モンハン飯   作:しばじゃが

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 猫飼ってないのに猫飼いのサイト漁ってました。





食生夢死

 

 

 だんなさんへ

 

 だんなさん いつもありがとうにゃ

 このおてがみも 日ごろのかんしゃのきもちをこめたのにゃ ぜひよんでほしいのにゃ

 なんでてがみかっていうとね なかなか口ではいいにくいことをだんなさんへつたえたいのにゃ

 ボクね だんなさんのことがすき

 つよくてかっこよくてやさしくておもしろいだんなさんがだいすきなのにゃ

 このすきは だんなさんだけのすきにゃ

 だんなさんとずっといっしょにいたい

 いっしょーがいのぱーとなーでいたいのにゃ

 だんなさんはいつもいっしょじゃないかーっていいそうだけど

 わかるかにゃ わかってくれるかにゃ

 ボクは───

 

 

 

 

 

 

「───ッッッんの、畜生がッ!!」

 

 思わず気持ちが先走る。怒りとも、焦りとも、高揚ともとれないそれは、もはや一つの感情として名付けることができなさそうだ。それが俺の体を駆り立てるが、状況は全く進展しない。器に入り切らずに溢れ出した思いは、壁を蹴りつけるという行動へと変貌した。

 壁がへこみ、表面が割れる。奥に詰められた石材には亀裂が走った。俺の右脚にも、鋭い痛みの亀裂が走る。

 

「ちょ、ちょっとシガレット……少し落ち着きなって」

「これが落ち着いていられるかよ!? くっそ……くっそッ!」

 

 困惑した様子のヒリエッタを余所に、今度は左脚で壁を蹴りつけた。流石に覇竜の足には耐え切れなかったようで、奥の石材も音を立てて割れ落ちる。足の方はといえば、義足の付け根こそ痛むものの、足先への痛みは全くなかった。その代わりのように、俺の心が刺されるように痛む。

 

 ───イルル。

 俺のオトモアイルーで、大切な相棒。いつも笑顔で、俺のことを気に掛けてくれて、優しく俺のことを旦那と慕ってくれていた。

 そんな彼女の、本当の想い。俺が考えもしなかったその気持ち。アイルーであるのに、人間の俺のことを好きだと想ってくれていた。慣れない手紙で、その気持ちを書き綴ってくれた。

 それに全く気付かないで、空回りもいいところなアドバイスを押し付けては、彼女の気持ちを殺そうとした俺。無神経な自分の言動に腹が立つ。彼女のことを分かったつもりでいて、何も分かっていなかったのだ。俺はなんて最低な相棒なのだろう。

 

「あ、あのさ……さっき郵便屋のアイルーが手紙持って来てくれたよ? アンタのこと怖がって、逃げちゃったけど」

「手紙……誰からだッ!?」

 

 少し引き気味にそう話しかけてきたのは、俺に発破をかけてくれたルーシャだった。ヒリエッタより色の薄い髪を棚引かせながら、俺に一枚の手紙を手渡してくる。

 

 手紙。

 イルルが書いてくれた手紙。慣れていないのがよく分かる、拙い言葉のあの手紙。それを読んだばかりのせいか、手紙と聞いただけで俺の意識は反応した。ルーシャからそれを受け取っては、慌ててその包装を破り開ける。

 

「…………ッッ師匠かよあぁもう! 今雪山とかどうでもいいわくっそ!」

 

 そこに書かれていた手紙は、師匠から送られてきたもので。ご丁寧に今の状況報告と雪山のオーロラの自慢に満ちていた。苛々が募りに募った俺は、その手紙を勢いよく破り捨てる。

 

「ちょ、アンタ荒れ過ぎでしょ……」

「これが荒れずにいられるかってんだ……ッ!」

 

 師匠の状況なんて、今はどうでもいい。

 イルルが、イルルが無事かどうか。それが問題なんだ。

 

 

 

 

 

 ───全ての原因は、数刻前のヒリエッタの話。彼女は、イルルが行方不明だと言った。それが始まりだった。

 

