真剣で私に恋しなさい! ~Junk Student~ 作:りせっと
自らが絶対の信用を置く武器、方天画戟を手にし益々気が膨れ上がる項羽。
灯もその膨れ上がる闘気を前にしても一歩たりとも後ずさることはない。相変わらずふてぶてしい態度で相手を待ち構える。
お互い自分が負けることなど一切考えていない。
勝つのは自分、地面に伏す敗者になるのは目の前に居る奴。非常にシンプルな思考。
だが決闘ではこの思考こそが重要になってくる。誰が負けることを頭において戦う奴がいるだろう? 戦う以上勝つのは自分。敗北のビジョンが浮かんだ瞬間、それは現実になってしまう。
項羽と灯、2人とも自分の実力に絶対の自信があるからこそ怯まない。怯むはずがない。
仕切り直しとなったこの戦い。先に動いたのはまたもや項羽であった。
「んっはぁ!!」
彼女の細腕から振り回される方天画戟による打撃。手にしたばかり、そして自分の身の丈に近いほどある重量武器を使用しているのにも関わらず、武器に使われることなど全くない。しっかりと使いこなしている。
だがその攻撃、灯は見えていた。非常に鋭い物ではあるが、速度自体は素手の時と対して変わってはいない。
だからこそ破壊力満点の方天画戟を打ち落とすために拳を奮う。威力は――――互角。
ぶつかり合った瞬間、互いに弾き飛ばされ少々後退する結果となる。
しかし項羽は更なる一手を放つ。体を一回転させることで瞬時で体制を立て直す。それとほぼ同時に第2打、第3打と、手を緩めることなく襲いかかってきた。一切手を緩めずに苛烈に攻め立ててくる。
灯も負けじと連撃を次々と捌いていく。鍛え上げ続けてきた自慢の拳で武器を手にした彼女と対等に打ちあう。
項羽が振り下ろしてきた方天画戟を横殴りすることで強引にはたき落とす。武器の先端と拳が激突し衝撃波が生まれる。横の払い攻撃を蹴り上げることで軌道を大きくずらす。突きを強引に足で止める。互いに打ち負けず、事態は膠着し始めた。
数十撃打ちあいを繰り返したあたりだろうか?
徐々にではあるが、この状態に変化が表れ始める。
項羽の攻撃スピードがだんだんと速くなり始めたのだ。
彼女は手を抜いていて少しずつ本気を……なんてことはないだろう。
序盤に押され気味だったことも考慮すると、手を抜いて戦える相手ではないということは充分に理解出来ているはず。
だとすれば、戦闘能力が底上げされ始めた…………という何とも馬鹿げた考えが出てくる。
しかし過去戦場では無敵の強さを誇っていた英雄のクローンである。相手の強さに呼応して自分も更に強くなっていく……何てこともあるかも。更に強くなり始めた理由を無理やりにでも考えるのならば、これが妥当な結論かもしれない。
そして項羽が有利な面もある。リーチの差。彼女が振るう方天画戟は持ち主の身長とほぼ同じぐらいの長さと大きさだ。その全長から広い間合いを持っているのは言うまでもないだろう。
対して灯は懐に飛び込んでいかないとダメージを与えることが出来ない。相手を間合いに入れずに自由自在に攻撃出来る項羽と、嵐のような攻撃をかいくぐらない限り効果的なダメージを与える打撃が放てない灯、ここで大きな差が出ている。
「チッ……」
そのことを灯も分かっているのか、ただ武器をはじき返しているだけの現状に腹立たしいのか、表情が少しづつ曇り始めた。
このラッシュをくぐりぬけて一発入れようとするもリーチの差は大きく、武器を振り回すスピードも速い。どうしても後一歩が踏み込めない状態が続いている。
(このままじゃ埒があかねェ……これ以上焦らされるのは勘弁だな)
ここで灯はある決意。
もう既に30回は打ちあっているだろうか? それとももっと……? 正確な回数はもう数えられないが、項羽の一撃を今までと同じように拳で打ち返すと同時に、軽く後ろへ跳躍。そして少し距離を取ったと思いきや――――詰め寄る。
ロケットのように項羽目掛けて飛び出す。体制を低くし眼光鋭く、獲物を仕留めに向かう。
その動きに反応する項羽。当然のように迎撃に移る。己の武器である方天画戟を手足のように使いこなして目の前の男を倒しにかかる。大きななぎ払い――――
灯は裏拳を放つ。武器を外側に弾き飛ばして項羽に大きな隙を作ろうとする。方天画戟のリーチの長さを逆手に取る。長さがある分、体制を整える時間がナイフや素手に比べるとかかってしまう。
項羽は完全に方天画戟を使いこなしている。が、それでも少々の隙を作ることは出来るはずだ。
