ヘタレ勇者とヤンデレ僧侶の大冒険   作:シズりん

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第14話

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ガキーン!!

 

剣の切っ先が魔物の鎧のような皮膚に当り弾かれる。

思わず反動で仰け反ってしまうと、魔物はその一瞬の隙を見逃さず、大きな口を開け、全てを溶かしてしまうかのような火炎のブレスを吹く。

 

その凄まじい業火が、前衛にいた俺とツカサを飲み込もうとしたその時、光のヴェールが俺達を優しく包み込む。

 

 

シズクのフバーハだ。

 

 

最強のドラゴンのブレスもシズクの魔法力の前には生温いそよ風にさえならない。

 

俺達は一旦距離をとり体勢を整える。

 

 

「まさかギアガの大穴にこんなドラゴンがいるなんてな。」

ツカサは肩で息をしながら言った。

 

俺達は今、ギアガの大穴を越え聖地アレフガルドを目指している。

 

薄暗く熔岩がたぎるような長い洞窟の奥深くに、まるで聖地への入口を守るかのように巨大なドラゴンが立ち塞がっていたのだ。

 

 

「なぁマコト、このままじゃちょっとキツいぞ?作戦を"ガンガンいこうぜ"にしねーか?」

「それはだけはダメだなんだツカサ。想像してみろ、今ここにはサキとシズクがいるんだぞ?そんな作戦にしたらサキはMPが尽きるまでイオナズンを連発するだろうし、万一シズクがギガデインでも唱えてみろ。ドラゴンどころか、ギアガの洞窟はもちろん、聖地アレフガルドをも消滅させかねない。俺たちはその作戦だけは使えないんだ。」

 

それを聞いたツカサは何を想像したのか、大きな体を器用に縮こませて身震いしている。

 

 

 

「ねぇ・・・あの二人あんな事を言ってるよ?シズクちゃん。失礼しちゃうよね、私達だって手加減くらいできるっつーの。」

 

サキがシズクに言うと彼女は微笑みを浮かべたまま、前衛で体勢を整えている二人に近づく。

 

 

 

 

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「闇に惑いし憐れな影よ。私を傷つけ貶めて罪に溺れし業の魂……マコトさん、ツカサさん・・・

 

 

 

 

いっぺん・・・死んでみるぅ?」

 

 

 

 

顔は微笑みを浮かべたまま、虹彩の消え失せた瞳のシズクが近づいてきた。

 

 

 

 

 

 

ヘタレ勇者とヤンデレ僧侶の大冒険

~アレフガルド編~

 

 

 

 

 

 

 

 

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「いやぁ死ぬかと思ったぜ。」

体半分を凍らせたツカサがいう。

 

俺もシズクの魔法力が凄いのを知ってはいたが、まさかヒャド一発で巨大なドラゴンを辺りの熔岩ごと凍らせてしまうとは思わなかった。

 

「なぁ、シズクちゃんって幼馴染みなんだろ?昔からあんな感じだったのか?」

 

「あいつの昔?信じられないかも知れないけど、シズクは常に何かに怯えてるような臆病な女の子だったんだ。ツカサ覚えてないか?10年前のアリアハンの大雪」

「そういやぁあったなぁそんなこと。温暖なアリアハンに雪が降ったって、回り中大騒ぎだったよな。」

「あぁ、俺とシズクはあの大雪の中で出逢ったんだ。」

 

 

 

 

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ーー10年前ーー

 

俺はまだ6才になる前の事だった。

比較的南に位置するアリアハンに雪が降った。

 

親父が言うには、アリアハンに雪が降るのは悪い事が起きる余兆だと言っていた事を何となく覚えている。

 

でもまだ幼かった俺は、始めてみる雪が珍しくて外を駆けずりまわったんだ。

 

夜遅くまで・・・

 

 

 

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「寒い・・・もう真っ暗になっちゃったよ」

 

アリアハンのすぐそばにある森のなか。僕は薄暗い木々を越えて奥を目指していた。

ちょっとした冒険心だった。当時アリアハン近辺にはスライムしかでなかった。しかもスライムは友好的なのが多く、出会ったとしてもそうそう戦闘になることはない。

 

そんな平和な日々のなか、昨晩闇夜を切り裂くような流れ星が隕石となってアリアハン近くの森に墜ちた。

そして凶事を示す雪。アリアハンの大人はもちろんの事、お城の兵士も恐怖で隕石の調査には乗り出せないでいた。

 

僕は勇者オルテガの息子。勇気だけは負けないとばかりに、一人森に入った。

 

森の木々は鬱蒼としていて、その高さから月明かりさえ届かない・・・そんな中に子供が一人入る。それがとても危険な事はお父さんとお母さんに聞いてはいたけど、どうしても好奇心には勝てなかった。

 

