ダンジョンに器用値極振りがいるのは間違っているだろうか   作:オリver

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文字数の割になんか薄っぺらいなぁ、と感じていた第二話。
ステータス二回分の表記だけで700文字行ってたことにさっき気がついた。 


第三話

 翌日、俺は再びバベルの八階の売り場を訪れていた。

 

 あの後ゴタゴタしてて結局防具を買えなかったからだ。

 

 器用Ⅱと謎の進化を遂げた俺の基本アビリティはとりあえず置いておいて―――いや置いて良い事案でもないが―――新たに発現した【審美眼】(プルフサイト)はかなり有用なスキルだ。

 

 

 昨日の店員の女の子にお礼を言われ上機嫌になりつつ、防具を見繕う。「ごめん主神に話しちゃった」と言われたときはこいつシメたろか、とも思ったが、テヘペロ顔で頭コツンされたら許すしか無いよな、うん。あれ俺チョロくね?

 

 えーまあとにかく。【審美眼】のおかげで武器、防具の性能が分かる。明確な数値が出るわけでは無いが精度は高いと思う。なんなら転売して儲けることだってできそうだ。犯罪だからしないけど。

 

「……うん?」

 

 いくつかの胸当てを手に取っては箱に戻す作業を繰り返す仲、部屋の一番隅の目立たないところに置いてあったものに目がとまる。

 

「軽いな」

 

 持ってみた感じは他の胸当てより軽く、薄い。しかし【審美眼】によると性能は他の胸当てより一段上だ。

 裏側を見ると毛皮があしらわれていた。銘が【獣朗(もふろう)】。もふろうと提案されたからにはもふらないとな。

 

 手触りは最高。試しに装備してみると固くないからか着け心地が良い。他の胸当ての裏面固いんだよなぁ……

 

 気に入った。これが欲しい。名前も斬新で好みだし。「でも、お高いんでしょう?」と心の中で呟きつつ値段表を見るとなんと3000ヴァリス。え、マジかよ。設定間違ってるだろこれ。

 

 いい掘り出し物を見つけた、とルンルン気分で会計へと向かう。

 

「おい、俺の作った胸当てが割引されてるってどういうことだよ!」

 

「いえ、二ヶ月以上売れませんでしたし、そういう規則ですので……」

 

「あんな場所にあるんだから誰も見つけてくれる訳がないだろっ! あと割り引くにしても7割は無いだろ7割は! 3000ヴァリスで売れって言うのか!」

 

 受付で、何やら赤髪の男が詰め寄っていた。俺は後ろの方で様子を見つつ、自分の手に持った胸当てにそっと視線を落とす。

 

 なんだか雲行きが怪しいような……

 

「き、決めたのも置いたのも私じゃないですよぅ……文句なら担当の人に言ってください」

 

「くそっ……とにかく、俺は納得が行かない。ひとまず【獣朗(もふろう)】は回収するからな」

 

 くっまずい。このままではせっかく安く買える機会を逃しちまうじゃねぇか。なんとかしないと。

 

 

 何歩か下がり、そこからパタパタと足音を立てて受付へ向かう。何も聞いてません、今来たばかりですぅとアピールしつつ、何か言われる前に急ぎ足で移動する。

 

「会計お願いします」

 

「おい待て、その胸当ては―――」

 

「いやぁそれにしても良い買い物をしたわ! なんでこんなに良い品が安く売ってたか分からねぇけど、普通だったら12000ヴァリスはするよなこの胸当て!」

 

 

 ピタ、と鍛冶師の男は俺に向かって伸ばした手を止める。よし、計画通り。

 

 見るからに職人気質そうなこの男は、自分の防具の価値を低く見られるのが嫌だったに違いない。元の価格は一万のようだが、それでもなお良心的な値段だ。

 【審美眼】で本当の価値が分かった俺は一万二千ヴァリスと適正価格を言い当て、褒める。

 これで万事解決のはずだ。

 

「おお! 見る目があるなあんた! いいぜ持って行ってくれ!」

 

 気分を良くしたらしい男はバシバシと俺の背中を叩き上機嫌にそう言う。受付嬢が「あ、この人は制作者のヴェルフ・クロッゾさんで―――」と状況を理解していないと思ったのか俺に説明をしてくれる。

