真剣で私に恋しなさい! ~Junk Student~ 作:りせっと
放課後、第2茶道室。
そこには現在灯、大和、2年S組担任の宇佐美先生がいた。大和と宇佐美は将棋を打って、それを灯はポテトチップスを寝っ転がりながら食べながら見ていた。
今3人がいるこの教室、どの部活動でも授業でも使われないので宇佐美が私物化してしまったのだ。そのおこぼれにありついたのが灯と大和。大和は1年生の時の担任が宇佐美であったので、直接宇佐美から誘われてこの教室に、灯は授業をサボって第2茶道室で昼寝していた所を宇佐美に見つかりそれからこの教室を使うようになったのだ。
「なぁお前ら、どうしたら小島先生落とせると思う?」
「その質問何度目だよ、もう諦めろって」
灯が呆れつつ宇佐美に目線を向ける。とても教師に向ける目ではないが宇佐美はそれを気にしない。
「人間諦めないことが重要だとオジさん思うんだ」
「もう50近くも案を出して実行したのに落とせてない、なのに諦めないって単語が出るとは……」
最初宇佐美からその質問を聞いた時は真面目に考えていた灯と大和だが、どんな作戦を考えてそれを実行に移しても全く上手くいかないのだ。
ここまで来ると宇佐美に気はなく脈もないと、考えるのが普通だが宇佐美は諦めていなかった。既に灯は諦めかけている。
「それは出した案がダメだったんだ。ホラお前たちさっさと案だせ」
「このオジさん全く現実見てねぇな」
「見たくないの間違いだと思うぞ」
パリッと灯がポテトチップスを食べる音が響く。
「このオジさんのどこがダメなんだ」
その言葉を聞いて灯は宇佐美の見た目や性格などなどを思い出してみる。
性格はだらしなくてズボラ、非常に怠慢である。宇佐美が行う授業と、この教室での態度を見ていれば怠慢であることは理解出来る。見た目も無精ヒゲが伸びて整えようともしていない。ついでにお金に関すること、学園から貰う給料に代行業をやり稼いでいるも、その稼いだ分使うので貯金ゼロ。
「全部に決まってるだろ」
灯が出した結論は間違ってはいない。
「だよなぁ……」
自分でもどこがダメ、いや全てがダメってことが分かっていたのでひどく落ち込んでしまった。
「涙拭けよヒゲ先生」
「ここまでやって仲が進展しないのも凄いよな」
灯と大和が知る限り、彼らが1年生の時から宇佐美は小島にアタックし続けている。いつからアタックしているか直接聞いてはいないが、きっと宇佐美と小島が同じ職場になってからずっとアタックし続けているのだろう。
「先生たちの飲み会をたくさん開いて、そこで仲良くなればいいんじゃないですか?」
大和が1対1ではなく、多人数いるとこで仲良くなればいいと提案するが
「それだと小島先生全く相手してくれなくなるんだよな、それとこの場じゃ敬語いらないって」
既に試してダメだったらしい。
大和は将棋を打ちつつまだ真面目に作戦を考えているが、灯はもう考えることを放棄したらしい。ポテトチップを眠そうに食べている。
すると3人はスタスタとこちらに向かってくる足音が聞こえた。
「ヒゲ先生に何か用じゃない?」
「通りすぎるだろ、こんな空き教室用ある奴いないって」
「何か部活で使う物とか取りに来たんじゃねぇの?」
誰もがこの教室には興味なくて通りすぎるだろうと思っていたが、その予想は裏切られることになる。この部屋の前で足音が止まり、扉が開いた。
「おー、いい感じの部屋にいい感じにだらけているね」
「お! 弁慶じゃん」
弁慶だった。いつも通りに手には瓢箪を巻きつけて、腰には盃を付けている。
弁慶は灯の向かい側に座り川神水を盃に注ぎ始めた。くつろぐ気満々らしい。
「私は決闘から逃げてきた。すると非常に落ち着けそうな場所が、いていいよね?」
