真剣で私に恋しなさい! ~Junk Student~   作:りせっと

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22話 ~国吉灯と最強の英雄 その2~

 ――――豪い事になってしまったのぉ……

 

 

 

 川神鉄心は目の前で起こっている現状を見て素直な感想を抱く。

 

 

 

 項羽覚醒に伴って発された爆発的な気にはすぐに反応出来た。これほどの莫大な気、気付かない訳がなかったが全く正体が掴めない。

 

 正体不明である気の持ち主は誰であるかを確認しようと、グラウンドに目を向けてみたら…………葉桜清楚、否、覇王西楚が威風堂々と仁王立ちしているではないか。

 

 孫娘である百代を軽々と吹き飛ばしたことで強大な武力を保持していると言うことも、充分に理解出来た。

 

 間違いなく川神院の修行僧でも太刀打ちできない程、余裕で強さの壁を超えている。

 

 

 

 あの花をこよなく愛する少女が、ここまで変貌したことに流石の鉄心でも驚きを隠せなかった。

 

 

 

 

 

 だが事態は一転二転、目まぐるしく変わる。学園1、ある意味有名な生徒である国吉灯が教室から飛び降りてきた…………何をやらかすと思いきや、項羽の跳び膝蹴りを防ぎ、弾き飛ばしたではないか。

 

 それに呼応して、彼女の闘気が膨れ上がる。それに対していつもと変わらないふざけた態度で迎え撃つ灯。

 

 

 

 

 

 いや、いつもと全然違う。鉄心にはそう見えた。

 

 

 

 

 

 ――――国吉の奴め、やる気満々ではないか

 

 

 

 ニヤリと笑っている様子はいつもどおりだろう。だがまず眼が決定的に何時もと違う。不敵な笑みの中に秘められている闘気。普段の濁りきった目ではない。

 

 きっと彼の中で武道家としての、戦士としてのスイッチが入ったのだと鉄心は予想する。

 

 

 

 学長という立場からして、この2人の激突は止めたほうがいいのは分かっている。灯と項羽が本気で戦ったら川神学園が崩壊してしまう可能性がある。戦えない一般生徒が……いや、武術を嗜んでいる生徒でも巻き込まれて怪我を負ってしまうかもしれない。

 

 

 

 

 

 ただ、それ以上に2人の決闘が見たいという気持ちが強くある。

 

 若くして壁を超えている者同士の戦いなんて簡単に見れる物ではない。こんな弾けたカードを見逃してはいけないと、本能で訴えている。

 

 

 

 

 

 鉄心が出した結論。

 

 

 

 川神学園の生徒に被害が出そうならば、その時は身を呈して止めにかかる。それが学長として、この学園を預かる者としての責任だ。

 

 学園外に出るというならば、既に周りをグルリと囲んでいるヒュームを中心とした九鬼従者部隊が何とかするだろう。よって周辺住民に被害が出るという可能性も少ない。勝手に挑んでいく輩もいるかもしれないが、それは自己責任だ。

 

 それまではこの決闘を見届けようではないか。この勝負、茶々など入れずに見守ろうと…………決断を下した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「学園内に突入しなくてよろしいのですか?」

 

 

「構わん、このまま待機だ」

 

 

 

 九鬼従者部隊の1人、李が上司であるヒュームに確認を取る。

 

 対して彼は待機を命じる。命令を確認したら李はすぐに後ろに控えている従者達に伝達を開始した。これで従者部隊は誰一人として川神学園に突入しないだろう。

 

 今は……の話ではあるが。

 

 

 

 

 

 ――――項羽……想像を遙かに上回る戦闘力だな。

 

 

 

 ヒュームは目覚めたばかりの項羽の戦闘力を計り始める。

 

 とても覚醒直後の者が持つ武力ではない。いや、彼女にとって目覚めたばかりだからと言った理由で全力が出せない何てことはない。

 

 ただ単に気に要らない奴らをぶっ飛ばす存在、最強の英雄。強い理由なんてこれに尽きる。

 

 

 

 

 

 そんな英雄の前に立ちふさがる1人の人間。国吉灯を見てヒュームは…………

 

 

 

 ――――日向の孫はどこまでやれるかな?

