春の訪れを知らせるような穏やかな風が頬に触れた気がし。
どれほどの間眠っていたのだろう。
ついさっき寝付いたようにも感じるし、ずっと眠っていたような気もする。
次第に意識が覚醒していくにつれて、自分が甘く懐かしい香りに包まれている事に気付いた。
目を開けて上半身だけ身体を起こすと、あたり一面が花畑だと言う事に気が付いた。白や黄色、青と言った優しい色彩の花々が見渡す限り広がっている。
暫く立ち上がらず、座ったまま花々の優しい香りに包まれていると、少しだけ強い風が吹いた。
風に舞った花びらに目を奪われたその刹那、一人の女性が目の前に立っていた。
背まで伸びたキラキラと輝く白銀の髪と透き通るような白い肌。ほんのりと赤みを帯びた瞳……。そう、アレフガルドで幾度となく夢に現れた銀色の聖女だ。
年齢は人間にすれば18前後ぐらいだろうか、シズクによく似た顔をした彼女が目の前にいる。
姿が半透明なので、夢か幻または魔法の類いなのかもしれないが、彼女は表情を変えることなく、ただジッと俺の顔を見つめている。
シズク…俺、来たよ。お前のいる神界レンダーシアへと。
そう心のなかで呟き、目の前の彼女に微笑みかけると、彼女は少しだけ寂し気な、それでいて女神の如き微笑みを返してくた。そしてそれは一陣の強い風に舞い上がる花びらと共に、甘い香りだけを残して消えた。
甘い余韻を振り切り、
改めて立ち上がり辺りを見回すと、この大地が遥か上空に浮かぶ島のようなところであることが分かった。
白い雲が大地の遥か下の方に見える。
島の中央には巨大な城があり、それを囲うように街がある。神界レンダーシアと言ってもこういうところは人間の世界とそう変わらないようだ。
自分のいる花畑は島の端にあり、小高い山になっているので島全体を見渡すことができる。
空には幾つもの大陸があり、上空の大陸から下の大陸に滝となった水が流れているような幻想的なものまで見える。
神が住まうに相応しい、とても美しい世界だ。
先ずは街で情報を集めよう。レンダーシアに住む神様達ならシズクの情報を持っているかも知れない。
俺は大地を踏みしめ、一歩また一歩と神の大地を歩き、街を目指した。
「君はどの世界の勇者なんだい?」
城下町を目指し歩いていると小さな村に辿り着いた。俺は久しぶりの新入りらしく、村中の神々が集まり出す。
「良く来たね。僕も勇者上がりの神なんだ。よろしくね?」
「私も同じよ。」
などと、村中のみんなが笑顔で優しく見知らぬ俺を迎え入れてくれる。そこはやはり神様だ。
神様の礼儀作法など知らないけど、俺はなるべく丁寧に挨拶と自己紹介を交わすと、更に村中の老人から子供まで集まり出し、村中話の花が咲く。
「そうか〜君はアレフガルドと言う世界の勇者だったんだね?君を導いた神は誰なんだい?」
「詳しくは分かりませんが…魔王討伐に導いてくれたのは女神ルビス様ですかね?」
「え?ルビスって創造神のあのルビス様?き、君凄いじゃないか!創造神直々だなんて…君は勇者の中でもエリート中のエリートじゃないか!!」
ルビス様の名前を聞いただけで、今度は驚きと若干の興奮を抑えきれない様子で俺を取り囲んで盛り上がる神々。
「そうだ。俺、このレンダーシアにあるヒトを捜してやって来たんですけど…。」
「へぇ。誰だい?我々の中にそのヒトを知る者がいるかも知れないし、遠慮なく言ってごらん?」
村中のみんなが笑顔で言う。何て幸先の良い旅路なんだろう。いつしか笑顔になっていた俺は遠慮なくこの優しい神々に問うのだった。
「ありがとうございます。俺はレンダーシアにいると言うシズクと言う少女を捜しに来たんです。」
「え?シズク?……シズクってまさかあのルビス様達の……?」
「はい!どなたか彼女が何処にいるか知りません…………か?」
なんと笑顔で集まっていた神々は次の瞬間、まるで蜘蛛の子を散らすかのように悲鳴を挙げて逃げ去った。
「あ、あれ?」
ヒューと吹いた風に舞った枯れ葉が顔にくっ付きました。
バタン!!
