ヘタレ勇者とヤンデレ僧侶の大冒険   作:シズりん

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ヘタレ勇者とヤンデレ僧侶の大冒険⑱VS竜王の音楽推奨♪


ほら三人ともキリキリと自転車をこぐ!女王の命令で一心不乱に自転車をこぐロイヤルガードの面々。
隣を農作業を終えたお爺さんが歩いて抜いていく。

『遅すぎます!おしおきだべー!!』
ロイヤルガード三人を襲う巨大な稲妻。その稲妻の正体とは?物語終盤で物語は加速する。

皆さん道具屋で20マンGです。早く買いに行かないとお仕置きしちゃいますよ?


第18話

.

 

 

 

 

 

 

 

 

 

朝・・・と言っても昼間の無いラダトームでは朝と言うのも変だがとにかく朝だ。

俺は最近の日課である女王の執務室へと足を向ける。すると今朝はいつもと違って執務室の前で、大きな体を器用に丸めて中を覗く男が見えた。

 

「何やってんだ?ロレンス。」

俺に声を掛けられロレンスは俺の方を振り向くと自分の口の前に人差し指を起き、中を見ろとジェスチャーをしている。

 

言われるままに中を覗くと、白いドレスを纏った白銀の長い髪をなびかせた大人びた魅力をもつ女性と、全身黒を基調とした装備の男が何やら言い争っているのが見えた。

 

 

魔力による空間の結界でも展開しているのか、本性が魔物である俺の耳にも二人の会話は聞き取れない。と言うより聞きたくない。

今までを考えると巻き込まれて痛い目に遭うのがオチだ。

しかし・・・あの姿久しぶりにみる。

なるほど、きっとこの物語も終わりが近付いているのだろう。

 

 

バキッ!!

俺が物思いに耽っていると中から聞き覚えのある音が聞こえてきた。やれやれだ。

 

「キョウイチさんにロレンスさん、そこにいますね?いつまでも隠れていないで早く入って来てください。」

俺とロレンスは顔を合わせると、やれやれのポーズを取り、女王陛下の待つ執務室の扉を開けて入るのだった。

 

「2人とも物思いに耽っていないで早く来る!!」

いつの間にか黒髪の少女・・・シズク女王が苛立ちを隠さない声で俺達を再度呼びつけている。

 

「「あらほらさっさー!!」」

 

 

思わず俺とロレンスは息ピッタリの掛け声と共に、走って女王陛下の元へ走るのだった。

 

 

 

 

 

それにしても今日の姫は機嫌がすこぶる悪い。

だいたい察しはつくが、これはダメなパターンだ。

隣のロレンスも冷や汗をかきながら若干怯えている様子を見る限り同じ意見だろう。

しかしそこは親友ロレンス。全く空気を読まない発言を平然と言ってのける。

 

「姫・・・いえ、女王陛下。そんなに温泉旅行行きたかったのか?風呂ならまだしも温泉は大変だぞ?」

 

む、蒸し返しやがった!さすがの我等ロイヤルガードのリーダーキリトも、先程蹴り飛ばされめり込んだ壁の中で青ざめている。

 

「良いか?温泉は大変なんだ。毎日の水質検査や、浴槽を維持する木組みだって腐るからこまめなチェックが必要だ。宿屋と兼用なら銀の器は直ぐに酸化してしまい黒ずんでしまうし、木製の器では安っぽいイメージが拭えない。それに・・・」

 

商人としての話をするロレンスは自分の商売の話がツボに入ったのか、ニコニコと冷たい微笑みを浮かべた女王が近付いている事に全く気付かない。

「終わったなあいつ。」

キリトもめり込んだ壁から呟く。

 

「・・・ってなわけでな、温泉は・・ブゲッ!!」

 

 

どや顔で温泉について語るロレンスは、案の定女王の殺人パンチを受け、仲良くキリトの隣の壁にめり込んだ。

 

そして女王は俺を見ると、大至急マイラの宿屋を予約するように命じる。

俺は一瞬校則違反では?と頭を過るが、そんな俺を嘲笑うかのような、魔物も逃げ出す冷たい微笑みで女王は言う。

 

「校則違反なら、校則そのものを変えちゃえばいいんです。」

 

と。

悪魔より悪魔的なことを言う女王。しかし俺は学んだんだ。

 

 

 

 

正に触らぬ何とかに祟りなしだ。

 

 