 

 

 

 項羽に圧倒されるならば所詮その程度。まだまだ赤子であったと評価を下す。

 

 やりあえるならば、それでこそ自らのライバルであった血を継ぐ者としてマシな赤子であると認識する。

 

 灯の祖父である日向を超えるためにはこの壁は乗り越えなければならない。クローンの王を超えて見せろ。俺を楽しませてくれ。

 

 

 

 最強を守る老執事の瞳の奥底がギラリと光った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 灯は首を右に左にと、動かして軽いストレッチを行っている。今から軽く運動するかのような様子ではあるが、視線は項羽から決して外さない。外せない。

 

 気を抜いた瞬間、強烈な一撃を貰うことは容易に想像がつくからだ。百代にカウンターを決めた実力は間違いなく本物である。

 

 

 

 

 

 対して項羽。その様子で自分と対峙しているのが気に要らない。自分よりも高い位置で見降されているのも気に要らない。自分は覇王だ。覇王が下であること事態、許されないことである。

 

 

 

 

 

 だがそれ以上に楽しみにしている自分がいる。

 

 

 

 目の前の男、間違いなく強い。清楚の中で眠っていた時から薄々と感じていたが先の跳び膝蹴りを受け止められたことでそれは確信に変わった。

 

 受け止められた時、そのまま押し切れると思っていたが……灯は力負けしなかった。それどころか自分を弾き飛ばすという芸当までやってみせた。

 

 

 

 強者と戦うのは気分が良い。そしてそれを倒した時の快感を項羽は本能で悟っている。思わず笑みがこぼれる。どこまで自分を楽しませてくれるのだろうか?

 

 

 

「んっはぁ! この俺を楽しませてくれよ!!」

 

 

 

 足に力を込める。そして次の瞬間、灯の横に移動し、顎を目掛けて右のアッパーを放つ。本当に一瞬の出来事。圧倒的破壊力が込められている覇王の右を――――

 

 

 

「ほっ!」

 

 

 

 今度は肘で受け止める。だがそんなことで彼女は攻撃の手を緩めない。止められたと分かった瞬間、次の一手。左拳が飛んできた。

 

 それを腕でガードしようとしたが、力に負けて後ろに吹き飛ばされる。結果お立ち台から落下しグラウンドに着地することになったが、奇しくもそれは灯にとって好都合であった。

 

 

 

 お立ち台は余りにも狭い。とても2人が乗って暴れられる広さではない。何より狭すぎては出したい技も出せなくなってしまう、常にインファイト状態。間合いが取れないとなると単なる殴り合いだ。

 

 殴り合いは灯が得意としているフィールドではあるが、恐らく項羽も得意であると予想する。まだまだ底が見えない相手であるためバトルステージは広いほうが良い。勝負を焦る必要はどこにもないのだから。

 

 

 

 お立ち台から移動した灯を確認し、距離を広げることなど許さないと言わんばかりに項羽が反応。フィールドの事など一切考えていない彼女は灯が着地した瞬間、すぐさま詰めより跳び降りながら拳を振り下ろす。

 

 

 

「そう……急ぐなっ……よ!!」

 

 

 

 灯は更に後ろへステップすることで躱すが、項羽の勢いはとどまることを知らない。

 

 振り下ろした拳を逆方向に動かすことで裏拳、2発続けて放ってくる。その後も項羽は一切の加減をせずに、闘争本能のまま腕を奮う。右に左に、そのどれもが顔面を狙ってくる必殺のもの。何発も何発も、息を着かせる暇など与えない勢いで。

 

 

 

 

 

 並みの武道家ならばヒットした瞬間決着がつくであろう打撃を、灯は捌き始める。

 

 腕でガードする、顔を動かすことで直撃を避ける、手で払い飛ばす。拳の動きを目でしっかりと捉え的確な対応。遅れてしまえばその時点で主導権は項羽が握ることになる。彼女に握らせないためにも今は防ぐ時。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だが現状流れは項羽に傾いている

