(お、バニーガール)

 

 

 

 後ろ姿しか見えないが非常にスタイルが良さそうだ。灯は遠慮何て言葉は知らないとばかりに、そのスタイルが良さそうなバニーガールをガン見する。脚、グッドだ。尻、グッドだ。腰つき、グッドだ。バニーガールが振り向き灯と目が合う。パチリッ。なんとウィンクしてきた。

 

 

 

(胸も良い、俺好みだが……化粧が濃いな)

 

 

 

 バァンッ!! 当然カジノに机を叩く音が響き渡る。何事かとカジノのディーラーは勿論、客もその音がした方を見る。ただ1人の男は物音なんか気にもせずにいるが。 

 

 

 

(歳も1回り程離れているだろう)

 

 

 

 音がしたほうで何やら物騒な事態になりそうな雰囲気が出てきた。2人組の若い男がポーカーを担当していたディーラーに怒鳴りつけている。その声は先ほど机を叩いた音よりも遥かに大きいもの。

 

 

 

(だが一晩だけなら全然余裕だ。化粧が濃いとはいえ顔は良い)

 

 

 

 危ない雰囲気が更に加速してゆく。2人組の内1人がディーラーの襟を掴みいかにも殴り掛かりそうな体制だ。もう1人の男も止めようとはしない、ディーラーに暴言を吐いて掴んでる男を援護している。

 

 

 

(これはカンだが彼女は恐らくビッチ、だが問題はない)

 

 

 

 そしてついに男がディーラーに殴りかかった。顔面を殴られたディーラーは立っていられずカッコ悪く転けた、鼻から血も出ている。これはまずいと、周りのディーラーが取り押さえようとしてその男の腕を掴む。

 

 

 

(このバイトが終わったらすぐにでも声をかけるとしよう)

 

 

 

 掴まれた手を腕を大きく動かすことで振りほどき、そのまま別のディーラーを殴り飛ばす。男は非常に興奮していて手がつけられない。男の近くにいたお客さんも巻き込まれるのを恐れて距離を取る。

 

 カジノは先ほどの楽しい雰囲気は一切無くなり、恐怖に支配される。

 

 

 

「んだよさっきから変に騒がしいな」

 

 

 

 漸くバニーガールから意識を外し、苛立ちを隠さないまま1番騒がしい場所に目線を移す。何とも血の気がありそうな男2人が暴れている、ギャーギャーと叫んでる男の声は非常に耳障りなものだ。

 

 灯は軽く息を吐いた後、依頼された仕事をこなすために男たちがいる方へ首を軽く鳴らしながら一歩一歩近づいていく。そしてポンッと男の肩を叩いた。

 

 

 

「失礼、お客様」

 

 

「なんだよ! お前も殴られたいのゴペッ!?」

 

 

 

 丁寧な言葉使いに似合わない強烈な右ストレートを顔面に叩き込む。灯が殴った男は情けない声を上げながら床に倒れた。うめき声が灯の耳に届いたのでどうやら意識は失ってはいないようだ。

 

 

 

「お、おい! お前何してんだよ!」

 

 

 

 殴られた男の相方が驚きながらも灯を睨みつけながら怒鳴りつける。

 

 

 

「お客様の行動は他のお客様にご迷惑をかける行為でしたので、しかるべき処置を取らせていただきました」

 

 

「ふざけんな! 元はと言えばそっちが問題なんだ……グガッ!?」

 

 

 

 今度が灯の左足が男の腹を捉える。この蹴りのスピードに対応出来るはずもなく、先ほどの男と同じような声を上げながら膝をつく。

 

 

 

「これ以上ここにいるとこちらとしても迷惑なので、お客様には外に出て行ってもらいます。」

 

 

 

 そう言うと灯は男2人の後ろ襟を掴み出口に引きずっていく。痛みがまだ引かない男たちは抵抗出来ずに為すがままに引きずられていった。出入り口のドアを両手がふさがっているので蹴ることで強引に開け、勢いよく男2人を投げ飛ばす。

