しばらく間が空いてしまって申し訳ありません。
俺は今主治医からの許可をもらってある場所へ行こうとしていた。それは後回しにしていたら、確実に手遅れになるかもしれなかったからだ。
――もう遅いかも・・・――
ネガティブな気持ちになりつつも今まで通っていた学校へ久々に足を向けた。用事は元顧問に会うこと。そして言いたいことを伝えるだけ。そのつもりなのに、最初の一歩が踏み出せなかった。ややしばらく立ち止まっていてようやっと踏み出すことができた。
校門に常駐していた警備員に声をかけ、一時的許可書をもらう。これで半日自由に歩くことができるだろう。それでも時間は余るかもしれない・・・が。
「やあ、しばらくぶりだったね。元気にしていたかい?」
職員室を訪れるとその元顧問の男性はプリントを作っている最中だったが、その手を止めてこちらを向いてくれた。俺は多分変わっているかもしれないが、顧問は変わっちゃいなかった。どのくらい時間が経過していたか分からないが、ちゃんと覚えていてくれた。
「ええ、せんせーも変わりないようで安心しました」
挨拶はこれぐらいにして早速本題へと移る。俺には時間が無くなりつつあるのだから。
「それで・・・?須賀君がいきなり来たのには何か理由があるのだろう?あの時もいきなりの退学だったからな・・・。不躾な言い方ですまないが、君には親友と呼べるような存在はいなかったのかい?何も言わずに学校を辞めたことで色々と噂になっていたよ」
「それは・・・予想できたことですし、俺には時間がなかったんですよ」
「うむ、それについて須賀君を責めるつもりはない。早い段階でその噂は無くなったしな・・・・・・」
誰もいない進路相談室で元顧問と二人、話す時間も今となっては懐かしい思い出の一つだ。
「俺からの用件はひとつだけです。今一度、麻雀の部長と話したい・・・それだけですわ」
「わかっているとは思うが、今は忙しい時期だ。元が付くとは言え、余計な邪魔を入らせるわけにはいなないんだよ。須賀君の時間が許すなら後回しにできないか?・・・と言っても時間がないから私のところを介して来たんだろ?そうじゃなかったら大会が終わってからでも訪問すればいいだけの話だからな」
「ええ、分かってます。俺が元・部員と言う立場であったとしても、今の大事な時期に邪魔は入れないと思いますよ。それでも俺には時間がなくなったんです。詳しいことは言えませんが、ここに来るのは多分最初で最後だと考えてます」
「うぅむ・・・・・・」
しばらくそのまま考え込んでいた。聡明な顧問は俺の言いたいことが多分想像が付いたと思う。驚愕の表情を浮かべていたからだ。
「須賀・・・君はこれからどうかなるのか?」
青ざめた表情で今まで見たことがないぐらいの脂汗を浮かべてそう聞いてきた。
「ええ、俺がまだこの学校にいた最後の時期ぐらいからずっと休みがちでしたよね。それは一部の生徒が言うようなサボりではなく、病院に検査しに行っていたからなんです。あとはそれ以上にこの学校での居場所がなくなったってのもありました」
「そう、か・・・・・・」
そう呟くと自分の携帯を取り出した。一昔前の携帯――二つ折でもない携帯――を取り出して一時的に戻っている部室へと連絡を取り出した。俺のほうを向いて声を出さないように告げてから・・・。
「あぁ、もしもし」
「――――?」
「今、いいかな?ちょうど俺のところに元・部員のヤツからお前さんたちに伝えたいことがあるそうだ。時間が大丈夫なようだったら変わってもいいか?」
「――――!!」
「・・・そうか。なら駄目って事でそいつには伝えておくな・・・。忙しい時間だったな、邪魔した」
「――――?」
「・・・君には関係ないだろ。(ごめん、忙しいから変わるのは無理なようだ。・・・須賀君ここまで来てもらって申し訳ない)」
最後のところは電話の相手にも少し聞こえるぐらいの声量で呟いた。
「――――ッ!?」
やはり顧問はワザとそこだけ聞こえるように呟いたようだ。電話越しに焦ったような声が漏れてきていたからだ。そしてブチッと電源をOFFにした。
「すまない。ここまで来てもらったのに、君の願いは叶わないようだ。無理だとは思うが、もう一度ここに来れるか?」
「・・・ははっ!無理ですよ。ここに来るだけの許可でさえ、数枚の書類にサインしてようやっと来たんですから・・・・・・。ただ・・・」
「うん?」
「もう一度、ここに来れるとしたら全てが上手くいった時でしょうね。・・・・・・今日はどうもありがとうございました。あなたと話すことができたのは俺にとってプラスになるはずです」
「そう?良かったよ(またね、須賀君・・・・・・)」
いつの間にか流れていた涙を手の甲で拭うと、部屋の扉に手をかけそのまま後ろを振り返らず出て行った。顧問の声も、最後は涙混じりで俺が出て行ったあとに大泣きしていたようだったからだ。
最後の見納めをするかのように自分が通っていたクラスや、昼食を食べた食堂、部室・・・には行こうとしてやめた。大切な時期なのだから、邪魔するのは無粋というもの。