 息をつかせないラッシュ。決して反撃の隙を与えない。その時点で優勢なのは彼女だ。

 

 

 

 

 

 しかしこの嵐のような攻撃を灯は全て防いでいる。力に任せ突き破ろうとしても突破出来ない。何発と同じところに打ち込んでも崩せない。

 

 それを歯がゆく思ったのか、流れを完全に引き寄せようと考えたのか、右腕に気を集中し始め威力を高める。そして――――

 

 

 

「はァッッ!!」

 

 

 

 ライフルの様な右ストレートが灯に襲いかかる。ガードごと吹き飛ばしてしまおうと、灯を喰い破るための…………力に任せた一撃。

 

 

 

「おぉっと!」

 

 

 

 だが威力が高まったが故に生まれる隙。先ほどのラッシュ時より大ぶり。壁を超えていない者だったら小さな小さな物である。しかしマスタークラスの者が見ればそれは充分過ぎる隙だ。

 

 決して拳から目を離さなかった灯はこのライフルを回避。

 

 

 

「ぬ……ッ!?」

 

 

 

 躱されたことに項羽の眉がピクリと動く。ガードせずに避けてくることは考えていなかったのだろうか?

 

 対して灯はそのまま懐に潜り込み右手で項羽の襟を掴み取る。

 

 

 

「ッしゃぁ!!」

 

 

 

 項羽の体が浮く。服ごと強引に引っ張り上げ、彼女を背中から、受け身なんか取らせずに思いっきり叩きつける。余りにも無茶苦茶な一本背負いもどき。完全に力を物に言わせた技。

 

 

 

「ぐっはァッ!?」

 

 

 

 一瞬息が出来なくなる。背中から全体に向けて衝撃が走る。

 

 その衝撃に負けず、キッ! として目で灯を見る。いや、睨みつける。またも自分が見降ろされている。だが決定的に先と違うのは、見下されているように感じたこと。

 

 

 

「どうした覇王様? これでK.Oか?」

 

 

 

 この軽口も非常に腹立たしい。ニヤニヤした表情が一層項羽をイラ立たせる。怒りのボルテージが上がっていく。

 

 

 

「こっっっの!!」

 

 

 

 倒れたままの状態で足払いをし灯をコかそうとするも、これを軽くジャンプすることで彼は避ける。

 

 勝負はまだまだこれからだ。ただの1回背中から叩き落とされただけで決着はつかない。項羽はすぐさま起き上がり灯目掛けて跳びかかっていく。

 

 

 

 それを迎え撃つ。灯の右手と項羽の左手、屑の左手と覇王の右手が絡まりあう。超至近距離での力比べ。

 

 

 

「貴様には覇王とは何たるかを示してやる……ッ!」

 

 

 

 項羽の筋肉が唸りを上げ始める。清楚の頃から異常であった力いや、清楚時以上の力がここぞとばかりにが爆発する。

 

 

 

「……ッ! すっげぇじゃん……ッ!」

 

 

 

 彼女の力を直で受けることで改めて認識する。細腕が発するとは思えないほどの怪力。このパワーは尋常じゃない。自分が押されていくのが分かる。

 

 

 

 

 

 しかし灯の筋肉も負けじと膨らみ始める。ぶつかり合った当初は項羽が僅差で押していたのだが……完全に止まった。力が拮抗し始めたのである。

 

 

 

「面白い! 俺と力で張り合うか!」

 

 

「後で褒めてくれよ……ッな!!」

 

 

 

 同時に2人が笑う。

 

 その2人のパワーに耐えきれなくてか、グラウンドが抉れ始める。腕だけの押し合いではない。全身の筋肉をフルに使って相手を倒そうとしている。下半身にも力を込め相手に押されないようにと踏ん張り、相手よりも自分のほうが強いと示すために上半身が唸りをあげる。

 

 

 

 

 

 しかし拮抗は長くは続かなかった。

 

 

 

 

 

