真剣で私に恋しなさい! ~Junk Student~   作:りせっと

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15話 ~国吉灯、喜ぶ~

 葉桜清楚は朝からご機嫌だ。その理由は2つある。

 

 

 

 1つは今日はどんな良い本と出会えるのだろうという楽しい気持ちで溢れている事。これはいつも通りである。

 

 川神学園はマンモス校なだけあって図書室も大きい。それこそ様々なジャンルの辞書は勿論、小説や絵本、挙げ句の果てにはBL小説まで置いてあるぐらいの規模だ。

 

 清楚はこの種類豊富な図書室が大好きだ。次々と面白い本が見つかるから。編入してからほぼ毎日図書室に向かっているが全く飽きない。自分が卒業するまでに読みたい本を全て読めるかが心配なほど。

 

 

 

 もう1つはたまには徒歩で登校するのも自転車とは違った新鮮さがあって清々しい気分が現在進行形で続いているからだ。

 

 

 

 清楚は学園までいつも九鬼がチューンアップした特別な自転車に乗って登校している。が、今日は歩いて学園へと向かっている。

 

 なぜ今日は違うのかというと、その理由は自転車をメンテナンスするためだ。

 

 清楚の自転車にはありとあらゆる機能が付けられている。自転車と会話出来るCPUが積んでいる事から始まり、どんな道も難なく進む電動の力、痴漢等の変質者を即座に撃退するために10万ボルトを流すことが出来る防犯機能。

 

 

 

 これほどの高性能な自転車、こまめなメンテナンスが必要になるのは言うまでもない。

 なので本日愛用の自転車がメンテナンス中ということで徒歩での登校だ。そしていざ歩いて学園に向かってみると自転車とは違った爽快感がある。

 

 

 

 この2つの要素が重なって清楚はご機嫌なのである。

 

 

 

 

 

 清楚が多馬大橋、通称変態箸に到着すると朝から騒がしい集団が目に入った。その中には自分の友達がいる。そして近いうちに話してみたいと思っていた人物も珍しく、その集団の中にいた。

 

 

 

「モモちゃん、おはよう!」

 

 

 

 まず友達とは川神百代のこと。美少女には目がない残念な美少女である百代が、出会ってすぐ清楚に話しかけるのは至極当然だった。話しかけた理由は非常に不純なものではある。が、仲良くなってしまったらその訳なんてどうでもいい。

 

 

 

「おはよう清楚ちゃん! 今日は相変わらずかわゆいなー。ん? 今日は喋る自転車に乗ってないのか?」

 

 

 

「うん、スイスイ号は今メンテナンス中なんだ」

 

 

「あーあの自転車、九鬼開発だけあって相当高性能だしなー」

 

 

 

 百代との挨拶をきっかけに一緒にいた風間ファミリーも当然朝の挨拶を交わしてくる。

 

 

 

「おはようございます、葉桜先輩」

 

 

「おはようございます! 葉桜先輩! あぁ…………今日も清楚だなぁ」

 

 

 

 普通に挨拶する大和と鼻の下伸ばしながら鼻息荒く挨拶する岳人。どちらが好印象を与えるのかは考えるまでもない。しかし

 

 

 

「おはよう、みんな朝から元気だね」

 

 

 

 キモい挨拶をも軽く受け流す清楚はモテナイ男子生徒からは本当に女神に見えた。

 

 周りにいる登校中の生徒たちも清楚を見て、可愛いなぁとか、美人だなぁとか、ボソッと呟きながら歩くスピードを落としつつチラ見している。当然その中に話しかけにいこうとする猛者はいない。

 

 

 

 

 

 いや、堂々と清楚に話しかけにいく男子生徒が1人いた。それも近くに。

 

 

 

「おはようございます、葉桜清楚先輩。あぁ……やっぱり良い女ってのは朝から爽やかだな」

 

 

 

 勿論、灯である。

 灯は今日ほど早起きは三文の得だと思った日はない。なにせ今まで機会がなく話しかけること……もといナンパ出来なかった清楚と自然に会話するチャンスを手にする事が出来たのだから。

 

 

 

 灯が朝、風間ファミリーと一緒にいたのは本当に偶然だ。昨日釈迦堂との鍛錬をしたというのに、たまたま朝起きれて、登校していたらたまたまタイヤと共にランニングしているワン子に出会って、そのままなし崩し的に風間を先頭にした軍団と合流して現在に至る。

