真剣で私に恋しなさい! ~Junk Student~   作:りせっと

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9話 ~国吉灯、勝負する~

 川神学園、B棟4階の空き教室。この教室は授業で特に使われている訳でもない、部活動で使われてる訳でもない、だのに昼休みや放課後は多くの生徒で賑わっている。その生徒たちを見ていると4人の男がテーブルを囲んで牌をかき回していたり、2人の男女がカップの中にサイコロを振っている姿が見える。その教室の角に置いてある箱の中には何種類ものトランプがあったり、麻雀牌2,3セットが入っている。

 

 ここは賭場、半教師公認の簡易カジノである。あくまで学園内の賭場ということで賭けられてるのは小金ほどだったり食券だったりする。が、勝負する生徒同士で掛金が決まるためたまに学生にしては大金が賭けられたり、それ以外の物が賭けられたりする。

 

 そしてこの賭場、国吉灯が川神学園で最も好きな場所だったりする。自分の趣味なので楽しむことが出来てかつ、生活費、食費等をある程度稼ぐことが出来るからだ。今日の昼休みも当然の如くいた。まるで賭場の主だ。

 

 

 

「フルハウスだ。これは流石に俺の勝ちだろ」

 

 

 

 

 5枚のトランプを目の前の相手に見せつけるようにテーブルに並べる。並んであるトランプはスペードの6が3枚、ハートの3が2枚。男の言う通り、フルハウスである。

 

 このフルハウスを出して満足そうな笑みを浮かべているのは井上準。今回の灯の相手である。勝負の内容はドローポーカー、ポーカーの中では最もポピュラーな物だろう。

 

 彼は友人である葵冬馬の付き添いとして榊原小雪と共にこの賭場に来たのだが、既に賭場にいた灯を見て勝負を申し込んだのだ。支配人、と賭場で異名を取る灯に対して「ならその称号を奪ってやろうじゃないか」と、随分意気込んでいる。

 

 

 

 

 

 ちなみにこのポーカーは3回勝負で今が最後の3戦目である。1、2戦目は灯が勝って合計で準は3000円取られている。

 

 だが3戦目はレートあげようと言う灯の提案で互いに5000円賭け、その結果がフルハウスを生み出した。準としては笑いが止まらないだろう。負けた分が最後の最後で増えて戻ってくると確信しているのだから。

 

 しかし灯は慌てた様子はない。それどころか手に持っているトランプで隠しているが若干薄ら笑いを浮かべている。その笑みを浮かべ続けながらトランプを準と同じ様にテーブルに綺麗に並べる。

 

 

 

「悪いなロリコン、フォーカードだ」

 

 

「なん……だと!?」

 

 

 

 準の顔から笑顔が一瞬で消えた、手も震えている。

 

 

 

「幼稚園に足長お兄さんとしてプレゼントするための資金が……ッ!」

 

 

 

 思わずテーブルを叩く。握りこぶしからは血が流れ、目も明らかにつり上がっている。どうやら足長お兄さんを演じようとしていたのは本気だったらしい。

 

 

 

「その資金は俺の生活費にしてやる」

 

 

 

 この無慈悲な一言は準の心にトドメを刺すには充分な威力だった。幼女への寄付金が男への生活費に変わったのだ、ロリコンにはとてもじゃないが耐えられないだろう。

 

 

 

「うーん……」

 

 

「何悩んでるの? トーマ?」

 

 

「彼、灯くんは間違いなくイカサマをしています」

 

 

 

 葵は灯と準のポーカーを3戦全て見ていた。ドローポーカーは運の要素が強いゲームだが、最後のフォーカードはあまりにも出来すぎていた。それこそ台本通りに行われているドラマのような展開。

 

 

 

「ですけど彼はイカサマをしているような仕草を見せていない」

 

 

 

 同じくイカサマをして賭場で勝ち抜いてる冬馬が見ても灯のイカサマは見抜けない。あの使用したトランプ自体には何も仕掛けられてはいないはず。

 

 

 

「イカサマの手段が分かるまでは戦いたくないですね」

 

 

 

 この賭場を実質仕切っている灯とは是非とも戦ってみたい、だが今はまだ牙を向けない。機はまだ熟してないのだ。勝利の方程式がつくり上がるまで今は爪を研ぐ。

 

 

 

「若、すまねぇ」

 

 

「準が負けた分は今度取り返しましょう。雪、行きますよ」

 

 

 

 3人が賭場から出ようとする、すると見知った顔がこの賭場に入ってきた。

 