 

 俺は防具を安く買え、ヴェルフは気分良く売れる。受付嬢はヴェルフに見えない位置でガッツポーズしている様子から見て、喜んでいるのは明らかだ。いい笑顔でグッと親指立ててくる辺りいい性格していると思う。

 いやぁこれで大団円。良かった良かった。

 

 さー帰ろー、とさっさと出て行こうとする俺の肩を、鍛冶師らしいゴツゴツとした手が掴む。

 

「もうちょい話がしたいんだけどいいか?」

 

 近くで飯でも食おうぜ、とのお誘いを、特に断る理由もなかったので二つ返事で了承する。

 

 この選択を後悔するのは、ほんのちょっと先のことである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なあ、リベルタ。クロッゾって名前に聞き覚えはあるか?」

 

「クロッゾ? 有名なのか?」

 

 道すがら自己紹介をしつつ、ヴェルフに連れられて来た定食屋は目立たないところにあったが、量が多くて味も良く値段も安い穴場だった。

 

 ヴェルフの質問に対し、料理に舌鼓を打ちつつも考える。冒険者に成り立てであるに加え、今まで武器防具などに興味が無かったこともあってか聞いたことも無い家名だ。

 

 言い方からしておそらく有名な鍛冶師の一族か。だとしたら俺の返答は気分を害したかもしれない。知ったかでもすべきだったか?

 

「知らないのか。クロッゾってのは魔剣が打てる一族なんだ」

 

「魔剣って誰でも魔法を打てる剣だっけ? すげぇじゃん」

 

「まあ、もう一族は全員魔剣を打つ力を失ったけどな。……でも、俺は打てる」

 

 あら自慢かしら。初対面の相手にすげぇなこいつ。

 

「お前は魔剣が欲しいか?」

 

 ふむ。ここで欲しいと言ったらくれるのか?

 ……いや、これは詐欺だな。間違いない。ここで受け取ったら一生掛かっても返せないほどの借金を負わされることになるに違いない! いやー流石俺。名推理過ぎる!

 

 うまい話には裏がある。なら、ここは適当に理由をつけて断るとしよう。

 

「魔剣って使うと壊れるんだろ? そんな高いの貰っても勿体なくて使えねぇよ」

 

 だからいらない。そう言うとヴェルフは大きく目を見開き―――豪快に笑い始めた。え、どしたの? なんか怖いよ?

 

「はっはっは! いや、悪い悪い。嬉しくてつい、な」

 

「嬉しい?」

 

「ああ。―――家名を見て「魔剣を打ってくれ」と言ってくる輩は数え切れない程いたが、断ったのはお前が初めてだ」

 

「……普通、気を悪くするもんじゃないのか?」

 

「まさか。みんな家名を見て魔剣だけを求めやがって、俺の作品を見ようともしない。いい加減うんざりしてたところだ」

 

 ヴェルフは魔剣が打てる。しかしそれは血筋のおかげであって、本人の能力では無い。

 大多数が求めているものはヴェルフ・クロッゾの作品ではない。『クロッゾ』の魔剣だけだ。それが心底気にくわないのだろう。

 

「でもお前は俺の作った防具を求めて、魔剣を断った。職人冥利に尽きるってもんだ。嬉しくないわけがないだろ?」

 

 お、おう。魔剣断ったのは勘違いからだけどな。なんかごめん。

 

「だから―――俺と専属契約をしてくれないか? リベルタには俺の武器、防具を使って貰いたいんだ」

 

 専属契約。俺が素材の調達をする代わりに、ヴェルフが装備品の生産や調整を全て行ってくれるということか。

 

 その申し出は嬉しい。だが……

 

「悪いけど、俺は冒険者とバイトを兼業している。だから―――」

 

 冒険に本腰を入れるつもりは無い。そんな奴にヴェルフだって専属契約などしたくないだろう。

 

 だから諦めてくれ。そう言おうとした瞬間、言葉を重ねられる。

 

「なんだそんなことか、気にするな! 駆け出しの冒険者は生計立てられるか不安だって理由で兼業している奴は多いぜ」

 

「え、いやそういうわけじゃ」

 

「でもお前なら大丈夫だ! なんというか、立ち振る舞いも駆け出しとは思えないしな。レベル2みたいだ」

 

 そりゃ、器用値が高いから技術だけはレベル2並だよ! でも他はほぼ一般人と変わんねぇんだよ!