 

 

 

「2年の国吉灯。好きな映画は ”あなたが寝ている間に”」

 

 

「最後の情報いる?」

 

 

 

 100人いたら99人は絶対にいらない情報だと断言出来る。

 

 

 

 

 

 しかし清楚はジョークと捉えたのか口を押さえて小さく笑いながら灯の自己紹介に答える。

 

 

 

「フフッ……初めまして、国吉灯くん。葉桜清楚です、君と話してみたかったんだ」

 

 

 

 しかもなぜだか知らないが清楚は灯に対して初対面にも関わらず良い印象を持っている。

 

 

 

「それは光栄だ。しかしなぜ?」

 

 

「義経ちゃん達と仲良くしてもらってるからね、よく灯くんの話題が出るんだよ」

 

 

「ぜってぇ良い内容じゃねぇのは確かだな」

 

 

「岳人、今筋肉のカットインはいらないから俺から100mぐらい離れてくれ」

 

 

「アハハ、悪い話は聞いてないよ」

 

 

 

 なぜ清楚が初対面である灯に対してちょっとした好感を持っているのか?

 それは義経と弁慶が彼のことを話していることに加えて、つい最近行われた灯の試合を見て興味が沸いたのもきっかけである。なにゆえ彼に惹かれるのか本人も詳しく理解は出来ていないが、きっと好奇心旺盛な自分の性格が影響しているのだろうと結論づけている。

 

 

 清楚は改めて灯の顔をまじまじと見る。非常に整っている、モデル等にいてもおかしくはないレベルだと思う。今ほど岳人を睨みつけていたので眉間に皺がより、多少目つきも悪い状態だがそれでも素直にかっこいいと言える。

 

 

 

「そうか、なら一安心だ」

 

 

 

 ここで義経たちが変なことを吹き込んでいたら自分の第一印象は最悪、仲良くなる作戦は確実に失敗してしまう。その事態は避ける事が出来たので灯は心底安心した。フェミニストとして女性に嫌われるのだけは何としても避けたいのだ。

 

 クリスの乳を常に触ろうとしているのに嫌われたくないとか、何言ってんだコイツと思われるかもしれないが、そんなこと灯の中では棚の上に放り投げている。

 

 

 

「ってことで……だ。俺と葉桜先輩の仲を深めるって意味で放課後時間空いてる?」

 

 

 

 灯は財布の中からサッっと名刺のような紙切れを1枚取り出し、それを清楚に手渡す。

 

 

 

「この店、ケーキが美味しいってチッタで今一番人気。良かったら一緒に行かないか? 嫌な思いは絶対にさせない」

 

 

 

 どうやら紙切れの正体はお店の紹介カード。清楚にどんな店なのかを軽く想像してもらうために渡したのだ。もう率直に言えばこの店で僕と楽しくお喋りしませんか? と、デートを誘いをかけている。

 

 

 

 

 

 清楚はなぜか分からないが自分に好印象を抱いてる。ならば何らかの予定が無い限り断られることはないと灯は確信している。しかし――――

 

 

 

 

 

「いやー悪いなぁ」

 

 

「モモ先輩、アンタに向けていってる訳じゃない」

 

 

「いやー悪いわねぇ」

 

 

「犬っころにケーキは贅沢品だ。今度ビーフジャーキーやっから今は引っ込んでろ」

 

 

「今一番人気!? はーい! 俺行きたい俺!」

 

 

「野郎と一緒にスイーツ食べる趣味なんてねぇ!」

 

 

「自分もその店のケーキが食べたいぞ!!」

 

 

「お嬢はこの前くず餅パフェ食ったろ! それも2つ!」

 

 

「それとこれとは別なんだ!!」

 

 

 

 今回は邪魔なメンバーがたくさんいた所為でスムーズに誘うことが出来るはずが無かった。何と格好付かないことだろうか。だが

 

 

 

「モモちゃんたちと仲が良いんだね国吉くん。私も君ともっと仲良くなりたいし、その一番人気のケーキも食べてみたいし…………お誘いに乗ろうかな」

 

 

 

 そんなやり取りを見て格好がつかない……ではなく、楽しそうと思ったのだろうか? 清楚は灯の誘いを笑顔で承諾。

 決してスマートには行かなかったが見事灯は清楚とデートする約束を取り付けた。その決まり事に納得がいかない奴が1人……

 