「……どういうことだよ?」

「あのさ……イルルちゃん、家にいないよね? シガレットは、今あの子がどこにいるか分かる……?」

「いや……訳あって昨日喧嘩してさ。あいつ昨日から家を飛び出しちまったんだけど……」

「……じゃあ……やっぱり……」

 

 悪い予感が当たった。そう言わんばかりに眉を歪ませるヒリエッタに、俺は困惑する思いを隠すことができなかった。

 イルルが行方不明。確かに彼女はそう言った。イルルが昨日から何処かへ行ってしまったのは事実。しかし、それを行方不明とするには些か話が飛躍し過ぎなのではないだろうか。

 

「……昨日、イルルちゃんがこの奥の路地にいるの、見たんだ」

「……何?」

「知らない男の人と一緒にいて、さ。何か話し込んでる様子だったけれど」

「……それが、行方不明の話にどう関係すんのよ?」

 

 そう口を開いたのは、俺に罵声を浴びせながらついてきたルーシャだった。思いがけない顔にヒリエッタは少し言葉を選び直したようだったが、静かに目を伏せた。

 

「その時は、別段気にしてなかったのよ。イルルちゃんの知り合いなのかなって。でも、考えてみたらシガレットなしであんな治安の悪い路地にいるのも変だし、何だか様子もおかしかったし」

「様子……?」

「うん。まるで、睡眠弾でも撃ち込まれたみたいな……」

 

 その言葉に、俺の背筋が静かに震えた。まさか、という思いが脊髄から脳へと駆け登ってくる。

 その先の言葉は聞きたくない。そんな思いが、異様な速度で俺を蝕んでくるような。この感覚は、言いようのない不気味さで満ちていた。それでも、ヒリエッタの言葉を遮る訳にはいかない。次の彼女の言葉のために、俺は耳の神経を研ぎ澄ませる。

 

「……それで、もしここに来てイルルちゃんがいなかったら。シガレットが、行き先を知らなかったのならって思って。ほら、あの不穏な噂があるからさ……」

「いや……そんな、まさか……」

 

 俺も、そうは思いたくない。いつかの辻商いの時にトレッドの言っていたあの噂。先日ヒリエッタと狩りに行った時に聞いた、あの噂。

 ───アイルーが、行方不明になる話。昨日まで元気にしていたアイルーが、ある日突然姿を消している。誰にも見つからず、どこに行ったのかも分からない。そんなもの、アイルーにはよくある話だと一蹴した俺を嘲笑うかのように、その噂が確かな輪郭を帯び始めていた。

 

「……その、知らない男ってどんな奴だったの?」

 

 そう言葉を繋げたのは、ルーシャだった。頭の中が白く染まりつつある俺の代わりに、彼女は冷静に話を組み立ててくれる。

 俺を諭してくれたあの姿。それも相まって、今は彼女がとても頼もしく見えた。いつかの闘技場の時とは大違いだ。

 

「えっと……遠目だったからよく見えなかったけど、モヒカンにシャドウアイをつけたでかいおっさんだったわ……」

「……は?」

 

 飛んできたのは、見覚えのある響き。

 

 

 

 

 

「───くっそ! あの野郎なんで店にいやがらねぇんだ!」

 

 ヒリエッタの言葉を聞いて、俺はすぐさま家を飛び出した。

 モヒカンにシャドウアイ。それだけ聞けば充分だった。かつてブラキディオス鍋を買ったあの雑貨屋。そこの店主で間違いないだろう。

 考えてみれば、イルルはあの店主と仲が良かったはずだ。足しげく通っていたような気もする。で、あるならば。もしかしたら、彼女はそこに身を寄せているのではないだろうか。

 

 そんな思いで店を訪ねてみれば、俺を迎えたのは冷たく沈黙する鉄のシャッター。今まで夜にも営業していたはずのあの店は固く口を閉ざしており、何度叩いても反応はなかった。そう、まるで誰もいないかのような───

 

