真剣で私に恋しなさい! ~Junk Student~   作:りせっと

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27話 ~国吉灯の憂鬱~

「…………ッはぁー……」

 

 

 

 灯は大きくため息をついた。幸せが逃げるとかそういった迷信お構いなしに盛大にため息をつく。時刻はまだ朝の8時を少し過ぎたあたりだ。

 

 

 

 周りには学園に向かおうと登校している生徒たちで満ち溢れている。場所は変態橋。時間も時間のため生徒がこの橋に集中するのは必然だ。

 

 何人かは学園へ進む足を止め、今から起こるイベントを待ちわびている。

 

 その中には風間ファミリーもいた。ワン子は「頑張って―」と素直に応援、百代はニヤニヤと灯を見ている。京なんかは興味なさそうに見ているが、ファミリー皆が灯に注目している。

 

 もっとよく見てみると、灯が知ってる人たちが何人もいる。風間ファミリーを除くクラスメートは勿論、燕や源氏3人組。思いのほかギャラリーが多くなりそうだ。

 

 ギャラリーたちは今から何が起こるのかを知っている。いや、予想がつくといったほうがいいか。

 

 

 

 

 

 灯の10メートルほど前にはこの辺では見たことがない大男が行く手を阻むように立ち塞がっていた。身長は2メートルを超えていて、筋肉は鍛えに鍛えられている。何より日本人じゃない。

 

 

 

『いくぜイエロー! お前を喰ってのし上がってやる!!』

 

 

「むさい男が俺に近づいてくるんじゃねェェーー!!!!」

 

 

 

 灯が吠えた。こめかみに怒りのマークを浮かべながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 全ては項羽との戦いが動画サイトにアップロードされたことから始まった。

 

 動画が上がってから一週間後、テストも終わり後少しすれば夏休み突入だってところで灯の環境に変化が訪れる。

 

 動画のコメント欄に実際記載した者がどうかは定かではないが、灯と戦うために来たという日本人の武道家が1人現れた。

 まさか本当に来るとは思っていなかった灯は驚く。それはもう川神という土地が発する魔力に引き寄せられたんじゃないかという謎の発想をしたほどに。

 

 

 

 そこから怒涛の挑戦者ラッシュが始まった。初めて来てから今日まで毎日、休日など関係なく灯の目の前に武道家が現れ始める。日本人からそれ以外の国の人たちまで幅広く。

 

 中には俺が戦ってやるから俺んとこ来いや、と書かれた手紙まで届く。その手紙は当然無視、破り捨てた。

 

 

 

 最初はめんどくさいと思いつつも、比較的真面目に戦っていた。が、3日で飽きはじめて戦う事を拒否し始める。

 

 百代から見たらまぁ持ったほうだろうと、前に比べたら対戦を真髄に受けるようになったとのこと。

 

 灯からすれば今まで突っかかってきたのは百代とクリス、マルギッテぐらいだ。それが今や随分と挑んでくる者の範囲が広がった。

 

 

 

 

 

 そんな生活が始まって5日目。今日も挑戦者が現れる。

 

 

 

『貴様が国吉灯だな?』

 

 

「人違いだ」

 

 

 

 変態橋を渡ろうとした灯を待ち構えていたのか? 目の前にヌッと明らかにここら辺に住んでるとは思えない人物が話しかけてきた。しかもスラングで。

 

 一目で戦いにきた奴だと判断した灯は足を止めることなく、横を通り過ぎようとする。関わりたくないの気持ち一心で。

 

 

 

『嘘突くなよイエロー。髪色変わってってけどその面は国吉灯だろ』

 

 

 

 しかしそれを許すわけもなく、力強く肩を掴まれて進むことを強引に止められる。心底不機嫌そうな表情を浮かべて振りかえると対称的に大男はニタニタとした気持ち悪い笑みを浮かべて灯を見る。

 

 

 