 

 

「ここに国吉灯はいますか?」

 

 

「おやおやマルギッテさん」

 

 

 

 葵たちのクラスメートであるマルギッテが先頭にいた葵に尋ねる、灯はいるかと。

 

 

 

「えぇ、いますよ」

 

 

 

 葵が指差す方向には灯が準から巻き上げた合計8000円を財布にしまう姿が見える。マルギッテは目的を人物を見つけたことで満足そうな笑みを浮かべながら、葵に感謝を告げてキビキビと歩いて近づいていく。

 

 

 

「国吉灯、私と勝負しなさい」

 

 

 

 固まっていたトランプを手に取った時に話しかけられ、灯は眉間に皺を寄せながら振り返る。後ろにいる人物は振り向く前から分かっている、ただ話しかけてきた人物が問題なのだ。

 

 

 

「お前懲りないね」

 

 

 

 マルギッテは以前負けてから灯に再戦しろと何ども迫って来る。美人に迫られるのは非常に嬉しいことだが求めてくる内容が問題だ。

 

 

 

「今回は戦闘での勝負は求めてないと知りなさい」

 

 

「え?」

 

 

「ここは賭場です。なので国吉灯、貴様にポーカーで勝負を挑む」

 

 

 

 そう言うと灯の手からトランプを取り、彼とは対面の位置に座る。灯は一瞬呆気に取られたがすぐにマルギッテに悪そうな笑みを浮かべながら視線を送る。

 

 

 

「その勝負なら大歓迎だ。……さて、何賭ける?」

 

 

 

 灯はノーレートのギャンブルはやらない、気合が入らないし何も賭けてないギャンブルやってもつまらないからだ。

 

 

 

「では、私が勝ったら次は戦闘で勝負しなさい」

 

 

 

 葵と準はマルギッテがなぜ灯を探して賭場まで来たかを理解した。彼女はどこからか灯がギャンブル好きでよく賭場にいると言う情報を耳にしたのだろう。その賭場で灯に勝てばその勝者の特権で自分の願いを叶えられると考えたのだ。

 

 

 

「いいだろ、勝てたらな」

 

 

 

 灯はこの案を承諾。マルギッテは思わず笑ってしまう、漸くこの男と再戦する機会を得ることが出来ると。この勝負何としても勝たなければならない、自然と手に力がこもる。だが

 

 

 

「んじゃ、俺が勝ったらマルギッテは今週に行われる球技大会ブルマで出場な」

 

 

「…………は?」

 

 

「ちなみにこれ断ったらさっきの条件は受け入れねぇから」

 

 

 

 思わず思考が停止する。目の前の男はなんて言った?

 

 

 

 

 

 ブルマとは女子生徒の体操着である。この時代に置いてもはや廃れた体操着、文化だったが川神鉄心の「わしが生きてるうちはブルマ、異論は認めない」と言い出したことから川神学園では今だに着用が義務付けられている。

 

 マルギッテも当然ブルマを知っている。が、年齢が他の生徒たちよりも上の彼女に取ってブルマはとても履けたものではない。

 

 

 

 

 

 だが目の前の男は負けたらブルマを履けと言っている。現在21歳の自分にブルマを履いて球技大会に出ろと言うのか? 何馬鹿なことを言っているんだ? だが

 

 

 

「くっ! いい……で…しょう」

 

 

 

 この条件を飲まなければこの勝負が成立しない。成立になければ再戦の願いも叶わない。マルギッテは了承の言葉を絞り出すようにして口にする。

 

 

 

「よし! そろそろ昼休み終わるから勝負は1回な」

 

 

 

 時計を確認してみると次の授業開始まで10分ほど、ドローポーカーは短い時間で出来るゲームだが何回もやっていたら授業に遅刻してしまう。正直灯は授業をサボることに何の抵抗もないのだが、マルギッテはそうもいかないだろう。成績優秀のS組に授業をサボる奴なんて1人もいない。

 

 灯の提案にマルギッテは頷く。頷くと同時に1人の男が現れる。

 

 

 

「1回の勝負なら私がディーラーを引き受けましょう」

 

 

 

 葵が賭場から出ようとしていた所を引き返して来た。先ほどから教室に戻らず2人の会話を聞いていたのだ。ゆっくりと教室の入口から歩いてきて2人の間にあるテーブルの真横に立つ。

 

