真剣で私に恋しなさい! ~Junk Student~   作:りせっと

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5話 ~国吉灯、本音を語る~

 時は深夜と言ってもいい時間帯、場所は川神院より少し離れた森の中。そこに2人の姿が見える。

 

 1人は川神院の総代川神鉄心、もう1人は九鬼家従者部隊の永久欠番であるヒューム・ヘルシング。川神院で酒を飲みながら今の武道家たちの現状について語ろう、と思った時にヒュームがある物音と気配をキャッチ。その正体を確かめようと思い、音のする方へ、気配のする方へと向かっていた。

 

 

 

「お主よく気がついたの」

 

 

「お前が気を張ってないから気づかないだけだろ」

 

 

 

 2人は無駄口を叩きつつも森の中を進んでいく。進むにつれて物音と気配が大きくなってくる。気配の正体は人だ。人が何かをやっているのだと感じ取れる。さらに進んでいくと音の正体も分かってくる、人の呼吸音だ。

 

 森を進んでいくと少々広い広場に出た。木で周りが囲まれていて、木がないところはぽっかりと穴が空いているように思える。そしてその中心には2人が予想通り人がいた。

 

 そこにいた人物は6月だというのに上はタンクトップ1枚だけでいる。下は有名メーカーのジャージを履いているがこの時期の服装ではない。だが寒そうには見えない。なぜならばその人物の顔、いや体全体汗だらけなのだから。

 

 汗だらけで何をしていると思えば腕立てだ。逆立ちをして右手だけで腕立て伏せをしている、しかも非常にゆっくりとしたペースで、姿勢良く。

 

 その姿を見て鉄心は目を少しだけ大きくして、声を出さずに驚いた。いや、鍛錬していることに対して驚いているわけではない。鍛錬している人物を見て驚いている。

 

 鉄心に対してヒュームは反応と言う反応はせず、ただその鍛錬している姿を見ている。ジッとその者の動き1つ1つを確かめるかのように。

 

 

 

 

 

 鉄心とヒュームがその姿を見続けて大体3分ほどたっただろうか。その人物は足を地面につけ、腕立て伏せをやめる。そして1回大きく息を吐いたあと、鉄心とヒュームのほうに視線を移す。どうやらそこに2人がいたことに気づいていたようだ。

 

 

 

「何のようだ」

 

 

 

 その人物は国吉灯、川神学園を代表する有名人の1人。その表情はいつも学園で見る表情とは違う。目を鋭くさせ、まるで鉄心とヒュームを威嚇してるかのようだ。

 

 

 

「ふん、少し物音と気配を感じたから何者だと思ったら…貴様がいただけのことよ」

 

 

 

 ヒュームが灯に怯えることなく答える。不敵な笑みを浮かべて何とも余裕そうだ。彼はちょっとやそっとじゃ怯えたり何かしない。九鬼家従者部隊永久欠番はどんな相手を目の前にしても常に余裕を持っている。

 

 

 

「まさかお主がこんなところで鍛錬しているとはの、考えもしなかったわい」

 

 

 

 鉄心も怯えることなく灯の問いに答える。鉄心もちょっとやそっとじゃ怯えたりはしない。だが表情はヒュームと対して随分真面目だ。

 

 灯はその2人の答えを聞くと2人から視線を外し、近くの木に置いてあるスポーツドリンクを一口飲み、タオルで顔と上半身の汗を拭く。その後履いているジャージと同じメーカーである長袖のトレーニングジャケットを羽織り、鉄心とヒュームがいる方向へと向かう。

 

 

 

「2人共俺に話したい事が出来たろ? 俺も聞きたいことがあるんだ、ここで話すのもなんだから場所を移そう」

 

 

「それは構わんが、お主もういいのか?」

 

 

「今日やろうと思ってたメニューは全部やった。問題はない」

 

 

 

 灯がズバリと言い切る。何の問題もない、そんな雰囲気が出ている。

 

 

 

「なら川神院に行くかの」

 

 

「モモ先輩とかワン子ちゃんが来るとかないよな?」

 

 

 

 この2人とは別段仲が悪いわけじゃない、むしろ仲は良い方だと思っているし周りもそう認識しているだろう。だが今回は川神院に住んでいるクラスメートと先輩には会いたくないらしい。