『ちょっと相手をしてもらうぜ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして現在に至る。もはや戦いは避けられない。変態橋の入り口に堂々と立って、やる気満々な様子だ。

 灯から見れば果てしなく邪魔な存在であり、倒さなきゃ待っているのは遅刻と言う現実。これ以上遅刻したらそろそろ担任から強烈なお説教が飛んでくるのは明確、それは避けたい。ならば戦うしかない。

 

 

 

『そのすかした顔、ひんむいてやるからなぁ』

 

 

 

 そういって取り出したのは……

 

 

 

「何あれ!?」

 

 

「チェーンハンマーだ」

 

 

「そんなゲームにしか出てこない武器を使う人っているんだ」

 

 

 

 ワン子は見たことがない物に思わず声をあげて驚く。百代はそのワン子の疑問に答えて師岡はオタク心をくすぐられたのか、若干興味ありそうにチェーンハンマーを見つめる。

 

 

 

 チェーンハンマー。とどのつまりは鎖付きの鉄球だ。鉄球自体が相当な重量を誇っているためよっぽど筋力に自信がなければ使いこなせない。それどころか持ち上げることも出来ない。それほどの重量武器を使っているという事は、目の前の男の筋肉は飾りではないということ。

 

 

 

「京、あんな武器を使う武道家を知ってるか?」

 

 

「俺様より筋肉ありそうだし強ぇんじゃないの?」

 

 

「知らない。テレビでも見たことないから有名な人ではないと思う」

 

 

「つまりは灯を倒して名をあげようってやつか?」

 

 

「今灯は旬だからな。そう考える奴が出てきても不思議じゃない」

 

 

 

 クリスと京の脳内にヒットしない男だった、ならば風間の言うとおりこれから名をあげようとする新規の武道家の可能性が高い。

 

 そして大和が言うように灯は今話題の人物だ。

 

 項羽も同じように名が知れ渡ったが、早急に九鬼が項羽に戦闘禁止令を出したため戦えない状況にある。その矛先は全て灯に向かった結果がこの日常なのだ。 

 

 

 

『この一撃必殺の武器で俺は頂点に立つ!』

 

 

 

 ジャラジャラと音を立てながら男は自らの頭上で鉄球を回し始める。

 鉄球が数回転し始めた時には回転速度は相当なものになっており、この速度で放たれれば男の言うとおり、一撃必殺で相手を倒せる威力になっているだろう。

 

 

 

 灯はそれをつまらない顔を浮かべながら鉄球を目で追っている。戦闘の構えも取らずにだ。それは余裕の表れなのか、それともただやる気がないだけか……

 

 

 

『死ね!!』

 

 

 

 破壊力を溜めに溜めた高威力の一撃が灯目掛けて放たれる。放物線を描くことなく一直線に顔面目掛けて鉄球が走る。相手に顔面に近づいてくるという恐怖と威圧感を与え、当たればノックアウト確実。

 中距離攻撃というのもあり、何も相手にさせず倒すことだって可能かもしれない武器を使いこなして灯を仕留めに来る。

 

 

 

 対して灯、鉄球が男の頭上から離れた瞬間、手を力強く握りしめそのまま鉄球に合わせて自慢の拳を振るう。

 鉄の塊を自らの拳で抵抗するなど、一般人には到底出来ないこと。いや、鍛え上げた人でも出来るかどうか分からないことを平然とこなそうとする。自らが持つ破壊力に自信があるからこその選択だ。

 

 

 

 

 

 鉄球と拳、2つが激突する瞬間……男がニヤリと笑った。

 

 

 

『かかったなイエロー!!』

 

 

 

 カチリッと男が鎖の根っこあるグリップを……正確に言うならばグリップについているボタンを押す。

 

 

 

「え!?」

 

 

「棘が生えた!?」

 

 

「仕込み武器だったのですね……」

 

 

【ありゃー当たったら痛いじゃ済まなそうだぜ……】

 

 

 

 鉄球に大きくて、無骨で巨大な金属の棘がいくつもの飛び出してきて鉄球を覆う。言うならば剣山チェーンハンマー。

 