 

 

「なんでコイツのナンパ成功率はこんな高いんだよ!! ありえねぇ!!」

 

 

 

 女性にもてたい年上に好かれたい願望が強い岳人が灯と清楚のデートに不満を持つのは至極当然。両腕を前に構えて理不尽だと吠え続ける岳人に対して灯は可愛そうな視線を向け

 

 

 

「岳人……これが現実……これが俺とお前の差だ……諦めろ」

 

 

「ぶっ殺すぞお前!!!!」

 

 

 

 岳人の肩をポンッと叩いて哀れだと言わんばかりに同情する。すぐさま肩に添えられた手を振りほどき灯に詰め寄る岳斗。その瞬間灯の顔がうっとしそうな表情へと変わる。

 

 

 

「むさい男に近づかれるとか萎えるから離れろって」

 

 

「うるせぇ! 何で……何でお前だけが……」

 

 

 

 そのまま灯の目の前で四つん這いになり泣き始めた。

 こんな情けない男が風間ファミリーの力仕事担当だ。島津岳人、筋肉は身に付いても女運は一切身に付かない男なのである。

 

 だがそんな哀れな男にいつまでも関心を持っているほど灯は優しくない。主にヤロー限定であるが。

 

 

 

「それじゃ葉桜先輩。放課後校門前待ち合わせでオケー?」

 

 

「うん、楽しみにしてるね!」

 

 

 

 清楚は本当にワクワクとした楽しそうな表情が飛び出る。それにつられて灯も軽い笑みが出る。今日は学校生活も放課後も楽しく過ごせそうだと、清楚は確信を持った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれ? そう言えばキャップは? さっきまで一緒にいたのに?」

 

 

「『一番人気のデザートを食べにいってくるぜー!』って言って来た道逆走していったぞ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 灯と清楚が出会って且つデートの約束を取り付けてから大凡8時間ほどが経過。つまりは放課後。

 ここから生徒たちは勉学から解き放たれ思い思いに過ごし始める。放課後を待ちわびている生徒は数多いだろう。

 

 灯も放課後を待ちわびていた生徒の1人だ、今日は特に。なにせこの後は川神学園に数少ない文学系美少女とデートという神イベントが確約されているからだ。

 

 

 

 

 

 いつもよりも数段機嫌良く、テンション高く、待ち合わせ場所である校門へと足を運ぼうとする。校庭へと出るために下駄箱付近の広い広間に到着、すると――――

 

 

 

「……?」

 

 

 

 灯の機嫌良さそうな顔が一瞬でいぶかしげな顔になる。だがそれも仕方ない。何せ目の前には清楚とは性別が逆の生徒たちが軍隊を組んで現れたのだから。人数にしたら30人超はいるだろう。しかも全員何というか……負の覇気がにじみ出ている。不気味な事この上ない。

 

 

 

「おいヨンパチ、これ何の冗談だ?」

 

 

 

 灯はその集団の先頭いるクラスメートの ”福本育郎” に声をかける。ヨンパチとは彼のあだ名だ。由来はご察してください。

 

 

 

「…………」

 

 

 

 だがヨンパチは動かない。彼の相棒とも言えるカメラを強く握りしめ俯いたまま、目の前にいる灯を見ようとしない。

 

 

 

「用がないならそこをどくんだ。俺は今から……「諸君」んあぁ?」

 

 

 

 灯が大事な用事があるんだそこをどけと言おうとした瞬間、ヨンパチがその言葉を遮って唐突に語り始めた。

 

 

 

「私はイケメンが嫌いだ」

 

 

「諸君、私はイケメンが大嫌いだ」

 

 

 

 決して大きな声ではないが、非常に通った声。多くの人に聞かせるような、例えるなら演説するかのような語り口でヨンパチは話し続ける。

 

 

 

「モデルが嫌いだ。美男子が嫌いだ。ハンサムが嫌いだ。伊達男が嫌いだ。モテる男が嫌いだ」

 

 

「この世の中で存在するありとあらゆるイケメンが大っ嫌いだ」

 

 

「カップルのイチャイチャしている様子を見た時など殺意すら覚える」

 

 

「諸君、私はイケメンの撲滅を望んでいる。諸君、私に付き従うDT諸君。君たちは一体望んでいる?」

 