学校の敷地の外には主治医が用意している乗用車が停まっていた。それはこの学校を最後に訪れる際に、具合が悪くなっては仕方がないので用意した優しさだった。
グラウンドの外側で一礼してその場を立ち去った。そして用意してくれた車に乗り込んでそのまま病院への道を進んでいった。もしここで須賀京太郎が、数分立ち去るのを遅くしていたら結末は少しでも変わっていたかもしれない。
竹井side
私は大会の合間に部室へと一時的に帰ってきていた。それは虫の知らせというものがあったのかもしれない。そう言うのはあまり信用しない私だったが、この時だけはそれを信じようと思っていた節があったのだろう。
部員が一人居なくなっただけでやけに広く感じる部室に佇んでいた。あの時電話越しに退部を言われたけれど、何かの間違いと信じたくて合宿後に顧問に相談したけれどもその時にはもうすでに遅かった。
“退部届”ならびに“退学届”を出してこの学校からいなくなったのだ。麻雀は弱いけど、その他のことをしてくれるから私たちは助かっていたのだ。しかしその事を良く思わない生徒たちが少数いた事は事実だった。この学校を辞めた後に噂として存在していた。
曰く、妊娠させた女がいる・・・。
曰く、ヤクザに追われている・・・。
曰く、麻雀出来ない自分に嫌気がさした・・・。
根も葉もない噂だったが最後の噂にはゾッとした。確かに須賀君は麻雀が出来ない――弱い――けれどそれでも大切な部員の一人に違いなかった。
――部長は京ちゃんの事が心配じゃないんですかっ?――
って、咲に言われるまでは・・・。『心配よ』って言う言葉を飲み込んで表面上は何も思ってないかのように振舞った。ここは戦場とでも言える場所・・・。どこからか漏れてそれが弱みになるか分からなかったからだ。
その場はしらけることでうやむやになったが、どんな時でも心のどこかに存在があった。そんな折、顧問から電話があった。
「ああ、もしもし」
「はい?用件はなんでしょうか?」
「今、いいかな?ちょうど俺のところに元・部員のヤツからお前さんたちに伝えたいことがあるそうだ。時間が大丈夫なようだったら変わってもいいか?」
「・・・申し訳ありません。忙しいもので!!」
ちょっとぞんざいにな言い方になっちゃっただろうか。致し方がないと思い込んで、あとで謝りにいこうかしら・・・。
「・・・そうか。なら駄目って事でそいつには伝えておくな・・・。忙しい時間だったな、邪魔した」
「いいえ、それで元・部員って誰です?(まさかね・・・)」
「・・・君には関係ないだろ。(ごめん、忙しいから変わるのは無理なようだ。・・・須賀君ここまで来てもらって申し訳ない)」
――・・・えっ、今・・・須賀君って言った?・・・・・・――
「いっ、今何て言いましたかっ?」
――ブチッ・・・・・・ツーッ・・・ツーッ・・・・・・――
そのまま聞こえなくなった。暑いはずなのに、冷や汗が顔からにじみ出てきた。考えることがたくさんあって考えが纏まらない。
どうして、須賀君が顧問と一緒にいるの?
どうして、私に用事があるの?
もしかしてここに居るの?
もしかして私に会いに来た?
どうしようもなくなって顧問の姿を探して校内を走った。何度か『廊下は走らない』のポスターが目に付いたけれども、そんなのは気にしなかった。ややしばらくして、鼻水を啜る音が普段は使われていない相談室から聞こえてきた。
――コンコンッ――
「はい?どうぞ・・・・・・」
聞こえてきた声は探していた顧問の声だ。
「失礼します」
「ああ、竹井君か・・・。何か用かい?」
啜りながらも尋ねてくる。私は震える声で聞いた。
「ここに・・・須賀、京太郎がいませんでしたか?」
「・・・・・・いたよ。それが?」
どうして顧問の声が私に対して厳しいの?あぁ、さっきの電話の時に忙しいって断ったせいかな?
「須賀君は今どこに・・・?」
「ここにはもう来ないよ・・・」
「えっ。どういうことでしょうか?」
「さぁ?私には分からないが彼がここに来たのは重大な話を持ってきたように思えたよ。まぁ、これで最後っぽいけれどな」
「・・・・・・」
「君が悪いとか、須賀君が来たタイミングが悪かったとかそこらへんはどうか分からないが・・・ただこれだけ言えるかな」
「な・・・にを?」
「俺も竹井も最後のチャンスを失ったって事だろうよ」
「っく・・・。須賀君は今どこに?」
「知らん」
その言葉が終わるか否か、その部屋を飛び出して探し回った。汗ばむ手をギュッと握りながら探した。そして見つけた。グラウンドの外側に佇んでいる青年の姿を・・・・・・。
その姿を見つけたのは二階の渡り廊下からだったので一秒でも早く辿り着きたかったが、疲れきった体にムチ打って行くのは大変だった。そしてようやっとそこまで行くことができたが誰も居なかった。
「はぁ・・・はぁ・・・・・・はぁ・・・・・・」
――私は
竹井side end