「えっ、あなた一番弱くてすぐに飛ばされるのにそんなこと考えているの?そんな暇があったら雑用したら?」
「……そうですか、じゃっ失礼します」
「…今言ったことは半分ぐらいホントで嘘よ。ってあれ、切れちゃったの。まぁいいわ、明日冗談だって言ったら須賀君も許してくれるでしょ。愛の鞭ってやつね」
冗談だと釈明する機会なんて明日にも将来にも訪れないなんて事に気付かない清澄高校麻雀部部長だった。
「ハギヨシ、その後ろのが?」
「はい、
「は、はじめまして?」
重厚な扉の向こうには四人の姿があり、その内の一人がハギヨシさんに声をかけてくる。さんを付けずに話しかけてきたところを見ると、雇い主なのかもしれない。それで相手の反応を見るために少し
「えっ?そんなに畏まらなくてもよくってよ。
丁寧語を使ってくる彼女の苗字を聞くと龍門渕と返ってきたのでここの部長で高校と何らかの関わりを持っているのだろう。少し首筋がピリピリする。
「背の高いのが
透華さんはメンバーを一人ずつ紹介してくれた。ハギヨシさんは慣れた手つきで紅茶の準備をしているし、少しと言うかホントに住む世界が違うような空間に来てしまったんだなとしみじみ思っていた。
「ご丁寧にありがとうございます。じ、自分は須賀京太郎です。えっと・・・」
ハギヨシさん以外の男性だということもあって注目度が高い気がする。簡単な自己紹介をしようと思っていると、じーっと見られていた。当たり障りのない事を言ってしまえばいいか。
「元・清澄です。ハギヨシさんに誘われて龍門渕に来ました。俺が出来ることは数少ないかもしれないけど、ここで頑張りたいと思います。まだまだ初心者ですので、強くなれるように指導お願いするッス!!」
最初の礼儀は大事なので、お辞儀を少し深めにする。一瞬、静寂があった後パチパチと拍手の音が聞こえてきた。見ると笑顔を浮かべた四人とハギヨシさんが手を叩いて歓迎してくれているようだった。
「ふふっ、あなたを歓迎しますわっ」
「やれやれだぜ・・・」
初日は彼女たちが歓迎会を開いてくれるというので参加した。良い機会なので自分がなぜ龍門渕に呼ばれたのか、それを聞くことにした。
「ちょっといいっすか?なぜ俺はここに来ることができて、そして昔からの知り合いのように歓迎されているんです?俺は初心者のしょの字ぐらいで
どうぞと促されたので、自分の心で抱えていた闇の一部を吐露する。皆は口を挟まないでちゃんと聞いてくれている。これも清澄と違っていてそれだけで嬉しかった。
「そうね・・・。最初のきっかけはハギヨシから得た情報かしら・・・」
透華が言う。そしてあとの三人も頷く。ハギヨシさんがいつの間にか透華さんの横にいて資料を渡していた。数枚の紙が手渡されそして俺にも見せてくれる。これは・・・牌譜?多分俺の。
「これは?」
「覚えていらっしゃらないのかしら?これはあなたの牌譜よ。まぁ覚えていないのも仕方のないことかもしれませんが・・・」
年代を確認すると少し前の牌譜だ。それも清澄の麻雀部に入ったぐらいの牌譜だ。だがこれは学校ではなく外で囲んだ時のものらしい。聞き覚えのない雀荘の名前が書かれていた。
「うん、全く覚えていないよ。これが何か関係しているんだよね?簡単に説明してもらっていいですか?」
横に控えていたハギヨシさんの方を向いて尋ねてみた。『はい』と一言言ってから理由を説明してくれた。
「この雀荘には須賀様お一人で行ったわけではありません。当時、須賀様の担任と一緒に行かれたようです。パソコンなんていうものは持っていない先生でしたが、須賀様の異質さに気づき手書きで一回一回牌譜されたようです。ですからこの情報源は須賀様の元・担任の先生ということになります」
「なるほど・・・。俺が異質・・・ですか?」
「はい、異質です。今では
という事は情報源となったのは俺を過去受け持った先生という訳か。
「異質という事は分かったがそれでも俺が何か持っていたか?この牌譜を見てもそんなに能力を持っていたかなんて分からないんだが・・・?」
と言うと皆に呆れられた。『はぁ~』とため息を付かれた。それに気づいたハギヨシさんが補足してくれる。
「確かにご自身ではお気づきにならないかと思います。ですが須賀様以外の三人はプロです。しかも裏プロと呼ばれる普通の人が対局して負けると心をポキっと折られるぐらいえげつない勝ち方をする連中です。しかし須賀様は一度も振り込むことをせずなおかつ一位にはなりませんでしたが、トータルで見ると総合二位と言う成績になってます。他の方々が須賀様を飛ばそうと躍起になるにも関わらずそれを全て払い除けた結果ですね・・・」