「だがシズク、マイラと言えばルビスの塔が近いんだぞ?そんな所をお前がうろうろしていて大丈夫なのか?ルビス様は幽閉されていることになっているんだろ?」

 

 

キリトのいつになく真剣な顔で投げ掛けた一言に、表情を曇らす女王が印象的だった。

 

 

 

 

 

 

「だがどうするんだ?姫。マコト達は昨日にはマイラに向けて出立してるんだぜ?追い付くにはちょっとキツくないか?」

 

「は?マコトさん達はもうマイラに向けて出立したって・・・何で直ぐに教えてくれなかったんですか!?」

 

さすがの女王も、まさかマコト達が昨晩のうちに出掛けるとは思っていなかったらしく、あきらかに狼狽えるように、そして俺を今にも絞め殺さんばかりに責め立てる。

こ、怖え・・・

しかしマコトとの約束は、たとえ女王といえど反故にはしたくない。そう、魔物である俺を友と呼んだあいつとの約束。

 

 

それは

 

 

 

 

 

 

『キョウイチ。』

昨晩俺はロイヤルガードの仕事を終えての部屋への帰り道。不意に背後から声を掛けられた。

 

アレフガルドの冬は寒い。厚手のコート等を羽織ったビアンカさんと、サキ。どこでも布の服しか纏わないマッチョなツカサ。最近少しだけ勇者らしくなってきたマコト。

どう見ても旅支度を終えた勇者達のパーティだった。

 

『何処かに行くのか?サンチョ先生の課題か何かか?』

『いや。俺達はこれからマイラを目指す。』

『マイラ?温泉旅行にもう行くのか?まだ女王の機嫌も治っていないのに、黙って行くのは不味くないか?』

 

そう、ロイヤルガード及びラダトームの女王である姫はおいそれと城を空けるわけにはいかない。

マコトはそんな考え事をする俺を少しだけ寂しそうに笑う。

 

『お前、正体は魔物のくせに何気に優しいよな。』

 

そう言って笑うマコト。だが不思議と嫌な気分では無かった。こいつ等とはイシスからの付き合いだが、今では種族を越えて友とさえ思える。自分でも笑ってしまう。とても口に出しては言えないな。

 

『キョウイチ、お前を友だと思って頼みがあるんだ。シズクを――あいつをお願いできないか?俺達はそのまま大魔王ゾーマの討伐にうって出る。』

『ゾ、ゾーマ様の討伐に!?』

『やっぱりキョウイチはゾーマの手先だったんだな。』

 

つい声に出してしまったのちに慌てて口を抑えるが既に出遅れだ。マコトは笑いながら

 

『良いんだ。産まれの違いで立場が違うのは仕方ない。だがそれを承知でキョウイチに頼みたいんだ。俺達が生きて帰れるとは限らない・・・むしろ、勝って生を拾うなんてたぶん無理だろう。でもそんな戦いにシズクを連れていきたくないんだ。あいつの周りにはお前やキリトさん。ロレンスもいる。あいつはもう一人じゃない。幼い頃に両親と離れてただ一人、誰も知らない見知らぬ土地アリアハンにやってきたあの頃とは違う。それにたぶんあいつの正体は・・・』

 

そこまで言ってマコトは黙った。マコトはヘタレで鈍感だと思っていたが、こいつはこいつなりに色々成長しレベルが上がっていたんだと今更ながらに気付かされた。

だが俺の口から女王の正体を語るわけにはいかない。たとえそれが友であったとしても。

だがマコトはそんな俺を見て、肩に手をおく。

 

『いいよキョウイチ。お前にも色々あるんだろう?』

『・・・すまねぇマコト。今俺が教えてやれることは、ルビス様を幽閉したルビスの塔はマイラの北西にあるってことだけだ。ゾーマ様と戦うなら、その前に必ずルビス様の所へいけ。例えそこで何があったとしても・・・』

『・・・ああ、分かった。』

 

俺とマコトは硬く握手をした。それは人間の挨拶だがなぜか俺も無性にそうしたくなった。

二人の握手の上に、ツカサとサキ、ビアンカさんが手をおく。

 

種族を越えて解り合えた一瞬だったとおもう。

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・です。・・・聞いてますか?キョウイチさん。」

 

ダメです。半分くらいしか聞こえてません。女王(あなた)が首を両手で締めてグワングワン体を揺らすものだから、今軽くフラッシュバックを見ていました。

 

 

 