 

 

 

「そこは大丈夫じゃ、2人共寝てるだろうしの」

 

 

 

 それはいらぬ心配らしい。ワン子は規則正しい生活をしているためこの時間は寝ている。百代は夜更かしすることもあるが、ヒュームが川神院に訪れた時に来なかったので寝ているのであろう。

 

 この2人が起きてこないとなれば話は早い。鉄心、ヒューム、灯の3人は川神院目指して森の中を歩く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 川神院に着いた3人は縁側に腰をかける、今川神院は誰1人として鍛錬していないので非常に静かだ。ここでなら落ち着いて話すことが出来る。

 

 

 

「さて…鉄心さん、ヒュームさん、何が聞きたいんだ」

 

 

 

 最初話しを切り出したのは灯だ。片膝を立て、態度悪く座りながら質問は何かと問う。

 

 

 

「そうじゃの、幾つかあるが…何故あそこで鍛錬をしているんじゃ?」

 

 

 

 森の中、一般人は深夜近づくこともない場所で何故鍛錬をするのか。もっともっと広い場所で鍛錬すればいいのではないか。

 

 鉄心としては灯に是非川神院で鍛錬をして欲しいと思っている。灯は強い、その強さは修行僧にいい働きをかけてくれると信じているからだ。ただ普段の態度を見て、真面目に鍛錬する奴ではないと判断しており、直接誘いをかけることは今までなかったのだ。

 

 だが今日の鍛錬の様子を見てその考えは一変した。それほど灯の鍛錬している姿が真剣だったからだ。

 

 

 

「簡単な理由だ、人に見つかる心配がないからだな」

 

 

 

 人には他人に見られたくない姿がある。それは趣味だったり、と理由はそれぞれ個人差はあるが、灯にとって鍛錬していることが他人に見られたくない姿だ。その強さをキープする、さらに鍛える、その努力している様子を他人に見られたくないらしい。

 

 

 

「まぁ今日見つかってしまった訳なんだがなぁ」

 

 

 

 半目でやってしまった、そんな表情をしている。

 

 

 

「ここで1つお願いなんすけど」

 

 

「分かっておる、誰にも言わん」

 

 

 

 鉄心は灯のお願い事をすぐに理解したのか、答えを先回りして言う。それと同時に灯は川神院で一緒に鍛錬してくれることはないだろうと思った。口止めをお願いするぐらいだ、修行僧が大勢いる川神院では絶対鍛錬しない。

 

 灯は鉄心の答えを聞いてすぐにヒュームに目線を移す。

 

 

 

「心配するな、俺も誰かに言うつもりはない」

 

 

「なら良かった」

 

 

 

 ヒュームも言うつもりはないらしい。灯はそれを聞いて安心したのか、表情が随分柔らかいものになった。

 

 

 

「国吉灯、その名前を聞いてピンときたぞ」

 

 

 

 今度はヒュームがゆっくりとした口調で話しだした。その口調に比例してなのか、いつもの威圧感がいくらか抑えられている。

 

 

 

「国吉日向、貴様あいつの孫か」

 

 

 

 国吉(くによし)日向(ひゅうが)。灯の祖父である。どうやらヒュームの知り合いだったらしい。

 

 

 

「もう死んでいるがな」

 

 

 

 だが灯の祖父は既に他界していた。ほんの3年ほど前の話である。

 

 

 

「当時はあの超人の様な男が死ぬとは思ってなかったわい」

 

 

 

 鉄心も灯の祖父の知り合いだ。

 

 そしてこの3人、鉄心とヒュームと日向、彼らは若い時ライバルだった。歳を取るにつれて直接戦うことはなくなってきたが、3人で競い合ってきた思い出は忘れられるものではない。

 

 その思い出が邪魔してか当時、国吉日向が死んだと言う報告が2人の耳に入ったときは2人揃って非常に驚き、動揺するものだった。

 

 

 

「俺もそう思っていた、だが病気には勝てなかったようだな」

 

 

 

 日向が死んだ理由、それは病気、癌だ。灯は最後に祖父を見た時のことを思い出した。日向が横たわっている、その姿は鮮明に覚えている、なぜならば横たわっている祖父を見たのはあれが最初で最後だったからだ。

 

 

 