 

 

 

「くっそ……覚えていろよ……ッ!」

 

 

「クッ……お前後悔することになるぜ……」

 

 

 

 お決まりの捨て台詞を吐いて男たちはカジノを後にする。ドアから離れて行くその姿はフラフラしていて非常に格好がつかない。

 

 灯は男たちが見えなくなった後、ドアを閉め現場に戻ろうとする。すると支配人が親指を立てながらこちらを見ている。その目はこう訴えていた。

 

 

 

(グッジョブ!)

 

 

 

 その後は特に大きな出来事なく、夜は過ぎていった。余談だが、この灯の働きが評価され時給がちょっぴり上がったことは灯にとっては嬉しい結果となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「だから聞いてるのか!」

 

 

 

 カジノで代行業を終えた次の日の放課後、灯は再度クリスに捕まっていた。2人は校門目指して歩きながら会話……いや、クリスが一方的に捲し立てているだけだ。灯は軽く参りながらクリスのお小言を聞いている。

 

 よっぽど昨日の出来事がご立腹だったらしい、珍しく遅刻せずに灯が登校したらクリスが一目散にこちらに駆け寄ってきた。その時は担任の小島が早く来てくれたおかげでそこまで大ごとに進展しなかったが、放課後は彼女を止める人がいない。

 

 これはちょーっとめんどくさいな、そう思った灯はある作戦に移る。

 

 

 

「まぁそんな怒るなよ。くず餅パフェ奢ってやるからさ」

 

 

 

 ピタリと、クリスの動きが一瞬止まった。更に追い討ちをかける。天秤を怒りから喜びに変えるためにはもうひと押し必要だ。

 

 

 

「なんならくず餅パフェ2つ頼んでもいいぞ」

 

 

 

 この一言で完全に天秤は傾いた。クリスの怒りボルテージが下がっていく、どうやら灯への怒りよりも甘いものが食べたいという物欲が優ったらしい。

 

 

 

「そうかそうか、なら早速行こうじゃないか」

 

 

 

 クリスは非常にご機嫌な様子で灯に早く来いと催促する。灯に取っては少々痛い出費となるが美人とデート出来るなら安いもんだ、そう思ってクリスを追うように足を進める。しかしこんなに単純で彼女は大丈夫なのだろうか? 灯は少しクリスの将来が心配になった。

 

 校門に到着すると見知ってる友人2人がいる。

 

 

 

「灯くん、それにクリスさん」

 

 

「灯くんとクリが2人で帰るなんて珍しいわね」

 

 

 

 義経とワン子だ。2人はあの決闘後、一緒にいることがある。2人共人懐っこい性格をしているので打ち解けるのにさして時間はかからなかった。努力家であるという点の似通っている。

 

 

 

「義経に犬、自分は今からくず餅パフェを食べに行くんだ!」

 

 

「人数は多い方がいいだろ。義経ちゃん、ワン子ちゃん、奢ってやるから一緒に来ないか?」

 

 

「え! いいの! ワーイワーイ」

 

 

「義経もいいのか?」

 

 

「いいに決まってんだろ。遠慮なんてすんな」

 

 

「ありがとう!」

 

 

 

 2人共笑顔で灯からの誘いに乗る。最もワン子は食べ物がタダで食べられるから、義経は誘ってくれたことが嬉しくて笑顔を浮かべてる。

 

 

 

「それでは行くぞ!」

 

 

 

 くず餅パフェが食べられる、しかも2つ。ワン子と義経が加わっても1番テンションが高いのはクリスだった。クリスを先頭にして4人は歩き始める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 学園を出て少し歩くと何やらぞろぞろと男たちの団体がこちらに向かってくる。何やら金属バットやら持っていて非常に物騒だ。非常に近づきたくはないが、態々遠回りするのも馬鹿らしい。灯たちはその団体の横を通り過ぎようと思っていたが