 肩よりも少し下の辺りで掴み合っていた両手が腰よりも下に移動、そしてその後――――

 

 

 

「オッッッラァ!!!!」

 

 

 

 項羽が投げとばされた。綺麗に宙で一回転して地面に叩きつけられる。

 

 

 

 項羽は一瞬何が起こったかさっぱり分からなかった。何故自分が地面に倒れているんだ? この覇王が力で負けてしまったのか? 仰向けで空を見上げながら現在の状況を理解しようとする。認めたくないないが、出てくる結論は1つだけ。

 

 

 

「この俺が……2度も投げ飛ばされただと!?」

 

 

 

 ありえない。自分は西楚の覇王なのだ。強いはずだ、天下を取るために生まれたはずだ。その目標があっさりと崩れ去ろうとしている。

 

 

 

「おいおいどうした? これじゃ覇王(笑)だぞ? やーいやーい」

 

 

 

 人を舐めきった表情で項羽を見降ろす灯。力比べの勝者は依然余裕綽々である。

 

 見え見えの挑発だが、この顔を見て項羽が噴火しない訳がない。

 

 

 

「許さぬ!!」

 

 

 

 怒りに任せて立ち上がる。項羽は既に激怒している。肉体的ダメージはそこまで入っていないだろうが、精神的ダメージは充分過ぎるほど受けている。自分が2回も遅れを取るなんてこそは許せない。

 

 

 

「こんの……無礼者がぁ!!!!」

 

 

 

 再度灯目掛けて、項羽が獲物を狩る動物のように襲いかかってくる。

 

 

 

「ん…………んんッ!?」

 

 

 

 立ち上がる時までは灯は余裕ぶった態度を崩さなかった。

 

 挑発は完全に成功。項羽の怒りは頂点に達しただろう。油断もしてはいなかった。ただ予想外だったのは、基礎身体能力が先ほどよりも跳ね上がってること。気付いた時は既に項羽は自らの間合いに入ろうとしていた。

 

 

 

「喰らうがいい!!」

 

 

 

 ダンプカーのようなブローが灯を襲う。これを何とか捌こうとするが……捌き切れない。遂に項羽の拳が灯を捕えた。

 

 この好機を覇王が見逃すわけがない。本能が訴えている。たたみ掛けろと……!!

 

 灯もすかさず立ち直す。この状況、無理やり攻撃に転じても押しこまれる可能性のほうが高い、と判断。最初のラッシュ時のように、ガードしたり避けたりしチャンスを待つ展開に持ち込もうと企む。

 

 

 

 しかしそれよりも項羽の攻撃のほうが早く、何よりも威力も上がっている。

 

 

 

 骨を折らんとばかりの、ガードなんて意味がない、1つ1つが必殺の域に達している右に、左と灯を攻め立て始める。

 

 強引に攻撃をねじ込んでいく。腕が目の前にあろうと関係ない。手のひらで捌いてこようとしても関係ない。ただひたすらに、力技で灯を倒そうとしてくる。

 

 非常に単純な攻め方、だがそれが防げない。対処しようがない。

 

 灯に項羽の拳が何度も入る。腹に、頬に、肩に、次々と打ちこまれていく。勿論クリーンヒットしない物もあった。だがその場合は次の一撃が入ればいい、と言わんばかりに次々と拳が飛んでくる。

 

 その繰り返し。項羽の本領が発揮され始めた瞬間であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「灯くんが……!」

 

 

「これは……」

 

 

「うん、このままだと国吉は倒れる……」

 

 

 

 2年F組の代表武士娘であるワン子、クリス、京がラッシュに持ち込んだ項羽を見て、押されている灯を見て決まったのではないか? と不安を抱き始める。

 

 

 

 ワン子とクリスは信じられない様子で、京は客観的に、あくまで冷静な様子。

 

 前者2人は項羽を2度地に伏せた灯を見て、これは勝ってしまうのではないかと期待していた。

 

 

 

 

 

 だが今はどうだろうか? 項羽の攻撃力が桁違いなのは見てわかる。武道経験者から見ればあの破壊力は異常である。それこそ百代とタメを張るぐらいなのではないか? そう思う程に。

