ヘタレ勇者とヤンデレ僧侶の大冒険   作:シズりん

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クライマックスなので初めてサブタイトルを付けてみました。長い…長くなってしまいました。
ですが、一応盛り上がるように書いてみたつもりです。よろしければお楽しみ下さい


勇者の挑戦

 

 

 

 

 

間もなく彼は私のいるこの場所へやってくる。

 

 

 

 

 

 

 

いつしか出来上がってしまった魔王を倒し世界を人の手に解放する為の通過儀礼。

世界は1人の英雄に全てを押し付けて成り立っている。人の進化はめまぐるしく、ほんの少し目を離しただけで数世代もたっており、後世に残す手段を身に付けた彼等は技術を驚く速度で進化させて行った。

技術の継承は、前者が進めた進化の先から引き継がれ、後者はそれをさらなる高みへとひきあげる。

 

しかし、それを扱う人そのものは違う。

 

生まれてくる者は、神、魔、人問わず何も持たずに生まれてくる。

生物だけは1から始まるのだ。環境や国、家柄等その先を生きて行く道は違えど人は何も持っていない状態から始まる。

やがて技術の革新とそれを扱う者達の精神の進化との差が様々な軋轢を生んでいく。

そして他人の技術やらの財産と呼ばれるモノを奪うために争いあう。

オバサン(ルビス)はいつもそんな世界の進化に心を痛めていたことを私は知っていた。

 

どれだけの世界を見ても、どの世代を見ても繰り返される同種族同士での争い。オバサン(ルビス)達が創った勇者と魔王のシステムも同種族同士争わせない為には必要だったのかも知れない。しかしその勇者も最期は……。

 

そんな悲しみの連鎖に満ちた世界で見付けたたったひとつの微かな希望。

彼は勇者なのに特別な力を持っていなかった。良く言えば村人以上戦士未満の戦闘力。でも彼には他の勇者に無いものを持っていた。彼は他の者を楽しい気持ちにさせる。まだ幼い少年でしかないのに彼は他者を微笑ます力を持っていた。

 

次第に私は力を持たないその勇者の卵に興味をもっていった。いつしか彼の世界を眺めるのが楽しみになっていた。見ているだけでも彼は私を楽しませてくれるのだ。

私が彼を見付けたのも、私が彼と直接話してみたいと思うようになったのもきっと偶然ではない。

私がここに来た意味。彼と出会った意味。いつの日にかこの運命の意味、あなたは気付くのでしょうか?

 

間も無くあなたは此処へやってくる。

 

 

ずっとこの日が来ることを望みながら、今は迫り来る運命の日が私は怖い・・・

そう私は恐れている。

彼は私を見てどう思うのだろう。裏切り?憎しみ?少しは悲しいと思ってもらえるのだろうか?私は神界レンダーシアへと還った後も彼の記憶の中で生きていくことができるだろうか?

私は目を閉じ大好きな彼との思い出を辿る。

記憶の中の彼はいつも笑っている。私のどうしようもない我儘にも、いつも彼はヤレヤレと言った顔で付き合ってくれる。そんな彼の呆れ顔が好き。顔を真っ赤にしてツッコミを入れる顔が好き。すましている顔が好き。時々私を放置するとこは少し嫌い。でも優しい笑顔は何よりも好き。

 

そう、私は彼が大好き。

 

その大好きな彼は、間もなくゾーマの待つこの玄室へとやってくる・・・勇者の務めを果たす為に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夜の闇がより一層に深い。

リムルダールの西部にある岬ーーーーその岬に勇者一行はいた。

荒れ狂う海を渡った先の孤島にゾーマ城はある。岸壁に打ち寄せる波の音が闇夜に響き、飛び散る水飛沫は凍てつくアレフガルドの風に晒されて瞬時に氷の結晶となる。中空に舞う氷の結晶は、月明かりを反射させ、まるで夜空に輝く星が目の前で輝いているかのような幻想的な景色を作り出していて、ビアンカさんをはじめエルフのロザリーさんまでもがこの幻想的な風景に目を奪われている。

この星降る海峡を越えればそこは大魔王ゾーマの居城。

 

このナンピトたりとも寄せ付けぬ波の音。耳を引き裂くような男の叫び声。見るものの心を癒すかのような幻想的な風景。そのどれもが、これから始まる最後の戦いに赴く俺達に力を与えてくれるような気がし……ん?男の叫び声?

 

 

叫び声が聞こえた海の方を目を凝らしてよくみると、男が怒号の叫び声を上げながら泳いでいた。

 

波のうねりに負けないほどの力で荒々しく水を掻く肩まで隆起した筋肉。水を蹴る足も丸太のように太い、傷だらけの鎧を身に付けている彼は、きっと名だたる戦士なのだろうと容易に想像がつく。

 

 

「あ!沈んだ……。」

ビアンカさんの心配そうな言葉。

「見て!また泳ぎだしたわよ?」

沈んだと思った男が再び怒号をあげて泳ぎ始めると、それを見ていたロザリーさんが今度は反応する。

 

何度も何度も荒波に飲まれては泳ぎ、泳いでは沈むを繰り返す戦士。しかし遂に力尽きたのか、彼は海峡の底に沈んでいく。

 

「勇者くん?助けなくても良いの〜?あれ、君のお父さんでしょう〜?」

言うが全く助けに行こうとしない神様(遊び人)のルビス様に言われてよくみると、

 

「親父じゃねーか!!」

 

 

 

なんと戦士は父、オルテガだった。

 

 

 

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

 

「どなたか存じませぬが旅のお方よ。助けてくださり感謝いたします。私の名はオルテガと申す。」

 

肩で息をする親父は未だに意識がハッキリしないのか、見た目以上に深刻な状態なのか、息子である俺に気付いていないようだった。

一年前に魔王バラモスを倒す為に旅立った親父、バラモス戦にて負傷を負い、溶岩たぎるギアガの大穴に落ちて死んだと聞かされた親父がそこにいた。

自分の視界が涙で歪んでいくのがわかる。この凍てつく大地においても涙の生暖かさを知った。

 

「旅のお方よ。せっかく助けていただいたのだがどうやら私はここまでのようだ。旅の途中、風の噂で私の息子が魔王討伐に旅立ったと聞きました。もしどこかで息子に会ったら伝えてはもらえませんか?オルテガはマコト、お前の為に大魔王に挑むも卑怯な罠にかかり死んだと。父の仇など考えずに故郷で母さんと幸せに暮らせと。」

 

 

親父……。こんな時まで俺や母さんのことを。

「親父…。」

「!!まさか、マコト?マコトなのか?」

「ああ、俺だよ親父。」

俺の涙を堪えた振り絞るような声に親父は反応した。

「おお…聖霊の女神ルビス様。最期の瞬間に息子に逢えた奇跡に感謝いたします。」

 

そんな親父の言葉など耳に入らないかの様に、その当人であるルビス様は、先程からビアンカさんとヒソヒソと話している。

 

「マコトよすまん。父の力が足りないばかりにお前まで戦いに身を置くようにしてしまって。見ての通り父は大魔王ゾーマの力に一歩及ばず…。奴の罠にハマり既に虫の息だ。」

「なぁ親父。」

「なんだ息子よ。」

「鎧を着たまま泳いだら溺れるにきまってんだろーが!!」

 

何がゾーマの罠だ。ただの自爆じゃねーか!!

 

「母さんも寂しがってるんだからアリアハンに一度帰ってやれよ。ゾーマは俺達で何とかしてみせるから。」

「アリアハンか……何もかもがみな懐かしい。」

「アホな事言ってないでさっさと帰れよ!全く。」

「まぁそう言うな息子よ。ところで……さっきから気になっていたんだが、その後ろにいる強そうな青年と美人3人はお前の仲間か?」

 

急に俺の仲間に話をふる親父。とりあえず一つ分かったことは、このクソ親父は確実に目が見えてるじゃねーかと言うことだった。

 

「お初にお目にかかる。俺の名はピサロ。デスピサロだ。」

「よろしく。」

先ず名乗ったのはピサロだったが、親父は特に気にする様子は無かった。

「私はロザリーよ。エルフ族の女王ヒメアの娘です。」

「おお!エルフの?ロザリーさんか、素敵な名前だ。」

明らかに少しテンションの上がった親父。とても嫌な予感しかしない。

「私はルビスよ〜。人妻です。」

「ほぉほぉ〜ルビスさんですな?名前の通り、本当に女神の如く美しい。」

 

おいルビス様。あんたもっと自己紹介するべきところあるだろ?それに親父……それ本物のルビス様だぞ?あんた絶対に気付いていないだろう?

俺が親父にルビス様の事をそっと耳打ちしようとしたその時だった。テンションが上がり始めていたとはいえ、突然親父の目がハートになった。

 

「あの……お義父さま。私はビアンカともうします。身重なためこの様なはしたない姿でのご挨拶で申し訳ございません。」

いつの間にか僧侶の衣から水の羽衣に着替えていたビアンカさんは、まるで天女のような姿でスカートの両端を摘んで挨拶をした。

何となく親父を呼んだ時の発音に引っかかるがきっと気のせいだろう。

「おお!まさか息子の?ってことは私も…いや、ワシもジィジになるということですな?いやメデタいメデタい!!」

 

何か壮大な勘違いをしている親父はビアンカさんに握手をもとめ、顔が崩壊してんじゃないかと疑う程に目尻を下げて喜んでいる。

「なぁオヤジ「何てオメデタイのかしら〜。こんなメデタいことは久しぶりだわぁ〜。ねぇビアンカちゃん。私達でお義父さまをアリアハンまで送ってあげましょうよ〜。」

 

「おお、それはありがたい。」

上機嫌な親父は喜んでいる。

 

「でもマコちゃんの戦いが……。」

「それは大丈夫よ〜たぶん。」

 

たぶんかよ!!