 

「「「「「DIE! DIE! DIE!」」」」」

 

 

「よろしいならば戦争だ」

 

 

 

 ここに来て漸くヨンパチは灯と目を合わせる。彼の瞳は血走っていて且つ汚れに汚れまくっている。いや、それは後ろの兵達たちも一緒。全員目が充血している異様な光景がそこには広がっていた。

 

 

 

「…………ヨンパチ……結論を聞こう」

 

 

「お前が葉桜先輩とデートするのが羨ましくて仕方ないんだよぉぉぉぉおおおお!!!!」

 

 

 

 魂の叫びだった。ヨンパチは間違いなく心から叫んでいる。

 

 

 

「俺がコンニャクとデートしている間に灯は葉桜先輩とデートなんて……許せない!」

 

 

 

 ついに涙まで流し始めた。それほどまで灯と清楚が遊びに行くことが許せなかったのだろう。

 

 

 

「そうだそうだ! 国吉ばっかりずるいぞ!」

 

 

「俺様は挨拶で満足しているのにテメェだけデートなんて結果は断じて許さん!」

 

 

「たまには俺たちにもおこぼれをくれよぉぉ!」

 

 

「愛しの灯キュンを葉桜なんぞにとデートに行かせる訳には行かないわ!」

 

 

 

 ヨンパチに続けと後ろの戦士たちからも罵声が飛んできた。こんなことばかりやっているからモテないんじゃないか? などと考えてはいけない。彼らは本気なのだから。一部違う目的の奴もいるが、それでも本気なのは一緒だ。同士なのだ。

 

 

 

「だから俺たち童貞はお前を止める! これ以上灯の好きにはさせないぜ!」

 

 

「いくら灯だろうとこの人数だ! そう簡単には突破出来ないぜ!」

 

 

 

 ヨンパチと岳人が灯に対して戦闘態勢を取る。それに続けと後ろ負の大群もそれに続けと戦う構えを見せた、醜い嫉妬は時として戦闘力を生み出す。

 

 

 

「…………」

 

 

 

 灯は死にかけのハゼのような顔をして飽きれていた。思わず手で顔を隠して下を向く。そして確信する、コイツら真剣もんの馬鹿だと。

 

 

 

 馬鹿は正直言って嫌いじゃない。クッソ真面目な奴なんかよりもよっぽど気が合うし、自分に正直に生きる馬鹿は好ましい。風間辺りはその代表だ。

 だがもう少しその馬鹿加減を向ける方向を考えて欲しいと、この負け組の集まりを見て切実に思う。やっている行為自体も非常に面白い物だが、その矛先が自分に向けられるとめんどいことこの上ない。

 

 つい最近集団で喧嘩売ってきた奴らもいたなぁと、灯は思い出す。その集団虐められを受けた不良どもと、今目の前にいるモテナイ集団はどちらとも理不尽に襲ってきているという点が一緒だ。

 理不尽な理由で刃向ってくるなら理不尽な暴力で相手をするまで。一部に知った顔が混じっているが灯は決して躊躇しない。

 

 

 

 1つため息をつく、そして手を下ろし顔を上げる。清楚のところへたどり着くのにも一苦労、だがこの負け組達を潰せば後ほど邪魔してくる奴らはいなくなる。

 

 

 

「……よろしい、ならば戦争だ」

 

 

 

 モテない男達は突撃し、川神学園屈指の強さを持つナンパヤローはそれを迎え撃った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 数は暴力という言葉がある。その言葉が意味する通り、どんなに強くとも、実力の差があっても、数を揃えられて一斉に襲いかかられては人溜まりもない。

 作戦の1つに人海戦術という物がある通り、数の恐ろしさは過去に実証されている。しかし

 

 

 

「さらばだDT共よ、そのまま妖精になってくれ」

 

 

 

 アリが100匹集まったところでトラを打倒する事は不可能だ。

 

 

 

 ヨンパチを始めとした軍隊は瞬く間に蹂躙されてしまい、灯に清楚までの道を確保されてしまう防衛失敗という結果に終わった。任務失敗である。

 

 戦場で戦死した者たちは痛みが原因か、灯の行く道を防げなかった事に対してか、はたまた自分が妖精になる想像でもしてしまったのか、どれかは知らないが涙を流している者がほとんどだった。