だがこの作戦、方天画戟を弾き飛ばすことに成功したとしても自分が飛ばされないことが重要になってくる。激突した勢いに負け、自分自身の体制が少しでも崩れてしまえば今までと一緒。また方天画戟VS素手の打ちあいの始まり。
だからこそ打ちあった後も今まで以上に四肢に力を込め踏ん張る。
方天画戟が灯の手に当たる。彼は力いっぱい外に弾き飛ばし、そして自分は項羽に向かう体制を構え続ける―――――
―――――ついに間合いに入った。
「しィ!!!!」
腹目掛けてのブロー。灯の狙い通り、項羽にこれを防ぐ術はなく綺麗に決まる。先ほど与えた胴回し蹴りに加えてのボディブロー。これでK.Oだ。
しかし1つだけ誤算があった。
「グッ!? …………なかなかの……攻撃だ」
項羽自身も相当タフであったということ。
彼女は後退もせず蹲るなんてこともなかった。表情を見るに相当効いているはず。しかし項羽はそのダメージを負っている体で、腹で、灯の攻撃を受け止め切ったのだ。
――――マジかよ……
灯の額に軽く汗が流れる、冷や汗だ。自分の強烈極まりない打撃を2度与えてまだ立っている。まさかここまで耐えてくるなんて思ってもいなかったのだ
その考えをすぐさま脳内から取り払い、左を打とうとする。が、項羽のほうが速い。
「んっ……はぁ!!」
近づいてきた灯に頭突きをお見舞い。脳が揺さぶられ、彼の動きを一瞬封じることに成功。方天画戟を振り回すには充分な時間だ。
重量武器が灯に再度襲いかかった。頭に直撃。頭突きよりもさらに強力な一撃が決まり、動きが止まるどころか体制がグラリと崩れる。そしてそれを見逃す項羽ではない。
鋭く重い、第二撃目が灯の横っ腹にヒット。吹き飛ばされ……いや、ぶっ飛ばされた。地面を超高速でバウンドしながらグラウンドの端に建っていた倉庫のドアを突き破って激突。最初の百代と同じような状態になってしまう。
「俺の強さ……思い知っただろう!」
頭突きからの2連撃が決まったこと、吹き飛ばされた灯を見て、決着がついたと確信する彼女。
1つ息を吐き、非常に満足そうな笑みを浮かべ勝利をアピールするかのように方天画戟を自らの頭上で軽く振り回し地面に叩きつける。
「うそでしょ……?」
「流石に……国吉でもこれは……」
「項羽……何て力なんだ……」
F組の武道3人娘はこの光景が冗談であってほしいと思っていた。ワン子、クリスに至っては目をまん丸と見開いて信じられない、そんな表情がありありと浮かんでいた。
彼女たちが……いやF組全員が抱いている国吉灯とは、簡単に言ってしまえばどんな状況でも何とかしてしまう、そんなイメージ。ここは少し風間とダブる所もある。
常に余裕があり、人を喰った態度を取り続ける。情けないところも多い、そして非常に気分屋だが、気分が乗ってくれればこれほど頼りになる奴はいない。
そんな灯が負けた? にわかには信じられない。口ポカーンと開けて倉庫のほうを見ている者、グラウンドで勝利の余韻に浸っている項羽を見る者、様々な反応を見せる。
「さぁ! 次はお前か? 川神百代!」
項羽が2年F組に居座っていた武神に目を向けた。
1番気になっていた奴は自分の部下になることを承諾せずに、無謀にも覇王に挑み玉砕した。
次は川神学園で最強を欲しいままにする川神百代がターゲット。挑発を隠さない目つきで睨みつける。
百代はその言葉に反応しグラウンドに飛び出す…………なんてことはしなかった。
何とも落ち着いた様子で項羽を見つめている。
「フフフ、待っていたぞ!! ……って言いたいところだが」
「? 何を言っている?」
「まだ決着、着いてないぞ―」
そう百代が言いきった瞬間、項羽の背中に大きな衝撃が走った。思いっきり何かがぶつかった、そんな感覚である。
ぶつかった物を確かめようと後ろを振り向く。すると足元にはサッカーボールが……
「な、誰だ!? この覇王にボールをぶつけた無礼者は!?」
怒りの根源を引き起こした者を探そうとするが、次に新たな物体が項羽目掛けて飛んでくる。バスケットボールだ。そして野球の軟式ボール。サッカーボールが2度目、3度目。挙句の果てには陸上部が使っているであろうハードルまでが飛んできた。
「えぇい! まどろっこしい!!」
項羽はまとめて吹き飛ばそうと方天画戟を振るう。
簡易的な竜巻を起こすことで様々なボールたちはそれぞれ散り散りとなり項羽に当たることなく天に舞った。その後にボールたちの出所を確認。
奇しくも先ほどまで彼女を務めていた男が居る方向と完全に一致している。
「国吉灯ぃ!!!!」
「はーあァーーい! お呼びで?」
何とも軽薄そうな声と共に倉庫の中から瓦礫を強引に吹き飛ばしつつ再度フィールドへ戻る灯。額から血が垂れている……先の攻撃は決して無視できない物であった。しっかりとダメージは体に蓄積されている。