ルビス様の提案に渋々従う様な顔のビアンカさんは、俺の手の上に光るオーブを乗せて握らせる。

「マコちゃん。これは私達マスタードラゴンの一族に伝わる『光の玉』よ。これは大昔に私の友達がくれた大切な宝物なの。魔と闇を祓うと言われる力を宿したこの宝玉をマコちゃんにあげる。だから…必ず生きて帰ってきてね?」

そう言ってビアンカさんは俺の頬にキスをした。

 

「「ヒューヒュー」」

 

すっかりジジ臭いオヤジとババ臭いババア(ルビス様)に茶化されると、ビアンカさんは顔を真っ赤に染めて走り去ってしまった。

 

 

 

 

 

「ところで親父は何でこんな荒波を泳いでいたんだ?」

「この海峡を越えるには女神ルビスの力が必要らしい。だが私にはルビス様を見つける事ができず、止む無く泳いで渡ることにしたんだ。」

「そうなのか?」

 

ルビス様に問いかけると、ルビス様は微笑みながら

 

「そうよ〜。な〜に?もうゾーマ城に行くの〜?それなら送るから飛びたい方向を向いて少し屈んでちょうだい〜。」

そう言った。

ルビス様に言われた通り少し屈んだところで嫌な予感がして振り向くと、彼女は以前シズクが持っていた金属バットとかいうものを縦にかまえ、一本足で立っていたかと思うと、キリトさんの剣より疾いスイングで俺のお尻を思いっきりぶっ叩いた。

 

 

 

カキーン!!!

 

 

 

「うん、芯で捉えたわ。160メートル弾間違いなしね。場外ホームラン級よ〜。」

 

女神の言葉を最後に、俺は凄まじい速度で海峡の上空をゾーマ城に向かって飛んでいくのだった。

後にリムルダールでは、ぶっ叩かれた際に流した俺の涙に月明かりが反射し、虹のカケ橋が掛かったように見えたと言う。そしてバットで叩かれた俺のお尻にはルビスの印くっきりとついた。

 

 

 

 

. ◆

 

 

 

 

その頃ラダトーム城では、城下町の至る所から黒い黒煙と、昼間を思わせるほどの紅蓮の炎が上がっていた。

「サンチョ様!!ラダトームの西門の防衛にあたっているAクラスの生徒が負傷者多数で総崩れしています!」

伝令を担当する生徒の報告を受けたすサンチョは、ラダトームの司令室にいた。

続々と集まる戦況報告、しかしそのどれも芳しくない。サンチョは分かっていた結果とはいえ、やはり敗戦濃厚状態にため息を吐く。

いくらラダトームが魔法学園にして教育を施したところで、人間である以上魔力(MP)に限りはある。特Sクラスのロイヤルガードが不在のいま、幾らAクラスの生徒を集めようが万を超す魔物の大群に到底敵わない。

唯一望みがあるとすれば勇者一行が大魔王ゾーマを倒すこと。

ゾーマを倒せれば魔物の統制は崩れる。そこに活路を見出すしかない。

 

「サンチョよ。やはり戦況は芳しくないか?」

立て続けにラダトームの名だたる兵士や、優秀な生徒達の訃報に落胆しかけたところに声をかけられた。声の主は長年の友人パパス前王だということは声ですぐにわかった。

 

「お前に隠しても仕方ないよな?パパス」

「そうじゃ。ワシ等の仲に隠し事は無しじゃ。」

 

声の主パパス前王は、最近お気に入りのアフロヘアーをワシャワシャ音を立てながらやってきた。

「パパスそっちはどうだ?何か分かったか?」

「大魔王ゾーマの事は依然として不明じゃ。あらゆる国の文献を読み漁ってみたが、ゾーマの姿や倒しただとか撃退したなどと言う話しは過去に渡って無かった。」

「そうか…せめてゾーマの容姿や、その対処した記録などがあれば作戦も立て易いのだが。」

 

パパス前王の王命により戦力を指揮するサンチョは、本来自分でやりたかった大魔王ゾーマの事を調べる役割をパパス前王に託した。

他にも学者や大臣もいるが、放っておけば戦場に出かねない王をサンチョは城内に留めておかなければならない。

 

「大魔王ゾーマはまだ調査中だが、勇者について少し気になることが分かったのじゃ。」

「気になること?」

「そうじゃ。どの世界もどの勇者も魔王を倒した先の事を記した書がないのじゃ。」

「一体それが何を意味するものなのか…。」

 

二人が全く活路を見出せないでいるところに、重厚な作戦司令室の扉を開けて傷だらけの兵士が入り込んできて、パパス達の前に膝をつきこうべを垂れる。

 

「何事じゃ?」

「報告します。ラダトーム南門に敵将のバラモスゾンビが現れたました…」

「何?敵の大部隊は西門ではないか。敵将が別な門に現れるだと?」

 

作戦を司令するサンチョは困惑した。

敵将は大部隊と共に攻め込んでくるものとばかり思っていた。魔族がそのような陽動作戦を執るなどと考えもしなかったのだ。

 

「大丈夫なのか?サンチョよ。」

「マズイな…。今のラダトームに戦力を割くゆとりはない。パパス・・お前は王だ。最悪脱出の準備だけはしておいてくれ。」

 

「サンチョ様、それが・・・激化する戦闘の最中にルーラの光が敵軍勢の中央に現れまして。」

「何?この上何が?」

「賢者のサキと落ちこぼれクラスのツカサが現れました。」

「なんだと!?パパス、大至急脱出だ!!」

「分かった。」

 

現れたのが勇者やロイヤルガードでは無かったことを知り、サンチョとパパスは脱出の準備にかかろうとしていた。

 

「いえ、それがサンチョ様。サキとツカサは大部隊の中央をアッサリと切り崩し、散り散りになった部隊をサキの広範囲魔法で殲滅しております。ツカサはバラモスゾンビが現れた南門に向かったもようです。しかし如何にサキと言えど魔力には限界があるため、Bクラスの生徒が崩した中央に雪崩れ込んでいる状況です!」

 

「なんと!?まさかあの二人がよもやそこまで強かったとは。同じ落ちこぼれクラスの同級生とさして鼻が高いぞ。」

 

パパスは何とも情けない安心感を持っているようにサンチョには見えた。

だが確かに好機には違い無かった。

「司令を伝えよ。城内に残る全ての兵と生徒に魔法の聖水を持ってサキの援軍につくように。」

「南門はいかがいたしましょう?」

「バラモスゾンビはツカサじゃ無理だ。諦めよう。大部隊さえ何とか出来れば敵将一体なら逃げ通せる。これは絶対のチャンスであると!」

「ハッ?」

 

こうして欠片のような小さな希望を見出したラダトームは、希望を勝ち取るために更に戦闘が激化していった。

 

 

 

. ◆

 

 

 

これまで長い道程だったと思う。

ゾーマの城内は広く天井も高く作られていた。

超大型の魔物もいるという事だ。

赤褐色の色をしたレンガ造りの壁には等間隔に石柱があり、その上部には炎の灯った松明が掛けられていて、その明かりが床を照らす。

 

それにしても先程から全く敵に出会さない。

敵の本拠地真っ只中だと言うのに、入口入ってすぐにいた魔物の娘にしか会っていないのだ。

もちろんゾーマとの戦闘を控える今、不要な戦闘を避けたいのは確かではあるのだけど、全く会わないとなるとかえって不気味さが増す。

その魔物の娘にしたって戦ったわけでは無い。

 

「ようこそいらっしゃいました勇者様。ご入城の際はこちらにご記入下さいませ。」

カウンターに座っている女性に記入を促され名簿に名前を記帳する。

「最近は何かと物騒ですからね。はい、勇者マコト様でございますね?本日はゾーマ城へどの様なご用件でございますか?」

「えっと…ゾーマを倒しに来ました。」

「ゾーマ様への挑戦でございますね?アポイントメントはありますか?」

「いいえ。」

「左様でございますか。少々お待ちくださいませ。」

 

そう言うとカウンターの女性はどこかへ連絡を取っているよだった。暫くすると女性は受話器を置き、

「こちらの勇者様専用通路をどうぞ。」

と言われて今に至る。

 

 

 

 

 

長い長い通路を渡り、階段を登ったり降りたりを繰り返し辿り着いたこのホールの対面には巨大な扉があった。

扉には金銀宝石で飾り付けされたものだった。

 

 

 

 

重厚な扉を開けると、そこは真っ暗な暗闇の纏う部屋だった。自分の足下さえよく見えない、一切の光を拒絶する闇ーー思い浮かぶ表現はこれだけだった。

 

 

 

「ようこそ我が生贄の祭壇へ。」

 

 

闇の奥深くから声がしたかと思うと、部屋の両脇に設置されていた燭台に青白い炎が、奥から手間に向かって灯ってくる。やがて炎の灯火によって闇が振り払われて部屋全体を見通せるようになると、部屋の中央に無数の赤い光が集まり渦を巻いているのが見えた。そして一瞬強く輝きを放つと、そこに1人の少女が現れた。

 

「シズク!!」

「…我が名はゾーマ。魔王の中の魔王。神の中の神。万物全てに破壊と破滅、そして死を与えし闇の神。」

 

目の前に現れたシズクは大魔王ゾーマと名乗った。何時もの僧侶の服ではない彼女は禍々しい力を帯びたローブを纏い、その凄まじいまでの桁違いな魔力が全身を覆い青白く光を放っている。

両側の腰に携えた剣を彼女が抜くと、一気に場の空間が凍てついていく。そしてゆっくりと両手の剣を動かし構えをとると、その剣が通った軌道上が、まるでシーツにシワができるかのような空間に歪みが発生する。

構えを見ただけで彼女の強さが伝わってくる。かつてキリトさんはゾーマに剣を教わったと言っていたが、二振りの剣を携える彼女は成る程確かによく似ているように見えた。違うとすればキリトさんは正に神速の如き速さで動き、目で追うのが困難な、しかし正当な剣技だった。それに対してシズクは…ゾーマはゆらりゆらりと、右へ左へと彼女の残像のようなものが見え、二重、三重に見える彼女はまるで舞を踏んでいかのように見えた。そしてやはり彼女の動いたあとには、シーツのシワのようなものがついてまわるように空間が歪んでいる。

 

まるで大魔王という異質な存在を空間さえもが避けているかのようだ。

 

 

「やっぱりお前が…。何でだよ!オレ達二人、ずっと一緒にやってきたじゃねーか!何かの冗談なんだよな?」

「ふ、ふふふ…ふははは!良いぞ、とても良いぞ勇者よ。その絶望に満ち満ちた悲痛な叫びを聞くためだけに長い年月をかけたのだ。その魂の叫びこそ我への慰み。その苦悶に満ちた心こそが我が糧となる。さぁ勇者よ、その絶望に満ちた魂を私に捧げよ。」

 

 

そう言ったゾーマは、長年ともに過ごしてきた彼女からはとても想像つかない様な歪んだ表情を見せて笑っている。

あれは本当にシズクなのか?