 1回の勝負なら断然親が有利だ。トランプをシャッフルすることが出来るし自分と相手に配るのも親がやる。1回の勝負で公平性を求めるなら第三者がディーラーを務めるのが妥当だろう。

 

 

 

 

 

 だが葵はマルギッテと同じ2年S組所属、もしかしたらマルギッテを有利にするような仕掛けを打ってくるかもしれない。灯は疑いの目を葵に向ける。

 

 

 

「おいバイ、妙な真似はしたら股間を使い物にならなくするからな」

 

 

「信用がないですね、公平にやらせていただきますよ」

 

 

 

 葵はトランプをマルギッテから預かり華麗にシャッフルしていく。変なことをしないか確かめるためカットしてる様子をジッと見つめる灯。

 

 

 

 

 

 ちなみに葵にはマルギッテをサポートしようとは全く考えてない。狙いは灯の小さな癖でもいいからカードテクを見抜くため。

 

 葵が親の役目を引き受けたことでドローポーカーは運だけの勝負になった。その中でこの男は何らかのアクションを仕掛けてくると葵は踏んでいる。それを見抜ければ今後の勝負に活かせる。なのでマルギッテには悪いがもし灯がイカサマをしてもそれを報告する気はない、情報を漏らしては打ち取ることは出来ないからだ。

 

 

 

 

 

 葵がシャッフルを辞め、配るためにトランプをテーブルを使って綺麗に揃える。ここから勝負が始まる。ワッペンは出してはいないがマルギッテに取っては決して負けられない戦いが。

 

 カードのシャッフルを終えた葵が灯、マルギッテの順に手馴れた様子でカードを1枚ずつ配る。2人に5枚のカードが渡ったとき両者は自らの手札を確認した。

 

 

 

(……悪くない)

 

 

 

 マルギッテの手札は既に2ペアが完成している、変えるのは1枚で充分だろう。フルハウスになったら勝ちは決まったも同然だ。

 

 

 

「1枚チェンジで」

 

 

 

 1枚のカードを葵のそばに伏せて置き、変わりに新しいカードが渡される。残念ながらフルハウスにはならなかったがそれでも役は出来た。

 

 後は肩肘を付きながらカードを見つめる男の手次第。高い役が入っていないことを願う、切実に。

 

 

 

「3枚チェンジだ」

 

 

 

 この一言を聞いてマルギッテは心の中でガッツポーズを取る。3枚変えるということはそこまで手は良くない。そして変えるカードは自ら引くのではなく配られる、これでイカサマの心配もない。

 

 

 

 

 

 だがマルギッテは気づかなかった、いや気づけなかった。3枚の新しいカードを受け取った瞬間、先ほどの準とのポーカーと同じように灯がカードで隠しながらも口先を少し上げていたことに。

 

 

 

「では、オープンして下さい」

 

 

 

 まず先にカードをテーブルに置いたのはマルギッテだ。

 

 

 

「2ペアです」

 

 

 

 オープンした時に灯の顔を見る。表情は変わらない。この瞬間どちらが勝者かは灯にはわかっているはずだ。笑うなり悔やむなり何らかの表情の変化はあってもいいはず、引き分けか? と考えたがその可能性は限りなく0%だ。

 

 

 

 

 

 そして灯のカードがオープンされる。確認してみると4が2枚、キングが1枚、9が1枚、そして……ジョーカーが1枚。つまりは

 

 

 

「3カードだ」

 

 

「な……なぁ!?」

 

 

「この勝負灯くんの勝ち、ですね」

 

 

 

 マルギッテは崩れ落ちた。この瞬間、自分がブルマを履いて球技大会に参加することが決まったからである。

 

 その様子を葵は普段と変わらずに、準は若干顔をしかめて、小雪は崩れ落ちたことが面白かったのか指を指しながら笑っている。そして何より大きな反応を見せてくれたのはこの男。

 

 

 

「やったぜ! これでドイツ軍エリート21歳巨乳のブルマが見れる! ねぇ、今どんな気持ち? 自信満々に勝負仕掛けてきて願いかなわずにブルマを履くってどんな気持ち? 全校生徒の目の前で21歳がブルマを履いて動き回るんだぜ。21歳のブルマとかイメクラでしかありえない光景なんだけどこれを味わうってどんな気持ち? ねぇ、今どんな気持ち?」

 

 

 

 この灯の煽りに対してマルギッテは怒りも生まれず、ましてやウザイという感情も浮かんでこなかった。唯々顔を下に向けて握りこぶしを握るだけ。

 

 

 

(しかし灯くんは何もしてきませんでしたね、それとも気づかない内に既に仕込んでいた?)

