須賀京太郎の悲劇   作:泡泡

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 一ヶ月に一回のペース。そしてクオリティーの低さ、文才が欲しい


語らい

 すでに時刻は夜中になっていた。夜間から降り始めた雨の音がシトシトと心地よく聞こえてくる。だが彼はベッドの上で幾度となく寝返りを打っていたが、今晩はどうにも寝付きが悪かった。それは十中八九、昼間のことが関係しているのだろう。

 

 「駄目だ。眠れやしねぇ。・・・どこかに行こうとしてもこの体じゃねえしなぁ」

 

 どこかに行くことは諦めて、ベッドのへりに座り目を開けたまま黙想を始めた。少しでも気を紛らわせるためだ。雨が降っているせいもあって無音と暗闇を見ているだけで、今日起きた事柄について自身の中で整理することが出来た。

 

 そしてその甲斐あって数十分後には気を落ち着け、眠気も催すこともできた。

 

 「ふぅ・・・それなりに落ち着く事が出来たな。そろそろ眠れるだろうか。むっ、誰だ?」

 

 音が無かった状態だったので気づけたのだろう。引き戸の向こうにこちらをうかがうような気配を感じたのでそちらに声をかける。これで誰もいなかったら道化(ピエロ)だと内心思いつつ…。

 

 「・・・うちや。昼間赤いノート持ってなかったほうの。入ってもええか?」

 

 「あ、あぁ。どうぞ」

 

 「失礼します・・・」

 

 標準語とは少し違うイントネーションを持った少女が入ってきた。一人でここに来た様子。オドオドとした雰囲気に遊び心に火がついた。

 

 「真夜中に一人で来るとは・・・よほど心身ともに強いのか馬鹿なのか、どちらだ?」

 

 その答えにビクッと反応を返してきた彼女の姿を見ていると何だか弄びたくなった。

 

 「ええっとぉ・・・。そのぅ・・・」

 

 「うん?俺としては抱かれに来たのかと思ったが、違うのか?」

 

 こんな事を言ったのは記憶を失う前にも無かったと思いたい。それぐらい言った本人も緊張していたらしい。

 

 「ふえっ。ちゃ、ちゃいますぅ!!」

 

 両手を体の前でブンブンと振って完全否定する。その様子にホッとした気持ちと、がっかりした気持ちが半々存在した。 ではここに来た理由は何?とこちらから聞くのではなく、少しおちゃらけた様子を消して真面目な表情を浮かべる。その変わり具合に彼女もそれが冗談で本当の理由を知りたいのだと思った。

 

 「うちがここに来た理由・・・それはアンタが心配だったから。記憶を失う前のアンタはとても真面目だった。手術前にうちらとの関係をリセットしようと持ちかけてきた。アンタは覚えてない言うけど、うちらとしては寝耳に水状態やったしほんまにうちらのこと大切に思っとるいうて嬉しかった」

 

 「・・・・・・」

 

 記憶を失う前の俺はそんな聖人だったのかと思いながらも、彼女の言うことに意識を集中することにした。

 

 「だから見に来た。・・・来て正解。アンタはそんな姿を見せながら心の中では泣いてる。ノートの中には何が書いてあったかうちらは知らない。それでもどないなことを書いたかぐらいは想像付くんよ。色々とあれこれ考えてるうちに分かんなくなってきたんやな?」

 

 「っ!!」

 

 的確な指摘に彼女の言葉に対して無表情を貫いていた彼だったが、初めてその表情が崩れた。自分ではわかっていたつもりだった。彼女がどんな想いを持って夜中に忍び込んだかに関して・・・。だからだろうか、この言葉が自然と口から出たのは・・・。

 

 「なぁ、君の言う昔の俺ってどんなんだった?いや、以前の俺と今の俺が違うのは分かっているしそれに関して何かを知って君らの理想に近づけようとする気もないから安心してくれ。参考までにどんなふうだったのか、知りたいんだ」

 

 「・・・ええよ」

 