 

 

 

 

 

 もう先に清楚がいるかも知れない。少し早足で校門まで向かおうと大股で歩こうとした時――――

 

 

 

「あっ! 国吉くん」

 

 

 

 灯を呼び止める声。声の持ち主を確認しようと首を少し横に向け、目だけで正体を確認する。

 

 

 

 

 

 その人物は灯が待ちわびた女子生徒であった。

 

 

 

「ちょうど良かっ……え!? 何この横になっている人たちの数!? どうしたんだろう?」

 

 

 

 まさしくこれから一緒に遊びに行く張本人、葉桜清楚であった。

 

 その清楚は灯を見つけたと思ったら目の前に大量の男子生徒が倒れている光景が涙のすする音がオプションで広がっていた。これで驚かない奴はそんなにいないだろう。いないと断定出来ないのが川神学園の恐ろしい所。

 

 

 

「こいつらは身の程知らずのアホ共だから気にしない方向で」

 

 

「泣いてる人もいるけど……大丈夫なのかな?」

 

 

「彼らは立派に戦ったんだ。だからあんまり悔いはない」

 

 

 

 実際ヨンパチたちは悔いがありまくりなのだがそれを訴える体力と気力が既に空になっていた、いや空にされてしまった。 

 

 

 

 明らかに戸惑っている清楚を前に進ませるために、灯は彼女の後ろに回り両肩に手を置き優しく昇降口に向けて押す。

 

 このままだと無駄に時間を食ってしまうのでそれを回避するためにも清楚には頑張ってこの無惨な光景をスルーしてもらわなければならないのだ。

 しかし灯に押されながらも気になるものは気になる。清楚は視線を倒れている群衆へと向けながらも彼の手によって2人は下駄箱へと向かって行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「へぇーこの辺りってお洒落なカフェが多いんだね」

 

 

「葉桜先輩チッタ来るの初めてか?」

 

 

「うん、私放課後は図書室にいることが多いからこっちまであんまり来ないんだ」

 

 

「さすが学園を代表する文学美少女、さぞ絵になるだろうな」

 

 

「国吉くんは図書室に行った事ないの?」

 

 

「俺が行ったら提灯先輩に追い出される、似合わん所に来るなとな」

 

 

「提灯先輩って?」

 

 

「京極彦一、図書室の番長で言霊とか不気味な事言い出す電波な先輩だ」

 

 

「京極くんのことだったんだ……」

 

 

 

 灯が案内する様な形で2人はチッタ内を進んで行く。こういった会話の合間にも清楚は興味深そうにチッタの店を見ている。

 

 川神学園に編入してくるまでは島暮らし、編入後も図書室にずっといた彼女は川神学園生徒のたまり場スポットの1つであるチッタに来た事が無かった。彼女の目には今まで見た事が無い面白い光景が広がっている。

 

 

 

「さて、ここが今回俺と先輩が仲良くなるのに一役買ってくれるオシャンティーな店だ」

 

 

 

 灯が足を止めたことで同時に清楚も足を止める。

 

 外見はチッタにあるカフェの中では落ち着いた雰囲気を出している。無駄に煌びやかではなく、客を落ち着かせる事に重点を置いた店作り。かといって入りにくい雰囲気は一切出ていない。人気が出るのは当たり前だ。

 

 灯が自動ドアを開けそれに続く形で清楚も入店する。若く可愛い店員に案内されて2人用で向かい合う席に座る。ちなみに灯が一瞬その店員に声をかけようかと考えたのは内緒だ、さすがに失礼すぎる。

 

 

 

「ご注文はお決まりですか?」

 

 

「アイスコーヒーが2つと彼女にこの店で一番人気のケーキを」

 

 

「畏まりました。少々お待ちください」

 

 

 

 灯は迷う事無く手慣れた手つきで注文する。勝手にケーキを決めてしまったが清楚はこういう店に慣れていないし、それに一番人気のケーキがご所望なのだから清楚が選ぶ必要がない。そう考えてのこの注文の仕方。現に清楚は勝手に決めたことに対して文句はない。

 

 

 

「図書室ばっかじゃなくたまにはこう言った場所に来るのも悪くないだろ?」

 

 

「うん、すっごく新鮮かな」

 

 

 