 

 

 

 ただ葵は目的が果たせなかったことを悔しく思いながら、頭を捻りつつ賭場を出て教室に戻るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 葵が教室に戻っていくのを確認してから灯は手に隠し持っていたカードを1枚、あったトランプの中ヘと戻した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 放課後、灯は再度賭場へと足を運びカモという弱者から金をむしり取り、上機嫌で帰宅するために校門へと向かう。なお灯の相手をした数人は財布の中身がほぼ空っぽになっており、しばらく放心状態になっていた。当分賭場には来ないだろう。

 

 鼻歌を軽く歌いながら校門の外へ出ると何やらある少女が全力でこちらに向かってきた。

 目を細めて正体を確認してみる。その少女は川神学園指定の体操着を着用しており、ポニーテールが小刻みに揺れている。何より目立つ部分は腰に紐をつけており、その紐の先にはタイヤが繋がれていた。灯はその少女を知っている、というかクラスメイトだ。

 

 

 

「あ! おーい、灯くーん」

 

 

「よぉワン子ちゃん、相変わらずタイヤが似合っているなぁ」

 

 

 

 タイヤをつけて川神市内を走り周る少女なんて川神一子、通称ワン子しかいないだろう。彼女の顔には汗が流れており、若干肩で息をしているところを見ると走り始めたばかりではなさそうだ。

 

 

 

「あんまりタイヤが似合ってるってのは嬉しくないわねぇ」

 

 

「タイヤ系少女として川神市内で有名だぜ、自慢出来る」

 

 

 

 実際ワン子は1年中タイヤと共に市内を駆け回っているため、タイヤつけて走ってる少女=ワン子の方程式は成り立つ。そして皆こう思うのだ、今日もワン子は頑張っているなぁと。特に姉である百代と小さな頃からの付き合いである大和は特に頑張ってると思っているだろう。

 

 勿論灯もワン子がオーバーワークとも言えるトレーニング量をこなしているのを知っている。出会った頃は何でコイツこんな頑張ってんだ? と疑問を抱いたぐらいだ。

 

 彼女から努力を重ねる理由を聞いてその疑問は解消され、そのトレーニング量にも納得はした。ワン子の夢である ”川神院師範代” は並々ならぬ努力を重ね続けなければ届かない。灯に取っては他人事だが是非ともその夢を叶えて欲しいと思っている。

 

 

 

 

 

 灯はその鍛錬少女の頭を軽く撫でたあと、彼女に繋がれているタイヤへと足を運びそのまま腰を掛ける。胡座をかいて座っている灯をワン子は不思議そうに見つめる。

 

 

 

「さ、家まで頼む」

 

 

「アタシはタクシーじゃないわよ!!」

 

 

 

 だが不思議そうな顔は直ぐ様渋面へと変わり、怒りという感情も浮かんでくる。どこの世界に人間本体をタクシー代わりにする奴がいるというのだろうか。

 

 

 

「俺んち分かるよな? ここ真っ直ぐ行ったら……」

 

 

「ちょっと!! 勝手に話進めないでよ!!」

 

 

 

 ワン子の抵抗なんて何のその、灯は何時も通り人の話しを聞かない。それを分かっていてもワン子は抵抗する。キッ! とした目を崩さずに、我が物顔でトレーニングの相棒とも言える愛用のタイヤに座っている男を睨みつける。

 

 彼女の抵抗する目を見て灯は何かを思い出したかのように通学用バックを漁る。そして出した物は

 

 

 

「ビーフジャーキーだ。残りはワン子ちゃんにやるよ」

 

 

 

 賭場で食べようと思っていたビーフジャーキーの残りだ。やはりタクシーを利用するにはお金……もといチップが必要だと気づいたのだ。

 

 半分ほど無くなってはいるが、ワン子にとって好物が食べられることは非常に嬉しかった。彼女の目は既に輝いており、渋面から満面の笑顔へと表情が変化している。コロコロと表情が変わるのはワン子の魅力の1つだろう。

 

 

 

「ワーイ! グマグマ……さぁ! しっかり捕まっていてね!」

 

 

 

 口の中に彼女の好物であるビーフジャーキーの味が広がる。味が広がったまま彼女は走り始める。タイヤの他に重りは増えたが関係ない、そしてランニングコースも多少変わったが問題ない。タイヤと共に走る少女は今日も走り続ける、今回はオプション付きで。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ワン子が灯を引きずって彼の家を目指している途中、多摩大橋の下で随分と晴れ晴れとした顔で背伸びをしている少女を2人は見つけた。その少女は男性顔負けのイケメン、そして大層美人である。

 

 美少女が背伸びしている光景は非常に絵になるものであるが、周りを見ると少々異質であったりもする。その原因は何人もの屈強な男たちが倒れており、準々に担架で運ばれていることだ。運んでいるのは九鬼の関係者だろうか?