「爺さんには結局1度も勝てなかった、勝ち逃げされっちまったんだ」

 

 

 

 灯を鍛えた者、それは祖父である日向だ。多少は自分なりにアレンジしたところもあるが、今の灯の戦い方の基本は全て日向から教わっている。

 

 

 

「なぁ鉄心さんとヒュームさんは爺さんと戦ったんだろ」

 

 

「あるぞ」

 

 

「数え切れないほどな」

 

 

「……強かったか?」

 

 

 

 今度が灯が問う番。それが灯が唯一2人に聞きたかったことである。その質問に対して

 

 

 

「文句なくあやつは強かったぞ」

 

 

「俺が認める数少ない強者だったな」

 

 

 

 そして2人の答えは一緒、強かった。2人の頭の中には日向と戦った記憶が蘇っていた。いくら攻撃しても倒れない、非常に豪快な戦い方だったと。

 

 ここまでの会話の流れは非常に淡々としていた。誰1人ここで日向の死を悲しんではいない。

 

 

 

「そうか、それが聞ければもう充分だ」

 

 

 

 灯は数少ないやり取りの中で自分が知りたいことが知れたらしい、少し満足そうだ。

 

 その様子を見て鉄心とヒュームはあることを確信する。

 

 

 

「お主が鍛錬しとる訳は日向を超えるためか」

 

 

「……そうだな、もう死んじまったから比べることが出来ないけど」

 

 

 

 祖父に勝ち逃げを許してしまったのは灯の心残りだ。

 

 

 

「どうやれば爺さんを超えたことになるかは分かっていない、それでも俺は爺さんを超えたい。勝ち逃げは許さん」

 

 

 

 祖父が生きていた時は今度は勝てる、今度こそ勝てる、毎回そう思って挑んでいたが、それが出来なくなってしまった。死んだ者を超えることは出来ない。それでも灯は鍛え続ける、祖父を超えるために。

 

 祖父にかけた最後の言葉は勝ち逃げするのかよ!! だったなぁと、灯はふと思い出した。

 

 

 

「……鍛え続ければその内、答えも見えてくるだろう。それまで気を抜かないことだな」

 

 

 

 ヒュームが言うまでもない、灯はこれからも鍛錬はしていくだろう。この世にいない祖父の背中を追って、その背中を超えるために。

 

 

 

「ま、爺さんと俺の話しはこれでいいだろ……おっ!」

 

 

 

 話しを強引に区切って終わらせる。それと同時に灯は何かを見つけた。腰をつけたまま、見つけた物をとるために体ごと大きく手を伸ばす。

 

 

 

「これ、良い酒あるじゃん!」

 

 

 

 灯が手にしているのは七浜地酒。川神が産地ではないが充分な名酒だ。

 

 

 

「そう言えば飲もうと思った時に出てきたんじゃ……お主なんじゃその顔は」

 

 

 

 灯はニンマリとした顔で鉄心のほうを見ている、そして灯が要求することは1つ。

 

 

 

「これ飲もう」

 

 

「お主わしが誰だか分かって言っとるんかの?」

 

 

「何て図々しい赤子なんだ」

 

 

 

 2人は呆れている、未成年である灯が飲酒しようとしているのだから。

 

 

 

「別にいいだろ、今夜は無礼講ってことで」

 

 

 

 鉄心の許可を待たず既に灯は瓶の蓋を開け始めている。そして酒と一緒に置いてあった盃に酒を注ぎ始めている。3つの盃は酒に満たされ、灯はそれを鉄心、ヒュームに手渡し、もう1つは自分の手の中ある。もう彼の頭の中は酒で占められている。

 

 

 

「さ、乾杯乾杯」

 

 

「……今回は見逃してやるかの」

 

 

「……まぁいいだろ」

 

 

 

 

 

 こうして夜は過ぎていく。

 

 途中川神院師範代であるルーが来て灯が酒を飲んでいることに驚きつつ、取り上げようとしたが鉄心とヒュームに丸め込まれるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして酒を飲んだ次の日。

 

 

 

「っふぁー」

 

 

 

 何とも情けない声を出して起きてきたのは灯だ。昨日時計の針がてっぺんを超えた後も飲み続けていたこともあって、いつも以上に欠伸が出てだらしない。目を半分しか空いてない、このまま二度寝する可能性も充分にある。