やがて道に迷い、降り積もる雪が振り返った足跡を消していくのを見たとき、急に心細くなり僕は泣き出す。

 

 

「ん?こんな森の奥深くに子供?どこから来たんだい?」

両肩に剣を携えた黒服のお兄さんが、泣きじゃくる僕を見つけ、話しかけてきた。

 

 

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見た目は18才ぐらいだろうか。お父さん達とくらべるとまだ若いってことくらいは僕にもわかる。

 

「お兄さんはだれ?」

「お兄さんの名前はキリト。ここではないアレフガルドの勇者だよ。」

 

お兄さんはそう言って笑った。

お兄さんが笑うと僕のさっきまでの不安が嘘のように消えていく。

 

「お兄さんは何をしてるの?」

「ん?お兄さんはね、お兄さんの婚約者を探しているんだよ。確かにこの近くにいるはずなんだけど、中々見つけられなくてね。」

「こんにゃく?」

「婚約者。君にはまだ早いかな。」

 

そう言うとお兄さんはまた笑い出す。

 

 

それから僕等は一緒に冒険した。

草の根をかき分け、川を越えた。小高い丘をこえれば、幼かった僕には十分すぎるほどの冒険だったと思う。

 

まだ幼いから危ないしダメだ。と、お父さんが教えてくれない剣の使い方。相手の攻撃の避けかたをキリトさんは教えてくれ、それができると大きな手を頭に乗せ誉めてくれた。

 

「お兄さんの婚約者さんはどんな女の人なの?」

「ん?お兄さんの婚約者かい?まぁ、お兄さんの師匠が言ってるだけなんだけどね、彼女はいつも優しく微笑んでくれるんだ。小さく笑う姿や、俺の冒険談を嬉しそうに聞いてくれてね・・・そりゃ優しい女の子なんだ。」

 

 

婚約者のことが余程好きなんだろう。キリトさんはどんどん語り続けた。

彼女さんは銀色の長い髪。透き通るような白い肌に、ほんのり赤みのかかったら深い色の瞳。

そんな全てが好きとキリトさんは照れながら話してくれる。

 

「でも、そんな婚約者さんはどうしていなくなっちゃったのかなぁ?」

「それが不思議なんだよな。彼女はいつも俺の話を楽しそうに聞いてくれていたのに・・・師匠とその奥様が言うには、彼女はペットのシドーを散歩に連れていったきり帰ってないんだそうだ。」

 

 

「早く見つかると良いねぇ」

「ああ!」

 

そう返事したキリトさんの笑顔を見たとき、アリアハンの勇者と言われるお父さんとは違うけど、やっぱり勇者なんだと思った。

僕も将来はキリトさんみたいな勇者になろう。そう心に思った。

 

 

 

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「きっとここだ。」

 

彼は隕石の落下点であろう大穴の底を見詰めて言った。その穴は大空洞となり、底は全く見えない。彼が側にあった石を穴に落としてみるが、底に落ちた音がない。

子供の僕でもそれがとてつもない深さだってわかる。

僕が思わず唾を飲み込むと、それを見ていたキリトさんは笑いながら言った。

 

「マコト君、きみとの冒険はここまでだ。ここから先は俺が一人で行く。いや、行かなければならないんだ。俺の婚約者だからね。」

「え!でも僕も・・・」

「良いかいマコト君。君にも大切な人ができて、その女の子を守らなければならなくなった時、自分の力を目一杯出さなければならないよ?俺にとってのそれは今なんだ!!ここから北へ向かえばアリアハンにつく。マコト君、キミとの冒険は楽しかったぜ?また会おう。」

 

相変わらず熱い台詞を並べ立て、彼は両肩の剣を抜くと、うぉぉぉ!と大声を上げて穴の中に飛び込んで行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

ようやく雪道の中でアリアハンに辿り着いたとき、街の入口辺りに人だかりができていた。

 

 

「母さんどうしたの?」

「あらマコト、遅かったわね。大雪の中で倒れていた女の子がいてね。」

 

母さんの後ろから除き見るようにその女の子をみると、背中まで伸びた長い黒髪が印象的な女の子だった。歳は同じくらいだろうか。

その子は怯えた様子で大人達の質問を聞いていたが、どれにも答えない。

 

「困ったわねぇ。そうだ、マコトあなた同じ年くらいなんだから話しかけてみなさいよ。」

 

母さんの無茶ブリだ。しかし僕も黒髪をなびかせた、透き通るような女の子に少し興味がある。

しかもこんな雪の日にヒラヒラのドレスじゃ寒そうだ。

 

「僕はマコト。君は?そんな格好じゃ寒いだろ?ほら貸してあげる。」

そう言って彼女にコートを羽織らせると、彼女は僕を怯えた瞳で見詰め、蚊のなくようなとてもとても小さな声でありがとうと言った。

 