 

 だがワン子はそんな光景に何の疑問も抱かずに、美少女に向かって瞬間大声で叫んだ。

 

 

 

「おねーーさまー!!」

 

 

 

 ワン子の姉である川神百代はその声に直ぐ様反応、大きく片手を上げてワン子を出迎える。妹は直ぐ様最愛の姉の元へと走っていく。当然タイヤの上に乗っている灯も百代の元へと連れて行かれた。

 

 

 

「おーマイシスター。今日も頑張っているな」

 

 

 

 今日も絶え間無い努力を重ねている妹に対して惜しみない賞賛を送る。間違いなく川神院で1番努力しているのはワン子だ。毎日毎日頑張っているワン子を百代はとても可愛がっている。血こそ繋がってはいないが仲良し姉妹だ。

 

 

 

 

 

 

 だがその最愛の妹の他にもう1人、気になっている人物がタイヤの上で、担架で運ばれている男たちをつまらなさそうな顔をして見ている。

 

 

 

「よ、灯。お前も私に勝負を挑みに来たのか? いつでも相手になるぞ」

 

 

 

 この運ばれていく男たちは百代と戦った者たちだ。本日百代が倒した人数は大体10人ちょいといったところだろう。

 

 この男たちは全員義経との戦闘を望んでいる者だ。だが希望する者全員と戦っていてはとてもじゃないが義経の体がもたない。世界中から対戦者が集まっているのだから。

 

 なので震いをかけるという意味で百代が義経との対戦希望者を選別している。この選別システムは百代にとって非常にありがたいもので、普段決闘不足で欲求不満である彼女をとても満足させるものであった。実力こそ百代に及ばない者ばかりだったが、それでもほとんどが強者だ。数をこなせば百代の欲求不満は充分に解消される。

 

 

 

 

 

 だが目の前にいる男は今までの武道家たちとは比べ物にならないぐらい強いはずだ、だからこそ灯と戦いたい。バトルマニアである百代が強者と戦いたいという気持ちを抱くのは当然。今のように勝負をけしかけるのも必然だろう。だが

 

 

 

「ベットの上だったらいつでも相手してやる」

 

 

 

 いつも躱されてしまう。

 

 

 

「それを望むなら私の彼氏にでもなってみるんだな」

 

 

「モモ先輩なら俺はいつでもウェルカムだぜ」

 

 

 

 親指を立てながら凄まじくいい笑顔を浮かべている灯。ワン子は言葉の意味を理解していないのか「ベットの上で戦うとか狭すぎじゃないかしら?」とか言ってる。

 

 このセクハラ発言にも随分慣れたもんだ、と百代は思う。

 

 だが毎回このように躱されているがそろそろ百代は灯からある本音を聞きたいと考えていた。いつもおちゃらけた雰囲気を出していて、とても聞けるような空気ではなかったので言い出せなかった。が、そろそろ彼女の限界だ。百代は真剣な眼差しを灯に送りながら問いかける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前本気で戦ってみたいとか思わないのか?」

 

 

 

 武士道プランの申し子たち、松永燕、ヒューム・ヘルシング、様々な人物がこの川神にやってきた。誰もが百代と肩を並べる強者ばかりで全員と戦ってみたいと思っている。彼らとはいつ戦えるのだろうと、心を踊らして待ち構えている。

 

 だがそれでも、百代が今1番戦ってみたいと思い続けているのは国吉灯だ。

 

 

 

「灯だって一武道家だろ、誰かと戦って自分の実力を試してみたいと考えないのか?」

 

 

 

 今まで百代と近い年齢でまともに戦うことが出来たのは九鬼財閥の長女、九鬼揚羽のみ。だが彼女は百代に負けたことを切っ掛けに武道家としての第一線を退いてしまった。

 

 揚羽の代わりはそうそういない。また祖父たちとの稽古の繰り返しで欲求不満になってしまうのか? そう考えていたときに現れたのが灯。百代にとって約1年前に、たった5分間という短い時間だったが灯と戦えたことはとても印象に残っている。それほどまでにその5分間は衝撃的だったのだ。