 清楚は店内をキョロキョロと見ている。こう言う店に来た事がなかったから気になって仕方ないのだろう。だが楽しんでいることは端から見ても理解出来る。清楚の顔には笑みが浮かんでいるからだ。軽く微笑んでいる程度だがその笑顔は誰もが見とれてしまうほど可愛いものだった。

 

 

 

(うーん、マジ美人だな。モモ先輩とはまた違った美人だ。美人の中にまた一際輝く可愛さがある。うわマジ可愛い結婚しよ」

 

 

「え? 国吉くん何か言った?」

 

 

「いや、何も言ってないですよ」

 

 

 

 灯の頭の中で駆け巡っていた思いがいつの間にか口に出ていたらしい。

 

 

 

「ところで義経ちゃんたちから俺の話を聞いたんだって?」

 

 

「うん、とっても楽しそうに国吉くんの話をしていたよ」

 

 

「どんな内容か聞いても?」

 

 

「凄くかっこいいけど変わっている人だって」

 

 

「ん……んん?」

 

 

 

 何とも言葉に表せない表情を作る灯。これは褒められているのか? 貶されているのか? 恐らく義経のことだから褒めている……のか? ただ変わっているは決して褒め言葉ではない。弁慶は意味を分かっていて言ってそうだ。

 

 

 

 

 

 清楚はその灯の様子を面白いと思うと同時に不思議だと思った。彼女が初めて灯を近くで見たのは鍋島との決闘の時だ。その時の灯は実に真面目な顔をして眼光は鋭く、口元を一切上に上げなかった。

 

 

 

 だが今の灯はどうだろう? 真面目な雰囲気など一切感じない。今朝は風間たちとも楽しそうに話しており決闘の時と同じ人物だと言われても信じられないと清楚は感じている。

 

 だからこそ興味が湧く。義経たちが灯のことを話していたことから始まり今に至る。何とも変わった人、清楚も義経たちと同じ気持ちだ。

 

 

 

「私も変わってると思うけどね」

 

 

「先輩それ褒めてる?」

 

 

「褒めてるよ、それに面白い人だなぁとも思ったよ」

 

 

「……まぁ悪い印象は持たれてないしいっか」

 

 

「お待たせしました」

 

 

 

 会話が一段落付いたところ、丁度良いタイミングで注文した品が届いた。とりあえず灯は考える事を放棄する。それよりも今は清楚と親睦を深める……もとい口説くことの方が大事だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 灯と清楚が店に入って大体1時間と少したった。入店した時と逆に今度は清楚が前を歩く形でカフェを後にする。清楚の顔は入店したときと比べてさらに笑顔になっていた。

 

 

 

「美味しかったー! 今まで食べたケーキの中で1番美味しかったかも」

 

 

「葉桜先輩がまさかケーキをおかわりするとは」

 

 

「う……」

 

 

「ケーキ食べて本読んで、太んなよー? 美人が太った時ほど切なくなることないんだから」

 

 

「しっかり運動もしているんで太りませんー」

 

 

 

 1時間で随分距離は縮まっただろう。ちょっとした軽口にも反応してくれるようになった。今の言葉に清楚は軽く睨みつける形で灯を見るも本気で怒っている訳でもなく、軽くにらんだ顔も可愛らしい。

 

 この後は清楚が住んでいる九鬼極東本部まで送って行くために気分良く2人揃って歩き出したが――――

 

 

 

「……ん?」

 

 

 

 何やら後ろから爆音が聞こえてくる。非常にけたたましい音ではっきり言って不快だ。清楚も良い気分がぶち壊されたのか思わず顔がゆがむ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 灯が後ろを向いたその瞬間、清楚のすぐ横をバイクが猛スピードで通り抜けた。

 

 

 

「キャッ!?」

 

 

 

 清楚はバイクが通ったことに驚く……が自分が灯の胸の中にいた事にさらに驚いた。

 灯はバイクを確認したらすぐに清楚の身を守るために、肩を掴んで自分と位置を入れ替わるようにクルッと回転しそのまま自分の腕の中に入れたのだ。

 

 

 

 そのおかげで清楚の身は守られ灯も傷一つ付かなかったのだが

 

 

 

「あ! 私の鞄!」

 

 

「最初からひったくり目的かよ」

 

 

 