「その周りの出店の人に聞いてみたけど、確かにイルルちゃんはそこにいたみたいよ。みんな、モヒカン男といたところを見たって言ってたもん」

 

 流石のルーシャも焦った様子で、右手人指し指を曲げては悔し気な様子で噛んでいた。その表情は、非常に歯痒そうだ。

 そんな彼女の補足の通り、俺たちは付近にある出店に聞いて回っていた。昨日、ここに真っ白なアイルーは来なかったか、と。そう。師匠の手紙を破り捨てる、ほんの少し前のことだ。

 確かに、彼らはアイルーを見たと言っていた。モヒカンの男───あの雑貨屋の店主と一緒にいた、とも。つまり、イルルは昨日あの通りにいたのだ。しかし、店主と会って以降は、行方が全く分からなくなってしまっている。あの男と会ってから───

 

「……まさか。まさか、あのクソグラサン野郎……」

 

 考えたくはない。考え過ぎかもしれない。しかし、今は他に手掛かりになるものがまるでない。もし仮に彼があのアイルーが行方不明になる噂の核心に触れる人物だとしても、そうではないとしても。今は、彼にすがるしかないのだろう。

 

「……ねぇ。もう一回、あの店に行ってみない? もしかしたら、今はそのモヒカンの人が戻って来てる……かもしれないし」

「……まぁ、そう、だな。行くしか……ねぇよな」

 

 絞るような声でそう言うヒリエッタに、俺も小さく頷いた。

 正直なところ、あの店主が帰って来てるような気はあまりしなかった。しかし、今はそれ以外全く手がかりがない状況なのだ。(わら)にもすがりたい。そんな思いが俺を覆い尽くしている。

 ルーシャにも視線をやれば、彼女もおずおずと頷いた。この思いは、おそらく共通のものだろう。とりあえず、あの店に行くしかない。そんな考えが、俺たち三人を繋いでいる。

 

 

 

 

「───話は聞かせてもらいましたよ」

 

 そこへ割って入ってきた、落ち着いた声。思考に溺れ、気配に対して鈍感だった俺たちは、その声を聞いては慌てて振り返る。

 家に門の横に立っていたのは、橙色のテンガロンハットに、細い目を神妙な様子で(ひそ)める男。タンジアギルドのギルドナイト、トレッドだった。

 

「……トレッド……お前……」

「何だか酷く慌てた様子の郵便屋アイルーとさっき会いましてね。話を聞いてみたら、もしかして……と思って来てみたんです」

 

 そう言っては、俺たちに向けて歩を進めてくる。そんな彼の右手には、奇妙なものがぶら下げられていた。

 丸みを帯びた体に、細く長く伸びた首。その首にはいくつもの突起がついていて、首から体に向けては鋭い弦がいくつも伸びている。その姿は、まごうことなき楽器だった。

 

「……トレッドさん……それ、何なの……?」

「前にシグに話してた噂のことなんですけどね、やっと尻尾が見えてきたんですよ」

 

 そう言って、トレッドは俺に向けてその楽器を突き出してきた。

 おずおずとそれを受け取っては、奇妙な手触りが掌を襲う。漂う香りはどこか嗅ぎ覚えのあるような、そんな気がした。

 

「連中の狙いは、きっとこれです」

 

 俺の手の中にある楽器。それに向けて物憂げに指差した彼は、細い目を薄く顰めては言葉を繋ぐ。

 それは、この楽器の名前を告げる小さな小さな一言。

 

「───『三味線』、ですよ」

 

 

 

 ◆  ◆  ◆

 

 

 

 ───擦れるような音が聞こえたにゃ。

 それは金属が擦れるような、耳を掻き鳴らす嫌な音。じゃららと音が響くのは、まるで鎖のような───

 ───鎖?