やはり英雄のクローンと言うことで手合わせして欲しい生徒などが多いのだろう。しかし弁慶は怠慢な性格のためめんどくさがって中々決闘を受けない。なので断ることが多いのだが、中には強くお願いしてくる奴もいる。その人たちから逃げてきたのだ。
「ここはオジさんと国吉と直江の会議室だぞ」
「会議してる内容無意味なことばっかりだけどな」
「中身のある会話をした記憶がない」
ここで話す内容は残念なものばかりだ。
「だが弁慶が来た事でこの部屋に華が出たな」
灯は美人である弁慶が来た事で眠気が吹っ飛んだようだ。寝っ転がっていた体制からあぐらをかき体制を整える。
「灯がいるんだ、乾杯しようか」
スペアの盃に川神水を注いで灯に渡す。それを嬉しそうに灯は受け取る。川神水は酒飲みにとって嬉しいものなのだ。
「3人はいつもここでダラダラしてるの?」
「オジさんは生徒との触れ合いと言うお仕事中」
「現実の仕事から逃げてるだけだろうが」
実際宇佐美はやらなければいけない仕事をやらずにこの教室に来ることは多い。本人曰く、メリハリをつけてやるのが重要らしい。
「居心地が良さそうだ。私も気が向いたらここに来よう」
「ここに、だらけ部に入るためのテストだ。久しぶりの休日。さて何をする?」
宇佐美の質問に弁慶はすぐに答えを出す。
「朝から川神水飲んで、お昼にDVD見ながら川神水飲んで、夜に川神水飲んで寝たい」
「合格だな。こいつはかなりの逸材だぞ」
今の答えは宇佐美の合格基準を遥かに超えるものだったらしい。直ぐ様合格を出す。
「国吉、お前ならどうする?」
川神水をチビチビと飲みつつ、ポテトチップスを食べている灯に先ほどと同じ質問を投げかける。
「お昼の1時に起床。ボーッとしてたら1日が過ぎる。夜は酒飲んで寝る……ん、ポテチもうないのか」
「一部聞いてはいけないことを聞いた気がするが…最高だな」
「とても学生の行動とは思えないな」
灯が言ったこの休日の過ごし方、とてもじゃないが学生がするような行動ではない。もったいなさすぎる。
「アッハハハ、灯は面白いね」
ただ弁慶はこの灯の回答を気に入ったらしい。川神水も飲んでいるので上機嫌だ。
「お前と遊んだら面白そうだ」
そう言うと空になっている灯の盃に川神水を継ぎ足していく。
「将棋盤の上で川神水注ぐなよ」
「もうちょっとで決着つくからいいだろ、今回もヒゲ先生の負けで」
大和と宇佐美はこの教室に来た時、宇佐美が緊急で呼ばれない限り将棋を1局以上打っている。そして結果は毎回宇佐美の負けだ。その負けた分のツケがどんどん溜まっていっているが、宇佐美がそのツケを消化しようとする気は全くなさそうだ。
それに対して大和はそれを見逃している。宇佐美に頼みごとが出来た時にそのツケを楯に交渉する気であるからだ。
ちなみに灯は最初は宇佐美とも打っていたが、今では大和としか打たない。それもたまーにだ。その理由は簡単、灯が強すぎるからだ。宇佐美では相手にならない、大和も負け続けている。大和は勝ちたいと思って何ども特訓して挑んでいるのだが、それでも勝てない。
「今に見てろよ、ここから巻き返して…っ!」
「王手」
「……どうにもならないことってあるんだよな」
「諦めたらダメってさっき言ってたばっかりだろ」
「人間諦めが肝心なんだよ」
「おかしい、言ってることが180度変わっている」
決着が付いたらしい。結果は大和の勝ち、これも何時も通り。
「しかし川神水飲んでるとつまみが欲しくなるな、今度持ってくるか」
ノンアルコールいえど場酔出来る川神水だ。だんだんと食べ物が欲しくなってくる。
さっきまでポテトチップスを食べていたが足りなかったらしい。
「お、灯がつまみ持ってくるのなら私は来ないと行けないな」
「弁慶と一緒なら更に美味しく飲めるからな、つまみぐらい提供するさ」
「言うね~期待しちゃうよ」