シズクは二振りの剣を持ったまま凄まじい速度で走り寄ると、空気との摩擦で激しい火花を散らしながら剣を振り下ろしてくる。

何とか一方は盾で、もう一方は王者の剣で防いだ。

彼女の細腕からは到底想像も付かないような剣撃の重さだった。

次から次へと上下左右あらゆる角度から剣で襲い来る彼女の瞳からは何の感情も読み取れない。

キリトさんとの戦いのおかげで二刀の戦い方を少しは学んだおかげで、攻撃をなんとか捌いてはいるが、彼女の剣は速度ではキリトさんに劣るものの、彼女の剣にはキリトさんには無かった何かしらの魔力のようなものがふくまれているようで、躱したハズなのに傷ができ血が噴き出す。さらに微かな切傷さえもホイミが効かない。

 

そして何よりも彼女に対して攻撃出来ない俺は、次第に追い込まれていった。

でもシズクにヤられるなら仕方ない。そんな絶望的な状況とは裏腹に、俺の頭は驚く程に冷静になっていた。

 

確かにアイツの強さは半端ではない。一番近くでずっと見てきた俺だからわかる。しかしアレは本当にシズクなのだろうか?アイツなら剣が扱えてもさほど不思議ではない。本人は僧侶だと言い張っているが、きっとアイツは剣も魔法も扱える。

それもきっと最強と言われる魔法だ。もしかしたらこの世界には無い、更に強力な魔法も扱うことだろう。

だと言うのに目の前のシズクは剣しか使っていない。

 

大魔王を名乗る者が俺なんかに本気等出さないのかも知れない。

それでも……。

 

 

 

俺は尚も続くシズクの剣をいなしながら、一旦彼女と距離を取った。

俺は彼女を見詰めると、彼女はまるでゴミでも見るかの様に、まさに魔王の如き冷たい瞳で俺を見返した。

 

やはり違和感を感じる。

本当にアレはシズクなのだろうか?

 

 

 

そう言えばキリトさんは最後に何と言っただろう。

 

『ゾーマ様と戦うなら目に見えているものが全てと思うな。』

だ。

そして俺の直感を信じろだった。

 

そうだ。目の前の彼女は俺の想うシズクじゃない!

どんなに見た目が同じでも、俺には分かる。

アレは絶対にシズクなんかじゃない!

そう強く思った時だった、ビアンカさんから託された光の玉が輝き始めた。

「ッ!!その光は!!」

ゾーマさえも呻きを上げるほどに、輝きを増していく光の玉は、まるでそこに太陽があるかの如く強く輝き、部屋の中を凄まじい光力の白い闇が覆い包んでいった。

俺の視界も何もかもを奪いながら……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

辺り一面を覆っていた光の玉の輝きがようやく落ち着きをみせはじめ、強烈な光により見えなくなっていた視界もどうにか回復してくると、辺りに靄のようなものがかかっていた。

 

俺は盾を構え注意深くシズクの様子を探るが、彼女の姿は見えない。静かだ…兜の隙間から自分の呼吸だけが聞こえてくると妙に緊張感が増す。

先程までのシズクの猛攻はかなりの脅威だったけどこの静寂が逆に妙に怖い。俺の中の何かも危険のサインを出しまくっている。

 

ここにいては危険だ。

 

明確にそう判断したその時だった。

先程までのシズクの声とは違う、禍々しい力を含み、言葉に呪いが込められているかのような、それでいて声を聞いただけで足がすくんでしまうような力を有した声が聞こえてきた。

 

 

「よもや我が闇の衣を撃ち破る手段を手にしていようとはな。」

「お前が?」

「そうだ。余が大魔王ゾーマである。」

 

3メートルはあろうか巨躯は先程までのシズクと同じローブを纏っている。

頭には冠があり、その両サイドからはツノのようなものが見える。

黒く長い髪を靡かせ悠然と立つその姿にはまさしく大魔王の威厳がある。今まで魔王を名乗る者や元魔王など色々見てきたが明らかにそれらと別物なのが分かる。

こうして対峙してるだけでまるで心臓を鷲掴みされているかのようなプレッシャーで呼吸も乱れる。

意外にも若々しい成年ぐらいの風貌。何処と無く目元が雫に似ているような気がするが、ゴミを見るかのような無関心な冷たい眼光で俺を射抜くところはやはり違う。

 

「勇者よ、汝が何を見ていたかなど知らぬし興味もないがせめて愛する者の手にかかり永久(とこしえ)の眠りにつく栄誉を与えたのは、ここまで辿り着いた汝への余のせめてもの情け。なにゆえソナタはもがき苦しみながらも生きようとする?滅びこそ我が喜び。死にゆくものこそ美しい。勇者マコトよ、我が腕の中で息絶えるがいい!!」

 

 

大魔王ゾーマが現れた。

 

 

これが最後の戦いだ。確かに目の前のゾーマはかつて無い程の脅威に違いはない。だけど…シズクの姿をされているよりは何倍もましだ。

俺は左手からメラゾーマを放ち爆煙に乗じてゾーマに斬りかかる。が、ゾーマは右手で掴むかのように手で煙りを振り払うと、返す手でバギクロスを放つ。見たことも無いような巨大な竜巻が双方から襲ってくる。いや撤回しよう、俺はかつてこれ以上のバギクロスを見たことがある。ピラミッドであいつが放ったバギクロスの方が余程凄かったぜ。

こんな絶望的な戦いの最中にもあいつを思い出して笑ってしまう。

勇者は双方から襲ってくる竜巻の合間を走り抜けゾーマの右足を攻撃にかかるが、ゾーマは既に左手に溜めていた火球メラミを自分の足元に放つ。頑強な鉱石で出来た床が融解しそうなほどの真っ赤な火炎と共に襲い来る爆風。盾をかざして身を守るが吹き飛ばされ壁に背中を打ち付けられると、凄まじい痛みが全身を襲う。

 

そして全身襲う痛みで未だ動けない俺にゾーマはヒャドによる氷の槍を容赦なく放ってくる。

何とか盾で防ぎつつ横に跳ぶことで直撃は免れたものの早くも満身創痍の自分に対してゾーマには笑みを見せる程の余裕がある。

 

「あのエスタークが認めていた勇者だから楽しみにしていたのだがな…拍子抜けも良いところだ。力を見誤るとは奴もまだまだだな。」

 

既に肩で息をする俺はゾーマの独り言を聞く。ヤツの言うエスタークとはきっとキリトさんのことだろう。キリトさんとの戦い・・・分かっていたさ。あの人が本気出していなかった事ぐらい。でもキリトさんはそんな俺にかけてくれたんだ。ルビス様は想像神は1億分の1しか力を出せないと言っていたが、それでも力の差は歴然としてそこに立ち塞がる。

 

ゾーマは軽くため息を吐くと、右手を上げる。すると握られた右手を中心に黒い光が集まり、やがて剣の形を創っていく。

巨大な剣だった。刀身が真っ黒で淵の部分は赤く彩っている。見るからに禍々しいその剣をまだ体制が整っていない俺に振り下ろしてくる。勇者の盾を斜めに構え直撃を避け受け流すように剣撃を反らす。

床に撃ちつけられた剣撃は床を崩すと同時に、無数の破片が跳ね上がり俺を襲う。ゾーマの攻撃を受け流すのに使ってしまった盾を構え直すにはとても間に合わず、次々と飛来する破片をもろにうけてしまった俺の全身は中空に押し上げていく。上空に浮かされた体の横っ腹にゾーマの裏拳が突き刺さると、再び壁に強く撃ちつけられ、凄まじい衝撃に意識が朦朧とする。

そこへゾーマが剣を再び振り下ろしてきた。

ダメだやられる!!体がまだ動かない俺は思わず目を閉じて衝撃を待つが、一向に痛みが体に伝わる事は無かった。

恐る恐る目を開けると、ゾーマの剣撃を両手剣を横にして防いでいる男の後姿が視界に飛び込んでくる。

 

「ピサロ!!」

「マコト、戦いの最中に目を閉じるな。常に前を見ているのがお前の良いところだろ?」

「貴様…デスピサロか!せっかく見逃してやったものを、再び自ら死ににくるとはな。次は見逃してはやらぬぞ?」

「次が無いのはあなたの方よゾーマ!!」

 

掛け声と共にゾーマの背後から瞬く間に5連撃の突きを入れたロザリーが勢いをそのままにピサロの横に並び立つ。

 

「エルフ族の小娘か。今更二人ぐらい増えたところで何も変わらぬぞ?」

「二人だけではないぜ?」

 

何も無い空間から声がしたかと思うと、ゾーマを凄まじい電撃が襲う。見たことがある。あの魔法とは違う電撃あれは…

 

「ロレンスか!?」

「マコト、助けにきたぜ。」

 

