ダンジョンに器用値極振りがいるのは間違っているだろうか   作:オリver

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早めに次話投稿。
時間空けちゃうと「本当にこれでいいのか……? やっぱ書き直そうかな……」ってなっちゃうタイプなのであまり考えずに投下します。



第二話

「よいしょー」

 

 グギャアアア、と濁った声を立ててゴブリンが灰へと変わる。周りにモンスターがいないことを確認し、ギルド支給品の安物剣を鞘に仕舞う。

 

 一日のバイトが終わり夕方。

 ダンジョン一階層、それも入り口付近でチビチビと戦っていた俺は、自分の感覚の変化に驚いていた。

 

 昨日恩恵受けたてで初めて剣を振ったときは「ほとんど変わらねぇじゃん。ヘスティアしっかりしろよ」と本人が聞いたらさぞ心外であろう事を考えるくらいには身体能力の向上は見られなかった。

 

 だがしかし今日。

 

 ゴブリンの振る鈍器がえらく遅く見えた。振るわれた棍棒をすれすれで避けたり剣の腹で押して軌道をずらしたりと、回避行動一つ取っても大きくバックステップで避けていた昨日と雲泥の差であった。

 

 攻撃面でも相手の首元や関節など急所を簡単に狙えるようになった。俺の戦い方はベテランのそれにも見えるようで、今日だけで駆けだしらしい冒険者が何人も声をかけてきた。

 やれパーティを組まないか、もっと下層に行かないか、どこのファミリアか。自由にやりたい派だったので全て適当に流したが。

 

 

 そして、昨日と違う点がもう一つ。

 

―――開け。

 

 そう念じると、俺の右手の先の空間がグニャりと歪み、グルグル渦の巻いた空間ができる。

 

 手を突っ込み「ポーション」と念じると空間は消え、俺の手には今日買いたてほやほやなポーションの瓶が握られていた。

 

 スキル【無限収納】(アイテムボックス)は、持ち物を制限無く仕舞える便利な能力だ。ポーションやドロップしたアイテム、魔石を運ぶためにサポーターを雇う必要がなくなる。

 

 とは言っても、運びきれないほどになるまで戦わないのだが。まあ軽くなるので使うは使う。全くもって俺には宝の持ち腐れな能力だな。

 

 

 

 

 体感で2時間ほど潜っていただろうか。のんびりとゴブリン20匹ほど狩った俺は帰り道にコボルトをすれ違いざまに斬殺しつつ、ギルドへと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヘスティアー」

 

「リベルタ君帰ってきたか! ダンジョン探索はどうだった?」

 

「おお、なんか俺じゃないみたいだった」

 

 そう言うとヘスティアは「あのステータスならねぇ……」とやや引きつった笑みを浮かべる。

 

「あんな上昇の仕方、聞いたこと無いよ……上がりやすい初期でも一つのステータスが10上がるかくらいなんだぜ?」

 

「ついでに言うと、ステータスって999が限界値らしいな。なんで俺は天元突破しちゃってるの」

 

「……リベルタ君、絶対にこのことは他の人に言っちゃ駄目だからね」

 

 面白いもの大好きな他の神々に知られれば、俺を自分のファミリアに引き抜こうと躍起になるだろうとヘスティアは語る。

 別に俺はヘスティアのとこじゃなくてもいいんだが……しかし注目を集めすぎて自由が阻害される可能性が高いし、別のファミリアじゃ本格的に冒険者を強要されかねない。なら黙っているのが一番だな。

 

 

「じゃあ……更新するよね?」

 

「なんか見るの怖いよな。まためっちゃ伸びてるんじゃねぇの?」

 

「流石に昨日みたいな上昇は無いと思うけどね。能力は上がれば上がるほど伸びが悪くなるから」

 

 ヘスティア、それフラグじゃね? まあ伸びるわけ無いよなーと俺もしっかり建設しておく。

 

 俺は横になり、ヘスティアが背中に乗る。昨日も思ったけど横に座ってやらないの? なんか女神に跨がられてると邪な気持ちが湧いちゃうんですけど。

 

 胸でけぇのに体重軽いなーと口に出したら豚箱まっしぐらなセクハラ発言を心の中でそっと呟いている間に、更新は終わったらしい。毎回指に針刺すの大変ね。痛そう。

 