「まったく・・・三人とも大至急旅支度を整えて下さい。マコトさん達をおいかけますよ!」

 

女王はラダトーム城の執務室から遥か東のマイラの村の方角を見据える。

 

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

※※※※※※※※※

※※※※

 

 

 

 

「こちら機関室長サンチョ。エネルギー充填120%!チェーンロック整備完了。いつでも行けますぜ?女王陛下。」

 

出立を宣言してからの姫は、いろんなところへ指示を出していた。パパス前王を始め、あらゆる大臣達が慌ただしく動き回っている。

女王である姫は、どこから出したのか錨のマークが付いた帽子を被ると、女王の席に座る。

 

辺りからはブゥンブゥンと重低音を響かせている。

「な、なんだ?何が起こっているんだ?」

慌ててはいるものの、これから起きる事に期待してか、目を輝かせるキリト。

 

「最終安全装置解除!女王陛下いつでも行けます!!」

女性教諭が言うと、姫はそれを聞き頷く。

 

 

 

 

「目標マイラの村。ラダトーム号全速にて発進!!」

 

 

 

女王はマイラの方角を指差し、指示をだす。

「と、飛ぶのか?ラダトーム城は空を飛べるのか!?」

「まさかラダトームにこんな秘密があったとは・・・」

興奮しまくっているキリトとパパス前王。

何でラダトームの前王であるお前も知らないんだよ?

俺と隣のロレンスは期待が一気に冷めていくのと同時に嫌な予感が広がっていく。

 

「シズク!早くラダトーム城を飛ばせて見せてくれ!」

 

「は?ラダトーム城が飛ぶわけないじゃないですか。キリトさんはアホですか?」

「へ?」

 

「飛ぶのはキリトさんとキョウイチさんですよ?」

「なんだ・・・と・・・」

「キリトさん、あなたが以前勇者だか英雄をしていたALOのアルヴヘイムとか言う世界で飛行能力を手に入れた事は分かっています。貴方は私を乗せてマイラへ飛ぶんですよ!」

「ぐっ・・・じゃあさっきのまでは一体?」

「あれは飛べないロレンスさんのために用意した自転車、ラダトーム1号です。」

 

姫がキリトにそう説明すると、チリンチリンと軽快な音を鳴らしながらサンチョ先生が自転車に乗ってやって来た。

 

はぁ・・・

「しかし、ロレンスだけ自転車じゃ追い付けないんじゃねーか?」

俺は至極当然の質問を姫になげかけると、姫はきょとんと首を軽く傾げて、

「え?いざとなったら私がルーラでロレンスさんをマイラに運びますよ?」

 

と可愛らしく言った

 

 

 

 

「「「最初からルーラを使ってくれー!!!」」」

 

 

俺達三人の魂の叫びがラダトーム城中に響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

吐く息が白い。

真っ暗な深い森を俺達は歩いている。ラダトームを出てもう3日。この辺りになると魔物たちも強力なもの達になる。

いつも隣を歩いていたシズクと別れて3日。あいつは元気にしているだろうか?

 

「マコちゃん?大丈夫?ぼうっとしてると危ないよ?」

 

少し後ろを歩くビアンカさんは、振り向いた俺を笑顔で迎えてくれた。

 

「・・・やっぱ女王陛下が心配?」

上目使いに聞いてくるビアンカさんはどんな意味で問いかけてきたのだろう。

そう、俺はシズクをラダトームに置いて旅に出た。このまま大魔王ゾーマを倒すための片道切符の旅路。

あいつの強さがあれば或いは旅も楽だったかもしれない。シズクの事だからもしもなんてあり得ないのかもしれない。だけど、それでも俺はあいつを残していく選択を選んだんだ。

あいつのこれまでは幸せと言えたのだろうか?