 

 強者と戦いたいと思う気持ちは武人であるならば誰もが思うことだ。だからこそ義経に大量の対戦者が集まった。皆が自分の実力を試したいと考えているから。

 

 

 

 

 

 

 灯だって武人だ。これほどまでに適当でスケベでグータラな武人は見たことないが、強者と戦いたいという気持ちはあるはず。百代はそう考えて灯に真剣に問う。そして心から願っている、国吉灯と戦闘で決闘出来ることを。

 

 

 

「…………思わないな」

 

 

 

 だが灯の答えは百代が望んでいるものではなかった。今だタイヤの上で座りながら気だるそうに猫背になりながら、百代の真剣な雰囲気を台無しにするかのような態度。

 

 

 

「…………そうか」

 

 

 

 百代は大きく肩を落とした。もしかしたら国吉灯と戦うことはこの先ないのかもしれない、その可能性が見えてしまった気がする。それでも――

 

 

 

「それでも私は待っているぞ」

 

 

 

 濁り1つない目、凛とした態度で灯を見つめる。灯とは対極の態度を取っているのがより一層百代を輝かせた。思わず灯は百代から視線を逸らす、非常に彼らしくない行動だ。

 

 

 

「まぁその内機会は巡ってくるんじゃねぇ?」

 

 

「何だその他人事みたいな態度は」

 

 

「アタシも灯くんが戦っているとこもっと見てみたいわ」

 

 

 

 百代は灯が視線を逸らしたことに何の疑問も抱かなかった。相変わらずマイペースな奴だ、思わず苦笑いしてしまう。腰を据えて待っていよう、自分が卒業するまでまだ1年あるのだから。ワン子も間近で強い人との戦闘が見たいのか、灯が戦うことを願っている。

 

 

 

 

 

 だが百代は前向きに考えようとしても不安は尽きない。この男は果たして本気で戦う時があるのだろうか? ホンの少しでもいいから真剣に戦う姿勢を見せてこの不安を払拭して欲しいと百代は思う。だが何にせよ待つしかない、今は待つしか出来ないのだから。

 

 

 

「それより灯、この前ワン子にくず餅パフェ奢ったんだって? 美少女にも奢ってくれよー」

 

 

 

 百代は今までの真剣な空気を弾き飛ばすかのように、声のトーンも変えて灯にたかる。美少女を待たせる罰だ、少しぐらい強請っても文句はないだろう。

 

 

 

「美女にねだられるのは悪い気持ちじゃないが……露骨すぎんだろ」

 

 

「いいじゃんかー賭場で勝ったんだろー」

 

 

「賭場で買ったから奢るという考えはおかしい」

 

 

「お姉さまに奢るなら当然アタシにも!」

 

 

「何だこの姉妹……なんて厚かましいんだ……」

 

 

 

 とてもじゃないが灯が言えるセリフではない。普段のめんどくさいこと全てを押し付けているこの男が厚かましいとか言う資格はない。完全に自分の事を棚に上げている。モロとか大和がいたらきっとこんなツッコミが飛んでくるだろう。お前が言うな! と。

 

 

 

「とりあえず……お仕置き!!」

 

 

 

 そう言ってワン子のお尻を軽く叩く。スパーンと、何とも心地よい音が響いたが……ワン子は女性である。

 

 

 

「キャイン!? ちょっと! お尻叩かないでよ!」

 

 

「妹にセクハラすんな!!」

 

 

「ワン子ちゃん! ナイスヒップ!」

 

 

 

 橋の下で姉妹がセクハラ男を咎める声が響き渡った。




次回予告

 どうも。やはり理想のバストはEカップはないとね、と考えている国吉灯です。完全に俺の好みだが賛同してくれる人たちは沢山いると思う。だけど巨乳が全てと言うわけではない。全てのおっぱいを愛でてこそ紳士というものだろう。今週末に体育祭…もとい球技大会が開かれるんだ。義経たちに良いとこ見せようと張り切ったり、妥当S組ということで我がクラスは大層張り切っている。まぁ俺はいつも通りなんだけど。


 注>内容は変更される可能性があります。


 投稿が遅れてしまいまして大変申し訳ございません。少々これからリアルのほうが立て込んでくると思いますので更新頻度は下がってしまうかもしれませんが、もしよろしければこれからもよろしくお願いします。

 感想、評価、誤字脱字報告は常にお待ちしています。

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