弁慶はニンマリと笑顔を浮かべて川神水を飲む。本当に幸せそうだ。
灯と弁慶は飲みながら、大和と宇佐美は将棋を打ちながら、とりとめもない会話が日が暮れそうになるまで続いた。
ちなみに将棋は宇佐美の全敗。
◆
「すっかり日が暮れてしまった」
「時が過ぎるのは早いね」
「ずっと川神水飲んで将棋打っていただけでここまで時間が過ぎるとは」
日が暮れ、流石に帰ろうと思い3人揃って下駄箱に向かう。本人たちもこの時間まであの教室で過ごすとは思ってなかった。
「お、靴箱に手紙が」
弁慶が靴箱を開けるとそこには1通手紙が入っていた。
「古風なやり方だな、果たし状? ラブレター?」
灯の言う通り、この時代にしては随分と古いやり方である。勝負を挑む果たし状、交際を申し込むラブレター、どちらともだ。
「ラブのほうだ、しかも3年生。年上興味ないんだよねー」
「意外だな、年上の方が好みかと思っていた」
大和が弁慶の言葉に反応する。どうやら彼は弁慶は年上好きだと思っていたらしい。
「大した理由じゃないんだけどね、どーも気を使ってしまう」
「ほう、なら俺はどうよ? 気は使わない相手だとは思うぞ」
美少女、美女大好きである灯はすかさず自分を売り込む。
「う~ん、悪くはないけどもう少し分かり合ってからかな」
いくら灯が弁慶に好印象を持たれているとしてもまだ出会って2日目、弁慶がそういうのも納得である。
「まぁそうだろうな、これでオッケーとか言われたら逆に驚くわ」
灯も冗談で言ったのだろう、弁慶のその返しにも答えた様子はない。苦笑いして場を流す。
「ちなみに大和はどうよ、こいつも気は使わない相手だ」
「勝手に巻き込むなよ」
「大和も悪くはないけどなー」
大和も弁慶の中では評価は低くないらしい。流石人付き合いが得意なだけある。
「灯はモテてるんじゃない?」
「コイツの場合普段の行いがなぁ」
「大和クゥーーン、喧嘩なら買うぞ」
灯は顔は良い。それこそエレガンテ・クワットロに入ってもおかしくはないぐらいだ。だがその性格が足を引っ張っている。女子学生にセクハラするわ、基本自分勝手にしか行動しない人なのでエレガンテ・クワットロ入りは果たしてない。
灯が大和にアイアンクローをしようと手を伸ばしたところで校庭から大歓声が3人の耳に届いた。
昨日の昼休みから義経との決闘が盛んになった。それは放課後にも行われており、今日の放課後にも行われているようだ。
「お、主が頑張ってるな」
「よし、行ってみよう」
弁慶が義経の勇士を見ようと動き出した、大和がそれに便乗して校庭に移動した。灯のアイアンクローなんか喰らいたくないからだ。
「ち、逃がしたか」
灯は引きつった顔をしつつも、弁慶と大和に続いて校庭に移動した。
◆
3人が校庭に出た時決闘はまだ行われていた。義経と決闘しているのはワン子だ。
「お、決闘してるのワン子ちゃんだ」
「本当だ」
ワン子は手数多く薙刀を振って義経に攻撃を仕掛ける。薙刀を振るうスピードはとても早い。風を起こすかの様な勢いで薙刀を振るい続ける。
だがそれを義経は冷静に受け続ける。しっかりと自慢の刀で迫りくる薙刀を捌いて反撃のタイミングを伺っている。刀と薙刀がぶつかり合うことで火花が散る。
ワン子も同じくタイミングを伺っていた。狙うは義経が捌ききれないほどの強烈な一撃、それを放つ。そのためには多少の隙を作らないといけないのだが、義経にその隙はない。
(このままじゃ埒があかないわね……っ!)
義経との打ち合いの中ワン子は焦っていた。義経の捌くスピードが上がってきているのだ。このままだと押し切られる可能性が高い。それならばここで仕掛けて取りに行くしかない。
ワン子は薙刀の切り上げ攻撃を仕掛け、義経に下で薙刀を受けてもらう。その瞬間素早く薙刀を引き、すぐに叩きつける一撃を放つ。
(これはガード出来ないはず!)