「なんだと?キングヒドラ!貴様は余の腹心。その貴様が余を裏切るというのか?」

ゾーマが空間のひび割れに手を突っ込み、投げ捨てるかのように引き抜くと、巨大な四つ首のドラゴン、キングヒドラが投げられ出てきた。ルビスの塔で自らの世界へ帰った筈の巨龍キングヒドラのロレンスだった。

 

ゾーマの表情に少しだけ怒りの色が混じり出した所に、凄まじい勢いの業火が迫る。

業火が現れた方の先には巨大な体に燃えるような真っ赤な目。人間程もある巨大な斧を携えた魔物。

 

「俺もいるぜ。」

「キョウイチ!!」

魔将バラモスブロスのキョウイチが現れた。

 

「バラモスブロス貴様もか!!貴様も余を裏切るというのか?それが何を示すかよもや忘れてはいまいな?」

「ゾーマ様。俺等は別に裏切っちゃいないぜ?最初から全てはシナリオ通りなんだよ!なぁロレンス。」

「そうだ。俺等は最初から一つの目的の為に動いていた。ある一つの合言葉を胸にな?」

「合言葉だと?」

 

ロレンスとキョウイチは不敵に笑うとそれぞれが背筋を伸ばし右手を斜め前方に突き出す。

 

「「ジークシズク!!」」

 

 

 

ははっ。絶望的なこの状況下においても彼らは変わらない。安心を通り越して涙がでそうだよ。

 

「さ、マコちゃん。今のうちにベホマを。」

いつの間にか隣にいたビアンカさんは、右手を俺にかざすと、柔らかな白い光が俺を覆い、傷口を中心に熱を帯びたと思うと、スーッと痛みが和らいでいく。

 

「ビ、ビアンカさん。どうして?」

 

ルビス様と共に親父を送り届け、そのままアリアハンに居るはずのビアンカさんがそこにいた。

「オルテガさんとアンルシアさんがね、なんか孫の誕生とオルテガさんが無事に帰った祝いとかいって宴会始めちゃって…。」

「親父と母さんが?」

「うん。それにルビス様も混ざって大騒ぎしてるから逃げてきちゃった。勘違いなのにね。」

彼女は笑顔で言うと、ペロっと舌を出してイタズラっぽく微笑んだ。

 

 

 

そんな俺達を余所に一人顔色を変えるものがいた。

大魔王ゾーマだ。

「シズクだと?バラモスブロスにキングヒドラよ、貴様等今シズクと言ったか?まさかあの者が!?。いや、…なるほど確かにありえるか。あのフルタイムでメダパニ状態の女神(ルビス)にこのような回りくどいシナリオを用意できるはずがないものな。だがあの者が関わっていると言うなら得心がいく。だがそれならば遊びは終わりだ。みんな纏めて死の路を行くがいい!!」

 

 

 

 

 

ゾーマが戦闘態勢に入る。

空間を覆っていた魔力は、すでに魔瘴となる。

普通の人間ならこの場にいるだけで死んでしまうだろう。

光の鎧が淡い光を放っている。魔瘴から俺を護ってくれているのだろう。

 

 

ピサロが素早くゾーマの右側へ走る。するとピサロのスピードが突如神速へとあがる。ピサロの走り出すタイミングに合わせて唱えたロザリーのピオリムによるものだ。

突如変化した速度にゾーマは対応が一瞬遅れると、赤い鮮血を伴ってピサロの大剣がゾーマの右足を切り裂く。

その瞬間に間髪を入れずに左上からその鋭い爪でロレンスがゾーマに襲いかかる。しかしこれにはゾーマも反応しロレンスの爪を右手で掴むと、そのキングヒドラというの巨体を軽々と壁に投げ付け叩き付ける。

その投げ終え体が開いた状態に、既に上空高くに跳んでいたキョウイチが、人間大もある斧に自重を乗せてゾーマの頭部に叩き込む。

 

が、頭部に一撃が加わる直前にゾーマは凄まじい魔力を解放し、キョウイチもろとも全員を風圧で壁に叩き付けると、そのまま大きく息を吸い込み猛吹雪を吐きだす。凄まじい轟音とともに迫り来る白い雪の波が押し寄せてきたとき、仲間全員を虹色のヴェールが優しく包み込んだ。

ビアンカのフバーハによるものだったのだが、ゾーマの猛吹雪はパーティに大したダメージを与えることが出来なかった事をゾーマが認識することはなかった。

猛吹雪を吐いた瞬間に俺の放ったギガデインがカウンター気味にゾーマの頭部に直撃した為だ。

 

 

 

 

ギガデインの直撃を受け頭部から白煙を上げるゾーマは、顔面を抑えながら肩を震わせて笑っていた。

 

「フハハハハ。まさか余がこうも容易く一撃をもらうとはな。実に愉快だ。」

 

ゾーマは不敵にそう言い放つと、覆っていた手を顔から放した。

その目は先程までの見下した目ではなく、明らかに殺意の込められた絶対的な強者のソレだった。

 

ゾーマは両手をゆっくりとこちらにむけると、その直前のモーションからは想像も付かない程の見えない空気の圧力のようなものが襲いかかってくる。

これは以前見たことがある。

シズクが使って見せた技だ。

 

「みんな防御しないで避けるんだ!!これは凍てつく波動だ!!防御はできない!」

「なに?貴様我が秘術を何故……いや、貴様にはあの小娘がついているのだったな?だが余の本物の凍てつく波動はそんな生易しいものではない!!」

 

ゾーマの放った凍てつく波動により、ロザリーのピオリムとビアンカさんのフバーハがかき消されていく。

 

しかしゾーマの技はそれだけではなかった。

凍てつく波動の圧力で動きが封じられているのだ。

 

「ロレンス!!」

キョウイチの叫び声が後方から聞こえた。正面のゾーマに注意を向けたまま後方を振り返ると、巨大な氷の槍がロレンスの巨体を貫いていた。

 

傷口からはキングヒドラの体に纏っている電撃が辺りに放電している。巨大な氷はその雷を避雷針の如くあつめている。かなりの高熱になっているはずだが、その槍は水一滴分さえも融解していない。

いつの間にかにゾーマはマヒャドを放ち、キングヒドラを貫いていたのだ。

急いでビアンカさんとロザリーはロレンスに駆け寄りベホマをかける。しかし生命を吸い取るかの如く突き刺さる氷の槍が消えないため、ベホマが効果を発揮していない。

 

「マコト…。必ず勝てよ?ごめんな…。」

 

四つ頭それぞれの口から吐血しながらもキングヒドラは声を振り絞り勇者に未来を託す。

俺が頷くのをみると、安心したように笑いロレンスの瞳から光が消え、グッタリと力が抜け倒れた。そして亡骸となったロレンスの体が淡い光を放ち、ガラスが割れるかのようにパリーンと乾いた音を立てて、光の粒となって消えていった。

 

 

「いかに腹心と言えど余を裏切る者は許さん。死んだキングヒドラや、そこにいるバラモスブロスにデスピサロと言った魔王も所詮は我が力の借り物。勇者や魔王でも一度に一回の魔法しか使えぬのにたいし、余は複数の魔法を同時に扱うことができる。」

「バ、バカな!同時に呪文の詠唱ができるばずが・・・まさか!?」

「気付いたようだな。さすがはデスピサロか。そうだ。そもそも魔法自体、メラゾーマからも解るように我らが創造した産物だ。ソナタ等のように詠唱でメラ系なら火の精霊、ヒャド系なら水の精霊と言った森羅万象に働きかける必要が余にはないのだ。さらに言えば、それら力の源たる精霊の先は何処に繋がっていると思っているのだ?」

「!!」

 

ピサロの顔色が悪い。先ほど諦めるなと言った時の目の輝きがない。

「ピサロ…大丈夫か?」

「最悪だ。俺たちは思ってた以上に考えが甘かったのかもしれない。ゾーマの頭部を見ろマコト。この世界で勇者のみが使える最強のギガデインを喰らったと言うのに、傷一つない。」

 

そう言われて改めて見ると、ヤツの若々しい精悍な顔には傷一つなかった。

「ロレンスにザオリクが効かなかった時にもしやとは頭の片隅にはあったんだ。ヤツは…ゾーマには魔法が効かないのではないか?そして特定の空間内の精霊を沈黙させる事で魔法の効果を無効にするのが凍てつく波動の正体ではないのか?もしこの仮説が正しいとしたらヤツには魔法が効かないことになる。」

 

ゾーマと一定の距離を保った俺たちは、ピサロの恐るべき仮説に息を飲んだ。

「魔法が効かないなら物理的に倒せばいいんだよ!!」

 

ロレンスがヤられて頭に血が上っているらしいキョウイチは、怒りで燃えるような赤い目で、巨大な斧を振り上げゾーマに襲いかかる。

「まてキョウイチ!!」

 

だがそんなキョウイチの一撃をゾーマは片手で受け止めると、空いている左手から巨大な火の玉をキョウイチの目の前に作り出し、大爆発を発生させた。

ゾーマの放ったイオだ。

たかがイオなのだがゾーマが放てば普通のイオナズンを遥かに超える。爆炎の中からボロボロになり意識を失ったキョウイチが吹き飛んできた。

 

ビアンカさんは急ぎキョウイチにベホマをかけて手当にあたるが、暫くは戦えそうにない。

 

「デスピサロの推察には称賛に値するが一つ勘違いをしている。余にも魔法は通じるぞ?ただし余を超える魔力があればの話だがな。」

 

 

高笑いするゾーマに俺たちは次第に不安と絶望感が広がっていく。そんな俺たちを満足そうに眺めているゾーマは

 

 

「それだ!その悲壮感に満ちた絶望こそが余には最高の捧げものとなる。さぁ勇者とその仲間達よ、甘き死を受け入れるが良い!!」

 

 

 

こうしてロレンスの死を皮切りに絶望的な戦いは始まった。

 

 

 

 

. ◆

 

 

 

 

その頃ラダトーム南門ではツカサとバラモスゾンビによる激しい戦闘が繰り広げられていた。

 

 

 

 

 

「なかなかやるではないか。まさかウヌがここまでやるとはな。」

 

バラモスゾンビと呼ばれる魔族の将軍は、目の前で片膝をつきながらも中々倒れない人間に舌を巻く。魔族の万を超える軍勢にさらなる追い討ちをかける為の陽動作戦。人間相手にここまでする必要など無かった。

しかしバラモスゾンビはそれだけでは飽き足らない。本来彼はゾーマに三将としての役割を与えられていた。

魔族の最強の将軍であるバラモスブロスは仕方ない。彼はバラモス族の最古の伝説級の魔族だ。

巨龍のキングヒドラも納得はいく。まだ魔族としては若いが奴の強さは尋常ではない。

しかし英雄エスタークは納得いかない!