 

あいつは雪の降るアリアハンで出逢った。見知らぬ人の中でいつも何かに脅えてるかのように。だけど今のシズクは楽しそうだ。周りにはいろんな人達がいて、誰もが彼女を大切にしてくれている。今までの分まであいつの人生の未来は幸せなものであってほしい。

 

たとえシズクがそれを望んでなかったとしても。

 

俺はラダトームでのキリトさんとの会話を思い出す。

 

『デイン系の魔法はね、ルビス様の定めた勇者しか使えないんだ。もし他に使える者がいるとしたら―――』

 

キリトさんは俺に確かにそう言った。ずっと耳に残っていた俺は、その後もずっとラダトームの図書館に足蹴に通ったんだ。

実は俺にもシズクについて思うことがある。

 

あいつは、全ての教会に残るルビス様の文献にある姿似にあまりにも似すぎている。お世辞抜きにしても、女神であるルビス様と姉妹と言っても信じそうな程だ。あいつをもう少し歳上にして金髪にしたら、もう完全に見分けがつかないと思う。そこに来てキリトさんのデイン系の魔法についての話だ。

 

俺は何度も何度も否定したい気持ちを持ちながらも辿り着いた答え。それは・・・

 

 

 

 

 

 

シズクの正体はルビス様というものだった。

 

 

 

 

 

俺もまさかとは思う。しかし彼女がルビス様と考えると、あのデタラメな強さも頷ける。

それに勇者なのだから多少は神の祝福を受けているかもしれない。しかし自分で言うのも何だけど、俺達の旅はあまりにも順調だった。いや、順調すぎた。

バラモスのときもそうだった。本来俺達のレベルでどうにかできる相手ではなかったのだが、シズクのおかげ?で勝利し、アリアハンに平和をもたらすことができた。

もっとそれ以前、彼女がいなければイシスで出会った魔物であるキョウイチに全滅させられていたことだろう。

 

「・・・ちゃん?危ないよ?」

 

キョウイチも別れ際にルビスの塔を目指せと言った。あいつの事だから、疑問やモヤモヤした気持ちを全て振り払ってからゾーマに挑めってとこなのだろう。

俺は・・・

 

「ちょっとマコちゃん聞いてる?前危ないよ?」

 

ガツン!!

 

凄まじい衝撃が顔面を襲う。キラキラと目の前を飛び回る星を見ながらぶつかった物をみると、どうやら木の枝に顔面をぶつけたようだった。

 

俺が頭を振り意識を取り戻すなか、ツカサは宝箱を見つけ、はしゃいでいる。

サキがインパスをかけ、トラップの類いがないかを確かめるが、それを待たずに宝箱を開けるツカサ。

 

ガブリ!

 

良い音を立ててかぶりつかれたツカサ

「ぎゃー!!人食い箱だぁ!助けてー!」

宝箱の口から出ている下半身をジタバタさせて助けを求めている。

 

全く・・・ツカサは変わらないな。

助けようと近付く俺ごとサキはイオナズンで吹き飛ばした。

 

 

 

 

 

 

 

「あ!この温泉って傷の治癒にも良いみたいだよ?」

 

温泉の効能が書かれた立て札を見て、テンションがあがっているビアンカさんとサキ。

 

俺達は人食い箱との激戦に勝利し、とうとう目的地であるマイラに辿り着いた。

村一番の大きな宿屋を予約したと言うパパス王に言われた通り宿屋に行くと、ラダトームの城とまではいかなくても、立派な宿屋が現れた。嫌でも期待が高まる。

 

宿屋の女将に通された部屋は意外にも普通だった。見た目が凄かっただけに少し拍子抜けしたけど、変に肩の力が入らない分ゆっくり休まる事ができそうだ。

女将が言うには、突然のV.I.P.の貸し切りが入ったらしく、パパス王の予約はランク下げされたらしい。あの人仮にも王様なのに扱いが軽いな。威厳がないと言うかなんと言うか。

 

「皆さんは勇者様一行ですから心配無いと思いますが、この辺りには身の丈が10メートルを越す巨大な魔物が出没するので、十分に気を付けて下さいね。」

 

女将は部屋を出る際にサラッと物騒な事を言って去っていった。

それにしても山奥の深い森の温泉に巨大な魔物か・・・

まるでどこかの神話のような話だな。

 

 

 

 

「さて、この地図を見てくれ!」

 

部屋に着き一段落すると俺はテーブル一杯に地図を開いて見せる。三人はテーブルを囲むように地図を覗きこむ。俺達はもう一時も無駄にはできない。

きっとシズクの事だから、俺達が旅に出た事を知れば必ず追いかけてくるだろう。キョウイチにお願いはしたが、足留めの時間はほんの僅かだろう。だから俺達はシズクよりも早く動かなければならないんだ。

 

「聞いてくれ皆!俺はこの温泉旅行の後、そのまま大魔王ゾーマの討伐にむかう。」

 

一堂は息を飲んだ。

それもそうだろう。何せ相手は大魔王ゾーマ。闇の神だ。生きて帰れる保証は全くない。それどころか勝てる見込みの方が遥かに小さいのだから・・・

 

