魔理沙が時々、体を乗っ取られてしまう物語   作:冷水

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プロローグ

page1:

 

 異世界で一人の少女が死んでしまった。

少女は世界一の魔法使いを決める戦いに参加するはずだった。

地球で言う所のオリンピックのような世界大会に出場するはずだったのに、その前日に事件は起こってしまった。

 

「それ、食べて大丈夫なの……?」

 

 少女の名前はミナミと言い、王国代表の宮廷魔導師である。

前日の夜に食べているのは、食中毒の心配が多いと言われている生肉であった。

生食用に食べられるのだが、衛生管理が甘い店があり、毎年何名かは倒れたり死者が出たりしている。

 

「大丈夫、私はいつも戦いの前日にこれを食べるのよ」

 

 注意を促すのはミナミの相方を務めている女性で、名前はキサラギと言うメガネをかけた女性である。

一つの国に2名までの参加者が認められていて、二人一組で参加できる魔法戦闘競技に出場する予定であった。

世界一になると言うのはミナミの夢であり、それを叶える為に二人で国家代表選手権に参加し、見事勝ち抜いてきたのだ。

 

「毎回食べていてよく当たらないと思うけど……。そのうち食中毒で死んじゃうんじゃない?」

 

 さすがに全ての肉が生で食べられる訳ではなくて、法律で何を生で食べていいのかは規定されている。

調理法には資格が必要であり、滅多に死者は出ないのだが、それでも運が悪いと死んでしまうことも少なくはない。

キサラギには何で生で肉を食べようと思うのか理解できないのだが、一部の愛好家の間では堪らない食感と味なのだという。

 

---

 

 その夜、皆が寝静まった時に腹痛と嘔吐感に目を覚ましていた。

 

「う……、吐きそう…うっぷ…」

 

(生肉に……当たった……)

 

 キサラギの言葉が頭の中に蘇り、まさか死にはしないよな?と悪い予感が頭をよぎる。

腹痛が酷く、その場から動けないほどの激痛がミナミを襲っていた。

ミナミとキサラギは寮に入っており、相部屋となっていて声を掛ければ聞こえる程度の距離には居る。

意識が途切れそうなほどの腹痛と、眩暈がしそうなほどの吐き気に変わってくる頃になると、ミナミは本格的にまずいと思いながら声を上げた。

 

「キサラギ……助けて……おなかが……」

 

 大きな声で叫び、その声を聴いてキサラギが目を覚まし近づいてくる。

魔法で蝋燭に火をつけて、部屋には両者の顔が見える程度には明るくなった。

 

「ちょっと、ミナミ……どうしたのよ」

 

 ミナミは震える手でキサラギの服の裾を掴むと、耳元で腹痛と吐き気が酷いことを訴える。

 

「おなかが…痛くて、吐き気……痛みで…気絶しそ……う」

 

 異常なほどの痛みや吐き気を訴えるミナミを様子を見て、記憶の中にある食中毒の症状を思い出していた。

生肉は扱いを間違えると、食中毒になり最悪の場合は死者が出ることもある。

医療班の人が入っている寮の部屋を思い出すと、キサラギの行動は早かった。

 

「まさか……!ちょっと待ってて、医療班の人呼んでくるから」

 

 キサラギが部屋から出て、医療班の人を呼びに行く。

それを見送ったミナミは、その場で嘔吐をしてしまった。

汚さなど気にする余裕がなくなり、嘔吐物の中に顔を突っ込んでしまうも口元を抑えたまま意識を失ってしまった。

医療班の人が数名駆けつけるも、ミナミは意識を失うほどの重体であり、飛び散った嘔吐物などもあり清潔にする必要もあった。

 

 そして、ミナミはそのまま意識を取り戻すことなく、帰らぬ人となってしまった。

後には悲しみに暮れるキサラギだけが残されてしまった。

 

 ミナミには世界一になりたいという目標があった。

個人に参加するには実績が足りず、二人一組の団体戦にしか参加できなかったものの、強さに憧れて宮廷魔導師にまで駆け上がった秀才であった。

 

 

 

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page2:

 

 霧雨魔理沙は焦っていた。

それは健康に異常があるのではなく、自らの体内に「誰かいる」感覚がしたからである。

 