アレはそもそも神だ。ゾーマ様に最も近き者。相手になるわけが無い。

結局このような軍勢を率いる役割になった。

相手は勇者と言う強者ではなく人間。バラモスゾンビにとってはツマラナイ役目となるはずった。目の前の男に会うまでは。

 

「俺は何度でも立ち上がる。愛あるかぎり!」

「ではウヌの全てをかけて向かってくるがいい!」

 

 

人間ーーツカサは空高く飛び上がると、バラモスゾンビに向けて無数の拳を放つ。

バラモスゾンビはその拳を、両腕で防御するように受け数十メートルも後方まで押し戻され膝をつく。

 

「な、何がウヌの拳をそこまでにした?」

「愛!」

「愛だと?くだらん。」

「だがバラモスゾンビお前の頭上をみろ!」

 

ツカサが指を指した空を見上げるバラモスゾンビは、体中から汗が噴き出した。

見えるはずの無い星が頭上に輝いていたのだ。

 

「ば、バカな!あの星は!」

「見えるはずだ。天に輝く死兆星が!」

「グッ。しかし俺にも一日の長としての誇りがある。退かぬ媚びぬ省みぬ!!だけどちょっとだけ待て!」

 

 

格好つけたセリフを口にしたバラモスゾンビはタイムを要求し、ちゃっかり薬草で傷を癒そうとしていた。

しかしツカサは余裕の笑みを見せた。

 

「バラモスゾンビ…この戦いは既に貴様の死をもって決している。今こそ伝説のセリフを言ってやろう。お前はもう死んでいる。貴様の命はあと5秒だ。」

「なんだと?いつの間に…フ、フフフ。では数えてやろう。5・4・3・2ぃ…いぃち」

 

 

ガツン!!

 

 

1を数えようとしたバラモスゾンビの目から星が出た。しゃべっている最中に頭に強烈な衝撃を受けたバラモスゾンビは自らの舌を噛み、口の隙間から火を噴く。するとバラモスゾンビは瞬時に火だるまとなり崩れ落ちた。

 

「わ、我が生涯に一片の悔いな…ブゲッ」

 

最後のセリフまで頑張っていたバラモスゾンビは先端にバラモスゾンビの血がついた杖を持つサキに踏まれて息絶えた。

 

「バラモスゾンビよ…お前は俺の強敵(とも)だった。」

「ツカサ。雑魚と遊んでないでさっさと手伝いに来なさいよ!こっちは万の軍勢なんだから。」

「でもサキさん、武道家の中で相手をウヌと呼ぶやつは強いと相場が決まってて…」

「は?バカじゃん?そんなん嘘に決まってんじゃん。サンチョ大臣とかに戦わせてんだから早く戻るわよ?」

「え?あの先生戦えたの?」

「魔力(MP)回復の時間稼ぎぐらいにはなるっしょ?ほらボサっとしてないで行くよ?」

 

 

どんどん某僧侶化していく愛妻に一抹の不安を感じながらも、ツカサにはどうする事も出来るはずもなく

ため息混じりにサキのルーラで万の軍勢が待つ西門へと向かうのだった。

 

 

 

 

. ◆

 

 

 

 

 

ゾーマの強さは異次元の強さだった。

次々と仲間達は倒されていき、今俺の腕の中で1人の少女も淡い光に包まれている。

 

 

「マコちゃんごめんね。私…あまり役に立てなかったね…。」

 

「そんなことはない。俺はビアンカさんに沢山助けてもらったのに何も返せてない…。」

「ううん。マコちゃんには沢山貰ったよ?マコちゃん必ず世界を救ってね。」

「ああ、必ず。」

「フフ。ありがとう。リュカ…私も今還るからね。」

 

 

 

俺の腕の中でみるみる魔力が萎んでいくビアンカさんは、涙ながらに恐らくは旦那であろう名前をうわ言のように吐く。元々軽いビアンカさんが文字通り消えていく。

ビアンカは俺が力一杯手を握り締めると、嬉しそうに微笑みながら光の粒子となって消えていった。

 

 

 

「マスタードラゴンの娘も逝ったか?いかに我等が創造神に所縁深い種族の娘であっても余に逆らう者はナンピトたりとも許さん。これで勇者よ、ソナタの仲間は全て死んだ。いよいよソナタの番だ。」

「ゾーマ…あんただって曲がりなりにも神だろうが!!人間だって、神だって、魔物だってあんたにとっては等しく子供のようなもんじゃねーか!何故こんな事をするんだ!!」

「勇者よ、ならば逆に問うがソナタは何故そこまでするのだ?頼りの仲間を全て失い、自身を支える者は全て目の前で消えた。にも関わらずソナタは未だ剣を置かぬ。勝てない相手と知りながら何故ソナタはまだ戦うのだ?」

 

ゾーマは戦闘態勢を解き、膝をついたままの俺の傍へとゆっくりと歩み寄ってきてそう聞いてくる。

 

 

「ソナタが勇者だからか?世界を、人類を護る為とソナタも他の勇者共が吐いたセリフを言うのか?ならば見るが良い。余が見てきたものの一部を。」

 

 

そう言ったゾーマは握り締めた右手を突き出す。その握られた拳の隙間から光の雫が床に零れ落ちポチャーンとこの広い玄室に音を響かせると、雫が落ちた床を中心に夜空に輝く星のような宇宙空間が瞬時に拡がり、俺とゾーマを包み込む。

室内だったはずの空間が、上も下も分からないようになった時、ゆっくりと動いていた輝く無数の星々は、徐々にその速度を上げていき、やがてそれらは光の斜線のようになる。超光速で移動しているかのように。

 

尾を引いた彗星が前を横切り、美しい星を越える。輪の付いた星、巨大な星をも越えると輝く太陽が見えてきた。

そして俺は輝く太陽の手前にある小さな星へと吸い込まれて行った。

 

 

 

そこは真っ赤な世界だった。

 

 

 

気がつくと、至る所から黒煙を上げるその世界の遥か上空に俺はいた。

無機質な鉄の鳥が何羽も轟音を轟かせて飛んでいる。そのどれもが地上に次々と黒い塊を落としていて、それらが地上に落ちると真っ赤な業火を上げて大爆発を起こしている。

サキのイオナズンに匹敵する程の大爆発のなか聞こえるのは人の悲鳴だった。

 

あまりの凄惨な光景に目を伏せた俺は、恐る恐る目を開けると今度は広い花畑にいた。

 

小さな子供を庇うように覆い被さる母親を、長い筒のようなものを持った兵士が蹴り飛ばす。

思わず俺は止めに入るが、その兵士は俺をすり抜けて、持っていた長い筒を母親に向けて放った。

そして今度は残された子供を……。

 

その兵士は笑っていた。

 

 

次は再び大空にいた。

今度は空中ではなく、球体のような空に浮かぶ建造物の中にいる。

そこには大勢の兵士がいて何やら騒いでいる。

 

やがて大佐とか呼ばれる眼鏡の男性が石板に触れると、巨大な空を飛ぶ建造物から地上に向けて火球のような物を放つ。

暫くたつと凄まじい大爆発を起こす。

あれはルビスの塔でルビス様が放ったメラに匹敵するものだった。

 

だけどそれ以上に俺が愕然としたのは、それを放った大佐(ハゲ)は笑っていたのだ。

「見ろ。人がまるでゴミのようではないか。」

 

歪んだ笑いを見せる大佐(ハゲ)に俺は怒りを覚える。

その時再びゾーマの声が頭の中で響いた。

 

 

「これがソナタの護りたい人間の本性だ。人は天敵のいない世界においては外ではなく内側に敵を求める。信じる神のため。愛する者を護る為に怒る。大切な者を傷付けられたくないから戦うと・・・。いろんな理由をつけてはいるが本質はただの暴力だ。理性が戦う理由をつけることで正当性を求めるが、戦う相手にもそれぞれ戦う理由があることを考えようとしない。そんなのはただの暴力だ。何故人は争うのだ?互いに平和を望みながら兵器が進化し続けるのは何故だ?答えは簡単だ。理由はどうあれ好戦的。それが人の本性だからだ。悪意は人間の外からではなく内側からくるのだ。勇者よ、それでもソナタは人、世界を護ると言うのか?そして見よ!これが世界の結末だ。」

 

 

 

最後に見た世界は静かだった。

 

 

全て倒壊してしまった建造物。

人はおろか動物達も見当たらない。

 

まるで終わってしまった世界そのものにみえる。

 

 

そんな世界の空に3人の姿が見えた。普通に空中に浮いているところを見る限り彼等が人ではない事は直ぐに理解した。

 

1人はキラキラと輝く黄金の髪の女性。

ルビス様だ。あの無敵の女神の表情は暗い。今にも泣き出しそうな顔だった。

向かいにいるのは黒髪の青年…ゾーマだ。

ゾーマもまた表情は暗かった。

 

そして2人の視線の先には

 