あの時は必死だったといえばそうかもしれないが、初心者と言う括りで麻雀を打つことができたらそれでいいという考えでやっていたから野次馬がなぜこちらを見て驚いているのか、なんて思いもしなかった。ただあのあと担任教師から一言言われたっけ。
『京太郎はこのまま麻雀を続けるのかい?もし続けるんだったら大変かもしれないが、いつか君の力を知ってくれる人と一緒に行ったらいいさ』
と言われたのを
「あぁそうだったかもしれませんね。最初の頃の話なのであまり覚えていませんでしたが・・・」
「あなただったら衣にも対抗できるかもしれません」
えっ衣って誰?と思う間もなく、そう言えば奥まったところにもう一つ扉があるなぐらいは考えていたがそこに異質な中でも異質な魔物が潜んでいるなんてことは思いもしなかった。
重々しい扉が開くとそこには薄暗い中に卓が置いてあり、その横に子供のような背丈の少女がこちらに背を向けた状態で佇んでいた。
「衣、お客さんですわ」
透華がその子供に向けて話す。くるりとこちらに振り向いた表情は伺いしれないが、容姿も相まって小学生ぐらいの子供にしか見えないかった。
「こ、子供…?」
「子供じゃないもん、衣だもん!!」
少し舌ったらずな口調で言うが間違いを正しているようだが和む。
「ふむ、そうなると彼女が会わせたかった件の子と言うわけか?ふむふむ…。だめだ、分からん」
小走りで近寄ってきた幼女を眺めてみるが、いかんせんインパクトが無い。だが思い出してきた。確か大将戦で戦った相手が彼女だったような気もしないではない。まぁ
「ハギヨシさん、自分はここでどんな立場になるんすか?」
「須賀様はここで最初、執事候補として就くことになります。候補と加えて麻雀部員としても働いてもらうことになると思いますが、すぐには理解して貰えないと思いますゆえ、執事候補として働いてもらいますね」
聞かれることが分かっていたかのように即答された。執事と言う仕事がどのようなものなのかイマイチピンとこないがハギヨシさんについていれば何とかなるだろうと思った。
「分かりました。これからよろしくお願いします」
ハギヨシさんにお辞儀をすると『こちらこそ』と返ってきた。うん、ここなら自分の居場所を作ることが出来ると心の底から思うことができた。
~後日談~
彼…須賀京太郎はここでメキメキと貫禄と力を付けることが出来た。清澄で雑用係として動かされていた時の面影は全くと言っていいほどなく、龍門渕では中心人物として名を馳せていった。
しかし、彼以外の男子麻雀部員は入部してもすぐに辞めてしまうため彼は卒業するまで個人戦で優勝を続けた。付いた二つ名は『一騎当千』又は彼が最も得意とする役牌から『国士無双』と呼ばれ恐れられもしたが麻雀が終わると龍門渕の選手を優しく見守ることに務めた。
なぜ彼は清澄を離れたのだろうか…それに関しては多くを語ろうとしないので今のところ不明である。だが彼が龍門渕代表として出場した時、清澄高校で彼を知っている元・部員は半狂乱になったことからも何かしらの確執はあったと思われる。知る人によると彼が清澄にいる間、忙しく雑用をさせられていたことから清澄を見限って龍門渕に来て、そこで前は発掘できなかった麻雀力を開花させた…とも言われている。
本人に聞いても『前は前…。俺は今を生きている。それに関してとやかく言うつもりはない。だが今いるところを大事にしたい。まぁ一言いうならハギヨシさんには感謝してるぜ!!』と言うだけである。確かなことは分からないが、疑問が疑問を呼び清澄の評判は下がる一方であるのだけは事実だ。
彼は龍門渕を卒業後、共に闘った部員を生涯大事にしたとも伝えられておりそのうちの一人と交際し、その後結婚した。
~卒業から数年後~
「なぁ、俺…今幸せだわ!!あの時龍門渕に来て君に会ってそして一緒に長い時間麻雀やって、今でも勝率は五割いかないけどそれでも告白されて嬉しかったんだ」
「……(コクコク)」
「あぁ泣くなって。空も祝福してるみたいに虹がかかってるんだから!!」
これからの伴侶になる彼女が、京太郎の独白に思い出したかのようにボロボロと嬉し涙を流したのでそれをハンカチで優しく拭き取る。目のふちを真っ赤にした彼女は近くに来た京太郎に驚きつつも抱きつく。
「これからもよろしくなっ!! ――――」
「うんっ、きょーたろー」
須賀京太郎の龍門渕での最終勝率
龍門渕 透華→七割
井上 純→八割
国広 一→九割
沢村 智紀→九割
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天江 衣→四割