 霧雨魔理沙は焦っていた。

ある日起きたら、誰かに憑依されていたから。

目の前には薄く透明に光る人物が浮いていて、一目で幽霊だと分かる誰かがいたから。

 

 自分の体から鎖のようなものが伸びていて、それが幽霊の少女とつながっている。

それは目を覚まさずに、魔理沙の前をふわふわと漂っているだけだった。

しかし、目を覚ますと口を開いた。

 

『おはよう。私、貴方に憑依したから。これからよろしく』

 

「えええ!」

 

 最初、魔理沙は混乱していた。

色々と言いたいことがあり、訴えていると、体から入れ替わったように視点が変わっていた。

自分が半透明になり鎖のようなものが着いていて、自分自身につながっていた。

 

「私、時々貴方の体を借りるから、よろしくね~」

 

 霧雨魔理沙は幽霊に取りつかれてしまった。

 

『お前、なんだよ!私の体を返せよ!』

 

「そういわれても、私も何故か目を覚ましたら、貴方に取りついていたのよ。記憶も無いのだけど、なぜか自分が貴方に取りついているという事だけは分かるのよ」

 

『……』

 

「あら、黙ってしまってどうしたの?」

 

 魔理沙は突然の事に戸惑ってしまった。

魔法使いのような恰好をした目の前の幽霊が、自分に取りついていると言っている。

知り合いに幽霊が居るが、それだってこんな事をしているなんて聞いたことがない。

 

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 様々な事がその後にあったが、結局は魔理沙と幽霊の共同生活が幕を開けた。

魔理沙に体を返すと、やっと魔理沙は一息入れることができた。

 

「お前……名前とか思い出せるのか?」

 

 幽霊は生前の記憶を失うという事を聞いたことがある。

それはきっとこの目の前の少女も同じなのだろうと思う。

後で博麗霊夢なり、白玉楼の幽霊なり、相談に行くとしてもまずは名前が無いと不便であると考えた。

 

「お前、記憶が無いんだよな。名前とかも憶えてないのか?」

 

『うーん、名前と自分が魔法使いだったことだけは”分かる”んだけど』

 

「じゃあ、名前言ってみろよ」

 

『私はミナミ』

 

 魔理沙は早くこんな幽霊、出て行ってほしいと思い始める。

だって、自分の体を勝手に乗っ取ったり、好き勝手な事をしてくれるのだから。

 

 こうして、魔理沙はミナミを一刻も早く自らの体から追い出そうと決心した。

そして、魔理沙の受難の日々は幕を開ける。

 

  

 

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page3:

 

 魔理沙はその日、博麗神社へ行こうと決意する。

そこには博麗霊夢という魔理沙の友人が居て、仮にも「巫女」であるのだから、解決策を知っているのではと考える。

 

『どこか、お出かけするの?』

 

「ああ、お前を祓ってもらう為に巫女に会いにな」

 

『そのミコって奴、強いの?』

 

「ああ、強いぜ」

 

 どうにも調子が狂うと思いつつ、魔理沙はミナミの言葉に相槌を打っている。

元々、家出して一人で住んでいるので人さびしいというのもあるので、会話の相手になる程度はいいと考えていた。

 

 箒に乗り、空を飛びはじめる。

感覚は無いのだが、背中に抱き着いて首のあたりに腕を回していた。

なんだかそんな形で抱き着かれるのが新鮮でもあるのだが、温かみもない幽霊の手であるというのは、正直ぞっとしなかった。

 

『あれ?あそのに飛んでいるのも魔法使い?』

 

 魔法の森の上空を飛んでいると、前方からアリス・マーガトロイドが近づいてきた。

あまり仲が良いとは言えないものの、魔理沙にとっては異変で手を組む程度には親しみやすい相手でもある。

 

「魔理沙じゃない。どうしたの?」

 

 相変わらずミナミは背中に抱き着いているものの、アリス・マーガトロイドがそれを気に留めた様子がない。

ミナミが近づいて行き、アリスの目の前で手を振ったりしているのだが、それにも反応をしめさない。

 

『初めましてー。……おーい、無視しないでよー』

 