 

 そう声高に叫びたいとこだが、ステータスに関わることなので中々言い出せない。

 

 何とも言えない顔をしていた俺を、どうやらヴェルフは遠慮していると勘違いしたようでぐいぐいと勧誘を続ける。くそっ善意で言ってくれているのが分かるからどうにも断りづらい!

 

「よし、早速だが俺の工房に行こうか! 自慢の品がいくつかあるから好きなのを持って行ってくれ!」

 

「いや、まだ契約するって言ってな……ちょ、引っ張るなよ!」

 

 勘定を俺の分まで払ったヴェルフに引きずられ。

 

 俺はほぼ強制的に、店を後にすることになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やあヘファイストス。急にどうしたんだい?」

 

「この前、店でいざこざ起こしていた冒険者がいたらしいのだけど、あなたのとこの眷属が納めてくれたらしいのよ。それでお礼を言おうと思ってね」

 

 神友であるヘファイストスに呼び出された。

 何か怒られるのかと思いきや、どうやらそういう訳では無いらしい。ほっと胸を撫で下ろす。

 

「それで、そっちの子が怪我しちゃってたらしくて……良かったらこれ、使って欲しいのだけど」

 

「これ、良いポーションなんじゃないのかい? それを三つも……」

 

「ディアンケヒトファミリアの最高品質のハイポーションを用意したわ。一つはお礼、もう一つはお詫び、後は彼が使ったらしいポーションの代わりよ」

 

 これくらいさせて? と、ヘファイストスは笑う。リベルタ君が遠慮するならまだしもボクが何か言うのもおかしな話なのでありがたく貰っておく。

 

 「彼、いい子なのね」と褒められるとボクまで嬉しくなる。昨日頬を血だらけに帰ってきたときは「絡まれてる女の子助けてきた!」と誇らしげに言っていたものの、つい心配で、無理をするな! と少し怒ってしまった。帰ったら謝らなきゃ……

 

「ねぇ、話は変わるのだけれど」

 

「うん。なんだい?」

 

「昨日、あなたの眷属―――リベルタ君の背中の服が破けてね? それで、うちの子がみちゃったのよ、ステータス」

 

 神聖文字読める子でね、との言葉に、ボクは血の気が引く。あ、あのステータスが見られた……?

 

「全部見えた訳じゃ無いから、把握してるのは基本アビリティとスキルの個数くらいよ。もちろん、言いふらさないように言ってあるけど……ちょっと念のため、なんだけど、神の力(アルカナム)は使ってないわよね?」

 

「当たり前じゃ無いか! 大体もし使ってるんだったら、もっとちゃんとしたステータスをあげるよ!」

 

 器用ばかり高く、耐久など命に関わるアビリティは変化しない。そんな歪んでいて危ないステータスをどうして好き好んで眷属に与えるというのか。

 

「そうよね……変なこと聞いてごめんなさい」

 

「いや、しょうがないよ……ボクも無関係だったら神の力(アルカナム)を疑うと思う」

 

「……正直、スキルがもう一、二個多かったら信じられなかったかもしれないわ」

 

「あ、ははは……」

 

 言えない。スキルが増えた上に基本アビリティが謎の進化を遂げたなんて絶対に言えない。

 

 器用Ⅱ。レベルが上がるわけでもなく、ただ一つの能力値が昇華された。聞いたことの無いレアスキルの複数保有に加えて、リベルタ君は規格外すぎるんだよぅ……

 

 ヘファイストスの言葉に、ボクは引きつった笑みを浮かべることしかできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ヘファイストスの部屋で構成員が作ったらしい美味しい料理を堪能し、お茶やお菓子まで頂いてボクは本拠を出る。見送りに来たヘファイストスに手を振り、さて帰ろうかと歩き出したとき。

 

「……リベルタ君?」

 

「ヴェルフ?」

 