「マコト・・・お、俺も着いていくぜ?」

さすがのツカサも発する言葉にキレがない。

 

「皆、無理をしなくてもいい。相手はあのゾーマだ。俺は一人でも・・・」

 

そこまで言う俺をビアンカさんは言葉を遮る。私も着いていくと・・・

すると重苦しい雰囲気を振り払うかのように、ツカサやサキも俺の手をとりゾーマを倒そうと言ってくれた。俺は胸が一杯になり涙が込み上げてきそうになる。

 

「あらあら青春ねぇ~」

 

どこから現れたのか、見知らぬ女性がいつの間にか俺達の会話に交ざっていた。その女性はローブを纏い、フードを深くかぶっているから顔はよく分からない。

そんな不思議な女性だが判る事は数点ある。

 

先ず彼女はきっと美女だ。

フードの隙間から覗く口元や顎のライン。どことなくシズクと似た甘い声。

間違いなく長身の美女だ。

そしてもう一つ判ったこと・・・

 

彼女は酔っぱらいだ。

 

部屋一面にお酒の香りが充満し始める。お酒はあまり飲まないと言うビアンカさんは匂いだけで酔っぱらってしまいそうだ。

 

酔っぱらいはフラフラと近寄ってくると、フード越しに俺の顔を下から覗きこむよう暫く見つめると、彼女は両手をパン!と叩き、

 

「あ~勇者ら~。勇者がいたお~。ヒック!」

 

彼女はペシペシ俺の頭を叩きながら、何が可笑しいのか笑っている。

覗き込まれた時にちらっと見えた顔は、俺の想像通り絶世の美女だった。ちらっと見えた輝かんばかりの金髪が、きっと彼女をより一層美しく飾るんだろうな。

 

「ん〜?キミ魂に不思議な香りが纏わりついているねぇ~・・・ウプッ!」

何かを言いかけた彼女は、赤い上機嫌な顔から真っ青な顔になる。なんかヤバい、これはヤバい気がする。後ろの仲間三人はいつの間にか部屋の隅まで逃げていた。

 

え?ちょっ、ちょっと待って・・・

 

 

 

 

うぎゃあああああ!!!

 

 

 

 

静かな山奥のマイラの村に俺の叫び声が響き渡った。

 

.

 

 

 

 

「あぁひどい目にあった。」

「マコちゃんは災難だったよねぇ。」

「まぁ、ここが温泉で良かったよな。」

 

俺達はあのあと、軽く温泉に入りルビスの塔を目指している。本当は直ぐにでも旅立ちたかったのだが、謎の美女のゲ・・・いや、思い出すのはやめよう。

ともかく今は少しでも早くルビス様のもとへ行きたかった。もっと温泉に入りたがっていたビアンカさんとサキには悪いが、のんびりしていてはシズクに追い付かれてしまう。

 

「しかしさっきの女性は余程のお嬢様のようだな。しかも奥方様とか呼ばれていたから人妻だぜ?」

やたらとテンションが高いツカサが興奮ぎみに言う。あのあと、俺達の部屋に血相を変えた侍女だと名乗る少女数人が奥方様と呼ばれていた酔っぱらいの美女を部屋へ連れて帰って行った。欲を言えばもう少し早く来てほしかった。

 

「でも、奥方様と呼ばれるには若かったんだけどなぁ。せいぜい二十歳ぐらいにしか見えなかったぜ?」

「良いよな人妻。」

 

男二人が旅すがら語っている話題を、少し後ろを歩く二人の女は白い目で見ていたらしいが、それを知ったのはずっと後の事だった。

 

 

 

 

 

 

深い森を抜けた先にそれはあった。

塔と言うよりは大きな大木のように見える。塔の入口に立ち、遥か上空に幽閉されているだろうルビス様。

しかし、塔を見上げたときに俺の頭に浮かんだのは、寂しそうに笑うシズクだった。

 

この塔を登頂すればルビス様の正体がわかる。シズク・・・たとえお前がルビス様だったとしても俺は・・・

 

 

「マコト・・・行こうぜ?例え何が待っていたとしても。」

ツカサが俺の肩を叩く。ツカサもツカサで何かを感じ取っているのかもしれないな。

シズク・・・俺はいくぜ?