「ワン子ちゃん焦っちゃダメだろー」
灯はワン子の行動を見て確信した。この勝負義経の勝ちだと。
義経はそれを受けることなくバックステップし、高威力の攻撃を避ける。そして直ぐ様ワン子の懐に入り逆に一撃を与える。
「っうわぁ」
それが見事に決まりワン子は倒れる。決着が付いた。その瞬間ギャラリーのテンションは最高潮になった。
ワン子が今日の義経最後の相手だったらしく、試合が終わって30分しないうちに大量のギャラリーはいなくなっていた。
ワン子と義経、それにワン子の決闘を見ていたクリスと京がグラウンドの端で談笑している。それに灯と弁慶、大和は近づいていく。
「あ、大和! それに灯くんに弁慶も」
近づいてきたことにワン子が気づく、それに続いて残りの3人も灯たちがいる方向へと目線を向ける。
「ワン子ちゃん最後焦ったな」
「そうね…」
ワン子は落ち込んでしまう。やはり負けたことが悔しいらしい。
「灯ならどうやって捌く?」
灯の強さだけは認めているクリスが対処法を尋ねる。
「ふむ、ワン子ちゃんの立場で言うなら1度薙刀で大きく弾き飛ばして体制を立て直すべきだったな。義経ちゃんの打ち合いのスピードが早くなってきてたから仕切り直すためにな。その後はリーチを活かして牽制しつつ、隙が出来たと思ったら突き技で攻めるべきだ。刀では切り返しにくいしな。薙刀のおお振りは隙が大きいから義経みたいなスピード重視の相手にはあんま出さない方がいいぞ」
灯が丁寧に対処法を言う。その対処法を聞いて皆は感心する。
「びっくりするぐらいしっかり見ているね」
「なるほどね、次戦う時の参考にするわ!」
京は灯がここまで詳しく解説してくれたことに多少驚いている。ワン子は素直に参考にするようだ。
「義経は驚いている。灯くんは随分分析が上手いんだな」
「ふーん、灯やるなぁ」
「これでワン子ちゃんが強くなれば俺の戦闘での出番が減って負担も減りそうだし」
「少しは見直したかと思えば」
クリスも対処法を聞いて内心驚きつつも呆れた表情をしている。どこまでもだらしない男だと。
先ほどの戦闘の感想を言いつつ帰るために校門へ足を進める。すると校門である人物にあった。
「ふははーさらばだー」
九鬼紋白だ。S組のクラスメートに向かって手を振りつつ見送ってる。近くにはクラウディオが紋白を迎えに来ている。
「おぉ義経! 弁慶!」
校門から出てくる義経と弁慶を見つけて彼女らがこちらに来るのを待つ。
そこで周りにいる人たちを紹介してもらおうかと思っているのだ。
狙い通り紹介してもらう。ワン子にはちょっと突っかかりそうになったがそこはクラウディオのフォローで事なきを得た。京には名刺を渡して九鬼に来てもらおうとする。クリスには挨拶しただけで何もなかったが、それは彼女が将来ドイツ軍に所属することを知っているからだろう。大和も挨拶されただけで大きな出来事はなかった。が
「それでこちらが国吉灯さんだ」
「どうも、これからよろしくな。ちびっ子」
灯は紋白のことをちびっ子と呼んだ。理由は簡単、紋白は身長が低いからだ。何せ2年S組のロリコンが忠誠を誓うほどの存在、身長も小さいに決まってる。
「む、我のことをちびっ子と呼ぶでない!」
紋白はその呼び方が気に入らなかったのか、訂正するように求めたが
「つってもなーちびっ子はちびっ子だし」
灯は呼び方を変えない、そして様付けをする様な男でもない。英雄ですらキンピカと呼んでいるぐらいなのだから。
「うー」
紋白は唸る。反論したいところだが、自分が背が小さいことは紋白自身良く理解しているからだ。
「これから大きくなることを期待してるぜ」
間違いなく将来を見越しての発言である。
「国吉様、紋白様のことは紋様と呼んでいただけませんか」
クラウディオが灯にそうお願いするもあまり効果はないと思っている。この男が簡単にこちらに従うとは思っていないし、灯のヘラヘラした顔がより一層従わないと語っている。
「まぁ、気が向いたら呼ぶ」
気が向くことはないと、この場にいる全員がそう思った。
「むー……仕方ない。今日のところは引き上げよう」
紋白はこの場は諦めて帰ろうとする。この後もスケジュールが詰まっているのだ。ここで大きく時間を取られると後後大変になってくる。
義経たちも紋白に続いて帰るようだ。校門前で別れた、また明日、と。
「んじゃ俺も帰るかな」
灯も大和たちと別れて帰宅する。大和たちが住んでいる島津寮とは方向が違うのだ。灯は帰りながら考える。今日晩飯作るのめんどくさいな。
感想、評価、誤字脱字報告、もっとこのようにしたほうが良いなどの意見等をいただければ幸いです。
さて、日常多めで行くか、イベントちゃっちゃか進めるか迷いますね。