 

「……にゃ……ふにゃあ……」

 

 真っ暗だった目の前に、何とか光を灯そうとして。ボクは、頑張って目を開けようとした。でも、瞼がとっても重いのにゃ。まるでくっついてしまったみたいに開かない。何とか頑張って開けようとするけれど、いつものようにぱちっとはいかないのにゃ。

 

「う、ううん……にゃあぁ……」

 

 重いのは、たぶん瞼だけじゃない。何だか頭もとっても重い。夕ご飯を食べる前とかにうっかり眠ってしまった時の、あの気怠さ。あんな感じに、頭も体もとっても重いのにゃ。

 ボクは、ご飯の前に眠ってしまったのかにゃ?

 なんて思いながら、やっと瞼を全部開けた。だけど、見えてきたのは見覚えのない景色。見たことのない建物───の中だった。

 

「ここは……」

 

 とても薄暗い。ロウソクくらいの薄明りだけが少し見える程度の、そんな薄暗さ。その弱々しい灯りが石造りの壁や天井を控えめに照らしていて、天井や床を伝う鎖に影を残していた。暗闇に合わせようと必死に目を凝らしてみれば、大きな竈から巨大な木のテーブル、朽ちた蒸気式の鋸などが見えてくる。

 ───もしかしてここ、工房にゃ?

 なんて首を傾げようと思ったら、強烈な違和感が首に走った。じゃらら、とさっき聞こえたあの音が、また耳の近くで騒ぎ立つ。それどころか傾げる首に何かが引っ掛かり、上手く首を傾げない。足も足で包帯が巻かれて動きにくかったけど、それ以上に首が変なのにゃ。

 不思議に思いながら、ボクはそっと目線を首へと滑らした。そうして目に入ってきたのは、にわかには信じられないもの。

 

「にゃ……え……なに、これ……」

 

 それは、首輪だった。金属製の鎖が伸びた、皮で出来た地味な首輪。それがボクの首に巻き付いては、鎖を介して壁のパイプに括りつけられていた。

 見間違いじゃない。夢でもない。本物の、首輪。

 

 ───え、なにこれ。一体どういうことなの?

 

 旦那さんが、ボクに悪戯をした? まず最初に、そう考えた。いやでも、こんな不気味な部屋は家にはなかったはずにゃ。そもそも、あのご飯しか考えていない人がこんな手の込んだ悪戯をするかどうか。それも怪しいところにゃ。

 

「……にゃ、そうにゃ。ボク、旦那さんと喧嘩してたんだったにゃ……」

 

 ふと蘇る、あの光景。困惑した旦那さんを前に、泣き崩れては訳分からなくなってしまったボク。そんなボクに煽られて、怒った顔をしていた旦那さん。そうだ、ボクは旦那さんと喧嘩中だったのにゃ。

 じゃあ、これは罰なのかにゃ? 我儘言って旦那さんを困らせたから、ボクはここに閉じ込められてしまったの?

 いや、まさか。旦那さんがそんなことをするなんて。前のご主人ならいざ知れず、シガレットさんはボクにそんなことはしないのにゃ。

 ───だったら、これは───

 

「気が付いたかい、イルルちゃん」

「にゃっ……?」

 

 不意に、声が飛んできた。その声は、ボクが何度か聞いたことのある声で。思い違いじゃなければ、ボクが眠る前にも聞いていたような、そんな気がするにゃ。

 鎖を鳴らして、首輪と首を擦らせながら、ボクは声が飛んできた方へと首を向ける。見えてきたのは、特徴的なモヒカンと、妖しく光るシャドウアイだった。

 

「……店主さん……?」

「うんうん、元気そうで何よりだ」

 

 満足そうに頷いた彼は、手に持っていたお皿をボクに手渡してきた。

 

 どうして店主さんがいるの?

 ここはどこなの?

 どうしてボクは首輪をつけられているの?