アレフガルドに来てからというもの、毎晩のように夢に現れる銀色の聖女だった。

歳はシズクとルビス様の間くらいだろうか?人間で言えば18くらいだろう。

長い白銀の髪を揺らす彼女はシズクの顔をしていた。

 

その銀色の聖女は、身の丈ほどもある刀身部分が半透明の大剣を振り上げると、辺り一面が白い闇に包まれていく。

まるで人々の悲しみも苦しみも、怒りも喜びも全て覆い尽くすように、そして何もかもを消し去っているように見えた。

 

彼女が泣いているのか笑っているのか俺には分からない。でも何故か胸が締め付けられるような気持ちになった。

 

 

 

「こうして世界は何度も消え、そして再生する。さぁ勇者よ。ソナタも安らかな眠りに就くがよい。」

 

 

 

そう言うと突如目の前に現れたゾーマは右手にもつ大剣を振り下ろしてきた。とっさにその攻撃を王者の剣で防いだとき、パキーン!!と乾いた音とともに破片を撒き散らせ、王者の剣は砕けた。

 

 

 

 

 

. ◆

 

 

 

 

 

「サキさん俺の後ろに下がっていて?」

 

 

そう言って魔力(MP)の尽きた彼女を背後にしたツカサは、未だ数千の魔物の軍隊の前に立つ。彼自身も体力の限界などとうに超えているし、全身傷だらけだ。

 

 

ラダトームでの魔物と人間の戦いも佳境を迎えていた。

 

 

ラダトームの生徒や兵士の先頭に立つツカサの大きな背中。サキにはいつも以上に大きく見えた。

レーベの村で出会った彼は、まるで頼りない男だった。名ばかりの伝説の武道家だった彼を一番近くで見てきたサキだからこそ、彼の成長もずっと見てきた。

「サキさん。サンチョ大臣の顔見たか?」

「うん。アレね、作戦司令室でアンタを見捨てる指示を出した時に、女子生徒にサイテー!って引っ叩かれたらしいよ?」

「あはは。」

 

こんな戦況の中だというのに、彼は前を向いたままサキを和ませる。

 

「大臣たちは無事かなぁ?」

「大丈夫っしょ?サンチョ大臣を医務室に運んだ救護班に賢者の石を渡したから。だから死ぬことはないと思う。」

「そっか、それより見てよサキさん。数万の軍隊もあともう少しだよ?」

「うん。そうだね。アタシ等結構頑張ったよね。あと少し。ツカサ、アンタまだ行ける?」

「当然!」

 

目の前のツカサが強がっていることは知っていた。絶望的な状況で、兵士や生徒の心まで折らない為の強がりだ。

 

「ツカサ、アンタ死んだらブチ殺すかんね。」

「おぉ、まるでシズクちゃんみたいだなぁ。サキさんだんだん似てきたよね?」

「そりゃそうよ。アタシ等は親友だもん。」

「そっか。親友になったんだな。」

 

 

程よく力の抜けた所で冷静に相手を見渡すが、体力の尽きたツカサに、魔力の尽きた自分。満身創痍の生徒に兵士ではさすがに厳しい。

 

 

そう思った瞬間だった。

 

 

ラダトーム上空の雪を降らす分厚い雲の切れ間から光の柱が現れた。

その光の柱は凄まじい光力と威力をもって、地上のありとあらゆるものを破壊していった。

ラダトームの街の家屋や教会などを溶かしていく様は、まるで世界を掃討している神様の怒りの光にも見えた。

しかし不思議と恐怖は無かった。

むしろ光に暖かみさえ感じる。目の前のツカサや、後ろの生徒や兵士達も、一同に目の前で起きている現象に目を奪われているが、みんな安心しきった目でその奇跡を見ていた。

 

その光の柱は直径にして100メートルぐらいか。光力は上の世界で毎日見ていた太陽よりも眩いかも知れない。光の柱の直線上にある家屋は音も無く消え去っていく程の威力を秘めたその光からは、アタシの親友……ラダトームの女王陛下の力を感じとることが出来た。

 

次第に光の柱は魔物の軍隊を照射していき、魔物達は跡形もなく全て消え去っていった。

 

 

 

「ジークシズク!!」

 

誰から始まったか分からないその勝どきは、傷だらけのアタシ等に勝利を掴んだ喜びを与えてくれるようだった。

 

 

アタシ等人間は、魔物の軍隊を退けたんだ。

 

 

 

 

 

 

. ◆

 

 

 

 

 

 

「王者の剣が折れたにも関わらずソナタはまだ余にそのような目を向けるのか?」

 

勝利を疑わぬ目で語るゾーマの言う通りだった。

再びゾーマの玄室に戻ったところでもう武器はない。

でも諦めるわけにはいかなかった。

俺の心が折れたら終わりだから・・・。

でも、ゾーマの言う通り戦う武器は無い。最後はメガンテかと頭を掠めたとき、何処からともなく声が聞こえてきた。

 

 

 

『真さん聞こえますか?』

 

 

目の前のゾーマの様子に変化はない。不思議な声は俺だけにきこえているようだ。

 

それは今一番聞きたい声の主、シズクの声だった。

 

 

『シズク。お前いったい何処で何してんだよ?』

『マコトさん。今はそれどころではありません。いいですかマコトさん。目の前のジジイ(ゾーマ)を倒すにはもうギガスラッシュしかありません。』

『ギガスラッシュ…。しかしシズク。王者の剣は折れてしまったんだ。』

『大丈夫です。王者の剣は…神々の剣はただ切れたり頑丈なだけではありません。正確にはオリハルコンは学習する金属です。キリトさんとの戦闘を経たその剣は、使えば必ず死んでしまうギガスラッシュを唯一学習した剣と言えます。王者の剣は勇者がその役目を果たした後は剣も無に還ります。ですから剣はマコトさんを死なせない様に魔力を集める筈です。』

『なぁシズク。何でお前はそんなに詳しいんだよ。』

『・・・今はそれどころではありません。』

『・・・』

『とにかく王者の剣を信じてください。』

『王者の剣を信じる?』

『そうです。きっとその剣は不足分の力を外に求める筈です。この世界に生きる全てに。世界もまた生きるために目の前の大魔王ジジイを倒すために協力することでしょう。』

『協力…してくれるだろうか?俺はヘタレだし……。』

『大丈夫です。マコトさんは案外モテるんですよ?例えばビアンカさんとかみたく……。そう言えば彼女と共に旅をしているんですよね?恋人の私を差し置いて……。』

『ま、まてシズク。今はそれどころではないんだろ?』

『……チッ』

 

この女、舌打ちしやがった。

だがシズクと話していると不思議とさっきまでの絶望感は何処かに消え去っていた。

『やれるだけやってみるよ。』

『はい。』

 

 

俺は目を閉じ王者の剣を握り締める。

体の下腹辺りから熱を帯びた力が腕を通して王者の剣に集まって行くのを感じる。キリトさんとの戦いの時と同じだ。

しかし今回はそれだけではなかった。何と振り上げた王者の剣に向かって、淡い光の帯が無数に集まり始めたのだ。

青い海の魔力。緑の植物の魔力。茶色の動物の魔力。色んな色を混ぜ合わせたような虹色の人間の魔力。赤い魔物の魔力。白い見た事はないが恐らくはいるであろう、この世界の神の魔力が、光の帯となって王者の剣に集まっているのだ。

 

王者の剣を通して世界中の人々、草や木々、あらゆる動物達の生命の源たる魔力と全ての想いが集まってくる。

やがてその魔力は折れてしまった王者の剣の刀身の形を模っていく。

 

 

 

「その技はミナデイン!!ギガデインの更に上位のミナデインでギガスラッシュを放つというのか勇者よ。だが、まだこの世界でその技は早い!ギガスラッシュなら目を瞑るつもりだったが、ミナデインなら話は別だ!大魔王ではなく、創造神として阻止させてもらう!!」

 

 

そう言うとゾーマは右手を頭上にあげる。すると青白い稲光を纏った輝く剣が現れた。

 

伝説の神剣

そう呼ぶに相応しい剣だった。

黄金色に輝く剣は、まるで空気中の全ての粒子が歓び輝くがの如き光を放っている。

今まで見てきた武器、その全てを遥かに凌駕するであろうことが見ただけでわかる。

まず間違いなくゾーマ本来の武器なのだろう。

 

そしてゾーマは剣に魔力をこめると、さらに凄まじい稲光を纏った。ギガスラッシュだった。

その稲光は勇者の全てと世界中の魔力を借り受けても尚届かない、そんな巨大な魔力だった。

 

しかし勇者にはもう他にどうする術も無い。

勇者は覚悟を決め思い切りギガスラッシュを放ったその瞬間だった。

 

「マコちゃん、私の残りの魔力も全てあげる。」

 

とても小さな小さな声が聞こえた気がした。ゾーマに殺され、光となって消えた筈のビアンカさんの声。

そしてその声はビアンカさんだけではなかった。ピサロにロザリー、キョウイチにロレンス。みんなゾーマによって殺され消えていった仲間の声が聞こえたのだ。

 

勇者のギガスラッシュの輝きは凄まじい勢いで巨大なものになり、ゾーマの放ったギガスラッシュの光と光がせめぎあっている。

さっきまでの勇者や魔王クラスの戦いにも耐え抜いていた壁や床も、激しくぶつかり合う光から放電される稲光に、その形を崩していく。

 

 

「貴様ら!死してなお勇者に力を貸すのか!!」

 

 

ゾーマが今まで見せたこともないほどの怒りを顔に現したかと思うと、更に巨大な魔力がギガスラッシュの光に上乗せされていく。度重なる腹心の裏切りにとうとう本気を出し始めたのだ。

 

神や魔王クラスの力を乗せた勇者の光も、やがてゾーマの光に侵食されていく。ほんの少しでも気を抜けば一瞬で勇者は消し飛んでしまうだろうと思う。

踏ん張っている右足の直ぐ後ろの床が崩れ始める。

 

 

 

