須賀京太郎の悲劇   作:泡泡

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 『』は彼が心の中で思っていることです。いつものように短いです。


見たくない

 

 段々と視界が覚醒していくのがわかる。だが、今の状況がイマイチ分からなかった。首を動かしたくてもどうにも動かすことができない。仕方がないから目だけキョロキョロと見渡してみる。

 

 『あれ・・・ここ、どこ?』

 

 「目が覚めた?」

 

 声がするのでその方向にちらりと視線を合わせてみた。するとそこには医者が優しそうな顔をしてこちらを見ていた。

 

 『どこかで見覚えがあるような・・・無いような。ダメだ、思い出せない』

 

 「自分が置かれている状況が分からないかな」

 

 頷くことも難しいので瞬きを一度してみた。気づくだろうか。

 

 「あぁ、yesだったら瞬き一回、noだったら二回してくれるか?そうそう・・・。で、君が置かれている状況だが、この病院には最初頭痛の治療のために通院していた。それで手術に必要なだけの体力が備わったのですぐに手術したわけなのだが・・・。うぅむ・・・・・・」

 

 『??』

 

 医者はそこまで伝えると続きの言葉を言いにくそうにしていた。どうやら自身の体にはとんでもない事が起きているようだった。それすら(かすみ)がかかったように思い出すことができなかった。

 

 「成功してもしなくても結果として、記憶の一部を失う可能性があったのだ。覚えていないだろうがこれが君が出した手術同意書だ」

 

 白衣のポケットから同意書なるものを出してくる。目が覚めたばかりでボヤけているのか書類全てには目を通すことができなかったが、最後の署名欄に印鑑がされていた。

 

 自分の名前も書かれていたがそれすら思い出すことができなかった。性別は見てのとおり男性、年齢は16歳ぐらい、どこに住んでいた?親友の有無は?家族構成?趣味?

 

 頭の中がごっちゃになっていた。整理する時間が欲しかった。

 

 「君も術後で覚めたばかりだ。ここはICU(集中治療室)だ。24時間体制で看護師や私たちのような医者が備えている。・・・少し整理する必要があるだろう。手元にナースコールを置いておくから何か思い出したり些細な事でも押すように。いいね?」

 

 瞬き一回する。『うむ』と医者は頷いてから自分が寝ているベッドを離れていった。それでも視界の隅には、せわしなく動き回る医療関係者の姿があった。

 

 『・・・・・・』

 

 目を瞑り些細な事でも思い出そうとするが思い出せない。時間だけが過ぎていく。まだ食事をとることができないので点滴で栄養を補給する。およそ一時間に一度ぐらいの割合で、見回りにやってきて一言二言声をかけそして計器類をチェックして去っていく。

 

 『・・・・・・』

 

 ベッドが置かれているのは一番廊下よりのところ。見づらいが、視界をななめ左上にやると廊下が見える。最初はそちらを向くのも大変だったがようやくそちらの方も視界のはしにおさめることができた。

 

 『あれっ?誰かが俺を見て・・・る・・・?』

 

 目を使うのも疲れるもので首が固定されている中、目だけをギョロギョロと動かすのは一苦労。まして大きな手術をして今日目覚めたばかり+ICUに入ってる患者がすることではない。

 

 「「・・・・・・・・・」」

 

 二人の少女が俺のほうを見ていた。自分じゃない誰かを見ているのかとも思ったが、自分を見ていることに間違いはなかった。それでも思い出すことができない。

 

 『・・・・・・』

 

 「―――」

 

 ガラス越しなので声は当たり前だが聞こえてこない。それでも楽観的な事を話しているのではないことだけはわかった。悲しい顔をしないようにしないようにと努めているようだったが、表情がこわばっていたり、肩が震えているのを視界の端に捉えていたからだ。

 

 『疲れた・・・。名前も知らない彼女らのそんな表情を見たくない。どうしてだろう、こんなにも涙腺を刺激するとは・・・』 

 

 どれだけ寝ていたかは分からない、それでももう一度目を覚ました時には彼女らの姿を見ることはなかった。でもこれだけは言える。

 

 『あの子ら・・・、可愛かったなぁ』

 

 彼女らとの邂逅はさほど遠くない近いうちに訪れるだろう。





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