 魔理沙はその様子を見て、ひきつったような笑みを浮かべていて、アリスはその表情を見て不可解な表情をしている。

幽霊の存在は見えるはず?だと思っていた魔理沙は、意外にもミナミの姿がアリスに見えないことに驚いていた。

春雪異変の時に幽々子と会っているはずなので、幽霊自体が見えないということは無いはずであるし、仮にも相手は妖怪であるのだから、見えていても不思議ではないはずなのにである。

 

「アリスこそ、今日はどうしたんだ?」

 

 不審な様子を気取られないように魔理沙は意識しつつも、目の前で頬を膨らませて怒りをあらわにしているミナミを見ながら思わず笑いそうになる。

 

『この私を無視するなんて、上等ね。こうなったら実力行使よ』

 

「え?」

 

 魔理沙は自らの体から強制的に排出され、ミナミと入れ替わってしまった。

 

「ねえ、そこの派手な色の魔法使い。よくも私を無視してくれたわね」

 

 ミナミは魔理沙の口、魔理沙の声、魔理沙の表情でアリスへ向かって挑発を開始した。

前かがみになりつつ、アリスの顔を見上げるような視線を向けながら頬を膨らませて怒っていた。

 

「え……?」

 

 今度はアリスが固まる番だった。

 

『おい、アリス……私はそんな事これっぽっちも思ってないからな?』

 

 魔理沙の声が空しく響き渡るも、今度は魔理沙の声が一言も通じなくなる。

必死に弁解を述べるも、瞬きを数回したかと思うと、アリスはスペルカードを取り出して臨戦態勢を取り始める。

 

「魔理沙、ふざけているの?喧嘩なら安く買いたたいてあげてもいいけれど」

 

 右手にスペルカードと、上海人形が体の周りに踊っている。

 

「それが貴方の戦い方?さしずめ人形使いって所かしら」

 

「魔理沙……貴方、今日はどうかしたの?スペルカードも構えないなんて……」

 

 魔理沙がスペルカードを出さないことを訝しむアリスは、魔理沙の様子が可笑しいことに気が付いていた。

左手を後ろに隠すと、スペルカードとは別の戦闘用の人形と「魔法の糸」を操り始める。

魔理沙の考えが読めず、ありえないと考えつつも戦闘の用意をしていた。

人形たちの半分に対して、攻撃と防御の構えを命じていた。

 

「やる気みたいね。私から行かせてもらう」

 

『え、おい、やめろって。ルール違反だぜ』

 

 魔法の箒から降り、飛行魔術を自らの体に書けるミナミ。

アリスの視点では魔理沙がいつもの箒ではなく、自らの力で飛んでいる姿を見て驚きの表情を浮かべていた。

なぜだかわからないが、アリスは嫌な予感がしていた。

 

「――――――」

 

 魔理沙の口から、聞いた事の無い言語での詠唱が響き渡る。

その音色は綺麗であり、幻想的でもあった。

魔法陣は存在せず、詠唱により直接効果を及ぼす類の魔法。

それは非殺傷で、相手を無力化する為の魔法で、声を聴いた者に眠りを誘う歌声である。

 

「あ……」

 

 アリスは意識を奪われ、そのまま空中で眠りに落ちてしまった。

魔理沙は助けようと動きだすが、自らの手がアリスを掴むことはできなかった。

上海人形は動くことをせず、主の命令を待つばかりで、動くことはなかった。

 

『ミナミ!』

 

「分かっているわよ」

 

 地面に落ちる寸前に、魔理沙の体をしたミナミはアリスを捕まえ、地面に降り立った。

 

『何勝手な事を私の体でやってるんだよ!』

 

「別にいいじゃない。私も貴方の体を四六時中使うつもりはないわ」

 

 悪びれた様子もなく、生意気な口調で返事をしながらも、ミナミはアリスを地面に横たえた。

そして魔理沙に体を返すと、魔理沙の周りをふわふわと漂いはじめる。

 

『こんな程度で、落ちるなんて思わなかったのよ。魔法使いなら、これくらい無効化しないさってのよ』

 

「お前、本当は記憶があるのか……?」

 

 魔理沙は目の前の少女が、魔法に精通した者であるというのを今ので理解はした。

魔力の練り方、無駄の無い使い方、それらは一朝一夕でできるものではない。

 