 

 それを受け続けている灯が今現在倒れていないのは奇跡だ。だが奇跡は続かない。そのうち力尽きてしまう、そう3人とも思っていた。

 

 

 

 

 

 だが百代は感じていた。いや、直感で感じ取っていた。

 

 この勝負まだまだ続くと、ここでは決着はつかないと。

 

 

 

(このまま終わるような男じゃないだろ? 灯)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 遂に灯がよろける。足がふらつき後ろにと下がろうとする。

 

 その瞬間を見逃す程覇王は甘くない。

 

 

 

「これで……!!」

 

 

 

 ここで大技が入れば、ここでこの跳び蹴りが決まれば勝負が着く。そう確信する。

 

 

 

「トドメだ!!!!」

 

 

 

 高く、高く跳躍する。そして5メートルほどの高さからターゲットをロックオン。

 

 自分の攻撃をあれほど耐えたのは感心出来る。中々に満足できる戦いであったと、既に勝者の気分で最後の決め技を放とうと――――。

 

 

 

「超技! 覇王流せい……何!?」

 

 

 

 灯目掛けて跳び蹴りを打った瞬間、彼は笑った。さっきから何度も見ている不敵な笑い。相手を見下したような、人を喰ったような表情を。

 

 

 

「俺が倒れると思ったか? 残念でしッた!!」

 

 

 

 項羽は見誤っていた、この国吉灯という男のタフさを。

 

 あれほどラッシュを打ち込んでも倒れないとは想像もしていなかった。ダメージはあるだろう、骨も軋んだだろう、痛いと感じているだろう。だが倒れない。地面に伏すことなくしっかりと踏ん張っている。

 

 

 

 項羽は灯に大きな隙を与えてしまった、ラッシュを止めたことが原因。あのまま押しこんでいれば、もっと弱らしてから仕留めていれば、違った結果になったかもしれないが、時すでに遅し。

 

 

 

 彼女が跳び、落ちてくるのに合わせて灯も跳ぶ。体全体を捻りながら、勢いをつけて跳ぶ。

 

 

 

 

 

 項羽と灯、この2人が交差する。そして攻撃が直撃したのは――――項羽。

 

 

 

 対空撃技、メテオスマッシュが彼女の腹を捕える。

 

 

 

「ぐっがぁ!?」

 

 

 

 胴回し蹴りが綺麗に決まった。斜めに落ちていく予定だった項羽の体は方向転換。直角に落下しこの戦闘で3度目、背中から叩きつけられた。だが今回は腹へのダメージがとにかく大きい。これまで以上の衝撃と痛みが彼女を襲う。

 

 

 

 カウンターを決めた灯は美しい放物線を描きながらしっかりと両足で着地。両足が地に着いたのをしっかりと噛みしめた後、後ろで倒れているだろう項羽を見ようと振り向く。

 

 改心の一撃。間違いなくそう宣言出来る。動けないはずだと確信を持って見た光景は

 

 

 

「……く」

 

 

 

 片膝を立てて立ち上がろうとしている項羽の姿だった。

 

 

 

「…………マジか……やるなァ」

 

 

 

 灯も目を見開き驚いた表情を隠しきれない。口角こそ若干上がって笑っているようにも見えるが、それは引きつっているという表現のほうが合っている。

 

 

 

「一応聞こう。まだやる気か?」

 

 

「当然だ」

 

 

「ですよねー」

 

 

 

 未だ衰えない彼女の覇気と闘気を見れば一目でわかることだが、一応尋ねてもみた。結果は灯が予想した通りの物、戦闘続行だ。

 

 

 

「今のは……凄くキいたぞ……」

 

 

 

 今までとは違いゆっくりと立ち上がる項羽。視線は灯から外さずすぐに跳びかかっていきそうな気配ではあるが、意外に襲いかかっては来ない。ただ気を抜くつもりはない。いつでも動けるように、先のような動きにも対応出来るように集中力は乱さない。

 

 

 