 鉄球の打撃力の他に棘による追加ダメージを狙っての物。

 それにあそこまでの棘を見せつけられれば生身の体で戦っている者は迎撃が出来ない。拳なんて振るったら指が棘で傷だらけになってしまい手が握れなくなる。痛みで攻撃力も落ちる。一度でもダメージを与えれば男の勝利はグッと近づく。

 

 灯はそのギミックを目で確認したが拳はもう止まらない。男は灯の手が血だらけのボロボロになる未来のビジョンが瞳に映っていた。これで勝ったと、もし立ち上がることがあっても自分の有利は確定……そう考えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だが壊れたのは灯の手ではない――――鉄球のほうだ。

 

 

 

 

 

『…………ハッ!?』

 

 

 

 拳と鉄球が激突した瞬間、鉄球が音を立てて崩れ始めた。ご自慢であっただろう、棘も拳が当たったところが拉げている。

 巨大な棘を見ても止められないのではなく、止めなかったのだろう。灯の拳は棘なんぞ気にもせず、力任せに砕いた。

 

 

 

「悪いなァ、ご自慢であろう武器は粉々だ。気持ち悪い顔が少しはマシになったじゃないの? その呆けた面のほうが似合ってる、無駄にニタニタして余裕ぶってと気持ち悪いったらありゃしない」

 

 

 

 ニタついた笑顔が一瞬で消えたことが面白かったのか、灯の表情にも笑顔が浮かぶ。しかしそれは不敵な笑み。そして言葉による暴力が容赦なく男を襲う。

 

 灯の言葉と表情を見て、男は先ほどとは違いイラ立ちを隠せない様子。歯をギリギリと鳴らし眼光鋭く灯を見る。

 

 

 

 そんな視線を気にする事もなく灯は男の元へ……行かずにある物を取りに行く。ゆっくりとした足取りで急ぐ様子もなく、目当ての物に手をかけた。

 

 

 

『……は? お前何やっているんだ……よ……』

 

 

 

 男は言葉を失くした。今目の前に広がっている光景が信じられないからだ。

 

 

 

 灯が手にしているのは道路標識。2人の子供が描かれており通学路であることを示している標識を灯が片手で強引に地面から引きぬき、自らの武器にした。

 

 標識を肩に掲げて重い物を持っているという様子は全く見せない。いや、灯からしてみれば大した重量じゃないのだろう。

 約2.5メートル、135キロもある物体を重いと感じさせないほどの怪力。男は今の自分では勝てないと感じるには充分過ぎた。

 

 

 

「さて、反撃すっから構えろよ。これ受け止められたら赤ペン先生が花丸くれるぜきっと」

 

 

 

 灯の言葉にハッとする。この男には勝てない、ならば逃げなければ。

 考えを即座にまとめ変態橋を渡ろうとする。灯がいる方向とは逆方向へ走ろうとしたが時すでに遅し。

 

 

 

 灯は3歩大きく踏み出して距離を詰める。口笛を吹きながら乱暴に標識を男目掛けて振るう。

 

 

 

『ぐっが!?』

 

 

 

 男の横っ腹に直撃し声にならない声が上がる。威力を相殺することも体で踏ん張ることも出来ない。結果は変態橋下の河に落ちるだけだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 河に落ちる音が耳に届いたことを確認した灯はまるで空き缶を捨てるように標識をぶん投げ、代わりに通学用のかばんを手に持つ。

 

 

 

「豪快過ぎるだろ」

 

 

「モモ先輩、それおまいう」

 

 

 

 灯からすれば手からビーム出す人間に豪快とか言われても納得なんか出来ない。淡々とした態度で百代を迎える。

 

 

 

「灯くん手は大丈夫なの!?」

 

 

「おーワン子ちゃん。俺の手を心配してくれるなんて本当にいい娘だなァ。だがご心配なく! 血ぃ1つ流れていないだろ?」

 