 

 そしていつもの習慣なのか、時計を見る。灯は遅刻する回数は少なくはない、起きる時間によって朝ごはんを食べるかどうか、朝にシャワーを浴びる時間があるかどうかを確認するためだ。

 

 今回の時刻は

 

 

 

「…………1時?」

 

 

 

 おかしい、と、灯は思った。

 

 なぜならば灯が川神院を出たのが1時、そして今も1時。一緒の時間に見えるが違うところがたくさんある。外が明るいとか、1時と13時とか、PMとAMとか。

 

 今回の1時は寝る時間ではない、そして学園に登校するには遅すぎる。

 

 

 

「ふむ…………」

 

 

 

 この後灯が決めたこと、今日は学園をサボる、だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時は放課後、場所は川神学園の賭場、そこに灯はいた。

 

 結局灯は今から行っても怒られるだけ、と判断し昼ごはんを食べてゆっくり過ごそう。そう思ったのだが暇なものは暇、なので放課後に学園に行こう、と思って放課後賭場に顔を出したのだ。

 

 川神学園には賭場がある。そこで賭ける物は現金であったり、学食の食券であったり様々である。賭ける物は学生内で決める。

 

 賭場は本来あってはいけないものだし、賭け事はもっとこそこそと隠れてやるものなのだが、そこは川神学園、普通とは違う。川神学園ではそこで社会の厳しさを学んでもらおう、と考えており教師たちは賭場を黙認してるのだ。

 

 

 

「ほぉーれツモだ。4000、2000」

 

 

 

 灯がやっているのは麻雀。ギャンブルゲームでは非常にオーソドックスなものだ。

 

 

 

「うわ、また国吉がツモったのかよ」

 

 

「クソ、親っかぶりじゃねぇか」

 

 

「国吉先輩強すぎ……」

 

 

 

 灯がツモったことに他の3人から文句が出る。どうやら今現在灯の1人勝ち状態らしい。

 

 

 

「悪いな、今日は馬鹿ヅキだわ」

 

 

 

 1人勝ちの状況が嬉しいのか、灯はニヤニヤしながら牌を混ぜる。他の3人は不機嫌そうに牌を混ぜている。

 

 ちなみに現在のレートはリャンピン(1000点で200円)で行われている。学生が賭けるには高いぐらいである。大負けすれば5000円以上財布から飛んでいくことだってある。そこそこのレートでやっているので、灯とやっている3人は決して弱くない。が

 

 

 

「ロン、チッチー(7700)だ。これで終了だな」

 

 

 

 今回は灯に運が向いた。麻雀は実力3割、運7割と言われているゲームである。実力3割は灯を含めたこの4人、そこまで大きな差はないが、7割を占める運は灯が根こそぎ持っていったようだ。

 

 

 

「うわ……ボロ負けだ」

 

 

 

 1人が灯に樋口を1枚と夏目を1枚投げる、彼が1番負けた。そしてその場を立ち上がり麻雀卓から出る。

 

 

 

「だーめだ、今日こそ灯に勝ちたかったが……」

 

 

 

 彼は灯に毎回挑んでは負けている。今日こそは、と意気込んで挑んだものの負けてしまったらしい。

 

 

 

「なんだったら次はポーカーとかブラックジャックでもいいぞ」

 

 

「冗談言わないでくれ、今日はもう金ねぇし帰るよ……」

 

 

 

 灯は次の勝負を持ちかけたが、どうやら無駄だったらしい。大負けした彼はバックを持ち、落ち込みながら賭場を後にした。

 

 

 

「流石賭場で支配人って呼ばれているだけありますね、今日身にしみましたよ」

 

 

 

 後輩が言った支配人、賭場で灯はこの称号を獲得している。

 

 灯は1年生の頃からしょっちゅう賭場に足を運び荒稼ぎしている。ギャンブルが大好きなこともあるが、生活費を稼ぐために賭け事をしているのだ。

 

 当時から麻雀は勿論、トランプ、チンチロなど様々なギャンブルで負けなし、荒稼ぎし始めた。

 