 そしてヘスティアが黙ってる。首だけ動かしてちらりと後ろを見れば見えそうで見えないパンツとヘスティアの呆然とした顔。

 

「ヘスティア」

 

「……ハッ! ごめん、今写す」

 

 また俺は何かやらかしてしまったらしい。

 

 

 

 

 

リベルタ・エーアスト

Lv.1 

 

力:I=10

耐久:I=10

器用:SSS=1268→MAX=1500

敏捷:I=10

魔力:I=10

 

スキル

 

【創成己道】(ジェネシスクラフト)

・器用の成長率に上昇補正。

 

【尊価代償】(サクリファイス)

・成長補正スキルの効果増大。

・他の能力値成長率の下方修正。

・上昇対象能力値への成長願望が強いほど両補正ともに強固なものとなる。

・補正能力に準じたスキルが発現しやすくなる。

 

【無限収納】(アイテムボックス)

・三秒以上触れた物質を、念じることで収納空間に送ることができる。

・同じく念じることでいつでも取り出すことが可能。

・触れる箇所が固体である必要がある。また、生命体は収納できない。

 

【戦友鼓舞】(フィール・エアフォルク)

・戦闘時、一定範囲内の眷属の基本アビリティ上昇補正。

・同恩恵を持つ者にのみ効果を発揮。

 

 

 

 いや、MAXって何よMAXって。1500が上限なのか? 一応ストップしたのかこれ?

 

 そしてスキルが増えた。しかも超いらねぇやつ。他に仲間の眷属いねぇよ嘗めてんのか。

 

 ……それにしても、他のアビリティが全然伸びねぇな。「器用値欲しい」と念じた効果がまだ残っているのか? じゃあ今日も寝る前にさらに上書きしておくか。

 

 

「MAX……? しかもスキルがこれで四個……ど、どーゆうことだい」

 

「神が分からんのに俺が分かるかい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 よし、今日はダンジョン潜らねぇ。

  

 

 バイトを終え、俺は摩天楼施設『バベル』へと訪れていた。

 

 ヘスティアが安心したような、残念そうな表情も分かる。どれだけ伸びるかは楽しみだが、驚くことに疲れてきたのは俺自身否めない。

 

 よって今日は装備品の更新を予定している。一階層にしか潜っていないが、耐久値が伸びない俺にはゴブリンの一撃も十分脅威だ。

 

 頭、胸など急所を守れる軽い防具くらい着けてた方がいいだろうと考え、バベル八階のなんとかスファミリアの支店へと足を運んだというわけだ。

 

 四階から武器防具は売っているのだが、正直ぼったくりとしか思えない額の超一級品しか並んでいない。何あれゼロ適当につけてんの? 子どものおままごとでももうちょい現実的な値段つけるぞ。

 

 

 八階は駆け出し鍛冶師が作った作品が売り出されている。俺が魔石換金とバイトで貯めたヴァリスでも十分に買えるお値段だ。

 

 

 どんなの買おっかなーとちょっとワクワクしながら、テナントに入る。

 

「おうてめぇ! このクソみたいな膝当てが8000ヴァリスってどういうことだよ! ぼったくってんのか!」

 

「い、いや、適正価格かと思われますが……それに私の一存では安くすることなど……」

 

「アニキを馬鹿にしてんのか! ぶっ殺すぞ!」

 

 萎えた。え、なにこれ俺面倒くさい現場に遭遇した感じ?

 

 酒でも飲んでいるのか、三人組の冒険者が赤ら顔で店員を恐喝している。装備売ってるこのファミリアってかなり規模がでかかったような……喧嘩売るとは正気じゃ無い。酒癖悪いって怖いな。

 

 

「ああ!? なんだてめぇ見てんじゃねぇよ! 殺してやる!」

 

 やべぇ前後の文脈が合ってない。俺だって見たくて見たわけじゃねよ。

 

逃げるタイミングを失い、明日何食べようかと現実逃避をしていると、近くにあった剣を持って三人がこちらへ走ってくる。「俺はレベル2なんだじぇ」とアニキアニキ呼ばれてた男が呂律の回らない舌で言ってきたので「そうでちゅか」と返したらブチ切れられた。頭のレベルを合わせてやったのになんて奴だ全く。