『ただ、勝手に体が動くのよ。……あ、幽霊だから体じゃなくて、魂が覚えているとでも言うのかしらね?』

 

 軽く微笑みながら、少しさびしそうに微笑むミナミは、魔理沙に顔を見せまいとして後ろを向いていた。

 

『あと1~2分で目を覚ますはずよ。さっさと先へ行きましょうよ』

 

 魔理沙の背後に回ると、相変わらず手を魔理沙の首のあたりにまわしている体制になる。

少し納得がいかないという感情になりながらも、魔理沙はアリスが目を覚ましたら確かに厄介だと思う。

 

「う……ん……」

 

 アリスが目を覚ましそうになり、魔理沙は急いでその場を後にする。

 

---

 

 目を覚ましたアリスが、先ほどの内容を思い出すと、魔理沙に魔法で負けたという屈辱とともに、魔理沙が攻撃魔法を使ってきたという事実を思い出して驚いていた。

そこそこ長い付き合いの中で、魔理沙がこんな風に直接的な手段に訴えてくることなどなかった。

それに、あの魔法は見たことがなかった。

 

「これは……異変なのかしら……?」

 

 アリスはそう呟き、とりあえず地面に横たわっていたために、服が汚れてしまったことに気が付いた。

自宅が近いこともあり、とりあえず帰宅することにし、空を飛びはじめる。

 

 

 

 

 

 

----

 

page4:

 

 魔理沙が博麗神社へ到着すると、博麗霊夢は縁側でお茶を飲んでいた。

 

「あら、魔理沙じゃない」

 

 霊夢は魔理沙の姿を見ると、お茶を飲みながら声を掛けてきた。

こういう時、霊夢なら第三者が居れば真っ先に気が付くと思うのだが、これといった反応を返してこなかった。

 

「……それと幽霊の気配かしら、誰かいるわね……存在感が薄くてあまりよく見えないけれど」

 

『すごい、私の姿が見えてるのね』

 

「声は聞こえているわよ」

 

「さすが霊夢だな、こいつに取りつかれたんだが、何とか除霊とかできないか?」

 

 霊夢は目を細め、魔理沙の姿を霊視していく。

すると鎖につながれた見知らぬ誰かの魂と、魔理沙がつながっているのが見て取れた。

余談だが、幽霊に「憑かれる」と周りからは幽霊の姿や声が視認し辛くなる。

存在感のレベルで同化していて、巫女のように特殊な訓練を積んでいる者や、気配を感じるのが得意な者以外は気付けなくなる。

 

「最近は除霊の機会もなかったから、儀式をするための道具が足りないわ。一番簡単なのは、消えるまで待つか未練を消すことなんだけど……」

 

「こいつ、そのあたりのこと何も覚えてなくてな」

 

「まあ、幽霊だからそうなのかもね」

 

 霊夢しばし考えた後に、とりあえず今はできないとだけ魔理沙に伝えた。

それを聞いてがっかりした魔理沙は、疲れたように霊夢の隣に腰を下ろした。

 

「お茶でも飲むかしら?」

 

 霊夢はもう一個湯呑を持って来て、急須にお茶を注いでいでから魔理沙に差し出した。

それを受け取り、一息入れたところで、魔理沙はとりあえず落ち付くことができた。

 

 霊夢は魔理沙の身に起きた異変を考えつつも、同時に面白そうだと思っていた。

魔理沙の話を聞く限り、時々無理やり体の主導権を奪われるのだという。

普通の幽霊にそこまでの力は無いはずであるが、よほど強い未練を持った魂であるのなら、ありうる話かもしれないとも思う。

 

 スペルカードルールを無視したとのことであるので、そのあたりは厳しくいかなくてはとも思うのだが、魔理沙でありながら魔理沙でないのだから、幽霊を罰するしかない。

しかし、除霊には必要な儀式をするための素材が無い為に、すぐに実行できそうにないし、しばらくは魔理沙に我慢してもらうしかない。

 

 ここまでが、魔理沙の身に起こった事件のプロローグ。

アリスに変な勘違いを残し、霊夢はそれを見て楽しんでいて、魔理沙はミナミの勝手な行動に困り果てている。

この事件が幻想郷にどんな影響をもたらすのか、それを知るのはまだ誰もいない。

 

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