 

 

 拳を振るった右手を心配してくれるワン子に見せる。言葉通り、血の一滴も流れておらず、傷も付いていない。手が傷つかないと自信があったからこそ鉄球を拳1つで迎えうったのだ。

 ワン子はまじまじと灯の手を見る。本当に傷1つついていない。ワン子は思わず口元に手を持っていき、驚きを隠し切れていない様子を見せる。

 

 

 

「ず、随分頑丈な手ですね……」

 

 

【頑丈通り越してオラ呆れちゃうぜ……】

 

 

「俺の手を壊したかったらダイヤモンドで作った物で挑んで来いって話だ」

 

 

「それで倒したらダイヤをパクるんだろ?」

 

 

「当然」

 

 

 

 灯が言っていることも嘘ではないかもしれない。

 

 自信満々の笑みが主張している内容の信憑性を高めている。そして岳人のいうとおり、戦った分の利益を取りに動こうとしていることも冗談ではなさそうだ。

 

 

 

「しかし灯は今日まで全勝じゃないか。さっきの男も決して弱い訳ではないと思うんだが」

 

 

 

 この5日間、戦いを避けることが出来ずいやいやながらも律儀に相手し続けてきた灯。結果は全勝。全てが余裕をもった勝利を飾っている。

 

 

 

 クリスの言うとおり、挑んできた人たちは全員弱くはない。ワン子やクリスと言った実力者と戦っても善戦すると思うし、勝ってしまう人だって中にいるかもしれない。

 

 それを口笛を吹きながら倒してしまう灯の実力は相当な物だ。

 クリスを含めた川神学園生徒らはその強さを再認識した。百代が戦いたがっている理由も分かる。

 

 

 

 

 

 本当に、もう少し真面目になってくれればとクリスはいつも思っている。そうすれば誰がも認める素晴らしい好青年になるはずだ。クリスと同じことを考えている女子生徒はきっとたくさんいるだろう。

 

 

 

「うん、弱くはないと思ったのは私もおんなじ」

 

 

「燕、何時の間に」

 

 

「おはよーモモちゃん。灯くんも朝からお疲れ様」

 

 

「燕先輩。そろそろこの役割を変わってくれてもいいのよ?」

 

 

「灯くん目当てで来た人を奪う趣味はないし遠慮しとくよん」

 

 

「むさい男共はノーサンキューなんだがなァ……」

 

 

 

 顔をしかめながら戦ってきた人たちを思い出してみる。全てが男だった。生粋の女好きである灯には辛いイベントが続いてしまった。

 

 ブツブツと文句を言いながら、学園へと足を進め始める。

 灯が進むのを確認して、ギャラリーも本来の目的を思い出して登校を再開。朝から面白い物を見れたと観客は満足そう。不満足なのは灯だけだ。

 

 

 

「顔は良いから態度を改めればもっとモテると思うんだけどなぁ」

 

 

 

「無理だろ、絶対」

 

 

 

 年上2人からの評価は辛口である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 遅刻せず到着しこのままホームルームに……と思っていた灯、およびその他大勢の生徒たちの予想が外れることになった。

 

 全ては担任の梅子から伝えられた「緊急の全体朝礼だ。皆校庭に向かってくれ」その一言で2年F組は移動を開始。

 廊下に出ると他の生徒たちもぞろぞろと校庭に向かうため、足を進めていた。

 

 

 

 

 

 灯もチンタラと足を進めていると、知り合いの美人が同じようにゆっくりと歩いている。

 たくさん生徒がいる中でも目立つ女子生徒。目立つ理由は川神水を朝からと飲んでいるからだ。

 

 

 

「俺にも分けてくれよ弁慶。頑張ったご褒美をくれ」

 

 

「やーやー朝からお疲れ様……はい」

 

 

 