 ズルズルズルーと引きずられて行くリベルタ君と、引っ張る赤髪の青年。ヘファイストスの構成員らしく、そのまま工房の方へと消えていった。

 

 ヘファイストスと顔を見合わせ、気になったので二人で彼らに着いて行く。

 

 

 

 

 

 どうやら、リベルタ君はヴェルフ・クロッゾという名の鍛冶師と専属契約を結んだらしい。ヴェルフ君が自分の作った作品を見繕いつつ嬉しそうに語ってくれた。

 

 え、でも、リベルタ君はバイトが本業じゃ……? 目が合うと「まずいまずい」と小さく呟き、首をブンブン横に振っていた。え、もしかして押し切られたのかい……?

 

 

 むむ、リベルタ君が困っている。ここはボクがなんとかするしかない! 視線で「任せておけ」と送ると「ヘスティア……お前もたまにはやってくれるんだな!」と同じく視線で返された。すごく心外だ。

 

「あー、うん。ヴェルフ君少しいいかな?」

 

「? なんです?」

 

 断り文句を口に出そうとするが、ふと黙りこくっているヘファイストスが気になり、ちらりと横目で見る。

 

「……」

 

 完全に主神()眷属()を見る目だ。よくよく耳を澄ませば「良かったわねヴェルフ」と小さく呟いている。

 

 感動するヘファイストス。嬉しそうなヴェルフ君。あ、駄目だこれ。

 

 ……この良い雰囲気を壊すなんて、ボクにはできない!

 

「リベルタ君を頼むよ!」

 

「おう、任せてください!」

 

「ヘスティアぁ!?」

 

 綺麗な手のひら返しを食らったリベルタ君の「てめぇやっぱ駄目じゃねぇかッ!?」と言いたげな非難の目を直視することができなかった。

 

 

 




スキル説明。入れた方がいいかな? と思いましたので書いていきます。

【創成己道】(ジェネシスクラフト)
・器用の成長率に上昇補正。

ジェネシス→英語で「創始」
クラフト→英語で「技巧」

 己道の部分どこ行った。

 純粋に器用値の伸びが良くなるスキル。デメリット無し。【尊価代償】が無ければ普通に喜ばれるかなりの良スキル。


【尊価代償】(サクリファイス)
・成長補正スキルの効果増大。
・他の能力値成長率の下方修正。
・上昇対象能力値への成長願望が強いほど両補正ともに強固なものとなる。
・補正能力に準じたスキルが発現しやすくなる。

サクリファイス→英語で「犠牲」「生け贄」

 私自身書いてて分かりづらかったので補足。
 リベルタ君は器用値を欲しいと思うほど伸びやすくなり、【器用】に関係するスキルが発現しやすくなる。代わりに他のアビリティの伸びが悪くなる。


【無限収納】(アイテムボックス)
・三秒以上触れた物質を、念じることで収納空間に送ることができる。
・同じく念じることでいつでも取り出すことが可能。
・固体のみに適応され、また、生命体は収納できない。

アイテムボックス→転生した人が良く持ってるあれ

 「ファンタジーと言えばこれだろ」と真っ先に思い浮かんだスキル。重さ制限無し。何気にチート性能。


【戦友鼓舞】(フィール・エアフォルク)
・戦闘時、一定範囲内の眷属の基本アビリティ上昇補正。
・同恩恵を持つ者にのみ効果を発揮。

フィール・エアフォルク→ドイツ語で「頑張れ」の意。ドイツ語は基本的に響きが格好いい。

 仲間が強くなる。自分は対象外。


【審美眼】(プルフサイト)
・武器、防具など制作物の善し悪しが分かる。
道具(アイテム)の効果が分かる。

プルフ→英語で「証明」。正しくはプルーフかも。
サイト→英語で「視覚」

 ファンタジーおなじみの【鑑定眼】に近い。でもそれだと魔物の強さが分かる~とか相手のステータスが見える~までできそうなイメージだったので名前変更。

 
 新しくスキルが出たらその回の最後に解説するようにします。
 
 ちなみに英語を組み合わせたりしていますが、文法的に合ってるかは分かりません。単語の意味は調べていますが。
 あとは基本的に響きを優先します。
 

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