勢い良く扉の閉まる音のした家のドアの前に立つと、中から震える様な声で
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい。私は何も知りません。私は違います。知りません。今日私達は誰とも会っていません。これは幻聴です。ごめんなさいごめんなさいごめんなさい……。」
呪文のように繰り返す女神の声と、ひきりなしに泣き喚く子供の声が聞こえる。
「あ、あの…。」
「ひ!!私は何も知りません。もし知りたければグランゼドーラ城下へ行って下さい。でもくれぐれも私が言ったとは……。」
そこから先は震える声で、何を言っているのか聞き取れなかった。
その後、どの家に行っても神々が姿を見せることは無かった。
期待していた様な成果を得られなかった俺は、腑に落ちない一抹の不安を胸に覚えながらも、結局当初の目的地である城下町へと再び歩きだすのだった。
休息の為の睡眠を必要としない神々にとって夜は必要ないのか、そもそも1日の周期が違うのかは分からないが、体感的には3日ぐらいは歩いた気がする。
道すがらに出会った神々は皆んな優しかった。中には見た目が魔物にしか見えない者もいたが、話してみれば気さくな若者だったりもした。
アレフガルドでルビス様は神、魔、人にたいした違いはない。コインの裏表みたいなもので、見る方向が違えどコインに変わりはない。そこに善悪等は最初から存在しないのだと教えてくれた。
ゾーマも、争い合う相手にも其々に戦う理由がある。相手を知ろうとしない争いは本質において暴力でしかないと。
きっと彼は、守る為に相手を傷付け、自身も傷付く事よりも、相手を知り自分を知ってもらう事で許し合うことの大切さを教えてくれたのではないだろうか?
そんな大切な事を教えてくれた創造神は、きっとあの巨大な城にいるだろう。もしかしたらシズクも……。
やがて暫く歩いた所で一軒の小屋を見つけた。
小屋の側にはキラキラと輝く水を湛えた小川が流れ、水車がカタンカタンと木の擦れる音を立てて回っている。サイズこそ違うものの、アリアハンでさえ中々お目にかかれないようなその小屋は、誰の目から見ても農村にあるような小さな小さな小屋だった。
神の世界にも貧富の差なんてあるのだろうか?丘の上から見た城下町の街並みとは明らかに一線を書く…ハッキリ言ってしまえば見すぼらしい小屋だった。
直ぐに城下町に行っても神々の王たる創造神にすぐにお目通り叶うとも限らない。誰かが住んでいるとも思えないが、俺は城下町の情報収集のため、この見すぼらしい小屋の扉を叩くのだった。
小屋のすぐ脇には犬小屋?
犬小屋にしてはかなり大きな小屋があり、かすれた文字を何とか読んでみると〝シドー〝と書いてあり、小屋の脇にあるクイから伸びた鎖が小屋の中に向かって伸びている。
グフフフと奇妙な笑い声が犬小屋の奥から聞こえてくる。何となく気にはなるけど、今は犬?に構っている暇はない。
俺は目の前の小屋の住人に会うためその扉を叩いた。
トントン…木の扉を打ちつける音を立てると、は〜いどなた〜?と、間延びした声が内側から聞こえてきた。
なんだろ…どこかで聞いたことのある声だ。
パタパタと歩く音が扉の前で止まる。俺は扉が開かれるを待つ。
のだが、待てど待てど開かれる様子がない。確かに内側から声もしたし扉の前まで歩く音もした。しかしその後は全く音も気配もしない。
「あれ?変だな。」
内の並々ならぬ様子に不安になった俺は、扉の中央部に造られた小窓から内の様子を伺おうと、顔を近づけると
バン!!