 灯の要望に答えてか、弁慶は自分が飲んでいた杯に川神水を継ぎ足してそのまま灯に渡す。それを遠慮なく頂き一気に飲み干す。それを恨めしそうに見る男子生徒が大勢いたがそんな視線なんか気にせず渡された川神水を飲む。

 

 

 

「これこれこの味! 美人からお酌されるし! このために頑張って戦った甲斐があったってもんだ」

 

 

「分かるよその気持ち。頑張った後の川神水はまた別格だよねぇ」

 

 

 

 アル中……もとい川神水中毒である2人は意見が一致するのは当然である。将来が不安な2人だ、今が幸せなら良いと考えている刹那主義者なのだろうか? 少なくとも灯はそうだろう。

 

 

 

 一杯飲み干して満足したのか、灯は杯を弁慶に返す。返された杯に今度は自分が飲むために川神水を満たす。ただ一気に飲み干すことはせずにチビチビと味わうように弁慶は飲み始めた。

 

 

 

「しかし灯も災難だね、急に有名になっちゃってさ」

 

 

「全くだ。そろそろファイトマネーを取ろうと思っている」

 

 

「川神で戦ってお金を取ることは難しそうだけど」

 

 

「九鬼と川神院が目ェ凝らしてるからな」

 

 

 

 眉間に皺を寄せながら戦って生活費を稼ぐことが出来ない現状を嘆く。

 

 川神は世界中から武道家が集まる街。腕に覚えがある奴らがたくさん訪れる。多くは川神百代を目当てとして来るのだが、正式な決闘である以上お金など取るのはご法度。戦って勝って得られるのはあくまで名誉だ。

 

 負けた相手からお金を取ろうと言う事を断じて許していない。九鬼が根を張る前までは親不孝通りでお金をかけた決闘が行われていたと噂があったが、九鬼が来た時点で完全に潰された。

 

 なので灯が言うように勝ってお金を得るためには自分にスポンサーを付けるしかないのだ。格闘王ミスマなどはそこからお金を稼ぎつつ、その強さから格闘王などという称号を得ている。

 

 

 

「俺に優しくねェ街だよほんと」

 

 

「夏休みに入ったら更に挑戦者は増えそうだし、こりゃーだらけ部は退部だね」

 

 

「俺から憩いの場を取らないでくれ……」

 

 

 

 真剣な顔で懇願している灯を見て思わず笑みがこぼれる弁慶。

 演技であろうその態度を見て思う事は本当にオンとオフで全く顔が違う。

 

 真剣な時と不真面目な時、その差が激しすぎるのだ。

 

 普段の灯ときたら、セクハラするはだらしない表情を浮かべるわ気まぐれだわでカッコ良さを台無しにすることが多い。

 

 

 

 それが戦っているときはどうだろう? 不敵な笑みが良く似合い、文字通り圧倒的な力で敵を叩きのめす。何より弁慶からみてその時の灯は活き活きしているように見える。

 

 ギャップが激しすぎるのだ。項羽と戦っているときは今までで1番カッコよく見えた。そのギャップにちょっと惹かれている自分がいるし、女の感という根拠が全く証明出来ないものであるが同じように惹かれている人たちだっていると思っている。

 

 

 

 

 

 だからもっとよく知りたい。その欲求が溢れてくるのは決まっていたのかもしれない。

 

 

 

「……ねぇ灯。夏休み入ったら遊びに連れてってよ」

 

 

「お! 何? デートの誘い? 弁慶ならウェルカムウェルカム」

 

 

「良かった。しっかりエスコートしてね」

 

 

「任せろ」

 

 

 

 まさかのお誘いにテンションが上がる灯。弁慶のような美少女が相手ならどこにでも連れて行く勢いだ。いや、どこにでも連れて行って見せる気概だ。

 

 弁慶も満足そうな表情を浮かべ、川神水を一口。

 

 2人はだらだらと話しながら校庭へと向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「全員集まったようじゃな」

 

 

 