 以前あまりにも負けすぎて腹を立てた先輩が1人灯に殴りかかる出来事があった。結果は語るまでもない、灯のクロスカウンターが炸裂しその先輩が沈んだ。その後財布の中に負けた分の額が入っていなかったことに対して灯が怒る、その先輩を引きずってコンビニまで行き無理やりお金を下ろさせたことは賭場では語り草となっている。

 

 相手から確実にお金をむしり取る、そして圧倒的な強さ、この2つの意味から灯は支配人と呼ばれている。。

 

 

 

「いつのまにかそんな称号付いていてちょっと驚いたけどな」

 

 

 

 灯は苦笑いしつつもその称号を嫌がってはいないようだ。変な名前じゃないし別に言うのは自由ぐらいの気持ちなのだろう。

 

 

 

「さて、数が1人減ったが……どうすっかね」

 

 

 

 3人では麻雀が出来ない。3麻と呼ばれる3人でやる麻雀もあるが、これは味気ないので灯は嫌いだった。誰か1人メンツが来ないかなっと思っていたその時

 

 

 

「にょほほほ、高貴なる此方が相手してやろう」

 

 

 

 不死川心が現れた。彼女は2年生になって賭場の存在を知ったので賭場の中では新顔だ。1度調子に乗ったところを大和が叩いたので、1度来ない時期があったのだが、最近になってまた顔を出すようになったのだ。

 

 

 

「劣等種、此方が入ってやってもいいぞ」

 

 

 

 不死川は2年S組所属のエリートだ。それに名門不死川の娘だけあって態度がデカく、S組以外の生徒は全て見下す。故に友達は少ない、いやいない。

 

 

 

「なら入ってくれ」

 

 

 

 見下している不死川に対して灯は非常に冷静な態度を取っている。多分彼と仲が良い人たちなら違和感を覚えるだろう、何でこんなに落ち着いているのだと、何で暴れないんだろう、と。

 

 

 

「ホホホ、ボロボロにして泣かしてやるのじゃ」

 

 

 

 そう言うと不死川は空いていた席に座る、灯の左隣だ。

 

 その慢心とも思える不死川の自信のありようを見て

 

 

 

「おぉ自信あんじゃーん、そんな自信あるなら差し馬握ろうぜ」

 

 

 

 不死川にタイマンでの戦いを申し込む。差し馬とは2人の順位が上か下かで決めた金額をやり取りすることである。

 

 

 

「構わんぞ、後悔するのは貴様であるからな」

 

 

 

 灯の提案を何の疑いもなく不死川は承諾する。庶民相手に負けるとは思ってもいないのだろう、常に人を見下している彼女らしい。

 

 

 

「なら5000円握ろう。後、場所変えるぞ」

 

 

 

 灯は不死川の隣ではなく、対面に移動する。差し馬握ってるもの同士でどちらかが有利にならないためだ。

 

 

 

「なんならレートも上げるか?」

 

 

「蛮勇としか言えないのぉ、負けると決まっておるのに」

 

 

「ならリャンピンからウーピン(1000点で500円)に変えるぞ」

 

 

 

 そう言うと不死川以外の2人にも目を向ける。レートアップは不死川以外の2人にも関係あることなのだから。

 

 2人は最初思いっきり反論しようとしていたが灯の目を見て喉まで出かかった声を強引に引っ込めた。なぜならば2人は灯が悪い笑みを浮かべているのを目にすることが出来たからだ。

 

 

 

「分かった」

 

 

「いいですよ」

 

 

 

 2人からの承諾も得た。これでレートアップは完了、後は打って順位を決めるだけだ。

 

 こうして灯VS不死川の麻雀勝負が幕を開けた。

 

 最初の親は不死川だ。サイコロを振り牌を取る場所を決める。そして丁度灯の前の山(積んである牌)が無くなった。

 

 

 

「高貴な血筋の此方が負ける道理はないのじゃ」

 

 

「何でそんな自信あんの?」

 

 

「東応大学出身の親族と打っておるからの」

 

 

「へぇ、まぁ足救われないようにな」

 

 

「ふ、高貴な此方がそんな馬鹿する訳ないのじゃ」

 

 

 

 会話しながらも手は動かしたままだ、誰1人として止まっていない。

 

 

 

「ほぉれ! 此方の優雅なリーチじゃ」

 

 

 

 不死川が1000点棒を出して牌を切る、その牌を

 