 

 いろんな疑問が化け鮫のように膨れ上がってきたけど、店主さんの様子がこの部屋とは不釣り合いなくらいに普段通りに見えて。ボクはおずおずと、そのお皿を受け取ってしまったにゃ。

 

「にゃ……ご飯……にゃ?」

「おじさんが作ったんだ。さぁさぁ、食べてくれ」

 

 その皿に盛り付けられていたのは、大振りなスプーンと、ホカホカお肉に小さな野菜。中央に咲いた卵黄に、上品なオリーブオイルの香り。名前は当てにくいけれど、あえて言うなら、お肉と野菜の和え物というのが近いかな。

 

「輸入食材なんだけどな、トウゲンチョウっていう鶏の胸肉とその卵を使ってるんだ。この辺じゃお目に掛かれない、レア物だぜ」

「にゃあ……お野菜は……ブロッコリーにゃ?」

「おう。ボルボロッコリ―っていう荒地の村の特産品さ。あと細かく刻んだユクモヤシも入ってるんだぞ」

 

 店主さんがいうトウゲンチョウという鳥は、今や小振りな胸肉に。その子の卵は卵白を取り除かれ、皿の中央に卵黄を咲かせるだけとなっていた。そんな薄橙ろ鮮やかな橙色の世界を彩る、細やかな緑色の欠片。半透明に何か。店主さんの言う、ボルボロッコリ―とユクモヤシという野菜なんだろう。こっちも、お肉のように細かく刻まれている。

 味付けは、ブラックペッパーと塩、そしてオリーブオイルでされているのかな。とってもシンプルな料理だけど、シンプルなだけに美味しそうに見えた。この状況はよく分からなかったけど、店主さんがじっとボクを見ているから、仕方なくボクは一口含んだのだった。

 

「……むにゃっ」

 

 柔らかく炙られたお肉。それが口の中で、優しくほどけていったにゃ。多分、普通に焼いただけじゃクセが結構残るお肉なんだと思う。旦那さんと一緒にいろいろ料理をしているうちに、そういうことがだんだん分かってきたにゃ。でも、これにはオリーブオイルがついている。その上品な香りが、お肉のクセをペロリと呑み込んでしまったにゃ。

 細かくなったブロッコリーには、あの頭のもしゃもしゃとした歯触りや、茎の歯応えある食感があまり残っていなかった。モヤシもそうにゃ。大きさがとっても細かいだけに、しゃきしゃきとした食感があまりない。オリーブオイルに混ざって、よりあの固さがふやけていっているようにも思えてくる。それでも、ブラックペッパーの風味と合わさって、お肉の味を支えているのにゃ。そこに溶いた卵黄を混ぜ合わせれば、味は一気に大変身にゃ。

 

「どうだい? 美味しいかい?」

「にゃあ。美味しい……ですにゃ」

 

 まろやかな味わいになったお肉を、また一つ口に入れる。卵黄の甘さが、オリーブオイルのとろける旨みに混ざり合ってくるにゃ。そこにお肉が入ると、口の中までとろけてしまうのにゃ。

 

「いやー。肉と野菜を切って、炒めてはオリーブオイルとかで味を調えるシンプルな料理なんだけどね。でも、体にはいいよ。どんどん食べてくれよな」

「にゃあ……あ、あの、店主さん……」

「ん? おかわりかい?」

「いえ、その……ここはどこですにゃ? それに、この首輪は……」

 

 ここは一体どこなの?

 どうして、ボクは首輪をつけられているの?

 店主さんは、何故ここにいるの?

 そして、どうして店主さんが、突然こんなことをするんだろう?

 ボクには、彼の意図がまるで分からなかったにゃ。ご飯のことを話してくれている彼には悪いけど、溢れ返ってくるたくさんの疑問を、ボクは抑えることができなかった。

 一方で、その疑問を受け取った店主さんはといえば。どこか神妙な顔つきで、シャドウアイの位置を指で整え直しては、その逞しい顎を動かした。

 

「……これには深い訳があるんだ。食べながらでいいから、聞いてくれるかい?」

「にゃ……は、はいにゃ……」

 

 そんな店主さんの言葉に、思わずボクも改まってしまって。膨らむ尻尾を何とか抑えながら、彼の言葉のために耳をぴんと立たせたにゃ。

 でも、その耳に入ってきたのは、予想外の言葉だった。

 