ルビスの塔の扉に手をかける。

 

 

 

 

「マコト、悪いがそこを通す訳には行かない。引き返してくれないか?」

 

不意に話しかけられて振り向くと、そこにはロレンスがいた。

え?何故ロレンスがここに?ってことはシズクももう追い付いているのか?

辺りを見回す俺をロレンスは姫はいないぜと小さく答える。

 

「ロレンス、どうやってここに?俺達は昨日には出ていた。追い付けるわけがない。」

「姫のルーラだよ。」

「ルーラ?それは変だよ。ルーラは1度訪れた場所にしか行けないはず。何でシズクちゃんがマイラに?」

 

サキがロレンスに向かって言い放つが、ロレンスは不敵に笑っている。

ロレンスは俺を一瞥すると

「マコト、お前はお前の答えを見つけたんだろう?俺は俺で姫の願いを聞き入れてここに来た。もう1度言うぞ?マコト、ここを去れ。塔に入れるわけにはいかない。」

 

 

ロレンスとの距離はまだ数十メートルはある。ロレンスはいつも飄々としていて、お金になることにしか興味を示さない根っからの商人だ。

しかし、今ここにいるロレンスからは商人のものとは思えない程のプレッシャーを感じる。

 

「・・・ロレンスお前はいったい何者なんだ!」

 

俺の問いに対する答えは意外なものだった。

 

「俺の名はロレンス。商品の流通を目的とした旅の行商人。今は姫を警護するロイヤルガードで、俺の本当の姿は・・・」

 

 

 

より一層濃くなるプレッシャーに巨大な魔力が混じっていく。

 

 

ロレンスは正体をあらわした。

 

 

 

 

 

ワオオォーーーーン!!!

 

 

ロレンスは・・・いや、ロレンスだったものは、身の丈が10メートルを越すような4つの首をもたげたドラゴンだった。

青く光る体毛。背中には稲光のようなものを纏っている。まるで捕食者のような真っ赤な獣の瞳からは、既にロレンスであったころの優しい色は欠片も残っていない。

 

「あれは!キングヒドラ!!」

緊張した面持ちでビアンカさんが、ロレンスの正体を短く悲鳴をあげるかのように教えてくれた。

 

ロレンスは巨大なキングヒドラだったのだ。

 

 

 

 

ロレンスは巨大な体からは想像もつかないスピードで俺達を襲う。距離を取ったと思うと体を空中で回転させ、長く太い尻尾を俺達に叩きつけるように攻撃してくる。

近付けば近付くで、背中に纏った電撃や灼熱の炎を放つ。

電撃は魔法ではないようで、サキのマホカンタでも防ぐことができない。

 

しかし何よりも一番の問題は、俺達は本気でロレンスを攻撃できないことにあった。

既にロレンスは友だ。例え人ではなくてもその気持ちに違いはない。

 

ビアンカさんのバギマとサキのメラゾーマがキングヒドラに向かって放たれるが、体が大きすぎる為か、さほどのダメージを与えているようには見えない。

お前、そんなにまで俺をルビス様に会わせたくないのかよ?

 

 

『マコトどうした?反撃をしてこい。俺を倒さなければルビスの塔には入れないんだぜ?本気を出せマコト。世界を救うのではないのか?』

 

キングヒドラの大きな口から言葉が発せられる。その声は確かにロレンスのものだ。

そうだ。ロレンスの言う通りだ。俺は・・・俺達は世界を救うためにゾーマを討たなければならない。ここまできて逃げ出す訳にはいかないんだ!

俺は腰に納めれた奇跡の剣を抜いた。

月明かりに反射した剣は鈍い光を放つ。

 

「いくぜロレンス!!」

 

 

俺達4人は陣形を立て直し、巨大なキングヒドラに向かっていく。

 

 

―――――――――――――――――――

―――――――――――――

―――――

 

 

 

 

 

どのくらい戦っていたのだろう。何時間も戦っているような気がするが、数十分な気もする。俺達4人は既に肩で息をするほどに力を出し尽くしている。だがキングヒドラの動きも明らかに鈍くなっている。アイツも限界は近いはずだ。

 

 

「俺がいく。サキは俺にバイキルトを、ビアンカさんはスクルトを頼む。」

「はい。」

「分かったわ。」

ツカサにはビアンカさんとサキの守りをお願いし、最後の攻撃に打ってでる。

「マコちゃん。死なないでね?私・・・マコちゃんが死んでしまったら・・・」

決死の覚悟を決めた俺に涙ぐんだ瞳でベホマをかけてくれるビアンカさん。

そんなビアンカさんの肩に手をおき、笑顔で頷くことしか俺にはできなかった。

 

 

 

いくぞロレンス!!