と勢いよく扉が開き、俺の顔面を強打した。
「グェッ!!」
「だぁれ〜?あら〜?家の前にカエルがひっくり返ってるわぁ〜。」
「誰がカエルだ!アンタが狙って扉を開けるから顔面を強打したんじゃねーか!」
「ん〜?あら?もしかして君はアレフガルドの勇者の……。」
「ル、ルビス様?何故貴女がこんなとこに?」
顔面を強く打ち付けた涙目の俺を華麗にスルーする女神は、以前と変わらない女神の微笑みを浮かべて俺をハグしてみせる。
「懐かしいわぁ〜トンヌラ君。」
「マコトですよ!!誰だよトンヌラって。」
「いやぁね〜冗談よ〜。」
カラカラと彼女の悪戯を心底楽しんでいるような女神の笑顔、全く変わってない。
家の中に通されて、丸テーブルを囲んで椅子に座ると、ルビス様は香り高い紅茶を振舞ってくれる。
そういえば初めて会ったルビスの塔でもこんな感じだったなと、一人思い出に耽ってしまう。
「あなた〜?あなた〜?勇者君が来たわよ〜?」
「は?勇者君?」
ルビス様に呼ばれ、
怠そうな声を発し奥の部屋から現れたゾーマは、上下スウェット姿で現れた。
「おお久しぶりだなマコトくん。」
あくびしながら席につき、挨拶を交わすゾーマは、かつて大魔王と恐れられた名残りは今や何処にもない。
「ず、随分とラフですね。」
「ん?まぁ家の中ぐらいはな。」
「家!?これが家なんですか?アリアハンの俺の家とおまり変わらないじゃないですか。お二人はこの世界を創った創造神ですよね?普通あの城にいるんじゃないんですか??」
「勇者く〜ん?良い?いくら全てを創ったり、何者よりも強い力を持つ創造神と言っても、別に偉いわけでも何でもないのよ〜?神は神の上に神を創らずよ?」
「はぁ…」
何処かで聞いたようなセリフを、人差し指を立ててドヤ顔で話すルビス様。
ハッキリ言って意味が全く分かりません。
しかしまさかこんなにも早く再会できるとは思っていなかったけど、シズクの両親である二人に会えたのだ。これ以上ない成果だ。アイツもここにいるかも知れない。
「それにしても、本当に来るとはねぇ〜驚いたわぁ〜。」
「だから言ったであろう?マコトくんは必ず来ると。」
そう言って胸をはるゾーマは何故か自慢気だ。あんた一応敵だったんすよね。ルビス様より大魔王に信頼される勇者ってどうなんだろう。
「それにしても本当にお二人に再会できて良かったですよ。ここまでの道すがら、シズクについて尋ねようとすると何故か神々はみんな悲鳴をあげて逃げ出しちゃって…」
「ああ…あの子、このレンダーシアでは魔王と恐れられているからねぇ〜。」
「へ?シズクが魔王?」
「そうよ〜。あの子ちょっとお転婆でしょう?」
「「ちょっと?」」
ついゾーマと声をハモらせてしまう。横を見るとゾーマと目が合い彼は照れ笑いを浮かべはにかんでいた。
何その価値観を共有した奇妙な友情フラグが立ったみたいな顔は。
「あらあら仲良しねぇ〜妬けちゃうわぁ。」
そんなフラグはいりません。第一ゾーマさん、あんた何で照れてるんだよ。怖いよ。
「コホン!ここからは私が君に教えよう。」
咳払い一つで間を空けたゾーマは、妙に優しい声で語り出す。
「君もこの神界レンダーシアの住人になる以上、先ずは神についてを知っていてほしい。神と言っても万能ではない。各々が役割を持っている。」
「役割?」
「そう。地水火風と言った元素の神を始め、あらゆる事象に各々を司る神がいるのだ。そしてそれを以って人々を導くのが主な役割だ。そして全体の方向性はマコト君が見た城に住む神々の王が決める。」
「それは創造神のお二人ではないのですか?」
「さっきも言ったけど私達じゃないわよ〜?だって面倒臭いじゃない。今はグランゼニスちゃんと言う人型の神の始祖がやってるのよ〜」
面倒臭いときましたか。あまりにも変わらないルビス様にある意味安心感を覚えるよ。
「話を戻すぞ?例えば君の仲間にいたビアンカちゃんも愛の女神と言った具合に役割が神にはあるのだ。そしてそれはシズクにも役割はある。」
「シズクにも?」
「シズクだけではないぞ?基本的に万物を創造した我ら夫婦にも得意分野があるのだ。例えば私が生物、非生物問わず全てのものに慈愛の光を与える神であるように。」
「は?大魔王ゾーマが慈愛の光の神?破壊神とか死の神とかじゃないんすか?光の神はルビス様だとばかり…。」
「私じゃないわよ〜。私はこのヒトが創ったものに生命を吹き込んだり〜その子達がより良い(面白い)方向に育つように導くのが私の得意分野ね〜。まぁ出来ないことはないんだけど役割りって意味ね〜。」
「要するに全ての事象に対し神がいて、それらは全て創世の神である私に妻のルビス、そしてもう一人の創造神の神龍と君もよく知るエスタークのキリトに繋がっている。」
「…ではシズクは?シズクは何の神なんですか?」
「あの子は安らぎの神よ〜。因みにキリちゃんは戦神よ。絶対の勝利を司る神よ〜。」
安らぎに戦神……まぁ2人っぽいと言えば2人っぽい。
あまりに容易にイメージ出来過ぎて思わず笑顔が溢れる。
でも待てよ?