「ネコの毛並みをよくするのに、重要な栄養素って何か知ってるかい?」

「……にゃ?」

「毛を作るにはメチオチンやシスチン、んで潤いにはアラキドン酸やビタミンAが必要なんだ」

「……にゃ、にゃあ……?」

「それらを摂取するには動物性タンパク質……特に鳥肉や卵、あとは野菜類が適している」

「にゃ、な、何の話なの……?」

「分からないかい? 今イルルちゃんが食べてるご飯。それだよ」

 

 毛並みをよくする? 毛を作る? 毛の潤い? 店主さんは、一体何の話をしているの? どうしてボクの毛並みにこだわるんだろう。

 

「まぁ、元々イルルちゃんは毛並みがいいから、気休め程度のご飯なんだけどね。というかそもそも、毛並みのいいオトモアイルーを中心に狙ってたんだけどさ」

 

 ───にゃ? 狙ってた?

 狙ってたって、何を?

 

「分からないって顔してるね。おじさんたちが欲しいのは君───」

 

 店主さんが伸ばした腕は、ボクの方を指していて。でもそれは、次第にボクのお腹の方へ降りてくる。そうして、ボクのお腹へとおもむろに手を入れてきた。

 

「……ひゃっ、やっ!」

 

 ざわっとする。旦那さん以外の人に、身体の大事なところを触られるのは、とっても嫌にゃ。お腹の毛を梳いて、その下の肌を撫でる彼の手に、ボクは思わず爪を払ってしまう。

 

「……おーいて。何してくれんだ全く……」

「にゃっ……店主さん……一体これは、どういう……」

 

 薄皮に三本線が走る腕。彼はそれを苦々しく見て、おずおずと腕を引っ込める。嫌な感触がようやく消えたと一安心する一方で、冷たく見下ろされる感覚が体を走った。

 何て怖い目をするんだろう。シャドウアイの奥で佇むその両眼は、酷く冷酷な色でボクを見据えていた。今までの店主さんとはあまりにも違うその雰囲気に、ボクの尻尾は大きく膨らんでしまう。

 ───怖い。とっても、怖いのにゃ。

 

「おじさんたちが欲しいのは、君───正確に言えば、君の『皮』なんだよ」

 

 あの温かい声は、すっかりなりを顰めてしまって。じろりと見てくるその眼は、かつてのご主人と同じ色になっていた。

 ───ボクを道具としか見ていない、無機質な色。

 

 どうしよう。

 

 怖い。怖いよ。

 

 助けて───旦那さん。

 

 

 

 

 

~本日のレシピ~

 

『ネコの毛並み術ランチ』

 

・トウゲンチョウの胸肉      ……100g

・トウゲンチョウの卵(卵黄のみ) ……1個

・ボルボロッコリー        ……30g

・ユクモヤシ           ……25g

・ブラックペッパー        ……小さじ1杯

・塩               ……適量

・オリーブオイル         ……お好みで

 

 






 イルルちゃん、大ピンチの巻


 三味線のことは、この更新のために少し勉強して参りました。そうして得た知識を使って、次の更新でどうしてあえてアイルーを狙うのかみたいな補足もしていこうと思います。
 あとネコの毛並み。当初、三味線に使うならふっさふさのがいいんかなみたいなこと思ってその方向性で書き始めたのですが、必要なのは毛じゃなくて皮のようで。考えてみれば当たり前のことですが。そんな感じで何だかまとまりのない構成になってしまったのが反省所さんですね。
 トウゲンチョウは、モンハンワールドから逆輸入。多分捌かれては交易船に乗せられてきたんでしょ(なげやり) 正直あんまり美味しそうではないですがねぇ。現大陸で普通に飛んでる鳥にも名前付けてあげておくんなし。レシピに使いにくいであります。

 ヒロインが可哀想で心が痛みますが、筆はとても乗る。最低かよ。
 ではでは、次回の更新でまたお会いしましょう。感想や評価、お待ちしてますよー!

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