俺の決死の特攻にロレンスも覚悟を決めたように答える。

俺の剣の先とキングヒドラの爪が交差する。

 

 

その時だった。

 

 

 

「そこまでじゃ!!」

 

突然辺りに女の声が響き渡った。

 

キングヒドラの爪は空振り俺の体の横をすり抜けていた。俺の剣先はキングヒドラの鼻先で止まっている。

 

 

「ロレンスよ。もうよいじゃろう?主は十分戦った。」

そう言って森の中から現れたのは、三十才ぐらいに見える妖艶な女性だった。

 

「り、龍王・・・」

ロレンスはボソリと力なく呟いた。すでに辺りを覆い尽くすようなプレッシャーはない。ロレンスにはもう戦闘の意思はないようにみえる。

っていうか・・・

 

 

 

「龍王?」

 

 

 

俺達4人は驚きの声を上げ、30歳ぐらいの妖艶な女に目線が集まる。

 

 

 

 

 

 

「主様はマコトと言うたかや?わらわの名は今代龍王のアンルシアじゃ。してそこにいるのが夫のロレンスじゃ。」

既に人の姿に戻ったロレンスの首もとを掴んだ女は自己紹介を始めた。

 

「夫!?ロレンス、あんた妻帯者だったのかよ。」

 

俺の当然すぎる質問に若干照れた顔で頷くロレンス。

 

「愚亭主が主様に大変な粗相を致し、大変申し訳無いことを致した。」

「ちょっと待てアンルシア!これは姫の直々の願いであって・・・」

「黙れロレンス!」

「キャイン!」

 

何かを言いかけたロレンスの頭に今代の龍王アンルシアがゲンコツを落とすと、まるで犬のような悲鳴をあげるロレンス。

どうやら夫婦というのに間違いはないようだ。

 

 

 

 

「マコト、色々すまなかったな。俺にも色々あって・・・」

「気にするなロレンス。俺達は友だろう?」

「マコト・・・。ありがとう。」

 

後ろで口元から火をチラつかせた龍王アンルシアをよそに、俺はロレンスと握手を交わす。

 

「なぁ、何故お前はそんなにまで俺達をルビスの塔に入れたくなかったんだ?やはりシズクの正体が?」

「マコト、俺はお前に負けたのだからもう止めはしない。お前の出した答えはお前自身の目で確かめるといい。ただ姫はな、必ず物語に終わりがあることは解っていても、まだ・・・って気持ちがあるのだろう。行けマコト!そして必ずゾーマ様を討ち、世界を平和に導いてくれ!」

「何言ってんだよ。ロレンスお前も一緒に来てくれよ?」

 

俺がロレンスを仲間にさそうと、彼は静かに首をふった。

「俺はもう自分の世界に戻らなければならない。それにこう見えてアンルシアは身重でな。」

「そうだ!ロレンスお主はしっかりと龍の国を導いてもらわなければならないのじゃからな。」

 

先ほどまでギャーギャー騒いでいたアンルシアはロレンスの横に並びに立っていた。そして二人が手を繋ぐと、ロレンス達の体が光に包まれ体が透けていく。

 

「まてロレンス!どこにいくんだよ!?」

「マコト・・・俺達はどこにいても友達だろう?しっかり頑張れよ?ただ最後に・・・何があったとしても姫を許してあげてほしい・・・」

「なんだよ許すって!」

 

俺の質問に答えが帰ってくることは無かった。ロレンスと龍王アンルシアは笑いながら光の粒子となり消え去っていった。

 

 

 

 

 

 

続く

 

――――――――――――――――――――――

 

マコトはキングヒドラを倒した。

 

マコトはロレンスのそろばんを手にいれたが、必要ないので捨てた。

 

ツカサはロレンスのステテコパンツを手に入れたが、履いたら離婚するとサキに言われ捨てようとするが、『それを捨てるなんてとんでもない』と何処からかロレンスの声が聞こえてきて捨てられなかった。

 

サキはロレンスの財布を手に入れた。商人の癖に財布は空で、かわりに借用書の山があった。サキは借金を手に入れた。

 

ビアンカはロレンスの心を手に入れた。しかし要らないので捨てた。

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