 彼女から昔の俺について色々と聞いた。信じられない話もあったし、聖人かってツッコミたくなる話も出てきた。話を聞いても『あぁ、やっぱり』と思うばかりでこうありたいと思うようなことはなかった。それを彼女に伝えるとホッとしたような呟きを漏らしただけだった。これで良かったのかもしれない。言いたいことだけ言うと帰り支度を始めた。

 

 「ほな、うち帰るわ」

 

 「そうか、有意義な話サンキューな。また来い」

 

 「うん、ほなまた来る」

 

 言葉少なめにその場を去っていったが、昼間に来た時よりは表情が幾分柔らかめになっていた。それは二人っきりで話したせいもあっただろう。それから数分後静けさを取り戻した廊下にヒタヒタと足音がした。

 

 「またか・・・」

 

 ――コンコンッ――

 

 「どうぞ・・・。今度は昼間の片割れか?」

 

 「うん、そや」

 

 ガラリと開けて入ってきたのは清水谷竜華だったと思う。園城寺怜とは違い、オドオドした雰囲気を持たず堂々とした振る舞いで入って来た・・・のは引き戸を開けて入ってくるまでだった。入ってきてからは少し園城寺怜と同じ雰囲気を漂わせているようにも思えた。

 

 「何か話したいことでもあったか?」

 

 「さっきここに怜が来た?」

 

 「ああ、自論を話して戻っていったが・・・」

 

 「そか」

 

 「「・・・・・・」」

 

 それっきり沈黙が続いた。シトシトと小雨が降る音だけが病室に響いていた。それから竜華が話し始めたのは時計の分針が2回りほどした頃だろう。

 

 「あんなぁ、うちどうしても話したいことがあんねん」

 

 「あぁ、話してみぃ?」

 

 ベッドに備え付けられている照明器具だけの明かりで照らされているので、竜華の細かいところまでは表情を見ることはできないが、多分泣きそうになっているのだけは想像できた。

 

 「うちはアンタの手術が成功したのを聞いて嬉しかった。そやけど、記憶を失っているのが分かってどうしようもないくらいの孤独感に襲われた。怜と一緒になって慰め合ったりもした。けどそれでも・・・それでも心に残った喪失感だけはどうにもならんかった。だから前だけ向いて君を見ようと決意したんよ」

 

 「そか・・・。それでいいんじゃないか?俺は前の自分が分からないからぶれる事もあるだろうしあんたら二人に迷惑をかけてしまうかもしれないが、こんだけ二人が揃いも揃って俺を励ましたりしてくれたらそれに応えないわけにはいかないだろうし・・・な」

 

 「あっ・・・!!」

 

 少し痛む体を引きずりながら竜華の横に行き、そして出来るだけ優しく頭を撫でる。こうしたほうが良いと思ったからだ。竜華は驚いたように俺を凝視したが、その後は撫でられるがままになった。 

 

 「(ふにゅぅぅぅ・・・。気持ちええなぁ)」

 

 「(髪の毛がサラサラしてて触り心地いいな)」

 

 

 そのまま数分・・・。遠くで雷の音が聞こえたような気がして竜華は弾かれるように仰け反った。そして照明が届く範囲から離れたので表情がどうなっているかは分からないが、多分真っ赤な顔をしているんだろう。何となくだが・・・。

 

 「え、ええっとぉ・・・うちそろそろ戻るね?きょ、今日はありがとぅ」

 

 「そ、そっか。またおいで。退院したらどっか行こ?」

 

 「あっ、うんっ!!」

 

 病室を出て廊下の間接照明に照らされた竜華の顔は笑顔で満ち溢れていた。扉が閉まり、パタパタと軽い足音が段々と遠のいていきそして聞こえなくなった。

 

 「よし、俺はここにいる。だからせいぜい足掻いてみせるさ。成功率が低い手術で生き残ったんだからな!!」

 

 グッと拳を握ってそう決意した。

 

 




 
 二人の言葉遣いが変だと思うので「見逃せないなぁ」って思われる読者さんがおられればご指摘ください。

 言い方一部修正(2013/10/09)
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