「マコト。お前自身と皆んなの力を信じろ。重なり合う仲間の絆の力をゾーマ様に見せてやれ。俺の力も貸してやる。」

 

 

 

それはリムルダールで光となって消えたキリトの声だった。

創造神に限りなく近い力を持つ勇者キリトの力が、王者の剣の光の剣先から吹き出した。これにはゾーマも不敵な笑みが消えた。

直立で立ち、片手で放っていたギガスラッシュを、腰を落とし体制を整えて両手で放ち始めた。

 

 

「バ、バカな!エスタークまでもが余に敵対するのか?余は貴様を息子だと思っていたのに…ググッ」

 

 

宇宙さえも破壊し兼ねない巨大な魔力の衝突は、凄まじい振動を放ち、世界中に巨大な地震、津波などを発生させた。まるで星自体が爆発寸前で悲鳴を上げているかのようだ。

拮抗する力と力。魔力と魔力は全てを巻き込んで巨大な渦となる。流石のゾーマも苦しそうだ。

しかしマコトは自身では到底持て余してしまう巨大な力に視界が白くなっていくのを感じる。このまま意識を失えば確実に負ける。キリトの宇宙さえも凌駕する程の神の力を借りたところで勇者自身が長くは保たないのだ。

 

意識が遠のいていく。周りの景色が真っ白になる。音も聞こえなくなりとても静かだ。先程まで悲鳴を上げたくなる程の痛みが今はまるでない。立っているのか寝ているのかさえ分からない感覚に陥ったその時だった。

 

「・・・・ですか?」

 

「誰だ?俺に話し掛けてくるのは。」

 

「・・・・ですか?」

 

「誰の声だっただろう?とても懐かしい声だ。」

 

 

 

「問おう。貴方は私のマスター(勇者)ですか?」

 

「そうだ!!俺がお前のマスター(勇者)だシズク!!!」

 

 

 

景色が急速に戻っていく。それと同時に意識が覚醒してゆく。とてもではないが支え続けるなんて不可能な、魔力と言うよりは宇宙そのもののような凄まじい光がギガスラッシュの光を覆っていく。

この凄まじい光を支える必要はない。

上段に構えた剣の切っ先をゾーマに向け、唯打ち抜くだけだ。

何故かは分からないけどシズクならそうする気がした。

 

 

「「アルテマソード!!!」」

 

 

 

「な!?この力はシズクの!?バ、バカな。余が敗れると言うのか…。」

「ゾーマ、アンタの言うことはたぶん正しいよ。でも一つだけ勘違いしている。人の未来だとか世界はオマケなんだよ。俺が守りたいのはシズクが想い描いた未来。ただそれだけだ。」

「シズクの思い描いた未来だと?」

 

 

その刹那、シズクと一つに重なり合った感じがした。

巨大な魔力の渦はゾーマの魔力を飲み込み、やがてゾーマ自身をも飲み込んだ。凄まじい電撃の嵐が大魔王を引き裂くなか、勇者の渾身の一撃がゾーマの心臓を貫いた。

 

 

 

 

ついに大魔王ゾーマを打ち破った。

 

 

 

特大のギガスラッシュを心臓に受けたゾーマは、おおよそ断末魔と言う表現がふさわしい、耳を割くような叫び声とともに傷口はもちろん、叫び声を上げる口からも大量に吐血する。ゾーマは両手で心臓に突き刺さった王者の剣を引き抜こうとするが、身体から赤黒く強大な魔力が次々と噴出し、渦を巻きながら大空へと散っていく。ゾーマの力がみるみる弱っていく。

 

勝った。俺達人間はあのゾーマを撃ち倒したのだ。

 

俺は大魔王ゾーマを倒した安心感からか、足元から力がぬけて座り込んでしまう。視界が下の方から徐々に暗くなっていくのが見える。

「そう言えばルビス様はギガスラッシュは全生命力を使うって言っていたっけ。俺…死ぬんだな。」

言葉にすると、自分自身にも死の実感が湧いてくる。

悔いはない。俺は…ゾーマを倒したのだ。これからはパパス王を始めとした各国の王が世界を平和に導いてくれるだろう。勇者である自分の役目は終わったのだ。

一つだけ心残りがあるとしたらシズクに最後にもう一度会いたかったな。

あいつは今何処にいるのだろう。雪の降るアレフガルドの何処かに今もいるのだろうか。あいつの事だからきっと元気だろう。結局幸せにするって約束は果たせそうにないけど、せめて彼女が幸せに暮らせる世界を創れたのだけが良かった。

 

 

 

 

・・・・・

 

 

 

 

気がつくと暗い道無き道を歩いていた。周囲の風景はおろか、視界も数メートル先さえ見渡せない。何故だかは分からないが、この道の先が死に繋がっているということが本能的に理解できた。

 

そう、俺は今確実に死に向かって歩いている。

 

死後の世界ってあるのかな?先に逝ってしまったビアンカさんやピサロやロザリー、ロレンスにキョウイチとあの世で再び会えるだろうか?ツカサとサキは無事だろうか等と考えながら歩いていると、甘い香りを乗せた一陣の風が頬を撫でる。

懐かしい香りのする後方を振り返ると、闇の中で一際輝く光がみえた。

暖かみを感じるその光は次第に大きくなっていき、やがて人の形を模っていき…シズクとなる。

 

俺は思わず駆け寄り彼女を力一杯抱き締めた。彼女の柔らかさが、香りが、温かな体温が、彼女が与えてくれた安らぎが彼女を抱く腕や体全体で感じる。

「シズク…俺やったよ。大魔王ゾーマを倒したんだ。」

「はい。ちゃんと見ていましたよ?マコトさんの素晴らしい戦いぶりを。」

そう言ってシズクも俺の背に手を回し2人抱きしめ合う。

 

どれぐらいの時を抱きしめ合っていただろう。どちらかと言わず抱きしめた腕を解いて正面に見合うように立つ。

彼女はいつものようにキラキラと輝く長い黒髪。

透き通るかのようなきめ細やかな白い肌。そしてほんのりピンク色に染めた頬。どれも子供の頃から見てきた彼女を彩る総て。だけど何故だろう。今の彼女からは明らかに神々しい何かを感じる。

 

「シズク…ずっとお前に会いたかった。お前の名前を呼びたかった。お前に謝りたかった…俺のハッキリしない態度を。お前を愛してる…それをずっと伝えたかった。」

「マコトさん。やっと…やっと言ってくれましたね。」

 

シズクの頬に一筋の涙がこぼれ落ちた。彼女とは長い付き合いだが、実は彼女が泣いたのを見るのは初めてだった。

「ごめんなシズク。俺…もう死ぬみたいだ。お前をこの手で幸せにしたかったんだけどな。」

「マコトさん、貴方は死にませんよ。貴方だけではありません。ピサロさんにロザリーさん、ビアンカさんもキョウイチさんもロレンスさんも、みんな私が死なせません。」

 

涙を見せながらも強い意志を秘めた瞳で俺を見つめながら答えたシズクは、右手を上げる。

すると瞬く間に雫の右手を中心に渦を巻くように凄まじい勢いで真っ暗だった闇に景色が拡がっていき色付いていく。

 

次第に視界がハッキリしてくると、ここが先ほどまでゾーマとの激しい闘いを繰り広げた玄室であることがわかった。

ただ一つ違うところーーそれは戦いで崩れた壁から太陽の陽光が差し込んでいることだ。昼間のないアレフガルドに朝陽が昇ろうとしているのだ。

「き、貴様。いかにしてこの世に戻ったのだ?」

息も絶え絶えな様子のゾーマは、身体を横たえたまま顔だけこちらに向けて語りかけてきた。ゾーマの瞳には既に生気と言う光は失われており、間も無く生き絶えるであろう事が伝わる。

「そうか…勇者マコト、お前にはあの者が着いているのだったな。それをさしおいてもよくぞ余を倒した。いかにルビスの力を得たとは言え余が人に敗れようとは思わなかったぞ。しかし光ある所に闇はある。余には見えるぞ。数百年の時を経た後に現れる魔王の姿が。その時きさまは…ブゲッ!!」

 

大魔王ゾーマが必死に俺に何かを語っている所を、遅れて姿を現したシズクがゾーマの顔を踏みつけた。

 

「今良いところなんですからジジイ(ゾーマ)は少し黙っていてください。」

虹彩の消え失せた瞳でゾーマを睨みつけ、踏みつけた足をグリグリするシズク。

「よ、良いではないか。死にゆく者への手向けってものがお前にはないのか」

「ないですね、そんなものは。」

シズクは踏み付けているゾーマの顔をさらにグリグリやっている。

 

「ま、まだ終わらんよ?」

「煩い!さっさと死ね!」

 

シズクがガンガンガンガンと力を入れてゾーマの顔を何度も何度も踏みつけると、

ゾーマはシクシクと泣きながら息絶えた。

 

 

 

大魔王ゾーマを倒した。

 

 

 

ゾーマにトドメをさしたシズクは大穴の開いた壁まで歩くと朝陽の登るアレフガルドの大地を眺めている。

そして朝陽を背にするように俺の方にふりむくと微笑んだ。

いつもの女神の如きその笑顔。女王に就いてからはあまり見なくなった僧侶のローブを着ている。外から室内に向かって入ってくる少しだけ肌寒い風が彼女の長い髪を揺らしている。

「なぁシズク…なんでお前の身体、透けているんだよ。早くいつものお前に戻ってくれよ。」

 

シズクは悲しげに微笑んでいる。彼女の身体が消えかかっているのだ。

 

「マコトさん…光の鎧だいぶ壊れてしまいましたね。そんな格好じゃ寒いでしょ?ですが見てください。」

シズクはこちらを向いたまま右腕を後方に伸ばし壊れた壁の外をさす。

「マコトさんが取り戻した光です。他でもない貴方が闇の世界を光に変えたんです。まだアレフガルドは冷たい風が吹いています。きっと明日も寒いでしょう。でも陽の光を受けた雪景色はきっと美しいのでしょうね。…私はマコトさんをずっと騙してきました。もうお気付きでしょうが私は人ではありません。」