何で安らぎの女神であるシズクが魔王なんだ?
そんな悩める俺の問いに答えたのは、心を覗いていたであろうルビス様だった。
「良い〜?神は年月による死はないわぁ〜。勇者くんに分かりやすく言えばHPが尽きない限り死なない…いえ死ねないの。神も魔族も自殺は出来ないから……永い年月を生きていると、段々する事が無くなっちゃうのよ〜。そんな神々にとっての安らぎって何だと思う〜?」
要するにシズクが安らぎと程のいい言葉にしているけど、破壊神に近いと?
あまりにシックリくるアイツが怖いよ。総てを焼き尽くした荒野で高笑いしているアイツのイメージが脳裏をよぎり寒気がしました。
「フフフ、勇者くん相変わらず面白いわね〜。なにも死ばかりじゃないのよ?厳密には"無への回帰"が、あの子の役割ね〜。想いも恨みも、草花に動植物達、時間に星の記憶、夢も希望も……その総てを無に帰して安らぎを与えるの。文字通り何もかもが消えてなくなるのよ〜。言い換えればリセットね。あの子の望む望まないは別として、あの子の力は死を与えてしまうの。きっとあの子が魔王とレンダーシアで呼ばれるゆえんかしらね〜。」
「まぁそれだけではないがな。マコト君の世界から帰ったシズクは、それはもう不機嫌でなぁ、腹癒せにレンダーシアを含め、死後に人や魔物が住まうアストルティアを半壊させたのだぞ?神々の8割もの勇者が魔王の討伐に向かい……ここからは言わなくても分かるだろう?」
「そうそう〜。結局見兼ねた私達が行った時には散々たる状況だったものね〜。見渡す限り一面焼け野原だわ、あの子はメタルスライムばりに逃げちゃうわで。全員を生き返らすのに苦労したわぁ〜。」
妙に楽しそうに笑いながら話すルビス様の横で、うんうんと神妙な顔つきのゾーマ。
確かにこの違いを見る限り本来ゾーマが慈愛の光と言うのも頷けるような気がする。
「それで…シズクは今どこに?」
「へぇ〜これだけ聞いても勇者くんはあの子を探すの〜?」
「それがアイツとの約束ですから。」
「……約束か、なるほど。だがマコト君、申し訳ないが私達は本当に娘が何処にいるのか分からないのだ。」
娘の所在が分からないと言うゾーマの言葉に落胆を覚える。本人を見つけ出すか、2人を見つければシズクとの再会が叶うとどこかで信じていた。にも関わらず2人は暫く会っていないというのだ。
ガックリと肩を落としかけたその時、深く息を吐いたゾーマは話しを続けた。
「だがマコト君、全く探すアテがないわけでもないぞ。奇跡の泉を訪れるが良い。」
「ちょっとアナタ?それは……。」
ゾーマは口を挟むルビス様を片手でやんわりと制しながら話しを続ける。
「四つの創世の神の証を集めし者が泉を訪れるとき、創造神最後の一人神龍が現れる。そこで神龍に勇気を示すことができた者は、神龍が何でも一つだけ願いを叶えるという。神龍ならシズクとの再会も叶えてくれよう。」
「神龍?」
「勇者くん?ちゃんと考えた方が良いわよ〜?未だ神龍に願いを叶えてもらったのってキリちゃんしかいないのよ〜?勇気を示すとは、一撃を入れるって意味だから。要するに神龍と戦うって意味よ〜。」
「キリトさんだけ?でも……キリトさんだって一応は創世の神でしたよね?あのヒトが何かを望むことなんかあるんですか?」
「キリちゃんは神々と違って創造神。そして彼は戦神。彼が欲したのはね〜同等の力を持つ存在だったのよ〜?あの子戦闘狂だから。」
キリトさんが戦闘マニアなのは知っている。しかし彼と同等の力を持つ存在……。
何故だろう。その時ふとシズクが脳裏をかすめた。
「ところで四つの証って?お二人なら神龍に会えるんじゃないですか?証なんてなくても。」
「もちろん会えるわよ〜?2人の力を合わせれば強制的に引っ張り出すこともできるわ〜。でも、勇者君は何の努力もしないで神龍に挑戦して願いを叶えてもらうの〜?」