 

 

 

「見つけたぜ!!!!」

 

 

「ん?」

 

 

 

 灯は先頭を歩いていた男に金属バットを向けられる。その男は顔に大きなガーゼが貼ってあるのが特徴的だ、若干顔全体が腫れているのも確認出来る。

 

 

 

「よくも昨日はやってくれたなぁ……ッ!」

 

 

「今からたっぷりと後悔させてやる……ッ!」

 

 

 

 その横にいた男も鉄パイプを持って灯をギラギラとした目で見ている。若干充血しているのが男の怖さを引き立てている。そして灯はその2人を知っている、丁度昨日知ったばかりだ。

 

 

 

「ハッ! 懲りない奴らだな、ぞろぞろと沢山引き連れちゃってさ。自分から雑魚ですって言ってるようなもんじゃねぇか」

 

 

 

 昨日カジノで暴れて灯に追い出された2人組である。その2人が灯に復讐するために仲間を引き連れてやってきたのだ。よく見ると周りの仲間も金属バットやら物騒な物を所持している。

 

 

 

「灯、こいつらは?」

 

 

 

 クリスは先ほどまでのハイテンションは鳴りを潜め、いつでも動けるような体制を取りながら灯に尋ねる。ワン子、それに義経もクリスと同じようにいつでも飛び出せる体制だ。3人共若干目がつり上がってる。

 

 

 

「戦国○双とかのモブ兵だ。用は雑魚共だな」

 

 

 

 灯はこの男たちのことと、なぜこいつらと関わることになったかを説明する気はない。クリスたちのほうを向かずに、さっきから男たちを見下すような目で見ている。それが男たちの感に触る。

 

 

 

「舐めやがって!!!!」

 

 

 

 持っている金属バットを地面に叩きつけ、男の目が更に血走る。今にも襲いかかってきそうな様子だ。

 

 男たちの危険な雰囲気を彼女たちも感じ取る、これは戦闘は避けられないだろうと。

 

 

 

「灯くん! 手を貸すわよ!」

 

 

「義経も加勢する!」

 

 

「クラスメートを襲おうとするとは許さん! 自分も加勢しよう!」

 

 

 

 3人共灯を助けようと前に出ようとするが

 

 

 

「手をだすなよ。こいつは俺のお客さんなんだ」

 

 

 

 灯は片手を広げることで彼女たちが前に出ようとするのを塞ぐ。その行動に3人共つんのめりながらも動きが止まった。

 

 

 

「お嬢たちがこんな奴らを相手する必要はないって」

 

 

 

 何時も通りの軽い雰囲気で加勢はいらないと言う。だがその雰囲気の中にも何やら強い意志が感じとれる気がした。

 

 

 

「俺たちに目を付けられたのは運が悪かったな!! 死ねやーーーー!!!!」

 

 

 

 これが掛け声となって男たちは一斉に突撃してくる。まるで沢山の猪が速度を上げながら行進してくるようにも見える。恐らく今、彼らの頭の中には灯をぶん殴るという考えしかないだろう。

 

 

 

「せっかくのハーレムを台無しにしやがってよぉ」

 

 

 

 そんな猪どもに慌てた様子もなく、灯は通学バックを地面に落として両手を使えるようにする。軽く指を鳴らしながら猪を狩る準備を完了させ一言呟く。

 

 

 

「DIE YOBBO」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 1分。これは男共がやられるまでの時間だ。ざっと10数人はいたが灯にとって大した相手ではなかった。全員が地面に伏すことになりうめき声を上げている。気を失ってはいないが当分立ち上がることは出来なさそうだ。大きく咳き込んでいる奴もいる。これだけやられれば彼らは2度と灯に歯向かおうなんて思わないだろう。

 

 

 

「余計な時間食ったな」

 

 

 