 

 

 売り物の武器を傷つけちゃ悪いので俺は剣を抜かず、ゆるりと構える。

 

 アニキ(笑)の剣を半身になって避けつつ、足を引っかけて転ばす。武器の積まれた箱に顔を突っ込みそうになってたので服を引っ張って進路を逸らしてやる。手間かけさせんなよ。

 

「ちくしょー!」

 

「アニキをよくもっ」

 

 やられ役っぽい台詞とともに殴りかかってきた二人に対し、一人は避けつつもう一人の腕を取り、反対の手で胸ぐらを掴みあげて勢いを利用しつつ投げ飛ばす。

 

 ぐええ、と床に背を打ったせいか苦しそうに呻く。おい吐くなよと心の中で戦々恐々しているところに残った一人から剣が振られたので、剣の横をそっと押しつつ体勢の崩れたところで鼻っ面を思いっきりぶん殴ってやった。

 

 駆け出しだったのか俺のショボい力でもダメージは通ったようで、酔っていたこともあってかふらりと倒れ込んだ。

 

「ふう……疲れたな。もう帰っちゃおうか―――」

 

「危ない避けて!?」

 

 俺好みな可愛らしい女店員の叫び声と同時に、背後から気配を感じて思いっきり身体を反る。

 

 服が破けた。あ、これ恩恵見えちゃわね?

 

「避けてんじゃねぇよてめぇ!」

 

 見えているはずだが、反応が無いな。よく考えたら神聖文字(ヒエログリフ)を読めないか。それなら安心だ。

 

 

 本気(マジ)になったのか、先ほどとは比べものにならない速度で肉薄される。

 

 

 けっこう早めに避けたつもりだが……ピリっとした痛みの頬に手をやると赤く染まった。刃が食い込んだのかけっこう深く切れていた。

 

「はははは! これで終わりだ!」

 

 後ろは武器の山。これ以上下がることはできない。

 

 ―――開け。ポーション。

 

「酔い冷ませよ酔っ払いが」

 

 空間から取り出した瓶を、男の顔に向かって投げる。

 

「わぶっ!?」

 

 反射的に思わずたたき斬ってしまった男の顔に、液体とガラスの欠片が降り注ぐ。

 思わずのけぞった男の足を払って転ばし、再度念じる。

 

 ―――棘鉄球(モーニングスター)

 

 下っ端を相手にしているとき、アイテムボックスに収納していた(盗むつもりでは無い)一番重そうな武器を手に取る。

 

 当然、力の無い俺が振り回せるわけがないが。

 

「ぐええええ!」

 

 鳩尾に落とすくらいはできる。あらやだ痛そう。まあ自業自得だな。

 

「え」

 

「……あ」

 

 女の子の店員さん、こっちガン見してるよ。

 ……さて、スキルについてなんて言い訳しようか。

 

 足下で泡拭いて転がっている飲んだくれの腹を踏みつけつつ、俺は途方にくれるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

リベルタ・エーアスト

Lv.1 

 

力:I=10

耐久:I=10

器用Ⅱ:I=10

敏捷:I=10

魔力:I=10

 

スキル

 

【創成己道】(ジェネシスクラフト)

・器用の成長率に上昇補正。

 

【尊価代償】(サクリファイス)

・成長補正スキルの効果増大。

・他の能力値成長率の下方修正。

・上昇対象能力値への成長願望が強いほど両補正ともに強固なものとなる。

・補正能力に準じたスキルが発現しやすくなる。

 

【無限収納】(アイテムボックス)

・三秒以上触れた物質を、念じることで収納空間に送ることができる。

・同じく念じることでいつでも取り出すことが可能。

・触れる箇所が固体である必要がある。また、生命体は収納できない。

 

【戦友鼓舞】(フィール・エアフォルク)

・戦闘時、一定範囲内の眷属の基本アビリティ上昇補正。

・同恩恵を持つ者にのみ効果を発揮。

 

【審美眼】(プルフサイト)

・武器、防具の性能が分かる。

道具(アイテム)の効果が分かる。

 

「Ⅱ……? 新スキル……?」

 

「はい、胃薬」

 

「……ありがとうリベルタ君」


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