そんな訳ない。俺がシズクを諦めるなんて選択肢があるはずがないんだ。
その時おれは思ったんだ。
神龍を探して願いを叶えてもらう。
これが本当のドラゴンクエストだと。
「……あのルビス様?いかにも俺が言ったみたいなナレーション止めてもらえません?」
「あら〜フフフ。」
ルビス様、アンタ本当にシズクソックリっすね。いつだったか同じことをアイツもやってましたよ。
「ところで2人とも何で衣装を変えたんですか?」
ドレスを纏っていたルビス様は、眩い光に包まれると、なんと僧侶の衣を纏っていた。
「なんでそんな格好を?」
「あら?だってパーティに僧侶は必要でしょ〜?」
「パーティ?誰が誰と?」
「勇者くんと私よ?だって貴方、どこに証があるか知ってるの〜?それに奇跡の泉の場所とか。」
確かに……。
でも何故だろう。シズクの僧侶以上に危険な気がするのは。ヤンデレ僧侶より危険な最恐僧侶だ。
「待たせたなマコトくん。さぁ行こうか?」
「何すかその格好は。」
「私は羊飼いだ!」
羊飼い。俺のいた世界には存在しなかった職業だけど、何故だろう…全く役に立ちそうな気がしない。
「本当は行きたくないんだが、マコトくんの頼みなら仕方ない。特別に付き合ってあげるから感謝しなさい。」
しかもなんだよ、その気持ち悪い言い方。しかも何か照れてるし。
まぁそんな感じに、俺のシズクを探す為に神龍の元へ行く旅は、いきなり凄い仲間を引き連れて始まった。
. .◆
「なぁ姫は何故動かないと思う?マコトが来た事を知らないわけがないだろうに。」
神界の中にも光の届かない場所がある。
本来光に満ち溢れた大地であるにも関わらず、その場所には光が届かない。そんな異空間を神々は魔界と呼んだ。
そんな魔界で身の丈数十メートルはあろう巨龍が、その大きな四つ頭を揺らしながら全身黒づくめの男に問うたのだ。
しかしその問いに答えたのは別な者だった。
肩に掛かる長い金髪をかきあげながら、巨龍に臆することなく答える。
「ロレンス何度言えば分かるのですか?魔王様を姫などと呼ぶのはおよしなさい!魔王様の威厳に関わるわ。だから貴方達だけにアレフガルドでの事を任せるのは嫌だったのよ。何で魔王様は私に留守を命じたのか……。」
いつものミレーユの小言が始まった。巨龍ロレンスはその巨体を器用に竦め鼻を鳴らす。
キングヒドラのロレンスにミレーユ、そして今は趣味の旅に出て不在のバラモスブロスのキョウイチに、そんな三人を纏める創造神の一翼たるエスタークのキリト。
この四人が姫…もとい、魔王シズクの最強の従者だ。
以前は四神などと言っていたが、アレフガルドでの一件以来、今ではすっかりロイヤルガードを名乗るようになった。
魔王シズクも特に異をしめさず、キリトは寧ろノリノリだったため、反対一名のミレーユも渋々受け入れたのだ。
「キリト様、魔王様はなんと?」
ミレーユは苛立ちを声に乗せながら問うが、キリトもいつもの様子でノンビリかわす。
「シズクは何も。普段なら何もかもを蹴散らしてでも飛んで行きそうなものだが…きっと本当の自分を見せることを恐れているのかも知れないな。何せ魔王だしな。」
「確かに。」
キリトの発言を聞いていると、いかにも姫が言いそうで笑える。
「ハハハ。さすがは最も姫の側にいるキリトだ。良く似ている。」
「ロレンス!貴方またっ!!」
「まぁ良いじゃないかミレーユ。本人も魔王と呼ばれるのは不服なようだし。」
「しかしキリト様……。」
「大丈夫だよ、アイツがどんなに否定しようが、シズクは魔王なんだよ。それに思い出してみろ、アイツが今まで可愛がっていたペットの末路を。シドーやムドー。それに妹のように可愛がっていたミルドラース。その全てが人間の世界で魔王や魔神になった。きっとこの前拾ったラプソーンとか言う子供もそのうち……。アイツは何を言っても魔王や魔神を育ててしまうんだよ。」