 清楚の手に先ほどまで持っていた鞄が無い事に気づく。急にバイクが真横を通り過ぎたことに驚いて手で鞄を持つ力が緩んでしまったのだろう。さすがの灯も清楚を守ることを優先したので鞄まで気を回す事が出来なかった。

 

 

 

 灯はひったくり犯を目を細めて睨みつけた後周りをグルグルと見渡す。そして何かを発見。

 

 

 

「葉桜先輩、ここで待っていてくれ」

 

 

「え? 国吉くん!?」

 

 

 

 近くにいる明らかに俺はヤンキーですって主張している男がいる方角へと走っていく。だが目的はその時代遅れの男ではなく、その隣にあるもの。

 

 

 

「おい」

 

 

「あぁ!?」

 

 

「そのバイク貸してくれ」

 

 

 

 明らかにヤンキーの身に合っていないバイクが今求めている物だ。灯はバイクを借りて……いや最悪強奪してでもひったくり犯を追いかけようとしている。

 

 

 

 しかしバイクは……貸して? はいどうぞ! と気軽に貸し借り出来る品物ではない。当然ヤンキーは貸す分けないだろとド阿呆と反論しろうとした。

 

 

 

「ひぃ!?」

 

 

 

 しかし急にヤンキーが灯の顔を見て怯え始めた。灯は「ハァ?」と言った顔をして男がなぜ突然ビクビクし始めたのか理解していない。

 

 

 

 

 

 灯は全く覚えてないが実はこの男、以前灯に非合法カジノでやられた男が報復するために集めたメンバーの1人だったのだ。当然ぼこられたので灯には恐怖の感情しかない。

 

 

 

「ど…どうぞ! 貸します! ぜひ使ってください!」

 

 

 

 当然ヤンキーは灯に従う。従わなければまた痛い目を見るかも……と考えての苦渋の選択だった。バイクと我が身、優先すべきは我が身であった。

 

 

 

「おう、使い終わったらここに持ってくるからな」

 

 

 

 結局なぜ怖がったままだったのかはさっぱり分からないが、それよりも大事なことがある。

 

 灯はカギを受け取りすぐさまエンジンをかけ、颯爽とバイクに飛び乗る。そしてヘルメットをかぶろうとした。しかし

 

 

 

「待って! 私も行きます!」

 

 

「いや先輩はここに……」

 

 

「行きます!! 私の不注意で取られちゃったんだから……ここで待ってなんかいられないよ!!」

 

 

 

 清楚が自分も行くと灯に申し出てきた。しかも非常に強い口調で。

 

 当然灯としては連れて行く気は一切ない。間違いなくカーチェイスじみた荒い運転になる。危険なことに彼女を巻き込みたくなかった。だが

 

 

 

(何だこの威圧感は……? 断る事は許さないと言わんばかりの空気が出ている……?)

 

 

 

 謎のオーラを感じる。清楚からにじみ出ているのは分かる。だが彼女がなぜこんな雰囲気を出せるのか……? 一瞬疑問に思ったが今はそれを気にしている暇はない。

 

 これ以上言っても清楚は引かないと灯は直感で感じ取る。それに清楚と連れて行く行かないを話すこの時間が何より勿体ない。かぶろうとしたヘルメットを清楚に投げ渡した。

 

 

「これ以上ひったくりヤローから離されたら見失っちまう! 先輩早く乗ってくれ!」

 

 

「……! うん!」

 

 

 

 灯の了承の言葉を聞くや否や、ヘルメットをスポッと被り軽い身のこなしで灯の後ろへと着席する。

 

 

 

「死ぬ気で! 生きる気で捕まっててくれよ先輩!」

 

 

「え? それ矛盾していない……キャア!?」

 

 

 

 最初からアクセル全開、華麗にウィリーを決めてから初速から100kmは出ているんじゃないかと思う様なスピードで追跡を開始した。

 

 

 

 

 

 灯&清楚 VS ひったくり犯。バイクレースの開幕である。

 




 清楚の口調がおかしいと思った方はごめんなさい。SとAでちょこちょこ確認しながら書いていたんですけど、いまいち彼女の口調は掴みきれませんでした;;変だと感じたら遠慮なく突っ込んでください。


 これからもこれぐらいの更新ペースになると思いますがよろしくお願いします。
 感想、評価、誤字脱字報告、お待ちしています。それではこれからもよろしくお願いします。



 PS:A-2発売延期とか泣けるぜ

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