しかし眼は死んでおらず、未だに戦う気満々だ。
灯が飛ばされた先は体育時や部活動時に使用する道具がしまってある倉庫であった。
そこに扉なんかもろともせずに突き破り、様々なボールなどがしまってある棚にぶつかることで漸く動きが止まる。
気絶することなく僅かな時間で起き上がり周りを見渡すと、サッカーボールが、バスケットボールが、転がっているではないか。それを見た順に蹴飛ばし始めたことが事の切っ掛け。あのまま勝利の余韻に浸らせるわけにはいかない。
「貴様……まだやるか?」
「これでくたばったら清楚ちゃんつまんないでしょ?」
「んは!! なかなか面白い! いいぞ、存分に遊んでやる」
灯はゆっくりと項羽のそばに歩いて寄る。制服の所々が破けているのは倉庫に突っ込んだことが原因であろう。
項羽は方天画戟を再度構え戦闘態勢に移行する。
だがピタリと、灯の足が止まった。まだ項羽と距離はある。近づかなければ彼女にダメージを与えるすべはないのに、だ。戦闘が怖くなったのか? いや、この男に限りそれはないだろう。
止まった……と思いきや、灯が一声。
「ワン子ちゃん! お嬢!」
「な……なに!?」
急に名を呼ばれたことでワン子の肩がビクリと上がる。驚きながらも呼ばれた理由を尋ねる彼女。驚きながらもクリスも声は上げない。が、灯から視線は外していない。
「俺の机の下にぼろーい袋が置いてあるだろ? それこっちに投げてくれ」
その言葉通り、灯の席の下……正確には机の横下。確かに袋が置いてある。昔の旅人とかが好んで使いそうな頑丈そうなズタ袋。
中身が何であるかを聞き返したかったが、今は緊急事態。ゆっくり会話している暇はない。ワン子がその袋を持ち上げて、窓から投げようと……いや、投げられなかった。
「え? ちょっ!? 重!?」
いざ持ち上げようすると…………あまりに袋が、いや袋の中身が重すぎてワン子の筋力では持ち上げることが出来なかったのだ。
「おい何やってるんだ犬! 遊んでいる暇は……重ッ!?」
クリスの筋力でも持ち上げることは不可能。ワン子がふざけているのかと思いきや、どうやら本当に重いらしい。
1人では持ち上げることは難しいし、投げるなんてことは持っての他。ならば2人の力を合わせればいい。
「クリ! 2人で持ちあげましょう!」
「そうだな」
「「せーの!」」
掛け声仲良く、2人の筋力が合わさって遂に灯のお目当ての物が持ち上がる。窓までトボトボと近づいていき――――
「行くわよ灯くん!」
「おゥ」
「「せーの!」」
ドサリッ! 灯の目の前に、とは行かなかったが、袋は彼が立っている位置から大凡左に10歩離れたところに落ちた。
それに目掛け走るのかと思いきや、未だに決闘相手から目を離さずに立ち止まっている。
「……襲いかかってこないのか? じゃじゃ馬?」
「誰がじゃじゃ馬だ! ……俺はそんな姑息なことはしない。お前が来たらその時叩きのめすだけだ」
「ハッ! 覇王さまイッケメーン」
灯はにやりと笑い、項羽から視線を外す。投げられた袋の位置へと足を運び始めた。ワン子とクリスにお礼の意味を込めて手をヒラヒラと振りながら。
袋の中身は何やらごつい金属の塊が入っている。それには大量の亀裂が入っている、欠けているところだってある。
塊は大きく分けて全部で4つ。そのうち3つは亀裂があり、大きな衝撃が加わればさらに亀裂が広がってしまいそうだ。
ではラスト1つは? 新品とは到底言えない状態ではあるが、大きな傷などはなくまだ使えそうである。
その1つを灯は取り出し自らの左手に装着する。
銀色の籠手と具足。これが正体である。
灯の祖父の武器である。それを受け継ぎ今は灯の武器だ。
今それらは満足に扱える状態ではない。装着したとしても灯の使い方に耐えられず、粉々になってしまうだろう。4つの内3つはそんな悲しい鉄屑状態。壊れているのではフルパワーは出せない。しかしそれでもだ、1つあるとないとでは大違い。腐っても灯の武器である。
装着が完了すると同時に再度項羽へと視線を合わす。
「待たせたな」
さもデートに遅刻したかのような態度で、灯は戦場へと帰還する。
こんばんわ。りせっとです。まさかここまで項羽戦が長引くとは思っていませんでした。私もびっくりしています。そして書くために清楚ちゃんルートを半分くらいやりなおしたのは内緒です。
感想、評価、誤字脱字報告、もっとこのようにしたほうが良いなどの意見等をいただければ幸いです。
それではよろしくお願いします。