「何言ってんだよシズク。そんなの関係ない!!お前はお前だろ!?」

彼女はゆっくりと首を振る。

「私は、創造神の世界レンダーシアで神と呼ばれる存在です。ビアンカさん達よりはそこに転がっているゴミ(ゾーマ)と、マコトさんの会ったオバサン(ルビス)に近しい存在です。私はずっとレンダーシアから人の世界を眺めてきました。ババア達の作った世界の解放のシステム。どの世界にも魔王がいて勇者がいます。そしてどの世界も最期は勇者の生命と引き換えに世界は解放されます。誰よりも多く背負い、誰よりも辛い目にあっているはずの勇者が報われないなんて私には受け入れられなかった。誰よりも功労者たる勇者の犠牲の上に創り上げた世界が、どうしても私には平和に見えなかった。」

 

シズクは静かに話しているが、心の中を打ち明けるかのような悲痛な叫びのように聞こえた。

 

「ですが私には平和を創造する力はありません。そこのクズやババアのように何かを創れない。私は壊すことしかできないんです。そんな私はいつしかレンダーシアで魔王と呼ばれ、疎まれ恐れられていきました。私はただ力が大きいと言うだけで神々からも避けられていたんです。人の世界で魔王を倒した後の勇者の苦悩に満ちた残りの人生、私には他人事にはみえなかった。どうすれば勇者が幸せに人生を過ごせるのか、ずっと答えを出せないまま、ただ人の世界を眺めることしか私にはできなかった。そんな時にマコトさん、貴方に出逢った。貴方は戦う力ではなく、周囲を暖かな気持ちにする力を持っていた。」

「なぁシズク。お前さっきから何を言ってるんだよ?なんで全て過去形で話すんだよ?」

「神の世界でも魔王と呼ばれる私をも、マコトさんはこんなに光輝く世界に連れて来てくれた。私のような存在には貴方は眩しすぎます。」

 

アレフガルドに昇った太陽が輝きを増すたびに薄くなっていくシズクのからだ。今では彼女の体の向こう側にある太陽の光まで透けて見える。

「なぁ待てよシズク。嘘だと言ってくれよ。お前が、お前がいなければゾーマに勝ったって意味がないだろ!!」

「…。そこのクズ(ゾーマ)の言う通りなんです。光あるところに闇がある。闇無くして光は輝かない。クズ(ゾーマ)が去ればバーサーカー(ルビス)も去るでしょう。そうなるとこの世界に不要な存在は全て元いた世界に戻されます。それはキョウイチさん達も含まれます。今頃は本来彼等が居るべき場所に帰ったころでしょう。」

「行くなシズク!!行かないでくれ。世界が平和になったってお前がいなければ意味がない。…シズク、俺と結婚してくれ。ずっと隣で微笑んでいてくれ。何処にも行かないでくれ。俺にはお前が必要なんだ。お前を愛してるんだ。」

「嬉しい…でも、マコトさんはもう私がいなくても大丈夫です。私が消え去っても、言葉も想いもマコトさんの中で残ります。貴方の中で私は生きていけるんです。貴方が生きていることが私の望みの全てなんです。もう声をかけることさえ出来なくなりますが私は神界レンダーシアからずっとマコトさんを見守ってます。……もう時間なようです。最後に強く抱き締めてくれませんか?」

 

俺は彼女を強く抱き締めた。お互いの体温を確かめ合うように強く強く。

俺は彼女に唇を重ねた。相変わらず柔らかな彼女の肌、甘い香りは変わらない。重ねた顔越しに彼女の涙が伝う。

だと言うのに、彼女の体温が急速に下がっていった。

 

身体をはなした彼女は頬を染め、幸せそうに微笑んだ。

 

 

「私は幸せでした。幸せと安らぎを与えてくれたマコトさんを心から愛しています。ありがとう・・・サヨウナラ。」

 

 

そう言うとシズクの体は一際強く輝き、まるでガラスが砕けたかのようにパリーンと乾いた音を立てて、アレフガルドの朝陽が昇る空へと舞い散った。その光一粒一粒に彼女の甘い香りが余韻として残る。彼女が今迄ここに居た確かな証し。

 

 

 

 

 

あいつは最後の最後まで微笑んでいた。

 

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

 

「シズク…。」

暫く放心状態の俺は、その喪失感から力を無くし呆然としていると、背後に巨大な魔力を感じた。もう何もする気が起きず、力なく振り向くと空間に歪みがあり、そこから誰かが此方に来ようとしているようだった。

長い黄金の髪。アレフガルドの朝陽を受けてキラキラと輝いている。白く美しい肌に、慈愛に満ちた笑顔のルビス様だった。そのシズクとよく似た顔が今は少し辛い。

 

「勇者くん…いえ、勇者マコトよ。よくぞ世界を解放に至らせましたね。貴方の働きによりこの世界は末長く平和を享受することでしょう。そして生きて残った勇者マコト。貴方はこれからも数々の試練が待ち受けていることでしょう。ですが貴方なら全て乗り越えて行けると私は信じています。それにしてもまさかあの子がこんな大それた事を計画していたとはね〜。そこで死んだフリしてるアナタもグルだったのね〜?」

 

ルビス様が大魔王ゾーマの遺体に話しかけると、少しビクリと遺体が動いた。

「へ、返事がない。余は唯の屍のようだ。」

「あらあら〜アナタとても楽しそうじゃな〜い。じゃあ仕方ないから私が直々にベホマをかけてあげるわね〜。」

 

「うぎゃああああーーー!!!」

 

ルビス様のすっと延ばした指先から小さな光の粒が現れ、その光がゾーマに触れると、先程の断末魔を遥かに超える悲鳴をあげるゾーマを凄まじい光が襲っている。光は確かに癒しを与えるが、度を超えた光は毒にしかならないと言うところだろうか。ルビス様のベホマを受けたゾーマは、ギガスラッシュを受けた時以上にボロボロになりながら立ち上がった。

 

「ア・ナ・タ?これはどういうことか説明してもらえるかしら〜?」

笑顔のままゾーマの首を絞めるルビス様と、真っ青な顔で全力で目を反らすゾーマ。

「だ、だってオマエ。シズクが協力しないと一生口聞いてくれないって言うんだもん。」

「何がだもんですか!!娘1人に情けない!!って言うかアナタ最初から知ってたのね!?」

「余も最初からは知らなかったんだ。それよりオマエ、先ずは落ち着こう。ほら勇者も見てるから。」

「嘘…それは嘘。ウソうそ嘘!!アナタ私が嘘を嫌いな事を知っていながら今ウソを吐きましたね!!」

「ヒッ!ご、ごめんなさ…ギャー!!助けてくれ!ソナタは勇者であろう?困っている余を助けて…」

 

 

俺に助けを請うゾーマの襟首をふん捕まえて引き寄せたルビス様は、ギャーギャーと喧嘩しだす。と言っても一方的にルビス様にゾーマが怒られているように見える。

 

「あ、あの〜ルビス様?ちょっと良いですか?さっきからちょいちょい気になる所があるんですけど…。」

「勇者くん〜。今はちょーっと待ってくれるぅ〜?これは夫婦間の問題だから。」

「ふ、夫婦!?ルビス様とゾーマが夫婦だとーー!!」

「そうよ〜?ずっと人妻だって言ったじゃない〜ダメな子ねぇ。」

 

カラカラと笑うルビス様はとんでもない事をサラッと言ってのけた。

 

「本当は別の魔王をこの世界には用意してたんだけどね〜、私達の1人娘がペット(シドー)の散歩中に家出しちゃってねぇ〜。止む無く探すついでに私達が直接魔王と神をすることになったって訳〜。」

「ま、まさか…その1人娘って?」

「そう、シズクよ〜。」

「なんですとーーーー!!!」

 

 

 

何とシズクはルビス様とゾーマの娘だった。

 

 

 

 

言われて見れば二人に容姿が何処と無く似ている。特に同じ女性のルビス様はそっくりだ。

シズクがルビス様のギガデインを使えた事も、ゾーマの凍てつく波動を使えた事も、二人の娘と考えれば納得がいく。

「で、ではシズクは?」

「もちろん生きてるわよぉ〜?完全に死んだ者を生き返らすのって実は物凄く大変な魔力を使うのよ〜?勇者くんのお友達全員となると流石にあの子でもね〜・・・って言うのは建前ね。あの子私の波動を感じて逃げたみたいねぇ〜。」

「あぁ逃げたな。」

ゾーマも頷く。

「まったく逃げ足だけはメタルスライム級なんだから。帰ったらお仕置きが必要なようね〜。」

 

 

あのシズクがお仕置きされる方か…。目の前の涙目のゾーマを見る限りシズクもきっとルビス様からは逃げるしかないのかも知れないな。

 

「で、でも別に探すだけなら何も魔王をしなくてもいいじゃないですか?ハードルが上がるだけですよ。」

 

そう言った俺の質問に対し、ルビス様とゾーマはお互い数秒目を合わせたあと、二人そろって此方をむくと。

 

 

 

「「これが本当の、暇を持て余した神々の遊び。」」

 

 

 

ドヤ顔で言った。

 

「もうお前等帰れーー!!!」

 

 

 

こうしてドタバタしながらも激しい人間と魔物の戦いは幕を閉じた。

 

 

 

 




ウィキペで見るとオルテガさんはゾーマ城でなくなるそうです。なんのアイテムも無しにどうやって海を越えたのでしょうか…
やっぱり泳いだのかなぁ〜。

次回はいよいよ最終回です。
週明けにはなんとか。

言い訳的なものを活動報告に後ほど書きますので、よろしければ率直な感想をいただけると、次回作の参考になりますのでよろしくお願いいたします。
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