「今日はもう遅い。今夜は私の家に泊まり詳しくは明日話し合おう。」

お城のお務めから帰ったお父さんが言うと、街の人達も一人また一人と家に帰って行く。

 

「さぁ、わし等も帰ろう?えっと・・・」

「しず・・・く・・・」

お父さんが彼女に話し掛けると、彼女は僕の後ろで僕の布の服を掴みながら小さく応えた。

 

その様子を見たお父さんとお母さんは笑う。

ずいぶんと気に入られたみたいだなと。

 

 

 

 

 

「今日は色々あったなぁ。キリトのお兄さんは婚約者さんと会えたかなぁ。あの人・・・思い込みが激しいからなぁ。」

 

夜、ベッドに入った僕は今日1日の出来事を振り返った。アリアハンから出たことのない僕にとって今日は大冒険だった。

 

「あの・・・」

 

ベッドに入って5分位した頃だろうか、隣の部屋で寝ているシズクと名乗った女の子が枕を持って部屋の入口に立っていた。

 

「どうしたの?眠れないの?」

「うん・・・」

 

シズクは枕をぎゅっと抱き締めうつむいている。見知らぬ土地で一人きり・・・きっと心細いのだろう。僕は自分のベッドを開け一緒に寝る?と聞くと、彼女は嬉しそうに微笑み、ベッドに入ってくる。

 

「暖かい・・・」

彼女は僕にくっつくようにベッドに入ると、穏やかな寝息をたてて眠りについた。

 

彼女の寝顔を見たとき、心臓がドクンと音を鳴らした気がした。

 

「僕はシズクを護る。一生・・・」

静かな決意を心の中ですると、僕のパジャマをつかんで寝ているはずの彼女が優しく微笑んだ気がした。

 

 

 

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「それから数日間は俺の家で暮らしていたんだけどな、教会の若夫婦が子供がいなくてシズクを引き取りたいと言ってきたんだ。今考えると、数多の聖書や経典に出てくる精霊ルビス様に瓜二つなシズクを運命の出会いと考えたのかもしれないな。それからシズクは今の家族と幸せになったんだ。」

「へぇ。じゃあシズクちゃんは孤児なのかぁ。」

「あぁ、でもあの日以降はどこに行くにも俺の後をついてくるような大人しい女の子だったよ。」

「それがどうなったらあんな感じに?」

「それはな・・・俺は当時女の子の友達が数人いてな・・・」

 

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「ねぇマコちゃん。将来私をお嫁さんにして?」

「あーズルい私もぉ。」

「大丈夫!皆僕のお嫁さんにしてあげるよ!」

「えぇ~シズクちゃんも?」

「ああ!シズクも。」

「でもあの子可愛いからマコちゃんじゃなくても良いんじゃないの?きっと一人でも幸せになれるよ。」

「そうかなぁ?そうだよね。君達が一番だよ。」

 

「・・・マコトさん。シズクをお嫁さんにしてくれるって言ってくれたのに。」

「シ、シズク!も、もちろんシズクが一番だよ。」

 

いつの間にか背後に立っていた彼女は、足元に冷気のようなものを漂わせていた。表情はいつものように女神ルビス様のような微笑みを浮かべているが、瞳が笑っていない。

 

「え?え?ちょっとシズク?」

 

「マコトさん・・・浮気は許しませんよ?しねぇ!!」

 

目にも止まらぬスピードで繰り出されたシズクのハイキックが僕の顔面を捉え、キリキリキリと回転を伴って吹き飛んだ。

 

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「いやぁ始めてシズクの虹彩の消え失せた瞳を見た時、シズクを怒らせる事の危険と共に臨死体験をしたよ。」

「なんだよ。お前のせいじゃねーか。」

 

「何か面白そうな話を二人でしていますね。」

 

いつの間にか俺とツカサの背後に立つシズク。その瞳にはやはり虹彩がない。

命の危険を感じた時、彼女は深い息を吐き、ふと力を抜く。瞳にも虹彩が戻り女神のような微笑みを浮かべて俺の腕をとり、いつの間にか洞窟を抜けていた夜の空を指差す。

 

「マコトさん見えてきましたよ。あのシルエットがラダトームです。」

 

彼女の指差す先をみると、夜のモノクロな景色が飛び込んでくる。

黒い針葉樹を越えた先にお城のシルエットが見えてきた。

 

俺達はついに聖地アレフガルドに辿り着いた。

ここで俺達を待ち受けている運命は・・・俺はこれから始まるであろう大魔王との激戦を考えると身震いする。

シズクが組んだ腕の力を少し強めた。

 

不安が伝わったのか?大丈夫だ。これは武者震いだよ。必ず大魔王を倒して、シズクお前と静かに暮らそうな。

 

気持ちを新たに俺達四人はラダトームへと向かうのだった。

 

 

 

 

 

続く

 

 




今回は後編に入る前のオマケ話です。
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