 急な全体朝礼。恐らく朝礼をやると決めた張本人である学園長、川神鉄心がお立ち台へゆっくりと登る。目を左右に動かし、全生徒がいるであろうと確認しつつ満足そうに頷いた。

 

 

 

「さて、8月に川神院の恒例行事として川神武道会を開催しているのは皆知っておると思う」

 

 

 

 川神市では毎年8月の終わりに、夏の締めの行事としてか? それとも地域を盛り上げる為か? 川神武道会と言うその名前の通り、武道大会が開かれている。

 参加者は地元の人から世界で活躍する人たちまで幅広く集まっており、大きな盛り上がりを見せる行事だ。

 武道で街が盛り上がる限り川神の土地柄を表している。血の気がある奴らが多いのだ。

 

 

 

「去年無理やり参加させれそうになったよなー灯」

 

 

「どこぞの川神んちの長女にな」

 

 

 

 風間の言葉を聞いて昨年のことを思い出す灯。

 

 当時どうしても実力が見たいと思った百代は本人の許可を取らずに、参加受付簿に灯の名前を書こうとしていた。

 それを防ごうとする灯と、何とか大会に出てほしいと願う百代で一悶着あったのは良いかどうかは分からないが思い出の1つである。

 

 

 

「今年も例年と変わらず同じことをやろうとしたんじゃがな、義経たちが現れて、さらに項羽まで現れた。これでフツーにやろうとしたんじゃつまらん。だから規模をでかくすることに決めた」

 

 

 

 その一言で生徒たちが騒ぎ始める。ただでさえそこそこ規模が大きい武道大会をさらに大きくすると言うのだからどんな大会になるのかが気になって仕方ないのだろう。

 中には興味なさそうに、あくびをしながら聞いている生徒もいるが、約7割以上の生徒は目を輝かせ始める。

 

 

 

「犬、このことは知っていたか?」

 

 

「いや、全然知らなかったわ」

 

 

 

 クリスが川神院に住んでいるワン子に、このことを知っていたのかと尋ねるも、ワン子は本当に聞いたこともないと答える。その言葉にウソはなさそうだ。顔を見ればで分かる。非常に表情豊かな娘なのだ。

 

 

 

「そこで今回はいっそ若手で今1番強いのは誰かを決めてみようかと思ってな」

 

 

 

 鉄心の目がギラリと光った気がした。彼の言う事が本当ならば規模が大きくなるどころじゃない。世界中から最強の称号を取りに、若き猛者が川神に集合することになる。

 

 

 

「モモちゃん、このことは知っていた?」

 

 

「いや今初めて聞いた。しかし最強かぁー……ワクワクしてくるな」

 

 

 

 同じく3年生徒たちが固まっている場所で、燕がクリスと同じように百代に知っていたかと尋ねる。だが百代も知らなかったようだ。

 

 そして早くも百代のテンションが上がり始めた。現在最強の座についているといっても過言じゃない、川神百代が全力で戦える舞台が成り立つかもしれないのだ。

 

 

 

「ふっは! 最強を決めるとは面白い」

 

 

 

 百代以外にも既に闘志むき出しにしている生徒がいた。

 項羽だ。最強の英雄のクローンが暴れるにふさわしい大会になると思ったのだろう。ついさっきまでは葉桜清楚だったのが、急に入れ替わったことで驚く……いやビビっている生徒がいることなんかお構いなし。赤き目が輝き始める。

 

 

 

 

 

 鉄心が一呼吸おいて、威厳ある態度で大会名を口にする。

 

 

 

「”闘神トーナメント”これを大会名とする」

 

 

 

 この川神という土地が今まで以上に、戦場になることが確定した瞬間だ――――




こんにちわ。りせっとです。少しずつでも前に進んでいけたらと切実に思うようになりました。ちなみにこれで第2章完結となります。

感想、評価、誤字脱字報告、もっとこのようにしたほうが良いなどの意見や感想をいただければ幸いです。感想を読んだり、このようにすればいいのでは? と言われることは非常にためになります。

それではよろしくお願いします。

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