 

 

「ロン、残念だったな」

 

 

 

 灯が狙い打つ、上がり宣言をして自分の手牌を倒す。

 

 

 

「お。やるの庶民」

 

 

 

 そこそこ早い段階で上がっているため不死川はそんな点数は高くないと思っている。

 

 

 

「タンピン3色ドラドラだ、12000」

 

 

「何!?」

 

 

 

 跳満直撃だ、東1局から12000点を払うのは正直痛い。不死川もそう思ったのか先ほどまでの余裕そうな顔が打って変わって悔しそうな顔になる。

 

 

 

「ホラ、とっとと点棒よこせ」

 

 

「ぐっ……調子に乗るでないぞ!!」

 

 

 

 不死川は嫌々点棒を灯に渡す。だがたった1回上がられただけで懲りる彼女ではない。

 

 

 

「見ておれー! 最後に泣くのは貴様じゃ!!」

 

 

 

 最初の見下す態度を崩さずに、東2局が始まる。そして東3局、東4局、南場とこなしていく。

 

 

 

 

 

 

 そしてオーラス――

 

 

 

「ロン、これで終了だな」

 

 

「こ、高貴な此方が……」

 

 

 

 結果、不死川は灯にボロボロに負けていた。点差は最終的に53000点付いた。これの勝ち分は現在の貨幣価値にして26500円である。これに握ってる差し馬、5000円プラスして灯が不死川からむしり取った金額は31500円である。

 

 

 

「んじゃ31500円、しっかり払え」

 

 

「く……そ…、庶民のくせに!」

 

 

 

 不死川は金を払わず逃げようとも思ったが、目の前にいる男のことを思い出して逃げることをやめた。国吉灯は武神川神百代とやりあえる力を持っている。常に自分に自信があり庶民を見下している不死川でも、こと戦闘では灯に勝てるとは思ってない。何より灯は目で訴えている

 

 

 

(逃げたらぶち殺す)

 

 

 

 と。

 

 

 

「く……うわぁぁぁああああん!! 覚えておれー!!」

 

 

 

 雀卓に金を叩きつけて泣きながら賭場を去っていく不死川。彼女には大和の件と合わさって麻雀にトラウマが出来ただろう。

 

 

 

「いーいドル箱だったなぁ」

 

 

 

 灯は叩きつけていった金を財布の中にしまい、それとは別に3000円を両隣の2人に渡した。

 

 

 

「サンキューな国吉」

 

 

「あざっす先輩」

 

 

 

 2人はホクホク顔で3000円を受け取る。

 

 灯が不死川相手に馬鹿勝ち出来た理由、それはイカサマを沢山したからである。

 

 最初不死川から上がった時は、不死川の川(要らない牌を捨てる場所)から自分の必要な牌を抜き取ったのだ。他の局でも両隣の川からも拾ってきたり、灯の前に山があるときは、灯の山からツモってきた牌と交換したり、新ドラ表示牌を変えたりとやりたい放題やって不死川から狙い打っていた。

 

 2人にお金を払ったのは口止め料と見逃し料だ。

 

 それに派手にやれば不死川だって気づく。気づかせないために灯は不死川相手にずっと話しかけたり等、あの手この手で雀卓から気を逸らし続けていた。

 

 灯が支配人と呼ばれるほどギャンブルが強い理由はひとえにイカサマが上手いからだ。勿論麻雀も強いし、トランプも強いがそれにプラスして高レベルのイカサマすることで無敗システムを作り出していた。

 

 毎回このように派手にやるとバレるので、する回数はそこそこにしているがイカサマをするタイミングが絶妙なのだ。一部の生徒には見抜かれているかもしれないが、大きくバレてはいない。

 

 

 

(あの態度、我慢しただけの報酬はあったなぁ)

 

 

 

 やはり灯は不死川の暴言の数々にいらついていたらしい。だがそこで怒ってしまったり、体中まさぐり回してしまうとお金が入ってこない。だから一生懸命我慢したのだ、ホントに良く我慢した、と自画自賛するほどに。

 

 

 

 

 

 こうして灯の財布は本日非常に満たされることになった。そして気分良く、だらけ部に向かう。美女(弁慶)に勝利の美酒(川神水)を注いでもらい味わうためにだ。

 




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