「もはや容赦はせん!! 天誅を下してやる!!」

 

 

「天誅じゃなくて清楚ちゃん状態での罰ならば、受けるのも吝かではないんだけどなー」

 

 

「その余裕ぶった態度も今の内だけだぞ? スイ! 俺のところへ来い!!」

 

 

 

 項羽が雄たけびを上げるとその数秒後、正体不明の爆音が灯の背後から聞こえてきた。

 

 

 

「灯くん! 後ろ!」

 

 

 

 窓からワン子の声が響くのと同時に後ろを振り向いてみると、そこには超巨大なバイクがあった。しかも灯目掛けて突進してきてる。後1秒立たずに直撃してしまう、そんな位置に。

 

 

 

「いや! ちょッ!」

 

 

 

 一瞬の出来事に動揺を隠しきれない。油断はしていなかったが、まさか項羽以外の者が、いや物からバックアタックを仕掛けてくるとは思わなかった。

 

 避けるのは間に合わない。かといってこのまま当たるのは痛い思いをすることになるのでごめんである。だとすればやること、やれることは

 

 

 

「アァッ!!!!」

 

 

 

 バイクを受け止めるしかない。自らの筋肉をフルに使い、5人は乗れるであろうバイクを止めにかかる。ここで力負けして轢かれるわけにはいかない。歯を思いっきり食い縛り勢いを止めようと必死になる。

 

 

 

 その甲斐あってかほんの僅か、バイクの動きが停止した。しかしホイールこそギュルギュルと回っている。少しでも力を抜けば再度押されることは分かっているため、力を抜かずにそのまま横にロールすることで直撃を避ける。

 

 

 

「ハァ……ハァ…………誰だァ! 人を殺そうとした大馬鹿者は!?」

 

 

 

 顔をあげて運転している者を確かめようとする。

 

 しかしそこには誰も乗っていないではないか。突然の出来事が重なり、何が起こっているのかがさっぱり掴めていない。

 

 混乱している中、項羽の声が耳に入ってくる。

 

 

 

「おぉ! 来たかスイ!」

 

 

「お呼びですか?」

 

 

 

 彼女の言葉に反応するバイク。その無機質な機械音声、灯は聞きおぼえがある。つい最近……いや、昨日聞いた記憶が残っている。

 

 

 

「……清楚先輩のチャリか?」

 

 

「そうだ!! これぞスイスイ号の真なる姿!」

 

 

「皆さま、どうぞよろしくお願いします。…………チッ、轢き損ねたか」

 

 

「おいお前後でスクラップにしてやるから覚悟しとけよ」

 

 

「あぁ!? 上等だやってみろ塵屑野郎が!!」

 

 

「スイ! 今は俺がコイツと戦ってるんだ……さぁ! 武器を出せ!」

 

 

 

 灯とスイスイ号が激突しそうな様子を止める項羽。いや、獲物を横取りされそうなのを防いだと言ったほうが正しいだろう。

 

 

 

「……何をご所望ですか?」

 

 

「呂布の武器でいくとしよう、方天画戟だ!」

 

 

 

 武器名を宣言した瞬間、スイスイ号の横から1本の、槍のような物が出てくる。項羽はそれを手に取ると、感触を確かめるかのように横に一閃。良く手になじむ。使った記憶はないが、使い方は心得ている、体が知っている。

 

 

 

「さぁ行くぞ!! 国吉灯ぃ!!」

 

 

 

 お互いダメージは受けている。項羽に強烈な一撃を与えたことで現状ダメージレースを制しているのは灯であろう。しかし彼も何発か良いものを貰っている。勝利の女神はどちらに微笑むのかは未だ予想がつかない。

 

 闘志お互いに尽きず。第2R開始。まだまだ戦いは始まったばかりである。

 




 皆さんお久しぶりです。りせっとです。

 投稿期間空きすぎですね。私も書いている途中何書いていたか忘れてしまっていた程にです。

 感想、評価、誤字脱字報告、もっとこのようにしたほうが良いなどの意見等をいただければ幸いです。

 それではよろしくお願いします。

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