 制服の埃を軽く手で払った後、地面に落としたバックを拾って戦う前の状態に戻る。当然灯は無傷、かすり傷1つ付いていない。

 

 

 

「ねぇねぇ灯くん、1つ聞いていい?」

 

 

「いいぞ、ワン子ちゃんの質問なら大歓迎だ」

 

 

「何で私たちの助けを断ったの?」

 

 

 ワン子は灯の強さに目を輝かせながらも、なぜ加勢するのを許可しなかったのかを疑問に思う。灯がめんどくさがりやでグータラなのは1年程の付き合いで理解できてる。その彼が自分が楽するために助けを求めず、ましてその助けを断ったのが少々気になったのだ。

 

 

 

「そりゃ俺がいくらギャンブル狂いで遅刻は頻繁にして授業はサボりまくってる塵屑でも、こいつらを押し付けるほど落ちぶれちゃねーよ」

 

 

 

 今のにプラスしてお酒も入るのだが、これを言ったらクリスが噴火しそうなので心に秘めておく。

 

 悪いのは地面でうずくまってるこいつらだが、襲いかかってきた原因は自分にある。大抵のやりたくないことは他人に押し付けるかやらないことを選択する灯でも、今回のは避けることは出来なかったしワン子たちに押し付けようものなら救いようのない塵屑になると分かっていた。

 

 この一言を聞いてワン子とクリスはこの男の性根は腐っていないことを感じ取る。義経は頼ってもらっても良かったのに、と内心思っていたり。

 

 だがそれと同時にクリスにもある疑問が浮かぶ。

 

 

 

「自分で駄目な所が分かっているならばなぜ治そうとしない?」

 

 

「治す気ないし治せないし」

 

 

 

 やっぱりこいつは塵屑だ。身も蓋もないような答えがクリスの心を打ち砕こうとした。

 

 

 

「あはは、でも真面目な灯くんは想像出来ないわねぇ」

 

 

 

 想像出来ないのも無理はない。普段のこの男の様子を見て真面目という言葉がどれほど似合わないことか。

 

 

 

「まぁともかく迷惑かけたからな、コーヒーも奢るわ」

 

 

「あ、私コーヒー飲めない……」

 

 

「自分もあまり得意ではない……」

 

 

「義経……も」

 

 

 

 どうやら女性陣はコーヒーが得意ではないらしい。その様子を見て灯は小馬鹿にした顔で煽る、主に1人をターゲットとして。この3人の中で揶揄うことで最も良い反応を見せてくれる女性何て1人しかいない。

 

 

 

「3人ともおこちゃまだなー、特に騎士様それでいいのか?」

 

 

「む、そ、そんなことないぞ! 自分は飲める!」

 

 

「苦いのはダメなのよねー」

 

 

 

 素直に無理だと認めるワン子に対して意地を張るクリス。その結果、彼女はくず餅パフェを食べた後コーヒーを飲むことになるのだが「やっぱり無理!」と、飲めないことを灯の前に晒すことになった。

 

 それを全力で馬鹿にする灯に対して非常に苛立ち、やっぱりこの男は性根も腐ってるかもしれないと思うのだった。




次回予告

 最近お嬢の胸が大きくならないか、真剣に考えている国吉灯です。金髪巨乳とか最高じゃん、男のロマンだよロマン。まぁ巨乳になったとしても弄り回すのはやめないけどな、アイツは反応が面白いんだ。ちょいと小金を稼ぎに賭場でカモ狩っていたら乱入者、チャレンジャーが現れたんだ。勿論賭場の厳しさを教えてやろうとしたら何やら大ごとになってきて面倒なことに、それでも勝つのは俺なんだけどな(ニンマリ)


 次回、国吉灯勝負する。



 注>内容は変更される可能性があります。


 すみません、前回の次回予告とは少々違った内容になってしまいました。てかタイトルも変わってしまいましたね。思った以上に最初考えた内容は書き起こし辛かったです。


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