「……。」
「……。」
キリトの発言にミレーユもロレンスも言葉が出ない。ロレンスは特にあの世界で活き活きとした魔王の姿を見ている。本来彼女が望んでいる立ち位置なのだろう。
そんな重苦しくなった空気が部屋を支配仕掛けたとき、キリトは空気を払うかのようにあえておちゃらけてみせる。
「それより……そんなにシズクの真似は上手かったか?キリトさんぶち殺しますよ!!とか?」
「ハハハ!!ソックリソックリ。」
「ちょっ!止めて下さいよキリト様。プププ」
その後もキリトのシズクのモノマネで3人の暗くなりかけた話しはここで閉じ、代わりに3人の笑い声が闇の中にこだまする。
とても懐かしい風が吹いた気がした。
私の胸の奥で今も残るあの甘い日々。
彼が勇者の道を歩くことを決めたあの日、魔王である私はやがて訪れる別れが決まった。
彼は長い旅路の末に、勇者として成長し見事ジジイ(お父さん)を退け大勇者となった。
そして彼は余生を幸せに過ごす……筈だった。
だと言うのに彼は、子供の頃に交わした約束を今も守ろうとしている。
「バカですよマコトさん…。」
久しぶりに呼んだその名前。
するとあの日、凍てついてしまった私の時間が動きだす。
名前を声に発するだけで胸が熱くなる。今すぐに会いに行きたい。でも会いたくない。きっと彼はもう私の事を知ってしまっただろうから。
会いたい…でも会いたくない。
間逆な心で私の胸を張り裂けそうになる。
キリトさん助けてよ……。
私は魔王シズク。
愛に飢えた魔王。
「何て事を考えてるんじゃないか?」
「ギャハハ!!キリトお前も悪いヤツだなぁ。姫のことそんな風に見てたのかよ。」
「乙女チックな魔王様とか…ヤバいツボに入ったわプププ…………ッ!!キ、キリト様?私急用を思い出しまして、これで失礼いたしますわ。」
ミレーユは慌てるというより、真っ青になって旅の扉を開き去って行った。
ロレンスの方を見ると、本性はキングヒドラと呼ばれる巨龍で肌はもともと青い毛に覆われている。しかし今のロレンスの顔は、それを遥かに超えた青色で、空いた口が塞がらないと言った顔をしている。
何か凄まじい魔力を感じて恐る恐る振り返ったキリトが見たものは、扉の隙間から覗く紅い瞳だった。
「ひっ!!!」
短い悲鳴をあげたキリトは魔王を見た。そう思った。
扉の隙間からヒョッコリ顔をだした彼女は女神の如き微笑みを浮かべていた。キラキラと輝く白銀の髪も艶やかに揺れている。
そんな彼女は微笑みを浮かべながら右手でコイコイとジェスチャーをしている。
キリトは身の毛もよだつ悪い予感が全身を支配した。
何故ならば魔王の瞳は、輝く虹彩が消え失せていたから……。
光も通さない闇の奥ふかく、エスタークの悲鳴だけが響き渡るのだった。
◆
別サイトでのハッピーエンド用の素敵なイラストです。
最終回を迎えたので、こちらも挿絵のみ。
是非先生の素敵なイラストをご堪能ください
レンダーシア編と言うか、神龍編と言うか……
一応本編の続編的なものを1話だけ書いてみました。
需要があるとも思えないので、この続きを書くかは未定です。
夜にでも活動報告を上げる予定なので何かネタがありましたら、是非是非ご協力をお願い致します。
その他、要望などもあったら何でも言ってくださいねm(_ _)m
シズク
別サイトで完結の際に描いて戴いた素敵なイラストを、こちらの方にも載せささて戴きました。
別サイトの方はドラクエ色が薄く、オリジナル色が強いため、ドラクエ小説としては、こちらのサイトの方が比較的正式な小説となっていますが、せっかくなので挿絵のみ紹介させて戴きました。
活動報告ともども、宜しければご覧になってください